説明

レーザー照射を用いた材料の加工方法およびそれを行なう装置

本発明はレーザー照射を用いて材料を加工する方法に関する。フォーカスされないレーザー照射がフォーカス光学系を通して、より小さいビーム断面積にされる。フォーカスされたレーザー照射の光軸はビーム軸といわれるが、材料表面の方向を向く。フォーカス操作の結果である、フォーカスされたレーザー照射のビームくびれは、界面領域に保持され、レーザー照射と材料を形成する。レーザー照射は部分的に界面に吸収され、誘起された材料除去あるいは材料移動により、界面とレーザー照射は材料に進入する。ビームくびれの、界面の上端または下端からの軸方向の間隔は、最大で材料に進入した界面の深さの値の3倍である。フォーカス操作は影響を受け、レーザー照射の成分は、ビームくびれの下流進行方向だけでなく、ビームくびれおよび/またはビームくびれの上流進行方向に発散する。そのためビーム軸から離れる方向を向き、これらの発散成分と発散角は、標準光学系で偶然つくられ、容認される結像誤差の効果より大きい。本発明は更にこの方法を実行する装置にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザー照射を用いた材料の加工方法に関する。フォーカスされていないレーザー照射は代表的にはコリメート光であり、フォーカス光学系を通してより小さなビーム断面にフォーカスされる。フォーカスされたレーザー照射の軸はビーム軸といわれ、材料表面の方向を向いている。ビーム軸は材料に対して静止している、あるいは加工路に沿って移動する。これはフォーカスされたレーザー照射のフォーカス操作から生じる。そしてレーザー照射と材料の界面領域で保持される。レーザー照射は部分的に界面で吸収され、生じた材料の除去、または生じた材料の移動により、界面とレーザー照射が材料に進入する。軸方向の界面の上側または下側からのビームくびれの間隔は、材料内の界面進入深さの最大3倍に当たる。材料を加工するレーザー照射は、1本または多くのビーム源により生み出される、1本または多くのビームからなる。
【0002】
本発明はレーザー照射を用いた材料の加工のための個々の装置に関する。レーザー照射を用いて材料を加工する方法は、フォーカスされたレーザー照射が材料に進入しているが、例えば、穴あけ、除去、切断、溶接である。前の3つにおいては、界面とレーザー照射が材料内に進入し、溶融、蒸発、昇華、分解の形で材料が除去されている。レーザー溶接の場合は、蒸気の細管が材料の溶融池内に形成され、これが材料の溶融池と置き換わり、これを通してレーザーは材料に進入する。穴あけのときは、材料はレーザービームに対して移動しないが、他の方法では、レーザー照射が材料に対して相対的に移動する。以上の全ての方法はプロセスガス流を用いて補助される。プロセスガスは反応性ガスだけでなく不活性ガスからもなる。前記のガス流は、例えば、溶融あるいは蒸発した材料成分を取り除くのに使われる。あるいは界面および隣接した材料領域の表面性質に影響を及ぼすことに使われる。
【背景技術】
【0003】
著名な方法は共通して、界面のグリッド比が1を超える。すなわち、ビーム径と界面幅が、材料への進入深さより小さい。そのため、重点は、表面処理レーザー法の場合のように、良くても最小の変形した材料表面の照射特性に置かれるだけでなく、全体的な進行界面の照射特性にも置かれる。これは、界面の上側と界面の下側の間の照射の全体的な進行距離を横切って材料に進入する。
【0004】
今後は−照射パワーに加えて−ビームくびれにおけるビーム径(しばしば焦点径と言われる)と、くびれ領域における照射のレーリー長(ビームくびれからその点までの、ビーム軸に沿った距離)、ここではビーム断面領域が2重である、が重要な照射特性と考えられる。更に、特にビームくびれにおける、ビーム断面でのパワー密度分布(強度分布とも言われる)が加工結果におよぼす影響が重要と考えられる。強度分布の正確な効果が未だ十分知られていないが。今後、フォーカスしたレーザー照射の色々な照射成分の進行方向の分布と、それらの加工効率と加工結果への影響は考慮しない。
【0005】
波長が約10μmでレーザーパワーが1〜15kWの高性能COレーザー(10μエミッター)が、工業的なレーザー材料加工用途(例えば1mmから30mmの金属板へのマクロな使用)で用いられることが知られている。更に、波長が約1μmで、レーザーパワーが1〜8kWの、ロッドレーザー、ファイバーレーザー、ディスクレーザー(1μエミッター)が用いられる。特に、これらの照射源は経済的であり、そのため、使用が増加している。しかし、特にレーザー照射で切断するとき、得られる加工品質は、例えば用いられる照射源(ファイバーレーザー、ディスクレーザー(1μエミッター)、ガスレーザー10μエミッター)と、例えば切断する板の厚さと、切断速度に依存することは明らかである。
