説明

レーザ加工装置

【課題】加工対象が設置された位置および傾きによらず、加工対象に対して位置精度良くレーザ加工を行う。
【解決手段】加工対象1を一定速度で第1の方向に搬送する加工対象搬送手段2と、加工対象搬送手段2上における加工対象1の位置を検出する位置検出手段3と、レーザ発振器4と、レーザ発振器4から出力されたレーザビームBの偏向方向を第1の方向と平行な方向において調整してレーザビームBを偏向させる偏向手段6と、偏向手段6で偏向されたレーザビームBを偏向して被加工面に対して既定の走査方向に一定速度で走査する走査手段7と、位置検出手段3で検出した加工対象搬送手段2上における加工対象1の位置の検出結果と、加工対象1の搬送位置に関する情報と、に基づいて偏向手段6におけるレーザビームBの偏向方向を制御する制御手段8と、偏向手段6および走査手段7で偏向されたレーザビームBを被加工面上に集光する集光手段9と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工対象にレーザビームを照射することで加工対象を加工するためのレーザ加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、加工対象にレーザを照射することで加工対象を加工するレーザ加工装置が広く用いられている。例えば、加工対象を搬送する加工対象搬送手段とレーザビームの走査を行うレーザビーム走査手段とを備え、加工対象搬送手段により加工対象を一方向に一定速度で移動させつつレーザビーム走査手段によりレーザビームを走査して加工をする際に、加工対象の搬送速度に応じてレーザビーム走査方向と搬送方向とのなす角度を変化させることで、搬送速度によらず搬送方向と直角方向の直線にレーザ加工するレーザ加工装置がある(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−259869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術によれば、加工対象搬送手段に加工対象を設置してレーザ加工を実施する際に、搬送手段の設置面上における加工対象の位置ずれ、回転方向の傾きにより加工対象上におけるレーザ加工位置にずれが生じるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、加工対象が設置された位置および傾きによらず、加工対象に対して位置精度良くレーザ加工を行うことが可能なレーザ加工装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるレーザ加工装置は、被加工面を上にした状態で加工対象を保持するとともに前記加工対象を一定速度で第1の方向に搬送する加工対象搬送手段と、前記加工対象搬送手段上における前記加工対象の位置を検出する位置検出手段と、レーザビームを出力するレーザ発振器と、前記レーザ発振器から出力された前記レーザビームの偏向方向を前記第1の方向と平行な方向において調整して前記レーザビームを偏向させる偏向手段と、前記偏向手段で偏向された前記レーザビームを偏向して前記被加工面に対して既定の走査方向に一定速度で走査する走査手段と、前記位置検出手段で検出した前記加工対象搬送手段上における前記加工対象の位置の検出結果と、前記加工対象搬送手段による前記加工対象の搬送位置に関する情報と、に基づいて前記偏向手段における前記レーザビームの偏向方向を制御する制御手段と、前記偏向手段および前記走査手段で偏向された前記レーザビームを前記被加工面上に集光する集光手段と、を備えること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、加工対象搬送手段上における加工対象の位置に基づいて、加工対象を搬送する第1の方向に平行な方向においてレーザビームの偏向方向を調整することが可能であり、加工対象が設置された位置および傾きによらず、加工対象に対して位置精度良くレーザ加工を行うことが可能となる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明にかかるレーザ加工装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は以下の記述に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す図面においては、理解の容易のため、各部材の縮尺が実際とは異なる場合がある。各図面間においても同様である。
