説明

レーザー加工装置

【課題】複雑な構成にすることなく改質層の厚みを可変して形成するレーザー加工装置を提供する。
【解決手段】パルスレーザー光線の繰り返し周波数調整手段と、チャックテーブルに保持された被加工物に照射せしめる集光対物レンズとを具備するレーザー加工装置であって、該パルスレーザー光線発振器と集光対物レンズとの間に配設され高周波を生成するピエゾ素子を備えピエゾ素子によって生成される高周波の周期に対応して焦点距離が変化する可変焦点レンズと、ピエゾ素子に印加する高周波電流の周波数を調整する高周波電流周波数調整手段と、繰り返し周波数調整手段および高周波電流周波数調整手段を制御する制御手段とを具備し、制御手段は発振されるパルスレーザー光線の繰り返し周波数と該可変焦点レンズのピエゾ素子に印加する高周波電流の周波数との間に位相差が生じるように繰り返し周波数調整手段および高周波電流周波数調整手段を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を照射し、被加工物の内部に改質層を形成するレーザー加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造工程においては、シリコン基板、サファイア基板、炭化珪素基板、リチウムタンタレート基板、ガラス基板或いは石英基板の如き適宜の基板を含むウエーハの表面に格子状に配列されたストリートと呼ばれる分割予定ラインによって複数の領域が区画され、この区画された領域にIC、LSI等のデバイス(機能素子)を形成する。そして、ウエーハをストリートに沿って切断することによりデバイスが形成された領域を分割して個々のデバイスを製造している。
【0003】
上述したウエーハをストリートに沿って分割する方法として、ウエーハに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を用い、分割すべき領域の内部に集光点を合わせてパルスレーザー光線を照射するレーザー加工方法が試みられている。このレーザー加工方法を用いた分割方法は、ウエーハの一方の面側から内部に集光点を合わせてウエーハに対して透過性を有する例えば波長が1064nmのパルスレーザー光線を照射し、ウエーハの内部にストリートに沿って改質層を連続的に形成し、この改質層が形成されることによって強度が低下したストリートに沿って外力を加えることにより、ウエーハを分割するものである。
【0004】
しかるに、上述したレーザー加工においてウエーハに形成される改質層の厚さはパルスレーザー光線の集光点近傍において20〜30μm程度であるため、ウエーハの厚みが例えば200μmである場合には、改質層を4乃至5層形成する必要がある。このため、パルスレーザー光線の集光点の位置をウエーハの厚さ方向に変位せしめて、パルスレーザー光線とウエーハとをストリートに沿って4乃至5回繰り返し相対的に移動させる必要があるために長時間を要する。
【0005】
上述した問題を解決するために、パルスレーザー光線を光軸方向に変位せしめられた2個の集光点に集光せしめるように構成し、改質層を同時に2層形成することができるレーザー加工装置が下記特許文献1および2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−337902号公報
【特許文献2】特開2004−337903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
而して、上記特許文献1に記載された技術は構成が複雑であり、また、上記特許文献2に記載された技術はレーザー光源を2個備える必要があるため、コスト高になるという問題がある。
【0008】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、複雑な構成にすることなく改質層の厚みを可変にして形成することができレーザー加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物にパルスレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、該チャックテーブルと該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りする加工送り手段とを具備し、
該レーザー光線照射手段は、パルスレーザー光線を発振するパルスレーザー光線発振器と、該パルスレーザー光線発振器が発振するパルスレーザー光線の繰り返し周波数を調整する繰り返し周波数調整手段と、該パルスレーザー光線発振器が発振するパルスレーザー光線を集光して該チャックテーブルに保持された被加工物に照射せしめる集光対物レンズとを含んでいる、レーザー加工装置において、
