説明

レーザ加工装置

【課題】同時多点照射タイプのレーザ加工装置において2つのレーザ光による加工品質の差を少なくし、加工品質の向上を図ることができるレーザ加工装置を得ること。
【解決手段】1つのレーザ光Lを光路の異なる2つのレーザ光Lα,Lβに分光する第1の偏光手段21と、レーザ光Lαの光路上に配置され、XYテーブル11上の第1の方向にレーザ光Lαを走査するガルバノスキャナ23aと、レーザ光Lβの光路上に配置され、XYテーブル11上の第1の方向とは異なる第2の方向にレーザ光Lβを走査するガルバノスキャナ23bと、2つのレーザ光Lα,Lβを混合する第2の偏光手段25と、レーザ光Lα,LβをXYテーブル11上の相異なる第3と第4の方向に走査する一対のメインガルバノスキャナ26と、メインガルバノスキャナ26からのレーザ光Lα,Lβを被加工物12上の所定の位置にそれぞれ集光させるfθレンズ28と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プリント基板などの被加工物に対する穴あけ加工を主目的としたレーザ加工装置に関するものであり、特に、生産性向上を目的とした同時多点照射タイプのレーザ加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生産性向上を図るためにレーザ光源からの1つのレーザ光を2つに分光して、2穴同時加工することができるレーザ加工装置が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。このレーザ加工装置では、1つのレーザ光を第1の偏光手段にて2つのレーザ光に分光し、再びこれらの2つのレーザ光の光路をほぼ一致させる第2の偏光手段に導く。このとき、第1の偏光手段で分光されたレーザ光のうちの一方のレーザ光(以下、主ビームという)は1組のミラー(ベンドミラー)を経由して第2の偏光手段へと導かれる。また、他方のレーザ光(以下、副ビームという)は一対の第1のガルバノスキャナ群で互いに平行でない2軸方向に走査された後に第2の偏光手段に導かれ、混合される。第2の偏光手段を通過した2つのレーザ光は、一対の第2のガルバノスキャナ群で互いに平行でない2軸方向に走査され、fθレンズに入射し、テーブル上の被加工物へと照射される。ここで、副ビームは、第1のガルバノスキャナ群で走査されることで、1組のミラーを通過してきた主ビームに比べてその角度に若干のずれが存在するので、fθレンズを通過した後の主ビームと副ビームはそれぞれテーブル上の異なる位置に照射されることになる。これによって、1つのfθレンズで2穴同時加工することができ、生産性が向上する。
【0003】
このほかにも、1つのレーザ光を第1の偏光手段にて2つのレーザ光に分光し、それぞれのレーザ光を、一対のガルバノスキャナで2軸方向に走査し、2つのレーザ光を第2の偏光手段へ導いた後、1つのfθレンズで2穴同時加工して生産性を向上したレーザ加工装置も提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【0004】
また、特許文献1に見られるようなレーザ加工装置において、目的の位置に穴を加工するための各ガルバノスキャナの角度指令値を生成する技術についても知られている(たとえば、特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】国際公開第03/041904号パンフレット
【特許文献2】特開2005−230872号公報
【特許文献3】国際公開第03/080283号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載のレーザ加工装置にあっては、分光した一方の副ビーム側は合計2組(すなわち4台)と、主ビーム側の1組(2台)に比べて多くのガルバノスキャナを経由することになる。ガルバノスキャナは、ミラー部を回転させて使用するため、固定ミラーを経由する場合に比べて不安定であるので、そのようなガルバノスキャナを多く経由する副ビームはどうしても加工品質が悪くなりやすいという問題点があった。
【0007】
さらに、副ビームにおいてはfθレンズの前焦点位置(fθレンズ前のビーム走査理想位置)から離れた位置に設置されている第1のガルバノスキャナ群でビームを走査する。そのため、fθレンズの前焦点位置から第1のガルバノスキャナ群までの距離が遠ければ遠い程、fθレンズの特性上、加工穴真円度や焦点裕度といった加工穴品質が悪くなる傾向があり、その結果、被加工物に対する加工穴品質も悪くなってしまうという問題点があった。
【0008】
また、特許文献2に記載のレーザ加工装置においては、第1の偏光手段で2つに分光されたレーザ光は、どちらも固定ミラーではなくガルバノスキャナを経由して走査される構成であり、fθレンズとガルバノスキャナの間に第2の偏光手段を設けるスペースが必要となるため、どちらのレーザ光もfθレンズの前焦点位置から離れた位置での走査となる。その結果、どちらのレーザ光も加工穴品質が悪くなってしまうという問題点があった。
【0009】
さらに、特許文献1に記載のレーザ加工装置のような構成では、光学系が複雑なため、特許文献3に記載のビーム位置を制御するために必要な各ガルバノスキャナの角度指令値などのキャリブレーション作業においては、試し加工に多く点数を必要とし時間がかかってしまうという問題点もあった。
【0010】
この発明は、上記に鑑みてなされたもので、同時多点照射タイプのレーザ加工装置において2つのレーザ光による加工品質の差を少なくし、加工品質の向上を図ることができるレーザ加工装置を得ることを目的とする。また、レーザ光を照射する加工位置を制御するために必要なキャリブレーション作業を容易にすることができるレーザ加工装置を得ることも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、この発明にかかるレーザ加工装置は、テーブル上に配置された被加工物上の2点以上にレーザ光を同時に照射して加工を行うレーザ加工装置において、1つのレーザ光を光路の異なる第1と第2のレーザ光に分光する第1の偏光手段と、前記第1のレーザ光の光路上に配置され、前記テーブル上の第1の方向に前記第1のレーザ光を走査する第1のガルバノスキャナと、前記第2のレーザ光の光路上に配置され、前記テーブル上の前記第1の方向とは異なる第2の方向に前記第2のレーザ光を走査する第2のガルバノスキャナと、前記第1および第2のレーザ光を混合する第2の偏光手段と、混合された前記第1および第2のレーザ光を前記テーブル上で相異なる第3と第4の方向に走査する一対の第3と第4のガルバノスキャナからなるメインガルバノスキャナと、前記メインガルバノスキャナからの前記第1および第2のレーザ光を前記被加工物上の所定の位置にそれぞれ集光させるfθレンズと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、第1の偏光手段で分光されたどのレーザ光も3台のガルバノスキャナを経由する構成にしたので、同時多点照射という生産性を維持したまま加工品質を向上することができるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかるレーザ加工装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。なお、これらの実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
実施の形態1.
