説明

レーザ加工装置

【課題】レーザ出力の変動に基づく加工不良が発生しないようにしたレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】射出レーザ光出力を常時計測する計測器と、レーザ光射出中の規定監視時間内において計測されたレーザ光出力値の最大値を求める最大値判定手段と、予め定めた規定監視時間経過後に該最大値と監視レベルである規定レーザ出力値とを比較して該最大値が規定範囲内か否かを判定する異常判定手段と、この異常判定手段により最大値が規定範囲外であると判定された場合にアラーム内容を表示すると同時に少なくとも前記固体レーザユニットの運転を停止する異常処理手段とを具備したこととした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工の不安定性の問題を好適に解消したパルス発振型固体レーザ装置、及びレーザ出力の変動に基づく加工不良が発生しないようにしたレーザ加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザダイオード(以降「LD」と表記する)励起固体レーザ装置本体の高出力化、高輝度化が進展したことにより、従来の加工装置では成し得なかった精密溶接や微細除去加工が、レーザ装置により高速かつ高精度で得られるようになってきた。このために、レーザ装置は電気・電子部品のスポット溶接やシーム溶接加工に使用されたり、金属、半導体、セラミック材料等への表面マーキングやスクライビング加工、また穴あけ、切断加工に活発に適用されるようになった。
【0003】
従来の固体レーザ装置の代表例として、レーザ活性媒体がロッド型のNd:YAG結晶で、平均出力が300Wクラスのレーザダイオード励起パルス型Nd:YAGレーザ装置本体を具備する構成を図9に示す。
【0004】
ここで、φ5mm、長さ116mmのNd:YAG結晶1は、中心波長808nmで発振する平均光出力20W/バーのLDを60バー搭載したLD励起ユニット2から射出したLD光3により励起され、共振器長400mmのレーザ共振器4を構成する全反射鏡5と反射率70%の出力結合鏡6との間でNd:YAG結晶1から放射した1.06μmの光が選択的に増幅され、出力結合鏡6からNd:YAGレーザ光7となり射出する。また、LD励起ユニット2は直流安定化電源8より通電され、安定なNd:YAGレーザ出力を維持するためにNd:YAG結晶1およびLD励起ユニット2は、直接もしくはそれらの周辺部が一定の温度になるように純水冷却装置9から供給された純水を介して温度管理されている。
【0005】
また、Nd:YAGレーザ光7の一部はビームスプリッター10によりモニター用レーザ光11としてパワー減衰器12を透過して高速パワーセンサー13に導かれる。その他のレーザ光7は入射集光光学系14によりコア径0.3mm、長さ10mの伝送用光ファイバ15の伝送条件を満足するように集光されている。光ファイバ15から射出したレーザ光は、CNCテーブル16に置かれた被加工物17上で加工に適したビーム形状になるように射出集光光学系18により整形あるいは集光され、所望のレーザ加工が行われる。
【0006】
本構成において、レーザ光7は高速パワーセンサー13によりモニターされたレーザ出力値と指令レーザ出力値が一致するように直流安定化電源8からLD励起ユニット2に通電される電流がフィードバック制御されている。
【0007】
しかしながら従来の構成において、モニター用レーザ光の高速パワーセンサーとして一般的にはPIN型Siフォトダイオードを用いた場合、以下の欠点を有している。
(1)パワーセンサーへの許容入力光レベルはmWレベルであるために、モニター用レーザ光は高精度のパワー分割手段と高減衰手段とを併用して、実際のNd:YAGレーザ光を約100,000分の一程度にまで減衰させなければいけない。しかし、前記手段として用いる光学部品のパワー分割率およびパワー減衰率は、湿度変化や光学部品への粉塵の付着等により容易にそれらの特性が変化してしまい、モニター用レーザ出力から高精度に実際のNd:YAGレーザ出力を予測することは困難である。
(2)パワーセンサーの検出感度の温度依存性が0.2〜1.0%/°Cと大きいために、周囲温度変化により容易に感度変化が生じ、周囲温度が一定でない環境下に置かれたレーザ装置本体においては、測定されたモニター出力から実際のNd:YAGレーザ光出力を安定に精度良く予測することは困難である。
【0008】
