説明

レーザ加工装置及び判定方法

【課題】 加工状態を容易に検出する。
【解決手段】 レーザビームを出射する光源と、シリコンを含んで構成される加工対象物を保持するステージと、光源を出射したレーザビームを、ステージに保持された加工対象物に入射させる光学系と、ステージに保持された加工対象物に入射するレーザビームの光路を逆向きに進行する光のパワーを検出する検出器と、検出器で検出された光のパワーに基づいて、レーザビームが入射した位置の加工対象物が溶融しているか否かを判定する判定装置とを有し、光源及び光学系は、ステージに保持された加工対象物に、レーザビームを、シリコンを溶融させることのできる強度で入射させるレーザ加工装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工対象物にレーザビームを照射して加工を行うレーザ加工装置に関する。また、加工状態や加工の適否を判定する判定方法に関する。たとえば、レーザアニール加工におけるアニール対象物の溶融状態や加工の適否を判定する判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不純物の添加されたシリコンウエハにレーザビームを照射して、不純物を活性化させるレーザアニール加工においては、アニール処理後のシリコンウエハの表面状態がわかりづらい。このため従来はレーザアニール加工終了後に、シリコンウエハ表面の抵抗値(シート抵抗値)を測定することでアニール状態を判断していた。
【0003】
アニール対象物のレーザビーム入射位置の溶融部分の表面温度を計測する温度計測装置及び温度算出方法の発明が開示されている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1記載の温度計測装置においては、アニール加工を行うレーザ光源とは別に、モニタ専用の光源が用いられる。この構成ではアニール光とモニタ光の照射位置をシリコンウエハ上で正確に合わせる必要があり、特に長尺ビームを照射する場合は管理が容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−116269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、加工の状態や適否を容易に判定することのできるレーザ加工装置、及び判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によれば、レーザビームを出射する光源と、シリコンを含んで構成される加工対象物を保持するステージと、前記光源を出射したレーザビームを、前記ステージに保持された加工対象物に入射させる光学系と、前記ステージに保持された加工対象物に入射するレーザビームの光路を逆向きに進行する光のパワーを検出する検出器と、前記検出器で検出された光のパワーに基づいて、レーザビームが入射した位置の加工対象物が溶融しているか否かを判定する判定装置とを有し、前記光源及び前記光学系は、前記ステージに保持された加工対象物に、レーザビームを、シリコンを溶融させることのできる強度で入射させるレーザ加工装置が提供される。
【0007】
また、本発明の他の観点によれば、(a)シリコンを含んで構成される加工対象物に、レーザビームを、シリコンを溶融させることのできる強度で照射して加工を行うとともに、前記レーザビームが前記加工対象物に照射されることで生じる光のうち、前記レーザビームの光路を逆向きに進行する光のパワーを検出する工程と、(b)前記工程(a)で検出された光のパワーに基づいて、前記レーザビームが入射した位置の前記加工対象物が溶融しているか否かを判定する工程とを有する溶融状態判定方法が提供される。
【0008】
更に、本発明の他の観点によれば、(a)p型不純物を添加されたシリコンを含んで構成される加工対象物に、レーザビームを、シリコンを溶融させることのできる強度で照射して加工を行うとともに、前記レーザビームが前記加工対象物に照射されることで生じる光のうち、前記レーザビームの光路を逆向きに進行する散乱光のラマンスペクトルを検出する工程と、(b)前記工程(a)で検出されたラマンスペクトルに基づいて、レーザビームが入射した位置の反ストークス線の形状の時間変化を測定し、測定された時間変化が許容範囲内であるか否かを判定する工程とを有する加工適否判定方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加工の状態や適否を容易に判定可能なレーザ加工装置、及び判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施例によるレーザ加工装置を示す概略図である。