この発明によるレーザ加工装置の説明をする前に、従来のレーザ加工装置の構成の概要について説明する。図14は、同時多点照射タイプのレーザ加工装置の構造の従来例を示す図である。レーザ加工装置は、プリント基板などの被加工物212を載置し、水平面(XY平面)内で移動可能なXYテーブル211と、図示しないレーザ発振器から出射されたレーザ光LをXYテーブル211上の被加工物212に照射するための光学系と、を備える。なお、この図において、被加工物212を載置するXYテーブル211の面を水平面とし、この水平面内で互いに直交する2つの軸をX軸とY軸とし、これらのX軸とY軸の両方に垂直な軸をZ軸としている。
【0015】
光学系は、図示しないレーザ発振器から出射されたレーザ光Lを2つのレーザ光La,Lbに分光する偏光ビームスプリッタなどからなる第1の偏光手段222と、第1の偏光手段222で分光され、異なる光路を進行してきた2つのレーザ光La,Lbを混合(ミックス)し、ほぼ同一の光路に導く偏光ビームスプリッタなどからなる第2の偏光手段223と、第2の偏光手段223からの混合されたレーザ光La,Lbを被加工物212上に集光させるfθレンズ228と、を備える。なお、第1の偏光手段222と第2の偏光手段223との間で分光された2つのレーザ光La,Lbは、光路長が同一になるように構成されている。また、前記第2の偏光手段223で2つのレーザ光La,Lbを混合する理由は、ひとつのfθレンズ228を用いて2つの穴を同時加工するためである。
【0016】
簡単のため、レーザ光L,La,Lbの光路は上記で設定したX軸、Y軸、Z軸のいずれかとほぼ平行になるように、レーザ光L,La,Lbの光路上にミラー221a〜221dとガルバノスキャナ224a,224b,226a,226bが配置されている場合で説明する。この場合、光路上に配置されるミラー221a〜221dは、レーザ光Lの光路を90度の角度で曲げる(反射させる)ために、たとえば図に示されるXYZ座標系のいずれかの軸に対して、45度の角度をなして配置される。また、第1の偏光手段222で反射されたレーザ光Lbの光路上には、レーザ光Lbを2軸方向に走査し第2の偏光手段223へと導くための一対のガルバノスキャナ224a,224bが設けられる。ガルバノスキャナ224aは、ミラー225aの回転軸がX軸方向となるように配置され、ガルバノスキャナ224bは、ミラー225bの回転軸がY軸方向となるように配置される。ガルバノスキャナ224aを走査することで、レーザ光LbをXYテーブル211上のX軸方向に走査することができ、ガルバノスキャナ224bを走査することで、レーザ光LbをXYテーブル211上のY軸方向に走査することができる。
【0017】
さらに、第2の偏光手段223とfθレンズ228との間には、第2の偏光手段223からの混合されたレーザ光La,Lbを2軸方向に走査し被加工物212に導くための一対のガルバノスキャナ226a,226bが設けられている。ガルバノスキャナ226aは、ミラー227aの回転軸がZ軸方向となるように配置され、ガルバノスキャナ226bは、ミラー227bの回転軸がX軸方向となるように配置される。ガルバノスキャナ226aを走査することで、レーザ光La,LbをXYテーブル211上のX軸方向に走査することができ、ガルバノスキャナ226bを走査することで、レーザ光La,LbをXYテーブル211上のY軸方向に走査することができる。
【0018】
ここで、このような構成のレーザ加工装置の動作について説明する。図示しないレーザ発振器から出射されたレーザ光Lは、偏光方向を45度の向きに調整されており、2つのミラー221a,221bで反射されて第1の偏光手段222に入射する。第1の偏光手段222では、偏光方向が入射面と垂直なP波であるレーザ光と、偏光方向が入射面と平行なS波であるレーザ光とに分光される。
【0019】
第1の偏光手段222を透過したレーザ光(以下、主ビームという)Laは、2つのミラー221c,221dを経由して、第2の偏光手段223に導かれる。一方、第1の偏光手段222で反射したレーザ光(以下、副ビームという)Lbは、ガルバノスキャナ224a,224bで2軸方向に走査された後、第2の偏光手段223に導かれる。ここで、主ビームLaは、常に同じ位置で第2の偏光手段223に導かれるが、副ビームLbは、ガルバノスキャナ224a,224bの振り角を制御することで、第2の偏光手段223に入射する位置や角度が調整される。
【0020】
その後、主ビームLaは第2の偏光手段223で反射され、副ビームLbは第2の偏光手段223で透過されることで、二つのレーザ光La,Lbは、ほぼ同じ光路をガルバノスキャナ226a,226bへと導かれる。そして、ガルバノスキャナ226a,226bによって2軸方向に走査された後、fθレンズ228に導かれ、それぞれ被加工物212上の所定位置に集光され、加工を実施する。このとき、ガルバノスキャナ224a,224b,226a,226bを走査することによって、被加工物212上の任意の異なる2点に、主ビームLaと副ビームLbとを照射することが可能である。走査領域内の穴の加工がすべて終了した後、XYテーブル211を図中のXY方向に移動させることで、つぎの走査領域の加工を実施することができる。
【0021】
ここで、一組目のガルバノスキャナ224a,224bをそれぞれ或る角度にすると、分光されたレーザ光Lbが第2の偏光手段223以降同一の軌跡を描き同じ位置が加工される。今、十分に近い2つの加工したい穴位置イ、ロがあるとすると、まず第2組目のガルバノスキャナ226a,226bでどちらか一方(たとえばイ)の穴位置が加工されるよう2軸方向に走査すれば、主ビームLaはその位置イに穴を加工する。ついで、第1組目のガルバノスキャナ226a,226bでさらに穴位置イから他の穴位置のロの方向へ2軸方向に走査すれば副ビームLbはもう一方の穴位置ロを加工する。
【0022】
このように、図14の構成を有するレーザ加工装置においては、第2組目のガルバノスキャナ226a,226bがメインの走査、第1組目のガルバノスキャナ224a,224bは上記の穴位置イから穴位置ロのように差分の走査、という役割として考えることができ、直感的にその仕組みを理解しやすかった。また、実際にその役割どおり、第1組目のガルバノスキャナ224a,224bが走査する振れ角は、第2組目のガルバノスキャナ226a,226bが走査する振れ角より小さくなっている。
【0023】
ところがこのようなレーザ加工装置にあっては、分光した一方の副ビームLbは合計2組(すなわち4台)と多くのガルバノスキャナ224a,224b,226a,226bを経由することになる。ガルバノスキャナはミラー部を回転させて使用するため、固定ミラーを経由する場合に比べて不安定であり副ビームLbによる加工はどうしても加工品質(ここでいう加工品質とはスキャンエリア内での穴の真円性・焦点裕度といった加工穴品質と、加工位置精度ばらつきと、の2つのことをいう)が悪くなりやすいという問題点があった。またfθレンズ228の前焦点位置からビーム走査する最も遠いガルバノスキャナ224aまでの距離が長いことも加工品質(特に加工穴品質)が悪くなる原因の一つでもあった。