したがって、このようなパワーセンサーで測定されたモニターレーザ出力値をフィードバック信号として、LD電流を制御するNd:YAGレーザ装置においては、上記したセンサーの諸問題により、絶対精度として2%以下の安定したNd:YAGレーザ出力が得られないのが実情であった。このために、同構成のレーザ装置本体を使用したレーザ加工において精度不良、強度不足等の加工不良が不可避的に伴うという問題が発生していた。
【0009】
また、この種のパルス発振型固体レーザ装置を使用したレーザ加工装置では、レーザ出力の変動に基づく加工不良が発生しないようにすることが望まれている。この種のレーザ加工装置としては、以下に説明するものが知られている。
【0010】
従来例として、レーザ溶接加工を主目的としたレーザ活性媒体がロッド型のNd:YAG結晶で、平均出力が300WクラスのLD励起パルス型Nd:YAGレーザ加工装置の構成を図10に示す。
【0011】
ここで、ロッド直径φ5mm、長さ116mmのNd:YAG結晶101は、中心波長808nmで発振する20W/バーのLDを60バー搭載したLD励起ユニット102から射出したLD光103により励起され、共振器長400mmのレーザ共振器104を構成する全反射鏡105と反射率70%の出力結合鏡106との間でNd:YAG結晶1から放射した1.06μmの光が選択的に増幅され、出力結合鏡106からNd:YAGレーザ光107となり射出する。また、Nd:YAG結晶101およびLD励起ユニット102は、直接もしくはそれらの周辺部が一定の温度になるように純水冷却装置108から供給された純水を介して温度管理され、安定なNd:YAGレーザ出力が維持できるように構成されている。
【0012】
Nd:YAGレーザ光107の一部はビームスプリッター109により反射されモニター光110として取り出され、熱電変換型のモニター光出力測定器111に導かれ出力の測定が行われ、ビームスプリッターを透過したNd:YAGレーザ光107は、ビームシャッター112が開状態で入射集光光学系113に入射し、コア径0.3mm、長さ10mの伝送用光ファイバ114に集光され伝送されている。ビームシャッター112が閉状態では、Nd:YAGレーザ光107は熱電変換型のレーザ光出力測定器115に入射し出力が測定される構成となっている。
【0013】
Nd:YAGレーザ出力の制御およびON、OFFは、直流安定化電源116よりLD電流を制御することにより行われ、一般的には、レーザ光を外部に射出する以前に求めたレーザ出力特性から決定されるLD電流が所望のレーザ出力に対応して通電されている。また、Nd:YAGレーザ光107の出力監視は、モニター光110の出力値と規定値とを比較することにより行われている。
【0014】
光ファイバ14から射出したレーザ光は、CNCテーブル117に置かれた被加工物118上で加工に適したビーム形状になるように射出集光光学系119により整形あるいは集光され、所望のレーザ加工が行われる。
【0015】
しかしながら、従来の構成において搭載している熱電変換型のモニター光出力測定器111では、応答速度が0.1〜3sec程度と遅いために、測定が精度良く行えても異常を検出できるのに応答速度と同程度の時間が必要となっていた。また、この時定数以下の時間でレーザ発振動作が終了する場合やパルス繰返し周波数が100Hz以下のパルス発振運転時においては、図11に示したように平均レーザ出力の測定が十分な精度で行えないので、前記短パルス発振運転時や前記低周波数以下のパルス発振運転時にはモニター光の出力を測定しているものの、射出レーザ出力の監視は行えなかった。
【0016】
したがって、レーザ共振器104を構成する全反射鏡105や出力結合鏡106が、塵やごみの付着により損傷しレーザ出力が急激に低下した場合においても、この出力低下の異常状態の検出が遅れたりまたは検出が不可能であったりして、正常なレーザ加工が行われないまま加工を継続してしまうという問題が発生していた。
【発明の開示】
【0017】
本発明では、レーザ出力の高速フィードバック制御が困難なパルス型LD励起固体レーザ装置を用いた加工において問題となる、レーザ出力の不安定性に起因する加工の不安定性の問題を解決するパルス型LD励起固体レーザ装置を提供するものである。
【0018】
本発明では上記課題を解決するために、モニターレーザ出力をフィードバック信号としたLD電流のクローズドループ制御方式に換わり、レーザ出力値に対応するLD電流値を単純に通電するオープンループ制御方式に変更可能とする技術を提供するものである。
【0019】
