説明

レーザ溶接方法、パイプ接合体、および、それを用いた燃料噴射弁

【課題】金属製薄肉パイプの重ね合わせ溶接において溶け込み深さを安定させ溶接品質を向上するレーザ溶接方法を提供する。
【解決手段】嵌合工程では金属製の燃料通路部材30の外壁と金属製の第1筒部41の内壁とが対面するよう燃料通路部材30と第1筒部41とを嵌合する。予熱工程では燃料通路部材30と第1筒部41との嵌合面80の温度が燃料通路部材30および第1筒部41の融点より低い第1温度に収束するよう加熱する。溶接工程では、第1筒部41にレーザを照射することで嵌合面80の温度が前記融点以上の第2温度に収束するよう加熱し、当該加熱により嵌合面80近傍を溶融させることで燃料通路部材30と第1筒部41とを接合する。溶接工程において、レーザの出力および照射時間は、第2温度が、嵌合面80近傍が溶融することで生じる溶け込み部81の先端が燃料通路部材30の板厚内に位置する程度の温度となるよう設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製薄肉パイプの重ね合わせ溶接に適用されるレーザ溶接方法、その方法によって形成されるパイプ接合体、および、それを用いた燃料噴射弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エネルギが高く指向性が良いレーザ光は、金属製部材の精密な溶接等に利用される。例えば、特許文献1、2、3には、ステンレスパイプや鋼板端面の溶接に適したレーザ溶接方法、並びにレーザ溶接において気泡などの欠陥の発生を抑える方法が開示されている。
【0003】
ところで、車両用内燃機関等の燃料噴射装置に用いられる燃料噴射弁は、一般に燃料通路部材が薄肉のパイプ状に形成されるため、燃料通路部材と噴射ノズルの嵌合部等との精密な接合にレーザ溶接を利用することが有効である。例えば、特許文献4、5には、燃料噴射弁のレーザ溶接において溶接歪み等を防止する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−132262号公報
【特許文献2】特開平9−295011号公報
【特許文献3】特開2001−205464号公報
【特許文献4】特開平11−270439号公報
【特許文献5】特開2002−317728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般にレーザ溶接では、「被溶融側部材」に「被照射側部材」を重ね合わせ、被照射側部材にレーザ照射して被照射側部材から被溶融側部材へ金属を溶け込ませる。そして、照射するレーザの出力値および照射時間を制御することで被照射側部材から被溶融側部材への溶け込み深さおよび溶け込み幅を制御する。
【0006】
パイプ同士を嵌合し重ね合わせ部分を溶接する場合、内側パイプが「被溶融側部材」に相当し、外側パイプが「被照射側部材」に相当する。そして、外側パイプの内壁と内側パイプの外壁との嵌合面に跨って金属を溶け込ませる。ここで、例えば燃料噴射弁のように内側パイプの内壁の面粗度や異物付着等について高レベルの品質が要求される製品では、溶け込み部が内側パイプの内壁まで達することを回避し、溶け込み部の先端が内側パイプの板厚内に位置するように溶け込み深さを調整することが望まれる。
【0007】
しかしながら、薄肉のパイプは、部材が受容できる熱容量が小さく、かつ、溶接時の部材の温度が環境温度に影響されやすい。そのため、溶け込み部の温度が安定せず、照射するレーザの出力値および照射時間の制御だけで溶け込み深さを正確に制御することが困難である。溶け込み深さが深いと、溶け込み部の先端が内側パイプの内壁まで貫通する「突き抜け」不良が生じるおそれがある。また、「突き抜け」に伴って内側のパイプの内壁にスパッタが発生するおそれがある。このように、溶接品質が劣悪となるという問題がある。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、金属製薄肉パイプの重ね合わせ溶接において溶け込み深さを安定させ溶接品質を向上するレーザ溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、嵌合工程と、予熱工程と、溶接工程とを含むレーザ溶接方法の発明である。