【図2】(A)及び(B)は、モニタ15で観察される電圧の時間変化を示す。
【図3】シリコンウエハ30の加工状態を表すマップの一例、及び当該マップの一部に対応する電圧の時間変化のモニタ表示を示す。
【図4】第2の実施例によるレーザ加工装置を示す概略図である。
【図5】ある時刻にモニタ15に表示されるラマンスペクトルの一例を示す。
【図6】視覚化したモデル関数の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、第1の実施例によるレーザ加工装置を示す概略図である。第1の実施例によるレーザ加工装置は、レーザ光源10、戻り光対策用光学系11、整形均一化光学系12、集光レンズ13、光検出器14、モニタ15、制御装置16、及びXYステージ20を含んで構成される。戻り光対策用光学系11は、偏光ビームスプリッタ(Polarizing Beam Splitter;PBS)11aと1/4波長板11bとを備える。
【0012】
レーザ光源10は、連続波のレーザビーム及びパルス波のレーザビームを出射することができる。レーザ光源10は、たとえばNd:YAGレーザ発振器と非線形光学結晶とを含み、制御装置16からのトリガ信号により、Nd:YAGレーザの第2高調波(波長532nm)であるレーザビーム40を出射する。
【0013】
レーザビーム40は、戻り光対策用光学系11のPBS11aに入射する。レーザビーム40は、PBS11aのビーム入射面に対しP波である。PBS11aは、入射するP波を透過しS波を反射する。PBS11aに入射したレーザビーム40は、これを透過し、1/4波長板11bに入射する。1/4波長板11bは、透過する光の直交する偏光成分の間に90°の位相差を生じさせる。レーザビーム40は、1/4波長板11bを透過した後、整形均一化光学系12を経由して、XYステージ20上に保持された加工対象物であるシリコンウエハ(シリコン基板)30に入射する。シリコンウエハ30表面におけるレーザビーム40の強度は、たとえば4.0MW/cmであり、これはシリコンを溶融させることのできる強度である。
【0014】
図の紙面手前方向をX軸正方向、右方向をY軸正方向、上方向をZ軸正方向とする直交座標系を定義するとき、シリコンウエハ30は、その面内方向がXY方向となるように、XYステージ20に保持される。レーザビーム40は、シリコンウエハ30の法線方向であるZ軸方向から、シリコンウエハ30に入射する。XYステージ20は、制御装置16からの制御信号により、シリコンウエハ30を面内方向に移動させることができる。
【0015】
整形均一化光学系12は、たとえばマルチレンズアレイを含み、シリコンウエハ30に入射するレーザビーム40の断面形状を長尺状に整形するとともに、ビーム断面内のパワーを均一化する。シリコンウエハ30には、不純物、たとえばp型不純物であるボロンが添加されており、レーザビーム40の照射により不純物が活性化されるレーザアニール加工が行われる。レーザアニール加工は、XYステージ20でシリコンウエハ30を面内方向に移動させ、シリコンウエハ30上におけるレーザビーム40の入射位置を変化させながら行われる。
【0016】
レーザビーム40がシリコンウエハ30に入射することで、シリコンウエハ30から反射光、弾性散乱光、及び非弾性散乱光が生じる。それらの一部はシリコンウエハ30に入射するレーザビーム40の光路を逆向きに進行して戻り光対策用光学系11に入射する。本明細書等においては、これを戻り光50と定義する。
【0017】
戻り光対策用光学系11は、戻り光50がレーザ光源10に入射し、レーザ光源10を破損することを防止する。戻り光50は、1/4波長板11bを通過後、PBS11aに入射する。PBS11aを透過した直後のレーザビーム40を基準とした場合、1/4波長板11bを往復した光が戻り光50としてPBS11aに入射する。このため戻り光50は、PBS11aのビーム入射面に対するS波としてこれに入射して反射され、レーザ光源10ではなく、入射光を集光する集光レンズ13に入射する。このようにして戻り光50によるレーザ光源10の破損が防止される。
【0018】
集光レンズ13で集光された戻り光50は、光検出器14に入射する。光検出器14は、たとえばフォトダイオードであり、入射する戻り光50の光量(パワー)を検出する。光検出器14で検出された戻り光50のパワーのデータは制御装置16に送信される。制御装置16は、戻り光50のパワーを電圧値に変換し、レーザビーム40のシリコンウエハ30上の入射位置と関連づけて保存するとともに、モニタ15の表示画面に表示する。
