説明

レーザ加工装置、及び、レーザ加工方法

【課題】レーザ加工装置及びレーザ加工方法において、簡素な構成で空間変調素子の劣化を防止する。
【解決手段】レーザ光を発振するレーザ光源102と、このレーザ光源102により発振され基準面103aに入射するレーザ光を偏向する偏向素子が2次元に配列された空間変調素子103と、この空間変調素子103により空間変調された変調光を被加工物10に投影する投影光学系104と、を備えるレーザ加工装置1において、空間変調素子103は、基準面103aに対して垂直にレーザ光(光軸A2)が入射するように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間変調素子を用いてレーザ加工を行うレーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーザ加工装置としては、光源と結像レンズとの間に微小ミラーアレイであるDMD(Digital Mirror Device:Texas Instruments社の登録商標)を設置し、DMD上の各微小ミラーの角度をオン/オフ制御することで、被加工物の被加工面を任意のパターン形状で加工する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図11は、従来のレーザ加工装置を示す模式図である。
図12は、空間変調素子を示す概略構成図である。
図13は、従来の空間変調素子に入射するレーザ光を示す概略構成図である。
【0004】
図11に示すように、レーザ加工装置401は、レーザ光源402と、例えばDMDである空間変調素子403と、結像レンズ404a及び対物レンズ404bを含む投影光学系404と、を備え、被加工物10上の図示しない欠陥をレーザ光により修正する。
【0005】
レーザ光源402は、レーザ光を発振する。発振されたレーザ光は、図示しない光学素子により分布が平坦化された後、空間変調素子403に入射する。この入射角は、図13に示す複数の微小ミラー403bが互いに平行な状態の偏向面である基準面403aの垂線に対して24°である。
【0006】
空間変調素子403は、レーザ光源402により発振されて基準面403aに入射するレーザ光を空間変調(所望の形状に変換)し、水平な基準面403aに垂直な鉛直下方に出射する。
【0007】
投影光学系404の結像レンズ404a及び対物レンズ404bは、空間変調素子403から鉛直下方に出射された変調光を、被加工物10の表面上に結像させる。これにより、被加工物10上の欠陥は、レーザ光により加工される。
【0008】
図12及び図13に示すように、空間変調素子403は、矩形状の変調領域内に2次元的に等ピッチで配列された複数の微小ミラー403bと、ヒンジ403cと、回転軸部403dと、一対のランディングパット403e(一方のみ図示)と、一対のアドレス電極403f、403fと、基板403gと、を含む。
【0009】
ヒンジ403cは、複数の微小ミラー403bのそれぞれに設けられ、微小ミラー403bを支持する。
回転軸部403dは、その軸方向中心においてヒンジ403cの下端に連結され、微小ミラー403bの揺動運動の回転中心となる。
【0010】
一対のランディングパット403eは、これらに架け渡された回転軸部403eの両端を支持する。
一対のアドレス電極403f,403fは、微小ミラー403bを静電力によりオン状態とオフ状態とに揺動させる。オン状態の微小ミラー403bは、基準面403aの垂線方向に変調光を射出する。なお、複数の微小ミラー403bは、それぞれ独立して各一対のアドレス電極403f,403fによって揺動する。
【0011】
ところで、微小ミラー403bは、一対のランディングパット403eのうち一方に突き当たって停止する位置で回転角が決まるが、このような微小ミラー403eとランディングパット403eとの物理的接触は、スティッキングと呼ばれる不具合を発生させる原因となる。ここで、スティッキングとは、微小ミラー403bがランディングパット403eに貼り付いて動作できなくなる現象である。
【0012】
通常、スティッキングを防止するために、空間変調素子403のデバイス全体には潤滑剤が塗布されている。
【0013】
