説明

レーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物及びそれを用いた成形品

【課題】機械的強度が高く、耐加水分解性、レーザー溶着特性に優れたレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物及び、レーザー溶着により強固に接着した成形品を提供する。
【解決手段】(a)ポリエステル樹脂100重量部に対し、(b)樹脂被覆されたガラス繊維0.1〜100重量部と、(c)エポキシ樹脂0.1〜100重量部を配合してなるレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。該樹脂組成物からなる厚み1.5mm±0.1mmの成形品の、波長960nmにおける光線透過率は10%以上である。このレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物(I)からなる部材と、レーザー吸収性を有する樹脂組成物(II)からなる部材を、樹脂組成物(I)からなる部材側からレーザー光を照射して溶着させる工程を含む成形品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物に関する。特に、他の樹脂部材とレーザー溶着により強固に接着可能なレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂に代表される熱可塑性ポリエステル樹脂は、加工が容易であり、さらに、機械的物性、電気特性、耐熱性その他の物理的・化学的特性に優れている。このため、自動車部品、電気・電子機器部品その他の精密機器部品等に幅広く使用されている。特に、ポリブチレンテレフタレート樹脂は結晶化速度が速いため射出成形用に好適に用いられる。
【0003】
近年、その多様な用途の中には、自動車電装部品(コントロールユニットなど)、各種センサー部品、コネクター部品等のように、電気回路部分を密封する製品にも展開が進んできた。
密封する工法としては、接着剤、超音波溶着、熱板溶着などが行われてきたが、接着剤による工法は、硬化するまでの時間ロスに加え、周囲の汚染などの環境負荷の問題があり、超音波溶着、熱板溶着などは、振動、熱による製品へのダメージ、摩耗粉やバリの発生により後処理が必要になるなどの問題が指摘されている。
【0004】
これに対して、レーザーによる溶着は、非接触で摩耗粉やバリの発生が無く、製品へのダメージも少ない。
しかし、射出成形によって得られる熱可塑性ポリエステル樹脂は、一般にレーザー光の透過率が低いため、薄肉化で対応せざるを得ず、製品肉厚設計のマージンが狭かった。レーザー出力を上げると、レーザー入射側の表面での溶融、発煙、接合界面での異常発熱による気泡などの不具合発生の恐れがあった。さらに、樹脂の劣化物などによる異物やヘイズによっても透過率は低減する。
【0005】
一方で、ポリエステル樹脂を構造材料として用いる場合には、高い剛性が必要とされる。剛性は、ガラス繊維等のフィラーを配合することによって改良できるが、ポリエステル樹脂にガラス繊維、ガラスフレーク等のフィラーを配合した場合には、レーザー光の透過率が低下するという問題点があった。
【0006】
上記の問題を解決するため、ポリブチレンテレフタレート系共重合体を用いて、融点をコントロールして溶着条件幅を広くする方法がある(特許文献1)。しかし、この方法だけではレーザー光透過率の向上は小さく、製品肉厚設計マージンの向上は期待出来ない。
また、ポリブチレンテレフタレート系樹脂に非晶性樹脂やエラストマーを配合する方法が開示されている(特許文献2及び3)。この方法は、レーザー光透過率が向上する場合もあるが、配合や成形条件で透過率が変動しやすいという問題点がある。
【特許文献1】特許3510817号公報
【特許文献2】特開2003−292752号公報
【特許文献3】特開2004−315805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、機械的強度が高く、レーザー溶着特性に優れたポリエステル樹脂組成物及び、レーザー溶着により強固に接着した成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、樹脂被覆されたガラス繊維とエポキシ樹脂とを配合することによって、ポリエステル樹脂組成物の機械的強度とレーザー光透過率が向上することを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
本発明は、上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は以下の通りである。
【0010】
[1] (a)ポリエステル樹脂と、(b)樹脂被覆されたガラス繊維と、(c)エポキシ樹脂とを配合してなるレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物であって、該樹脂組成物からなる厚み1.5mm±0.1mmの成形品の、波長960nmにおける光線透過率が10%以上である、レーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【0011】
[2] (a)ポリエステル樹脂100重量部に対し、(b)樹脂被覆されたガラス繊維0.1〜100重量部と、(c)エポキシ樹脂0.1〜100重量部とを配合してなるレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【0012】
[3] さらに、(d)着色剤を配合してなる、[1]又は[2]に記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【0013】
[4] 前記(a)ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂である、[1]ないし[3]のいずれかに記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【0014】
[5] 前記ポリブチレンテレフタレート樹脂が、チタン化合物を触媒として得られ、かつ、その含有チタン濃度がチタン原子として90ppm以下である、[4]に記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【0015】
[6] 前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基濃度が40μeq/g以下である、[4]又は[5]に記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【0016】
[7] 前記(b)樹脂被覆されたガラス繊維が、アミノ系シランカップリング剤とグリシジルエーテル系エポキシ樹脂で処理されたガラス繊維である、[1]ないし[6]のいずれかに記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【0017】
[8] 前記(b)樹脂被覆されたガラス繊維のガラス繊維が、23℃で1.55以上の屈折率を有するガラスからなり、その平均繊維径が20μm以下である、[1]ないし[7]のいずれかに記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【0018】
[9] 前記(c)エポキシ樹脂が、フェノール類とエピクロルヒドリンを原料とするグリシジルエーテル系エポキシ樹脂である、[1]ないし[8]のいずれかに記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【0019】
[10] 前記(c)エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物及びo−クレゾールノボラック型エポキシ化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上である、[9]に記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【0020】
[11] レーザー透過側の部材に用いられる、[1]ないし[10]のいずれかに記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【0021】
[12] [1]ないし[11]のいずれかに記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物(I)からなる部材と、レーザー吸収性を有する樹脂組成物(II)からなる部材を、前記樹脂組成物(I)からなる部材側からレーザー光を照射して溶着させてなる、成形品。
【0022】
[13] [1]ないし[11]のいずれかに記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物(I)からなる部材と、レーザー吸収性を有する樹脂組成物(II)からなる部材を、前記樹脂組成物(I)からなる部材側からレーザー光を照射して溶着させる工程を含む成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、機械的強度と、レーザー透過性等のレーザー溶着特性、更には耐加水分解性に優れたレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物(レーザー溶着剤)が提供される。
本発明のレーザー溶着用樹脂組成物を用いることにより、レーザー溶着により強固に接着した成形品を提供することができる。
このような成形品は工業的に広く利用され、その利用価値は極めて高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0025】
[レーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物]
本発明のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物は、(a)ポリエステル樹脂100重量部に対し、(b)樹脂被覆されたガラス繊維を好ましくは0.1〜100重量部と、(c)エポキシ樹脂を好ましくは0.1〜100重量部配合してなり、該樹脂組成物からなる厚み1.5mm±0.1mmの成形品の、波長960nmにおける光線透過率が10%以上であることを特徴とする。
【0026】
{(a)ポリエステル樹脂}
本発明で採用する(a)ポリエステル樹脂としては、公知のポリエステル樹脂を広く用いることができる。ポリエステル樹脂は、1種のみでも、2種以上を併用してもよい。
【0027】
(a)ポリエステル樹脂として、好ましくは、ジカルボン酸及び/又はその誘導体成分と、ジオール成分とからなるポリエステル樹脂が挙げられる。
【0028】
ジカルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
【0029】
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい例として挙げられる。
脂環式ジカルボン酸としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸及び1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が好ましい例として挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸及びセバシン酸等が好ましい例として挙げられる。
ジカルボン酸の誘導体としては、これらのジカルボン酸の低級アルキルエステル、グリコールエステルが挙げられる。
【0030】