嵌合工程では、金属製の第1パイプの外壁と金属製の第2パイプの内壁とが対面するよう第1パイプと第2パイプとを嵌合する。予熱工程では、第1パイプと第2パイプとの嵌合面の温度が第1パイプおよび第2パイプの融点より低い第1温度に収束するよう加熱する。ここで、前記嵌合面は、第1パイプと第2パイプとが嵌合する箇所の面であって、第1パイプの外壁および第2パイプの内壁の両方を指すものとする。溶接工程では、第2パイプにレーザを照射することで前記嵌合面の温度が前記融点以上の第2温度に収束するよう加熱し、当該加熱により前記嵌合面近傍を溶融させることで第1パイプと第2パイプとを接合してパイプ接合体を形成する。本発明では、溶接工程において、レーザの出力および照射時間は、第2温度が、前記嵌合面近傍が溶融することで生じる溶け込み部の先端が第1パイプの板厚内に位置する程度の温度となるよう設定される。
【0010】
このように、本発明では、予熱工程において前記嵌合面の温度が略第1温度となるよう予め加熱しておく。これにより、溶接工程におけるレーザ照射による加熱の際、前記嵌合面の急激な温度上昇を回避することができる。そのため、溶接工程において前記嵌合面の温度が略第2温度となるよう、レーザの出力および照射時間を設定するのが容易になる。したがって、溶け込み部の先端が第1パイプの板厚内に位置するように溶け込み深さを正確に制御することができる。よって、突き抜け不良やスパッタの発生を防止し、パイプ接合体の溶接品質を向上することができる。
また、本発明では、予熱工程において前記嵌合面を予熱しておくことにより、予熱しない場合に比べ、溶接工程で溶接時に必要となるレーザの出力を低減することができる。なお、溶接工程において、例えば嵌合状態の第1パイプおよび第2パイプを中心軸の回りに回転させながら溶接を実施することにより、全周均一な溶接が可能となる。
【0011】
請求項2に記載の発明では、予熱工程において、第2パイプにレーザを照射することにより、前記嵌合面の温度が第1温度に収束するよう加熱する。よって、本発明では、予熱工程における前記嵌合面の予熱と溶接工程における前記嵌合面の加熱とを、一連の流れの中で連続して、1つのレーザ照射装置により実施可能である。また、本発明では、レーザ照射によって加熱することにより、比較的短時間で前記嵌合面の温度を略第1温度にすることができる。したがって、予熱工程の時間を短縮することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明および請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の発明での予熱に関し、より具体的な方法を例示するものである。
請求項3に記載の発明では、予熱工程において、レーザ照射の始期から終期まで一定の出力でレーザを照射する。本発明では、例えば嵌合状態の第1パイプおよび第2パイプを中心軸の回りに回転させながらレーザ照射することにより、前記嵌合面の温度が全周に亘って略第1温度となるよう予熱することが可能である。
【0013】
請求項4に記載の発明では、予熱工程において、レーザ照射の始期から終期にかけてレーザの出力を徐々に高めつつレーザを照射する。本発明では、例えば嵌合状態の第1パイプおよび第2パイプを中心軸の回りに比較的高速で回転させながらレーザ照射することにより、前記嵌合面の温度が全周に亘って略第1温度となるよう予熱することが可能である。本発明は、第1パイプおよび第2パイプの径および板厚が比較的小さく、予熱時の回転速度が比較的高い場合に好適である。
【0014】
請求項5に記載の発明では、予熱工程において、嵌合状態の第1パイプおよび第2パイプを加熱室に設置し、当該加熱室内の気体を加熱することにより、前記嵌合面の温度が第1温度に収束するよう加熱する。本発明では、第1パイプおよび第2パイプの1組あたりの予熱には所定の時間を要するものの、例えば複数の第1パイプおよび第2パイプの組を加熱室内で一度に予熱すれば、作業効率を高めることができる。また、本発明では、予熱にレーザを用いないため、予熱にもレーザを用いる方法に比べ、レーザ照射装置に供給する電力を低減することができる。