【0006】
レーザーを用いる材料加工の最近の発達は、加工速度の向上、加工深さおよび/または加工材料厚さの増加、処理の安定性の改良、処理の不安定の回避、特に得られる加工品質の向上を目的としている。このため、より大きいレーザーパワーと高品質の駆動技術を有するシステムが工業的に導入される。発達は、加工制御の技術的制限を広げることを目的としている。
【0007】
切断を例にとった加工寸法の品質。
【0008】
少ない粗さ、ギザギザのない底部側、酸化物を生成しないことに加えて、平坦さと正確な角度が、切り口に必要な重要な品質である。そのため次の点が考慮される。
【0009】
金属板の厚さが増えるに従って、切り口は溝の粗さが増す。これは特に切り口の下部(例えば磨耗切り込み)に見られ、切断ガス圧が低すぎるとき、切り込みが狭すぎるとき、速度が速すぎるときに、よく発生する。
【0010】
特に移動速度が遅いあるいは速いとき、溶融部は底部側から十分には除去されない。付着したまま凝固した溶融部は、所望しないギザギザを形成する。そのようなギザギザができるメカニズムは部分的にしか分かっていない。これらは特に溝の形成に結びついている。
【0011】
実験観察によると、所望しないが現在避けられない溝は、ある除去深さ(または切断深さ)の領域で、小さな山−谷粗さから著しく大きな値に変化する。この変化は、加工物の厚さに比べて小さい切断深さの領域で起こる。切断中、この領域は、切り口(または除去端、それぞれ)の変化する深さにて発生する。
【0012】
レーザー照射の吸収。
【0013】
界面でのレーザー照射の吸収は、加工効率に決定的影響を及ぼすが、いわゆるフレネル形式を用いて計算できる。(Petring,
D. : Anwendungsorientierte Modellierung des Laserstrahlschneidens zur
rechnergestutzten Prozessoptimierung.[コンピューターを用いた工程の最適化のための、レーザービーム切断のアプリケーション指向のモデル]Verlag
Shaker, Aachen 1995, 22-29ページ:非特許文献1)。吸収の程度、つまり界面に衝突したレーザー照射と吸収されたレーザー照射のパワー密度の比は、従って、特に、レーザー照射と、界面の衝突点での垂線との間の入射角に依存する。吸収の程度は、レーザー照射の偏光状態にも依存する。これらの説明は、円偏光または静的偏光を仮定している。しかし、この明細書の説明は、直線偏光またはラジアル偏光にも適用できる。入射角と偏光に加えて、吸収の程度は材料の屈折率にも依存する。その結果、これは材料の温度とレーザーの波長に依存する。
【0014】
本願の図6は、鋼材で典型的なレーザー波長が1μmから10μmのときの、吸収度の角度依存性を示す。それぞれが特徴的な主の最大吸収を示す。入射角を少なくとも最大値の近接値に調節するため、くびれ径の板厚への比例適合が既に推奨されている。(Petring, D. : Anwendungsorientierte
Modellierung des Laserstrahlschneidens zur rechnergestutzten
Prozessoptimierung.[コンピューターを用いた工程の最適化のための、レーザービーム切断のアプリケーション指向のモデル]Verlag
Shaker, Aachen 1995, 110-112ページ:非特許文献1)。このやり方は主に高い加工効率を目的としており、既に成功している。しかし、レーザー波長が1μmで板厚が4mmの場合、ビームくびれ径が0.9mmを超えることが必要となる(図6参照)。これは前述した太いビーム径の欠点をもたらす。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Petring,D. : Anwendungsorientierte Modellierung des Laserstrahlschneidens zurrechnergestutzten Prozessoptimierung. [コンピューターを用いた工程の最適化のための、レーザービーム切断のアプリケーション指向のモデル]VerlagShaker, Aachen 1995
