説明

レーザー溶着用光吸収樹脂組成物及び光吸収樹脂成形体、並びに光吸収樹脂成形体の製造方法

【課題】従来の有機系光吸収剤にはない熱安定性を持ち、従来のカーボン系光吸収剤では得られないレーザー溶着後の透明性と透光性をプラスチック部材に与えるレーザー溶着用光吸収樹脂組成物及び光吸収樹脂成形体を提供する。
【解決手段】30℃以上のガラス転移温度を持つ高分子分散剤と、レーザー光吸収微粒子とを含有するレーザー溶着用光吸収樹脂組成物であって、レーザー光吸収微粒子が、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、窒化バナジウム、窒化ニオブ、窒化タンタルから選択される窒化物微粒子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック部材をレーザー溶着法で接合させる際に用いるレーザー溶着用光吸収樹脂組成物及び光吸収樹脂成形体、並びに光吸収樹脂成形体の製造方法に関する。より詳しくは、従来の有機系光吸収剤にはない熱安定性を持ち、従来のカーボン系光吸収剤では得られないレーザー溶着後の透明性と透光性をプラスチック部材に与えるレーザー溶着用光吸収樹脂組成物及び光吸収樹脂成形体、並びに光吸収樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱可塑性樹脂の接合方法としてレーザー溶着法が適用される機会が増えている。これは、当該レーザー溶着法を用いると、細かく複雑な接合界面を持つ部材でも、無振動で容易に安定した接合ができ、バリや煙の発生もなく、接合品の外観が向上すると共に接合部の設計自由度が広がるなどの利点を有することによるものと考えられる。
【0003】
レーザー溶着法においては、通常、接合したいプラスチック部材の一方が光透過性樹脂成形体、もう一方がレーザー光を吸収して熱を発生する光吸収樹脂成形体で構成されている。
【0004】
このプラスチック部材へ、光透過性樹脂成形体の側からレーザー照射をおこなうと、まず光吸収樹脂成形体が溶解し、次に、当該溶解した光吸収樹脂成形体周辺から光透過性樹脂成形体の側へ熱が伝達されて溶解が起こり接合がなされる。
【0005】
レーザー光源としては、波長1064nmのNd:YAGレーザーや、波長が800〜1000nmである半導体レーザーが主として使用されるため、波長800〜1200nmの近赤外線の波長を効率よく吸収する材料が光吸収樹脂組成物として用いられる。
【0006】
上記光吸収樹脂組成物には、有機系のフタロシアニン系化合物、シアニン系化合物、アミニウム系化合物、イモニウム系化合物、スクオリウム系化合物、ポリメチン系化合物、アントラキノン系化合物、アゾ系化合物、または、無機系ではカーボンブラックを含有する樹脂組成物が知られている(特許文献1参照)。
【0007】
また、特許文献2では、光吸収樹脂組成物として、レーザーに対する感度を向上させるため、芳香環を有するホスホン酸銅とともに、金属の単体、塩、酸化物、水酸化物等を添加したものが提案されている。上記金属の酸化物として具体的には、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化コバルト、酸化鉛、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化マンガン、酸化モリブテン、酸化ニッケル、酸化銅、酸化パラジウム、酸化ランタン、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、インジウムドープ酸化スズ(ITO)等を含有する樹脂組成物が提示されている。
【0008】
また、特許文献3では、レーザー波長域の光吸収能を有する無機系材料として、錫添加酸化インジウム(ITO)、アンチモン添加錫酸化物(ATO)を添加した光吸収樹脂組成物が提案されている。
【特許文献1】特開2004−148800号公報
【特許文献2】特開2005−290087号公報
【特許文献3】国際公開WO2005/084955 A1号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載の有機系の光吸収樹脂組成物(レーザー光吸収材料)は、一般に吸収波長幅が狭く、十分な発熱を得るためには比較的多くの添加量を必要とする。また熱安定性に劣るため、発熱と並行して分解が起こり、レーザー照射条件によっては、必ずしも均一安定な接合体を得られない場合がある。
【0010】
一方、特許文献1に記載の無機系のカーボン材料は熱安定性が高い。しかし、それ自身が可視光波長領域に持つ吸収のためにプラスチック部材が黒く着色し、透明なプラスチック接合部材を得たい場合や接合部の黒化を嫌う部材には不都合である。ところが、医療分野を始めとして、透明無着色となる接合への要求は益々強まっている。また、カーボンブラックは凝集しやすく、ホスト樹脂の中で分散状態にムラがあったり凝集が生じていると、レーザー光吸収による発熱が不均一になって溶着に部分的なムラを生じたり、部分的な発泡を生じたり、また溶着時間が長くなるなどの課題がある。
【0011】
特許文献2に記載の、芳香環を有するホスホン酸銅とともに、金属の単体、塩、酸化物、水酸化物等を添加した光吸収樹脂組成物は、レーザー光に対する感度が不十分であり、問題なく接合するためには、該組成物を大量に添加する必要がある。しかし、当該組成物の大量添加は、樹脂成形体自体の基本物性を変えてしまう可能性があり、機械的強度の低下を招くなどの問題を有していた。
【0012】
特許文献3に記載の錫添加酸化インジウム(ITO)、アンチモン添加錫酸化物(ATO)を添加した光吸収樹脂組成物は、透明性には優れるが、単位重量当りの赤外線吸収率はカーボンなどよりもはるかに低い。また1000nm以上の比較的長い波長の近赤外線から吸収が始まるため、半導体レーザーの波長800〜1000nmやNd:YAGレーザーの波長1064nmでの吸収は実質的に非常に弱いという問題がある。この為、適切なレーザー溶着を行なうには、プラスチック部材へ、該組成物を大量に添加する必要がある。しかし、当該組成物の大量添加は部材自体の基本物性を変えてしまうことに加えて、コスト的な制約も大きくなる。特にITOでは、資源的・価格的な問題が大きい。
【0013】
本発明は上述の事情を考慮してなされたものであり、その解決しようとする課題は、レーザー光により均一な発熱を生じて安定したレーザー溶着が可能であり、接合溶着部分が透明性を保持できるレーザー溶着用光吸収樹脂組成物、および、光吸収樹脂成形体、並びに、光吸収樹脂成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の課題を解決すべく本発明者らが研究を重ねた結果、レーザー溶着のための光吸収樹脂として求められる特性とは、
1.レーザーの波長域付近である近赤外線波長である800〜1200nmに亘って強い吸収を持ち、高い吸収係数を有すること、
2.可視光波長である380〜780nmにおける吸収が少ないこと、
3.ホスト樹脂に対する光吸収材料の溶解性または分散性が高いこと、
であることに想到した。
【0015】
そこで、本発明者らは、レーザー溶着用に用いるレーザー光の波長域である近赤外線波長800〜1200nmに亘って強い吸収を持ち、可視光では吸収が十分に少ないために透明性を保持でき、接合溶着部分が透明な概観を損なうことなく、レーザー光により均一な発熱を生じて安定したレーザー溶着が可能なレーザー溶着用光吸収樹脂組成物及び光吸収樹脂成形体、並びに光吸収樹脂成形体の製造方法の研究を行った。
【0016】
当該研究の結果、本発明者等は、30℃以上のガラス転移温度を持つ高分子分散剤とレーザー光吸収微粒子とを含有するレーザー溶着用光吸収樹脂組成物において、レーザー光吸収微粒子として、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、窒化バナジウム、窒化ニオブ、窒化タンタルから選択される少なくとも1種の窒化物微粒子を用いることによって、Nd:YAGレーザーや半導体レーザーの波長範囲の光を強く吸収してレーザー溶着を容易にする一方、可視光域の波長の光を透過して物体の透明性を保持できるレーザー溶着用光吸収樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に至った。