基本的には、レーザ光をレーザ装置本体外部に射出する以前に、レーザ装置本体内部でレーザ発振動作を行い、パルスレーザ出力値とパルスLD電流値との正確な相関関係を求めた後、レーザ光をレーザ装置本体外部に射出する場合には、事前に求めたパルスレーザ出力値とパルスLD電流値との相関関係に従い、所望のパルスレーザ出力値に対応したパルスLD電流を通電するようにしたものである。
【0020】
このようにすれば、所望のパルスレーザ出力値が得られるパルスLD電流値の通電技術を確立することができるので、常に安定したレーザ出力を得ることができる。この結果、同レーザ装置本体を使用したレーザ加工装置においは、レーザ出力の不安定性に起因する精度不良、強度不足等の加工不良が発生しなくなるので、加工歩留まり率が向上し加工コストが低減する。また、さらに加工材料資源の低減と運転コストの低減を通じて、地球環境に対してより優しいレーザ加工装置を提供することができる。
【0021】
また、本発明では、パルス型LD励起固体レーザユニットから射出するパルスレーザ出力を常時監視し、異常出力値を検出した際にはレーザ装置の運転を停止することにより、レーザ出力の変動に基づく加工不良が発生しないようにしたレーザ加工装置を提供するものである。
【0022】
本発明では上記課題を解決するために、モニター光出力の測定手段に、当該モニター光出力を常時計測し得るものを採用する。例えば、固体レーザ装置の発振波長域において十分な検出感度を有し、且つ数nsecの応答速度とを有したPIN型Siフォトダイオードを用いる。
【0023】
そして、モニター光のレーザ出力値の正常値を予め計測し記録しておき、記録された数値を比較基準に設定し、通常運転中のモニター光出力の監視期間中に計測されるレーザ出力値と比較し、規定値以上に計測値があれば異常と判断処理する。
【0024】
レーザ出力値の監視は、設定された監視期間内の最大レーザ出力値を比較基準値として行うことにより比較基準値を最小個数にして、記憶メモリー量を最小限にすると同時に比較演算処理の高速化を行う。
【0025】
本発明に係るモニター光出力の監視技術を適用することにより、短時間の発振動作でもパルス繰返し周波数が100Hz以下の場合においても、そのパルスレーザ出力値の計測と異常レーザ出力の検出がmsecオーダで可能となる。
【0026】
この結果、同レーザ加工装置を使用したレーザ加工においは、レーザ出力の不安定性に起因する精度不良、強度不足等の加工不良が大幅に減少するので、加工歩留まり率が向上し加工コストが低減する。また、さらに加工材料資源の低減と運転コストの低減を通じて、地球環境に対してより優しいレーザ加工装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0028】
本発明の実施形態として、レーザ溶接加工を主目的としたレーザ活性媒体がロッド型のNd:YAG結晶で、平均出力が300WクラスのLD励起パルス型Nd:YAGレーザ装置本体を主体とした固体レーザ装置の構成を図1に示す。
【0029】
ここで、ロッド直径φ5mm、長さ116mmのNd:YAG結晶1は、中心波長808nmで発振する20W/バーのLDを60バー搭載したLD励起ユニット2から射出したLD光3により励起され、共振器長400mmのレーザ共振器4を構成する全反射鏡5と反射率70%の出力結合鏡6との間でNd:YAG結晶1から放射した1.06μmの光が選択的に増幅され、出力結合鏡6からNd:YAGレーザ光7となり射出する。また、LD励起ユニット2は直流安定化電源8より通電され、安定なNd:YAGレーザ出力を維持するためにNd:YAG結晶1およびLD励起ユニット2は、直接もしくはそれらの周辺部が一定の温度になるように純水冷却装置9から供給された純水を介して温度管理されている。
【0030】
また、出力結合鏡6と入射集光光学系14とのビーム伝送経路間にビームシャッター10および熱電型レーザ出力測定器13が配置されていて、レーザ光7はビームシャッター10が開状態で入射集光光学系15に入射し、コア径0.3mm、長さ10mの伝送用光ファイバ15に集光される。伝送用光ファイバ15から射出したレーザ光は、CNCテーブル16に置かれた被加工物17上で加工に適したビーム形状になるように射出集光光学系18により整形あるいは集光され、所望のレーザ加工が行われる。
【0031】