【0009】
実施の形態
図1は、本発明の実施の形態にかかるレーザ加工装置の概略構成を説明するための模式図である。本実施の形態にかかるレーザ加工装置は、加工対象搬送手段2と、位置検出手段3と、レーザ発振器4と、レーザビーム成形手段5と、偏向手段6と、走査手段7と、制御手段8と、集光手段9とを備える。
【0010】
加工対象搬送手段2は、被加工面を上にした状態で加工対象1を保持するとともに加工対象1を一定速度で第1の方向である搬送方向に搬送する。加工対象搬送手段2は、例えばベルトコンベアなどが用いられる。また、加工対象搬送手段2は、加工対象1の搬送位置に関する情報(位置信号)を生成して制御手段8に送信する。
【0011】
位置検出手段3は、加工対象搬送手段2上における加工対象1の位置を検出する。位置検出手段3は、例えば2カ所に設けられて2点で加工対象1の位置を検出する。レーザ発振器4は、レーザビームBを出力する。
【0012】
レーザビーム成形手段5は、レーザ発振器4から出力されたレーザビームBを加工対象1の被加工面の加工点で所望のレーザパターンとなるように成形する。レーザビーム成形手段5としては、例えば回折光学素子を使用することができる。なお、レーザビーム成形手段5の代わりに所望の形状の開口を使用してレーザビームBを形成することも可能である。
【0013】
偏向手段6は、レーザビーム成形手段5で成形されたレーザビームBの偏向方向を搬送方向と平行な方向において調整してレーザビームBを偏向させる。偏向手段6には、例えばガルバノミラーが用いられる。以下、ガルバノミラー6と呼ぶ。このようにガルバノミラー6を有することにより、本実施の形態にかかるレーザ加工装置では、レーザビーム成形手段5で成形されたレーザビームBを、搬送方向と平行な方向において任意に調整して偏向することが可能である。
【0014】
走査手段7は、ガルバノミラー6で偏向されたレーザビームBを偏向して被加工面に対して既定の走査方向に一定速度で走査する。走査手段7には、例えばポリゴンミラーが用いられ、ミラーを一定方向に回転して、ガルバノミラー6で偏向されたレーザビームBを例えば搬送方向と略直交する方向に走査する。以下、ポリゴンミラー7と呼ぶ。
【0015】
制御手段8は、位置検出手段3で検出した加工対象搬送手段2上における加工対象1の位置の検出結果と加工対象搬送手段2による加工対象1の搬送位置に関する情報とに基づいてガルバノミラー6におけるレーザビームBの偏向方向を制御する。制御手段8は、予め設定された加工対象搬送手段2上における加工対象1の設置位置に関する情報(設定位置情報)を有しており、制御手段8は、位置検出手段3での検出結果と設定位置情報とにより、設定位置に対する、実際に配置された加工対象1の位置ずれや回転方向の傾き(以下、傾きと呼ぶ)に関する情報を得ることができる。また、制御手段8は、加工対象搬送手段2から、加工対象1の搬送位置に関する情報(位置信号)を取得する。これにより、制御手段8は、位置ずれや傾きに関する情報と、加工対象1の搬送位置に関する情報(位置信号)と、に基づいてガルバノミラー6におけるレーザビームBの偏向方向を制御して、加工位置を補正して、加工対象1の設置位置の位置ずれや傾きに起因した加工位置の位置ずれを防止する。
【0016】
集光手段9は、ポリゴンミラー7で偏向されたレーザビームBを加工対象1の被加工面上に集光する。集光手段9には、例えばFθレンズが用いられる。以下、Fθレンズ9と呼ぶ。
【0017】
次に、本実施の形態にかかるレーザ加工装置による加工を、多結晶シリコン太陽電池の裏面(太陽光の入射側の面を表面とする)の一部のみに電極(以下、狭小コンタクトと呼ぶ)を形成する場合を例に説明する。従来の一般的な多結晶シリコン太陽電池では、電流を取り出すためのコンタクト構造(電極構造)が裏面の全面に形成されている。この場合、多結晶シリコン太陽電池用の多結晶シリコン基板の裏面側でのキャリアの再結合損失や、電極材と多結晶シリコン基板との線膨張係数の違いによる歪などが発生し、光電変換効率や、耐久性、信頼性に問題が生じる。
【0018】