ジカルボン酸及び/又はその誘導体としては、芳香族ジカルボン酸及び/又はその低級アルキル(例えば、炭素原子数1〜4)エステルあるいはグリコールエステルが好ましく、特にテレフタル酸及び/又はその低級アルキルエステルが好ましい。
これらのジカルボン酸及び/又はその誘導体は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
ジオールとしては、脂肪族ジオール、脂環式ジオール、芳香族ジオールが挙げられる。
【0032】
脂肪族ジオールとしては、好ましくは、炭素数2〜20の脂肪族ジオールであり、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール及び1,8−オクタンジオールを好ましい例として挙げることができる。
脂環式ジオールとしては、好ましくは、炭素数2〜20の脂環式ジオールであり、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール及び1,4−シクロヘキサンジメチロールを好ましい例として挙げることができる。
芳香族ジオールとしては、好ましくは、炭素数6〜14の芳香族ジオールであり、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン及びビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンを好ましい例として挙げることができる。
これらのジオールは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
(a)ポリエステル樹脂は、更にヒドロキシカルボン酸成分、単官能成分、及び三官能以上の多官能成分よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の成分を有していてもよい。
ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸及びp−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸が好ましい例として挙げられる。
単官能成分としては、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸及びベンゾイル安息香酸が好ましい例として挙げられる。
三官能以上の多官能成分としては、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール及びペンタエリスリトールが好ましい例として挙げられる。
これらの成分はそれぞれ1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
(a)ポリエステル樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)が好ましく、テレフタル酸単位を唯一のジカルボン酸単位とし、1,4−ブタンジオール単位を唯一のジオール単位とするポリブチレンテレフタレート単独重合体がさらに好ましい。
なお、本発明でいうPBT樹脂とは、テレフタル酸単位が全ジカルボン酸単位の50モル%以上を占め、1,4−ブタンジオール単位が全ジオール単位の50モル%以上を占めることをいう。
【0035】
<ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)>
以下に本発明で用いる(a)ポリエステル樹脂として好適なPBT樹脂について説明する。
【0036】
このPBT樹脂は、特に、ジカルボン酸単位中のテレフタル酸単位の割合が70モル%以上のものが好ましく、90モル%以上のものがより好ましい。また、ジオール単位中の1,4−ブタンジオール単位の割合は、70モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましい。このようなPBT樹脂を用いることにより、機械的性質及び耐熱性がより向上する傾向にあり好ましい。テレフタル酸単位又は1,4−ブタンジオール単位が50モル%より少ない場合は、PBTの結晶化速度が低下し、成形性の悪化を招く。
【0037】
本発明で用いるPBT樹脂における、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分は特に制限はなく用いることができる。例えば、フタル酸、イソフタル酸、4,4'−ジフェニルジカルボン酸、4,4'−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4'−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4'−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4'−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸などを挙げることができる。これらのジカルボン酸成分は、ジカルボン酸として、又は、ジカルボン酸エステル、ジカルボン酸ハライド等のジカルボン酸誘導体として、ポリマー骨格に導入できる。これらのジカルボン酸又はその誘導体は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
本発明で用いるPBT樹脂における、1,4−ブタンジオール以外のジオール成分には特に制限はなく用いることができる。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール、キシリレングリコール、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール等を挙げることができる。これらのジオール成分は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
本発明で用いるPBT樹脂においては、さらに、乳酸、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、tert−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール等の三官能以上の多官能成分などを共重合成分として使用することができる。
【0040】
本発明で用いるPBT樹脂は、特に、1,4−ブタンジオールとテレフタル酸(又はテレフタル酸ジアルキル)とのエステル化反応(又はエステル交換反応)の際に触媒として好ましくはチタン触媒を使用して得られるものであることが好ましい。
【0041】
チタン触媒としては、チタン化合物が使用され、その具体例としては、酸化チタン、四塩化チタン等の無機チタン化合物、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等が挙げられる。これらの中ではテトラアルキルチタネートが好ましく、テトラブチルチタネートがより好ましい。
【0042】
チタン触媒に併せて、スズ触媒が併用されていてもよい。スズは、スズ化合物として使用され、その具体例としては、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などが挙げられる。
【0043】
さらに、チタン触媒に併せて、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド、燐酸水素マグネシウム等のマグネシウム化合物、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、カルシウムアルコキサイド、燐酸水素カルシウム等のカルシウム化合物の他、三酸化アンチモン等のアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物、マンガン化合物、亜鉛化合物、ジルコニウム化合物、コバルト化合物、正燐酸、亜燐酸、次亜燐酸、ポリ燐酸、それらのエステルや金属塩などの燐化合物、水酸化ナトリウム、安息香酸ナトリウムなどの反応助剤を使用してもよい。
【0044】
本発明に好適なPBT樹脂は、チタン化合物を触媒として得られるPBT樹脂であって、含有チタン濃度がチタン原子として90ppm以下、好ましくは60ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下のPBT樹脂である。この含有チタン濃度は、PBT樹脂に対する原子の重量比である。
上記の含有チタン濃度の下限は、好ましくは1ppm、より好ましくは3ppm、さらに好ましくは5ppm、特に好ましくは8ppm、一層好ましくは15ppmである。
含有チタン濃度が90ppmより多いと、色調、耐加水分解性、透明性、成形性などが悪化し、しかも、異物も増加する。また、含有チタン濃度を、1ppm以上とすることにより、重合性が良好になる傾向にある。
【0045】
本発明においては、前述の通り、チタン触媒に併せてスズ触媒を使用することができる。一般的に、スズ触媒は、チタン触媒に比べて触媒能が低いため、チタン触媒に比べ添加量を多くする必要がある。しかしながら、スズ触媒の使用量が多過ぎると色調が悪化する傾向にあり、また、スズは毒性もある。従って、スズ触媒の使用量は、得られるPBT樹脂中のスズ原子含有量として通常100ppm以下、好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは20ppm以下であり、最も好ましくはスズ触媒を使用しないことである。
【0046】
なお、樹脂中のチタン原子などの含有量は、湿式灰化などの方法でポリマー中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、Inductively Coupled Plasma(ICP)等の方法を使用して測定することができる。
【0047】
本発明で用いるPBT樹脂の固有粘度は、好ましくは0.60〜2.00dL/g、より好ましくは0.65〜1.50dL/g、さらに好ましくは0.68〜1.30dL/gである。固有粘度を0.60dL/g以上とすることにより、成形品の機械的強度がより良好なものとなり、2.00dL/g以下とすることにより、溶融粘度が高くなり過ぎて流動性が悪化し、成形性が悪化するのをより効果的に抑止できる傾向にある。上記の固有粘度は、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃で測定した値である。
【0048】
本発明の樹脂組成物は、固有粘度の異なる2種以上のPBT樹脂を含んでいてもよい。この場合、使用する2以上のPBT樹脂の固有粘度は、何れも上記範囲内であることが好ましい。
また、本発明の樹脂組成物としての固有粘度も上記の範囲内であることが好ましい。例えば、固有粘度が0.6〜0.90dL/gのPBT樹脂と固有粘度が0.91〜1.5dL/gのPBT樹脂とを重量比で5:95〜95:5の割合で混合して使用することが例示される。
【0049】
本発明で用いるPBT樹脂の末端カルボキシル基濃度は、好ましくは、40μeq/g以下、より好ましくは35μeq/g以下、さらに好ましくは33μeq/g以下、特に好ましくは30μeq/g以下である。また、末端カルボキシル基濃度の下限としては、好ましくは、0.1μeq/g以上、より好ましくは1μeq/g以上である。末端カルボキシル基濃度を40μeq/g以下とすることにより、PBT樹脂の耐加水分解性の悪化を抑止できる傾向にある。
末端カルボキシル基濃度を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調整する方法や、末端封止剤を反応させる方法などを適用すればよい。
【0050】
