説明

レーザ加工装置

【課題】 レーザ加工の精度を向上できるレーザ加工装置を提供すること。
【解決手段】 レーザ加工装置1は、レーザ光源を含むレーザ発振部2と、レーザ光源から発振されるレーザ光の光軸上に配置された集光光学系3と、レーザ加工装置1が所定の加工予定線SSに沿って移動する際に、集光光学系3と加工予定線SSとのずれ量を検出する倣い機構4とを備え、集光光学系3は、当該検出したずれ量に基づいて、レーザ光の光軸をレーザ発振部2に対して相対的に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、下記特許文献1に記載のレーザ加工装置が知られている。このレーザ加工装置では、レーザ発振器から出力されたレーザを光ファイバで加工ヘッドに伝送する。加工ヘッドには、コリメーションレンズと集光レンズとがレーザの光軸上に配置されている。レーザ加工装置は、集光レンズで集光されたレーザを被溶接物に照射しながら走査することによって連続溶接を行う。
【特許文献1】特開平11−192573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
被溶接物の連続溶接を行う場合には、接合予定線に沿って加工ヘッドを所定の速度で移動させる必要がある。しかしながら、加工ヘッドを移動させると、加工ヘッドが左右にブレてしまい、さらに、加工へッドに働く慣性力によって加工ヘッドのブレ幅が大きくなり、レーザ溶接の精度を低下させるおそれがあった。
【0004】
そこで本発明は、レーザ加工の精度を向上できるレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るレーザ加工装置は、レーザ光源を含むレーザ発振部と、レーザ光源から発振されるレーザ光の光軸上に配置された集光光学系と、を備え、当該レーザ加工装置が所定の加工予定線に沿って移動する際に、集光光学系と加工予定線とのずれ量を検出する検出手段と、当該検出したずれ量に基づいて、レーザ光の光軸をレーザ発振部に対して相対的に調整する光軸調整手段と、を備える。
【0006】
本発明においては、集光光学系から出射されたレーザの光軸をレーザ発振部に対して相対的に調整することで、集光光学系と加工予定線とのずれを吸収するので、レーザ発振部の位置調整を行わずにレーザ加工の精度を上げることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、レーザ発振部の位置調整を行わずにレーザ加工の精度を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0009】
(レーザ加工装置) 図1及び図2に示すように、レーザ加工装置1は、溶接用熱源として直接照射型の半導体レーザ(DDLレーザ)を用いる溶接装置である。レーザ加工装置1は、レーザ発振部2と、ステンレス製の板材(加工対象物)W1及びW2に向けてレーザを照射する集光光学系3(光軸調整手段)と、倣い機構4(検出手段)を備える。レーザ発振部2は、マニピュレータといった移動手段によって支持され、板材W2上に載置された板材W1の端部における直線状の接合予定線SSに沿って移動する。また、倣い機構4は集光光学系3に取り付けられており、集光光学系3はレーザ発振部2に取り付けられている。従って、倣い機構4及び集光光学系3はレーザ発振部2の動きに合わせて接合予定線SSに沿って移動する。
【0010】
レーザ発振部2においては、DDLレーザを用いており、その発振波長は808nmであって、出力は2kWである。レーザ発振部2が発振したレーザ光は集光光学系3に導かれる。
【0011】
集光光学系3は、レーザ発振部2に取り付けられており、レーザ発振部2が発振したレーザ光を集光し、板材Wの接合予定線SSに照射する。集光光学系3は、倣い機構4からの出力に応じて、レーザ光の光軸を調整することが可能なように構成されている(詳細は後述する)。
【0012】
倣い機構4は、機械的に接合予定線SSを倣って動くように構成されている機構である。倣い機構4は、耐摩耗性の高いピンによって構成されており、板材W2の一方の辺に沿って動く。従って、加工開始位置から接合予定線SSに沿ってレーザ発振部2及び集光光学系3が移動する場合、レーザ発振部2及び集光光学系3が何らかの理由で接合予定線SSからずれた場合には、倣い機構4がそのずれに応じて動くので、集光光学系3と接合予定線SSとのずれ量を検出することができる。倣い機構4が検出したずれ量は集光光学系3に出力される。
【0013】