ところが、図13に示すように、微小ミラー403bが空間変調素子403に入射するレーザ光Lの入射側とは反対側に傾いている状態、すなわちオフ状態となっているときに、例えばYAG第四高調波(波長266nm)のような紫外レーザであるレーザ光が空間変調素子403の基準面403aの垂線に対して24°の傾斜角で空間変調素子403に入射すると、ランディングパット403eに塗布された潤滑剤は、レーザ光が照射されることで劣化する。そのため、上記のスティッキングが発生しやすくなる。
【0014】
上記特許文献1には、微小ミラーの隙間から入り込んだレーザ光が微小ミラーの下部に損傷を与えるのを防止するため、光源と空間変調素子との間の光軸にダメージ防止マスクを設けた装置について記載されている。
【0015】
上記特許文献1のダメージ防止マスクは、空間変調素子の微小ミラーのピッチと一致した等間隔の格子状のマスクであり、格子部分にはレーザ光に対して不透明な材質が用いられ、格子幅はミラー隙間の幅に一致する形状になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平11−320963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上記特許文献1に記載されるようなダメージ防止マスクは、空間変調素子の微小ミラー間の隙間が最も大きくなる状態、すなわち、空間変調素子の開口率が最も低くなるオフ状態時の開口率に一致するように、ダメージ防止マスクの形状を設定する必要がある。そのため、空間変調素子の開口率が最大になるオン状態のときに、空間変調素子が本来持つ開口率を最大限活用できなくなり、エネルギ効率が低くなる。
【0018】
この場合、微小ミラー全面にレーザ光を照射できなくなるため、ダメージ防止マスクがない場合と同じ加工エネルギを得ようとする場合、開口率が減少した分だけ微小ミラー面上に照射されるエネルギ密度を高めなければならない。そのため、ミラー面の損傷リスクがより大きくなる。
【0019】
更に、空間変調素子へ照射するレーザ光の波長を変化させるとき、エネルギ効率向上のための条件設定を行わなければならない。通常、空間変調素子に照射するレーザ光の波長を変化させる場合、空間変調素子からの出力効率を向上させるために、空間変調素子の微小ミラーへの入射角を変化させる必要がある。
【0020】
これは、空間変調素子からの出力光が0次以外の高次回折光であることに起因するためであり、回折効率を高めるには波長ごとに入射角を変更するなどの回折条件の最適化を行うことが必要である。
【0021】
ところが、回折効率が最大になるようにレーザ光の入射角度を変更すると、レーザ光の入射光軸側から見た微小ミラーの見かけのピッチが変化してしまう。このように変化した微小ミラーの見かけのピッチとダメージ防止マスクのピッチとを一致させるためには、ピッチの異なるダメージ防止マスクを複数在庫しておく必要があると共に、管理費が高価になる。
【0022】
更にまた、微小ミラーの隙間のサイズはサブミクロンレベルであるため、空間変調素子に対してダメージ防止マスクをサブミクロンレベルで位置合わせしなければならず、高価なアライメント装置が必要になる。
【0023】
本発明の目的は、簡素な構成で空間変調素子の劣化を防止することができるレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明のレーザ加工装置は、レーザ光を発振するレーザ光源と、このレーザ光源により発振され基準面に入射する上記レーザ光を偏向する偏向素子が2次元に配列された空間変調素子と、この空間変調素子により空間変調された変調光を被加工物に投影する投影光学系と、を備えるレーザ加工装置において、上記空間変調素子は、上記基準面に対して垂直に上記レーザ光が入射するように配置されている構成とする。
【0025】
本発明のレーザ加工方法は、レーザ光を空間変調素子の基準面に入射させ、この空間変調素子により空間変調された変調光を被加工物に投影するレーザ加工方法において、上記レーザ光を上記空間変調素子の基準面に対して垂直に入射させるようにする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、簡素な構成で空間変調素子の劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施の形態に係るレーザ加工装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るレーザ加工装置を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施の形態における空間変調素子を示す概略構成図である。