また、PBT樹脂の末端カルボキシル基濃度が低い場合であっても、混練時や成形時の熱により末端カルボキシル基濃度が上昇すると、結果的に成形品(製品)の耐加水分解性を悪化させるだけでなく、混練、成形時の樹脂溶融状態においてテトラヒドロフラン(THF)等のガスの発生を招く。この様な成形品の耐加水分解性の低下や、溶融時のガス発生を抑止するためには、溶融時における末端カルボキシル基濃度の上昇がより少ないPBT樹脂を用いることが好ましい。具体的には、樹脂中の水分を500ppm以下に乾燥させた後、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、245℃で40分間熱処理した際の末端カルボキシル基濃度の上昇が、好ましくは0.1〜30μeq/g、より好ましくは1〜10μeq/g、さらに好ましくは1〜8μeq/gであるPBT樹脂を用いることが好ましい。一般的には、触媒物質の含有量が低い方が、また、分子量が高い方が、熱を加えた際の末端カルボキシル基濃度の上昇が小さい傾向にある。
【0051】
なお、上記の評価法において水分濃度を規定したのは、水分濃度が高いと加水分解反応が起こって、正確な分解挙動を把握できないからであり、また温度や時間を規定したのは、温度が低すぎたり時間が短すぎたりすると末端カルボキシル基濃度の上昇の速度が小さすぎ、逆の場合は大きすぎて評価が不正確になるためである。また、極端に高い温度で評価すると、末端カルボキシル基が生成する以外の副反応が併発し、評価が不正確になることも理由の1つである。
【0052】
PBT樹脂の末端カルボキシル基濃度は、PBT樹脂を有機溶媒などに溶解し、水酸化ナトリウム溶液などのアルカリ溶液を使用して滴定することにより求めることができる。
【0053】
本発明で用いるPBT樹脂の溶液ヘイズは、特に制限されないが、フェノール/テトラクロロエタン混合溶媒(重量比3/2)20mLにPBT樹脂2.7gを溶解させて測定した際の溶液ヘイズとして、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下、最も好ましくは0.5%以下とされる。溶液ヘイズを10%以下とすることにより、異物がより減少し、透過率もより良好となる傾向がある。溶液ヘイズは、触媒含有量が多かったり、触媒の失活が大きい場合に上昇する傾向がある。
【0054】
<(a)ポリエステル樹脂の製造方法>
(a)ポリエステル樹脂の製造方法としては、公知の方法を広く採用できる。例えば、テレフタル酸成分と1,4−ブタンジオール成分とからなるPBT樹脂の場合、直接重合法及びエステル交換法のいずれの方法も採用できる。直接重合法は、例えば、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールを直接エステル化反応させる方法であり、初期のエステル化反応で水が生成する。エステル交換法は、例えば、テレフタル酸ジメチルを主原料として使用する方法であり、初期のエステル交換反応でアルコールが生成する。直接エステル化反応は原料コスト面から好ましい。
また、ポリエステル樹脂は、原料供給又はポリマーの払い出し形態について、回分法及び連続法のいずれの方法で製造してもよい。さらに、初期のエステル化反応又はエステル交換反応を連続操作で行って、それに続く重縮合を回分操作で行ったり、逆に、初期のエステル化反応又はエステル交換反応を回分操作で行って、それに続く重縮合を連続操作で行う方法もある。
【0055】
<PBT樹脂の製造方法>
以下に本発明で好適に用いられるPBT樹脂の製造方法について説明する。
本発明で用いるPBT樹脂は、例えば、特開2004−307794号公報の記載に従って製造することができる。
具体的には、PBT樹脂の製造方法は、原料面から、ジカルボン酸を主原料として使用するいわゆる直接重合法と、ジカルボン酸ジアルキルを主原料として使用するエステル交換法とに大別される。前者は初期のエステル化反応で水が生成し、後者は初期のエステル交換反応でアルコールが生成するという違いがある。
【0056】
また、PBT樹脂の製造方法は、原料供給又はポリマーの払い出し形態から回分法と連続法に大別される。初期のエステル化反応又はエステル交換反応を連続操作で行って、それに続く重縮合を回分操作で行ったり、逆に、初期のエステル化反応又はエステル交換反応を回分操作で行って、それに続く重縮合を連続操作で行う方法もある。
【0057】
本発明で用いるPBT樹脂の製造においては、原料の入手安定性、留出物の処理の容易さ、原料コストの高さ、本発明の効果をより顕著に発揮させるという観点から、直接重合法が好ましい。また、本発明で用いるPBT樹脂の製造においては、生産性や製品品質の安定性、本発明による改良効果の観点から、連続的に原料を供給し、連続的にエステル化反応又はエステル交換反応を行う方法を採用することが好ましい。そして、本発明で用いるPBT樹脂の製造においては、エステル化反応又はエステル交換反応に続く重縮合反応も連続的に行ういわゆる連続法を採用することが好ましい。
【0058】
本発明で用いるPBT樹脂の製造においては、エステル化反応槽にて、チタン触媒の存在下、少なくとも一部の1,4−ブタンジオールをテレフタル酸(又はテレフタル酸ジアルキル)とは独立にエステル化反応槽(又はエステル交換反応槽)に供給しながら、テレフタル酸(又はテレフタル酸ジアルキル)と1,4−ブタンジオールとを連続的にエステル化(又はエステル交換)する工程が好ましく採用される。
【0059】
すなわち、本発明で用いるPBT樹脂の製造においては、触媒に由来するヘイズや異物を低減し、触媒活性を低下させないため、原料スラリー又は溶液として、テレフタル酸又はテレフタル酸ジアルキルエステルと共に供給される1,4−ブタンジオールとは別に、しかも、テレフタル酸又はテレフタル酸ジアルキルとは独立に1,4−ブタンジオールをエステル化反応槽又はエステル交換反応槽に供給することが好ましい。以後、当該1,4−ブタンジオールを「別供給1,4−ブタンジオール」と称することがある。
【0060】
上記の「別供給1,4−ブタンジオール」には、プロセスとは無関係の新鮮な1,4−ブタンジオールを当てることができる。また、「別供給1,4−ブタンジオール」は、エステル化反応槽又はエステル交換反応槽から留出した1,4−ブタンジオールをコンデンサ等で捕集し、そのまま、又は、一時タンク等へ保持して反応槽に還流させたり、不純物を分離、精製して純度を高めた1,4−ブタンジオールとして供給することもできる。以後、コンデンサ等で捕集された1,4−ブタンジオールから構成される「別供給1,4−ブタンジオール」を「再循環1,4−ブタンジオール」と称することがある。資源の有効活用、設備の単純さの観点からは、「再循環1,4−ブタンジオール」を「別供給1,4−ブタンジオール」に当てることが好ましい。
【0061】
また、通常、エステル化反応槽又はエステル交換反応槽より留出した1,4−ブタンジオールは、1,4−ブタンジオール成分以外に、水、アルコール、THF、ジヒドロフラン等の成分を含んでいる。従って、上記の留出した1,4−ブタンジオールは、コンデンサ等で捕集した後、又は、捕集しながら、水、アルコール、テトラヒドロフラン等の成分と分離・精製し、反応槽に戻すことが好ましい。
【0062】
そして、本発明で用いるPBT樹脂の製造においては、「別供給1,4−ブタンジオール」の内、10重量%以上を反応液液相部に直接戻すことが好ましい。ここで、反応液液相部とは、エステル化反応槽又はエステル交換反応槽中の気液界面の液相側を示し、反応液液相部に直接戻すとは、配管などを使用して「別供給1,4−ブタンジオール」が気相部を経由せずに直接液相部分に供給されることを表す。反応液液相部に直接戻す割合は、好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上、特に好ましくは80重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。反応液液相部に直接戻す「別供給1,4−ブタンジオール」を30重量%以上とすることにより、異物をより少なくできる傾向にある。
【0063】
また、反応器に戻す際の「別供給1,4−ブタンジオール」の温度は、通常50〜220℃、好ましくは100〜200℃、さらに好ましくは150〜190℃とされる。「別供給1,4−ブタンジオール」の温度が高過ぎる場合はTHFの副生量が多くなる傾向にあり、低過ぎる場合は熱負荷が増すためエネルギーロスを招く傾向がある。
【0064】
また、本発明で用いるPBT樹脂の製造においては、触媒に由来するヘイズや異物を低減し、触媒活性を低下させないため、エステル化反応(又はエステル交換反応)に使用されるチタン触媒の内、10重量%以上をテレフタル酸(又はテレフタル酸ジアルキル)とは独立に反応液液相部に直接供給することが好ましい。ここで、反応液液相部とは、エステル化反応槽又はエステル交換反応槽中の気液界面の液相側を示し、反応液液相部に直接供給するとは、配管などを使用し、チタン触媒が反応器の気相部を経由せずに直接液相部分に供給されることを表す。反応液液相部に直接供給するチタン触媒の割合は、好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上、特に好ましくは80重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。
【0065】
上記のチタン触媒は、溶媒などに溶解させたり、溶解させずに直接エステル化反応槽又はエステル交換反応槽の反応液液相部に供給することもできるが、供給量を安定化させ、反応器の熱媒ジャケット等からの熱による変性などの悪影響を軽減するためには、1,4−ブタンジオール等の溶媒で希釈することが好ましい。この際の濃度は、溶液全体に対するチタン触媒の濃度として、通常0.01〜20重量%、好ましくは0.05〜10重量%、さらに好ましくは0.08〜8重量%とされる。また、より異物を低減する観点から、溶液中の水分濃度は、通常0.05〜1.0重量%とされる。溶液調製の際の温度は、失活や凝集を防ぐ観点から、通常20〜150℃、好ましくは30〜100℃、さらに好ましくは40〜80℃とされる。また、触媒溶液は、劣化防止、析出防止、異物抑制の点から、別供給1,4−ブタンジオールと配管などで混合してエステル化反応槽又はエステル交換反応槽に供給することが好ましい。
【0066】
直接重合法を採用した連続法の一例は、次の通りである。すなわち、テレフタル酸単位を主成分とする前記ジカルボン酸成分と1,4−ブタンジオール単位を主成分とする前記ジオール成分とを原料混合槽で混合してスラリーとし、単数又は複数のエステル化反応槽内で、チタン触媒の存在下、通常180〜260℃、好ましくは200〜245℃、さらに好ましくは210〜235℃の温度、また、通常10〜133kPa、好ましくは13〜101kPa、さらに好ましくは60〜90kPaの圧力下で、通常0.5〜10時間、好ましくは1〜6時間で、連続的にエステル化反応させ、得られたエステル化反応生成物としてのオリゴマーを重縮合反応槽に移送し、単数又は複数の重縮合反応槽内で、重縮合触媒の存在下に、好ましくは連続的に、通常210〜280℃、好ましくは220〜265℃の温度、通常27kPa以下、好ましくは20kPa以下、さらに好ましくは13kPa以下の減圧下で、攪拌下に、通常2〜10時間、好ましくは2〜5時間で重縮合反応させる。重縮合反応により得られたポリマーは、通常、重縮合反応槽の底部からポリマー抜き出しダイに移送されてストランド状に抜き出され、水冷されながら又は水冷後、カッターで切断され、ペレット状、チップ状などの粒状体とされる。
【0067】