尚、板材Wを突き合わせて溶接する場合には、図2に示すような倣い機構4aを用いることも好ましい。図2に示す倣い機構4aは、光学的な倣い装置である。より具体的には、倣い機構4aは、カメラといった撮像手段と、画像解析装置とを含むものである。撮像手段が板材W同士の突合せ部分近傍を撮影し、画像解析装置に出力する。画像解析装置はその撮影データに基づいて、接合予定線SSがどの位置にあるかを認識する。従って、レーザ発振部2及び集光光学系3が何らかの理由で接合予定線SSからずれた場合には、倣い機構4aがそのずれに応じて動くので、集光光学系3と接合予定線SSとのずれ量を検出することができる。倣い機構4aが検出したずれ量は集光光学系3に出力される。
【0014】
続いて、集光光学系3について説明する。図3に示すように、集光光学系3は、レーザの光軸LS上に配置されたコリメーションレンズ11と集光レンズ12とを備え、レーザの光軸LS上においてコリメーションレンズ11と集光レンズ12との間には、ウェッジ基板13が配置されている。コリメーションレンズ11は、材質がBK7で焦点距離50mmの平凸レンズであり、レーザ光源の先端から約50mm離れている。レーザ光源から出射されたレーザは、コリメーションレンズ11によって平行に成形され、ウェッジ基板13に入射する。
【0015】
ウェッジ基板13は円形であり、コリメーションレンズ11側の上面13aは、集光レンズ12側の下面13bに対して傾いており、その傾斜角θは約10度である。ウェッジ基板13の上面13aに入射したレーザは、平行のまま角度α「約5.1度」だけ屈折して集光レンズ12に入射する。
【0016】
集光レンズ12は、材質がBK7で焦点距離が50mmの凸レンズであり、ウェッジ基板13の下面13bから10mm離れている。集光レンズ12を透過したレーザは集光レンズ12から約50mm離れた位置で集光する。集光レンズ12の焦点位置は、ウェッジ基板13を配置しない場合に比べて約4.44mmずれている。このずれ量Lは、ウェッジ基板13の傾斜角θと密接に関係しており、傾斜角θが大きくなる程ずれ量Lは大きくなる(図7参照)。
【0017】
図3及び図4に示すように、ウェッジ基板13は円筒部材17の内部に固定されており、円筒部材17は軸受け14を介してブラケット16に固定され、ブラケット16はケース3aに固定されている。軸受け14によって回転自在に支持された円筒部材17の下部には、歯車17aが設けられている。この歯車17aは、減速機構18を介してモータ19の出力軸19aに連結されている。モータ19は、モータドライバ(図示しない)によって駆動制御され、モータ19の駆動によって円筒部材17およびウェッジ基板13は所定の回転角速度で回転する。円筒部材17、減速機構18、モータ19及びモータドライバ(図示しない)によってウェッジ基板13の回転機構22が構成される。
【0018】
ウェッジ基板13は入射レーザの光軸LSを中心に回転し、ウェッジ基板13が回転すると、レーザの光軸LSの屈折方向が変化し、レーザの光軸LSが移動して焦点位置が移動する。集光光学系3のブレに伴ってレーザの光軸LSがブレた場合には、ウェッジ基板13を回転させることによって補正することができる。なお、ウェッジ基板13の傾斜角θが大きいほど、光軸LSのブレを補正できる範囲は広がるが、傾斜角θが大きくなるに従って焦点の収差も大きくなって加工性能に影響を及ぼすため、ウェッジ基板13の傾斜角θは「10°」程度が望ましい。
【0019】
(補正制御) 次に、レーザ走査中におけるレーザの光軸LSのブレを補正するための補正制御について説明する。図5(a)に示すように、前述したレーザ加工装置1では、レーザの焦点位置を接合予定線SS上に合わせ、レーザ走査を開始する。なお、レーザ走査の開始前には、ウェッジ基板13を回転させる前の停止位置が、初期の回転角度として設定されている。
【0020】
レーザ走査中は、図5(b)に示すように、集光光学系3がレーザ発振部2の振動に伴う振動によってブレ易く、レーザ発振部2に働く慣性力によってそのブレ幅も大きくなり易い。図6(a)に示すように、このブレを補正しない場合には、レーザの焦点位置は接合予定線SSを挟んで左右にブレた蛇行軌跡Ftを描く。蛇行軌跡Ftはサインカーブを描き、波長d2は約10mm、周期は0.1s、蛇行幅d3は約5mmである。さらに、レーザ走査速度は6m/minに設定されており、蛇行軌跡Ftの周波数は10Hzとなる。
【0021】
基準となる加工予定線SSと蛇行軌跡Ftとのずれにおける変位方向及び変位量は、倣い機構4(4a)によって検出される。その後、ウェッジ基板13の停止位置としてRAMといった記憶手段に記憶されている回転角度を読み出す。その回転角度を検出された変位方向及び変位量とともに、記憶手段に記憶されたテーブルを参照し、演算手段がウェッジ基板13の回転方向と回転角速度と回転時間とを求める。
【0022】