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は次の材料加工法を提供することである。レーザー照射が部分的に界面で吸収される。生じた材料の除去、あるいは生じた材料の移動により、界面とレーザー照射が材料に進入し、加工効率と加工安定性と特に結果の加工品質が、現在の技術水準の限界を超えることができる。レーザー切断を例にとると、従来の技術によれば、切断パラメーターの誤った設定により、除去深さの増加に従って、溝幅の不要な大きい増加を生じる。例えばガス圧が低すぎる、除去された切口が狭すぎる(即ち細切断)、または移動速度が速すぎるという例が挙げられる。従って中心となる仕事は、既知の適当な手段を用いても減らすことのできない、不必要な広幅の溝の形成を防ぐことである。この目的は従来技術の意外な観察に基づいて達成できる。レーザー切断用の選ばれた照射源、例えば1μエミッター(ファイバーレーザー、ディスクレーザーなど)を用いるとき、また、大型の材料を切断するとき、既知の方法を用いては避けられない広い溝幅が生じる。同様に、既知の調査結果では、望ましくない広い溝幅をもたらす原因やメカニズムに関する、説明できる情報は提供されていない。また、広すぎる界面を避けながら吸収を増やす方法も知られていない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
これらの目的は前述の方法で達成できる。すなわち、フォーカスが次のように行なわれる。レーザー照射の成分はビームくびれの下流進行方向を向くだけではない。レーザー照射の成分はビームくびれ、および/またはビームくびれの上流進行方向も向く。従ってビーム軸から離れて、これらの成分と発散角は、標準光学系で偶然生じ、受け入れられている像欠点の効果のそれらより大きい。
【0018】
装置については、この目的は次の材料加工装置により実現される。少なくとも1つのレーザー源と、レーザー照射源からのレーザー照射をフォーカスする少なくとも1つのフォーカス光学系を有する。フォーカスされたレーザー照射の光軸(ビーム軸といわれる)は1つの加工面の方向を向く。フォーカス操作により生じる、フォーカスされたレーザー照射のビームくびれは、界面領域に保持される。界面はレーザー照射と材料により形成される。レーザー照射と材料が形成する界面領域での照射による、フォーカスされたレーザー照射のビームくびれを保持する装置について、フォーカス光学系とビーム形成光学系は、レーザー照射の成分が、ビームくびれの下流への進行方向を向くだけでなく、ビームくびれ、および/またはビームくびれの上流への進行方向も向いている。従ってビーム軸から離れて、これらの成分と発散角は、標準光学系で偶然生じて容認される像欠陥の効果より大きい。
【0019】
ここで述べる標準光学系の像欠点とは、意図しないで生じる像欠点である。すなわち典型的に用いられる標準光学系で望ましくないが、そのような標準光学系では受け入れられているものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、レーザー照射の基礎吸収、つまり多重反射による吸収成分を計算に入れない吸収を増やすことができる。グリッド比幅に対して深さが深い界面においても(切断端、穴あけ溝、細線溶接)、つまり急勾配の界面において、より小さい入射角が要求されるため、より大きい発散角によって可能になる。フレネル吸収は、比較的小さい入射角(例えば1μm波長で鋼材の場合、<80°)のときのみ、最大値に到達する。従ってより平らな界面が好まれる。
【0021】
より小さい入射角の場合、形状および/または界面位置の変化の結果生じる吸収変化は、同様に減少する。従って、入射角の変化により加工工程で発生あるいは増加する不安定性は避けられる。界面の上部の唯一のやや不安定な衝突点での反射は、反射照射成分に生じる後衝突点に不安定性の増加をもたらす。この問題はより高い吸収とより小さい入射角と、より小さい入射角でのより小さい角度依存性により解決される。この点、加工中の不安定工程の増加は2つの方法で避けられる、または低減される。
【0022】
各部分ビームの第一衝撃点での直接吸収の増加により、多重反射の成分が減ることも利点である。これにより、不安定性の増加が避けられる。最終的に、例えば切り口と穴の円錐形または丸みを帯びた加工断面が避けられる。というのは、より大きい発散角の照射成分は、材料表面から界面への、ビーム中心よりも低いエッジ領域のパワー密度によっても、レーザー照射のエッジ領域の界面の上端からの比較的急な変化に影響する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】材料の一部の概略断面図である。この図はレーザー照射の広がりも示す。ここでレーザー照射と材料の界面領域の細部は、“A”に拡大図を示す。
【図2】ビームくびれ領域の発散照射成分を示すための、照射路の拡大図である。
【図3】本発明の装置の概略図である。必須の光学成分が“B”に拡大表示されている。
