説明

レーザ加工装置

【課題】作業者の習熟度に依存することなくレーザ光の芯出し作業を短時間で実施できるレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】レーザ加工装置は、レーザ光2を発生するレーザ発振器1と、レーザ光2をワークWに集光するための加工レンズ4と、集光されたレーザ光2が通過するとともに、ワークWに向けてアシストガスを供給するための加工ノズル11と、加工レンズ4および加工ノズル11を支持するための加工ヘッド5と、レーザ光2の照射時にワークWの照射部分から放射される光の空間分布を検出するための光センサ6と、光センサ6からの信号に基づいて、ノズル中心に対するレーザ光2の位置を測定するための信号処理装置9などで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置に関し、特に、レーザ光の芯出し機能を有するレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーザ加工装置(例えば、特許文献1)は、レーザ光線を発振するレーザ発振器と、このレーザ発振器から発振されたレーザ光線を被加工物に向けて照射しアシストガスを供給するための加工ヘッドと、上記レーザ光線の照射による被加工物の加工部分から生じた光を検出する光センサとを備え、上記レーザ発振器を制御するとともに、上記光センサによって検出した光センサ信号強度によって被加工物の加工状況をモニタリングできるように構成している。
【0003】
また、他のレーザ加工装置(例えば、特許文献2)では、切断加工時の信号の切断方向による異方性をフォトダイオードにより測定し、切断方向が変わっても異方性が出ないようにノズルを移動している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−254314号公報(8頁、図1)
【特許文献2】特開平10−249566号公報(8頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザ加工装置で加工を行う場合、一般に、芯出しと呼ばれる準備工程が行われる。これは、レーザ光が加工ノズルの中心を通るように、加工レンズの位置や加工ノズルの位置を調整する工程である。その際、薄いアクリル板やテープにレーザ光で穴をあけて、加工穴の形状やガスの流れを作業者の目視により判断しながら、レンズやノズルの位置を調整している。
【0006】
しかし、目視による判断は熟練者でなければ難しく、またどの程度ノズルの中心に調整に持っていけば良いかなど、作業者の経験に大きく依存しており、一般には多くの時間を要する作業になる。
【0007】
本発明の目的は、作業者の習熟度に依存することなくレーザ光の芯出し作業を短時間で実施できるレーザ加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るレーザ加工装置は、レーザ光を発生するレーザ発振器と、
該レーザ光を被加工物に集光するための集光光学系と、
集光されたレーザ光が通過するとともに、被加工物に向けてガスを供給するためのノズルと、
集光光学系およびノズルを支持するための加工ヘッドと、
レーザ光の照射時に被加工物の照射部分から放射される光の空間分布を検出するための光検出部と、
光検出部からの信号に基づいて、ノズル中心に対するレーザ光の位置を測定するための信号処理部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、作業者の習熟度に依存することなくレーザ光の芯出し作業を短時間で実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1を示す構成図である。
【図2】光センサの配置例を示す平面図である。
【図3】図3(a)は、XY面における光センサの配置を示す平面図であり、図3(b)〜(d)は、レーザ光2がノズル中心を通過している状態の信号例を示すグラフである。
【図4】図4(a)は、XY面における光センサの配置を示す平面図であり、図4(b)〜(d)は、レーザ光2がノズル中心から外れている状態の信号例を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態2を示す構成図である。
【図6】本発明の実施の形態3を示す構成図である。
【図7】本発明の実施の形態4を示す構成図である。
【図8】本発明の実施の形態5を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1を示す構成図である。レーザ加工装置は、レーザ発振器1と、反射ミラー3と、加工レンズ4と、加工ヘッド5と、加工ノズル11などで構成される。