【0017】
これら、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、窒化バナジウム、窒化ニオブ、窒化タンタルから選択される少なくとも1種の窒化物微粒子は、自由電子を多量に持ち、プラズモン励起の波長が近赤外域にあることで、上記特性を発揮していると考えられる。
【0018】
すなわち、
第1の構成は、
30℃以上のガラス転移温度を持つ高分子分散剤と、レーザー光吸収微粒子とを含有するレーザー溶着用光吸収樹脂組成物であって、
上記レーザー光吸収微粒子が、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、窒化バナジウム、窒化ニオブ、窒化タンタルから選択される少なくとも1種の窒化物微粒子であることを特徴とするレーザー溶着用光吸収樹脂組成物である。
【0019】
第2の構成は、
前記窒化物微粒子の平均粒径が1000nm以下であることを特徴とする第1の構成に記載のレーザー溶着用光吸収樹脂組成物である。
【0020】
第3の構成は、
第1または第2の構成のいずれかに記載のレーザー溶着用光吸収樹脂組成物が、当該レーザー溶着用光吸収樹脂組成物に含まれている高分子分散剤と熱可塑性樹脂により希釈され混練されて成形された光吸収樹脂成形体であって、
当該光吸収樹脂成形体の表面層であって表面から3mm以下の領域における窒化物微粒子の含有量が、0.001g/m2以上、0.4g/m2以下であることを特徴とする光吸収樹脂成形体である。
【0021】
第4の構成は、
第1または第2の構成のいずれかに記載のレーザー溶着用光吸収樹脂組成物が、当該レーザー溶着用光吸収樹脂組成物に含まれている高分子分散剤と熱可塑性樹脂、により希釈され混練されて成形された光吸収樹脂成形体であって、
当該成形された光吸収樹脂成形体の形状が、板状またはフィルム状であることを特徴とする光吸収樹脂成形体である。
【0022】
第5の構成は、
上記熱可塑性樹脂が、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、フッ素樹脂の群から選択される1種以上の樹脂であることを特徴とする第3または第4の構成のいずれかに記載の光吸収樹脂成形体である。
【0023】
第6の構成は、
第1または第2の構成のいずれかに記載の光吸収樹脂組成物が、バインダーによって希釈されて基材の表面にコーティングされていることを特徴とする光吸収樹脂成形体である。
【0024】
第7の構成は、
第3から第6の構成のいずれかに記載の光吸収樹脂成形体が、波長500〜1000nmに吸収の極大値を有することを特徴とする光吸収樹脂成形体である。
【0025】
第8の構成は、
30℃以上のガラス転移温度を持つ高分子分散剤と、レーザー光吸収微粒子とを含有するレーザー溶着用光吸収樹脂組成物が、当該レーザー溶着用光吸収樹脂組成物に含まれている高分子分散剤と熱可塑性樹脂により希釈され混練されて成形された光吸収樹脂成形体の製造方法であって、
当該レーザー光吸収微粒子が、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、窒化バナジウム、窒化ニオブ、窒化タンタルから選択される少なくとも1種の窒化物微粒子である光吸収樹脂組成物を、当該高分子分散剤と熱可塑性樹脂を用いて、当該光吸収樹脂成形体の表面層であって表面から3mm以下の領域における窒化物微粒子の含有量が、0.001g/m2以上、0.4g/m2以下となるように希釈し、混練し成形して光吸収樹脂成形体を製造することを特徴とする光吸収樹脂成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、30℃以上のガラス転移温度を持つ高分子分散剤とレーザー光吸収微粒子とを含有するレーザー溶着用光吸収樹脂組成物は、レーザー光吸収微粒子として、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、窒化バナジウム、窒化ニオブ、窒化タンタルから選択される少なくとも1種の窒化物微粒子を用いており、またこれらの微粒子が高分子分散剤中に高度に分散した固形粉末状の形状を有している。
【0027】
上記構成を有する結果、本レーザー溶着用光吸収樹脂組成物は、容易にレーザー光吸収樹脂成形体に成形でき、Nd:YAGレーザーや半導体レーザーの波長範囲の光を強く吸収してレーザー溶着を容易に実施できる一方、可視光域の波長の光をほぼ透過して物体の透明性を保持でき、着色が少なく透明な溶着界面を得ることができるため、レーザー溶着の適用範囲が増え、且つ、熱安定性に優れるため、安定したプラスチック間の接合を提供でき、工業的に極めて有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0029】
本実施形態の、30℃以上のガラス転移温度を持つ高分子分散剤とレーザー光吸収微粒子とを含有するレーザー溶着用光吸収樹脂組成物は、レーザー光吸収微粒子が、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、窒化バナジウム、窒化ニオブ、窒化タンタルから選択される少なくとも1種の窒化物微粒子であることを特徴としている。
【0030】
本実施形態のレーザー光吸収微粒子は、レーザー光波長域の光を吸収する機能を有する無機微粒子であり、自由電子を大量に保有してプラズマ共鳴振動を生ずる微粒子である。レーザー光が上記微粒子に入射するとその光の振動数に応じて自由電子が励起されて電子の集合的振動が生じ、エネルギーが吸収・輻射される。この時の吸収波長は自由電子密度や電子の有効質量に依存しており、微粒子の種類によっては、Nd:YAGレーザーや半導体レーザー光の波長範囲800〜1200nmの近傍にプラズマ吸収波長を持つものがある。エネルギー分解能の高い電子エネルギー損失分光法(EELS)を用いるとプラズモン励起によるエネルギー損失ピークを直接観測することが出来る。
【0031】
本実施形態のレーザー光吸収微粒子の具体例として、窒化チタンTiN、窒化ジルコニウムZrN、窒化ハフニウムHfN、窒化バナジウムVN、窒化ニオブNbN、窒化タンタルTaNなどの窒化物微粒子が挙げられる。これらの窒化物はNaCl型(B1型)の結晶構造を有する金属間化合物であるが、不定比化合物(ベルトライド化合物)としての特徴を持っており、例えば窒化チタンにおいては、TiNXで表記され、Xは0.8<X<1.16の広い範囲をとることが知られている。ナノ微粒子にしたときの近赤外線の吸収特性は、このような組成の不定比性の広い範囲において見られるので、本発明においては不定比性を含めたNaCl型の結晶構造を持つ窒化物を意味するものとする。
【0032】
また、本発明に使用される窒化物微粒子は、一部または全量がオキシ窒化物で代替されたものであっても良い。またこれらの窒化物微粒子は、その表面が酸化していないことが好ましいが、通常は僅かに酸化していることが多く、また微粒子の分散工程で表面の酸化が起こることはある程度避けられない。しかしその場合でも近赤外線の吸収効果を発現する有効性に変わりは無い。またこれらの窒化物微粒子は、結晶としての完全性が高いほど近赤外線の吸収効果が大きいが、結晶性が低くX線回折で極めてブロードな回折ピークを生じるようなものであっても、微粒子内部の基本的な原子の結合が各金属元素と窒素の結合から成り立っているものであるならば近赤外線の吸収効果を発現する。
上記レーザー光吸収微粒子は、十分微小なサイズで分散された時には、波長500〜1000nmに吸収の極大値を有している。極大値近傍の波長では、十分に大きい吸収係数を有するため、波長範囲800〜1200nmのレーザー光を十分吸収して発熱する。
【0033】
以上説明した窒化物微粒子は、単独で使用してもよいが、二種類以上を混合して使用することも好ましい。本発明者らの実験によればこれらの微粒子を十分細かく、かつ均一に分散した組成物においては、上記レーザー光吸収微粒子が、波長500〜1000nmに吸収の極大値を有していることから、極大値近傍の波長では、十分に大きい吸収係数を有するため、波長範囲800〜1200nmのレーザー光を十分吸収して発熱する。