【図4】本発明の一実施の形態の変形例に係るレーザ加工装置を示す模式図である。
【図5】本発明の他の実施の形態に係るレーザ加工装置を示す模式図である。
【図6】本発明の他の実施におけるレーザ加工の流れを示すフローチャートである。
【図7】本発明の他の実施の形態における変調領域を示す説明図(その1)である。
【図8A】本発明の他の実施の形態における変調領域を示す説明図(その2)である。
【図8B】本発明の他の実施の形態における変調領域を示す説明図(その3)である。
【図9】本発明の他の実施の形態における変調領域を示す説明図(その4)である。
【図10】本発明の他の実施の形態における変調領域を示す説明図(その5)である。
【図11】従来のレーザ加工装置を示す模式図である。
【図12】空間変調素子を示す概略構成図である。
【図13】従来の空間変調素子に入射するレーザ光を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施の形態及び他の実施の形態に係るレーザ加工装置及びレーザ加工方法について、図面を参照しながら説明する。
【0029】
<一実施の形態>
図1は、本発明の一実施の形態に係るレーザ加工装置101を示す概略構成図である。
図1に示すレーザ加工装置101は、レーザ光源102、空間変調素子103、投影光学系104、制御部105等を備える。
【0030】
レーザ加工装置101は、例えば、液晶ディスプレイ(LCD)その他のフラットパネルディスプレイ(FPD)や、ウェハ基板などの被加工物10の製造工程におけるリペア加工に用いられる。
【0031】
レーザ光源102は、リペア加工用の光源であり、ステージ20に載置された被加工物10上の欠陥を除去できるように照射条件を設定されたレーザ光を発振する。レーザ光としては、例えば、パルス発振可能なYAGレーザなどを好適に採用することができる。
【0032】
レーザ光源102は、制御部105に電気的に接続され、制御部105からの制御信号に応じてレーザ光のオン・オフ、波長、光出力、発振パルス幅などが制御される。なお、レーザ光源102内に、欠陥と加工パターンとの位置合わせを行うためのガイド光を空間変調素子303に照射する光源を配置してもよい。
【0033】
光ファイバ106は、レーザ光源102の図示しない結合レンズにより光結合されたレーザ光を内部で伝搬させて加工ヘッド107(二点鎖線で図示)内に導き、レーザ光L1として出射するものである。
加工ヘッド107は、その内部に、空間変調素子103、投影光学系104、観察用光源108、観察用結像レンズ109、撮像素子110などの光学素子やデバイスを保持している。
【0034】
レンズ群111は、加工ヘッド107に固定された光ファイバ106の端面と空間変調素子103の変調領域とを共役な関係とするように配置とされ、光ファイバ106端面の像を空間変調素子103の変調領域全体に照射できるように投影倍率が設定されたレンズ群である。
【0035】
空間変調素子103は、レンズ群111により分布が平坦化されたレーザ光L1(光軸A2)を空間変調(光束断面形状を整形)するもので、微小ミラーアレイである例えばDMDからなる。空間変調素子103には、基準面103aに入射するレーザ光L1(光軸A2)を偏向する偏向素子としての微小ミラー(図3の微小ミラー103b参照)が矩形状の変調領域内に2次元に等ピッチで配列されている。なお、基準面103aは、図3に示す微小ミラー103bが互いに平行な状態の偏向面である。各微小ミラー103bは、独立してオン・オフ制御が可能となっている。
【0036】
本実施の形態では、レーザ光L1の光路上にミラー112を配置することで、レーザ光L1の光軸A1を光軸A2の方向に反射させている。空間変調素子103は、基準面103aに対して垂直にレーザ光L1(光軸A2)が入射するように配置されている。
【0037】
投影光学系104は、結像レンズ104a及び対物レンズ104bを含み、空間変調素子103により空間変調された変調光であるレーザ光L1(光軸A3)を、被加工物10上に所望の倍率で投影する光学素子群である。結像レンズ104aは空間変調素子103側に、対物レンズ104bは被加工物10側に、それぞれ配置されている。