【0024】
そこで、この発明では、2本のレーザ光の加工品質が、従来のレーザ加工装置における主ビームの加工品質よりも悪くなってしまうが、副ビームの加工品質よりも良くすることができる構成としたレーザ加工装置を提供する。以下に、この発明にかかるレーザ加工装置について説明する。
【0025】
図1は、この発明にかかるレーザ加工装置の実施の形態1の構成を示す図であり、図2は、図1のレーザ加工装置のfθレンズの前焦点位置付近のガルバノスキャナの配置関係を示す図である。このレーザ加工装置は、プリント基板などの被加工物12を載置し、水平面(XY平面)内で移動可能なXYテーブル11と、レーザ光Lを出射するレーザ発振器20と、レーザ発振器20から出射されたレーザ光LをXYテーブル11上の被加工物12に照射するための光学系と、試し加工時におけるXYテーブル11上の加工位置を撮像するCCD(Charge-Coupled Device)カメラなどの撮像手段29と、レーザ発振器20と光学系を構成する後述するガルバノスキャナ23a,23b,26a,26bのミラー角度と撮像手段29とを制御する制御部30と、を備える。なお、この図において、被加工物12を載置するXYテーブル11の面を水平面とし、この水平面内で互いに直交する2つの軸をX軸とY軸とし、これらのX軸とY軸の両方に垂直な軸をZ軸としている。
【0026】
光学系は、レーザ発振器20から出射されたレーザ光Lを分光する偏光ビームスプリッタなどからなる第1の偏光手段21と、分光されたレーザ光Lα,Lβを反射させて光路に導く複数のミラー22a〜22fと、それぞれの光路のレーザ光Lα,LβをXYテーブル11上で相異なる方向に走査するガルバノスキャナ23a,23b(以下では、これらのガルバノスキャナ23a,23bを副ガルバノスキャナ23a,23bともいう)と、第1の偏光手段21で分光され、異なる光路を進行してきた2つのレーザ光Lα,Lβを混合し、ほぼ同一の光路に導く偏光ビームスプリッタなどからなる第2の偏光手段25と、第2の偏光手段25からの混合されたレーザ光Lα,LβをXYテーブル11上で相異なる方向に走査するガルバノスキャナ26a,26b(以下では、これらのガルバノスキャナ26a,26bのことをメインガルバノスキャナ26ともいう)と、混合されたレーザ光Lα,Lβを被加工物12上に集光させるfθレンズ28と、を備える。ここで、副ガルバノスキャナ23a,23bは、特許請求の範囲における第1と第2のガルバノスキャナに対応し、メインガルバノスキャナ26a,26bは、同じく第3と第4のガルバノスキャナに対応する。
【0027】
なお、簡単のため、光路上に配置されるミラー22a〜22fとガルバノスキャナ23a,23b,26a,26bは、レーザ光L,Lα,Lβの光路をX軸、Y軸およびZ軸のいずれかとほぼ平行になるように、レーザ光L,Lα,Lβを90度の角度で曲げる(反射させる)目的で、たとえば図に示されるXYZ座標系のいずれかの軸に対して、45度の角度をなして配置される場合で説明する。また、第1の偏光手段21で透過した側のレーザ光Lαは第2の偏光手段25では反射し、第1の偏光手段21で反射した側のレーザ光Lβは第2の偏光手段25で透過するように光路が構成される。第1の偏光手段21と第2の偏光手段25との間で分光したそれぞれのレーザ光Lα,Lβの光路長は同一になるように構成されている。
【0028】
この実施の形態1では、第1の偏光手段21で分光された2つのレーザ光Lα,Lβの光路上に配置されるミラー22a〜22fの数とガルバノスキャナ23a,23bの数はともに、2つの光路で等しくなるように配置されている。また、2つのレーザ光Lα,Lβで特性の差が出ないよう、ガルバノスキャナの配置方法も工夫されている。すなわち、fθレンズからガルバノスキャナ23a,23bの配置位置までの光路長はともに、2つの光路で等しくなるように設計されている。
【0029】
つまり、第1の偏光手段21で透過したレーザ光(以下、αビームという)Lαの第2の偏光手段25までの光路上には、n(nは自然数)枚のミラー(22a〜22c)と1つのガルバノスキャナ23aが設けられている。また、第1の偏光手段21で反射したレーザ光(以下、βビームという)Lβの第2の偏光手段25までの光路上には、n枚のミラー(22d〜22f)と1つのガルバノスキャナ23bが設けられている。ただし、この図1の場合では、n=3枚である。このような構成によって、2つの光路上には同数のミラーとガルバノミラーが配置されるので、2つの光路上を通過するレーザ光の品質は同じものとなる。
【0030】
また、この実施の形態1では、たとえば図1と図2に示されるように、メインガルバノスキャナ26aは、ミラー27aの回転軸がZ軸方向となるように配置し、メインガルバノスキャナ26bは、ミラー27bの回転軸がX軸方向となるように配置することが考えられる。
【0031】
レーザを走査する前記ガルバノスキャナ26a、26bのミラー27a、27bは、どれもfθレンズ28の前焦点位置Fにあることが望ましい。しかし実際には複数のミラーを同じ位置に配置することは不可能なので、できるかぎりこの状況に近づけることを考える。すなわち、ガルバノスキャナ26aのミラー27aとガルバノスキャナ26bのミラー27bができるだけfθレンズ28の前焦点位置Fに近い位置で、ガルバノスキャナ26aのミラー27aの中心位置とガルバノスキャナ26bのミラー27bの中心位置とを結ぶ線の中点が、fθレンズ28の前焦点位置Fとなるように、メインガルバノスキャナ26a,26bを配置する。ただしこのとき、メインガルバノスキャナ26a,26bのそれぞれのミラー27a,27bが回転することを考慮して、これらのミラー27a,27b同士が干渉しないように2つのミラー27a,27b(ガルバノスキャナ26a,26b)間の距離2Yを選択しなければならない。
【0032】
ところで、図2に示す例では、ガルバノスキャナ26aのミラー27aの回転を固定し、ガルバノスキャナ26bを回転させた場合を考えると、レーザ光Lα,Lβのfθレンズ28への入射位置がY軸方向に沿って変わる。逆に、ガルバノスキャナ26bのミラー27bの回転を固定し、ガルバノスキャナ26aを回転させた場合を考えると、レーザ光Lα,Lβのfθレンズ28への入射位置がX軸方向に沿って変わる。このように、ガルバノスキャナ26a,26bを走査させることによって、fθレンズ28へのレーザ光Lα,Lβの入射位置(入射角度)を変えることができる。
【0033】