【0034】
可視光波長が380〜780nmであり、視感度が波長550nm付近をピークとする釣鐘型であることを考慮すると、このような膜では可視光を有効に透過し、それ以外の波長の光を有効に吸収することが理解できる。
【0035】
本実施形態で使用するレーザー光吸収微粒子の粒径は、レーザー光吸収成分として機能するかぎり任意であるが、好ましくは1000nm以下、より好ましくは200nm以下がよい。粒子径が1000nm以下であれば、微粒子若しくは微粒子が凝集した粗大凝集粒子が、成形した光吸収樹脂成形体の光散乱源とならず、レーザー溶着後の透明成形体が曇らず透明に見えるからである。また、粒子径が1000nm以下であればレーザー光吸収能そのものの減衰が少ないため、粒子径は1000nm以下が好ましい。
【0036】
本実施形態で使用するレーザー光吸収微粒子は、可視光領域で完全に透明ではなく、微粒子の種類や粒子径、分散凝集の状態などに応じて幾分かの着色を有している。微粒子径をより小さく、また、より均一に分散することにより、微粒子による散乱光は軽減され、例えば平均微粒子径200nm以下に均一分散する場合には、Rayleigh散乱のモードになって、可視光で光を通さない黒色材料であってもその微粒子の集合体は可視光での透明性が生まれる。
【0037】
ホストとなる熱可塑性樹脂中における、レーザー光吸収微粒子の分散状態は、レーザー溶着用光吸収樹脂組成物の特性にとって極めて重要である。当該微粒子が凝集することなく十分に分散している時は、当該組成物の最終的な着色状態が均一になり、レーザー照射による発熱部位が均一になるので、溶着後の外観が良好なものになる。これに対し、ホストとなる熱可塑性樹脂中において、微粒子が十分に分散せず凝集している時は、最終的な着色状態が不均一になるだけではなく、レーザー照射による発熱部位が不均一になる。そして、当該発熱部位の不均一に起因して、レーザー溶着用光吸収樹脂組成物の局所部位が発泡したり、外観不良を生じたりする。
当該レーザー溶着用光吸収樹脂組成物における局所部位の発泡や外観不良を回避するため、以下の工程を採ることが好ましい。
(1)レーザー光吸収微粒子を分散剤と共に溶媒中に均一に分散した分散液を製造する。
(2)真空乾燥機、熱風乾燥機、ヘンシェルミキサーなどの加熱混合機を用いて、当該分散液から溶媒を加熱除去して、当該レーザー溶着用光吸収組成物を製造する。
(3)作製したレーザー溶着用光吸収組成物を、前記分散剤と熱可塑性樹脂により希釈、混練、成形して、目的とする光吸収樹脂成形体を製造する。
【0038】
ここで、本発明者らは、最終的に(3)の工程で得られる光吸収樹脂成形体におけるレーザー光吸収微粒子の分散状態が、(1)の工程の微粒子分散液の製造において得られる分散状態に大きく依存すること、および、(1)の工程の微粒子分散液中で実現した高度な分散状態を、ハンドリングの容易な固形粉末である(2)の工程で得られるレーザー溶着用光吸収組成物においても保持すること、が重要であることに想到した。
【0039】
そこで本発明者らは、(1)の工程の微粒子分散液の調製において、当該レーザー光吸収微粒子に適合した分散剤の検討を行った。多くの検討結果から、本発明者らは、当該分散剤としては、分子が短く、微粒子表面に付着しても立体的障害作用の効果が低い分散剤ではなく、分子が長く、微粒子表面に付着したとき、その立体的障害作用により、当該微粒子同士の凝集を防ぐ高分子分散剤が好適であることを見出した。
【0040】
さらに、上記高分子分散剤のガラス転移温度は、30℃以上であることが必要である。高分子分散剤のガラス転移温度が30℃以上であれば、(2)の工程にて溶媒除去した後、当該高分子分散剤がゼリー状に固まり、べたつくなどハンドリングに不便なものとなることを回避できるからである。
【0041】
当該高分子分散剤としては、ポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、を始めとする高分子主骨格の末端に、種々の親油性官能基、親水性官能基が付属する高分子であるものが好ましい。高分子分散剤の種類や配合量は、分散対象であるレーザー光吸収微粒子の種類とその表面特性に応じて適宜決められるものである。一般的には、高分子分散剤の配合量は、レーザー光吸収微粒子の重量の2〜10倍程度が好ましい。
【0042】
適宜量の高分子分散剤を配合することで、最終的に得られる光吸収樹脂成形体における微粒子の分散均一性を保つことが出来る。一方、高分子分散剤の過大量添加を避けることで、当該高分子分散剤と、最終的に得られる光吸収樹脂成形体の主成分をなす樹脂と、の親和性の度合いに応じて、成形体に曇りが発生するなどの不都合を回避することが出来る。
【0043】
レーザー光吸収微粒子、分散剤および溶媒を、均一に分散させるには、微粒子を樹脂へ均一に分散させる方法、装置であれば任意に選択できる。例としては、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、超音波分散装置、等の方法、装置を用いることができる。
【0044】
上記レーザー溶着用光吸収樹脂組成物を、熱可塑性樹脂により希釈、混練、成形して、直接、光吸収樹脂成形体を得ることができる。また、上記レーザー溶着用光吸収樹脂を、熱可塑性樹脂により希釈、混練して、レーザー溶着用光吸収樹脂組成物を主として含有する粒状、ペレット状のマスターバッチを作製し、さらに、当該マスターバッチの熱可塑性樹脂と同種の熱可塑性樹脂成形材料、または、当該マスターバッチの熱可塑性樹脂と相溶性を有する熱可塑性樹脂成形材料、によりさらに希釈、混練、成形して、最終的な光吸収樹脂成形体を得ることも可能である。
【0045】
上記希釈、混練には、リボンブレンダー、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサー等の混合機、またバンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、一軸押出機、二軸押出機等の溶融混練機を使用することが出来る。この希釈、混練工程において、必要に応じて安定剤、滑剤、充填剤、粘度調整剤、導電付与材、酸化防止剤、剥離材、ガラス繊維やカーボン繊維などの補強剤、染料、顔料、その他の添加剤を添加することが可能である。尤も、いずれの工程においても、レーザー光吸収微粒子の分散性が、レーザー溶着用光吸収樹脂組成物中において十分均一に保たれていることが重要である。当該希釈、混練、成形の工程において、レーザー光吸収微粒子の分散性が十分均一に保たれていれば、その後工程において、初期の分散均一性が崩れることは殆どないからである。
【0046】
上述したように、本実施形態における、レーザー溶着用光吸収樹脂組成物を希釈する熱可塑樹脂としては、当該高分子分散剤と同一の熱可塑性樹脂、または、相溶性を有する当該高分子分散剤とは異なる熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0047】
当該熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、スチレン樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、などの熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
【0048】
例えば、アクリル樹脂としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレートを主原料とし、必要に応じて炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸エステル、酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を共重合成分として用いた重合体または共重合体が挙げられる。例えば、メタクリル酸メチルを50〜99.95モル%へ、アクリル酸アルキルエステルなどの共重合可能な他の単量体を0.05〜50モル%の割合で加えて得られる共重合体が挙げられる。
【0049】
