説明

レーザ加工方法及びレーザ加工装置

【課題】偏光した超短光パルスレーザを低フルーエンスで集光照射しても穴や溝等のエッジ及び穴や溝等の底部がガタガタしないレーザ加工方法及び装置を提供すること。
【解決手段】偏光した超短光パルスレーザLを発生するレーザ発生器1と、超短光パルスレーザLの偏光面を回転させて偏光面が回転している状態の超短光パルスレーザを出射する回転偏光制御素子2と、回転偏光制御素子2から出射される偏光面が回転している状態の超短光パルスレーザを低フルーエンスで被加工材料5上に集光照射するレーザ照射手段3と、を有することを特徴とするレーザ加工装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーザ加工方法及び装置に関し、詳しくは、超短光パルスレーザを用いた微細な除去加工を行う加工方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザを集光照射して除去加工(穴あけ、穴掘り、溝掘り、切断、など)を行うには、エネルギ密度(フルーエンス)を除去加工に必要な閾値以上にする必要がある。集光照射スポット径を小さくすれば、同じフルーエンスに対しレーザエネルギを下げることができるし、微細な加工(例えば、穴径の小さな穴加工や、溝幅の狭い溝加工など)を行うことができる。スポット径を小さくしても所謂トレパニング(刳り抜き)加工を行うことで、穴径の大きな穴加工や溝幅の広い溝加工ができるので、スポット径を小さくすれば、小さな穴から大きな穴まで、狭い溝から広い溝まで加工することができる。本明細書では、集光スポットを円形に動かすことを”トレパニング”と記載する。
【0003】
高倍率(焦点距離の短い)のレンズで集光することで、集光スポット径を小さくできるが、回折限界があり、レーザの波長オーダまでしか集光することができない。
【0004】
一方、超短光パルスレーザをレンズで集光して、例えば穴あけ加工を行うと、レーザの波長が800nmで集光スポット径が50μmの場合でも、穴径が580nmの穴あけができることが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。すなわち、超短光パルスレーザを集光することで、回折限界以下の微小な穴をあけることができる。
【非特許文献1】光産業技術振興協会、「光テクノロジーロードマップ報告書−光加工分野−」、2003年3月、p.64−65
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
超短光パルスレーザをレンズで集光照射して穴あけ加工するする場合の穴径は、加工閾値と集光領域のエネルギ密度曲線の交点になるので、加工閾値(被加工材料で異なる)とフルーエンスで異なる。図3は、超短パルスレーザを半径aの円形に集光したときのフルーエンス(エネルギ密度)の分布曲線Eを模式的に示したものである。集光照射される被加工材料の加工閾値がEthの場合、直径2aの穴があき、E’thの場合、2a’の穴が、E”thの場合、2a”の穴がそれぞれあくことになる。被加工材料の材質によって加工閾値が異なり、a>a’>a”であるので、加工閾値が高い材料ほど小さい穴になる。この事は、加工閾値ぎりぎりのフルーエンスで加工することで、より小さい穴あけ加工、微細加工ができることを示している。しかし、上記従来の超短光パルスレーザを集光照射する加工方法では、加工閾値ぎりぎりのフルーエンス、すなわち低フルーエンスで加工すると、レーザが偏光している場合、加工穴や加工溝等の周辺(とば口)、及び穴や溝等の底面に周期微細構造ができて、穴や溝等のエッジ及び穴や溝等の底部がガタガタし、高精度の加工をすることができないという問題を有していた。なお、レーザは、通常偏光した場合が多い。
【0006】
本発明は、上記の従来のレーザ加工方法の問題に鑑みてなされたものであり、偏光した超短光パルスレーザを低フルーエンスで集光照射しても穴や溝等のエッジ及び穴や溝等の底部がガタガタしないレーザ加工方法及び装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決するためになされた請求項1に係る発明は、偏光した超短光パルスレーザの偏光面を回転させる回転ステップと、前記回転ステップで偏光面が回転させられて偏光面が回転している状態の前記超短光パルスレーザを低フルーエンスで被加工材料上に集光照射するレーザ照射ステップと、を有することを特徴とするレーザ加工方法である。
【0008】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載のレーザ加工方法であって、さらに、前記被加工材料上で前記集光照射する位置を円形に動かすトレパニングステップを有することを特徴としている。