このような構成において、Nd:YAGレーザ光7を用いてレーザ加工を行う前に、正確なレーザ光出力がレーザ加工に適用されることを目的に、レーザ出力値の校正を実施する。そのために、この実施形態の固体レーザ装置に図3に示す制御手段20を備えておく。制御手段20は、予め規定された矩形パルス電流値及び各矩形パルス電流値に対応するパルスレーザ出力値を記憶する記憶部21と、この記憶部21に記憶された矩形パルス電流値及びパルスレーザ出力値から所要のパルスレーザ出力値に対応するパルス電流値を線形予測する演算部22と、この演算部22にて線形予測されたパルス電流値をレーザダイオードに通電するための出力部23とを備える。記憶部21に記憶されるパルスレーザ出力値など必要なものについては、この実施形態においては予め演算部22で演算しておく。これら記憶部21、演算部22及び出力部23からなる制御手段20は、CPU、メモリ及びインターフェースを備えた通常のマイクロコンピュータを用いて容易に構成することができ、専用機によることも勿論実現することが可能である。
【0032】
以下に、上記制御手段を用いた校正の手順を示す。
ここでは、レーザ出力の校正実施サンプル点数を5点とし、またレーザ発振閾値を与えるLD電流Itは25Aとして実施した(図2参照)。
【0033】
(1)ビームシャッター10を閉状態にし、Nd:YAGレーザ光7の全てのレーザ出力が熱電型レーザ出力測定器12に入射するようにビーム伝送経路を変更する。
【0034】
(2)パルス幅τ、パルス繰返し周波数fの条件で、第一サンプルLD電流値I1においてレーザ発振動作を行い、熱電型レーザ出力測定器12により平均レーザ出力Pa1を測定した後、パルスレーザ出力P1
n=Pan/(τ・f)…式(1)
を使用して演算部21で求め、記憶部21に記憶する。
ここでτ=0.5msec、f=200Hz、I1=30Aの場合、Pa1=20WでP1=200Wであった。また、Pa1の測定はLD電流を通電指令してから3秒後の値を測定データとした。
【0035】
(3)パルス幅、パルス繰返し周波数は同一で、サンプルLD電流値のみをI2、I3、I4、I5の順に増加させ、各サンプルLD電流値におけるパルスレーザ出力値P2、P3、P4、P5を演算部22にて求め、記憶部21に記憶した後、各サンプルLD電流値をIt以下にしてレーザ発振動作を中止する。
ここで、I2=50A、I3=70A、I4=90A、I5=110Aの時、P2=530W、P3=1260W、P4=2050W、P5=3160Wであった。
また、各平均レーザー出力値Pan(n=2〜5)の測定はサンプルLD電流を通電指令してから全て一定で、3秒後の値を測定データとした。
【0036】
(4)各サンプルLD電流値とパルスレーザ出力値のデータを基にして、測定された最大パルスレーザ出力値P5までの任意のパルスレーザ出力値Ppが得られるレーザダイオード通電パルス電流値Icを予測するために以下の線形式を作製する。
【0037】
1<Pp≦P2の場合:
c=((I2−I1)/(P2−P1))・Pp+(P21−P12)/(P2−P1)……式(2)‐1
2<Pp≦P3の場合:
c=((I3−I2)/(P3−P2))・Pp+(P32−P23)/(P3−P2)……式(2)‐2
3<Pp≦P4の場合:
c=((I4−I3)/(P4−P3))・Pp+(P43−P34)/(P4−P3)……式(2)‐3
4<Pp≦P5の場合:
c=((I5−I4)/(P5−P4))・Pp+(P54−P45)/(P5−P4)……式(2)‐4
0<Pp≦P1 の場合は、
c=((I1−It)/P1)・Pp+It……式(3)
ここで、式(2)‐1〜式(2)‐4を一般関係式で表現すると、
n−1<Pp≦Pn、(n≧2)の場合は、
c=((In−In−1)/(Pn−Pn−1))・Pp+(Pnn−1−Pn−1n)/(Pn−Pn−1)……式(2)
となる。
【0038】
パルスレーザ出力値の校正動作を終えた後は、これらの関係式(2)および(3)を使用して、演算部22が所望のパルスレーザ出力に対応するレーザダイオード通電パルス電流値を演算し、出力部を通じてLDに通電する。そのためのプログラムは、制御手段20の記憶部21に記憶されており、演算部22は適宜そのプログラムを取り出して演算を実行し、その結果を前記記憶部21に書き込む。図4はその概略的なフローチャートである。
【0039】
この結果、パルスレーザ出力値の指令値が150Wの場合、パルスLD電流は28.75Aが通電され、実際のパルスレーザ出力値は152Wで、約1.3%の絶対精度でレーザ出力が得られた。また、パルスレーザ出力値の指令値が2500Wの場合、パルスLD電流は98Aが通電され、実際のパルスレーザ出力値は2485Wで、約0.6%の絶対精度でレーザ出力が得られた。
【0040】
なお、制御手段20は、前記レーザ装置本体Aのパルスレーザ出力値の校正時において、各レーザダイオード通電パルス電流値において得られるパルスレーザ出力値が、前回の校正時に得られた同一電流値のパルスレーザ出力値と比較して、規定された増減率と同一もしくはそれ以下の場合に限り取得データで更新することが可能な機能を備えている。