エステル交換法を採用した連続法の一例は、次の通りである。すなわち、単数又は複数のエステル交換反応槽内で、チタン触媒の存在下に、通常110〜260℃、好ましくは140〜245℃、さらに好ましくは180〜220℃の温度、また、通常10〜133kPa、好ましくは13〜120kPa、さらに好ましくは60〜101kPaの圧力下で、通常0.5〜5時間、好ましくは1〜3時間で、連続的にエステル交換反応させ、得られたエステル交換反応生成物としてのオリゴマーを重縮合反応槽に移送し、単数又は複数の重縮合反応槽内で、重縮合反応触媒の存在下に、好ましくは連続的に、通常210〜280℃、好ましくは220〜265℃の温度、通常27kPa以下、好ましくは20kPa以下、さらに好ましくは13kPa以下の減圧下で、攪拌下に、通常2〜12時間、好ましくは3〜10時間で重縮合反応させる。
【0068】
{(b)樹脂被覆されたガラス繊維}
本発明で用いる(b)樹脂被覆されたガラス繊維のガラス繊維の平均繊維径は、特に制限されないが、20μm以下が好ましく、2〜18μmがより好ましく、3〜15μmが特に好ましく、5〜15μmが最も好ましい。このような繊維径のものを採用することにより、機械的性質をより効果的に発揮することができる。また、ガラス繊維の平均繊維長は、特に制限されないが、0.1〜20mmが好ましく、1〜10mmがより好ましい。平均繊維長を0.1mm以上とすることにより、ガラス繊維による補強効果がより効果的に発現され、平均繊維長を20mm以下とすることにより、(a)ポリエステル樹脂との溶融混練や強化ポリエステル樹脂組成物の成形がより容易になる。
【0069】
また、(b)樹脂被覆されたガラス繊維は、23℃における屈折率が1.550以上、特に1.560〜1.600のガラスからなることが好ましい。該ガラスは、通常、ポリエステル樹脂に使用されるEガラス(屈折率1.550)或いは、Eガラスを構成する組成成分からB及びF成分を除き、MgO、TiO、ZnO等の成分の割合を増加したものとすることができる。このようなガラスを採用することにより、本発明の樹脂組成物のレーザー透過性を向上させることが可能となる。
【0070】
また、(b)樹脂被覆されたガラス繊維としては、長繊維タイプ(ロービング)のものや短繊維タイプ(チョップドストランド)のものがより好ましく用いられる。
【0071】
本発明で用いる(b)樹脂被覆されたガラス繊維は、エポキシ樹脂、特にグリシジルエーテル系エポキシ樹脂で処理されたものが、(a)ポリエステル樹脂とガラス繊維と親和性を増し界面密着性を向上させ、界面における空隙形成による不透明化要因を排除、低減するために好ましい。なかでも、アミノ系シランカップリング剤とグリシジルエーテル系エポキシ樹脂で処理されたものであることが好ましく、とりわけ、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)
アミノプロピルトリメトキシシラン及び下記一般式(1)で表されるアルコキシシランよりなる群から選ばれる1種又は2種以上のアミノ系シランカップリング剤と、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビフェニルジグリシジルエーテル、ナフタレンジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、フェノールノボラック型エポキシ化合物、o−クレゾールノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールノボラック型エポキシ化合物、トリスヒドロキシメタン型(3官能)エポキシ化合物、テトラフェノールエタン型(4官能)エポキシ化合物及び下記一般式(2)で表されるエポキシ化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上のグリシジルエーテル系エポキシ樹脂とで処理されたものであることが好ましい。
【0072】
【化1】

[式中、xは0〜5の整数、yは0又は1、zは0〜2の整数、nは1〜3の整数、R1は炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数1〜10のアルキル基、水酸基及びアミノ基からなる群より選ばれる1価の基、R2、R3及びR4は同一でも異なっていてもよい炭素数1〜10のアルキレン基をそれぞれ示す。ただし、xが2以上である場合は、R1はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【0073】
【化2】

[式中、pは1〜100の整数、qは2〜4の整数、R5は炭素数1〜4のアルキレン基、R6は炭素数2〜4のアルキレン基、R7は価数がqである有機基をそれぞれ示す。ただし、pが2以上である場合は、R6はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【0074】
(b) 樹脂被覆されたガラス繊維には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、帯電防止剤、潤滑剤、撥水剤、水などの各成分が含有されていてもよい。
【0075】
本発明で用いるガラス繊維の処理に好適なアルコキシシランについて以下に説明する。
上記一般式(1)で表されるアルコキシシラン(以下「アルコキシシラン(1)」と称す場合がある。)は、一端にトリアルコキシシリル基を有し他端にベンゼン環を有するシランカップリング剤であり、トリアルコキシシリル基とベンゼン環の間にはアルキレン基を介してアミノ基が存在している。
【0076】
アルコキシシラン(1)は、トリアルコキシシリル基を有するために、ガラス繊維を処理した場合、アルコキシシリル基が加水分解して生じたシラノール基が、ガラス繊維表面の水酸基と反応(縮合反応)しガラス繊維表面と結合を形成する。トリアルコキシシリル基におけるアルコキシ基の炭素数(n)は、1〜3の整数であり、1又は2であることがより好ましい。nが4以上である場合は、アルコキシシリル基の加水分解速度が減少し、ガラス繊維との化学結合の形成が不十分となる。
【0077】
また、アルコキシシラン(1)は、ベンゼン環を有しているために高い熱分解温度を有している。すなわち、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等の従来より多用されるアミノシランの熱分解温度は200℃付近であるのに対して、アルコキシシラン(1)の熱分解温度は280℃〜300℃である。なお、アルコキシシラン中のベンゼン環は、置換基(R1)を有していても(x=1〜5)、有してなくてもよい(x=0)。ベンゼン環が置換基を有する場合の当該置換基は、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数1〜10のアルキル基、水酸基及びアミノ基からなる群より選ばれる1価の基である。置換基としては、炭素数2〜5のアルケニル基が好ましく、ビニル基がより好ましい。また、置換基の数(x)は1であることが好ましく、置換基の数(x)が2以上である場合は、置換基(R1)はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0078】
アルコキシシラン(1)のベンゼン環が炭素数1〜10のアルキル基を有している場合、ガラス繊維の、(a)ポリエステル樹脂中における分散性が向上する。また、ベンゼン環が炭素数2〜10のアルケニル基、水酸基、アミノ基を有している場合は、一般式(2)で表されるエポキシ化合物や、(a)ポリエステル樹脂中の官能基と化学結合を形成しうる。
【0079】
アルコキシシラン(1)においては、ベンゼン環とアミノ基は、直接結合していてもよく(y=0)、炭素数1〜10のアルキレン基(R2)を介して結合していてもよい(y=1)。ベンゼン環が直接又はR2を介して結合したアミノ基は、トリアルコキシシリル基が結合した炭素数1〜10の有機基(R4)に直接結合していてもよく(z=0)、炭素数1〜10のアルキレン基(R3)とアミノ基とからなる2価の基(−R3−NH−)を介して結合していてもよい。本発明において用いられるアルコキシシランが当該2価の基を有する場合は、その数(z)は、1又は2である。ここで、R2、R3、R4は炭素数1〜10のアルキレン基であるが、これらの少なくとも一つが炭素数11以上のアルキレン基である場合は、アルコキシシランの水に対する溶解性が不十分となる。また、R2、R3、R4のうち少なくとも一つは炭素数1〜3のアルキレン基であることが好ましく、R2、R3、R4の全てが炭素数1〜3のアルキレン基であることがより好ましい。
【0080】
本発明においては、特に、一般式(1)のx、y及びzはいずれも1であり、nは1又は2であり、R1はビニル基であり、R2、R3及びR4は同一でも異なっていてもよい炭素数1〜3のアルキレン基であるアルコキシシラン、即ち、下記一般式(3)で表されるものを用いることが好ましい。
【0081】
【化3】

[式中、nは1又は2、R2、R3及びR4は同一でも異なっていてもよい炭素数1〜3のアルキレン基をそれぞれ示す。]
【0082】
上記一般式(3)においては、R2はメチレン基であり、R3はエチレン基であり、R4はプロピレン基であることがさらに好ましい。
【0083】
以上説明した、アルコキシシラン(1)としては、例えば、以下に示す化学構造を有するアルコキシシランが挙げられる。
65−NH−C36−Si(OCH33、CH2=CH−C64−NH−C36−Si(OCH33、C65−NH−C24−NH−C36−Si(OCH33、CH2=CH−C64−NH−C24−NH−C36−Si(OCH33、C65−CH2−NH−C36−Si(OCH33、CH2=CH−C64−CH2−NH−C36−Si(OCH33、C65−CH2−NH−C24−NH−C36−Si(OCH33、CH2=CH−C64−CH2−NH−C24−NH−C36−Si(OCH33
なお、本発明におけるアルコキシシラン(1)は、塩酸塩等の塩であってもよい。また、本発明におけるアルコキシシラン(1)は1種又は2種以上を用いることができる。
【0084】
次に、本発明で用いるガラス繊維の処理に好適なエポキシ化合物について説明する。
上記一般式(2)で表されるエポキシ化合物(以下「エポキシ化合物(2)」と称す場合がある。)は、分子中にポリオキシアルキレン基を有したものである。すなわち、本発明において用いられるエポキシ化合物(2)は、末端にエポキシ基を有するポリオキシアルキレン基2〜4個(q=2〜4)が有機基(R7)に結合した構造を有している。従って、有機基(R7)の価数は当該ポリオキシアルキレン基の個数と等しくなる。
【0085】
エポキシ化合物(2)中に含まれるエポキシ基は、アルコキシシラン(1)中のアミノ基や、(a)ポリエステル樹脂中の官能基と化学結合を形成することが可能である。
【0086】
このようなエポキシ化合物(2)でガラス繊維を処理することにより、このエポキシ化合物(2)を介して、ガラス繊維に結合したアルコキシシラン(1)と(a)ポリエステル樹脂との間に化学結合(架橋構造)を形成させることが可能になる。従って、得られるポリエステル樹脂組成物の常温及び高温暴露後の強度が向上する。この場合において、エポキシ化合物(2)中に含まれるポリオキシアルキレン基は柔軟性に優れているために、上記架橋構造における架橋点間を柔軟に保つことができる。また、エポキシ化合物(2)と反応するアルコキシシラン(1)はガラス繊維に結合したものであるため、このような柔軟な架橋構造がガラス繊維と(a)ポリエステル樹脂の界面付近に局在し、本発明のポリエステル樹脂組成物よりなる部材に外力が加わった場合の破壊点になりやすい(b)ガラス繊維と(a)ポリエステル樹脂の界面の靭性が向上する。このために、常温及び高温暴露後での耐衝撃性も向上する。
【0087】
エポキシ化合物(2)における、エポキシ基を有したポリオキシアルキレン基の数(q)は2〜4である。qが1の場合は、アルコキシシランとマトリックス樹脂である(a)ポリエステル樹脂とがエポキシ化合物を介して結合することが期待できず、常温及び高温暴露後における強度が不十分になる。一方、qが5以上である場合は、架橋密度が高くなることによる脆性向上の効果が、ポリオキシアルキレン基が存在することによる耐衝撃性付与の効果より勝ってしまうため、耐衝撃性が十分ではなくなる。