しかしながら、狭小コンタクトを備える構造の多結晶シリコン太陽電池においては、多結晶シリコン基板の裏面の大部分を占める絶縁膜のパッシベーション効果によりキャリアの再結合損失を低下して、光電変換効率を向上することができる。また、多結晶シリコン基板の裏面において、限られた領域であるレーザ開口部のみに狭小コンタクトを形成することで、電極が全面に形成されている場合に電極材と多結晶シリコン基板との線膨張係数の違いによって生じる歪を低減できるため、耐久性、信頼性が向上する。以下では、多結晶シリコン太陽電池の製造プロセスのうち、狭小コンタクトの形成工程について図2−1〜図2−3を参照して説明する。図2−1〜図2−3は、多結晶シリコン太陽電池の狭小コンタクトの形成工程を説明するための模式図である。なお、図2−1〜図2−3は、本発明の説明に直接関わる部材のみを記載している。
【0019】
まず、狭小コンタクトの形成工程の流れについて説明する。最初に多結晶シリコン太陽電池用の多結晶シリコン基板11の裏面の全面に絶縁膜12を形成する(図2−1)。絶縁膜12は、例えばシリコン窒化膜(Si)を使用することができる。次に、本実施の形態にかかるレーザ加工装置により、絶縁膜12にレーザ開口部13を形成する(図2−2)。この時のレーザ開口部13のパターンは、等間隔の直線である。続いてレーザ開口部13上に電極ペーストを印刷し、多結晶シリコン基板11を加熱することにより電極ペーストを焼成して狭小コンタクト14を形成する(図2−3)。以上により、多結晶シリコン基板11の裏面に、狭小コンタクト14を形成することができる。
【0020】
次に、上述した狭小コンタクト14の形成のために、本実施の形態にかかるレーザ加工装置を用いて例えば4mmピッチの36本の直線状のレーザ開口部13を加工する方法を説明する。レーザ加工する直線の幅は例えば40μmに設定する。なお、ピッチとレーザ開口部13の幅は代表的な値を例示したにすぎず、使用する絶縁膜12、多結晶シリコン基板11の特性などの諸条件により、作製する多結晶シリコン太陽電池の光―電気変換効率が最適になるように調整すればよい。ピッチおよびレーザ開口部13の幅を変化させても本発明の効果は有効である。
【0021】
ここで、加工対象1は150mm角の略四角形状の多結晶シリコン基板11の裏面上に形成した絶縁膜12である。レーザ発振器4は、QスイッチLD励起固体レーザの3倍波を使用する。レーザビームBの波長は、355nmである。多結晶シリコン基板11上の絶縁膜12およびシリコンの侵入長の短い波長を選択することで、多結晶シリコン基板11のレーザビームB照射による劣化の少ない加工が可能である。QスイッチLD励起固体レーザは、数10kHzと比較的繰り返し周波数が高い上、パルスエネルギーが大きく、ピークパワーが高いので、一発のレーザパルスにより大面積の絶縁膜12に加工可能であり、高速の加工が可能である。
【0022】
レーザ発振器4から出力されたレーザビームBは、レーザビーム成形手段5で成形されてガルバノミラー6に入射する。ガルバノミラー6に入射したレーザビームBは、制御手段8により、搬送方向と平行な方向において偏向方向が調整されて偏向され、ポリゴンミラー7に入射する。ポリゴンミラー7に入射したレーザビームBは、偏向され、搬送方向と略直交する方向に走査される。より具体的には、レーザビームBは、略四角形状の多結晶シリコン基板11における搬送方向と略平行な方向の辺と略直交する方向に走査される。
【0023】
ポリゴンミラー7により偏向、走査されたレーザビームBは、Fθレンズ9により加工対象1の被加工面上に集光される。被加工面のレーザビームBが照射された部位では、レーザアブレーションにより加工対象1である多結晶シリコン基板11上の絶縁膜12にレーザ開口部13が形成される。
【0024】
加工対象1を加工対象搬送手段2上に設置する際に、実際の加工対象搬送手段2上における加工対象1の設置位置22は、予め設定された加工対象搬送手段2上における加工対象1の設置位置21(目標の加工対象設置位置)に対して例えば図3に示すように位置ずれや傾きが生じる場合がある。図3は、加工対象1の設置位置に位置ずれや傾きが生じた場合の加工対象1の設置状況を説明するための説明図である。加工対象1の設置時にこのような位置ずれや傾きが生じると、加工対象1上のレーザ加工位置にも、予め設定された加工対象1上のレーザ加工位置に対して位置ずれや傾きが生じる。
【0025】
レーザ開口部13形成後の電極ペーストの印刷工程においては、電極ペーストはレーザ開口部13上に印刷する必要がある。レーザ加工のピッチ方向の位置ずれ、レーザ加工の傾きが生じると電極ペーストの下部にレーザ開口部13が存在しない領域が発生する。このため、十分な導通が取れなくなり、多結晶シリコン太陽電池の特性が悪化する。