該パルスレーザー光線発振器と該集光対物レンズとの間に配設され高周波を生成するピエゾ素子を備え該ピエゾ素子によって生成される高周波の周期に対応して焦点距離が変化する可変焦点レンズと、該ピエゾ素子に印加する高周波電流の周波数を調整する高周波電流周波数調整手段と、該繰り返し周波数調整手段および該高周波電流周波数調整手段を制御する制御手段と、を具備し、
該制御手段は、該パルスレーザー光線発振器によって発振されるパルスレーザー光線の繰り返し周波数と該可変焦点レンズの該ピエゾ素子に印加する高周波電流の周波数との間に位相差が生じるように該繰り返し周波数調整手段および該高周波電流周波数調整手段を制御する、
ことを特徴とするレーザー加工装置が提供される。
【0010】
上記可変焦点レンズは光軸上に配設された第1の可変焦点レンズと第2の可変焦点レンズとからなり、上記制御手段は第1の可変焦点レンズのピエゾ素子に印加する高周波電流と第2の可変焦点のピエゾ素子に印加する高周波電流が180度の位相差になるように制御する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に従って構成されたレーザー加工装置においては、繰り返し周波数調整手段によって設定された繰り返し周波数のパルスレーザー光線を発振するパルスレーザー光線発振器と集光対物レンズとの間に配設され高周波を生成するピエゾ素子を備え該ピエゾ素子によって生成される超音波の周期に対応して焦点距離が変化する可変焦点レンズと、ピエゾ素子に印加する高周波電流の周波数を調整する高周波電流周波数調整手段と、繰り返し周波数調整手段および高周波電流周波数調整手段を制御する制御手段とを具備し、制御手段はパルスレーザー光線発振器によって発振されるパルスレーザー光線の繰り返し周波数と可変焦点レンズのピエゾ素子に印加する高周波電流の周波数との間に位相差が生じるように繰り返し周波数調整手段および高周波電流周波数調整手段を制御するので、集光対物レンズから照射されるパルスレーザー光線の集光点を光軸方向に変位させることができる。従って、パルスレーザー光線を1回走査することにより被加工物の内部に所望の厚みを有する改質層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に従って構成されたレーザー加工装置の斜視図。
【図2】図1のレーザー加工装置に装備されるレーザー光線照射手段の一実施形態を示す概略構成図。
【図3】図2に示すレーザー光線照射手段を構成するパルスレーザー光線発振器は発振する繰り返し周波数と、可変焦点レンズを構成するピエゾ素子に印加する高周波電流の周波数との関係を示す説明図。
【図4】図1のレーザー加工装置に装備されるレーザー光線照射手段を構成する可変焦点レンズの他の実施形態を示す概略構成図。
【図5】被加工物としての半導体ウエーハの斜視図および要部拡大断面図。
【図6】図5に示す半導体ウエーハを環状のフレームに装着された保護テープの表面に貼着した状態を示す斜視図。
【図7】図1のレーザー加工装置によって実施する改質層形成工程の説明図。
【図8】図7に示す改質層形成工程において照射されるパルスレーザー光線の照射位置を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に従って構成されたレーザー加工装置の好適な実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1には、本発明に従って構成されたレーザー加工装置の斜視図が示されている。図1に示すレーザー加工装置は、静止基台2と、該静止基台2に矢印Xで示す加工送り方向に移動可能に配設され被加工物を保持するチャックテーブル機構3と、静止基台2に上記矢印Xで示す方向と直角な矢印Yで示す割り出し方向に移動可能に配設されたレーザー光線照射ユニット支持機構4と、該レーザー光線照射ユニット支持機構4に矢印Zで示す焦点位置調整方向に移動可能に配設されたレーザー光線照射ユニット5とを具備している。
【0014】
上記チャックテーブル機構3は、静止基台2上に矢印Xで示す方向に沿って平行に配設された一対の案内レール31、31と、該案内レール31、31上に矢印Xで示す方向に移動可能に配設された第一の滑動ブロック32と、該第1の滑動ブロック32上に矢印Yで示す方向に移動可能に配設された第2の滑動ブロック33と、該第2の滑動ブロック33上に円筒部材34によって支持された支持テーブル35と、被加工物保持手段としてのチャックテーブル36を具備している。このチャックテーブル36は多孔性材料から形成され被加工物保持面361を備えており、チャックテーブル36上に被加工物としてのウエーハを図示しない吸引手段によって保持するようになっている。また、チャックテーブル36は、円筒部材34内に配設された図示しないパルスモータによって回転せしめられる。