【0088】
エポキシ化合物(2)におけるオキシアルキレン基(R6−O)の繰り返し数(p)は1〜100の整数であり、好ましくは5〜40、より好ましくは8〜30の整数である。繰り返し数(p)が100を越える場合は、粘度が高すぎて取り扱いが困難である。上記オキシアルキレン基中のアルキレン基(R6)の炭素数は2〜4であるが、炭素数は2又は3であることがより好ましい。アルキレン基(R6)の炭素数が5以上の場合は合成が困難である。なお、pが2以上である場合は、アルキレン基(R6)はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。すなわち、(R6−O)で表されるポリオキシアルキレン部分は、例えば、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンのブロック共重合体やランダム共重合体であってもよい。
【0089】
エポキシ化合物(2)において、エポキシ基とポリオキシアルキレン基(R6−O)とは炭素数1〜4のアルキレン基(R5)と酸素原子とによって結合している。このアルキレン基(R5)の炭素数は、1又は2であることが好ましく、1であることがより好ましい。アルキレン基(R5)の炭素数が5以上である場合は、エポキシ化合物の柔軟性が不十分になる。
【0090】
エポキシ化合物(2)は、1種又は2種以上を用いることができる。また、エポキシ化合物は、分子量の異なるもの、すなわち一般式(2)におけるp値が異なるものの混合物であってもよい。エポキシ化合物(2)は、例えば、価数が2〜4(q=2〜4)である多価アルコールに、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等の環状エーテルの少なくとも一つを反応させて得られるポリオキシアルキレンの末端に、さらに炭素数1〜4のアルキレン基(R5)を介してエポキシ基を結合させることにより得ることができる。例えば、R5の炭素数が1である場合は、上記ポリオキシアルキレンにエピクロルヒドリンを反応させることによって得ることができる。
【0091】
上記多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール及びはペンタエリトリット(ペンタエリスリトール)からなる群より選ばれる多価アルコールを用いることが好ましく、この場合は、一般式(2)におけるR7は、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール及びはペンタエリトリットからなる群より選ばれる多価アルコールから、当該多価アルコールに結合するポリオキシアルキレン基の数(q)と等しい数の水酸基が脱離した構造を有するq価の有機基となる。例えば、多価アルコールがエチレングリコール、プロピレングリコールである場合は、当該多価アルコールに結合するポリオキシアルキレン基の数(q)は2であるから、多価アルコールから2個の水酸基が脱離した構造を有する有機基は、それぞれ、−C24−、−C36−で表される2価の有機基となる。
【0092】
エポキシ化合物(2)としては、例えば、下記一般式(4)〜(9)で表される化合物が挙げられる。なお、一般式(4)〜(9)におけるpは、一般式(2)におけるpと同義である。
【0093】
【化4】

【0094】
本発明で用いる(b)樹脂被覆されたガラス繊維における、前記アミノ系シランカップリング剤及びグリシジルエーテル系エポキシ樹脂の付着量は、少な過ぎると、これらでガラス繊維を表面処理することによる十分な効果を得ることができず、多過ぎると(a)ポリエステル樹脂中へのガラス繊維の分散性が低下する上に経済的に不利である。従って、樹脂被覆されたガラス繊維において、ガラス繊維に対するアミノ系シランカップリング剤の付着量は、0.001〜1重量%、特に0.05〜0.5重量%であることが好ましく、また、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂の付着量は0.01〜2重量%、特に0.05〜1重量%であることが好ましい。
【0095】
なお、このような(b)樹脂被覆されたガラス繊維は、アミノ系シランカップリング剤とグリシジルエーテル系エポキシ樹脂の混合液中に、ガラス繊維のロービングやストランドを浸漬してガラス繊維にアミノ系シランカップリング剤とグリシジルエーテル系エポキシ樹脂とを付着させ、その後乾燥することにより製造することができる。
【0096】
このようにしてアミノ系シランカップリング剤とグリシジルエーテル系エポキシ樹脂で表面処理されたガラス繊維は、アミノ系シランカップリング剤の無機官能基とガラス繊維表面との反応と、アミノ系シランカップリング剤の有機官能基とグリシジルエーテル系エポキシ樹脂のグリシジル基との反応、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂のグリシジル基と(a)ポリエステル樹脂の末端カルボキシル基との反応、更には、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂と後述の(c)エポキシ樹脂との親和性の相乗効果で、ガラス繊維の(a)ポリエステル樹脂中での密着性、分散安定性、機械的強度の向上、更には(a)ポリエステル樹脂の耐加水分解性の改善に寄与する。更には、ガラス繊維と(a)ポリエステル樹脂との界面密着力が向上する結果、界面での空隙形成による不透明化が低減するため、透過率も向上する。
【0097】
上記(b)樹脂被覆されたガラス繊維の配合量は、(a)ポリエステル樹脂100重量部に対し0.1〜100重量部でることが好ましく、より好ましくは5〜70重量部である。なお、この(b)樹脂被覆されたガラス繊維の配合量は、例えば、(b)樹脂被覆されたガラス繊維が前述のアミノ系シランカップリング剤及びグリシジルエーテル系エポキシ樹脂で処理されたものである場合、これらの表面処理剤成分をも含む(b)樹脂被覆されたガラス繊維全体の配合量である。
【0098】
{(c)エポキシ樹脂}
本発明で採用する(c)エポキシ樹脂は、エポキシ基(グリシジル基、オキシラン基)を有し、架橋構造を形成する硬化剤を含まない(即ち、硬化していない)エポキシ樹脂であり、このようなものであれば特に定めるものではなく、単官能性、二官能性又は多官能性の何れでもよく、また、これらを併用してもよい。
中でも二官能性以上のエポキシ樹脂、即ち1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂が好ましい。またそのエポキシ当量も適宜選択して決定すればよいが、通常、100〜10000g/eqであり、特に150〜5000g/eqであることが好ましい。エポキシ当量を100g/eq以上とすることにより吸湿性を抑制し、保存安定性が向上する。また、10000g/eq以下とすることにより(a)ポリエステル樹脂との反応性を向上できる。
【0099】
また、(c)エポキシ樹脂は、軟化点又は融点が30〜200℃、特に40〜190℃であることが好ましい。軟化点又は融点が30℃以上であることにより、常温で固体であり、ハンドリング性及び他の成分と溶融混練の際の分散性に優れたものとすることができる。また、軟化点又は融点が200℃以下とすることにより、(a)ポリエステル樹脂との溶融混練が容易となる。
【0100】
本発明で用いる(c)エポキシ樹脂としては、例えば、グリシジルエーテル系、グリシジルエステル系、グリシジルアミン系、脂環式ジエポキシ化合物、グリシジルイミド化合物等が挙げられる。
【0101】
グリシジルエーテル系としては、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビフェニルジグリシジルエーテル、ナフタレンジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル及びプロピレングリコールジグリシジルエーテル、フェノールノボラック型エポキシ化合物、o−クレゾールノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールノボラック型エポキシ化合物、トリスヒドロキシメタン型(3官能)エポキシ化合物、テトラフェノールエタン型(4官能)エポキシ化合物が好ましい例として挙げられる。
【0102】
グリシジルエステル系としては、安息香酸グリシジルエステル、ソルビン酸グリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、オルトフタル酸ジグリシジルエステル等が好ましい例として挙げられる。
【0103】
グリシジルアミン系としては、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルイソシアヌレートが、脂環式ジエポキシ化合物としては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレートが、グリシジルイミド化合物としては、N−グリシジルフタルイミドが好ましい例として挙げられる。
【0104】
本発明に用いる(c)エポキシ樹脂としては、耐水性、保存安定性の点からグリシジルエーテル系が好ましく、中でも(1)ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの反応から得られるビスフェノールA型ジグリシジルエーテルや、(2)フェノールノボラックとエピクロロヒドリンとの反応によって得られるフェノールノボラック型エポキシ樹脂、更には(3)o−クレゾールとエピクロロヒドリンとの反応によって得られるo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が好ましい。
これらのエポキシ樹脂は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0105】
本発明で用いる(c)エポキシ樹脂は、(a)ポリエステル樹脂と(b)樹脂被覆されたガラス繊維に好適に含まれる前述のグリシジルエーテル系エポキシ樹脂両方に対して、反応性や親和性を有する。よって、(a)ポリエステル樹脂と(b)樹脂被覆されたガラス繊維との密着性が増し、本発明の樹脂組成物の機械的強度が向上するため、レーザー溶着部位での接合強度をさらに高めることが可能となる。
【0106】
なお、本発明において、(c)エポキシ樹脂が硬化剤を含まず、未硬化の液状、あるいは融点または軟化点を有する固形状のものであることは極めて重要であり、(c)エポキシ樹脂が硬化剤で硬化されたものであったり、また、硬化剤を含むものであるとエポキシ樹脂中のグリシジル基が硬化反応に使われるので本発明の効果であるレーザー透過性、高強度、及び耐加水分解性が発現しない。
【0107】
(c)エポキシ樹脂の配合量は、(a)ポリエステル樹脂100重量部に対して好ましくは0.1〜100重量部であり、より好ましくは0.3〜50重量部である。(c)エポキシ樹脂の配合量を(a)ポリエステル樹脂100重量部に対して0.1重量部以上とすることにより、機械的性質をより効果的に向上させることができ、100重量部以下とすることにより、樹脂混練、成形時などの樹脂溶融時にポリエステル樹脂との反応が促進され、成形性が低下するのをより抑制する傾向にあり好ましい。
【0108】
なお、この(c)エポキシ樹脂の配合量は、(c)成分として(a)ポリエステル樹脂に配合されるものの配合量であって、前述の(b)樹脂被覆されたガラス繊維の表面処理剤としてガラス繊維と共に添加されて、結果的に樹脂組成物中に含有されるエポキシ樹脂は含まれない。
【0109】
{(d)着色剤}
本発明の樹脂組成物には、染料、顔料等の(d)着色剤を配合してもよい。