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5に記載のレーザ溶接方法によって形成されるパイプ接合体の発明である。このパイプ接合体は、第1パイプの内壁が溶接前の金属光沢を維持する。「溶接前の金属光沢を維持する」とは、「焼け」または酸化による変色が無いことを意味する。すなわち、請求項1〜5に記載のレーザ溶接方法によると、溶け込み部の先端が第1パイプの板厚内に位置するように溶け込み深さを正確に制御することができるため、第1パイプの内壁は焼けたり酸化したりすることがない。したがって、第1パイプの内壁を観察することにより、請求項1〜5に記載のレーザ溶接方法によって形成されたパイプ接合体であることを判定することができる。
【0016】
請求項7に記載の発明は、内燃機関の燃料噴射装置に用いられる燃料噴射弁の発明である。この燃料噴射弁は、噴射ノズルと、燃料通路部材と、ホルダと、弁部材と、駆動部と、を備える。噴射ノズルは、燃料が噴射される噴孔を形成する。燃料通路部材は、噴射ノズルに接合し、噴孔に連通する燃料通路を形成する。ホルダは、燃料通路部材の噴射ノズルとは反対側に接合するよう設けられる。弁部材は、燃料通路部材の内側に往復移動可能に収容され、噴孔を開閉する。駆動部は、ホルダに収容され、弁部材を駆動する。
【0017】
本発明では、燃料通路部材およびホルダは、それぞれ、請求項6に記載のパイプ接合体の第1パイプおよび第2パイプに対応する。つまり、パイプ接合体を構成する燃料通路部材およびホルダは、請求項1〜5のいずれか一項に記載のレーザ溶接方法によって溶接されている。よって、第1パイプとしての燃料通路部材の内壁は、溶接前の金属光沢を維持する。燃料通路部材は、高圧燃料の流動抵抗を低減するため、また、高圧の燃料流により内壁から剥離する異物が燃料に混入することを防ぐため、内壁の面粗度等について高レベルの品質が要求される。したがって、上述のレーザ溶接方法が燃料噴射弁の燃料通路部材の溶接方法として適用されると、特に大きな効果が得られる。
【0018】
本発明の燃料噴射弁は、上述のように、燃料通路部材の内壁が溶接前の金属光沢を維持する。よって、燃料通路部材の内壁を観察することにより、上述のレーザ溶接方法を適用して製造された燃料噴射弁であるか否かを判定することができる。
【0019】
ところで、請求項1〜5のいずれか一項に記載のレーザ溶接方法は、例えば、燃料噴射弁の先端に設けられる噴射ノズルと、噴射ノズルの径外側に嵌合する燃料通路部材との溶接に適用することもできる。この場合、噴射ノズルが第1パイプに対応し、燃料通路部材が第2パイプに対応する。このように噴射ノズルが第1パイプに対応する場合でも、上記と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態による燃料噴射弁を示す断面図。
【図2】本発明の第1実施形態による燃料噴射弁の燃料通路部材とホルダの第1筒部とのレーザ溶接方法を説明するための図であって、(A)は嵌合工程を示す図、(B)は予熱工程を示す図、(C)は溶接工程を示す図。
【図3】(A)は本発明の第1実施形態による燃料噴射弁の燃料通路部材とホルダとのレーザ溶接方法の予熱工程および溶接工程におけるレーザ光の出力値の変化を示す図、(B)は予熱工程および溶接工程における燃料通路部材とホルダとの嵌合面の温度の変化を示す図。
【図4】本発明の第1実施形態による燃料噴射弁の燃料通路部材とホルダとの溶接箇所近傍を示す拡大断面図。
【図5】(A)は比較例による燃料噴射弁の燃料通路部材とホルダとのレーザ溶接方法の溶接工程におけるレーザ光の出力値の変化を示す図、(B)は溶接工程における燃料通路部材とホルダとの嵌合面の温度の変化を示す図、(C)は比較例による燃料噴射弁の燃料通路部材とホルダとの溶接箇所近傍を示す拡大断面図。
【図6】(A)は本発明の第2実施形態による燃料噴射弁の燃料通路部材とホルダとのレーザ溶接方法の予熱工程および溶接工程におけるレーザ光の出力値の変化を示す図、(B)は予熱工程および溶接工程における燃料通路部材とホルダとの嵌合面の温度の変化を示す図。
【図7】本発明の第3実施形態による燃料噴射弁の燃料通路部材とホルダとのレーザ溶接方法を説明するための図であって、(A)は嵌合工程を示す図、(B)は予熱工程を示す図、(C)は溶接工程を示す図。