【図4】図3とは異なる装置構造を示し、アキシコンを使用している。
【図5】波長λが1μmのときと10μmのときの、入射角の関数として、鋼材について計算された照射の吸収度のグラフである。
【図6】主吸収が最大に近い入射角に調整した例である。入射角は1μmレーザー照射について78°、10μmレーザー照射について87°であり、ビーム発散は除く。
【図7】図6の1μmレーザー照射についての入射角が78°で、ビーム発散が12°のものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の問題とする状況は、従来技術では扱われていない。同じことが本発明による解決策に適用される。
【0025】
次の結論が得られる。
【0026】
レーザー照射が加工材料に、材料の溶解、蒸発、昇華、分解により、例えば、穴あけ、除去、切断、溶接により進入する加工方法の場合、レーザー照射は、典型的には、界面の垂直ベクトルと、照射の進行の局所的方向(スレスレの入射)との間の大きな角度で当たる。レーザー照射の吸収は、何よりも、この角度に大きく依存するので、吸収はこの角度を調整したうえ、材料と波長に依存して増やすことができる。角度範囲は、加工中に避けられない幾何学的変動に対する加工順序に、安定した影響を与えるように、設定される。特に鋼材を、可視光および近赤外のレーザー照射で加工するとき、角度を減らすと、吸収を増やし、安定させる効果がある。両効果はこの方法の性能を高める。これは、例えば加工速度および/または加工品質により測定できる。
【0027】
本発明の加工方法に関して、典型的な幾何学的環境がある。そこでは、材料と干渉する場所のレーザービームの断面が、ビーム進行方向の加工深さに比べて著しく小さい(大きいグリッド比)。好適な方法によれば、特にビーム軸と加工部品が相対的に移動する加工方法において、大きいグリッド比においても、所望の小さい角度に調節することができる。これは、進行方向に拡大された領域で、発散する照射成分をもつ。これは、ビームくびれの上流に、および/またはビームくびれに発散成分を含む。
【0028】
加工方法の性能を上げるため、従来技術によると、コリメートレーザービームとフォーカス光学系を備えた光学システムは、典型的には次の寸法が用いられる。フォーカスは、加工する材料の厚さに合うレーリー長に関連してできる限り小さくする。従って使われる光学系は、典型的には、結像誤差が最小になるように補正される。高いビーム品質をもつレーザー照射を使うと、大きいレーリー長をもつ小さいフォーカスを単純に作ることができる。しかし、この手順によると、得られた細い火線により、小さい照射成分が界面に発散的に当たる。しかし本発明の好適な手順によれば、発散するビーム成分が界面に当たる。従来技術とは対照的に、結像品質の改良ではなく改悪が推奨される。結像品質の特別な改悪により、例えば速度および/または加工品質に関する、有利な工程行動が実現される。
【0029】
本発明の解決法により、ビームくびれ中の発散ビーム成分がつくられ、意図的に利用される。この際、狭い界面(正面、穴、細線)にもかかわらず、より小さい入射角、特定の応用についてのより大きい基礎的な吸収、急な界面と同様のより少ない多重反射を用いる。加工側面の丸めと面取りは無い。付加的な効果として、ビーム断面でのパワー分布の再配置が、例えば、調節でき、環状パワー密度分布の急な側面形状が利用される。
【0030】
少なくとも1個のビーム整形光学系が、ビームくびれの上流および/またはビームくびれに、発散ビーム成分をつくるため用いられる。ビーム整形光学系は、フォーカス光学系またはビーム整形光学系の上流または下流に設けられ、同時に、レーザー照射をコリメート、および/またはフォーカスするために用いられる。
【0031】
ある実施形態では、ビーム成分のより大きい発散角が、界面上の入射角を減らすために、そして界面上の照射成分の吸収を増やすために、さらに入射角の変動による吸収の変化を減らすために用いられる。これにより上述の効果が得られる。
【0032】
界面でより小さい入射角を実現するため、付加的な発散ビーム成分が、少なくとも1個のビーム整形光学系をもつ、少なくとも1個のレーザー−内部、またはレーザー−外部に作られる。このような発散ビーム成分は、ビーム整形光学系の収差の量が形成または増加したときにも作られる。
【0033】