【0026】
本実施の形態における多結晶シリコン太陽電池の裏面の狭小コンタクトの形成においては、レーザ開口部13の幅は40μmである。狭小コンタクト構造の効果が得られる領域は、電極を形成した部分以外の領域である。このため、狭小コンタクト構造の効果を最大とするために、印刷する電極ペーストの幅はレーザ開口部13の幅と同等か、せいぜい数倍大きい程度とすることが好ましい。上記のように電極ペーストの下部に確実にレーザ開口部13が存在するようにレーザ加工するためには、加工位置精度は数十μm以内であることが要求される。
【0027】
ポリゴンミラー7は一定速度で高速にレーザビームBを走査可能であり、加工対象搬送手段2による加工対象1の一定速度での搬送と、ポリゴンミラー7によるレーザビームBの走査と、を組み合わせることで、同一のパターンを高速に加工することが可能である。しかし、レーザビーム走査のタイミングを加工対象1の位置ずれにあわせて精度良く変化させることはできない。
【0028】
従来、上記のように加工対象1上での加工位置の精度が要求される加工においては、加工対象1を加工対象搬送手段2上に設置した後に、加工対象1の位置を検出し、その検出信号に基づいて加工対象1の位置を調整するか、加工対象搬送手段2の搬送速度とポリゴンミラー7のレーザビーム走査の向きを変化させる必要が生じる。しかし、これらの動作には時間がかかるためレーザ加工以外の処理時間が増加し、結果として十分な処理速度が得られない。したがって、加工位置精度良く、且つ高速でレーザ加工することができない。
【0029】
本実施の形態にかかるレーザ加工装置は、加工対象搬送手段2による加工対象1の一定速度での搬送と、ポリゴンミラー7によるレーザビームBの走査と、を組み合わせた処理においても、加工位置精度良く、且つ高速でレーザ加工することが可能である。すなわち、本実施の形態にかかるレーザ加工装置は、加工対象搬送手段2上での加工対象1の位置を2点で検出し、その検出結果に基づいて実際に配置された加工対象1の位置ずれや傾きに関する情報を得ることができる。そして、この加工対象1の位置ずれや傾きに関する情報と加工対象搬送手段2による加工対象1の搬送位置に関する情報とに基づいてガルバノミラー6によるレーザビームBの偏向方向を制御することで、レーザビームBによる加工位置を補正して、加工対象1の設置位置の位置ずれや傾きに起因した加工位置の位置ずれを防止し、加工位置精度良く、且つ高速でレーザ加工が可能である。
【0030】
以下に、本実施の形態にかかるレーザ加工装置においてガルバノミラー6を使用することで加工位置精度良く、且つ高速でレーザ加工を実施する方法について具体的に説明する。
【0031】
まず、ガルバノミラー6が無く、加工対象1が加工対象搬送手段2上に目標どおり設置されて一定速度で搬送されている場合の該加工対象1上でのレーザ加工の軌跡について説明する。
【0032】
ポリゴンミラー7によるレーザビーム走査速度は、5,326mm/秒、レーザビーム走査回数は25回/秒、加工対象搬送手段2の搬送速度は100mm/sである。この時、図4に示すように加工対象1上に斜めに4mm間隔の直線状のレーザ加工がなされる。すなわち、レーザ加工の軌跡31は、加工対象1の各辺に直角または平行な方向から傾いた方向となる。図4は、従来のガルバノミラー6を未使用のレーザ加工装置による目標位置に設置された加工対象1上のレーザ加工の軌跡を説明するための模式図である。なお、本図では、説明の都合上、点線でレーザ加工パターンを示したが、実際のレーザ加工パターンは、切れ目のない連続したパターンである。
【0033】
次に、本実施の形態にかかるレーザ加工装置において加工対象1が加工対象搬送手段2上に目標どおり設置されて一定速度で搬送されている場合のレーザ加工の軌跡について説明する。ポリゴンミラー7によるレーザビーム走査速度は、ガルバノミラー6が無い場合と同様に、5,326mm/秒、レーザビーム走査回数は25回/秒、加工対象搬送手段2の搬送速度は100mm/sである。
【0034】
本実施の形態にかかるレーザ加工装置においては、制御手段8が、加工対象搬送手段2の位置に関する位置信号およびポリゴンミラー7によるレーザビーム走査のタイミング信号を基にガルバノミラー6を制御し、レーザビームBの偏向方向を加工対象1の搬送方向と平行な方向おいて調整することで、図5に示すようにレーザ加工の軌跡31が加工対象1の各辺に直角または平行な方向となるレーザ加工が可能である。図5は、ガルバノミラー6を使用した本実施の形態にかかるレーザ加工装置による目標位置に設置された加工対象1上のレーザ加工の軌跡の説明図である。なお、図5においても図4と同様に、説明の都合上、点線でレーザ加工パターンを示したが、実際のレーザ加工パターンは、切れ目のない連続したパターンである。