【0015】
上記第1の滑動ブロック32は、その下面に上記一対の案内レール31、31と嵌合する一対の被案内溝321、321が設けられているとともに、その上面に矢印Yで示す方向に沿って平行に形成された一対の案内レール322、322が設けられている。このように構成された第1の滑動ブロック32は、被案内溝321、321が一対の案内レール31、31に嵌合することにより、一対の案内レール31、31に沿って矢印Xで示す方向に移動可能に構成される。図示の実施形態におけるチャックテーブル機構3は、第1の滑動ブロック32を一対の案内レール31、31に沿って矢印Xで示す方向に移動させるための加工送り手段37を具備している。加工送り手段37は、上記一対の案内レール31と31の間に平行に配設された雄ネジロッド371と、該雄ネジロッド371を回転駆動するためのパルスモータ372等の駆動源を含んでいる。雄ネジロッド371は、その一端が上記静止基台2に固定された軸受ブロック373に回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ372の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロッド371は、第1の滑動ブロック32の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された貫通雌ネジ穴に螺合されている。従って、パルスモータ372によって雄ネジロッド371を正転および逆転駆動することにより、第一の滑動ブロック32は案内レール31、31に沿って矢印Xで示す加工送り方向に移動せしめられる。
【0016】
上記第2の滑動ブロック33は、その下面に上記第1の滑動ブロック32の上面に設けられた一対の案内レール322、322と嵌合する一対の被案内溝331、331が設けられており、この被案内溝331、331を一対の案内レール322、322に嵌合することにより、矢印Yで示す方向に移動可能に構成される。図示の実施形態におけるチャックテーブル機構3は、第2の滑動ブロック33を第1の滑動ブロック32に設けられた一対の案内レール322、322に沿って矢印Yで示す方向に移動させるための第1の割り出し送り手段38を具備している。第1の割り出し送り手段38は、上記一対の案内レール322と322の間に平行に配設された雄ネジロッド381と、該雄ネジロッド381を回転駆動するためのパルスモータ382等の駆動源を含んでいる。雄ネジロッド381は、その一端が上記第1の滑動ブロック32の上面に固定された軸受ブロック383に回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ382の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロッド381は、第2の滑動ブロック33の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された貫通雌ネジ穴に螺合されている。従って、パルスモータ382によって雄ネジロッド381を正転および逆転駆動することにより、第2の滑動ブロック33は案内レール322、322に沿って矢印Yで示す割り出し送り方向に移動せしめられる。
【0017】
上記レーザー光線照射ユニット支持機構4は、静止基台2上に矢印Yで示す方向に沿って平行に配設された一対の案内レール41、41と、該案内レール41、41上に矢印Yで示す方向に移動可能に配設された可動支持基台42を具備している。この可動支持基台42は、案内レール41、41上に移動可能に配設された移動支持部421と、該移動支持部421に取り付けられた装着部422とからなっている。装着部422は、一側面に矢印Zで示す方向に延びる一対の案内レール423、423が平行に設けられている。図示の実施形態におけるレーザー光線照射ユニット支持機構4は、可動支持基台42を一対の案内レール41、41に沿って矢印Yで示す方向に移動させるための第2の割り出し送り手段43を具備している。第2の割り出し送り手段43は、上記一対の案内レール41、41の間に平行に配設された雄ネジロッド431と、該雄ネジロッド431を回転駆動するためのパルスモータ432等の駆動源を含んでいる。雄ネジロッド431は、その一端が上記静止基台2に固定された図示しない軸受ブロックに回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ432の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロッド431は、可動支持基台42を構成する移動支持部421の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された雌ネジ穴に螺合されている。このため、パルスモータ432によって雄ネジロッド431を正転および逆転駆動することにより、可動支持基台42は案内レール41、41に沿って矢印Yで示す割り出し送り方向に移動せしめられる。