染料としては、アントラキノン系、インジゴイド系、ペリレン系、ペリノン系、アゾ系、メチン系、フタロシアニン系などの油溶性染料や分散染料を好ましく用いることができる。
顔料としては、無機顔料と有機顔料のいずれも好ましく用いることができる。無機顔料には、酸化物、硫化物、硫酸塩、カーボンブラックなどを挙げることができる。有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、ジオキサジン系などを挙げることができる。
(d)着色剤の配合量は、(a)ポリエステル樹脂100重量部に対し、好ましくは0.005〜5重量部、より好ましくは0.01〜1重量部である。
【0110】
{その他の添加剤}
本発明の樹脂組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、他の添加剤を配合してもよい。他の添加剤としては、酸化防止剤、難燃剤、耐熱安定剤、滑剤、離型剤、触媒失活剤、結晶核剤、結晶化促進剤等を挙げることができる。これらの添加剤は、(a)ポリエステル樹脂の重合途中又は重合後に添加することができる。さらに、(a)ポリエステル樹脂に所望の性能を付与するため、紫外線吸収剤、耐候安定剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤、耐衝撃性改良剤等を配合してもよい。また、前記ガラス繊維以外の強化充填材を配合することもできる。
【0111】
酸化防止剤は、本発明の樹脂組成物の耐熱老化性をより効果的に改良し、色調、引張強度、伸度などの保持率をより向上させる効果を有する。該酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、及びリン系酸化防止剤より選ばれる1種以上の酸化防止剤を配合することが好ましい。
酸化防止剤の配合量は、合計配合量が(a)ポリエステル樹脂100重量部に対し、好ましくは0.001〜1.5重量部であり、より好ましくは0.03〜1重量部である。
【0112】
フェノール系酸化防止剤とは、フェノール性ヒドロキシル基を有する酸化防止剤をいい、なかでも、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく用いられる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤とは、フェノール性ヒドロキシル基が結合した芳香環の炭素原子に隣接する1個又は2個の炭素原子が、炭素原子数4以上の置換基により置換されている酸化防止剤をいう。炭素原子数4以上の置換基は、芳香環の炭素原子と炭素−炭素結合により結合していてもよく、炭素以外の原子を介して結合していてもよい。
【0113】
フェノール系酸化防止剤としては、p−シクロヘキシルフェノール、3−t−ブチル−4−メトキシフェノール、4,4’−イソプロピリデンジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等の非ヒンダードフェノール系酸化防止剤、2−t−ブチル−4−メトキシフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、4−ヒドロキシメチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、スチレン化フェノール、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(6−t−ブチル−4−エチルフェノール)、2,2’−メチレンビス[4−メチル−6−(1,3,5−トリメチルヘキシル)フェノール]、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−3−t−ブチル−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、1,1,3−トリス[2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル]ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス[3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル]ベンゼン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、トリス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル]イソシアヌレート、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、チオビス(β−ナフトール)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤などが挙げられる。特に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、それ自体安定ラジカルとなり易いためにラジカルトラップ剤として好適に使用することができる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の分子量は、通常200以上、好ましくは500以上であり、その上限は通常3000である。
フェノール系酸化防止剤の配合量は、(a)ポリエステル樹脂100重量部に対し、好ましくは0.001〜1.5重量部であり、より好ましくは0.03〜1重量部である。酸化防止剤の配合量を0.001重量部以上とすることにより、酸化防止効果がより良好に発揮され、酸化防止剤の配合量を1.5重量部以下とすることにより、酸化熱安定性が悪化するのをより抑止するとともに、溶融混練時の樹脂の分解をより起こりにくくすることが可能になる。
【0114】
本発明におけるイオウ系酸化防止剤とは、イオウ原子を有する酸化防止剤をいい、例えば、ジドデシルチオジプロピオネート、ジテトラデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)、チオビス(N−フェニル−β−ナフチルアミン)、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、テトラメチルチウラムジサルファイド、ニッケルジブチルジチオカルバメート、ニッケルイソプロピルキサンテート、トリラウリルトリチオホスファイト等が挙げられる。特に、チオエーテル構造を有するチオエーテル系酸化防止剤は、酸化された物質から酸素を受け取って還元するため、好適に使用することができる。
イオウ系酸化防止剤の分子量は、通常200以上、好ましくは500以上であり、その上限は通常3000である。
【0115】
本発明におけるリン系酸化防止剤とは、リン原子を有する酸化防止剤をいい、P(OR)構造を有する酸化防止剤であることが好ましい。ここで、Rは、アルキル基、アルキレン基、アリール基、アリーレン基などであり、3個のRは同一でも異なっていてもよく、任意の2個のRが互いに結合して環構造を形成していてもよい。
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0116】
イオウ系酸化防止剤及び/又はリン系酸化防止剤は、樹脂組成物の耐熱老化性を改良し、色調、引張強度、伸度などの保持率を向上させる効果を有する。本発明のPBT樹脂組成物において、イオウ系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤の配合量は、(a)ポリエステル樹脂100重量部に対し、好ましくは0.001〜1.5重量部であり、より好ましくは0.03〜1重量部である。酸化防止剤の配合量を0.001重量部以上とすることにより、酸化防止効果がより良好に発揮され、酸化防止剤の配合量を1.5重量部以下とすることにより、酸化熱安定性が悪化するのをより抑止するとともに、溶融混練時の樹脂の分解をより起こりにくくすることが可能になる。
【0117】
難燃剤としては、特に制限されず、例えば、有機ハロゲン化合物、アンチモン化合物、リン化合物、その他の有機難燃剤、無機難燃剤などが挙げられる。有機ハロゲン化合物としては、例えば、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化ポリフェニレンエーテル樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化ビスフェノールA、ペンタブロモベンジルポリアクリレートが挙げられる。アンチモン化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダが挙げられる。リン化合物としては、例えば、リン酸エステル、ポリリン酸、ポリリン酸アンモニウム、赤リン等が挙げられる。その他の有機難燃剤としては、例えば、メラミン、シアヌール酸などの窒素化合物が挙げられる。その他の無機難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ素化合物、ホウ素化合物が挙げられる。
これらの難燃剤の配合量は、(a)ポリエステル樹脂100重量部に対し、好ましくは0.1〜50重量部である。難燃剤の配合量を0.1重量部以上とすることにより、難燃性をより効果的に発現することができ、50重量部以下にすることにより、物性、特に機械的強度をより高く保つことができる。
【0118】
本発明のポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を配合することができる。これらの熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂は、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
これらの樹脂の配合量は、(a)ポリエステル樹脂100重量部に対し、好ましくは0.1〜50重量部である。
【0119】
ガラス繊維以外の強化充填材は、特に定めるものではなく、繊維状、板状、粒状物及びこれらの混合物を広く採用できる。
繊維状物としては、例えば、カーボン繊維、シリカアルミナ繊維、ジルコニア繊維、ホウ素繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素チタン酸カリウム繊維、金属繊維などの無機繊維、芳香族ポリアミド繊維、フッ素樹脂繊維などの有機繊維が挙げられる。
板状物としては、例えば、ガラスフレーク、雲母、金属箔が挙げられる。
粒状物としては、例えば、セラミックビーズ、ワラストナイト、タルク、クレー、マイカ、ゼオライト、カオリン、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが挙げられる。
【0120】
[樹脂組成物の製造方法及び成形方法]
本発明の樹脂組成物は、前述の必須成分と、必要に応じて添加されるその他の付加的成分を混合することにより製造される。
【0121】
前記の種々の添加剤や樹脂の配合方法は、特に制限されないが、ベント口から脱揮できる設備を有する1軸又は2軸の押出機を混練機として使用する方法が好ましい。各成分は、付加的成分を含めて、混練機に一括して供給してもよいし、順次供給してもよい。また、付加的成分を含めて、各成分から選ばれた2種以上の成分を予め混合しておいてもよい。
【0122】
本発明の樹脂組成物の成形加工方法は、特に制限されず、熱可塑性樹脂について一般に使用されている成形法、すなわち、射出成形、中空成形、押し出し成形、プレス成形などの成形法を適用することができる。この場合、特に好ましい成形方法は、流動性の良さから、射出成形である。射出成形に当たっては、樹脂温度を240〜280℃にコントロールするのが好ましい。
【0123】
[光線透過率]