また、光学系は図1に示されるように、αビームLα用のガルバノスキャナ23aと、βビームLβ用のガルバノスキャナ23bとの走査方向が同一にならないように決定される。この図1の例においては、(理想的なfθレンズを仮定すると)αビームLα用のガルバノスキャナ23aの走査方向は、直後でX方向でありXYテーブル11上ではX方向となるように、ミラー24aの回転軸がZ軸方向となるようにガルバノスキャナ23aが配置される。また、βビームLβ用のガルバノスキャナ23bの走査方向は、直後でZ方向でありXYテーブル11上ではY方向となるように、ミラー24bの回転軸がY軸方向となるように、ガルバノスキャナ23bは配置される。つまり、ガルバノスキャナ23aを走査することで、レーザ光LαをXYテーブル11上のX軸方向に走査することができ、ガルバノスキャナ23bを走査することで、レーザ光LβをXYテーブル11上のY軸方向に走査することができる。
【0034】
制御部30は、メインガルバノスキャナ26a,26bと副ガルバノスキャナ23a,23bのミラー角度と加工穴の位置の関係を求めるキャリブレーション作業を行って、加工穴の位置にレーザ光Lα,Lβを照射するためのメインガルバノスキャナ26と副ガルバノスキャナ23a,23bのミラー角度を制御する機能を有する。なお、この制御部30によるキャリブレーション作業と加工制御作業については、実施の形態4で説明する。
【0035】
つぎに、このような構成を有するレーザ加工装置の動作について説明する。レーザ発振器20から発振されたレーザ光Lは、第1の偏光手段21で透過側のレーザ光Lαと反射側のレーザ光Lβとに分光される。透過側のレーザ光(すなわち、αビーム)Lαは、いくつかの固定ミラー22a〜22cと、1つのαビーム用のガルバノスキャナ23aを経由して第2の偏光手段25へと導かれる。同様に、反射側のレーザ光(すなわち、βビーム)Lβも別のいくつかの固定ミラー22d〜22fと、1つのβビーム用のガルバノスキャナ23bを経由して第2の偏光手段25へと導かれる。第2の偏光手段25を経由したそれぞれのレーザ光Lα,Lβは、メインガルバノスキャナ26a,26bで走査され、fθレンズ28を通過することで、被加工物12上の2点に照射される。そして、被加工物12が加工される。このとき、副ガルバノスキャナ23a,23bとメインガルバノスキャナ26a,26bは、ともに制御部30によって予め設定された加工情報に基づいてミラー角度が制御される。
【0036】
ここで、この実施の形態1によるレーザ加工装置で加工品質を向上させることができる理由について説明する。第1の偏光手段21と第2の偏光手段25の間で分光された2つのレーザ光Lα,Lβの品質は、同じ数のミラーとガルバノミラーを通過することで等しくなる。これによって、加工点位置精度のばらつきと加工穴品質の2点が改善される。
【0037】
加工点位置精度のばらつきは、加工点での位置ばらつきであり、理想位置に対する誤差ばらつきである。この加工点位置精度のばらつきの主な原因は、ガルバノスキャナ走査時の角度ばらつきによるものであり、1つのレーザ光が経由するガルバノスキャナの台数が少なければ少ないほど改善される。この実施の形態1によると、αビームLαとβビームLβは、それぞれ3台のガルバノスキャナを経由しており、従来例の副ビームLbが経由する4台よりも少ないため、加工位置精度のばらつきは改善される。
【0038】
一方の加工穴品質は、Z軸高さを変化させながらガルバノスキャナを走査領域内で走査して加工したときの加工穴の真円性の程度を表すものである。通常、穴の真円率が所定値以上であると、加工穴品質が良いと判断されることになり、この加工穴品質が良いと判断されるZ軸範囲が大きいほど、焦点裕度が広く、加工穴品質がよいということとなる。ここで、Z軸とは、副ガルバノスキャナ23a,23bと、第2の偏光手段25とメインガルバノスキャナ26a,26bと、fθレンズ28とを含んで構成されるものであり、XYテーブル11の上面に対して垂直な方向(Z軸方向)に平行な方向に移動する機構を有する部品群である。
【0039】
一般的に、加工点までの光路に挿入されるミラーの数が多いほど、伝播されるレーザ光の品質(真円性)が悪くなり、加工点でのビーム品質が悪くなる傾向にある。その結果、加工穴品質も悪くなる。これは、ミラーの平面は、厳密には縦横で凹凸が別形状となっている場合が多く、このようなミラーを複数枚伝播したレーザ光はビームの広がり角度や集光点のZ位置が縦横で大きく異なってしまうこととなるためである。特に、ガルバノスキャナのミラーは、特殊な形状をしたミラーであり、比較的平面度が悪いものもあるために、光路上に複数のガルバノスキャナが存在する場合には、加工点でのビーム品質悪化が非常に大きくなってしまう。
【0040】
図3−1は、加工穴品質が良い状態を模式的に示す図であり、図3−2は、加工穴品質が悪い状態を模式的に示す図である。図3−1のように、レーザ光Lが伝播するミラーやガルバノミラーの枚数が少ない場合には、レーザ光Lを、図に示した座標軸を基準としたXZ平面とYZ平面で切ったときの形状とが一致するので、焦点高さは等しく、ビームは常に真円であり、焦点位置付近のZ軸のどこで切ってもレーザ光Lは円くなっている。しかし、図3−2のように、レーザ光Lが伝播するミラーやガルバノミラーの枚数が多い場合にはレーザ光Lを、図に示した座標軸を基準としたXZ平面とYZ平面で切ったときの形状は一致しない。すなわち、焦点高さ(Z軸)が異なる。その結果、焦点位置付近のZ軸に垂直な方向でレーザ光Lを切ると、楕円形状となる。図3−2では、レーザ光Lの縦横でビームの広がりや集光位置が異なるために横楕円から縦楕円へと変化する場合が示されている。
【0041】
図4は、加工穴品質の評価方法の一例を示す図である。加工穴品質の評価方法は、Z軸高さを変化させて形成したときの加工穴の形状の真円度が所定のパーセンテージ以上となるZ軸範囲を求めることによって評価する。つまり、このZ軸範囲が、加工穴品質が良いとされる範囲となる。また、このZ軸範囲が広いほど、加工を行いやすい。
【0042】
図5−1は、従来の図14のレーザ加工装置における主ビームと副ビームの加工穴品質が良いと判断される範囲の一例を示す図であり、図5−2は、この実施の形態1のレーザ加工装置におけるαビームとβビームの加工穴品質が良いと判断される範囲の一例を示す図である。まず、図5−1に示されるように、主ビームLaでは、レーザ光が伝播するガルバノスキャナ226a,226bの数が2個と少ないが、副ビームLbでは、レーザ光が伝播するガルバノスキャナ224a,224b,226a,226bの数が4個と多い。そのため、2個のガルバノスキャナ226a,226bしか伝播しない主ビームLaの加工穴品質は高いが、4個のガルバノスキャナ224a,224b,226a,226bを伝播する副ビームLbの加工穴品質は極端に低くなっている。これに対して、図5−2に示されるように、レーザ光が伝播するガルバノスキャナの数が3個となるαビームLαとβビームLβは、どちらも図5−1に示される従来のレーザ加工装置の副ビームLbの加工穴品質よりも良い加工穴品質となっている。そして、2つのレーザ光の加工穴品質が良いと判定される範囲はほぼ同等であり、両者が重なる範囲、すなわち2つのレーザ光で加工される加工穴の品質が良好となるZ軸範囲は、図5−1の従来のレーザ加工装置の場合よりも広くなっている。つまり、一方のビーム品質の悪いレーザ光のビーム品質を改善することによって、レーザ加工装置全体の加工穴品質を改善することが可能となる。また、加工穴品質は、図1に示す副ガルバノスキャナ23a,23bのfθレンズ28の前焦点位置Fからの配置距離が短いほど改善される。つまり、図1に示されるように、この実施の形態1の構成によれば、αビームLαとβビームLβが伝播するそれぞれの光路に1つずつ副ガルバノスキャナ23a,23bが配置され、その配置位置を前焦点位置Fに近づけることができるので、加工穴品質を改善することができる。これに加えて、前焦点位置Fからのそれぞれの副ガルバノスキャナ23a,23bの設置距離が等しいので、2つのレーザ光Lα,Lβによる加工穴品質は同等のものとなる。