【0018】
図示の実施形態におけるレーザー光線照射ユニット5は、ユニットホルダ51と、該ユニットホルダ51に取り付けられたレーザー光線照射手段6を具備している。ユニットホルダ51は、上記装着部422に設けられた一対の案内レール423、423に摺動可能に嵌合する一対の被案内溝511、511が設けられており、この被案内溝511、511を上記案内レール423、423に嵌合することにより、矢印Zで示す焦点位置調整方向に移動可能に支持される。
【0019】
図示の実施形態におけるレーザー光線照射ユニット5は、ユニットホルダ51を一対の案内レール423、423に沿って矢印Zで示す方向に移動させるための集光点位置調整手段53を具備している。集光点位置調整手段53は、一対の案内レール423、423の間に配設された雄ネジロッド(図示せず)と、該雄ネジロッドを回転駆動するためのパルスモータ532等の駆動源を含んでおり、パルスモータ532によって図示しない雄ネジロッドを正転または逆転駆動することにより、ユニットホルダ51およびレーザー光線照射手段6を一対の案内レール423、423に沿って矢印Zで示す焦点位置調整方向に移動せしめる。なお、図示の実施形態においては、パルスモータ532を正転駆動することによりレーザー光線照射手段6を上方に移動し、パルスモータ532を逆転駆動することによりレーザー光線照射手段6を下方に移動するようになっている。
【0020】
図示の実施形態におけるレーザー光線照射手段6は、上記ユニットホルダ51に固定され実質上水平に延出する円筒形状のケーシング61を含んでいる。このレーザー光線照射手段6について、図2を参照して説明する。
レーザー光線照射手段6は、パルスレーザー光線発振器61と、パルスレーザー光線発振器61が発振するパルスレーザー光線の繰り返し周波数を調整する繰り返し周波数調整手段62と、パルスレーザー光線発振器61が発振するパルスレーザー光線を集光して上記チャックテーブル36に保持された被加工物に照射せしめる加工ヘッド7を具備している。パルスレーザー光線発振器61は、YAGレーザー発振器やYVO4レーザー発振器等からなり、チャックテーブル36に保持された被加工物に対して透過性を有する波長(例えば1064nm)のパルスレーザー光線を発振する。繰り返し周波数調整手段62は後述する制御手段によって制御され、パルスレーザー光線発振器61が発振するパルスレーザー光線の繰り返し周波数を調整する。
【0021】
加工ヘッド7は、パルスレーザー光線発振器61から発振されたパルスレーザー光線をチャックテーブル36の被加工物保持面361(図1参照)に向けて方向変換する方向変換ミラー71と、印加される高周波の周期に対応して焦点距離が変化する可変焦点レンズ72と、該可変焦点レンズ72を通過したパルスレーザー光線を集光してチャックテーブル36に保持された被加工物に照射せしめる集光器73を具備している。可変焦点レンズ72は、レンズケース721と、該レンズケース721内に封入されたレンズ液722と、該レンズ液722に高周波を付与する環状のピエゾ素子723とからなっている。レンズケース721は、円筒状のケース本体721aと、該円筒状のケース本体721aの上端および下端を塞ぐ円筒状のガラス等の透明部材721bおよび721cとからなっている。このように形成されたレンズケース721内にレンズ液722が封入されるとともに、ピエゾ素子723が配置される。以上のように構成された可変焦点レンズ72は、ピエゾ素子723に高周波電流を印加することにより、レンズ液722の屈折率が変化して高周波の谷側においては凹レンズとして機能し、高周波の山側においては凸レンズとして機能することにより、高周波の周期に対応して焦点距離が変化する。このような可変焦点レンズ72は、米国Princeton 大学のCraig Arnold 教授によって開発されたもので、動作原理の詳細については以下に示す論文に記載されている。
“High-Speed varifocal imaging with a tunable acoustic gradient index of refraction lens”,Alexandre Mermillod-Brollondin,Euan McLeod,and Craig B.Arnold Opt.Lell.,33,2146’2008.