入射角を小さくするため、正または負の球面収差、または色収差がつくられるか、またはその量が増やされる。強く過補正された光学系でつくられる負の収差が好都合である。負の収差の場合、中央ビーム成分はビームくびれの上流で発散し、全体としてこの領域でより多くのビーム成分を作り出す。そして、ビームくびれの下方で材料に進入する界面での、より小さな入射角も作り出す。これは特に切断と除去の方法に用いられる。というのはこの方法をビーム軸の後ろ方向に用いたとき、すなわち頂上から離れた側面の上、および/または界面の正面で、より多くの照射成分が、初めて界面に当たる前に、妨害されずにより長く材料の中に進入することができる。レーザー材料加工で一般的な単色の照射の場合は、球面収差が用いられる。照射が、いくつかの異なる波長をもつ独立したビーム源(例えばいくつかのダイオードレーザーによる)の重畳でつくられるとき、または広い波長範囲のエミッションをもつレーザーのとき、色収差が単独で、あるいは球面収差と組み合わせて用いられる。
【0034】
回折、屈折、および/または分散光学素子が、光学系に収差をつくるため用いられる。これらの光学系の中で、もし光学素子が高いレーザービーム出力(1kW/cmを超える)に当たるならば、屈折光学素子が好ましい。光学素子としては、固体、液体、および/または気体材料、または透過、および/または反射特性、例えば、レンズ、鏡、ファイバー、導波路が用いられる。上記の材料のうち、固体材料が重要である。というのはレンズと鏡はレーザー材料加工において最も普通であるからである。液体、気体材料はビーム整形の機能は無いが、よりフレキシブルで動的な光学特性が得られる。この場合、これは特に、ビーム整形光学系が適応性のある光学系、例えば、収差の量、および/または収差の横方向の、および/または軸方向の分布が調整できる光学系のとき、用いられる。
【0035】
光学系の収差は、少なくとも1個の凹凸光学界面の組み合わせを用いて、実現できる。もし、例えば凹凸レンズの組み合わせにより、標準フォーカス光学系によりつくられた正の球面収差が、通常の最小の収差に補正されるのではなく、負の球面収差に過補正されるならば、これは有利である。同様に、既に補正されたフォーカス光学系を用いたとき、凹凸レンズの組み合わせにより、有利に収差の量を多くできる。収差を実現した光学系を用いて、好ましくは、レーザー照射のコリメーションおよび/またはフォーカスが実行される。同時に、光学系は、必要なら、より少ない数の光学素子で実現でき、より小型に作ることができ、調整により敏感でない。光学系の収差は、非球面領域をもつ、少なくとも1個の光学素子を用いて実現できる。このような光学素子は、アキシコンまたはフレネル光学系として設計される。アキシコンまたはフレネル光学系は、例えば、軸近くの小さい発散角をもつ照射の部分を圧縮するため、明瞭な再分布が行なわれるとき、好ましい。
【0036】
もし、ほとんど光学素子がない、または従来から結像性能をつくるのが難しい光学系を、すなわち、例えば発散角(ポインティングベクトル)の柔軟な調整と、同時に、軸方向と横方向の強度分布の調整のため使わなければならないとき、光学系の収差は、横方向の、および/または軸方向の屈折率が可変の最小1個の光学素子により作られる。
【0037】
ビーム整形光学系は、例えば、収差の量、および/または横方向の、および/または軸方向の分布を調整するように、光学素子を移動する、および/または変形させて、適応するように設計される。このような調整は、例えば材料の種類、材料厚さ、加工速度、および/またはレーザーパワーを、加工前および/または加工中に、加工パラメーターに適合するように制御される。
【0038】
例えば球面収差による発散角の調整は、加えて、ビーム整形光学系により、予定の空間パワー密度分布、例えば、界面での環状あるいはシルクハット状分布の形成をするため、利用できる。特に界面の形状によっては、界面に当たる照射成分の発散を局所的に調整するだけでなく、局所的なパワー密度も調整しなければならない。例えば、切断時、界面の上側成分のパワー密度は、切断端が丸くならないように、設定発散角にある吸収を調整しなければならない。
【0039】
本発明による上述の装置の好ましい実施形態は、装置の従属請求項から明らかになる。本発明の他の細部と特徴は、図を基とした次の好ましい実施形態から明らかになる。図において、
【実施例】
【0040】
図1は、レーザー照射2を用いて、それぞれ加工中の加工部品または材料1を示す。光軸(ビーム軸)4をもつ、フォーカスされていないレーザー照射3は、初めはビーム整形光学系5に導かれ、次にフォーカス光学系6を通る。次にフォーカスされた照射7はそれぞれ加工部品または材料1に当たる。拡大図“A”に拡大して示すように、界面8はレーザー照射2と材料の間に形成される。この界面の下端9はそれぞれ加工部品または材料内にあり、もちろんそれぞれ加工部品または材料の底部に位置することもある。一方、この界面の上端10は材料表面11に位置する。
【0041】