【0019】
図2(A)及び(B)に、モニタ15で観察される電圧の時間変化を示す。図2(A)、(B)の横軸はともに時間を表し、縦軸はともに電圧を表す。
【0020】
図2(A)を参照する。「照射時間」(レーザビーム40をシリコンウエハ30に入射させている期間)の大半において、電圧値すなわち戻り光50のパワーが大きくなる。レーザビーム40の照射により、シリコンウエハ30が溶融温度に達すると、散乱光強度が増加するためである。散乱光強度の増加は、溶融によるシリコンウエハ30の吸収係数や屈折率の変化に基づく表面反射率の上昇、または溶融により生じるシリコンウエハ30表面のうねりに起因すると考えられる。シリコンウエハ30の表面が溶融している場合、一定値以上の電圧が検出される。
【0021】
制御装置16は、レーザビーム40入射位置からの戻り光50のパワーを変換した電圧値を、「判定閾値」となる所定の電圧値と比較し、レーザビーム40が入射した位置のシリコンウエハ30表面が溶融しているか否かを判定する。たとえば戻り光50のパワーを示す電圧値が判定閾値以上であるとき「溶融」している、判定閾値未満であるとき「未溶融」であると判定する。なお、図2(A)及び(B)には、判定閾値となる電圧値を点線で表示した。
【0022】
図2(B)を参照する。たとえばレーザビーム40のパワーの変動その他の理由により、レーザビーム40が照射された位置のシリコンウエハ30表面が溶融しない場合がある。このため図示するように、レーザビーム40の照射時間内においても、戻り光50のパワーを示す電圧値が判定閾値より小さい時間が存在する。制御装置16は、このような時間にレーザビーム40が入射したシリコンウエハ30上の位置(「未溶融部分」)をXYステージ20の位置情報に基づいて求め、記録、保存する。そしてたとえば1枚または所定枚数のシリコンウエハ30についてレーザアニール加工が終了したときに、シリコンウエハ30の加工状態(表面溶融状態)を示すマップを出力する。
【0023】
なお、制御装置16は、電圧値が判定閾値以上である時間にレーザビーム40が入射したシリコンウエハ30上の位置(溶融部分)を求め、記録、保存、出力してもよい。また、溶融部分、未溶融部分の双方についてそれらを行うこともできる。
【0024】
図3にシリコンウエハ30の加工状態を表すマップの一例、及び当該マップの一部に対応する電圧の時間変化のモニタ表示を示す。
【0025】
本図上段に示すのは、シリコンウエハ30内の未溶融部分を表すマップである。本マップには3箇所の未溶融部分が表示されている。たとえば判定閾値未満の電圧値(戻り光50のパワー)が検出されたレーザビーム40の入射領域が未溶融部分として示される。
【0026】
たとえばY軸方向に長い長尺状の入射領域を形成してレーザビーム40がシリコンウエハ30に入射し、点線に沿ってX軸正方向に走査され、走査中にリアルタイムで下段に示す電圧の時間変化がモニタ15に表示される。制御装置16は、戻り光50のパワーに対応する検出電圧値を判定閾値と比較して溶融、未溶融の判定を行い、判定結果とレーザビーム40の入射領域情報とに基づいて、シリコンウエハ30上の未溶融部分を画定する。本図下段に対応関係を示すように、検出電圧値が判定閾値未満となる時間にレーザビーム40が入射した領域が未溶融部分として表示される。
【0027】
第1の実施例によるレーザ加工装置によれば、特別な光源を用いることなく、またアニール光とモニタ光との位置合わせを行うことなく、容易に加工対象物の加工状態を判定・検出することができる。たとえばレーザアニール加工において、シリコンウエハの溶融、未溶融状態を判定・検出することができる。
【0028】
また、加工状態をマッピングすることができる。たとえばシリコンウエハの溶融部分分布図、未溶融部分分布図を作成することができる。このため、レーザアニール加工終了後のシート抵抗値の測定を行う必要がない。
【0029】
図4は、第2の実施例によるレーザ加工装置を示す概略図である。第2の実施例によるレーザ加工装置は、集光レンズ13と光検出器14との間の戻り光50の光路上に、ノッチフィルタ17及び分光器18が配置されている点において、第1の実施例と相違する。
【0030】