【0022】
上記集光器73は、ケース731と、該ケース731内に配設された集光対物レンズ732とからなっており、上記可変焦点レンズ72を通過したパルスレーザー光線を集光してチャックテーブル36に保持された被加工物に照射せしめる。
【0023】
図2を参照して説明を続けると、図示の実施形態におけるレーザー光線照射手段6は、上記可変焦点レンズ72を構成するピエゾ素子723に高周波電流を印加する高周波電流印加手段74を具備している。高周波電流印加手段74は、交流電源741と、該交流電源741の電圧を調整する電圧調整手段742と、該電圧調整手段742によって電圧が調整された高周波電流の周波数を調整する高周波電流周波数調整手段743を具備しており、後述するように電圧および周波数が制御された高周波電流を上記ピエゾ素子723に印加する。図示の実施形態におけるレーザー光線照射手段6は、上記パルスレーザー光線発振器61、繰り返し周波数調整手段62、電圧調整手段742、高周波電流周波数調整手段743を制御する制御手段8を具備している。
【0024】
図2に示すレーザー光線照射手段6は以上のように構成されており、以下その作用について説明する。
制御手段8は、パルスレーザー光線発振器61が発振するパルスレーザー光線の繰り返し周波数を例えば100kHzになるように繰り返し周波数調整手段62に制御信号を出力する。また、制御手段8は、高周波電流印加手段74によって可変焦点レンズ72を構成するピエゾ素子723に印加する高周波電流の周波数を例えば99kHzになるよう高周波電流周波数調整手段743に制御信号を出力する。この結果、パルスレーザー光線発振器61からは繰り返し周波数が100kHzのパルスレーザー光線が発振され、可変焦点レンズ72を構成するピエゾ素子723には99kHzの高周波電流が印加される。従って、可変焦点レンズ72に入射されるパルスレーザー光線の繰り返し周波数とピエゾ素子723によってレンズ液722付与される高周波の周波数には図3に示すように位相差が生ずる。この位相差は、1サイクルで3.6°(位相差=360°−(高周波電流周波数/繰り返し周波数)×360°=360°−(99kHz/100kHz)×360°=360°−356.4°=3.6°)となる。
【0025】
上述したようにパルスレーザー光線発振器61から発振されるパルスレーザー光線の繰り返し周波数を100kHzに設定するとともに、可変焦点レンズ72を構成するピエゾ素子723に印加する高周波電流の周波数を99kHzに設定してパルスレーザー光線発振器61からパルスレーザー光線を発振する。図2に示すようにパルスレーザー光線発振器61から発振されたパルスレーザー光線LBは、方向変換ミラー71を介して可変焦点レンズ72に入射する。可変焦点レンズ72に入光したパルスレーザー光線LBは、レンズ液722を通過するが、レンズ液722にはピエゾ素子723に印加する高周波電流の周波数に対応した高周波が付与されている。従って、レンズ液722を通過するパルスレーザー光線LBは、レンズ液722に付与される高周波の谷側においては1点鎖線で示すように屈折せしめられ、レンズ液722に付与される高周波の山側においては2点鎖線で示すように屈折せしめられる。従って、可変焦点レンズ72によって1点鎖線で示すように屈折せしめられたパルスレーザー光線は、集光対物レンズ732によって集光点Paに集光される。一方、可変焦点レンズ72によって2点鎖線で示すように屈折せしめられたパルスレーザー光線は、集光対物レンズ732によって集光点Pbに集光される。なお、集光点Paおよび集光点Pbの位置は、上述したようにパルスレーザー光線LBの繰り返し周波数とピエゾ素子723によってレンズ液722付与される高周波の周波数が位相差(図示の実施形態においては3.6°)を有しているので、レンズ液722に付与される高周波のどの状態のときにパルスレーザー光線LBのパルスが通過するかによって光軸上において変位する。なお、集光点Paと集光点Pbの最大幅は、ピエゾ素子723に印加する高周波電流の電圧を調整し、レンズ液722付与される超音波の振幅を変化させることによって調整することができる。
【0026】
次に、上記可変焦点レンズの他の実施形態について、図4を参照して説明する。