【0035】
この時のガルバノミラー6によるレーザビーム偏向位置を図6に示す。図6は、本実施の形態にかかるレーザ加工装置により、目標位置に設置された加工対象1を加工する場合のガルバノミラー6によるレーザビーム偏向位置を示す特性図である。図中の横軸は時間を表している。また、図中の縦軸は、ガルバノミラー6によるレーザビーム偏向位置を表しており、縦軸のレーザビーム偏向位置の+方向は、加工対象搬送手段2による搬送速度の方向である。レーザビーム偏向位置は、ポリゴンミラー7の走査周期である40msを周期に持ち、振幅が2.86mmの周期関数であり、正の傾きの部分の傾きは、加工対象搬送手段2の搬送速度である100mm/sに一致し、加工対象1上での搬送方向のレーザビームBの相対的な移動は打ち消される。
【0036】
この時の振幅Wは、以下のようにして算出できる。加工対象1の搬送方向と直角な方向の大きさをL、ポリゴンミラー7によるレーザビーム走査速度をVb、加工対象搬送手段2の搬送速度をVtとすると、W=L÷Vb×Vtであり、L=150mm、Vb=5236mm/s、Vt=100mm/sとしたので、W=2.86mmとなる。
【0037】
次に、例として図7に示すように加工対象1の中心を回転中心として搬送方向に1°(0.17rad)傾いて加工対象1が設置された場合について説明する。図7は、加工対象1の設置位置に傾きが生じた場合の加工対象の設置状況を説明するための説明図である。ポリゴンミラー7および加工対象搬送手段2は定速動作するため、ポリゴンミラー7および加工対象搬送手段2は加工対象1が目標どおりに設置されたときと同様に動作する。
【0038】
加工対象1が傾いて設置された場合におけるガルバノミラー6によるレーザビーム偏向位置を図8に示す。図8は、本実施の形態にかかるレーザ加工装置により、傾いて設置された加工対象1を加工する場合のガルバノミラー6によるレーザビーム偏向位置を示す特性図である。この場合は、加工対象1の1°傾斜を補正するために、ガルバノミラー6によるレーザビーム偏向位置は振幅が5.48mm、正の傾きの部分の傾きは191.4mm/sとなる。
【0039】
この時の振幅Wlは、加工対象1の傾斜をAlとすると、Wl=L÷Vb×Vt+L×sin(Al)であり、L=150mm、Vb=5236mm/s、Vt=100mm/s、Al=1°としたので、Wl=5.48mmである。加工対象1が目標どおり設置された場合と比較して、レーザビーム偏向位置の範囲が、Wl÷W=1.914倍であるので、正の部分の傾きは、100×1.914=191.4mm/sとなる。このような条件で、ガルバノミラー6を制御することにより、図5に示すようにレーザ加工の軌跡31が加工対象1の各辺に直角または平行な方向となるレーザ加工が可能である。
【0040】
このように、ガルバノミラー6によるレーザビームBの偏向位置の範囲を拡大し、レーザビーム偏向動作中の速度を変化させることで、傾いて設置された加工対象1に対しても図5に示すようにレーザ加工の軌跡31が加工対象1の各辺に直角または平行な方向となるレーザ加工が可能である。さらに、ポリゴンミラー7によるレーザビームBの走査の速度はこのままで、レーザビームBの走査範囲を拡大、変更することで、図9に示すように搬送方向と直角な方向から傾いて設置され、さらに傾いた方向に位置ずれして設置された加工対象1に対しても加工位置の補正が可能であり、図5に示すようにレーザ加工の軌跡31が加工対象1の各辺に直角または平行な方向となるレーザ加工が可能である。図9は、本実施の形態にかかるレーザ加工装置により同じレーザビーム偏向によりレーザ加工が可能な加工対象1の設置状況を説明するための模式図である。
【0041】
次に、図10に示すように加工対象1が搬送方向と平行な方向に0.5mm位置ずれして設置された場合について説明する。図10は、搬送方向と平行な方向に位置ずれして設置された加工対象1の設置状況を説明するための模式図である。ポリゴンミラー7および加工対象搬送手段2は定速動作するため、ポリゴンミラー7および加工対象搬送手段2は加工対象1が目標どおりに設置されたときと同様に動作する。
【0042】
