説明

レーザ切断装置

【課題】加工ヘッドを移動させることなく微小な孔あけ加工が可能なレーザ切断装置を提供すること。
【解決手段】金属板などのワークWを挟んで上方に加工ヘッド2が、下方には加工台4が配置され、集光レンズ11を備えた加工ヘッド2の開口部からレーザ光LをワークWに照射して切断加工を行うものであって、加工ヘッド2は、保持した集光レンズ11を移動させるレンズ可動手段15を有し、このレンズ可動手段15の駆動により、レーザ光Lの焦点を加工ヘッド2の開口部の範囲内で移動させ、ワークWに対して加工を行うようにしたレーザ切断装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極薄金属板などのワークを上下から挟んだ状態で切断加工するレーザ切断装置に関し、特に広範囲の切断にはワークを支持するテーブルを移動させ、微小範囲の切断にはレーザ光の光軸を変化させるレーザ切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ切断装置は、極薄金属板のワークに対して集光したレーザ光を照射するとともに、アシストガスを噴射して高精度・高品質な微細切断を行う加工装置である。図4は、従来のレーザ切断装置を示した断面図である。
このレーザ切断装置は、不図示のレーザ発振器から加工ヘッド101内の集光レンズ102にレーザ光Lが入射し、その集光レンズ102によって集光されたレーザ光Lは極薄金属板のワークWに焦点を結ぶように照射される。ワークWは、不図示のワーク用テーブルの取付枠によって周縁部が保持され、XY平面上の移動が可能になっている。そのワークWに対し、加工ヘッド101からレーザ光Lが照射されると、ワークW自身が加工ヘッド101に対して相対的に移動することにより、所定形状の切断が行われる。
【0003】
このとき、供給部103から入れられたアシストガスは、レーザ光Lと同じく、ワークWを押さえ付けるチップシール部材110の開口部110aを通ってワークWへ吹き付けられ、その切断部Aを通ってワークWの裏面へ流出する。これにより、切断部Aの溶融によって生じた溶融物が吹き飛ばされて除去され、ワークWへドロスやスパッタの付着が防止されている。また、ワークWは、加工時のアシストガスによって撓まないように、加工ヘッド101の直下にはワークWを裏面から支持する加工台120が固定配置されている。
【特許文献1】特開平11−254169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来のレーザ切断装置では、ワークWの周縁部を保持したワーク用テーブルが、そのワークWをXY方向に移動させることで所定の切断加工が行われていた。しかし、これでは、電子部品などのように小型かつ高密度化が進み、極めて微小な数百μm程度の孔あけ加工などなどが行われるものには十分対応できなかった。そこで、レーザ光Lを照射する加工ヘッド101側にヘッド側ステージを設け、狭い範囲でレーザ光Lの照射位置を変化させる構造のものが提案された。しかし、高速および高精度を満足するには、加工ヘッド101の軽量化と、移動制御にともなって生じる負荷に耐え得る剛性が必要であり、その両立が困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、加工ヘッドを移動させることなく微小な孔あけ加工が可能なレーザ切断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るレーザ切断装置は、金属板などのワークを挟んで上方に加工ヘッドが、下方には加工台が配置され、集光レンズを備えた加工ヘッドの開口部からレーザ光を前記ワークに照射して切断加工を行うものであって、前記加工ヘッドは、保持した前記集光レンズを移動させるレンズ可動手段を有し、当該レンズ可動手段の駆動により、前記レーザ光の焦点を前記加工ヘッドの開口部の範囲内で移動させ、前記ワークに対して加工を行うようにしたものであることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係るレーザ切断装置は、前記加工ヘッドが、ワークに対するレーザ光の照射部分にアシストガスを噴射するノズルを備え、前記レンズ可動手段は、当該ノズル先端の開口部の範囲内でレーザ光の焦点を移動させるようにしたものであるこが好ましい。
また、本発明に係るレーザ切断装置は、前記レンズ可動手段がピエゾ素子又はボイスコイルによってレンズを変位させるようにしたものであることが好ましい。