【0009】
課題を解決するためになされた請求項3に係る発明は、偏光した超短光パルスレーザを発生するレーザ発生器と、前記超短光パルスレーザの偏光面を回転させて偏光面が回転している状態の超短光パルスレーザを出射する回転偏光制御素子と、前記回転偏光制御素子から出射される前記偏光面が回転している状態の超短光パルスレーザを低フルーエンスで被加工材料上に集光照射するレーザ照射手段と、を有することを特徴とするレーザ加工装置である。
【0010】
また、請求項4に係る発明は、請求項3に記載のレーザ加工装置であって、前記偏光制御素子が1/2波長板であることを特徴としている。
【0011】
また、請求項5に係る発明は、請求項3或いは4に記載のレーザ加工装置であって、さらに、前記被加工材料上で前記集光照射する位置を円形に動かすトレパニング手段を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、偏光した超短光パルスレーザの偏光を回転させる回転ステップを有するので、周期微細構造の形成を防止することができる。よって、穴や溝等のエッジ及び穴や溝等の底部がガタガタしない高精度の加工を行うことができる。
【0013】
請求項2の発明によれば、被加工材料上で集光照射する位置を円形に動かすトレパニングステップを有するので、超短光パルスレーザの断面形状が円形でなくても、真円の穴をあけることができる。
【0014】
請求項3の発明によれば、超短光パルスレーザの偏光面を回転させて偏光面が回転している状態の超短光パルスレーザを出射する回転偏光制御素子を有しているので、周期微細構造の形成を防止することができる。
【0015】
請求項4の発明によれば、偏光制御素子が1/2波長板であるので、エネルギロスなく偏光面を回転させることができる。
【0016】
請求項5の発明によれば、被加工材料上で前記集光照射する位置を円形に動かすトレパニング手段を有するので、超短光パルスレーザの断面形状が円形でなくても、真円の穴をあけることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0018】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るレーザ加工装置の構成図である。1は偏光した超短光パルスレーザLを発生するレーザ発生器、2は偏光面が回転している状態の超短光パルスレーザを出射する回転偏光制御素子、3は超短光パルスレーザを低フルーエンスで被加工材料5の上に集光照射するレーザ照射手段を構成する集光レンズ、4はトレパニング手段、5は被加工材料、6はXY移動ステージである。
【0019】
レーザ発生器1は、波長が226〜1600nm、望ましくは700〜1600nmの範囲で、パルス幅が10fs〜10ps、望ましくは50fs〜2psの範囲の超短光パルスレーザLを発生するレーザ発生器がよい。ガラス、セラミックス、結晶等の硬脆材料、樹脂材料、金属材料、透明材料など幅広い材料を高速にアブレーション加工したり、衝撃加工したり、多光子吸収を利用して加工したりすることができる。上記特性のパルスレーザを発生するレーザ発生器として、例えば、アイシン精機製フェムトライト(FCPA μJewel D−400)を用いることができる。このフェムトライトは、中心波長が1045nm、パルス幅が300fs、繰り返し周波数が200KHzの直線偏光した超短光パルスレーザを発生する。レーザ発生器1から発生されるパルスレーザが円偏光している場合は、回転偏光制御素子2の前に、例えば1/4波長板を挿入して円偏光を直線偏光にすればよい。
【0020】
回転偏光制御素子2は、回転手段7に取り付けられた偏光制御素子である。偏光制御素子としては、偏光板、1/2波長板、ファイバ偏光子などを用いることができるが、1/2波長板が好ましい。そうすることで、エネルギロスなく偏光面を回転させることができる。
【0021】
回転手段7は、中空シャフト71の回りに回転する回転子72を備えた、例えば電動モータ、エアタービン等である。
【0022】
トレパニング手段4は、X軸ガルバノミラー42とY軸ガルバノミラー43を備えている。41は、ベンディングミラーである。
【0023】
集光レンズ3には、1枚の凸レンズ、収差補正した組み合わせレンズ、或いはfθレンズを用いることができる。トレパニング手段4が上記のようにガルバノミラーを用いている場合、集光スポット径を小さくして微細加工を行うには、fθレンズを用いる必要がある。
【0024】