加工対象1が搬送方向と平行な方向に0.5mm位置ずれして設置された場合のガルバノミラー6によるレーザビーム偏向位置を図11に示す。図11は、本実施の形態にかかるレーザ加工装置により、搬送方向と平行な方向に位置ずれして設置された加工対象1を加工する場合のガルバノミラー6によるレーザビーム偏向位置を示す特性図である。
【0043】
図11に示すように、加工対象1が搬送方向と平行な方向に0.5mm位置ずれして設置された場合のガルバノミラー6によるレーザビーム偏向位置は、図6で示した目標どおりに加工対象1が設置された場合のレーザビーム偏向位置を0.5mmずらしたものとなっている。このような条件で、ガルバノミラー6を制御することにより、図5に示すようにレーザ加工の軌跡31が加工対象1の各辺に直角または平行な方向となるレーザ加工が可能である。
【0044】
以上のように、本実施の形態にかかるレーザ加工装置では、加工対象1が搬送方向と平行な方向に位置ずれした場合と傾いた場合においても、ガルバノミラー6の駆動方法を制御することにより位置ずれや傾きのレーザ加工位置に対する影響を補正可能であり、図5に示すようにレーザ加工の軌跡31が加工対象1の各辺に直角または平行な方向となるレーザ加工が可能である。なお、加工対象1上に等間隔の直線状にレーザ加工する場合には、加工対象1が搬送方向と直角な方向に位置ずれしてもポリゴンミラー7による走査の制御により対応可能であり問題ないため、ガルバノミラー6の駆動により補正する必要はない。
【0045】
次に、加工対象1の搬送方向と平行な方向の位置ずれや傾きを検出する方法について説明する。加工対象搬送手段2上の2点に設置した位置検出手段3によって、実際に配置された加工対象1の位置が検出され、検出された加工対象1の位置の情報は、制御手段8に送られる。予め設定された加工対象搬送手段2上における加工対象1の設置位置に関する情報(設定位置情報)を有しており、制御手段8は、位置検出手段3での検出結果と、予め設定された加工対象搬送手段2上における加工対象1の設置位置に関する情報(設定位置情報)とにより、加工対象1の搬送方向と平行な方向の位置ずれや傾きを検出できる。例えば加工対象1の位置検出手段3として、顕微鏡とCCDカメラとで構成される画像認識装置を使用して、加工対象1の端面を検出することで実際に配置された加工対象1の位置が検出できる。また、アライメントマークを用いて検出する方法も考えられる。
【0046】
上記のような本実施の形態にかかるレーザ加工装置を用いることにより、多結晶シリコン太陽電池の裏面に形成した絶縁膜12上に加工位置精度良く、幅40μm、間隔4mmのレーザ開口部13を効率的に得ることができる。そして、例えば電極の幅を略100μmとしてレーザ開口部13部に電極ペーストを印刷し、焼成することで、多結晶シリコン太陽電池の裏面に狭小コンタクトを形成することができる。
【0047】
上述した本実施の形態にかかるレーザ加工装置を用いた方法により実際に狭小コンタクトを形成した。その結果、絶縁膜12上のレーザ開口部13が印刷した電極ペーストからはみ出ることはなく、接触抵抗の低い良好な導通特性を有する狭小コンタクトが形成されたことが確認できた。
【0048】
上述したように、本実施の形態にかかるレーザ加工装置によれば、加工対象搬送手段2上における加工対象1の位置に基づいて、加工対象1の搬送方向に平行な方向においてレーザビームBの偏向方向を調整することが可能であり、予め設定された加工対象搬送手段2上における加工対象1の設置位置21に対して位置ずれや傾きが生じる場合においても、該位置ずれや傾きの影響を補正して、加工対象1に対して加工位置精度良く、且つ高速でレーザ加工が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上のように、本発明にかかるレーザ加工装置は、予め設定された設置位置に対して位置ずれや傾きが生じた場合のレーザ加工に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施の形態にかかるレーザ加工装置の概略構成を説明するための模式図である。
【図2−1】多結晶シリコン太陽電池の狭小コンタクトの形成工程を説明するための模式図である。
【図2−2】多結晶シリコン太陽電池の狭小コンタクトの形成工程を説明するための模式図である。
【図2−3】多結晶シリコン太陽電池の狭小コンタクトの形成工程を説明するための模式図である。