【図8】(A)は本発明の第3実施形態による燃料噴射弁の燃料通路部材とホルダとのレーザ溶接方法の溶接工程におけるレーザ光の出力値の変化を示す図、(B)は溶接工程における燃料通路部材とホルダとの嵌合面の温度の変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の複数の実施形態を図に基づいて説明する。なお、複数の実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による燃料噴射弁を図1に示す。燃料噴射弁10は、図示しない内燃機関の燃料噴射装置に用いられ、燃料を内燃機関に噴射供給する。
【0022】
まず、燃料噴射弁10の構成について説明する。燃料噴射弁10は、噴射ノズル20、燃料通路部材30、ホルダ40、弁部材50および駆動部としてのコイル60等を備えている。
噴射ノズル20は、金属により形成され、略円筒状の筒部21、および当該筒部21の一方の端部を塞ぐ底部22を有している。すなわち、噴射ノズル20は、有底筒状に形成されている。底部22には、噴孔23が形成されている。
【0023】
燃料通路部材30は、金属により略円筒状に形成されている。噴射ノズル20と燃料通路部材30とは、筒部21の外壁と燃料通路部材30の内壁とが対面するよう嵌合し、この部分がレーザ溶接により溶接されている。筒部21の外壁と燃料通路部材30の内壁との嵌合面70には、レーザ溶接により生じた溶け込み部71が形成されている。ここで、嵌合面70は、筒部21と燃料通路部材30とが嵌合する箇所の面であって、筒部21の外壁面および燃料通路部材30の内壁面の両方を指すものとする。溶け込み部71は、嵌合面70の全周に亘って略円環状に形成されている。これにより、筒部21の外壁と燃料通路部材30の内壁との間は液密に保たれている。また、筒部21および燃料通路部材30の中心軸に沿った断面において、溶け込み部71の先端は、筒部21の板厚内に位置している。
【0024】
燃料通路部材30の噴射ノズル20とは反対側の端部には、非磁性材料からなる筒部材11が接続している。さらに、筒部材11の燃料通路部材30とは反対側の端部には、筒部材12が接続している。筒部材11および筒部材12の内径は、燃料通路部材30の内径と同等に設定されている。
【0025】
ホルダ40は、金属により形成され、略円筒状の第1筒部41、当該第1筒部41の一方の端部から径方向外側に延びて略円環状に形成される接続部42、および、当該接続部42の外縁部から略円筒状に延びる第2筒部43を有している。燃料通路部材30とホルダ40とは、燃料通路部材30の外壁と第1筒部41の内壁とが対面するよう嵌合し、この部分がレーザ溶接により溶接されている。燃料通路部材30の外壁と第1筒部41の内壁との嵌合面80には、レーザ溶接により生じた溶け込み部81が形成されている。ここで、嵌合面80は、燃料通路部材30と第1筒部41とが嵌合する箇所の面であって、燃料通路部材30の外壁面および第1筒部41の内壁面の両方を指すものとする。溶け込み部81は、嵌合面80の全周に亘って略円環状に形成されている。これにより、燃料通路部材30の外壁と第1筒部41の内壁との間は液密に保たれている。また、燃料通路部材30および第1筒部41の中心軸に沿った断面において、溶け込み部81の先端は、燃料通路部材30の板厚内に位置している。
噴射ノズル20と燃料通路部材30とのレーザ溶接、および、燃料通路部材30とホルダ40とのレーザ溶接については、後に詳述する。
【0026】
弁部材50は、金属により形成され、略円筒状の筒部51、および当該筒部51の一方の端部を塞ぐ底部52を有している。すなわち、弁部材50は、有底筒状に形成されている。弁部材50は、燃料通路部材30の内側に往復移動可能に収容されている。弁部材50は、底部52が噴射ノズル20の底部22から離間または底部22に当接することで、噴孔23を開閉可能である。筒部51には、内壁と外壁とを連通する孔53および孔54が形成されている。
【0027】
弁部材50の底部52とは反対側には、可動コア13が圧入されている。可動コア13は、金属により形成され、燃料通路部材30と筒部材11との接続部分の内側に位置するよう設けられている。可動コア13の外径は、燃料通路部材30および筒部材11の内径よりもやや小さく設定されている。これにより、可動コア13は、燃料通路部材30および筒部材11の内側で、弁部材50とともに円滑に往復移動可能である。