【0012】
レーザ発振器1は、炭酸ガスレーザやエキシマレーザ等で構成され、被加工物であるワークWの切断、穿孔、溶接等に適した波長、パワーを有するレーザ光2を発生する。
【0013】
反射ミラー3は、レーザ発振器1からのレーザ光2を反射して、加工ヘッド5に導入する機能を有し、必要に応じて2個以上のミラーを使用してもよく、あるいは省略することも可能である。
【0014】
加工レンズ4は、加工ヘッド5に導入されたレーザ光2を集光する集光光学系であって、ワークWの加工部分において所望の光スポットを形成する。
【0015】
加工ノズル11は、中空筒状の部材であって、加工レンズ4によって集光されたレーザ光が通過するとともに、ワークWに向けてアシストガスを供給する機能を有する。アシストガスとして、一般に酸素、空気、窒素、アルゴン等が使用され、蒸発気体の排除、ドロス付着防止などの役割を果たす。
【0016】
加工ヘッド5は、中空筒状の部材であって、加工レンズ4、加工ノズル11等を支持するためのものであり、アシストガスの供給回路(不図示)も接続されている。
【0017】
本実施形態では、レーザ加工装置はさらに、光センサ6と、増幅器7と、数値制御装置8と、信号処理装置9と、アクチュエータ10とを備える。
【0018】
光センサ6は、レーザ光2の照射時にワークWの照射部分から放射される光の空間分布を検出するためのものである。光センサ6の受光部は、加工ヘッド5の内部に位置しており、ワークWの照射部分から放射された光が加工ノズル11および加工レンズ4を通過して、光センサ6の受光部に直接または間接的に到達するように構成されている。例えば、図2に示すように、レーザ光2の光軸に対して垂直なXY面内で、所定半径を有する円周上でレーザ光2の光軸周りに120°の等間隔で3つの光センサ6が配置される。
【0019】
増幅器7は、光センサ6からの信号を増幅する。信号処理装置9は、光センサ6からの信号に基づいて、加工ノズル11のノズル中心に対するレーザ光2の位置を測定する機能を有する。
【0020】
数値制御装置8は、レーザ発振器1や信号処理装置9との信号伝達により、あるいは外部コンピュータ等からの指令により、照射パワー、照射タイミング等の加工条件等を設定する機能を有する。
【0021】
アクチュエータ10は、加工ヘッド5に設けられ、加工ヘッド5を基準として加工レンズ4のXY位置を調整する機能を有する。信号処理装置9は、レーザ光2の測定結果に基づいて、レーザ光2がノズル中心を通過するようにアクチュエータ10を制御する。
【0022】
次に、動作について説明する。レーザ発振器1から出力されたレーザ光2は、反射ミラー3で反射し、加工ヘッド5内の加工レンズ4で集光され、ワークWの加工部分に照射される。このとき光センサ6は、加工部分から発生する光の強度を検出する。光センサ6からの信号は、増幅器で増幅され、信号処理装置9に入力される。
【0023】
信号処理装置9は、レーザ光2がノズル中心を通過した状態、即ち、芯出し状態における各光センサ6の信号強度の比を基準値として予め記憶している。従って、測定時の信号強度の比と基準値との比較により、ノズル中心を基準としたレーザ光2の変位量および変位方向を計算できる。そして、信号処理装置9は、その計算結果を用いてアクチュエータ10により加工レンズ4のXY位置を調整することによって、レーザ光2が加工ノズル11の中心を通過するように設定できる。
【0024】
図3(a)は、XY面における光センサの配置を示す平面図であり、図3(b)〜(d)は、レーザ光2がノズル中心を通過している状態、即ち、芯出し状態の信号例を示すグラフである。ここでは、3つの光センサ6a〜6cがレーザ光2の光軸周りに120°の等間隔で配置されている例を説明する。
【0025】
芯出し状態において、レーザ光2の照射時にワークWの照射部分から放射される光の空間分布は、レーザ光2の光軸に関して対称になる。そのため、各光センサ6a〜6cで受光される光強度は互いにほぼ等しくなり、理想的な基準値として、信号強度比Ia:Ib:Ic=1:1:1となる。実際には、ノイズの影響やセンサの感度ばらつき等の誤差を考慮して基準値を決定する。こうした基準値は、加工ノズル11や加工レンズ4の交換、ワークWの変更などを行った場合、その都度設定することが好ましい。
【0026】