【0041】
また、制御手段20は、前記レーザ装置本体Aのパルスレーザ出力値の校正時において、各レーザダイオード通電パルス電流値において得られるパルスレーザ出力値が、前回の校正時に得られた同一電流値のパルスレーザ出力値と比較して、規定された増減率以上の場合は、新規取得データによるデータ更新は実施せず、レーザ装置本体Aの異常とみなし異常内容を表示すると共にレーザ装置本体の校正動作を中止する機能をも備えている。
【0042】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0043】
以上のように、固体レーザ装置を使用するに際して、使用前にレーザ装置本体の校正を行うことにより、レーザ出力の不安定性に起因する過去の不安定性の問題を解決するものであるので、このような構成をレーザ加工装置に採用することができる。
【0044】
また、レーザ加工装置としては、以下に説明する構成を採用することにより、さらに信頼性を向上させることができる。
【0045】
すなわち、本発明の他の実施形態として、レーザ溶接加工を主目的としたレーザ活性媒体がロッド型のNd:YAG結晶で、平均出力が300WクラスのLD励起パルス型Nd:YAGレーザユニットAを主体として構成したレーザ加工装置を図5に示す。
【0046】
ここで、レーザ共振器およびビーム伝送系の構成は従来例と同一であるが、最も大きな相違はモニター光出力測定器111をPIN型Siフォトダイオードに変更し、ビームスプリッター109での射出レーザ光に対する反射率を約1%としてモニターレーザ光110を作製している点にある。
【0047】
Nd:YAGレーザ光107の出力監視は、PIN型Siフォトダイオードを検出器として用いることで、LD励起パルス型Nd:YAGレーザユニットAから射出可能なパルスレーザ光出力は、全てのレーザ射出期間において監視可能となる。しかしながら、一般的には図6に示したようにレーザ加工を実施する場合、加工部位により様々なレーザ出力値から成るパルスレーザ光で加工が行われるので、監視基準値もそれに連動した設定値で常時監視を行わなければならない。これでは、図6に示した加工条件#1のような0.5msecのパルス幅を有するパルスレーザ光が100Hzの繰り返し周波数で運転されている場合、監視サンプリング間隔は少なくとも0.05msecは必要で、レーザ射出時間中の全ての期間である2.5secの期間で監視を行うと、約5×104回も比較演算処理が必要となり、高速処理可能な演算装置と大容量メモリーを具備した制御装置が必要となり、レーザ装置が高価になってしまう。
【0048】
本発明の他の実施形態では、簡便な方法として監視時間をある特定の短期間に限定して設定可能とし、さらにその期間中の最大値のみを監視対象とした。
【0049】
そのために、固体レーザユニットAAのレーザ光射出部と当該レーザ光射出部から射出したレーザ光が導入されるレーザ光伝送系たる伝送用光ファイバ114の入射導光部である入射集光光学系113との間にあって、レーザ光の一部を分離するビームスプリッター109より反射する射出レーザ光出力を計測器たるモニター光出力測定器111に導入するモニター光110とし、当該モニター光出力測定器111において直接光もしくは拡散反射板を介して高速光センサーに入射したモニター光のレーザ出力値を計測し、ビームスプリッター109における射出レーザ光の反射率から伝送用光ファイバ114に導光されるレーザ出力値を推定計測するものである。
【0050】
具体的構成としては、図7に例示するように、レーザ光射出中の規定監視時間内において計測されたレーザ光出力値の最大値である実最大レーザ出力値を求める最大値判定手段120と、予め定めた規定監視時間経過後に該最大値と監視レベルである規定レーザ出力値とを比較して該最大値が規定範囲内か否かを判定する異常判定手段121と、この異常判定手段が規定範囲外であると判定した場合にアラーム内容を表示すると同時に前記固体レーザユニットの運転を停止する異常処理手段122とを備える。
【0051】
このうち、少なくとも前記モニター光出力測定器111の一部、最大値判定手段120、異常判定手段21及び異常処理手段122は、CPU、メモリ及びインターフェースを備えた通常のマイクロコンピュータシステム等によって容易に構成することができる。
【0052】