【0043】
この実施の形態1によれば、分光されたいずれのレーザ光Lα,Lβも3台のガルバノスキャナしか経由せず、fθレンズ28の前焦点位置Fからビーム走査する最も遠い副ガルバノスキャナ23a,23bまでの距離も短くなることにより、従来の同時多点照射型レーザ加工装置と同様の生産性を維持したまま従来の副ビームの加工品質が劣化するという問題点を解消することができる。また、2つのレーザ光Lα,Lβの加工品質が同等となるので、加工品質の良い加工を行うことができるZ軸高さの範囲を広げることができ、従来のレーザ加工装置に比べてより広い条件の範囲での加工を行うことができるという効果を有する。
【0044】
実施の形態2.
図6は、この発明にかかるレーザ加工装置の実施の形態2の構成を示す図であり、図7−1は、図6のレーザ加工装置の副ガルバノスキャナとメインガルバノスキャナのX軸方向から見たときの配置関係を示す図であり、図7−2は、図6のレーザ加工装置のfθレンズの前焦点位置付近のガルバノスキャナの配置関係を示す図である。このレーザ加工装置は、実施の形態1の図1において、ガルバノスキャナ26aのミラー27aの回転軸を、Z軸に対して角度θだけ倒して配置することを特徴とする。また、これに伴って、副ガルバノスキャナ23a,23bもそれぞれ実施の形態1の場合の位置に対して角度θだけ倒して配置する。これらのガルバノスキャナ23a,23b,26aのミラー24a,24b,27aの回転軸はそれぞれ同じ直交座標系を構成している。さらに、実施の形態1の2つの光路内のミラー22bと副ガルバノスキャナ23aとの間と、ミラー22dと副ガルバノスキャナ23bとの間に、図中に示されるXYZ座標系を、このXYZ座標系に比して角度θだけ傾いた直交座標系に変更するためのミラー22g〜22jが各光路に2つずつ配置される。なお、ミラー22g,22iよりもレーザ発振器20側の光路は、XYテーブル11を基準に設けたXYZ直交座標のX軸、Y軸およびZ軸のいずれかに平行となるように構成される。これは、加工点高さ調整のため、XY平面に対して直角であることが必要となるからである。
【0045】
この実施の形態2の場合、ガルバノスキャナ26aをガルバノスキャナ26bの斜め下側で傾斜させた状態で配置したことを特徴としている。具体的には、図7−1〜図7−2に示されるように、ガルバノスキャナ26aは、図2に示される実施の形態1の配置位置に比べて、角度θだけYZ面内でY軸正方向に傾けて配置させている。このように傾けることで、ミラー27a,27bの可動範囲から両者が干渉しない距離を考慮すると、2つのミラー27a,27bの間の距離を、実施の形態1の場合に比して狭めることができる。その結果、fθレンズ28の前焦点位置(fθレンズ28前のビーム走査理想位置)と2つのミラー27a,27bとの間の距離Yも実施の形態1の図2の場合に比して短くすることができ、レーザ光の加工穴品質を高めることができる。また、ガルバノスキャナ26aを角度θだけ傾けることに伴って、ガルバノスキャナ23a,23bは、図2に示される実施の形態1の配置位置に比べて、角度θだけYZ面内でθだけZ軸正方向に傾けて配置させている。
【0046】
このようにガルバノスキャナ23a,23b,26aを傾斜させた場合には、各ガルバノスキャナ23a,23b,26a,26bを走査した場合のXYテーブル11上でのレーザ光Lα,Lβの走査方向は、X軸とY軸に平行な方向となる。
【0047】
この実施の形態2によれば、実施の形態1の効果に加えて、fθレンズ28の前焦点位置Fにメインガルバノスキャナ26a,26bを近づけるように配置しているため、実施の形態1に比して、加工穴品質をさらに向上させることができるという効果を有する。
【0048】
実施の形態3.
実施の形態2では、Z軸の上下調整機構(加工ヘッド部分を動作させることで焦点位置調整をする構造)による動作でビーム位置が変化しないようにするため、光路途中でZ軸と平行な光軸を設ける必要があり、第1分光(第1の偏光手段21)以降のミラー枚数が実施の形態1よりも1つの光路に対して2枚以上多くなってしまうという問題があった。そこで、この実施の形態3では、第1分光以降のミラー枚数を実施の形態1と同じ枚数とする場合について説明する。
【0049】
図8は、この発明にかかるレーザ加工装置の実施の形態3の構成を示す図である。このレーザ加工装置は、実施の形態1の図1で、ガルバノスキャナ26aのみを、ガルバノスキャナ26bの斜め下側で傾斜させた状態で配置したことを特徴としている。このガルバノスキャナ26aの配置位置は、実施の形態2の図7−2で示したものと同じであるので、その説明を省略する。
【0050】
また、この実施の形態3では、ガルバノスキャナ26aのみを角度θだけ傾斜させて配置させており、他の副ガルバノスキャナ23a,23bやミラー22g〜22jは、実施の形態1と同様に、光路がXYテーブル11を基準としたXYZ座標系のX軸、Y軸およびZ軸のいずれかと平行になるように配置されている。これによって、Z軸の上下調整機構による動作でビーム位置が変化しないようにすることが可能になる。
【0051】
この実施の形態3の場合は、各ガルバノスキャナ23a,23b,26a,26を走査した場合のXYテーブル11上でのレーザ光Lα,Lβの走査方向は、X軸とY軸に平行な方向ではなく、直角でない所定の角度で交差する2本の軸に平行な方向となる。
【0052】
この実施の形態3によれば、第2の偏光手段25以降のメインガルバノスキャナ26a,26bの走査座標系はXYテーブル11を基準とした直交座標系であるが、副偏光ガルバノスキャナ23a,23bの走査座標系は直交ではなくなって或る角度θを持つこととなるが、第1分光(第1の偏光手段21)以降のミラー枚数が実施の形態1と同じで少ない構成で済むため、実施の形態2に比して、加工穴品質の劣化を抑えることができるという効果を有する。
【0053】
実施の形態4.