【0028】
筒部材11および筒部材12の内側には、固定コア14が圧入されている。固定コア14は、金属により筒状に形成されている。固定コア14は、可動コア13と当接可能であり、可動コア13が噴射ノズル20とは反対側へ移動するのを規制している。よって、可動コア13および弁部材50は、固定コア14と噴射ノズル20の底部22との間で往復移動可能である。
【0029】
固定コア14の内側には、筒状のアジャスティングパイプ15が圧入されている。アジャスティングパイプ15と可動コア13との間には、付勢部材16が設けられている。付勢部材16は、軸方向に伸びる力を有している。そのため、弁部材50は、可動コア13とともに噴射ノズル20の底部22側へ付勢されている。
【0030】
略円筒状のコイル60は、ホルダ40の第2筒部43の内側に収容され、筒部材11および筒部材12の径方向外側に位置するよう設けられている。コイル60は、電力が供給されることにより磁力を発生する。これにより、可動コア13が固定コア14に吸引される。このとき、弁部材50の底部52は噴射ノズル20の底部22から離間し、噴孔23は開放された状態となる。
【0031】
筒部材12の筒部材11とは反対側には、略円筒状の燃料導入パイプ17が圧入されている。燃料導入パイプ17の径方向外側は、樹脂によりモールドされている。当該モールド部分にコネクタ18が形成されている。コネクタ18には、コイル60へ電力を供給するための端子19がインサート成形されている。
【0032】
燃料導入パイプ17の導入口171から流入した燃料は、燃料導入パイプ17、アジャスティングパイプ15、固定コア14、筒部材11、可動コア13および弁部材50の内側、孔53および孔54、燃料通路部材30の内側、ならびに、噴射ノズル20の筒部21の内側を流通し、噴孔23に導かれる。このように、燃料通路部材30は、内側に、燃料が流通する燃料通路31を形成している。
【0033】
次に、燃料噴射弁10の作動について説明する。
コイル60に通電されると、可動コア13は固定コア14に吸引される。これにより、弁部材50は、可能コア13と一体に固定コア14側へ移動し、噴射ノズル20の底部22から離間する。これにより、噴孔23は開放された状態(開弁状態)となる。
【0034】
燃料導入パイプ17の導入口171から流入した燃料は、燃料導入パイプ17、アジャスティングパイプ15、固定コア14、筒部材11、可動コア13および弁部材50の内側、孔53および孔54、燃料通路部材30の内側、ならびに、噴射ノズル20の筒部21の内側を流通し、噴孔23から噴射される。
一方、コイル60への通電がオフされると、弁部材50が噴射ノズル20の底部22に当接し、燃料噴射弁10が閉弁する。よって、燃料噴射が遮断される。
【0035】
次に、本実施形態による燃料噴射弁10の燃料通路部材30とホルダ40とのレーザ溶接方法について、図2〜4に基づいて説明する。なお、図2では、製造途中の燃料噴射弁10の燃料通路部材30およびホルダ40の第1筒部41の模式的な断面を示している。ここでは、燃料通路部材30が特許請求の範囲における「第1パイプ」に対応し、第1筒部41が「第2パイプ」に対応するものとして説明を進める。
【0036】
本実施形態におけるレーザ溶接方法は、嵌合工程と、予熱工程と、溶接工程とを含む。
(嵌合工程)
図2(A)に示すように、嵌合工程では、燃料通路部材30の外壁と第1筒部41の内壁とが対面するよう燃料通路部材30と第1筒部41とを嵌合する。そして、嵌合状態の燃料通路部材30および第1筒部41を、燃料通路部材30および第1筒部41の中心軸が回転台2の回転軸Rと一致するよう、回転台2に設置する。本実施形態では、嵌合状態の燃料通路部材30および第1筒部41は、大気圧の空気中に設置される。
【0037】
(予熱工程)
図2(B)に示すように、予熱工程では、回転台2を所定の速度で回転させることで燃料通路部材30および第1筒部41を中心軸の回りに回転させつつ、レーザ照射装置3から第1筒部41の外壁に向けてレーザ光Lを照射する。これにより、第1筒部41のレーザ光Lが照射された箇所に熱が生じるとともに、当該熱は燃料通路部材30側へ伝達していく。