図4(a)は、XY面における光センサの配置を示す平面図であり、図4(b)〜(d)は、レーザ光2がノズル中心から外れている状態の信号例を示すグラフである。芯出しが不完全である場合、レーザ光2の照射時にワークWの照射部分から放射される光の空間分布は、レーザ光2の光軸に関して非対称になる。そのため、各光センサ6a〜6cで受光される光強度も上記基準値から外れることになる。例えば、図4(a)に示すように、レーザ光2が光センサ6bに最も接近し、光センサ6cから最も遠くなった場合、信号強度はIa<Ic<Ibの関係を示すことが判る。
【0027】
従って、信号強度比Ia:Ib:Icとレーザ光2の中心ずれとの関係を予め算出しておくことによって、実際の信号強度比からレーザ光2の変位量および変位方向を決定することができる。
【0028】
ここで、上記特許文献2では、1個のフォトダイオードをヘッド内に設置した状態で、板状のワークを四角形状の経路に沿って切断しながら受光輝度を検出する。このときフォトダイオードの出力信号において切断方向による異方性があるかを分析して、異方性が無くなる方向へノズル若しくはベンドミラーを駆動している。しかしながら、芯出しを行わずに切断加工を行うために、加工不良の確率が高くなり、正確な調整ができない可能性がある。
【0029】
一方、本発明によれば、芯出し作業を行う際の加工は、レーザ光の1パルス照射でも行うことができる。また、異方性ではなく強度比を用いて計算を行うことにより、仮に切断時に加工ヘッドの衝突などによりレーザ光の位置が加工ノズルの中心からズレが起こったときでも、その都度自動的に芯出し調整を行うことが可能である。
【0030】
芯出し状態における信号強度比の基準値の初期設定は、出荷段階の調整で行って、光センサの感度バラツキや取り付けによる受光量のバラツキの影響が無いようにすることが好ましい。
【0031】
また、アクチュエータ10を省略して、信号処理装置9で計算したレーザ光2の変位量および変位方向をディスプレイ等に表示し、作業者が加工レンズ4のXY位置を手動で調整するようにした場合であっても、従来のように作業者の目視による芯出し工程と比べて作業時間を大幅に短縮できる。このときレーザ光2の焦点位置を調整することにより、精度良く測定を行うことができる。
【0032】
実施の形態2.
図5は、本発明の実施の形態2を示す構成図である。本実施形態に係るレーザ加工装置は、実施の形態1と同様な構成を有するが、加工レンズ4のXY位置を調整するアクチュエータの代わりに、加工ヘッド5に対する加工ノズル11のXY位置を調整するためのアクチュエータ10を設けている。
【0033】
この動作について説明する。レーザ発振器1から出力されたレーザ光2は、反射ミラー3で反射し、加工ヘッド5内の加工レンズ4で集光され、ワークWの加工部分に照射される。このとき光センサ6は、加工部分から発生する光の強度を検出する。光センサ6からの信号は、増幅器で増幅され、信号処理装置9に入力される。
【0034】
信号処理装置9は、レーザ光2がノズル中心を通過した状態、即ち、芯出し状態における各光センサ6の信号強度の比を基準値として予め記憶している。従って、測定時の信号強度の比と基準値との比較により、ノズル中心を基準としたレーザ光2の変位量および変位方向を計算できる。そして、信号処理装置9は、その計算結果を用いてアクチュエータ10により加工ノズル11のXY位置を調整することによって、レーザ光2が加工ノズル11の中心を通過するように設定できる。
【0035】
実施の形態3.
図6は、本発明の実施の形態3を示す構成図である。本実施形態に係るレーザ加工装置は、実施の形態1と同様な構成を有するが、加工レンズ4のXY位置を調整するアクチュエータの代わりに、反射ミラー3の向きを調整するためのアクチュエータ10を設けて、加工ノズル11を通過する際のレーザ光2の光路がXY方向に調整可能なように構成している。
【0036】
この動作について説明する。レーザ発振器1から出力されたレーザ光2は、反射ミラー3で反射し、加工ヘッド5内の加工レンズ4で集光され、ワークWの加工部分に照射される。このとき光センサ6は、加工部分から発生する光の強度を検出する。光センサ6からの信号は、増幅器で増幅され、信号処理装置9に入力される。
【0037】
信号処理装置9は、レーザ光2がノズル中心を通過した状態、即ち、芯出し状態における各光センサ6の信号強度の比を基準値として予め記憶している。従って、測定時の信号強度の比と基準値との比較により、ノズル中心を基準としたレーザ光2の変位量および変位方向を計算できる。そして、信号処理装置9は、その計算結果を用いてアクチュエータ10により反射ミラー3の向きを調整することによって、レーザ光2が加工ノズル11の中心を通過するように設定できる。
【0038】
実施の形態4.