また、例えば、スチレン樹脂としては、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−メタクリル酸メチル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン樹脂、アクリロニトリル−EPDM−スチレン樹脂など、スチレン30〜100モル%へ、共重合可能な単量体0〜70モル%を加えて得られる共重合体が挙げられる。
【0050】
また、例えば、フッ素樹脂としては、ポリフッ化エチレン、ポリ2フッ化エチレン、ポリ4フッ化エチレン、エチレン−2フッ化エチレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体、4フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体などが挙げられる。
【0051】
得られた光吸収樹脂成形体においては、その表面層であって表面から3mm以下の領域において、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、窒化バナジウム、窒化ニオブ、窒化タンタルから選択される少なくとも1種の窒化物微粒子の含有量が0.001g/m2以上、0.4g/m2以下であることが望ましい。
ここで、窒化物微粒子の含有量を規定する領域を、光吸収樹脂成形体の表面層であって表面から3mm以下の領域としたのは、当該光吸収樹脂成形体へレーザーを照射したときに、溶融して接合に寄与する部分が、実質的に、光吸収樹脂成形体の表面層であって、表面から3mm以下の領域だからである。
【0052】
当該光吸収樹脂成形体の表面層であって、表面から3mm以下の領域において、窒化物微粒子の含有量が過剰であると、濃い藍色の着色が行き過ぎた部材となってしまう。さらに、レーザーを照射した際に、局所的に発熱する熱量が多くなり過ぎて樹脂や分散剤が蒸発し、溶着部の周りに気泡の発生を伴うなどの問題が出てくる。反対に、当該含有量が過少であると、レーザーを照射した際に、当該レーザーのエネルギーを十分に吸収することが出来ない。この結果、たとえレーザーパワーを上げても、光透過樹脂と光吸収樹脂成形体のレーザー発熱量が同程度になってしまい、光透過樹脂と光吸収樹脂成形体の両者が溶解したり、変形したり、接合がうまく行かない、などの問題が出てくる。
【0053】
これらの問題を回避する為、当該光吸収樹脂成形体の表面層であって表面から3mm以下の領域において、窒化物微粒子の含有量は、0.001g/m2〜0.4g/m2の範囲内にあることが好ましいこととなる。
【0054】
表面から3mm以下の領域において、窒化物微粒子の含有量の測定は、プラスチック部材の厚みが3mm以下の場合は、プラスチック部材の重量に対する窒化物微粒子の重量の割合がそのまま含有量となり、プラスチック部材の厚みが3mmを超える場合は、成形体の断面透過電子顕微鏡写真を撮影し、表面から厚さ3mmまでの領域中に含まれる、窒化物微粒子の面積から面分率を算出し、その面分率で均一に成形体中に含有されるとして体積分率を算出し、これを含有量とした。
【0055】
光吸収樹脂成形体は、さらに必要に応じて、粘度調整剤、導電付与材、酸化防止剤、安定剤、潤滑剤、充填剤、ガラス繊維やカーボン繊維などの補強材、染料、顔料の1種または2種以上を含有していてもよい。
【0056】
光吸収樹脂成形体の形状は、必要に応じて任意の形状に成形可能であり、平面状および曲面状、その他複雑形状に成形することが可能である。また、平面状成形体の厚さは、板状からフィルム状まで必要に応じて任意の厚さに調整することが可能である。さらに平面状に形成した樹脂シートは、後加工によって球面状等任意の形状に成形することができる。
【0057】
上記光吸収樹脂成形体の成形方法としては、射出成形、押出成形、圧縮成形または回転成形等の任意の方法を挙げることができる。特に、射出成形により成形品を得る方法と、押出成形により成形品を得る方法が好適に採用される。押出成形により板状、フィルム状の成形品を得る方法として、Tダイなどの押出機を用いて押出した溶融熱可塑性樹脂を冷却ロールで冷却しながら引き取る方法により製造される。
【0058】
アクリル樹脂やフッ素樹脂などのようにモノマー液のキャスティングにより樹脂成形体を製造できる場合は、アクリルシラップ原液中に上記レーザー溶着用光吸収樹脂組成物を混合、溶解するか、または、直接窒化物微粒子の分散液を混合、溶解し、成形用鋳型にキャストし、その後、高分子化工程を経て成形体としても良い。この場合、微粒子分散液に含まれる溶剤、分散剤は、アクリルシラップ原液中に通常含有されるモノマー液、開始剤、架橋剤、その他添加剤と相溶性のものを選択する。これらの溶剤、分散剤が、アクリルポリマーの重合過程を阻害し、その結果、樹脂成形体中に空隙が生じることを回避する為である。
【0059】
レーザー光吸収微粒子である窒化物微粒子は、光吸収樹脂成形体の全体にわたって均一に分散して含有されていても良いし、光吸収樹脂成形体の表面のコーティング膜中に均一分散して含有されていてもよい。コーティング膜には、押出しシート成形の場合に用いられる共押出しで形成される表面層にレーザー光吸収微粒子が均一分散して含有されている場合も含まれる。
【0060】
成形体の製造方法により、分散微粒子の分布状態は上記のように大きく分かれるが、当該光吸収樹脂成形体へレーザーを照射したときに、溶融して接合に寄与する部分は、実質的に、光吸収樹脂成形体の表面層であって、表面から3mm以下の領域である。従って、製造方法に関わらず、上記したように、窒化物微粒子の含有量を規定する領域は、得られた光吸収樹脂成形体の表面層であって表面から3mm以下の領域である。
【0061】
光吸収樹脂成形体の表面のコーティング膜中にレーザー光吸収微粒子を均一に分散させる方法としては、まずビーズミル、ボールミル、サンドミル、超音波分散などの方法を用いて上記レーザー光吸収微粒子を任意の溶剤及び分散剤に分散したレーザー光吸収微粒子分散液を調製し、これにバインダー樹脂を添加した後、基材の表面にコーティングし、溶媒を蒸発させ所定の方法でバインダー樹脂を硬化させれば、当該微粒子が媒体中に分散したコーティング薄膜の形成が可能となる。コーティング膜の厚さは特に限定しないが、1μm〜100μm程度の範囲が好ましい。コーティングの方法は、基材表面に微粒子含有樹脂が均一にコートできればよく、特に限定されないが、例えば、バーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法、スクリーン印刷、はけ塗り等が挙げられる。また、微粒子を直接バインダー樹脂中に分散したものは、基材表面に塗布後、溶媒を蒸発させる必要が無く、環境的、工業的に好ましい。
【0062】
上記バインダー樹脂としては、例えば、UV硬化樹脂、熱硬化樹脂、電子線硬化樹脂、常温硬化樹脂、熱可塑樹脂等が目的に応じて選定可能である。
【0063】
具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂が挙げられる。また、金属アルコキシドを用いたバインダーの利用も可能である。上記金属アルコキシドとしては、Si、Ti、Al、Zr等のアルコキシドが代表的である。これら金属アルコキシドを用いたバインダーは加水分解して、加熱することで酸化物膜を形成することが可能である。
【0064】
レーザー溶着する光透過性樹脂部材と光吸収樹脂成形体との接合面は、平面であっても凹形と凸形のはめ合わせでも良い。接合面の片面、または両面にコーティングされていても良い。
【0065】
照射するレーザー光の照射条件は適宜可能であるが、通常レーザー出力は5〜500W、走査速度は2mm/s〜500mm/sの範囲で行い、レーザー光照射角度は接合面に垂直に照射することが好ましい。
【実施例】
【0066】
以下に、本発明の実施例を比較例とともに具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
熱プラズマ法で窒化チタンTiNの微粒子を作製した。当該TiN微粒子がNaCl型結晶構造のTiN単相である事は粉末X線回折法で確認した。
【0068】