図1に示され図2でより詳しく分かるように、ビーム整形はビーム整形光学系5により行なわれる。フォーカス光学系6がレーザー照射をフォーカスする。レーザー照射はビームくびれの進行方向下流に発散する。ビームくびれは図2で符号12である。ビームくびれ12自体と、特にビームくびれの上流で、レーザー照射2はビーム軸4から離れる方向を向く。図2では、ビームくびれの上流方向に発散するビーム成分の進行方向を符号13とする。ビーム成分とその発散角は、照射成分の発散角およびフォーカス光学系6の結像欠陥による発散角より大きい。後者は用いた標準光学部品のために生じるものであり、意図したものではない。
【0042】
照射成分のより大きな発散角は、界面10への入射角を減らすのに用いられる。それにより、界面8の領域での照射2の照射成分の吸収が増加する。より大きな発散角は、入射角の変化による吸収の変化を減らすにも用いられる。というのは、小さい入射角ならば入射角の変化に伴う吸収の変化は少ない。このことは図5から7を用いて以下に詳しく説明する。
【0043】
図3は模式的に、本発明の方法を実行するための装置の全体構造を示す。
【0044】
装置は照射源を有し、付加的にファイバーに導かれたレーザー照射をもつレーザーを有する。照射源には一般的に矢印14を付す。レーザーあるいはファイバー光学系から出射される照射は、それぞれ図1、2でビーム軸4をもつが、コリメーション光学系15を通ってコリメートされ、コリメートされたレーザービーム16は収差光学系17に入る。これは図示の例では凹凸光学系からなる。次に収差光学系17から出射された照射はフォーカス光学系18を通して、加工部品あるいは材料(ここには図示しない)上にフォーカスされる。フォーカス領域は拡大図“B”に拡大表示される。拡大図“B”を見ると、収差補正されたビームのビームくびれは、平面19周りに見られ、図2の表示と比較される。
【0045】
これらのコリメーションとフォーカスの光学系15、18は、単レンズあるいは複レンズ系として設計される。収差光学系17は、凹凸表面の他の組み合わせで設計され、透過光学系は、反射光学系および/または回折光学系だけでなく、拡散光学系でも代替できる。フォーカス光学系18および/またはコリメーション光学系15と、収差光学系17は、1個または2個の光学系に結合できる。
【0046】
図4は、図3の収差光学系17がアキシコン20、21からなる例である。これらのアキシコン20、21は、互いに向き合う等しい角度の外面を有する。図4のフォーカス光学系22は模式的に単レンズで表わしてある。
【0047】
図4の収差光学系のアキシコン20、21は外面の角度が等しい、あるいは等しくない。また、レーザー照射の進行方向に対して反対方向を向くこともできる。1個のアキシコンを用いることもできるし、2個以上のアキシコンを用いることもできる。さらに、曲面を有するアキシコンを用いることができるし、アキシコンを反射光学系で用いることもできる。
【0048】
図5のグラフは、波長が1μmと10μmのレーザー照射の吸収度を、入射角の関数として示す。入射角は鋼材を例として計算された。入射角は、0°つまり垂直入射から、90°つまりスレスレの入射までプロットされた。グラフによれば明らかに、主な最大吸収の右側の大きい入射角での吸収は特に小さい。またこの領域での入射角の変化に伴う吸収の変化は特に大きい。この効果により低効率と不安定な加工状態が生じる。図6、7には主な最大吸収の近くで入射角を調節するための選択を示す。
【0049】
図6は、それぞれ、加工部品または材料26の界面25に当たる2個の異なるレーザー照射23、24を示す。図示の例は厚さ4mmの金属板である。説明は非常に単純化したものに過ぎない。例えば、界面の形は通常は直線でない。また異なるポインティングベクトルをもつ多数の部分ビーム、つまり異なるパワー密度とビーム方向、および/または異なる入射角を生じる発散角の部分ビームが、界面に当たる。たった1個のビームまたはビーム軸をもつレーザー照射23は図示の10μmレーザー照射であり、ビーム発散がなく、入射角87°で界面25に当たる。これには、図5の主な最大吸収を実現するため、200μmの険しい狭い界面27が必要である。レーザー照射24は1μmレーザー照射であり、ビーム発散がなく、界面25に入射角78°で当たる。これには、図5の主な最大吸収の小さい入射角を実現するため、900μmの10μmレーザー照射に比べて、より平らで広い界面28が必要である。
【0050】
図6とは対照的に、図7は厚さ4mmの金属板の加工部品あるいは材料で、1μmのレーザー照射29が入射角78°、ビーム発散角12°で界面25に当たる。この結果、険しく狭い界面が得られ、図5の主な最大吸収よりまだ小さい入射角が実現される。発散照射成分(図7の例ではビーム発散角12°による)を通して、高い吸収度と良い、実現可能な加工品質が、1μmレーザー照射においても、安定した加工制御をもつ狭く険しい界面にもかかわらず、得られる。