図7は、本発明の実施の形態4を示す構成図である。本実施形態は、実施の形態1のように加工レンズ4のXY位置を調整するアクチュエータ10を設けた場合、実施の形態2のように加工ヘッド5に対する加工ノズル11のXY位置を調整するためのアクチュエータ10を設けた場合、実施の形態3のように反射ミラー3の向きを調整するためのアクチュエータ10を設けて、加工ノズル11を通過する際のレーザ光2の光路がXY方向に調整可能な場合のいずれにも適用できる。
【0039】
本実施形態では、4つの光センサ6が、レーザ光2の光軸に対して垂直なXY面内で、所定半径を有する円周上でレーザ光2の光軸周りに90°の等間隔で配置される。即ち、レーザ光2の光軸をXY座標の原点(0,0)とし、円周の半径をrとして、座標(r,0),(−r,0),(0,r),(0,−r)の位置に光センサ6a〜6dをそれぞれ配置する。
【0040】
こうした配置により、アクチュエータ10の調整方向(X方向とY方向)と、光センサ6の配列方向(X方向とY方向)とが一致することになり、高精度の芯出し調整が可能になる。即ち、光センサ6a,6bの検出信号からレーザ光2のX方向変位量が算出でき、その結果、アクチュエータ10のX方向調整によってレーザ光2の芯出しが可能になる。また、光センサ6c,6dの検出信号からレーザ光2のY方向変位量が算出でき、その結果、アクチュエータ10のY方向調整によってレーザ光2の芯出しが可能になる。
【0041】
実施の形態5.
図8は、本発明の実施の形態5を示す構成図である。本実施形態では、1つの光センサ6が、レーザ光2の光軸に対して垂直なXY面内で、所定半径を有する円周上でレーザ光2の光軸周りに移動可能なように配置される。即ち、レーザ光2の光軸をXY座標の原点(0,0)とし、円周の半径をrとして、極座標(r,θ)の位置に光センサ6が移動する。
【0042】
こうした光センサ6の移動により、実施の形態1〜4と同様に、ワークWの照射部分から放射される光の空間分布を検出することが可能になり、光強度分布の偏差から、ノズル中心を基準としたレーザ光2の変位量および変位方向を計算できる。
【符号の説明】
【0043】
1 レーザ発振器、 2 レーザ光、3 反射ミラー、 4 加工レンズ、
5 加工ヘッド、 6,6a〜6d 光センサ、7 増幅器、8 数値制御装置、
9 信号処理装置、 10 アクチュエータ、 11 加工ノズル、W ワーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を発生するレーザ発振器と、
該レーザ光を被加工物に集光するための集光光学系と、
集光されたレーザ光が通過するとともに、被加工物に向けてガスを供給するためのノズルと、
集光光学系およびノズルを支持するための加工ヘッドと、
レーザ光の照射時に被加工物の照射部分から放射される光の空間分布を検出するための光検出部と、
光検出部からの信号に基づいて、ノズル中心に対するレーザ光の位置を測定するための信号処理部とを備えたことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
光検出部は、レーザ光の光軸周りに等間隔で配置された複数の光センサを含むことを特徴とする請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
加工ヘッドに対する集光光学系の位置を調整するためのアクチュエータをさらに備え、
信号処理部は、測定結果に基づいて、レーザ光がノズル中心を通過するようにアクチュエータを制御することを特徴とする請求項1または2記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
加工ヘッドに対するノズルの位置を調整するためのアクチュエータをさらに備え、
信号処理部は、測定結果に基づいて、レーザ光がノズル中心を通過するようにアクチュエータを制御することを特徴とする請求項1または2記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
レーザ発振器からのレーザ光を集光光学系に導入するための反射ミラーと、
反射ミラーの向きを調整するためのアクチュエータをさらに備え、
信号処理部は、測定結果に基づいて、レーザ光がノズル中心を通過するようにアクチュエータを制御することを特徴とする請求項1または2記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
アクチュエータは、レーザ光の光軸に対して垂直な面内で互いに直交する第1方向および第2方向に調整可能な2つの駆動軸を有し、
光検出部は、レーザ光の光軸を中心として所定半径を有する円周が第1方向と交差する位置および第2方向と交差する位置にそれぞれ配置された4つの光センサを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
光検出部は、レーザ光の光軸周りに移動可能な光センサを含むことを特徴とする請求項1記載のレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−115806(P2011−115806A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273476(P2009−273476)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】