このTiN微粒子5重量%と、高分子系分散剤として東亞合成(株)製スチレン・アクリル系高分子分散剤UG−4030(室温で固形粉末状であり、ガラス転移温度52℃)のトルエン溶液(有効成分40%)37.5重量%と、トルエン57.5重量%とを秤量し、ジルコニアビ−ズを入れたペイントシェーカー内に充填して6時間粉砕・分散処理することによって窒化チタンTiNの微粒子分散液(A液)を調製した。
【0069】
ここで、微粒子分散液(A液)内における微粒子の分散粒子径を、動的光散乱法を原理とした装置(大塚電子(株)社製ELS−8000)によって測定したところ、104nmであった。次に、当該A液をトルエンで希釈し、レーザー光吸収剤濃度を0.001重量%とした。当該A液のトルエン希釈液を1cmの厚みを持つガラスセルに入れ、分光光度計(日立製作所製分光光度計U−4000)を用いて、紫外から近赤外に亘って透過率を測定した。当該A液のトルエン希釈液においてLambert−Beerの法則が成り立つものと仮定し、TiNの重量濃度換算の吸収係数εを、次式(1)を用いて各波長において求めた。当該重量吸収係数εを可視・近赤外領域の波長に対してプロットしたものを図1の太い実線に示す。
【0070】
ε=[log(100/T)]/C (T:波長λにおける透過率%、C:分散液のレーザー光吸収剤濃度g/L) ・・・・・・(1)
図1に示すように、窒化チタンTiN微粒子には、波長710nm付近にピークを持つ大きい吸収帯が観察された。可視光部分に吸収がかかっているため当該TiN微粒子分散液は濃い紫色〜藍色を呈した。図1の吸収プロファイルにより、TiN微粒子分散液は、波長940nmでは30.61L/gcm、波長1064nmでは23.82L/gcmと、それぞれ十分に大きな吸収係数を持ち、波長800〜1130nmにわたって20L/gcm以上の大きさの吸収係数をもつことにより、波長1064nmのNd:YAGレーザーや、波長が800〜1000nmである半導体レーザーからのレーザー光を吸収するのに好都合であることが確認された。
【0071】
(実施例2)
実施例1に係るA液を加熱してトルエン溶媒成分を蒸発させて、窒化チタンTiN微粒子25重量%が高分子分散剤の中に均一分散している固形状の粉末である光吸収樹脂組成物(B粉)を得た。この光吸収樹脂組成物(B粉)9重量部と、無着色で透明なアクリル樹脂ペレット1重量部とを混合し、二軸押出機を用いて280℃で溶融混練し、押出されたストランドをペレット状にカットし、TiN微粒子濃度2.5重量%の光吸収成分含有マスターバッチを得た。
【0072】
このマスターバッチと、アクリル樹脂ペレットとをブレンダーに充填し、均一に混合した後、Tダイを用いて厚さ2.0mmに押出成形し、TiN微粒子が濃度0.002重量%で樹脂全体に均一に分散したアクリル樹脂試験プレートであるプレート1(光吸収樹脂成形物)を作製した。プレート1のサイズは、幅5cm×長さ9cmである。
【0073】
ここで、厚さ2mmの当該プレート1に含有されるTiN微粒子の含有量は、(アクリル樹脂プレート1m2の体積)×(アクリル樹脂の密度g/cm3)×(微粒子重量濃度%)で求められ、100cm×100cm×0.2cm×1.2g/cm3×0.00002=0.048gである。
【0074】
次に、当該プレート1の光学特性を、分光光度計(日立製作所(株)製 U−4000)を用いて測定した。その結果、図2に示すように、可視光透過率は59%、940nmにおける透過率は56%であり、十分な視覚的な明るさを持つと同時に、半導体レーザーの波長940nmの光は十分に吸収されることが分かった。
【0075】
次に、プレート1と同サイズであるが、TiN微粒子を含有しないプレートを作製しプレート2(光透過樹脂成形物)とした。
【0076】
ここで、TiN微粒子を含有するプレート1と、含有しないプレート2とを重ね合わせ、圧着治具で密着させておいて、幅方向(5cm)へ3cmに亘ってレーザー光を照射した。レーザー光照射は、出力30Wのファインデバイス社製半導体レーザー(波長940nm)を用いて焦点径1.2mm、走査速度16mm/sで行った。レーザー光の照射に伴って、光吸収微粒子を含有するプレート1が発熱して溶融し、更に熱の伝播によりプレート2も溶融して両者が融着し、冷却により固化して接合が完了した。圧着治具を開放しても接合はそのまま維持された。
【0077】
外観を目視で観察し、色むらがなく表面光沢も問題ないと評価された。
【0078】
接合された2枚のプレートを両手で持ち、その両端を下側へ、中心部を上側へ力をかけて、接合部の強さを推定した。強い力をかけても接合部がしっかりと維持されることが分かった。以下、接合強度に関しては、図2に示すように、強い力でも接合を維持したものを○、接合されたが軽い力で接合部がはがれたものを×、接合そのものが不完全だったものを××と評価して表示した。
【0079】
(比較例1)
実施例1において、東亞合成(株)製スチレン・アクリル系高分子分散剤UG−4030(室温で固形粉末状であり、ガラス転移温度52℃)の替わりに、室温で液体状の高分子分散剤である東亞合成(株)製XG−4000(ガラス転移温度は−61℃)を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例1に係るTiN微粒子分散液を作製した。分散粒径121nmのTiN微粒子分散液が作製された。次に、これを加熱してトルエンを蒸発させ、TiN微粒子25重量%が高分子分散剤の中に均一分散した比較例3に係る光吸収樹脂組成物を得た。しかし、この比較例3に係る光吸収樹脂組成物はゼリー状でべたつき、その後の工程で正確な秤量やクリアペレットとの混合が困難であったので、これを廃棄して終了した。
【0080】
(実施例3)
実施例1と同様にして、窒化ジルコニウムZrNの微粒子分散液(微粒子分散液内における微粒子の分散粒子径は、123nmであった)を作製し、続いて実施例2と同様にして、ZrNの微粒子分散液を加熱しトルエン溶媒成分を蒸発させて、微粒子成分(ZrN)を25重量%含有する光吸収樹脂組成物とした。この光吸収樹脂組成物にアクリル樹脂の透明なペレットを混合して、二軸押出機で溶融混練し、押出して光吸収微粒子(ZrN微粒子)成分を2.5重量%含有するマスターバッチを得た。溶融混練温度は、280℃で行なった。このマスターバッチを更に同一のクリアアクリル樹脂ペレットで希釈して、ZrN微粒子が濃度0.002重量%で樹脂全体に均一に分散したアクリル樹脂試験プレートである実施例3に係るプレート1を作製した。(実施例3に係るプレート1は、実施例2に係るプレート1と、同サイズとした。)
当該実施例3に係るプレート1について、分光光度計を用いて300〜2600nmの透過プロファイルを測定し、可視光透過率および940nmにおける透過率を図2に示した。さらに、プレート1と光吸収微粒子を含有しない樹脂試験プレートであるプレート2(実施例2で説明したプレート2と、同サイズである)とを、密着させて半導体レーザー光を照射した。この場合のプレート1(厚さ2mm)のZrN微粒子の含有量は、0.048g/m2である。評価結果をまとめて図2に示す。
【0081】
図2から明らかなように、この窒化ジルコニウムZrN微粒子を添加した光吸収樹脂成形物を用いると、可視光透過率は62%、940nmにおける透過率は58%であり、可視光が十分に通されて明るい透明性を維持しつつも、表面光沢を維持した美しい溶着がなされ、接合部の概観や強度にも問題の無いレーザー溶着を行なうことが可能となる。
【0082】
(実施例4)
実施例1と同様にして、窒化ハフニウムHfNの微粒子分散液(微粒子分散液内における微粒子の分散粒子径は、130nmであった)を作製し、続いて実施例2と同様にして、HfNの微粒子分散液を加熱しトルエン溶媒成分を蒸発させて、微粒子成分(HfN)を25重量%含有する光吸収樹脂組成物とする。この光吸収樹脂組成物にポリカーボネート樹脂の透明なペレットを混合して、二軸押出機で溶融混練し、押出して光吸収微粒子(HfN微粒子)成分を2.5重量%含有するマスターバッチを得た。溶融混練温度は、280℃で行なった。このマスターバッチを更に同一のクリアポリカーボネート樹脂ペレットで希釈して、HfN微粒子が濃度0.002重量%で樹脂全体に均一に分散したポリカーボネート樹脂試験プレートである実施例4に係るプレート1を作製した。
【0083】