なお、ウェッジ基板13の回転角速度や回転時間を求める際に、ウェッジ基板13の停止位置としての回転角度を参照するのは、ウェッジ基板13の回転角度によって、ウェッジ基板13の角度変化量に対する焦点位置の変位幅が異なるからである。ウェッジ基板13の回転角度と焦点位置の変位幅との関係をグラフ化するとサインカーブになる。そして、例えば、振幅を「A」とし、回転角度「0°」の初期停止位置から回転角度「15°」になるように「15°」の角度変化量だけ回転させると、焦点位置の変位幅Δy1は「A×(sin(15°)−sin(0°))=0.259×A」になる。一方、回転角度「15°」から回転角度「30°」になるように「15°」の角度変化量だけ回転させると、焦点位置の変位幅Δy2は「A×(sin(30°)−sin(15°))=0.241×A」になる。このように、ウェッジ基板13の停止位置が異なれば、各停止位置から同じ角度変化量だけ回転させた場合の変位幅Δy1,Δy2が異なる。そのため、ウェッジ基板13の停止位置としての回転角度をも参照してウェッジ基板13の回転角速度や回転時間を求めている。
【0023】
その後、演算手段は、ステップ7で求めたウェッジ基板13の回転方向及び回転角速度に係る補正制御信号を回転機構22のモータドライバに入力する。回転機構22のモータドライバは、補正制御信号に基づいてモータ19を駆動制御し、ウェッジ基板13を所定の回転角速度で所定の回転時間だけ回転させる。その結果として、図6(b)に示すように、集光光学系3のブレに伴って生じるレーザの光軸LSのブレは補正され、レーザの焦点位置の蛇行が軽減されて所望の直線に近づくようになる。
【0024】
レーザ加工装置1によれば、レーザ発振部2を移動させることなく、ウェッジ基板13の回転によってレーザの光軸LSのブレを補正できるため、レーザの光軸LSのブレを容易に補正でき、レーザ溶接の精度を向上できる。
【0025】
また、ウェッジ基板13がコリメーションレンズ11よりも光路の上流側に配置されていると、レンズ法線に対するレーザの入射角を大きくしなければレーザの光軸LSのブレを十分に補正できない。しかしながら、入射角が大きいとレンズの収差が大きくなり、所望のビームスポットサイズを得ることが難しくなって溶接精度を低下させてしまう可能性がある。また、ウェッジ基板13が集光レンズ12よりも光路の下流側に配置されていると、ワーキングディスタンスが小さくなってしまう。レーザ加工装置1では、ウェッジ基板13は、コリメーションレンズ11と集光レンズ12との間に配置されているために、レーザの光軸LSのブレを補正しながら、容易にビームスポットを所望のサイズにすることができ、さらに、ワーキングディスタンスを広くすることが可能になる。
【0026】
なお、本発明は、以上の実施形態に限定されず、集光レンズとしてFθレンズを用いて収差の影響を少なくしてもよい。また、ウェッジ基板を複数設け、各ウェッジ基板を回転させる回転機構を設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るレーザ加工装置の実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明に係るレーザ加工装置の実施形態を示す斜視図である。
【図3】図1及び図2に示すレーザ加工装置のウェッジ基板及び回転機構を拡大して示す断面図である。
【図4】図3のIV−IVに沿った断面図である。
【図5】ウェッジ基板の回転に伴って移動するレーザの光軸を示す図である。
【図6】レーザの光軸のブレに伴って生じる焦点位置の蛇行軌跡を示す。
【図7】ウェッジ基板の傾斜角とレーザの焦点位置のずれ量との関係を示す表である。
【符号の説明】
【0028】
1…レーザ加工装置、3…集光光学系、11…コリメーションレンズ、12…集光レンズ、13…ウェッジ基板、22…回転機構、SS…接合予定線、LS…光軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源を含むレーザ発振部と、前記レーザ光源から発振されるレーザ光の光軸上に配置された集光光学系と、を備えるレーザ加工装置において、
当該レーザ加工装置が所定の加工予定線に沿って移動する際に、前記集光光学系と前記加工予定線とのずれ量を検出する検出手段と、
当該検出したずれ量に基づいて、前記レーザ光の光軸を前記レーザ発振部に対して相対的に調整する光軸調整手段と、
を備えることを特徴とするレーザ加工装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−110348(P2008−110348A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292992(P2006−292992)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)
【Fターム(参考)】