【0038】
対物レンズ104bとして、例えば、被加工物10のレジストパターンを加工するための紫外用対物レンズ等が複数個配置される。これら複数個の対物レンズ104bは、互いに倍率が異なり、図示しないレボルバ機構によって切り替え可能に保持されている。そのため、レボルバ機構を回転させて対物レンズ9を切り替えることで、投影光学系104の倍率を変更できるようになっている。
【0039】
投影光学系104の光軸A3は、変調光であるレーザ光L1の光軸A3と互いに一致している。
観察用光源108は、被加工物10上の加工領域を照明するための観察用光L2を発生する光源であり、観察用光源108としては、例えば、可視光を発生するキセノンランプやLEDなど適宜の光源を採用することができる。
【0040】
結像レンズ104aと対物レンズ104bとの間には、変調光であるレーザ光L1(光軸A3)を透過し、観察用光L2(光軸A4)を対物レンズ104bに向けて反射するハーフミラー113が設けられている。そして、観察用光源108とハーフミラー113との間には、観察用光L2を適宜径の照明光束に集光する集光レンズ114が設けられている。
【0041】
結像レンズ104aとハーフミラー113との間には、変調光であるレーザ光L1を透過し、被加工物10からの反射光である観察用光L2をミラー116に向けて反射するハーフミラー115が設けられている。そして、ミラー116は、ハーフミラー115から入射する観察用光L2(光軸A5)を観察用結像レンズ109に向けて反射する(光軸A6)。
【0042】
観察用結像レンズ109は、撮像素子110の撮像面上に結像するための光学素子である。なお、撮像素子110は、撮像面上に結像された画像を光電変換するもので、例えば、CCDなどからなる。
【0043】
制御部105の装置構成は、例えば、CPU、メモリ、入出力部、外部記憶装置などで構成されたコンピュータと適宜のハードウェアとの組合せからなる。また、制御部105は、例えば、操作パネル、キーボード、マウスなどの適宜の操作入力手段を備えるユーザインタフェースからの操作入力に基づいて、レーザ加工装置1の動作を制御するものであり、レーザ光源102、空間変調素子103、撮像素子110に電気的に接続され、それぞれの動作や動作タイミングを制御できるようになっている。
【0044】
制御部105は、レーザ光源7に対して、レーザ光を発振させる制御信号を送出し、被加工物10に応じて予め選択された照射条件に基づいて、レーザ光を発振させる。レーザ光の照射条件としては、例えば、波長、光出力、発振パルス幅などが挙げられる。
【0045】
また、制御部105は、空間変調素子103の図2に示す微小ミラー103bをオン・オフ制御することにより、被加工物10の加工形状に対応する加工パターンを空間変調素子103に設定する。
【0046】
なお、詳しくは後述するが、投影光学系104の光軸A3は、ステージ20上の被加工物10の被加工面の垂線(図2に点線で示す仮想線V)に対して傾斜している。そのため、被加工物10を水平なステージ20に載置する場合には、空間変調素子103の変調光(レーザ光)及び投影光学系104の光軸A3は、鉛直方向に対し傾斜させる必要がある。
【0047】
図2は、本発明の一実施の形態に係るレーザ加工装置101を示す模式図である。
なお、図2では便宜上、図1に示すレーザ加工装置101のうちミラー112等の図示を省略して、ミラー112の位置にレーザ光源102を図示している。
【0048】
図2に示すように、空間変調素子103は、その基準面103aに対して垂直にレーザ光(光軸A2)が入射するように配置されている。また、空間変調素子103は、入射するレーザ光(光軸A2)を、オン状態のときに24°の角度で出射する。
【0049】
投影光学系104は、その光軸A3が空間変調素子103による変調光(光軸A3)に一致するように配置されている。そして、被加工物10の加工領域が空間変調素子103の変調領域と共役となるように、被加工物10の被加工面の垂線(点線で示す仮想線V)は、投影光学系104の光軸A3に対して傾斜している。
【0050】
本実施の形態では、図1に示す制御部105は、被加工物10の位置ごとに、空間変調素子103に設定された加工パターンの倍率が異なるのを補正するように、空間変調素子103に設定する加工パターンを調整する。
【0051】