【符号の説明】
【0051】
1 材料
2 レーザー照射
3 レーザー照射
4 ビーム軸
5 ビーム整形光学系
6 フォーカス光学系
7 照射
8 界面
9 界面の下端
10 界面の上端
11 材料表面
12 ビームくびれ
13 ビーム成分の進行方向
14 照射源
15 コリメーション光学系
16 レーザービーム
17 収差光学系
18 フォーカス光学系
19 平面
20 アキシコン
21 アキシコン
22 フォーカス光学系
23 レーザー照射
24 レーザー照射
25 界面
26 材料
27 界面
28 界面
29 レーザー照射

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォーカスされていないレーザー照射を、フォーカス光学系を通してより小さいビーム断面積にフォーカスし、
ビーム軸といわれるフォーカスされた前記レーザー照射の光軸が材料表面の方向を向き、
フォーカスされた前記レーザー照射のフォーカス操作に起因するビームくびれが、前記レーザー照射と前記材料の界面領域に保持され、
前記レーザー照射は部分的に前記界面で吸収され、
誘起された材料除去あるいは誘起された材料移動により、前記界面と前記レーザー照射も材料内部に進入し、
前記界面の軸方向の上端または下端からの前記ビームくびれの間隔は、前記材料内の前記界面の進入深さの最大3倍であり、
フォーカス操作が影響を受けて、前記レーザー照射の成分が、前記ビームくびれの下流進行方向だけでなく、前記ビームくびれおよび/または前記ビームくびれの下流進行方向、従って前記ビーム軸から離れる方向に発散し、
これらの成分と発散角が、標準光学系を用いて偶然つくられ容認される結像誤差の影響より大きい、レーザー照射を用いて材料を加工する方法。
【請求項2】
前記ビーム成分のより大きい発散角が、前記界面への入射角を減らし、それにより前記界面での照射成分の吸収を増やし、前記入射角の変動による吸収の変化を抑えることに用いられる、請求項1に記載のレーザー照射を用いて材料を加工する方法。
【請求項3】
少なくとも1個のビーム整形光学系を用いて、前記照射成分のより大きい発散角が、レーザー−内部またはレーザー−外部に発生する、請求項1または2に記載のレーザー照射を用いて材料を加工する方法。
【請求項4】
前記ビーム整形光学系の収差を生成する、または増やすことにより、前記照射成分のより大きい発散角が発生する、請求項1から3のいずれかに記載のレーザー照射を用いて材料を加工する方法。
【請求項5】
正および/または負の球面収差、および/または色収差が生成される、またはその値が増加される、請求項1から4のいずれかに記載のレーザー照射を用いて材料を加工する方法。
【請求項6】
前記光学系の収差が、回折、屈折、および/または分散光学部品を用いて実現される、請求項4または5に記載のレーザー照射を用いて材料を加工する方法。
【請求項7】
固体、液体、および/または気体材料、または、透明および/または反射媒質からなる光学部品を用いる、請求項6に記載のレーザー照射を用いて材料を加工する方法。
【請求項8】
前記光学系の収差が、少なくとも1個の凹と1個の凸の光学面の組み合わせを用いて実現される、請求項4から7のいずれかに記載のレーザー照射を用いて材料を加工する方法。
【請求項9】
前記収差を実現する光学系を用いて、コリメートされた、および/または、フォーカスされたレーザー照射が同時に実行される、請求項4から8のいずれかに記載のレーザー照射を用いて材料を加工する方法。
【請求項10】
少なくとも1個の非球面表面をもつ、少なくとも1個の光学部品を用いることにより、前記光学系の収差が実現される、請求項4から9のいずれかに記載のレーザー照射を用いて材料を加工する方法。
【請求項11】
前記光学部品はアキシコンまたはフレネル光学系である、請求項10に記載のレーザー照射を用いて材料を加工する方法。
【請求項12】
前記光学系の収差は、横方向に、および/または、軸方向に屈折率が変化する、少なくとも1個の光学部品により実現される、請求項4から11のいずれかに記載のレーザー照射を用いて材料を加工する方法。
【請求項13】
前記ビーム整形光学系は、前記収差の、量および/または横方向の、および/または軸方向の分布が調整できる、請求項3から12のいずれかに記載のレーザー照射を用いて材料を加工する方法。
【請求項14】
前記調整は加工パラメーターを、材料の種類、材料厚さ、加工速度、および/またはレーザーパワーについて、加工の前および/または途中で制御できる、請求項13に記載のレーザー照射を用いて材料を加工する方法。