図4に示す可変焦点レンズ72は、第1の可変焦点レンズ72aと第2の可変焦点レンズ72bとからなっており、第1の可変焦点レンズ72aが入射側(パルスレーザー光線発振器61側)に配設され、第2の可変焦点レンズ72bが出射側(集光器73側)に配設される。なお、第1の可変焦点レンズ72aと第2の可変焦点レンズ72bは、上記可変焦点レンズ72と実質的に同一の構成であり、従って同一部材には同一符号を付してその説明は省略する。
【0027】
図4に示す可変焦点レンズにおいては、第1の可変焦点レンズ72aのピエゾ素子723に印加する高周波電流と第2の可変焦点レンズ72bのピエゾ素子723に印加する高周波電流は、逆位相(180度の位相差)になるように制御される。従って、第1の可変焦点レンズ72aが凹レンズとして機能する際には第2の可変焦点レンズ72bは凸レンズとして機能し、第1の可変焦点レンズ72aが凸レンズとして機能する際には第2の可変焦点レンズ72bは凹レンズとして機能する。このように構成された第1の可変焦点レンズ72aと第2の可変焦点レンズ72bからなる可変焦点レンズに入射されるパルスレーザー光線LBは、第1の可変焦点レンズ72aが凹レンズとして機能し第2の可変焦点レンズ72bが凸レンズとして機能する際には1点鎖線で示すように屈折せしめられて集光対物レンズ732に至り、集光対物レンズ732によって集光点Paに集光される。一方、第1の可変焦点レンズ72aが凸レンズとして機能し第2の可変焦点レンズ72bが凹レンズとして機能する際には、パルスレーザー光線LBは2点鎖線で示すように屈折せしめられて集光対物レンズ732に至り、集光対物レンズ732によって集光点Pbに集光される。このように図4に示す可変焦点レンズ72においては、第1の可変焦点レンズ72aのピエゾ素子723に印加する高周波電流と第2の可変焦点レンズ72bのピエゾ素子723に印加する高周波電流を、逆位相(180度の位相差)になるように制御する。そして、第1の可変焦点レンズ72aのピエゾ素子723に印加する高周波電流の電圧と第2の可変焦点レンズ72bのピエゾ素子723に印加する高周波電流の電圧を制御し、第2の可変焦点レンズ72bの屈折率が第1の可変焦点レンズ72aの屈折率の例えば2倍となるようにすることにより、第1の可変焦点レンズ72aおよび第2の可変焦点レンズ72bを介して集光対物レンズ722に入射されるパルスレーザー光線のビームサイズを一定にすることが可能となる。被加工物の内部にパルスレーザー光線の集光点を位置付けて改質層を形成するレーザー加工においては、集光対物レンズに入射するパルスレーザー光線の均一なエネルギーをできるだけ維持することが重要である。そのためには、集光対物レンズに入射するパルスレーザー光線のビームサイズをできる限り一定にしておくことが望ましい。しかるに、図4に示す可変焦点レンズにおいては、上述したように集光対物レンズ732に入射されるパルスレーザー光線のビームサイズを一定にすることが可能であり、集光対物レンズ732に入射されるパルスレーザー光線はNAに大きな変化がないため、集光点位置のみを変化することができる。
【0028】
図1に戻って説明を続けると、上記レーザー光線照射手段6を構成するケーシング61の前端部には、上記レーザー光線照射手段6によってレーザー加工すべき加工領域を検出する撮像手段9が配設されている。この撮像手段9は、図示の実施形態においては可視光線によって撮像する通常の撮像素子(CCD)の外に、被加工物に赤外線を照射する赤外線照明手段と、該赤外線照明手段によって照射された赤外線を捕らえる光学系と、該光学系によって捕らえられた赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等で構成されており、撮像した画像信号を上記制御手段8に送る。
【0029】
図示の実施形態におけるレーザー加工装置は以上のように構成されており、以下その作用について説明する。
【0030】