本発明のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物は、これを厚み1.5mm±0.1mmの成形品としたとき、波長960nmの光のその厚み方向の光線透過率が10%以上であることを特徴とする。この光線透過率は高い程好ましく、より好ましくは12%以上、特に好ましくは15%以上、とりわけ好ましくは18%以上である。
光線透過率がこのように高いことによって、レーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物としての用途において、レーザー光透過率が高く、効率的なレーザー溶着を行えることから、優れたレーザー溶着性を得ることができる。
【0124】
[レーザー溶着成形品]
本発明の樹脂組成物は、レーザー溶着特性ポリエステル樹脂材料として使用される。特に、本発明の樹脂組成物を用いることにより、少なくとも一方にこの樹脂組成物を用いた部材同士を強固に接着させることができ、2以上の樹脂部材を有する成形品を製造するのに好ましく用いることができる。
【0125】
部材の形状は特に制限されないが、部材同士をレーザー溶着により接合して用いるため、通常、少なくとも面接触箇所(平面、曲面)を有する形状である。
【0126】
レーザー溶着では、レーザー透過性のある部材を透過したレーザー光が、レーザー吸収性のある部材に吸収されて、溶融し、両部材が溶着される。本発明の樹脂組成物は、レーザー光に対する透過性が高いので、レーザー光が透過する部材として好ましく用いることができる。ここで、該レーザーが透過する部材の厚み(レーザー光が透過する方向の厚み)は、用途、組成物の組成その他を勘案して、適宜定めることができるが、例えば5mm以下であり、好ましくは4mm以下である。なお、この厚みの下限については、溶着物の強度を確保するために、通常0.1mm以上である。
【0127】
本発明のレーザー溶着に用いるレーザー光源としては、例えば、Arレーザ(510nm)、He−Neレーザー(630nm)、COレーザー(10600nm)などの気体レーザー、色素レーザー(400〜700nm)などの液体レーザー、YAGレーザー(1064nm)などの固体レーザーや、半導体レーザー(655〜980nm)等が利用できる。ビーム品質、コストの点で、半導体レーザーが好ましく用いられる。また、溶着相手材の種類によって、適宜レーザー種を選択することもできる。
【0128】
より具体的には、例えば、本発明の樹脂組成物(I)からなる部材とレーザー吸収性を有する樹脂組成物(II)からなる部材を溶着する場合、まず、両者の溶着する箇所同士を相互に接触させる。この時、両者の溶着箇所は面接触が望ましく、平面同士、曲面同士、又は平面と曲面の組み合わせであってもよい。次いで、本発明の樹脂組成物(I)からなる部材側からレーザー光を照射(好ましくは接着面に垂直に照射)する。この時、必要によりレンズ系を利用して両者の界面にレーザー光を集光させてもよい。その集光ビームは本発明の樹脂組成物(I)からなる部材中を透過し、レーザー吸収性を有する樹脂組成物(II)からなる部材の表面近傍で吸収されて発熱し溶融する。次にその熱は熱伝導によって本発明の樹脂組成物(I)からなる部材側にも伝わって溶融し、両者の界面に溶融プールを形成し、冷却後、両者が接合する。
このようにして部材同士を溶着された成形品は、高い接合強度を有する。尚、本発明における成形品とは、少なくとも2以上の部材を溶着されたものをいい、完成品や部品の他、これらの一部分を成す部材も含む趣旨である。
【0129】
尚、レーザー吸収性を有する樹脂組成物(II)からなる部材は、少なくとも樹脂を含み、且つ、本発明の樹脂組成物からなる部材と溶着可能なものであれば特に制限されない。樹脂組成物(II)に含まれる樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましく、例えば、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂などが挙げられ、相溶性が良好な点から、特にポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂が好ましく用いられる。また、樹脂組成物(II)は1種又は2種以上の樹脂から構成されていてもよい。さらにまた、本発明の樹脂組成物にレーザー吸収性付与のための成分を配合したものであってもよい。
【0130】
また、樹脂組成物(II)に含まれる樹脂は、照射するレーザー光波長の範囲内に吸収波長を持つものも好ましい。さらに、樹脂組成物(II)に、光吸収剤、例えば着色顔料等を添加含有させることにより、その吸収特性を発現させてもよい。前記着色顔料としては、例えば、無機顔料{カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなど)などの黒色顔料、酸化鉄赤などの赤色顔料、モリブデートオレンジなどの橙色顔料、酸化チタンなどの白色顔料}、有機顔料(黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料など)などが挙げられる。なかでも、無機顔料は一般に隠ぺい力が強く、レーザー吸収側の樹脂組成物(II)により好ましく用いることができる。これらの光吸収剤は単独でも2種以上組み合わせて使用してもよい。
光吸収剤の配合量は、樹脂成分100重量部に対し0.01〜1重量部であることが好ましい。
【0131】
本発明で得られた一体成形品は、高い溶着強度を有し、レーザー光照射による樹脂の損傷も少ないため、種々の用途、例えば、電気・電子部品、オフィスオートメート(OA)機器部品、家電機器部品、機械機構部品、自動車機構部品などに適用できる。特に、自動車電装部品(各種コントロールユニット、イグニッションコイル部品など)、モーター部品、各種センサー部品、コネクター部品、スイッチ部品、リレー部品、コイル部品、トランス部品、ランプ部品などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0132】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0133】
[各種測定方法]
(1)PBT樹脂中の含有チタン濃度
電子工業用高純度硫酸及び硝酸でPBT樹脂を湿式分解し、高分解能ICP(Inducti
vely Coupled Plasma)−MS(Mass Spectrometer)(サーモクエスト社製)を使用して測定した。
【0134】
(2)固有粘度(IV)
ウベローデ型粘度計を使用し次の要領で求めた。即ち、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃において、濃度1.0g/dLのポリマー溶液及び溶媒のみの落下秒数を測定し、次式より求めた。
[IV]=((1+4KHηsp)0.5−1)/(2KHC)
上記式中、ηsp=(η/η0)−1であり、ηはポリマー溶液落下秒数、η0は溶媒の落下秒数、Cはポリマー溶液濃度(g/dL)、KHはハギンズの定数である。KHは0.33を採用した。
【0135】
(3)末端カルボキシル基濃度
ベンジルアルコール25mLにPBT樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.0
1mol/Lベンジルアルコール溶液を使用して滴定した。
【0136】
(4)溶液ヘイズ(溶液Haze)
フェノール/テトラクロロエタン=3/2(重量比)の混合溶媒20mLにPBT樹脂2.70gを110℃で30分間溶解させた後、30℃の恒温水槽で15分間冷却し、日本電色(株)製濁度計(NDH−300A)を使用し、セル長10mmで測定した。値が低いほど透明性が良好であることを示す。
【0137】
(5)軟化点
JIS K7234に準拠した環球法による軟化点とした。
【0138】
(6)光線透過率
射出成形機(住友重機械(株)製:型式SE−50D)を使用し、シリンダー温度250℃、金型温度80℃で成形した、表1の実施例1〜5及び比較例1〜7に示した組成の樹脂組成物それぞれからなる13mm×128mm、厚さ1.5mmの平板を作製した。これらの平板について、それぞれ、可視・紫外分光光度計(島津製作所製:UV−3100PC)で光線透過率を測定した。光線透過率は、近赤外領域波長960nmの透過光強度と入射光強度の比を、それぞれ百分率で表した。
【0139】
(7)レーザー溶着強度試験
図1に示すように試験片を重ね合わせ、レーザー照射を行った。図1中、(a)は試験片を側面から見た図を、(b)は試験片を上方から見た図をそれぞれ示している。また、図1中、1は上記(6)で作製した試験片を、2は接合する相手材である樹脂組成物(II)からなる試験片(上記(6)と同様に作製したもの)を、3はレーザー照射箇所を、それぞれ示している。
光線透過率測定で使用した試験片1(13mm×128mm、厚み1.5mmの平板)をレーザー透過側、樹脂組成物(II)からなる試験片2をレーザー吸収側として重ね合わせ、透過側からレーザーを照射した。レーザー溶着装置は、一括照射タイプの日本エマソン社製 IRAM−300、レーザー光波長は960nm、溶着スポットは3mm×6mm、圧力は4.8MPaでレーザーを照射した。レーザー照射時間は、試験片1がガラス繊維を含まない場合は、11sec、ガラス繊維を含む場合は、15secとした。
レーザー溶着強度測定は、引張試験機(インストロン社製5544型)を使用し、引張速度は5mm/minで評価した。引張強度は、溶着部の引張剪断破壊強度で示した。
【0140】
(8)引張強度試験
射出成形機(住友重機械(株)製:型式SG−75MIII)を使用し、シリンダー温度250℃、金型温度80℃にて、表1の実施例1〜5及び比較例1〜7に示した組成の樹脂組成物それぞれからなるISO試験片を作製した。該ISO試験片について、ISO527に準拠し引張強度の測定を行った。
【0141】
(9)引張強度保持率
上記ISO試験片を、温度121℃の飽和水蒸気中、圧力203kPaで、ISO試験片がガラス繊維を含まない場合は60時間、ISO試験片がガラス繊維を含む場合は100時間湿熱処理した。処理前後のISO試験片について、ISO527に準拠し引張強度の測定を行った。また、次式に従い、引張強度保持率を求めた。
引張強度保持率(%)=(処理後の引張強度/処理前の引張強度)×100
【0142】
[樹脂組成物の原材料]
(a)ポリエステル樹脂
(a1)ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)
特開2004−307794号公報の段落番号0081〜0083及び図1に示されるエステル化工程、ならびに、同公報の段落番号0087及び図4に示される重縮合工程に従い、次の要領でPBT樹脂を製造した。
先ず、テレフタル酸1.00molに対して、1,4−ブタンジオール1.80molの割合で混合した60℃のスラリーをスラリー調製槽から原料供給ラインを通じ、予め、エステル化率99%のPBTオリゴマーを充填したスクリュー型攪拌機を有するエステル化のための反応槽に、41kg/1時間(以下、「h」と示す)となる様に連続的に供給した。
同時に、再循環ラインから185℃の精留塔の塔底成分を17.2kg/hで供給し、触媒供給ラインから触媒として65℃のテトラブチルチタネート6.0重量%含有1,4−ブタンジオール溶液を97g/hで供給した。この供給量は、理論ポリマー収量に対し30ppmである。この溶液中の水分は0.20重量%であった。
【0143】
反応槽の内温は230℃、圧力は78kPaとし、生成する水とテトラヒドロフラン及び余剰の1,4−ブタンジオールを、留出ラインから留出させ、精留塔で高沸成分と低沸成分とに分離した。系が安定した後の塔底の高沸成分は、98重量%以上が1,4−ブタンジオールであり、精留塔の液面が一定になる様に、抜出ラインを通じてその一部を外部に抜き出した。一方、低沸成分は塔頂よりガスの形態で抜き出し、コンデンサで凝縮させ、タンクの液面が一定になる様に、抜出ラインより外部に抜き出した。