被加工物10のうち、倍率が高い側の加工領域では、加工形状に対する加工パターンの大きさの割合を、倍率が低い側の加工領域よりも小さくする必要がある。そのため、制御部105は、被加工物10の加工領域のうち倍率が低い側から高い側にいくほど上記の割合が小さくなるように、加工パターンを調整する。
【0052】
図3は、本発明の一実施の形態における空間変調素子103を示す概略構成図である。
図3に示すように、空間変調素子103は、微小ミラー103bと、ヒンジ103cと、回転軸部103dと、回転角規制部材としての一対のランディングパット103e(一方のみ図示)と、一対のアドレス電極103f、103fと、基板103gと、を含む。
【0053】
ヒンジ103cは、複数の微小ミラー103bのそれぞれに設けられ、微小ミラー103bの裏面中央を支持する。
回転軸部103dは、その軸方向中心においてヒンジ103cの下端に連結され、微小ミラー103bの揺動運動の回転中心となる。
【0054】
一対のランディングパット103eは、これらに架け渡された回転軸部103eの両端を支持すると共に、微小ミラー103bに接触することで微小ミラー103bの回転角を規制する。
【0055】
一対のアドレス電極103f,103fは、微小ミラー103bを静電力によりオン状態とオフ状態とに揺動させる。なお、複数の微小ミラー103bは、それぞれ独立して各一対のアドレス電極103f,103fによって揺動する。
【0056】
空間変調素子103のデバイス全体(一対のランディングパット103e等)には、一対のランディングパット103eの一方と微小ミラー103bとが貼り付いて動作できなる現象であるスティッキングを防止するために、潤滑剤が塗布されている。
【0057】
一対のランディングパット103eは、レーザ光(光軸A2)が照射されない非照射領域103e−R(点線で図示)に配置されている。この非照射領域103e−Rは、微小ミラー103bの裏面側で、且つ、微小ミラー103bの回転位置によらず(微小ミラー103bが図3に実線で示すオフ状態にあるときも二点鎖線で示すオン状態103b−1にあるときも)レーザ光が照射されない領域である。
【0058】
被加工物10を加工する際には、図1に示す制御部105は、欠陥位置に加工ヘッド107を移動させる。そして、対物レンズ104bを移動させることにより顕微鏡(加工ヘッド107)のフォーカス調整が行われた後、制御部105は、例えば撮像素子110により得られた撮像データ(加工形状)を基に空間変調素子103に加工パターンを設定する。
【0059】
そして、上述のように、制御部105は、図2に示すレーザ光源102からレーザ光を発振させ、空間変調素子103の基準面103aに対してレーザ光(光軸A2)を垂直に入射させる。空間変調素子103により空間変調されたレーザ光(光軸A3)は、投影光学系104により被加工物10に投影される。
【0060】
以上説明した本実施の形態では、空間変調素子103は、基準面103aに対して垂直にレーザ光L1(光軸A2)が入射するように配置されている。
そのため、例えばYAG第四高調波(波長266nm)のような紫外レーザであるレーザ光L1(光軸A2)が空間変調素子103のランディングパット103e等に照射される領域を抑え、ランディングパット103e等に塗布された潤滑剤が劣化するのを防ぐことができる。
【0061】
また、従来のように空間変調素子103への不要なレーザ光の入射を防ぐためにダメージ防止マスクを空間変調素子103とレーザ光源7との間に配置する場合には、レーザ光のエネルギ密度を高くする必要があるが、本実施の形態では、ダメージ防止マスクを用いる必要がないため、ミラー面の損傷リスクがより大きくなる。更には、本実施の形態では、ダメージ防止マスクを用いる必要がないため、ダメージ防止マスクを複数種類在庫しておく必要も、ダメージ防止マスクを用いるためのアライメント装置を用いる必要もなくなる。
よって、本実施の形態によれば、簡素な構成で空間変調素子103の劣化を防止することができる。
【0062】
また、本実施の形態は、投影光学系104は、その光軸A3が空間変調素子103により空間変調された変調光(光軸A3)に一致するように配置され、投影光学系104の光軸A3は、被加工物10の被加工面の垂線(V)に対して傾斜している。そのため、空間変調素子103による変調光を被加工物10の被加工面に投影させて被加工物10の加工を確実に行うことができる。