当該実施例4に係るプレート1を、分光光度計を用いて300〜2600nmの透過プロファイルを測定し、可視光透過率および940nmにおける透過率を図2に示した。さらに、プレート1と光吸収微粒子を含有しない樹脂試験プレートであるプレート2(実施例2で説明したプレート2と、同サイズである。)とを、密着させて半導体レーザー光を照射した。なおこの場合のプレート1(厚さ2mm)のHfN微粒子含有量は、0.048g/m2である。評価結果をまとめて図2に示す。
【0084】
図2から明らかなように、この窒化ハフニウムHfN微粒子を添加した光吸収樹脂成形物を用いると、可視光透過率は58%、940nmにおける透過率は55%であり、可視光が十分に通されて明るい透明性を維持しつつも、表面光沢を維持した美しい溶着がなされ、接合部の概観や強度にも問題の無いレーザー溶着を行なうことが可能となる。
【0085】
(実施例5)
実施例1と同様にして、窒化タンタルTaNの微粒子分散液(微粒子分散液内における微粒子の分散粒子径は、196nmであった)を作製し、続いて実施例2と同様にして、TaNの微粒子分散液を加熱しトルエン溶媒成分を蒸発させて、微粒子成分(TaN)を25重量%含有する光吸収樹脂組成物とする。この光吸収樹脂組成物にポリカーボネート樹脂の透明なペレットを混合して、二軸押出機で溶融混練し、押出して光吸収微粒子(TaN微粒子)成分を2.5重量%含有するマスターバッチを得た。溶融混練温度は、280℃で行なった。このマスターバッチを更に同一のクリアポリカーボネート樹脂ペレットで希釈して、TaN微粒子が濃度0.0025重量%で樹脂全体に均一に分散したポリカーボネート樹脂試験プレートである実施例5に係るプレート1を作製した。
【0086】
当該実施例5に係るプレート1を、分光光度計を用いて300〜2600nmの透過プロファイルを測定し、可視光透過率および940nmにおける透過率を図2に示した。さらに、プレート1と光吸収微粒子を含有しない樹脂試験プレートであるプレート2(実施例2で説明したプレート2と、同サイズである。)とを、密着させて半導体レーザー光を照射した。なおこの場合のプレート1(厚さ2mm)のTaN微粒子含有量は、0.061g/m2である。評価結果をまとめて図2に示す。
【0087】
図2から明らかなように、この窒化タンタルTaN微粒子を添加した光吸収樹脂成形物を用いると、可視光透過率は50%、940nmにおける透過率は47%であり、可視光が十分に通されて明るい透明性を維持しつつも、表面光沢を維持した美しい溶着がなされ、接合部の概観や強度にも問題の無いレーザー溶着を行なうことが可能となる。
【0088】
(実施例6)
実施例1と同様にして、窒化チタンTiNの微粒子分散液(微粒子分散液内における微粒子の分散粒子径は、112nmであった)を作製し、続いて実施例2と同様にして、TiNの微粒子分散液を加熱しトルエン溶媒成分を蒸発させて、微粒子成分(TiN)を25重量%含有する光吸収樹脂組成物とする。この光吸収樹脂組成物にポリエチレンテレフタレート樹脂の透明なペレットを混合して、二軸押出機で溶融混練し、押出して光吸収微粒子(TiN微粒子)成分を2.5重量%含有するマスターバッチを得た。このマスターバッチを更に同一のクリアなポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットで希釈して、TiN微粒子が濃度0.004重量%で樹脂全体に均一に分散したポリエチレンテレフタレート樹脂試験プレートである実施例6に係るプレート1を作製した。
【0089】
当該実施例6に係るプレート1を、分光光度計を用いて300〜2600nmの透過プロファイルを測定し、可視光透過率および940nmにおける透過率を図2に示した。さらに、プレート1と光吸収微粒子を含有しない樹脂試験プレートであるプレート2(実施例2で説明したプレート2と、同サイズである。)とを、密着させて半導体レーザー光を照射した。なおこの場合のプレート1(厚さ2mm)のTiN微粒子含有量は、0.096g/m2である。評価結果をまとめて図2に示す。
図2から明らかなように、このTiN微粒子を添加したポリエチレンテレフタレートベースの光吸収樹脂成形物を用いると、可視光透過率は39%、940nmにおける透過率は34%であり、可視光が通されて透明性を維持しつつも、表面光沢を維持した美しい溶着がなされ、接合部の概観や強度にも問題の無いレーザー溶着を行なうことが可能となる。

(実施例7)
実施例1と同様にして、窒化ニオブNbNの微粒子分散液(微粒子分散液内における微粒子の分散粒子径は、225nmであった)を作製し、続いて実施例2と同様にして、NbNの微粒子分散液を加熱しトルエン溶媒成分を蒸発させて、微粒子成分(NbN)を25重量%含有する光吸収樹脂組成物とする。この光吸収樹脂組成物にポリスチレン樹脂の透明なペレットを混合して、二軸押出機で溶融混練し、押出して光吸収微粒子(NbN微粒子)成分を2.5重量%含有するマスターバッチを得た。このマスターバッチを更に同一のクリアなポリスチレン樹脂ペレットで希釈して、NbN微粒子が濃度0.0068重量%で樹脂全体に均一に分散したポリスチレン樹脂試験プレートである実施例7に係るプレート1を作製した。
【0090】
当該実施例7に係るプレート1を、分光光度計を用いて300〜2600nmの透過プロファイルを測定し、可視光透過率および940nmにおける透過率を図2に示した。さらに、プレート1と光吸収微粒子を含有しない樹脂試験プレートであるプレート2(実施例2で説明したプレート2と、同サイズである。)とを、密着させて半導体レーザー光を照射した。なおこの場合のプレート1(厚さ2mm)のNbN微粒子含有量は、0.163g/m2である。評価結果をまとめて図2に示す。
【0091】
図2から明らかなように、このNbN微粒子を添加したポリスチレンベースの光吸収樹脂成形物を用いると、可視光透過率は25%、940nmにおける透過率は24%であり、可視光が通されて透明性を維持しつつも、表面光沢を維持した美しい溶着がなされ、接合部の概観や強度にも問題の無いレーザー溶着を行なうことが可能となる。
【0092】
(実施例8)
実施例1と同様にして、窒化チタンTiNの微粒子分散液(微粒子分散液内における微粒子の分散粒子径は、139nmであった)を作製し、続いて実施例2と同様にして、TiNの微粒子分散液を加熱しトルエン溶媒成分を蒸発させて、微粒子成分(TiN)を25重量%含有する光吸収樹脂組成物とする。この光吸収樹脂組成物にポリアミド樹脂の透明なペレットを混合して、二軸押出機で溶融混練し、押出して光吸収微粒子(TiN微粒子)成分を2.5重量%含有するマスターバッチを得た。このマスターバッチを更に同一のクリアなポリアミド樹脂ペレットで希釈して、TiN微粒子が濃度0.001重量%で樹脂全体に均一に分散したポリアミド樹脂試験プレートである実施例8に係るプレート1を作製した。
【0093】
当該実施例8に係るプレート1を、分光光度計を用いて300〜2600nmの透過プロファイルを測定し、可視光透過率および940nmにおける透過率を図2に示した。さらに、プレート1と光吸収微粒子を含有しない樹脂試験プレートであるプレート2(実施例2で説明したプレート2と、同サイズである。)とを、密着させて半導体レーザー光を照射した。なおこの場合のプレート1(厚さ2mm)のTiN微粒子含有量は、0.024g/m2である。評価結果をまとめて図2に示す。
【0094】
図2から明らかなように、このTiN微粒子を添加したポリエチレンテレフタレートベースの光吸収樹脂成形物を用いると、可視光透過率は73%、940nmにおける透過率は69%であり、可視光が十分に通されて明るい透明性を維持しつつも、表面光沢を維持した美しい溶着がなされ、接合部の概観や強度にも問題の無いレーザー溶着を行なうことが可能となる。
【0095】
(実施例9)
実施例1と同様にして、窒化チタンTiNの微粒子分散液(微粒子分散液内における微粒子の分散粒子径は、160nmであった)を作製し、続いて実施例2と同様にして、TiNの微粒子分散液を加熱しトルエン溶媒成分を蒸発させて、微粒子成分(TiN)を25重量%含有する光吸収樹脂組成物とする。この光吸収樹脂組成物にポリエチレン樹脂の透明なペレットを混合して、二軸押出機で溶融混練し、押出して光吸収微粒子(TiN微粒子)成分を2.5重量%含有するマスターバッチを得た。このマスターバッチを更に同一のクリアなポリエチレン樹脂ペレットで希釈して、TiN微粒子が濃度0.0021重量%で樹脂全体に均一に分散したポリエチレン樹脂試験プレートである実施例9に係るプレート1を作製した。このプレート1は光を十分透過したがやや曇りが見られた。