第1の実施例と同様に、レーザビーム40がシリコンウエハ30に入射し、レーザアニール加工が行われる。レーザビーム40の入射位置からの戻り光50は、整形均一化光学系12、戻り光対策用光学系11を経由し、集光レンズ13で集光されてノッチフィルタ17に入射する。ノッチフィルタ17は、たとえば戻り光50に含まれる反射光、弾性散乱光、非弾性散乱光の中から前二者を除去し、非弾性散乱光のみを取り出して、分光器18に入射させる。分光器18は入射する非弾性散乱光を分光検出する。戻り光50は、分光器18を通過することでシリコンウエハ30に固有のラマンスペクトルに分光され、たとえばCCD検知器及び光電子増倍管を含む光検出器14に入射する。光電子増倍管に代えてインテンシファイアを用いてもよい。
【0031】
光検出器14は、入射する戻り光50のパワーを波長ごとに検出し、電気信号に変換する。光検出器14で検出された戻り光50のパワーのデータは制御装置16に送信される。制御装置16は、戻り光50のパワー対応値を電圧値に変換し、レーザビーム40のシリコンウエハ30上の入射位置と関連づけて保存するとともに、得られたラマンスペクトルをモニタ15の表示画面に表示する。
【0032】
図5に、ある時刻にモニタ15に表示されるラマンスペクトルの一例を示す。横軸はラマンシフトを波数(cm−1)で表し、縦軸はラマン散乱光強度を表す。波数の小さい左側のラマンスペクトルのピークがストークス成分、波数の大きい右側のラマンスペクトルのピークが反ストークス成分である。
【0033】
制御装置16は、ラマンスペクトルを基に、そのラマンスペクトルが得られた戻り光50を生じたレーザビーム40入射位置の温度を解析、検出する。ストークス線の周波数シフトから求める方法、スペクトルの半値全幅(Full Width at Half Maximum;FWHM)から求める方法、ストークス線と反ストークス線のピーク強度比から求める方法が知られている。制御装置16はこれら公知の方法を用いて、レーザビーム40の入射位置ごとにシリコンウエハ30の温度を計算する。なお、温度を求める方法は、たとえば「T.R.Hart, R.L.Aggarwal, and Benjamin Lax, “Temperature Dependence of Raman Scattering in Silicon”, Physical Review B vol.1, p.638-642 (1970)」等に記載がある。また、たとえば上記3種類の方法は同時に実施することができ、そうすることで解析精度を高めることが可能である。
【0034】
制御装置16は、計算されたレーザビーム40の入射位置温度を、シリコンの融点に基づく判定閾値、たとえば融点と比較して、レーザビーム40入射位置のシリコンウエハ30表面が溶融しているか否かを判定する。たとえば入射位置温度が判定閾値以上であるとき溶融している、判定閾値未満であるとき未溶融であると判定する。
【0035】
制御装置16は、レーザビーム40が入射した位置のシリコンウエハ30の温度及び溶融状態(溶融または未溶融)を、当該入射位置とともに記録、保存する。レーザビーム40が入射したシリコンウエハ30上の入射位置は、XYステージ20の位置情報に基づいて求めることができる。そしてたとえば1枚または所定枚数のシリコンウエハ30についてレーザアニール加工が終了したときに、シリコンウエハ30のレーザビーム40照射時の温度分布や、溶融部分、未溶融部分を示すマップを出力する。
【0036】
また、第2の実施例によるレーザ加工装置を用いて、レーザアニール加工の適否の予測、判定を行うこともできる。
【0037】
たとえばボロンをドープしたp型シリコンのラマンスペクトルについて、反ストークス線(TOフォノンのラマンスペクトル。常温300Kにおいて520cm−1に現れるピーク)の形状が左右非対称になり、その形状がボロンのドープ濃度によって異なることが「Fernando Cerdeira, T.A.Fjeldly, and M.Cardona,“Effect of Free Carriers on Zone-Center Vibrational Modes in Heavily Doped p-type Si.”, Physical Review B vol.8, p.4734-4745 (1973)」に報告されている。反ストークス線の形状の左右非対称性(スペクトルの歪み)は、「ファノの干渉効果」と呼ばれるTOフォノンと連続的な電子遷移が重なることで起きる現象である。融点付近では、シリコンの結晶性が失われだすため、TOフォノン由来のスペクトルはピーク幅が広がり、また非対称性の確認も困難になる。具体的には、ピークが平坦にだれてきて認識できなくなる。
【0038】
そこでたとえばレーザビーム40をシリコンウエハ30に照射した直後から、反ストークス線(TOフォノンのラマンスペクトル。常温300Kにおいて520cm−1に現れるピーク)の形状の左右非対称性を観察する。観察は、左右非対称性の確認が困難になるまで、たとえばあらかじめ定めた一定時間まで継続される。