集光レンズ3から被加工材5の表面までの距離を調節することで集光照射スポット径を所定の値に設定することができる。また、レーザ発生器1の出力を調整することで、集光照射スポットpにおけるフルーエンスを所定の値(低フルーエンス)に設定することができる。したがって、本実施形態のレーザ加工装置における低フルーエンスで被加工材料上に集光照射するレーザ照射手段は、レーザ発生器1と集光レンズ3で構成されることになる。なお、レーザ発生器1が出力調整機能を備えていない場合は、例えば、レーザ発生器1の後にアッテネータを挿入すればよい。
【0025】
ここで、「フルーエンス(fluence)」とは、レーザの1パルス当たりのエネルギE(J)を照射断面積S(cm2)で割ったエネルギ密度E/S(J/cm2)である。「低フルーエンス」とは、材料表面が蒸散する現象(アブレーション)が生じるエネルギ密度の最小値(アブレーション閾値)近傍のフルーエンスのことである。アブレーション閾値及び低フルーエンスの範囲では材料表面に熱影響がほとんどない。このアブレーション閾値及び低フルーエンスの範囲は、材料によって異なる。低フルーエンスの範囲は、主にその材料の融点の違いにより異なり、通常アブレーション閾値の5倍程度を上限とする範囲で、材料によっては10倍程度の範囲まで熱影響がほとんど生じない場合もある。
【0026】
次に、本実施形態のレーザ加工装置の動作について説明する。まず、集光レンズ3から被加工材5の表面までの距離を調節して集光スポット径を所定の値に設定する。次にレーザ発生器1の出力を調整して、集光スポットpにおけるフルーエンスを所定の値に設定する。次にレーザ発生器1から直線偏光した所定の出力に調整された超短光パルスレーザを発生させる。すると発生したレーザは、回転している1/2波長板2に入射し、1/2波長板2によって偏光面が回転させられ、波長板2から偏光面が回転している超短光パルスレーザが出射される。次に、波長板2から出射された超短光パルスレーザは、X軸ガルバノミラー42、Y軸ガルバノミラー43で順次反射され、集光レンズ3で所定の集光スポット径に集光されて被加工材料5に照射される。
【0027】
X軸ガルバノミラー42、Y軸ガルバノミラー43で集光照射スポットpを円運動すなわちトレパニングさせれば、被加工材5に真円の穴を加工することができる。すなわち、X軸ガルバノミラー42にX=rcosθ、Y軸ガルバノミラー43にY=rsinθ信号を供給することにより、集光照射スポットpがトレパニングして、直径2rの真円の穴があく。そして、集光照射スポットのフルーエンスが低フルーエンスに調整されているので、穴のとば口や穴の底に周期微細構造が形成されず、高精度の穴堀り加工を行うことができる。
【0028】
また、穴掘りを行いながら、XY移動ステージ6を移動させることで、幅2rの溝が形成される。そして、集光照射スポットのフルーエンスが低フルーエンスに調整されているので、溝のとば口や溝の底に周期微細構造が形成されず、高精度の溝掘り加工を行うことができる。
【0029】
(実施形態2)
図2は、本発明の実施形態2に係るレーザ加工装置の構成図である。本実施形態のレーザ加工装置は、実施形態1のレーザ加工装置におけるガルバノミラーを用いたトレパニング手段4を回転ウエッジ板4’にし、XY移動ステージ6を省略した以外は基本的に同じである。実施形態1のレーザ加工装置と同じ構成要素には同じ符号を付し説明を省略する。
【0030】
回転ウエッジ板4’は、回転手段7の回転子72に取り付けられたウエッジ板である。
【0031】
次に、回転ウエッジ板4’でトレパニングするメカニズムについて説明する。入射面41’と出射面42’のなす角度がαの実線で示すウエッジ板4’に光軸10方向からパルスレーザLが入射すると、スネルの法則により光軸10とθをなす方向に偏向され、実線で示すレーザLaを出射する。θとαの間には次式の関係がある。
【0032】
θ=sin-1[nsinα]−α (1)
ここで、nはウエッジ板4’の屈折率である。
【0033】
光軸10とθをなすレーザLaが集光レンズ3に入射すると、実線で示すようにレンズ3から焦点距離F離れた位置にある被加工材料5の上面における光軸10からrの位置に集光され、集光スポットpとなる。rとθには次式の関係がある。
【0034】
r=Ftanθ (2)
レーザLが点線で示す180°回転したウエッジ板4’に入射すると、光軸10と−θをなす方向に偏向され、点線で示すレーザLbを出射する。
【0035】
光軸10と−θをなすレーザLbが集光レンズ3に入射すると、やはり、点線で示すように被加工材料5の上面における光軸10からrの位置に集光され、集光スポットpとなる。
【0036】
図2Bは、図2Aの被加工材料5をZ軸(光軸10)方向から見た図であるが、ウエッジ板4’が矢印11方向に回転すると、集光スポットpも矢印12方向に順次形成され、半径rのトレパニング円8を描く。
【0037】
(1)式と(2)式からトレパニング円8の大きさ(半径r)は、集光レンズ3の焦点距離F、ウエッジ板4’のウエッジ角αで制御できることがわかる。