また、本発明に係るレーザ切断装置は、前記集光レンズが、光軸方向の位置決めを行うホルダによって保持され、そのホルダと一体となって変位が与えられるようにしたものであることが好ましい。
また、本発明に係るレーザ切断装置は、前記加工ヘッドが、ワーク平面に沿って移動可能な駆動手段を有し、レーザ発振器からのレーザ光が光ファイバを介して送られるようにしたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
よって、本発明によれば、加工ヘッド内のレンズ可動手段によってノズル孔範囲内の微小孔の加工を行うようにしたので、加工ヘッドを移動させることなく集光レンズのみを駆動すればよいので、高速高精度の加工が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明に係るレーザ切断装置について一実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1は、レーザ切断装置の実施形態を示した図であり、特に加工ヘッド側を簡略化して示している。
レーザ切断装置1は、従来のものと同様に、加工ヘッド2がヘッド側ステージ3に固定され、その下には不図示のワーク用テーブルが設けられ、ワークWがワーク用テーブルの取付枠に周縁部が保持され、加工可能な状態にセットされる。ワークWは、ワーク用テーブルによってXY平面上を移動し、一方で加工ヘッド2が、ヘッド側ステージ3によってXY平面と平行なUV平面上を移動するよう構成されている。
【0010】
極薄金属板のワークWを切断する加工ヘッド2には、不図示のレーザ発振器から光ファイバ5を介してレーザ光Lが送られるようになっている。ヘッド側ステージ3によって移動が可能な加工ヘッド2に対し、光ファイバ5によってレーザ光Lを確実に送ることができ、かつヘッド側ステージ3への荷重をかけずに軽量化させるようにしている。ヘッド側ステージ3が加工ヘッド2を高速で移動させるため、なるべく移動部分を軽量化させて制御による位置精度を高め、また装置への負荷を減らすようにするためである。一方、ワークWの下側は、加工時のアシストガスによってワークWが撓まないように、加工ヘッド101の直下に加工台4が配置されている。
【0011】
次に、図2は、加工ヘッド2の断面図である。加工ヘッド2は筒状に形成され、光ファイバ5を介して送られたレーザ光Lが不図示のコリメートレンズを介して図示するように平行光とし進入する。加工ヘッド2の筒内の途中にはレーザ光Lを集光する集光レンズ11が筒状のレンズホルダ12によって保持されている。集光レンズ11は、このレンズホルダ12によって光軸方向の位置決めが行われ、レーザ光LのワークWへの焦点位置が調整される。また、加工ヘッド2の下部には、レーザ光Lが集光する部分にノズル13が設けられている。ノズル13の先端には600μmの径の開口部が形成され、その開口部を通ったレーザ光Lの焦点位置での直径が30μm以下でワークWに照射されるよう構成されている。
【0012】
本実施形態では、集光レンズ11をレーザ光Lの光軸Oに対して直交方向に移動させ、その焦点位置を制御するよう構成されている。集光レンズ11を移動させるレンズ可動手段には、加工ヘッド2内にピエゾ素子15が設けられている。ピエゾ素子15は、円筒形状であって上方が固定ブロック21のフランジ部21aにネジ止めされ、上方を固定側とし、下方が可動側となって動きを生じるよう構成されている。集光レンズ11を保持したレンズホルダ12は、そうしたピエゾ素子15の可動側に固定されている。そして、ピエゾ素子15には電極が設けられており、電圧を印加することによって可動側に固定された集光レンズ11に所定の動作を与えるようになっている。
【0013】
加工ヘッド2には、ワークWに対するレーザ切断部にアシストガスを吹き付けるためガス継手14が固定され、不図示のガス供給装置からのアシストガスを内部に供給するよう構成されている。そして、このガス継手14から供給されたアシストガスは、ノズル13へのガス流路16を通って流れ、そのノズル13形状によってワークWの切断部位に集中的に流れ込むようになっている。
【0014】