【0039】
制御装置16の記憶領域には、レーザアニール加工が成功した条件(たとえばボロンが拡散し、半導体デバイスの活性化が確認できた条件)における、時間に対する非対称性の傾向を示す関数が、モデル関数として記憶されている。
【0040】
図6に、視覚化したモデル関数の一例を示す。図の横軸は時間を表し、縦軸は反ストークス線の形状の非対称性(対称性)を表す。縦軸については、値が大きくなるほど対称性が増し、完全に左右対称な形状となるときを1.0と表した。モデル関数は、たとえば時間の経過とともに、非対称性が失われ対称性が増加する、上に凸の関数である。レーザビーム40の照射初期は、シリコンウエハ30の温度は融点より低く、大きな非対称性が認められるが、シリコンウエハ30の「溶融開始時間」に近づくにつれ、反ストークス線は形状の非対称性を喪失する。
【0041】
制御装置16の記憶領域には、モデル関数に基づいて定められた「許容範囲」も記憶されている。「許容範囲」は、反ストークス線の形状の非対称性(対称性)の時間変化が、その範囲内にあれば、高い蓋然性でレーザアニール加工の成功(適正なレーザアニール加工)が見込まれる範囲であり、あらかじめ実験によって定められる。たとえばモデル関数を中心に、非対称性(対称性)が一定となる範囲である。時間変化が「許容範囲」を逸脱した場合には、そのレーザビーム40が入射した領域は、アニール処理後、ボロンの拡散状態(シリコンウエハ30内の所定深さでのボロンのドープ濃度)が正常とはならないと判断される。
【0042】
制御装置16は、レーザビーム40が入射している位置の反ストークス線の形状の非対称性(対称性)の時間変化を測定し、測定された時間変化が「許容範囲」内であるか否かの判定、すなわちレーザアニール加工の適否について予測判定を行う。「許容範囲」内であれば、レーザアニール加工は適正に行われていると判定され、「許容範囲」外であれば、レーザアニール加工は適正に行われていないと判定される。図6には、加工が適正に行われていると判定される一例を「良」で示し、加工が適正に行われていないと判定される三例を「不良」で示した。
【0043】
制御装置16は、レーザビーム40が入射した位置の加工の適否を、当該入射位置とともに記録、保存する。レーザビーム40が入射したシリコンウエハ30上の位置は、XYステージ20の位置情報に基づいて求めることができる。そしてたとえば1枚または所定枚数のシリコンウエハ30についてレーザアニール加工が終了したときに、シリコンウエハ30の加工の適否の状態を示すマップ、たとえば加工が適正に行われなかった部分を示すマップを出力する。
【0044】
第2の実施例によるレーザ加工装置は、レーザアニール加工中に散乱光のラマンスペクトルを取得する。ラマン散乱光を用いて分光分析を行い、シリコンウエハ30のレーザビーム40入射位置ごとに、温度の検出、溶融、未溶融の判定、及び、不純物のドープ濃度という観点からみた加工の適否判定を行い、必要に応じてそれらの結果を出力する。
【0045】
第2の実施例によるレーザ加工装置は、第1の実施例と同様の効果を奏することができる。たとえば容易に加工対象物の加工状態の判定・検出を行うことができる。たとえばレーザアニール加工における、シリコンウエハの温度検出、溶融、未溶融状態の判定を行うことができる。また、加工状態図、たとえばシリコンウエハ30の温度分布図や溶融状態分布図を作成することができる。更に、容易に加工の適否判定を行い、その結果を表示することができる。
【0046】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【産業上の利用可能性】
【0047】
殊に、レーザアニール加工におけるアニール対象物の溶融状態の判定、温度の検出、及び加工の適否判定に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
10 レーザ光源
11 戻り光対策用光学系
11a PBS
11b 1/4波長板
12 整形均一化光学系
13 集光レンズ
14 光検出器
15 モニタ
16 制御装置
17 ノッチフィルタ
18 分光器
20 XYステージ
30 シリコンウエハ
40 レーザビーム
50 戻り光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザビームを出射する光源と、
シリコンを含んで構成される加工対象物を保持するステージと、
前記光源を出射したレーザビームを、前記ステージに保持された加工対象物に入射させる光学系と、