【請求項15】
前記照射部品のより大きな発散角が、前記界面領域に、環状分布またはシルクハット分布のような、決められた空間パワー密度分布をつくるのに用いられる、請求項1から14のいずれかに記載のレーザー照射を用いて材料を加工する方法。
【請求項16】
ビーム軸といわれる、フォーカスされたレーザー照射の光軸が1個の加工面の方向を向いており、
フォーカス操作から生じるフォーカスされた前記レーザー照射のビームくびれが、前記レーザー照射と加工材料の界面領域に保持され、
前記レーザー照射と前記材料の界面領域にフォーカスすることにより得られる、フォーカスされた前記レーザー照射のビームくびれを保持するための装置に関して、
フォーカス光学系とビーム形成光学系は、前記レーザー照射の部分が、ビームくびれの進行下流方向に発散するだけでなく、ビームくびれ内および/またはビームくびれの進行上流方向にも発散し、
それにより、ビーム軸から離れて、これらの部分と発散角は、標準光学系で偶然つくられ容認される結像誤差の効果によるものより大きい、少なくとも1個のレーザー源と、レーザー照射源のレーザー照射をフォーカスする、少なくとも1個のフォーカス光学系を備えた材料加工装置。
【請求項17】
少なくとも1個のビーム整形光学系が、レーザー−内部またはレーザー−外部に照射成分のより大きい発散角を形成する、請求項16に記載の材料加工装置。
【請求項18】
少なくとも1個の前記ビーム整形光学系が、照射成分のより大きい発散角を形成し、前記ビーム整形光学系の収差量が生じる、または増加する、請求項16または17に記載の材料加工装置。
【請求項19】
前記ビーム整形光学系において、正の、および/または負の球面収差、および/または色収差が生じる、またはその値が増加する、請求項16から18のいずれかに記載の材料加工装置。
【請求項20】
前記光学系の収差を実現するため、回折、屈折および/または分散光学部品を用いる、請求項18または19に記載の材料加工装置。
【請求項21】
前記光学部品が、固体、液体および/または気体の材料、または透明および/または反射媒質でつくられる、請求項20に記載の材料加工装置。
【請求項22】
前記ビーム整形光学系に、少なくとも1個の凹と1個の凸の光学面の組み合わせが用いられる、請求項18から21のいずれかに記載の材料加工装置。
【請求項23】
前記収差を生じる前記ビーム整形光学系は、前記レーザー照射をコリメートする、および/またはフォーカスする光学系である、請求項18から22のいずれかに記載の材料加工装置。
【請求項24】
前記収差を生じさせるため、少なくとも1個の非球面表面をもつ、少なくとも1個の光学部品が前記ビーム整形光学系に用いられる、請求項18から23のいずれかに記載の材料加工装置。
【請求項25】
前記光学部品は、アキシコンまたはフレネル光学系である、請求項24に記載の材料加工装置。
【請求項26】
前記収差を生じさせるため、横方向に、および/または軸方向に屈折率を変化させた、少なくとも1個の光学部品を前記ビーム整形光学系に用いた、請求項18から23のいずれかに記載の材料加工装置。
【請求項27】
前記ビーム整形光学系が、収差の量、および/または横方向の、および/または軸方向の分布が調整できることに適応する光学系である、請求項16から26のいずれかに記載の材料加工装置。
【請求項28】
材料の種類、材料厚さ、加工速度、および/またはレーザーパワーのような加工パラメーターを、調節し適応させる制御装置を備えた、請求項27に記載の材料加工装置。
【請求項29】
前記照射成分のより大きい発散角を、決められた空間パワー密度分布が、前記界面が形成される領域で、環状分布またはシルクハット分布となるように調整する前記ビーム整形光学系を装置に備える、請求項16から28のいずれかに記載の材料加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−527792(P2010−527792A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508744(P2010−508744)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【国際出願番号】PCT/EP2008/004127
【国際公開番号】WO2008/145305
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(505201168)フラウンホファー ゲゼルシャフト ツール フェルドルンク デル アンゲヴァントテン フォルシュンク エー ファウ (10)
【Fターム(参考)】