【0063】
また、本実施の形態では、制御部105は、空間変調素子103の微小ミラー103bをオン・オフ制御することにより、被加工物10の加工形状に対応する加工パターンを空間変調素子103に設定する。また、制御部105は、被加工物10の位置ごとに異なる加工パターンの倍率を補正するように加工パターンを設定する。そのため、被加工物10の位置ごとに空間変調素子103の加工パターンの倍率が異なっても、被加工物10の加工を確実に行うことができる。
【0064】
図4は、本発明の一実施の形態の変形例に係るレーザ加工装置201を示す模式図である。
本変形例のレーザ加工装置201は、投影光学系204及び被加工物10の配置位置において図1に示すレーザ加工装置101と相違し、その他の点は同様であるため、レーザ光源202や空間変調素子203などについての説明は適宜省略する。
【0065】
図4に示すように、空間変調素子203は、レーザ光源202により発振されたレーザ光(光軸A2)が、基準面203aに対して垂直に入射するように配置されている。また、空間変調素子203は、入射するレーザ光(光軸A2)を、オン状態のときに24°の角度で出射する。
【0066】
投影光学系204は、図2に示す投影光学系104と同様に、複数の光学素子である結像レンズ204a及び対物レンズ204bを有する。結像レンズ204aの光軸A11と対物レンズ204bの光軸A12とは平行であるが互いにシフトしている。そして、結像レンズ204aには、空間変調素子203からの変調光(光軸A3)が、空間変調素子203から出射される変調光の出射角度と同一の24°で入射する。
【0067】
被加工物10の被加工面は、空間変調素子203の基準面203aと互いに平行であり、結像レンズ204a及び対物レンズ204b(これらの光軸A11,A12に垂直な面)とも平行である。また、被加工物10の加工領域は、空間変調素子203の変調領域と共役な位置となっている。
【0068】
以上説明した本変形例では、空間変調素子203は、基準面203aに対して垂直にレーザ光(光軸A2)が入射するように配置され、投影光学系204は、複数の光学素子として結像レンズ204a及び対物レンズ204bを有する。また、これらの光軸A11,A12は、互いにシフトしている。そのため、本変形例によっても、簡素な構成で空間変調素子203の劣化を防止することができる。
【0069】
また、本変形例では、空間変調素子203の基準面203は、被加工物10の被加工面に平行である。そのため、空間変調素子203による変調光を被加工物10の被加工面に投影させて被加工物10の加工を確実に行うことができる。
【0070】
<他の実施の形態>
図5は、本発明の他の実施の形態に係るレーザ加工装置301を示す模式図である。
本実施の形態のレーザ加工装置301は、投影光学系304の光軸A3が被加工物10の被加工面の垂線と一致する点、及び、焦点位置が投影光学系304の被写界深度内の領域ごとに加工パターン303iを空間変調素子303に設定する点において図2等に示すレーザ加工装置101と相違する。そのため、詳細な説明は省略する。
【0071】
図5に示すように、空間変調素子303は、レーザ光源302により発振されたレーザ光(光軸A2)が、基準面303aに対して垂直に入射するように配置されている。また、空間変調素子303は、入射するレーザ光(光軸A2)を、オン状態のときに24°の角度で出射する。
【0072】
投影光学系304の光軸A3は、空間変調素子303からの変調光の光軸A3と一致している。また、投影光学系304の光軸A3は、被加工物10の被加工面の垂線とも一致している。
この場合、空間変調素子303の変調領域は、被加工物10の加工領域と共役とはならず、空間変調素子103に設定されたパターンの像の被加工物10上での焦点位置は加工領域の位置ごとに異なる。
【0073】
空間変調素子303の図7〜図10に示す変調領域303hは、第1の領域R1(便宜上、梨地で図示)と第2の領域R2とに分けられる。図5に示すように、第1の領域R1及び第2の領域R2のパターンは、被加工物10側では図中の左右が反転した領域R1−1,R2−1に照射される。なお、第1の領域R1と第2の領域R2との境界が45°方向になっているのは、微小ミラーの回転軸の角度に起因するものである。
【0074】