加工ヘッド2は、固定ブロック21のフランジ部21aに、ピエゾ素子15を覆うように筒体22が固定され、その筒体22に対してガス流路16を構成する流路部材23が固定されている。流路部材23は、レンズホルダ12の形状に沿って構成され、中心に円筒部があり、更に外側へと広がったフランジ部にガス流路16が形成されている。そして、流路部材23の中心の円筒部にはレンズカバー24が保持され、集光レンズ11側へアシストガスが流れ込まないようになっている。また、加工ヘッド2には、流路部材23に円筒形状の下部ブロック25などが固定され、ガス流路16を構成している。
【0015】
加工ヘッド2の下端には、ノズル13を内部に保持した上部ホルダ26が設けられている。上部ホルダ26は、レーザ光Lが照射されるワーク切断部を上方から押さえるものであり、円筒形状をした内部にノズル13を配置し、ワークWと摺接する下面側には、そのワークWが摺動し易く且つ傷が付かないようにするための滑り材27を装着されている。一方、ワークWの下に配置された加工台4は、加工ヘッド2側から送られたアシストガスを吸引するため、中心孔を有するように筒状に形成されている。上部ホルダ26と対向するように下部ホルダが設けられ、レーザ光Lが照射されるワーク切断部を下方から押さえるよう構成されている。
【0016】
次に、本実施形態のレーザ切断装置を使用したレーザ切断加工について説明する。
先ず、ワークWは、その周縁部が不図示のXYテーブルに保持され、予め設定された切断データに基づいてXY平面上の移動が行われる。加工台4は上下動が可能であり、XYテーブルへのワークWの取り付け後に上昇して位置決めが行われる。こうしたセッティングによってワークWが上下のホルダによって挟み込まれる。
【0017】
加工ヘッド2からは、光ファイバ5を介して送られたレーザ光Lが不図示のコリメートレンズを介して図示するように平行光となって進入し、集光レンズ11によって集光したレーザ光Lがノズル13の開口部を通ってワークWに照射される。ワークWはレーザ光Lの入熱により局部的かつ瞬間的に溶融し、XYテーブルの設定された移動によって所定の切断が行われる。その際、継手14から加工ヘッド2内にアシストガスが高圧力で噴射され、ガス流路16を通ってレンズカバー24の下部空間へ流れ、ノズル13によって絞られてワークWの切断部位に集中的に吹き付けられる。
【0018】
また、ワークW下の加工台4では、下部ホルダを貫通した吸引孔が不図示の吸引装置によって吸引されて負圧になっている。従って、アシストガスはワークWの切断部を通って加工台の吸引孔内に流れ込み、ワークWの切断に伴って生じるドロスなどの溶融物は、こうしたアシストガスの流れによって吸引管へと引かれて排出される。
【0019】
こうしたレーザ切断装置1では、固定された状態の加工ヘッド2からレーザ光Lが照射され、XYテーブルの操作によって移動するワークWに対して所定の切断加工が行われる。そして、大きな形状の切断加工にはこうしてXYテーブルが操作され、より狭い範囲の切断加工には、ヘッド側ステージ3によって加工ヘッド2をワークWに対して平行移動させる。更に、本実施形態では、より微小な孔あけなどには、ワークWと加工ヘッド2をともに不動のままレーザ光Lの焦点位置を変化させることによって加工を行う。
【0020】
それには、ヘッド側ステージ3によってUV平面上で加工ヘッド2を移動させて位置決めした後、ピエゾ素子15の電極に電圧を印加して所定動作を与えて加工制御を行う。これにより、レンズホルダ12に保持された集光レンズ11が光軸Oに対して直交方向に移動させ、図3に示すように、ノズル13先端の開口部30内でレーザ光Lの焦点31を移動させ、略四角形の微少孔32などを形成する。
【0021】
集光レンズ11によって集光されたレーザ光Lは、ノズル13先端の開口部30の大きさである直径600μmの円の範囲内に、焦点31の直径が30μm以下のレーザ光Lによって孔あけ加工が行われる。すなわち、ピエゾ素子15によって集光レンズ11の位置を微小量移動させることにより、ワークWに対して照射するレーザ光Lの焦点31の位置を移動させて溶融し、ノズル13先端の開口部30より小さい円形や四角形などの所定形状の微小孔を形成する。そして、ヘッド側ステージ3によってワークWに沿ったUV平面上で加工ヘッド2を移動させて位置決めし、同様にピエゾ素子15を駆動させた微小の孔あけ加工が繰り返される。
【0022】
従って、本実施形態のレーザ切断装置1によれば、加工ヘッド2内のピエゾ素子15によって微小孔の加工を行うようにしたので、集光レンズ11のみを駆動すればよく、高速高精度の加工が可能になった。すなわち、加工ヘッド2自身を移動させるのに比べてピエゾ素子15による集光レンズ11の高速高精度の移動が可能であり、しかも加工ヘッド2とワークWとの摩耗が無いことも高速高精度のレーザ加工に寄与している。