図5には、被加工物としての半導体ウエーハの斜視図が示されている。図5に示す半導体ウエーハ10は、例えば厚みが200μmのシリコンウエーハからなっており、表面10aには格子状に形成された複数のストリート101によって区画された複数の領域にIC、LSI等のデバイス102が形成されている。このように形成された半導体ウエーハ10は、図6に示すように環状のフレームFに装着されたポリオレフィン等の合成樹脂シートからなる保護テープTに表面10a側を貼着する(保護テープ貼着工程)。従って、半導体ウエーハ10は、裏面10bが上側となる。
【0031】
上述した保護テープ貼着工程を実施したならば、図1に示すレーザー加工装置のチャックテーブル36上に半導体ウエーハ10の保護テープT側を載置する。そして、図示しない吸引手段を作動することにより、保護テープTを介して光半導体ウエーハ10をチャックテーブル36上に吸引保持する(ウエーハ保持工程)。従って、チャックテーブル36に保持された半導体ウエーハ10は、裏面10bが上側となる。
【0032】
上述したように半導体ウエーハ10を吸引保持したチャックテーブル36は、加工送り手段37によって撮像手段9の直下に位置付けられる。このようにしてチャックテーブル36が撮像手段9の直下に位置付けられると、撮像手段9および制御手段8によって半導体ウエーハ10のレーザー加工すべき加工領域を検出するアライメント作業を実行する。即ち、撮像手段9および制御手段8は、半導体ウエーハ10の所定方向に形成されているストリート101と、ストリート101に沿ってレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段6を構成する集光器73の集光対物レンズ732との位置合わせを行うためのパターンマッチング等の画像処理を実行し、レーザー光線照射位置のアライメントを遂行する。また、半導体ウエーハ10に形成されている上記所定方向に対して直交する方向に延びるストリート101に対しても、同様にレーザー光線照射位置のアライメントが遂行される。このとき、半導体ウエーハ10のストリート101が形成されている表面10aは下側に位置しているが、撮像手段9が上述したように赤外線照明手段と赤外線を捕らえる光学系および赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等で構成された撮像手段を備えているので、裏面10bから透かしてストリート101を撮像することができる。
【0033】
以上のようにしてチャックテーブル36上に保持された半導体ウエーハ10に形成されているストリート101を検出し、レーザー光線照射位置のアライメントが行われたならば、図7の(a)で示すようにチャックテーブル36を集光器73が位置するレーザー光線照射領域に移動し、半導体ウエーハ10に形成された所定のストリート101の一端(図7の(a)において左端)を集光器73の直下に位置付ける。そして、集光器73の集光対物レンズ732を通して照射されるパルスレーザー光線の集光点Pを半導体ウエーハ10の厚み方向中心付近に位置付ける。
【0034】
次に、レーザー光線照射手段6を作動して集光器73からパルスレーザー光線を照射するとともに、加工送り手段37を作動してチャックテーブル36を図7の(a)において矢印X1で示す方向に所定の加工送り速度で移動せしめる(改質層形成工程)。そして、図7の(b)で示すように集光器73の照射位置がストリート120の他端(図7の(b)において右端)に達したら、パルスレーザー光線の照射を停止するとともに、チャックテーブル36の移動を停止する。この結果、半導体ウエーハ10の内部には、図7の(b)に示すように所定のストリート101に沿って厚さTを有する改質層110が形成される。
【0035】
なお、上記改質層形成工程の加工条件は、例えば次のように設定されている。
パルスレーザー光線の波長 :1064nm
出力 :1W
繰り返し周波数 :100kHz
可変焦点レンズのピエゾ素子に印加する高周波電流の周波数 :99kHz
集光スポット径 :φ10μm
加工送り速度 :100mm/秒
【0036】