【0096】
当該実施例9に係るプレート1を、分光光度計を用いて300〜2600nmの透過プロファイルを測定し、可視光透過率および940nmにおける透過率を図2に示した。さらに、プレート1と光吸収微粒子を含有しない樹脂試験プレートであるプレート2(実施例2で説明したプレート2と、同サイズである。)とを、密着させて半導体レーザー光を照射した。なおこの場合のプレート1(厚さ2mm)のTiN微粒子含有量は、0.050g/m2である。評価結果をまとめて図2に示す。
【0097】
図2から明らかなように、このTiN微粒子を添加したポリエチレンベースの光吸収樹脂成形物を用いると、可視光透過率は53%、940nmにおける透過率は55%であり、可視光が十分に通されて明るい透明性を維持しつつも、表面光沢を維持した美しい溶着がなされ、接合部の概観や強度にも問題の無いレーザー溶着を行なうことが可能となる。
【0098】
(実施例10)
実施例1と同様にして、窒化チタンTiNの微粒子分散液(微粒子分散液内における微粒子の分散粒子径は、128nmであった)を作製し、続いて実施例2と同様にして、TiNの微粒子分散液を加熱しトルエン溶媒成分を蒸発させて、微粒子成分(TiN)を25重量%含有する光吸収樹脂組成物とする。この光吸収樹脂組成物にエチレン−4フッ化エチレン共重合体樹脂の透明なペレットを混合して、二軸押出機で溶融混練し、押出して光吸収微粒子(TiN微粒子)成分を2.5重量%含有するマスターバッチを得た。このマスターバッチを更に同一のクリアなエチレン−4フッ化エチレン共重合体樹脂ペレットで希釈して、TiN微粒子が濃度0.0037重量%で樹脂全体に均一に分散したエチレン−4フッ化エチレン共重合体樹脂試験プレートである実施例10に係るプレート1を作製した。
【0099】
当該実施例10に係るプレート1を、分光光度計を用いて300〜2600nmの透過プロファイルを測定し、可視光透過率および940nmにおける透過率を図2に示した。さらに、プレート1と光吸収微粒子を含有しない樹脂試験プレートであるプレート2(実施例2で説明したプレート2と、同サイズである。)とを、密着させて半導体レーザー光を照射した。なおこの場合のプレート1(厚さ2mm)のTiN微粒子含有量は、0.088g/m2である。評価結果をまとめて図2に示す。
【0100】
図2から明らかなように、このTiN微粒子を添加したエチレン−4フッ化エチレン共重合体樹脂ベースの光吸収樹脂成形物を用いると、可視光透過率は44%、940nmにおける透過率は39%であり、可視光が十分に通されて明るい透明性を維持しつつも、表面光沢を維持した美しい溶着がなされ、接合部の概観や強度にも問題の無いレーザー溶着を行なうことが可能となる。
(実施例11)
実施例1と同様にして窒化チタンTiN微粒子5重量%、高分子系分散剤25重量%、トルエン70重量%を含むTiNの微粒子分散液(C液)を作製した。該微粒子分散液内における微粒子の分散粒子径は、118nmであった。この分散液23重量%とハードコート用紫外線硬化樹脂(東亞合成(株)製UV−3701、固形分100%)77重量%とを混合してコーティング液とした。このコーティング液を、厚さ3mmのアクリル樹脂プレート基板上に、バーコーターを用いて塗布、成膜した。このアクリル基板を、60℃で30秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ、コーティング膜つきアクリル基板である実施例11に係るプレート1を作製した。
【0101】
当該実施例11に係るプレート1のコーティング膜厚は、触針式膜厚計で5μmと測定された。固形分比率からこの膜中の微粒子濃度は1.48重量%であり、厚さ5μmにわたるTiN微粒子の含有量は0.09g/m2である。この実施例11に係るプレート1の光学特性を測定したところ、可視光透過率は46%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった。さらに、プレート1と光吸収微粒子を含有しない樹脂試験プレートであるプレート2(実施例2で説明したプレート2と、同サイズである。)とを、プレート1のコーティング面を介して密着させて、半導体レーザー光を照射した。評価結果をまとめて図2に示す。
【0102】
図2から明らかなように、このTiN微粒子をコーティングした光吸収樹脂成形物を用いると、可視光透過率は46%、940nmにおける透過率は39%であり、可視光が十分に通されて透明性を維持しつつも、表面光沢を維持した美しい溶着がなされ、接合部の概観や強度にも問題の無いレーザー溶着を行なうことが可能となる。
【0103】
(比較例2)
住友金属鉱山(株)製ITO微粒子20重量%と、高分子系分散剤35重量%と、トルエン45重量%とを秤量し、ジルコニアビーズを入れたペイントシェーカーに充填して6時間粉砕・分散処理することによって、ITOの微粒子分散液を調製した。当該ITOの微粒子分散液の分散粒子径は、140nmであった。
当該ITOの微粒子分散液をトルエンでレーザー光吸収剤濃度0.1重量%となるように希釈し、実施例1と同様にして重量吸収係数を求め、図1の細い破線に示す。この図1のプロファイルから明らかなように、比較例2に係るITO微粒子分散液は、波長1000nm前後から長い近赤外線波長を吸収する特性があり、波長1064nmのNd:YAGレーザーであれば吸収する可能性があることが分かる。
しかし、比較例2に係るITO微粒子の重量吸収係数は、波長1064nmで約0.35L/gcmと非常に小さい。波長1064nmでの窒化チタンTiNの重量吸収係数は23.8L/gcmであり、ITOはTiNの約1/68の効果しかないことが分かった。波長が800〜1000nmである半導体レーザーに係る領域では、さらにこの差は大きい。波長940nmの重量吸収係数は、ITOの0.19L/gcmに対して、TiNではその161倍の値30.6L/gcmを持つ。従って、比較例2に係るITO微粒子を用いて、本実施例1〜11による微粒子と同様の効果を得ようとした場合、本実施例1〜11による微粒子に比べて2桁〜3桁以上も多い量のITO微粒子を用いる必要があることが分かった。
【0104】
作製したITOトルエン分散液を用いて、実施例2と同様の手順を踏んで、ITOを0.017重量%含有するアクリル樹脂試験プレートであるプレート1を作製した。この時のプレート1(厚さ2mm)のITO微粒子含有量は、本特許の窒化物微粒子の含有量上限である0.4g/m2とした。ITO微粒子含有量は実施例2〜11に示す窒化物微粒子に比べて最も多いにもかかわらず、940nm透過率は87%であった。
【0105】
このITOを0.017重量%含有するアクリル樹脂試験プレート1と、ITO微粒子を含有しない樹脂試験プレートであるプレート2(実施例2で説明したプレート2と、同サイズである。)とを、共に密着させて半導体レーザー光を照射した。この場合、レーザー光の照射で溶着は全く起こらなかった。

(比較例3)
住友金属鉱山(株)製ATO微粒子20重量%と、高分子系分散剤35重量%と、トルエン45重量%とを秤量し、ジルコニアビーズを入れたペイントシェーカーに充填して6時間粉砕・分散処理することによって、ITOの微粒子分散液を調製した。当該ATOの
微粒子分散液の分散粒子径は、117nmであった。
当該ATOの微粒子分散液をトルエンでレーザー光吸収剤濃度0.1重量%となるように希釈し、実施例1と同様にして重量吸収係数を求め、図1の細い破線に示す。この図1のプロファイルから明らかなように、比較例3に係るATO微粒子分散液は、波長1000nm前後から長い近赤外線波長を吸収する特性があり、波長1064nmのNd:YAGレーザーであれば吸収する可能性があることが分かる。しかし、比較例3に係るATO微粒子の重量吸収係数は、波長1064nmで約0.57L/gcmと非常に小さい。波長1064nmでの窒化チタンTiNの重量吸収係数は23.8L/gcmであり、ATOはTiNの約1/42の効果しかないことが分かった。波長が800〜1000nmである半導体レーザーに係る領域では、さらにこの差は大きい。波長940nmの重量吸収係数は、ATOの0.38L/gcmに対して、TiNではその80倍の値30.6L/gcmを持つ。従って、比較例3に係るATO微粒子を用いて、本実施例1〜11による微粒子と同様の効果を得ようとした場合、本実施例1〜9による微粒子に比べて2桁程度多い量のATO微粒子を用いる必要があることが分かった。