図8は、この場合にCPUが実行すべきものとしてメモリ内に格納されるプログラムの概要を示すフローチャートであり、図6はレーザ光射出中の監視期間を具体的に示すものである。これらの図に基づいて説明すると、レーザ光が射出されると同時にモニター光出力測定器111がモニターレーザ光出力を監視すべくサンプリングを開始し(S1,S2)、開始後100msec後に監視終了する(S5)。正常時における監視期間中の代表値として、この期間中の最大レーザ出力値を取得する(S3,S4)。これは、最大値が最もS/N値が大きいからである。このステップS3、S4は、容易にピークホールド回路に代替して構成することもできる。正常時のモニターレーザ光出力を監視基準とするための上記ステップでは、実加工と同一条件でレーザ装置を運転し基準最大レーザ出力値を取得する。また監視基準幅としては、センサー感度の周囲環境に対する変化(一般的に0.5%/°C)やレーザ加工品質の許容幅等から、基準最大レーザ出力値に対して±3%の値を上限規定レーザ出力値及び下限規定レーザ出力値として設定する。
【0053】
実加工時には、上述した基準最大レーザ出力値の取得ステップと同様の実最大レーザ出力値の取得ステップ(S1〜S5)を実施し、これに加えて、実最大レーザ出力値を前記監視基準幅を踏まえた上限規定レーザ出力値及び下限規定レーザ出力値と比較する比較ステップ(S6)を実施する。そして、実最大レーザ出力値が下限規定レーザ出力値から上限規定レーザ出力値までの範囲を外れる場合は、監視期間終了直後にアラームとしてレーザ装置の表示器に「レーザ出力異常」を表示すると同時に、レーザ装置ならびに加工機械の運転を中止する等の異常処理を行う(S7)。
【0054】
つまり本他の実施形態によって、監視期間中は常にレーザ出力の最大値を取得し、期間終了と同時に監視基準値と最新の最大値とを比較するという、きわめて単純な構成で高精度のレーザ出力の監視が実現できた。
【0055】
そして、従来技術では不可能であった短パルスおよび低パルス周波数でレーザ加工中の異常レーザ出力の監視が実現できたことにより、異常時には、即座にレーザ装置の運転を停止することができるようになった。
【0056】
なお、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0057】
例えば、上記他の実施形態では、レーザレーザ光射出直後から100msecの期間をモニターレーザ出力の監視期間としたが、レーザ光が射出されている時間内であれば、任意の時間範囲を監視期間としても同様の効果が得られる。
【0058】
また、上記実施形態では、監視期間をレーザ光射出直後から100msecの1期間としたが、レーザ光が射出されている時間内であれば、複数の監視期間を設けることで、より高精度のレーザ出力の監視が行なえる。
【0059】
さらに、上記他の実施形態では、数nsecの応答速度を有するフォトダイオードを使用したが、一般的に加工に適用されるレーザ光のパルス幅は100μsec以上であるので、検出器の応答速度は数十μsecの応答速度でも十分な機能と効果が期待できる。
【0060】
さらにまた、射出レーザ光の伝播経路を変更する反射鏡からの透過レーザ光もしくはレーザ共振器を構成する全反射鏡からの透過レーザ光を前記計測器におけるモニター光とし、当該計測器において直接光もしくは拡散反射板を介して高速光センサーに入射したモニター光のレーザ出力値を計測し、透過レーザ光の射出レーザ光に対する比率からレーザ光伝送系に導光するようにしても構わない。
【0061】
なお、上記したそれぞれの実施形態は、単独で実施されるものであってよく、また両者を組み合わせて実施するものであってもよい。
【0062】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
上述したように、本願のパルス発振型固体レーザ装置によれば、安定的に2%以下の絶対精度でパルスレーザ出力値を射出することが可能となる。上記実施形態によるレーザ加工機を用いたレーザ溶接加工においては、ブローホール等の溶接欠陥が減少したり、溶接深度のバラツキが低減したことにより、溶接品質を大幅に改善することができた。
【0064】
また、本願のレーザ加工装置によれば、レーザ出力の過不足に起因する精度不良、強度不足等の加工不良が大幅に減少するので、加工歩留まり率が向上し加工コストが低減する。また、さらに加工材料資源の節減と運転コストの低減を通じて、地球環境に対してより優しいレーザ加工装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態を示す模式的な構成図。
【図2】同実施形態におけるレーザ出力校正データ作成の概念図。
【図3】同実施形態における制御手段の機能ブロック図。
【図4】同制御手段による処理の概要を示すフローチャート。