【0144】
反応槽で生成したオリゴマーの一定量は、ポンプを使用し、抜出ラインから抜き出し、反応槽内液の平均滞留時間が3.3時間になる様に液面を制御した。抜出ラインから抜き出したオリゴマーは、第1重縮合反応槽に連続的に供給した。系が安定した後、反応槽の出口で採取したオリゴマーのエステル化率は97.5%であった。
【0145】
第1重縮合反応槽の内温は240℃、圧力2.1kPaとし、滞留時間が120分になる様に液面制御を行った。減圧機に接続されたベントラインから、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、初期重縮合反応を行った。抜き出した反応液は第2重縮合反応槽に連続的に供給した。
【0146】
第2重縮合反応槽の内温は245℃、圧力130Paとし、滞留時間が90分になる様に液面制御を行い、減圧機に接続されたベントラインから、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、さらに重縮合反応を進めた。得られたポリマーは、抜出用ギヤポンプにより抜出ラインを経由し、ダイスヘッドからストランド状に連続的に抜き出し、回転式カッターでカッティングした。
【0147】
得られたポリマーの(1)含有チタン濃度は30ppm、(2)固有粘度(IV)は0.85dL/g、(3)末端カルボキシル基濃度は12.2μeq/g、(4)溶液ヘイズは0.3%であった。異物が少なく、色調に優れ、透明性が良好で熱安定性に優れたPBT樹脂が得られた。
【0148】
(a2)ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)
タービン型攪拌翼を具備した内容積200Lのステンレス製反応容器に、テレフタル酸272.9mol、1,4−ブタンジオール491.3mol、テトラブチルチタネート0.126mol(チタン量として理論収量ポリマー当たり100ppm)を仕込み十分窒素置換させた。続いて、系を昇温し、60分後に温度220℃、圧力80kPaに到達させ、生成する水及びTHF、余剰の1,4−ブタンジオールを系外に留出させながら、2.0時間エステル化反応させた。尚、反応開始時間は、所定温度、所定圧力に達した時点とした。この時点で一部試料を採取しエステル化率を測定したところ、99%であった。
【0149】
ベント管及びダブルヘリカル型攪拌翼を有する内容積200Lのステンレス製反応器に、上記で得られたオリゴマーを移送した後、温度245℃、圧力100Paまで60分かけて到達させ、その状態のまま1.5時間重縮合反応を行った。反応終了後、ポリマーをストランド状に抜き出し、ペレット状に切断した。
得られたポリマーの(1)含有チタン濃度は100ppm、(2)固有粘度は0.85dL/g、(3)末端カルボキシル基濃度は44.5μeq/g、(4)溶液ヘイズは0.4%であった。
【0150】
(b)ガラス繊維
アミノ系シランカップリング剤とグリシジルエーテル系エポキシ樹脂を含む表面処理剤が付着したガラス繊維は、以下の方法に従って作製した。
具体的には、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン1重量%、ビスフェノールAジグリシジルエーテル4重量%、ウレタン系エマルジョン2重量%及び脱イオン水93重量%からなる表面処理剤を作製し、これを、平均繊維径13μm、屈折率(nd)1.555(23℃)のガラス繊維フィラメントに塗布し、乾燥した。このストランドを長さ3mmに切断した。得られたガラス繊維チョップドストランドに対するアミノ系シランカップリング剤(γ−アミノプロピルトリエトキシシラン)の付着量は0.1重量%、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテル)の付着量は0.4重量%であった。
【0151】
(c)エポキシ樹脂
(c1)ビスフェノールAジグリシジルエーテル:ジャパンエポキシレジン社製、「商品名:エピコート1003」、エポキシ当量670〜770g/eq.、軟化点89℃
(c2)o-クレゾールノボラック型エポキシ化合物:東都化成社製、「商品名:YDCN−704」、エポキシ当量208g/eq.、軟化点92℃
(c3)ビスフェノールAジグリシジルエーテル(ジャパンエポキシレジン社製、「商品名:エピコート828」)100重量部に対し、酸無水物系硬化剤(ジャパンエポキシレジン社製、「商品名:YH307」)を110重量部添加した混合物を80℃で3時間硬化させた後、150℃で6時間後硬化させて製造した硬化物の粉砕品(粒子径200μm以下)
【0152】
(d)着色剤
メチン系油溶性染料ベースの着色剤とポリブチレンテレフタレート樹脂を配合して製造された熱可塑性樹脂マスターバッチ(オリヱント化学工業社製「商品名:eBIND LTW−8950C」
【0153】
酸化防止剤:ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製「商品名:Irganox1010」
【0154】
[樹脂組成物(II)]
比較例3の樹脂組成物に、カーボンブラックを(a1)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し0.6重量部配合したものを用いた。
【0155】
[実施例1〜5、比較例1〜7]
(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、(c)エポキシ樹脂、(d)着色剤及び酸化防止剤を表1に示した比率となるよう配合し、タンブラーで20分混合した。シリンダー温度を250℃に設定した2軸押出機(日本製鋼所社製:TEX30C、バレル9ブロック構成)を用い、得られた原料混合物をホッパーへ供給し溶融混練した。(b)ガラス繊維を配合する場合は、ホッパーから数えて5番目のブロックからサイドフィード方式で供給し、溶融混練した。得られた樹脂組成物を用い、上述した評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0156】
【表1】

【0157】
表1より、(b)樹脂被覆されたガラス繊維と(c)エポキシ樹脂を添加することにより、樹脂組成物のレーザー透過性、機械強度、耐加水分解性が良好となり、溶着強度が向上することが分かる。
このように、本発明の樹脂組成物を使用することにより、他の部材と容易に強固なレーザー溶着が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、レーザー透過性、溶着強度等のレーザー溶着特性に優れているため、特に、車両用電装部品、センサー部品、コネクター部品など電気回路を密封する製品などに好適に用いることが可能である。
また、本発明のポリエステル樹脂組成物を用いることにより、部材同士がより強固に接着した成形品を提供することが可能になる。
このような成形品は工業的に広く利用され、その利用価値は極めて高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】図1は、本発明の実施例におけるレーザー溶着強度試験方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0160】
1 試験片1
2 試験片2
3 レーザー照射箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリエステル樹脂と、(b)樹脂被覆されたガラス繊維と、(c)エポキシ樹脂とを配合してなるレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物であって、該樹脂組成物からなる厚み1.5mmの成形品の、波長960nmにおける光線透過率が10%以上である、レーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
(a)ポリエステル樹脂100重量部に対し、(b)樹脂被覆されたガラス繊維0.1〜100重量部と、(c)エポキシ樹脂0.1〜100重量部とを配合してなるレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、(d)着色剤を配合してなる、請求項1又は2に記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記(a)ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレート樹脂である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂が、チタン化合物を触媒として得られ、かつ、その含有チタン濃度がチタン原子として90ppm以下である、請求項4に記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基濃度が40μeq/g以下である、請求項4又は5に記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
前記(b)樹脂被覆されたガラス繊維が、アミノ系シランカップリング剤とグリシジルエーテル系エポキシ樹脂で処理されたガラス繊維である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
前記(b)樹脂被覆されたガラス繊維のガラス繊維が、23℃で1.55以上の屈折率を有するガラスからなり、その平均繊維径が20μm以下である、請求項1ないし7のいずれか1項に記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項9】
前記(c)エポキシ樹脂が、フェノール類とエピクロルヒドリンを原料とするグリシジルエーテル系エポキシ樹脂である、請求項1ないし8のいずれか1項に記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項10】
前記(c)エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物及びo−クレゾールノボラック型エポキシ化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項9に記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項11】
レーザー透過側の部材に用いられる、請求項1ないし10のいずれか1項に記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項に記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物(I)からなる部材と、レーザー吸収性を有する樹脂組成物(II)からなる部材を、前記樹脂組成物(I)からなる部材側からレーザー光を照射して溶着させてなる、成形品。
【請求項13】
請求項1ないし11のいずれか1項に記載のレーザー溶着用ポリエステル樹脂組成物(I)からなる部材と、レーザー吸収性を有する樹脂組成物(II)からなる部材を、前記樹脂組成物(I)からなる部材側からレーザー光を照射して溶着させる工程を含む成形品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−19133(P2009−19133A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−183352(P2007−183352)
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】