実施の形態1〜3では、レーザ加工装置におけるガルバノスキャナとミラーの配置についての説明を行った。上述したように、たとえば、実施の形態1の光学系では、図1に示すように、αビームLα用のガルバノスキャナ23aと、βビームLβ用のガルバノスキャナ23bとの走査方向が直交すると、直観的にわかりやすく、走査面積を最大にすることができる。たとえば、実施の形態1(図1)では、理想的なfθレンズ28を想定すると、αビームLα用のガルバノスキャナ23aの走査方向は、直後でX軸方向であるので、XYテーブル11上ではX軸方向であり、βビームLβ用のガルバノスキャナ23bの走査方向は、直後でZ方向であるので、XYテーブル11上ではY軸方向である。しかし、実際には理想的なfθレンズ28の製作が困難なことや、レンズ取り付け精度の限界などにより、1台のガルバノスキャナによる走査方向がXYテーブル11上で直線にはならない。また、ガルバノスキャナの走査方法(制御方法)によって加工穴位置を制御することができるので、実施の形態2,3で示したように、αビームLα用のガルバノスキャナ23aとβビームLβ用のガルバノスキャナ23bの走査方向が直交しないような構成とすることも可能である。したがって、いずれの場合にしても、目標の穴座標に穴加工を施せるように各ガルバノスキャナ23a,23b,26a,26bの角度を決めなければならない。そこで、この実施の形態4では、目標の穴座標に穴加工を施すためのガルバノスキャナの制御方法について説明する。
【0054】
このようなレーザ加工装置の制御を行うのは、図1、図6、図8に示されるように制御部30である。この制御部30は、ガルバノスキャナ23a,23b,26a,26bのミラー角度とXYテーブル11上に形成される加工穴位置との関係を求めるキャリブレーション機能31と、キャリブレーション機能31によって求められた目標とする位置に穴加工を行うためのガルバノスキャナ23a,23b,26a,26bのミラー角度を求めるモデルを格納するモデル格納機能32と、被加工物12に対して行う加工穴をあける位置などの加工情報を格納する加工情報格納機能33と、加工情報格納機能33に格納される加工情報をモデル格納機能32のモデルを用いてガルバノスキャナ23a,23b,26a,26bやレーザ発振器20の制御を行う加工制御機能34と、を備える。
【0055】
以下では、最初にレーザ加工装置における制御方法の概要を説明し、そのつぎに制御を行うためのキャリブレーション方法について説明する。
【0056】
レーザ加工装置には、加工したいXYテーブル11上の穴座標(目標穴座標)に対して、その加工を実現するためにあるべきガルバノスキャナ23a,23b,26a,26bの角度(角度指令値)を求める機能が要求される。
【0057】
図9は、図14に示される従来の同時多点照射型のレーザ加工装置における各ガルバノスキャナのミラー角度と加工される穴の座標との関係を示すブロック線図である。この図9に示されるように、従来の同時多点照射型レーザ加工装置では、主ビームLaの加工穴の座標(ax,ay)を求め、副ビームLbの加工穴の座標(bx,by)は、この主ビームLaの加工穴の座標(ax,ay)との差分によって求める方法が採用されている。つまり、主ビームLaの加工穴の座標(ax,ay)を、第2組目のガルバノスキャナ226a,226bのミラー角度によって定める。一方の副ビームLbの加工穴の座標(bx,by)は、第2組目のガルバノスキャナ226a,226bのミラー角度に加えて、第1組目のガルバノスキャナ224a,224bのミラー角度によって定める。しかし、これらの主ビームLaと副ビームLbとをまとめてみると、4つのガルバノスキャナ224a,224b,226a,226bのミラー角度を決めると、2つの加工穴の座標(4つの座標成分)が決まる、4入力4出力の関係にある。これにより、これらの関係は写像の関係として捉えることができる(詳しくは、特許文献2参照)。
【0058】
ところで、この発明によるレーザ加工装置では、上述したように、第1の偏光手段21で分光された2つのレーザ光は、どちらも同じ数のガルバノスキャナを伝播することによって、ビーム品質による優劣がないので、主ビームと副ビームという分類はなく同等である。つまり、この発明によるレーザ加工装置用には、上述した従来の図9に示されるような写像の関係を利用して2つの加工穴の座標を決めるための4つのガルバノスキャナのミラー角度を求める方法を適用することができないので、新たに加工穴座標を定めるための制御方法が必要となる。
【0059】
図10は、この発明によるレーザ加工装置における各ガルバノスキャナのミラー角度と加工される穴の座標との関係を示すブロック線図である。この図10に示されるように、この発明によるレーザ加工装置では、αビームLαでは、メインガルバノスキャナ26a,26bのミラー角度に加えてαビームLαの光路上に配置されると副ガルバノスキャナ23aのミラー角度によって、加工穴の位置座標(αx,αy)が決まる。また、βビームLβでも、メインガルバノスキャナ26a,26bのミラー角度に加えてβビームLβの光路上に配置される副ガルバノスキャナ23bのミラー角度によって、加工穴の位置座標(βx,βy)が決まる。そして、これらをまとめてみると、4台のガルバノスキャナ23a,23b,26a,26bのミラー角度が決まると、4つの加工穴座標αx,αy,βx,βy(2つの穴でそれぞれX座標とY座標があるため4変数)が決まるという写像の関係にあることがわかる。
【0060】
これより、この実施の形態4では、2つの加工穴の座標(4つの加工穴座標の成分)を求めるために、図10のブロック線図で表した写像の逆写像モデルを使用することを特徴とする。また、図10より、2つの加工穴の目標位置座標αx,αy,βx,βyの4入力に対し、その穴座標αx,αy,βx,βyでの加工を実現すべく4台のガルバノスキャナ23a,23b,26a,26bのミラー角度の推定値gae,gbe,gce,gdeの4変数を出力する4入力4出力であることを特徴とする。そして、この実施の形態4で使用される逆写像モデルは、4入力4出力の多項式を含む多項式モデルを用いて、4台のガルバノスキャナ23a,23b,26a,26bのミラー角度から4つの加工穴座標αx,αy,βx,βyを求める機能を実現する。ここで、多項式とは、定数と変数の四則演算のみで計算される数式のことをいい、その種類は何通りも考えられる。
【0061】
この実施の形態4で使用される逆写像モデルを、行列式を用いた数式で示すと次式(1)のようになる。ここで、Beは、4台のガルバノスキャナ23a,23b,26a,26bのミラー角度の推定値を示す行列であり、Aは、n次(nは自然数)の多項式モデルで表した目標穴座標を示す行列であり、Xは行列Aの係数行列(または、未知パラメータ行列)である。
【0062】
e=AX ・・・(1)
【0063】
たとえば、1次の多項式モデルの場合には、項数が5個となる次式(2)のような形となり、2次の多項式モデルの場合には、項数が15個となる次式(3)のような形となり、3次の多項式モデルの場合には、項数が35個となる次式(4)のような形となる。なお、ここに示した多項式以外でも、たとえば式(4)の一部を使うなどの多項式モデルが考えられることを補足しておく。