【0038】
本実施形態のレーザ加工装置では、トレパニング手段にガルバノミラーを用いていないので、集光レンズ3にfθレンズを用いる必要がなく、収差補正された例えば顕微鏡対物レンズを使用することができる。したがって、集光照射スポットpをfθレンズを用いた場合の実施形態1のレーザ加工装置より小さくすることができ、より微細な加工を行うことができる。
【0039】
また、回転手段7で偏光制御素子2とウエッジ板4’を同時に回転させることができ、実施形態1のレーザ加工装置に比べ、装置の小型化、低コスト化が図られる。
【0040】
(実施例1)
超硬材を図1のレーザ加工装置にセットして、下記の条件で超短光パルスレーザを照射し、穴あけ加工を行った。
【0041】
すなわち、条件としては、
レーザ発生器1 :中心波長1045nm±5nm、出力400mW、パ ルス幅300fs、繰り返し周波数:200kHz、 直線偏光
回転偏光制御素子2:1/2波長板
回転手段7 :中空シャフト電動モータ、回転数16000rpm
トレパニング手段4:ガルバノミラーシステム(シグマ光機(株)製)
集光レンズ3 :倍率50倍、開口数0.55、焦点距離3.6mm
フルーエンス :40μJ/cm2
加工出力 :1mW
被加工材5 :超硬材
XY移動ステージ :移動量0mm
トレパニング径 :1μm
である。
【0042】
上記の条件で穴堀加工を実施した結果、φ1.8μmの真円に近い穴を加工することができた。また、穴のとば口(周辺)及び、穴の底部に周期微細構造が観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のレーザ加工方法及び装置は、携帯電話やディスプレイ装置といった精密電子機械部品等の加工に用いられ、産業上の利用可能性が極めて高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態1に係るレーザ加工装置の構成図である。
【図2】本発明の実施形態2に係るレーザ加工装置の構成図である。
【図3】超短パルスレーザを半径aの円形に集光したときのフルーエンス(エネルギ密度)の分布曲線Eを模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0045】
1・・・・・・・・・レーザ発生器
2・・・・・・・・・回転偏光制御素子
3・・・・・・・・・集光レンズ(レーザ照射手段を一部兼ねる)
4、4’・・・・・・トレパニング手段
5・・・・・・・・・被加工材料
L・・・・・・・・・偏光した超短光パルスレーザ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光した超短光パルスレーザの偏光面を回転させる回転ステップと、
前記回転ステップで偏光面が回転させられて偏光面が回転している状態の前記超短光パルスレーザを低フルーエンスで被加工材料上に集光照射するレーザ照射ステップと、
を有することを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
さらに、前記被加工材料上で前記集光照射する位置を円形に動かすトレパニングステップを有することを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
偏光した超短光パルスレーザを発生するレーザ発生器と、
前記超短光パルスレーザの偏光面を回転させて偏光面が回転している状態の超短光パルスレーザを出射する回転偏光制御素子と、
前記回転偏光制御素子から出射される前記偏光面が回転している状態の超短光パルスレーザを低フルーエンスで被加工材料上に集光照射するレーザ照射手段と、
を有することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項4】
前記偏光制御素子が1/2波長板であることを特徴とする請求項3に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
さらに、前記被加工材料上で前記集光照射する位置を円形に動かすトレパニング手段を有することを特徴とする請求項3或いは4に記載のレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−118054(P2007−118054A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315103(P2005−315103)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(592253736)シグマ光機株式会社 (46)
【Fターム(参考)】