【図3】加工対象の設置位置に位置ずれや傾きが生じた場合の加工対象の設置状況を説明するための説明図である。
【図4】従来のガルバノミラーを未使用のレーザ加工装置による目標位置に設置された加工対象上のレーザ加工の軌跡を説明するための模式図である。
【図5】ガルバノミラーを使用した本実施の形態にかかるレーザ加工装置による目標位置に設置された加工対象上のレーザ加工の軌跡の説明図である。
【図6】本実施の形態にかかるレーザ加工装置により、目標位置に設置された加工対象を加工する場合のガルバノミラーによるレーザビーム偏向位置を示す特性図である。
【図7】加工対象の設置位置に傾きが生じた場合の加工対象の設置状況を説明するための説明図である。
【図8】本実施の形態にかかるレーザ加工装置により、傾いて設置された加工対象を加工する場合のガルバノミラーによるレーザビーム偏向位置を示す特性図である。
【図9】本実施の形態にかかるレーザ加工装置により同じレーザビーム偏向によりレーザ加工が可能な加工対象の設置状況を説明するための模式図である。
【図10】搬送方向と平行な方向に位置ずれして設置された加工対象の設置状況を説明するための模式図である。
【図11】本実施の形態にかかるレーザ加工装置により、搬送方向と平行な方向に位置ずれして設置された加工対象を加工する場合のガルバノミラーによるレーザビーム偏向位置を示す特性図である。
【符号の説明】
【0051】
1 加工対象
2 加工対象搬送手段
3 位置検出手段
4 レーザ発振器
5 レーザビーム成形手段
6 偏向手段(ガルバノミラー)
7 走査手段(ポリゴンミラー)
8 制御手段
9 集光手段(Fθレンズ)
11 多結晶シリコン基板
12 絶縁膜
13 レーザ開口部
14 狭小コンタクト
21 予め設定された加工対象搬送手段上における加工対象の設置位置(目標の加工対象設置位置)
22 実際の加工対象搬送手段上における加工対象の設置位置
31 レーザ加工の軌跡
B レーザビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工面を上にした状態で加工対象を保持するとともに前記加工対象を一定速度で第1の方向に搬送する加工対象搬送手段と、
前記加工対象搬送手段上における前記加工対象の位置を検出する位置検出手段と、
レーザビームを出力するレーザ発振器と、
前記レーザ発振器から出力された前記レーザビームの偏向方向を前記第1の方向と平行な方向において調整して前記レーザビームを偏向させる偏向手段と、
前記偏向手段で偏向された前記レーザビームを偏向して前記被加工面に対して既定の走査方向に一定速度で走査する走査手段と、
前記位置検出手段で検出した前記加工対象搬送手段上における前記加工対象の位置の検出結果と、前記加工対象搬送手段による前記加工対象の搬送位置に関する情報と、に基づいて前記偏向手段における前記レーザビームの偏向方向を制御する制御手段と、
前記偏向手段および前記走査手段で偏向された前記レーザビームを前記被加工面上に集光する集光手段と、
を備えること、
を特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
前記制御手段は、位置情報に基づいて前記偏向手段における前記レーザビームの偏向位置を制御すること、
を特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記走査手段は、前記被加工面における前記第1の方向と略直交する第2の方向に前記レーザビームの走査を行うこと、
を特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記被加工面に対する前記レーザビームによる加工パターンが、略直線状のパターンが略等間隔をおいて複数設けられたパターンであること、
を特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−142834(P2010−142834A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321556(P2008−321556)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「新エネルギー技術研究開発 太陽光発電システム未来技術研究開発 未来型超薄型多結晶シリコン太陽電池の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】