【0064】
【数1】

【数2】

【数3】

【0065】
上記の式で係数行列Xの成分k1-1,k1-2,・・・は多項式の係数であり、光学系の特性に合わせて後ほど説明するキャリブレーション方法により決定される。これらの(2)式〜(4)式に示されるように、行列Xは、多項式の係数のみからなる行列である。たとえば、1次の多項式モデルの場合には、係数行列Xは5×4の行列であり、2次の多項式モデルの場合には、係数行列Xは15×4の行列であり、3次の多項式モデルの場合には、係数行列は35×4の行列である。
【0066】
多項式の次数を高くして項数を増やしていけば、より精度の高い加工穴の位置制御が行えるが、その多項式モデルの係数行列を求めるためにより多くのデータが必要になってくる。任意の次数の多項式を用いることができるが、実験の結果、プリント基板などの穴あけ用のレーザ加工装置の場合には、次数が3次以下のすべての項からなる多項式モデル(項数=35)を用いると、要求仕様を満たす精度の逆写像モデルを作ることができることがわかった。
【0067】
上記の多項式モデルの係数(未知パラメータ)を求めるために、キャリブレーション処理が必要となる。このキャリブレーション処理は、制御部30のキャリブレーション機能31によって実現される。キャリブレーション処理では、各ガルバノスキャナ23a,23b,26a,26bのミラー角度をいくつかの値に振って試し加工を行い、実際に加工された穴座標をCCDカメラなどの撮像手段29で測定する。各ガルバノスキャナ23a,23b,26a,26bの角度データga,gb,gc,gdと、そのときに加工された穴座標データαx,αy,βx,βyから、最小二乗法や重み付最小二乗法などの手法を用いて上記多項式モデルの係数(未知パラメータ)を決定する。キャリブレーション機能31で上記のようにして算出された各ガルバノスキャナのミラー角度から加工される2つの穴座標の写像の逆写像モデル(多項式モデル)は、モデル格納機能32に格納される。
【0068】
このキャリブレーション処理においてもこの発明によるレーザ加工装置は、従来の同時多点照射タイプのレーザ加工装置に比べて作業時間を短縮できるといった顕著な効果を発揮する。このことを以下の簡単な例で比較することにより示す。
【0069】
この発明と従来のキャリブレーション処理において、第1組目のガルバノスキャナ23a,23b(または224a,224b)はミラー角度をそれぞれ4通り、第2組目のガルバノスキャナ26a,26b(または226a,226b)はミラー角度をそれぞれ3通りに振って試し加工を行う場合で比較する。図11は、従来の同時多点照射型のレーザ加工装置を用いた場合の加工穴位置を示す図であり、図12は、この発明によるレーザ加工装置を用いた場合の加工穴位置を示す。なお、簡単のため、ここではfθレンズ28,228が理想的であると仮定して、XYテーブル11,211上で直線上に走査したものとする。これらの図で、横軸は、XYテーブル11,211上のX軸を示しており、縦軸は、XYテーブル11,211上のY軸を示している。また、「○」印は主ビームLaまたはαビームLαによって形成された加工穴の位置を示しており、「×」印は副ビームLbまたはβビームLβによって形成された加工穴の位置を示している。
【0070】
図13は、キャリブレーションに必要な加工穴数を示す図である。従来のレーザ加工装置(図14)で試し加工を行う場合、ガルバノスキャナのミラー角度の組み合わせは、3×3×4×4=144通りあるが、レーザ光La,Lbが2本なので、確認するのは288通りある。しかし、光学系の特性により、同じ位置に加工される重複分が存在する。たとえば、図9のブロック線図からわかるように、従来技術による同時多点照射型のレーザ加工装置では、主ビームLaの光学系は、ガルバノスキャナ224a,224bのミラー位置に依らないので、確認するのは3×3=9通りでよい。つまり、位置が同じになるケースは重複して加工する必要がないので、確認が必要な穴数は288通りより少なくなり、153通りとなる。
【0071】
一方、この発明によるレーザ加工装置で試し加工を行う場合、ガルバノスキャナのミラー角度の組み合わせは、3×3×4=36通りあり、レーザ光Lα,Lβが2本なので、確認するのは72通りとなる。
【0072】
この簡単な例においてでさえ、この発明によるレーザ加工装置の場合では従来技術に比べて、キャリブレーション時の試し加工を行う穴数を81個分減らすことができる。実際のキャリブレーション処理では、もっと細かくガルバノスキャナのミラーの角度を振る必要があるので、従来技術との穴数の差が顕著となる。キャリブレーション処理では、この試し加工した穴の座標を撮像手段29で測定するが、穴数が多ければ多いほどこの測定作業に長い時間が費やされる。
【0073】
以上説明したようなキャリブレーション処理によって係数行列が求められ、多項式モデルの係数が決定される。そして、実際の加工においては、制御部30の加工制御機能34は、被加工物12上の穴を開けたい位置としてXYテーブル11上の座標(αx,αy)、(βx,βy)を加工情報格納機能33から取得し、モデル格納機能32に格納された多項式モデルに、取得した穴を開けたい位置座標を入力して、演算した結果得られるガルバノスキャナのミラー角度ga,gb,gc,gdとなるようにガルバノスキャナ23a,23b,26a,26bのミラー角度を制御する。以上によって、目標とする被加工物12上の位置に穴を開けることができる。
【0074】
なお、上記の説明では、実施の形態1のレーザ加工装置の場合を例に挙げたが、実施の形態2,3の場合にも同様にして多項式モデルを用いてガルバノスキャナ23a,23b,26a,26bのミラー位置を制御することによって、加工穴の位置を制御することができる。
【0075】
この実施の形態4によれば、第1の偏光手段21で分光される2つの光路上に同じ数のガルバノスキャナを配置するようにしたので、キャリブレーション処理に必要な加工穴数を減らすことができ、キャリブレーション処理時間を大幅に短縮できるといった顕著な効果を有する。また、このような光学系を有するレーザ加工装置に対しては、4台のガルバノスキャナのミラー角度から加工される2つの穴座標への写像の逆写像モデルで、加工穴の位置を制御することができるという効果を有する。
【0076】
なお、上述した実施の形態1〜4では、2つに分光されたレーザ光のそれぞれの光路上には、3つのガルバノスキャナが配置された例を示したが、それぞれの光路で同じ数であれば、任意の数のガルバノスキャナを配置してもよい。また、本アイディアを応用し、2つに分光したレーザ光をさらに2つ分光する方法や、レーザ発振器を複数台用意して同時加工穴数を増やしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上のように、この発明にかかるレーザ加工装置は、同時に複数の穴加工を精度よく行う場合に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】この発明によるレーザ加工装置の実施の形態1の構成を示す図である。