上記パルスレーザー光線発振器61によって発振され可変焦点レンズ72を介して集光対物レンズ732によって集光されるパルスレーザー光線の集光点は上述したように光軸上で変位する。そして、被加工物である半導体ウエーハ10が100mm/秒の加工送り速度で移動していると、半導体ウエーハ10の内部には図8に示すように100パルスのスポット(S)で1つの山が形成され、この山が100mm/秒の間に1000個形成されることになる。従って、半導体ウエーハ10の内部にはストリート101に沿って厚さ(t)を有する改質層が形成される。この改質層の厚さ(t)は、可変焦点レンズ72のピエゾ素子723に印加する高周波電流の電圧を調整することにより変化させることができる。このように、図示の実施形態におけるレーザー加工装置においては、パルスレーザー光線を1回走査することにより半導体ウエーハ10の内部に所望の厚み(例えば50〜200μm)の改質層を形成することができる。
【0037】
上述したように、半導体ウエーハ10の所定方向に形成された全てのストリート101に沿って上記改質層形成工程を実施したならば、半導体ウエーハ10を保持したチャックテーブル36を90度回動した位置に位置付ける。そして、半導体ウエーハ10の上記所定方向と直交する方向に形成された全てのストリート101に沿って上記改質層形成工程を実施する。
【0038】
以上のようにして、改質層形成工程が全てのストリート101に沿って実施された半導体ウエーハ10は、改質層が形成されたストリート101に沿って破断するウエーハ分割工程に搬送される。
【符号の説明】
【0039】
2:静止基台
3:チャックテーブル機構
36:チャックテーブル
37:加工送り手段
38:第1の割り出し送り手段
4:レーザー光線照射ユニット支持機構
42:可動支持基台
43:第2の割り出し送り手段
5:レーザー光線照射ユニット
53:集光点位置調整手段
6:レーザー光線照射手段
61:パルスレーザー光線発振器
62:繰り返し周波数調整手段
7:加工ヘッド
71:方向変換ミラー
72:可変焦点レンズ
73:集光器
74:高周波電流印加手段
741:交流電源
742:電圧調整手段
743:高周波電流周波数調整手段
8:制御手段
10:半導体ウエーハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物にパルスレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、該チャックテーブルと該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りする加工送り手段とを具備し、
該レーザー光線照射手段は、パルスレーザー光線を発振するパルスレーザー光線発振器と、該パルスレーザー光線発振器が発振するパルスレーザー光線の繰り返し周波数を調整する繰り返し周波数調整手段と、該パルスレーザー光線発振器が発振するパルスレーザー光線を集光して該チャックテーブルに保持された被加工物に照射せしめる集光対物レンズとを含んでいる、レーザー加工装置において、
該パルスレーザー光線発振器と該集光対物レンズとの間に配設され高周波を生成するピエゾ素子を備え該ピエゾ素子によって生成される高周波の周期に対応して焦点距離が変化する可変焦点レンズと、該ピエゾ素子に印加する高周波電流の周波数を調整する高周波電流周波数調整手段と、該繰り返し周波数調整手段および該高周波電流周波数調整手段を制御する制御手段と、を具備し、
該制御手段は、該パルスレーザー光線発振器によって発振されるパルスレーザー光線の繰り返し周波数と該可変焦点レンズの該ピエゾ素子に印加する高周波電流の周波数との間に位相差が生じるように該繰り返し周波数調整手段および該高周波電流周波数調整手段を制御する、
ことを特徴とするレーザー加工装置。
【請求項2】
該可変焦点レンズは、光軸上に配設された第1の可変焦点レンズと第2の可変焦点レンズとからなり、
該制御手段は、該第1の可変焦点レンズのピエゾ素子に印加する高周波電流と該第2の可変焦点のピエゾ素子に印加する高周波電流が180度の位相差になるように制御する、請求項1記載のレーザー加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−752(P2013−752A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131338(P2011−131338)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】