第1の領域R1及び第2の領域R2は、それぞれ焦点位置Pの差が被写界深度の範囲内の領域である。本実施の形態では、変調領域303hの焦点位置Pの差が被写界深度の1倍より大きく2倍以下の領域であるため、変調領域303hが2つの領域R1,R2に分けられている。
【0075】
以下、図6のフローを参照しながら、レーザ加工の流れを説明する。
まず、例えば図5に示す対物レンズ304bを移動させることにより顕微鏡(加工ヘッド107)のフォーカス調整(焦点位置Pの調整)が行われた後(S1)、図1に示す制御部105が加工パターン303i,303jを認識する(S2)。加工パターン303i,303jは、例えば、撮像素子110による撮像データを取得することで認識されればよい。
【0076】
次に、加工パターン303i,303jが図9に示す加工パターン303jのように焦点深度D内(図9で矢印で示す範囲)の場合(S3)、第1の領域R1及び第2の領域R2に亘って位置するものであっても、制御部105は、そのまま図10では白抜きで示す加工パターン303jを空間変調素子303にパターン設定する(S4)。
【0077】
そして、制御部105は、図5に示すレーザ光源302からレーザ光を発振させ、空間変調素子303の基準面303aに対してレーザ光(光軸A2)を垂直に入射させる。空間変調素子303により空間変調されたレーザ光(光軸A3)は、投影光学系304により被加工物10に投影される(S5)。
【0078】
一方、加工パターン303i,303jが焦点深度D内にない場合(S3)、制御部105は、図7に示すように第1の領域R1及び第2の領域R2に亘って位置する加工パターン303iのうち、まず図8Aに示すように第1の領域R1内に存在する部分303i−1(白抜きで図示)のみを空間変調303にパターン設定する(S6)。
【0079】
そして、顕微鏡(加工ヘッド107)のフォーカス調整(S7)の後、上述のステップS5と同様にレーザ光が被加工物10に照射される(S8)。
次に、制御部105は、加工パターン303iのうち、図8Bに示すように第2の領域R2内に存在する部分303i−2(白抜きで図示)のみを空間変調303にパターン設定する(S9)。
【0080】
そして、顕微鏡(加工ヘッド107)のフォーカス調整(S10)の後、上述のステップS5と同様にレーザ光が被加工物10に照射される(S10)。
なお、変調領域303hの焦点位置Pの分布が被写界深度の2倍を超える場合には、被写界深度内の領域を3つ以上に分ければよい。
【0081】
以上説明した本実施の形態では、上述の一実施の形態と同様に、空間変調素子303は、基準面303aに対して垂直にレーザ光(光軸A2)が入射するように配置されている。
よって、本実施の形態によっても、上述の一実施の形態と同様に、簡素な構成で空間変調素子303の劣化を防止することができる。
【0082】
また、本実施の形態では、投影光学系304は、その光軸A3が変調光に一致するように配置され、投影光学系303の光軸A3は、被加工物10の被加工面の垂線に一致している。そのため、加工ヘッド107内にオートフォーカス、被加工面観察用の光学系を組み込むことができるなど、レーザ加工装置301の機能性・配置の自由度を高めることができる。
【0083】
また、本実施の形態では、制御部105は、投影光学系304の被写界深度内の領域(第1の領域R1,第2の領域R2)ごとに加工パターン303iを空間変調素子303に設定する。そのため、被加工物10の加工を確実に行うことができる。
【0084】
なお、上記の一実施の形態及びその変形例並びに他の実施の形態は、本発明を実施するための一例にすぎず、本発明はこれら実施の形態等の記載により一義的に限定されるものではない。例えば、発明の詳細な説明における各種構成を、当業者にとって自明の範囲内で置換可能な構成に置き換えて種々変形することは本発明の範囲内である。
【符号の説明】
【0085】
10 被加工物
20 ステージ
101 レーザ加工装置
102 レーザ光源
103 空間変調素子
103a 基準面
103b 微小ミラー
103c ヒンジ
103d 回転軸部
103e ランディングパット
103f アドレス電極
103g 基板
104 投影光学系
104a 結像レンズ
104b 対物レンズ
105 制御部
106 光ファイバ
107 加工ヘッド
108 観察用光源
109 観察用結像レンズ
110 撮像素子
111 レンズ群
112 ミラー