前記ステージに保持された加工対象物に入射するレーザビームの光路を逆向きに進行する光のパワーを検出する検出器と、
前記検出器で検出された光のパワーに基づいて、レーザビームが入射した位置の加工対象物が溶融しているか否かを判定する判定装置と
を有し、
前記光源及び前記光学系は、前記ステージに保持された加工対象物に、レーザビームを、シリコンを溶融させることのできる強度で入射させるレーザ加工装置。
【請求項2】
前記判定装置は、前記検出器で検出された光のパワーに対応する物理量を閾値と比較して、レーザビームが入射した位置の加工対象物が溶融しているか否かを判定する請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記検出器は、前記ステージに保持された加工対象物に入射するレーザビームの光路を逆向きに進行する散乱光のラマンスペクトルを取得し、
前記判定装置は、前記検出器で取得されたラマンスペクトルに基づいて、レーザビームが入射した位置の加工対象物の温度を算出し、算出された温度を、シリコンの融点に基づく閾値と比較して、レーザビームが入射した位置の加工対象物が溶融しているか否かを判定する請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記検出器は、前記ステージに保持された加工対象物に入射するレーザビームの光路を逆向きに進行する散乱光のラマンスペクトルを取得し、
前記判定装置は、前記検出器で取得されたラマンスペクトルに基づいて、レーザビームが入射した位置の反ストークス線の形状の時間変化を測定し、測定された時間変化が許容範囲内であるか否かを判定する請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記光学系は、前記光源を出射したレーザビームの光路上に配置された偏光ビームスプリッタ、及び前記光源を出射し、前記偏光ビームスプリッタを透過したレーザビームの光路上に配置された1/4波長板を含み、
前記検出器は、前記ステージに保持された加工対象物に入射するレーザビームの光路を逆向きに進行した光が、前記偏光ビームスプリッタで反射されて入射する位置に配置される請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
(a)シリコンを含んで構成される加工対象物に、レーザビームを、シリコンを溶融させることのできる強度で照射して加工を行うとともに、前記レーザビームが前記加工対象物に照射されることで生じる光のうち、前記レーザビームの光路を逆向きに進行する光のパワーを検出する工程と、
(b)前記工程(a)で検出された光のパワーに基づいて、前記レーザビームが入射した位置の前記加工対象物が溶融しているか否かを判定する工程と
を有する溶融状態判定方法。
【請求項7】
前記工程(b)において、前記工程(a)で検出された光のパワーに対応する物理量を閾値と比較し、前記レーザビームが入射した位置の前記加工対象物が溶融しているか否かを判定する請求項6に記載の溶融状態判定方法。
【請求項8】
前記工程(a)において、前記レーザビームの光路を逆向きに進行する散乱光のラマンスペクトルを検出し、
前記工程(b)において、前記工程(a)で検出されたラマンスペクトルに基づいて、前記レーザビームが入射した位置の前記加工対象物の温度を算出し、算出された温度を、シリコンの融点に基づく閾値と比較して、前記レーザビームが入射した位置の前記加工対象物が溶融しているか否かを判定する請求項6に記載の溶融状態判定方法。
【請求項9】
(a)p型不純物を添加されたシリコンを含んで構成される加工対象物に、レーザビームを、シリコンを溶融させることのできる強度で照射して加工を行うとともに、前記レーザビームが前記加工対象物に照射されることで生じる光のうち、前記レーザビームの光路を逆向きに進行する散乱光のラマンスペクトルを検出する工程と、
(b)前記工程(a)で検出されたラマンスペクトルに基づいて、レーザビームが入射した位置の反ストークス線の形状の時間変化を測定し、測定された時間変化が許容範囲内であるか否かを判定する工程と
を有する加工適否判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−83779(P2011−83779A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236171(P2009−236171)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】