【図5】本発明の他の実施形態を示す模式的な構成図。
【図6】同実施形態によるモニターレーザ出力の概念図。
【図7】同実施形態の機能ブロック図。
【図8】同実施形態の処理手順を示すフローチャート。
【図9】従来例を示す模式的な構成図。
【図10】従来例を示す図5に対応した図。
【図11】同従来例によるモニターレーザ出力の概念図。
【符号の説明】
【0066】
AA…固体レーザユニット
109…ビームスプリッター
110…モニター光
111…計測器(モニター光出力測定器)
114…レーザ光伝送系(伝送用光ファイバ)
120…最大値判定手段
121…異常判定手段
122…異常処理手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体レーザ活性媒体の主たるエネルギー吸収帯域において発光するレーザダイオードを励起源としたパルス発振型の固体レーザユニットを主体とするものであって、射出レーザ光出力を常時計測する計測器と、レーザ光射出中の規定監視時間内において計測されたレーザ光出力値の最大値を求める最大値判定手段と、予め定めた規定監視時間経過後に該最大値と監視レベルである規定レーザ出力値とを比較して該最大値が規定範囲内か否かを判定する異常判定手段と、この異常判定手段により最大値が規定範囲外であると判定された場合にアラーム内容を表示すると同時に少なくとも前記固体レーザユニットの運転を停止する異常処理手段とを具備したことを特徴としたレーザ加工装置。
【請求項2】
固体レーザユニットのレーザ光射出部と当該レーザ光射出部から射出したレーザ光が導入されるレーザ光伝送系の入射導光部との間に、レーザ光の一部を分離するビームスプリッターを設け、該ビームスプリッターから反射する射出レーザ光出力を前記計測器におけるモニター光とし、当該計測器において直接光もしくは拡散反射板を介して高速光センサーに入射したモニター光のレーザ出力値を計測し、ビームスプリッターにおける射出レーザ光の反射率からレーザ光伝送系に導光されるレーザ出力値を推定計測する請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
射出レーザ光の伝播経路を変更する反射鏡からの透過レーザ光もしくはレーザ共振器を構成する全反射鏡からの透過レーザ光を前記計測器におけるモニター光とし、当該計測器において直接光もしくは拡散反射板を介して高速光センサーに入射したモニター光のレーザ出力値を計測し、透過レーザ光の射出レーザ光に対する比率からレーザ光伝送系に導光されるレーザ出力値を推定計測する請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
実際に監視を行う運転条件と同一のレーザ射出条件で、少なくとも一回以上運転し、その際に計測されたレーザ光出力の監視期間における最大値を前記最大値判定手段が自動的に取得し、その最大値が前記異常判定手段における実際の運転時の監視レベルとして設定されることを特徴とした請求項1〜3記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
異常判定手段におけるレーザ出力の監視期間は、レーザ光射出中の全区間でも、あるいはレーザ出力値の計測が可能な時間以上の任意の期間でも設定可能であることを特徴とした請求項1〜4記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
レーザ光射出期間において、前記異常判定手段が複数個の監視期間を任意に設定可能であることを特徴とした請求項1〜5記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
レーザ光出力の計測器として固体レーザユニットの発振波長域において十分な検出感度を有し且つ数nsec〜数十μsecの応答速度とを有した検出器を搭載したことを特徴とした請求項1〜6記載のレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−65202(P2009−65202A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299980(P2008−299980)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【分割の表示】特願2003−537168(P2003−537168)の分割
【原出願日】平成14年2月18日(2002.2.18)
【出願人】(598072179)株式会社片岡製作所 (24)
【Fターム(参考)】