【図2】図1のレーザ加工装置のfθレンズの前焦点位置付近のガルバノスキャナの配置関係を示す図である。
【図3−1】加工穴品質が良い状態を模式的に示す図である。
【図3−2】加工穴品質が悪い状態を模式的に示す図である。
【図4】加工穴品質の評価方法の一例を示す図である。
【図5−1】従来のレーザ加工装置における主ビームと副ビームの加工穴品質が良いと判断される範囲の一例を示す図である。
【図5−2】この実施の形態1のレーザ加工装置におけるαビームとβビームの加工穴品質が良いと判断される範囲の一例を示す図である。
【図6】この発明によるレーザ加工装置の実施の形態2の構成を示す図である。
【図7−1】図6のレーザ加工装置の副ガルバノスキャナとメインガルバノスキャナのX軸方向から見たときの配置関係を示す図である。
【図7−2】図6のレーザ加工装置のfθレンズの前焦点位置付近のガルバノスキャナの配置関係を示す図である。
【図8】この発明によるレーザ加工装置の実施の形態3の構成を示す図である。
【図9】従来の同時多点照射型のレーザ加工装置における各ガルバノスキャナのミラー角度と加工される穴の座標との関係を示すブロック線図である。
【図10】この発明によるレーザ加工装置における各ガルバノスキャナのミラー角度と加工される穴の座標との関係を示すブロック線図である。
【図11】従来の同時多点照射型のレーザ加工装置を用いた場合の加工穴位置を示す図である。
【図12】この発明によるレーザ加工装置を用いた場合の加工穴位置を示す図である。
【図13】キャリブレーションに必要な加工穴数を示す図である。
【図14】同時多点照射タイプのレーザ加工装置の構造の従来例を示す図である。
【符号の説明】
【0079】
11 XYテーブル
12 被加工物
20 レーザ発振器
21 第1の偏光手段
22a〜22j,24a,24b,27a,27b ミラー
23a,23b,26,26a,26b ガルバノスキャナ
25 第2の偏光手段
28 fθレンズ
29 撮像手段
30 制御部
31 キャリブレーション機能
32 モデル格納機能
33 加工情報格納機能
34 加工制御機能

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テーブル上に配置された被加工物上の2点以上にレーザ光を同時に照射して加工を行うレーザ加工装置において、
1つのレーザ光を光路の異なる第1と第2のレーザ光に分光する第1の偏光手段と、
前記第1のレーザ光の光路上に配置され、前記テーブル上の第1の方向に前記第1のレーザ光を走査する第1のガルバノスキャナと、
前記第2のレーザ光の光路上に配置され、前記テーブル上の前記第1の方向とは異なる第2の方向に前記第2のレーザ光を走査する第2のガルバノスキャナと、
前記第1および第2のレーザ光を混合する第2の偏光手段と、
混合された前記第1および第2のレーザ光を前記テーブル上の相異なる第3と第4の方向に走査する一対の第3と第4のガルバノスキャナからなるメインガルバノスキャナと、
前記メインガルバノスキャナからの前記第1および第2のレーザ光を前記被加工物上の所定の位置にそれぞれ集光させるfθレンズと、
を備えることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
前記第1および第2のガルバノスキャナは、前記第1および第2のレーザ光が伝播するそれぞれの光路上の、前記fθレンズの前焦点位置からの光路長が等しい位置にそれぞれ配置されることを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記第1および第2の方向の両方に直交する方向を第5の方向とした場合に、
前記第1〜第4のガルバノスキャナは、前記第1〜第4のガルバノスキャナのミラーの回転軸の方向が、前記第1、第2、第5の方向のいずれかと同じ方向となるように配置されることを特徴とする請求項1または2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
記第1および第2の方向の両方に直交する方向を第5の方向とした場合に、
前記第1、第2および第4のガルバノスキャナは、前記第1、第2、第4のガルバノスキャナのミラーの回転軸の方向が、前記第1、第2、第5の方向のいずれかと同じ方向となるように配置され、
前記第3のガルバノスキャナは、前記第4のガルバノスキャナよりも前記第2の偏光手段側に配置され、前記第3のガルバノスキャナのミラーの回転軸の方向が前記第1、第2、第5の方向のいずれかの方向に対して所定の角度傾くように配置されることを特徴とする請求項1または2に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記第1および第2の偏光手段の間の2つの光路に配置されるガルバノスキャナの数と、前記第1および第2のレーザ光を所定の方向に導くミラーの数とが同じであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記第1〜第4のガルバノスキャナのミラー角度と、そのミラー角度のときに前記テーブル上に照射される前記第1および第2のレーザ光により加工される穴の座標と、の関係を示す演算モデルに基づいて、前記被加工物上の目的の加工位置に対応して前記第1〜第4のガルバノスキャナのミラー角度を演算し、前記第1〜第4のガルバノスキャナのミラー角度を制御する制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記演算モデルは、前記第1〜第4のガルバノスキャナのミラー角度から前記第1および第2のレーザ光の前記テーブル上の照射座標への写像の逆写像モデルであることを特徴とする請求項6に記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
前記逆写像モデルは、前記照射座標を構成する4つの成分を入力とし、前記第1〜第4のガルバノスキャナのミラー角度を出力とする4入力4出力の多項式を含む多項式モデルで表されることを特徴とする請求項7に記載のレーザ加工装置。
【請求項9】
前記多項式モデルは、前記照射座標の4つの成分の3次以下の項を含む多項式によって表されることを特徴とする請求項8に記載のレーザ加工装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記第1〜第4のガルバノスキャナのそれぞれのミラー角度を任意に振ったときの前記第1および第2のレーザ光の前記テーブル上の照射座標の4つの成分を測定し、前記第1〜第4のガルバノスキャナのミラー角度と前記照射座標の4つの成分との間の関係を示す演算モデルを算出する機能をさらに有することを特徴とする請求項6〜9のいずれか1つに記載のレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−290137(P2008−290137A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140210(P2007−140210)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】