113 ハーフミラー
114 集光レンズ
115 ハーフミラー
116 ミラー
201 レーザ加工装置
202 レーザ加工装置
203 空間変調素子
203a 基準面
204 投影光学系
204a 結像レンズ
204b 対物レンズ
301 レーザ加工装置
302 レーザ加工装置
303 空間変調素子
303a 基準面
303h 変調領域
303i,303j 加工領域
304 投影光学系
304a 結像レンズ
304b 対物レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を発振するレーザ光源と、
該レーザ光源により発振され基準面に入射する前記レーザ光を偏向する偏向素子が2次元に配列された空間変調素子と、
該空間変調素子により空間変調された変調光を被加工物に投影する投影光学系と、
を備えるレーザ加工装置において、
前記空間変調素子は、前記基準面に対して垂直に前記レーザ光が入射するように配置されている、
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
前記投影光学系は、その光軸が前記変調光に一致するように配置され、
前記投影光学系の光軸は、前記被加工物の被加工面の垂線に対して傾斜している、
ことを特徴とする請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記空間変調素子の微小ミラーをオン・オフ制御することにより、前記被加工物の加工形状に対応する加工パターンを前記空間変調素子に設定する制御部を更に備え、
前記制御部は、前記被加工物の位置ごとに異なる前記加工パターンの倍率を補正するように該加工パターンを設定する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記投影光学系は、複数の光学素子を有し、
前記複数の光学素子は、互いの光軸がシフトしている、
ことを特徴とする請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記空間変調素子の前記基準面は、前記被加工物の被加工面に平行であることを特徴とする請求項4記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記投影光学系は、その光軸が前記変調光に一致するように配置され、
前記投影光学系の光軸は、前記被加工物の被加工面の垂線に一致している、
ことを特徴とする請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記空間変調素子の微小ミラーをオン・オフ制御することにより、前記被加工物の加工形状に対応する加工パターンを前記空間変調素子に設定する制御部を更に備え、
前記制御部は、焦点位置が前記投影光学系の被写界深度内の領域ごとに前記加工パターンを前記空間変調素子に設定する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項6記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
前記空間変調素子は、前記偏向素子である微小ミラーと、該微小ミラーに接触することで該微小ミラーの回転角を規制する回転角規制部材と、を有し、
前記回転角規制部材は、前記微小ミラーの裏面側で且つ前記微小ミラーの回転位置によらず前記レーザ光が照射されない非照射領域に配置されている、
ことを請求項1から請求項7のいずれか1項記載のレーザ加工装置。
【請求項9】
レーザ光を空間変調素子の基準面に入射させ、該空間変調素子により空間変調された変調光を被加工物に投影するレーザ加工方法において、
前記レーザ光を前記空間変調素子の基準面に対して垂直に入射させる、
ことを特徴とするレーザ加工方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図2】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−115879(P2012−115879A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268881(P2010−268881)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】