【0106】
作製したATOトルエン分散液を用いて、実施例2と同様の手順を踏んで、ATOを0.017重量%含有するアクリル樹脂試験プレートであるプレート1を作製した。この時のプレート1(厚さ2mm)のITO微粒子含有量は、本特許の窒化物微粒子の含有量上限である0.4g/m2とした。ATO微粒子含有量は実施例2〜11に示す窒化物微粒子に比べて最も多いにもかかわらず、940nm透過率は88%であった。
【0107】
このATOを0.017重量%含有するアクリル樹脂試験プレート1と、ATO微粒子を含有しない樹脂試験プレートであるプレート2(実施例2で説明したプレート2と、同サイズである。)とを、共に密着させて半導体レーザー光を照射した。この場合、レーザー光の照射で溶着は全く起こらなかった。
【0108】
(比較例4)
窒化チタンTiN微粒子をペイントシェーカーで極めて簡略に5分間だけ粉砕して分散処理を行い、粒径を測定すると1100nmであった。このTiN微粒子分散液を用いて、実施例2と同様の工程で、TiN微粒子を0.048重量%含有するアクリル樹脂プレートである比較例4に係るプレート1を作製した。
【0109】
比較例4に係るプレート1は、粒径が大きすぎるために近赤外部の吸収がほとんど無く、可視光透過率56%に対して940nmにおける透過率は77%であった。比較例6に係るプレート1の厚み1mm部分のTiN微粒子の含有量は、1.2g/m2である。
【0110】
このTiN微粒子を0.1重量%含有するアクリル樹脂試験プレートと、TiN微粒子を含有しない樹脂試験プレートであるプレート2(実施例2で説明したプレート2と、同サイズである。)とを、密着させて半導体レーザー光を照射した。この場合、レーザー光の照射で溶着は起こるものの、接合強度は弱く、2枚のプレートは簡単にはがれることが分かった。
【0111】
(比較例5)
実施例2で得られたTiN微粒子を含む光吸収樹脂組成物(B粉)を用いて、TiN微粒子を0.025重量%と高濃度に含有するアクリル樹脂プレートである比較例5に係るプレート1を作製した。
【0112】
比較例5に係るプレート1(厚さ2mm)のTiN微粒子の含有量は、0.60g/m2である。このプレートはほとんど黒に近く可視光をほとんど透過せず、透明なレーザー光吸収樹脂としては成り立たないことが分かった。
【0113】
このTiN微粒子を0.025重量%含有するアクリル樹脂試験プレート1と、TiN微粒子を含有しない樹脂試験プレートであるプレート2(実施例2で説明したプレート2と、同サイズである。)とを、密着させて半導体レーザー光を照射した。この場合、レーザー光による発熱、溶解が行き過ぎて、レーザー走査した領域に沿って一面に発泡が見られ、外観も不良であった。
【0114】
(比較例6)
熱プラズマ法で作製されたTiN微粒子を、湿式分散せずにそのままクリアなアクリル樹脂ペレットとブレンダーで混合し、2軸押出し機で溶融して混練し、押出されたストランドをペレット状にカットし、TiN微粒子を2.5重量%含有するアクリル樹脂マスターバッチを得た。これを更にクリアペレットで希釈して、TiN微粒子を0.002重量%含有するアクリル樹脂試験プレートである比較例6に係るプレート1を作製した。
【0115】
比較例6に係るプレート1(厚さ2mm)のTiN微粒子の含有量は、0.048g/m2である。プレート1はそれ自体に濃淡の色ムラが観察された。
【0116】
このTiN微粒子を0.002重量%含有するアクリル樹脂試験プレート1と、TiN微粒子を含有しない樹脂試験プレートであるプレート2(実施例2で説明したプレート2と、同サイズである。)とを、共に密着させて半導体レーザー光を照射した。この場合、レーザー照射により溶着はしたが、接合強度が通常より弱く、簡単にはがれる結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】TiN、ITO、ATOの各微粒子分散液の重量吸収係数と光の波長(300nm〜2100nm)との関係を示すグラフである。
【図2】実施例2〜11及び比較例2〜6に係る光吸収樹脂成形体の組成概要と、その特性を示す図表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
30℃以上のガラス転移温度を持つ高分子分散剤と、レーザー光吸収微粒子とを含有するレーザー溶着用光吸収樹脂組成物であって、
上記レーザー光吸収微粒子が、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、窒化バナジウム、窒化ニオブ、窒化タンタルから選択される少なくとも1種の窒化物微粒子であることを特徴とするレーザー溶着用光吸収樹脂組成物。
【請求項2】
上記窒化物微粒子の平均粒径が、1000nm以下であることを特徴とする請求項1に記載のレーザー溶着用光吸収樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載のレーザー溶着用光吸収樹脂組成物が、当該レーザー溶着用光吸収樹脂組成物に含まれている高分子分散剤と熱可塑性樹脂により希釈され混練されて成形された光吸収樹脂成形体であって、
当該光吸収樹脂成形体の表面層であって、表面から3mm以下の領域における膣化物微粒子の含有量が、0.001g/m2以上、0.4g/m2以下であることを特徴とする光吸収樹脂成形体。
【請求項4】
請求項1または2のいずれかに記載のレーザー溶着用光吸収樹脂組成物が、当該レーザー溶着用光吸収樹脂組成物に含まれている高分子分散剤と熱可塑性樹脂により希釈され混練されて成形された光吸収樹脂成形体であって、
当該成形された光吸収樹脂成形体の形状が、板状またはフィルム状であることを特徴とする請求項3に記載の光吸収樹脂成形体。
【請求項5】
上記熱可塑性樹脂が、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、フッ素樹脂の群から選択される1種以上の樹脂であることを特徴とする請求項3または4のいずれかに記載の光吸収樹脂成形体。
【請求項6】
請求項1または2のいずれかに記載の光吸収樹脂組成物が、バインダーによって希釈されて基材の表面にコーティングされていることを特徴とする光吸収樹脂成形体。
【請求項7】
請求項3から6のいずれかに記載の光吸収樹脂成形体が、波長500〜1000nmに吸収の極大値を有することを特徴とする光吸収樹脂成形体。
【請求項8】
30℃以上のガラス転移温度を持つ高分子分散剤と、レーザー光吸収微粒子とを含有するレーザー溶着用光吸収樹脂組成物が、当該レーザー溶着用光吸収樹脂組成物に含まれている高分子分散剤と熱可塑性樹脂により希釈され混練されて成形された光吸収樹脂成形体の製造方法であって、
当該レーザー光吸収微粒子が、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ハフニウム、窒化バナジウム、窒化ニオブ、窒化タンタルから選択される少なくとも1種の窒化物微粒子である光吸収樹脂組成物を、当該高分子分散剤と熱可塑性樹脂を用いて、当該光吸収樹脂成形体の表面層であって表面から3mm以下の領域における該窒化物微粒子の含有量が、0.001g/m2以上、0.4g/m2以下となるように希釈し、混練し成形して光吸収樹脂成形体を製造することを特徴とする光吸収樹脂成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−222903(P2008−222903A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64855(P2007−64855)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】