【0023】
一方、より大きな範囲のレーザ切断加工には、XYテーブルを停止させ、固定したワークWに対して加工ヘッド2をUV平面上に移動させることが行われる。その場合、移動する加工ヘッド2には光ファイバ5を介してレーザ光Lが送られるため、加工ヘッド2の自由な移動に対応することが容易である。また、光ファイバ5や微小加工を行うためにピエゾ素子15などの構成としたため、加工ヘッド2を軽量化することができ、加工ヘッド2を移動させた加工も高速かつ高精度に行うことが可能になる。
【0024】
以上、本発明に係るレーザ切断装置の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、前記実施形態では集光レンズを移動させるためにピエゾ素子を使用したが、ボイスコイルを使用して微小加工を行うようにしてもよい。
また、前記実施形態では、ノズル13先端の開口部30内においてレーザ光Lの焦点31を移動させたが、図4に示す従来例のように、ノズルのないチップシール部材110の場合、その開口部内においてレーザ光Lの焦点31を移動させるようにしたものであってもよい。
また、前記実施形態では集光レンズ12をレンズホルダ12に保持させて光軸方向の位置調整をしているが、その位置は加工ヘッド2の構造によって様々に変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】レーザ切断装置の実施形態を示した図であり、特に加工ヘッド側を簡略化して示している。
【図2】レーザ切断装置の実施形態において加工ヘッドを示した断面図である。
【図3】実施形態のレーザ切断装置における微小孔の加工を示した図である。
【図4】従来のレーザ切断装置を示した断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 レーザ切断装置
2 加工ヘッド
3 ヘッド側ステージ
4 加工台
5 光ファイバ
11 集光レンズ
12 レンズホルダ
13 ノズル
15 ピエゾ素子
30 開口部
L レーザ光
O 光軸
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板などのワークを挟んで上方に加工ヘッドが、下方には加工台が配置され、集光レンズを備えた加工ヘッドの開口部からレーザ光を前記ワークに照射して切断加工を行うレーザ切断装置において、
前記加工ヘッドは、保持した前記集光レンズを移動させるレンズ可動手段を有し、当該レンズ可動手段の駆動により、前記レーザ光の焦点を前記加工ヘッドの開口部の範囲内で移動させ、前記ワークに対して加工を行うようにしたものであることを特徴とするレーザ切断装置。
【請求項2】
請求項1に記載するレーザ切断装置において、
前記加工ヘッドは、ワークに対するレーザ光の照射部分にアシストガスを噴射するノズルを備え、前記レンズ可動手段は、当該ノズル先端の開口部の範囲内でレーザ光の焦点を移動させるようにしたものであることを特徴とするレーザ切断装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載するレーザ切断装置において、
前記レンズ可動手段は、ピエゾ素子又はボイスコイルによってレンズを変位させるようにしたものであることを特徴とするレーザ切断装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載するレーザ切断装置において、
前記集光レンズは、光軸方向の位置決めを行うホルダによって保持され、そのホルダと一体となって変位が与えられるようにしたものであることを特徴とするレーザ切断装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載するレーザ切断装置において、
前記加工ヘッドは、ワーク平面に沿って移動可能な駆動手段を有し、レーザ発振器からのレーザ光が光ファイバを介して送られるようにしたものであることを特徴とするレーザ切断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−296266(P2008−296266A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146897(P2007−146897)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】