【0038】
このときのレーザ照射装置3からのレーザ光Lの出力値を図3(A)の左側に示す。レーザ照射開始時の回転台2(燃料通路部材30および第1筒部41)の回転角度を0°とすると、0°から360°の間、すなわち回転台2が1回転する間、レーザ光Lの出力値が一定となるようレーザ照射装置3を制御する。これにより、燃料通路部材30の外壁と第1筒部41の内壁との嵌合面80の温度は、図3(B)の左側に示すように変化する。嵌合面80の温度は、レーザ照射開始直後は、第1温度より高くなるものの、やがて第1温度に収束する。ここで、第1温度とは、燃料通路部材30および第1筒部41の融点よりも低い所定の温度である。
【0039】
このように、予熱工程では、第1筒部41の外壁にレーザ照射することにより、嵌合面80の温度が第1温度に収束するよう加熱(予熱)する。レーザ照射が開始されて回転台2が1回転する間の期間が予熱工程に対応する。
【0040】
(溶接工程)
本実施形態では、予熱工程の直後に溶接工程を開始する。図3(A)の右側に示すように、予熱工程の直後、すなわち回転台2が1回転すると、レーザ光Lの出力値を増大させ、この時点から回転台2が1回転する間、レーザ光Lの出力値が一定になるようレーザ照射装置3を制御する。これにより、嵌合面80の温度は、図3(B)の右側に示すように変化する。嵌合面80の温度は、溶接工程開始直後は、第2温度より高くなるものの、やがて第2温度に収束する。ここで、第2温度とは、燃料通路部材30および第1筒部41の融点以上の所定の温度である。
【0041】
図2(C)および図4に示すように、溶接工程では、レーザ照射により第1筒部41および燃料通路部材30が溶融し、第1筒部41の外壁から嵌合面80近傍にかけて溶け込み部81が生じる。回転台2(燃料通路部材30および第1筒部41)が回転することで、溶け込み部81は、略円環状に形成される。これにより、燃料通路部材30と第1筒部41とは溶接(接合)され、燃料通路部材30の外壁と第1筒部41の内壁との間は液密に保たれた状態となる。ここで、燃料通路部材30および第1筒部41とが接合した状態のものは、特許請求の範囲における「パイプ接合体」に対応する。
【0042】
なお、前記第2温度は、溶け込み部81の先端が燃料通路部材30の板厚内に位置する程度の温度である。すなわち、本実施形態では、レーザ光Lの出力値、および、照射時間すなわち回転台2の回転速度を調節することで、溶け込み部81の溶け込み深さDmおよび溶け込み幅Wmが所定の値になるよう制御している。本実施形態では、溶接工程の直前に嵌合面80の温度が第1温度となるよう予熱を行っているため、溶接工程において嵌合面80の温度が急激に上昇することはない。そのため、溶け込み部81の溶け込み深さDmおよび溶け込み幅Wmを容易に制御することができる。
本実施形態では、燃料通路部材30および第1筒部41の板厚は約0.35mm、燃料通路部材30の外径は約6mmである。また、回転台2の回転速度は、200〜400rpm程度である。
【0043】
このように、上述の溶接工程を経て形成された「パイプ接合体」(燃料通路部材30および第1筒部41)では、溶け込み部81の先端が燃料通路部材30の板厚内に位置している。そのため、燃料通路部材30の内壁は、溶接前の金属光沢を維持し、面粗度等が高レベルに保たれている。
【0044】
なお、本実施形態では、噴射ノズル20および燃料通路部材30も、上述のレーザ溶接方法により接合(溶接)される。この場合、噴射ノズル20の筒部21が「第1パイプ」に対応し、燃料通路部材30が「第2パイプ」に対応する。この方法で溶接することで、筒部21の外壁と燃料通路部材30の内壁との嵌合面70近傍が溶融することにより生じる溶け込み部71の先端は、筒部21の板厚内に位置する。その結果、筒部21の内壁は、溶接前の金属光沢を維持する。
【0045】
次に、比較例によるレーザ溶接方法について、図5に基づいて説明する。
比較例は、上述の本実施形態におけるレーザ溶接方法とは異なり、「予熱工程」を実施しないレーザ溶接方法である。つまり、比較例は従来のレーザ溶接方法に類似する。
【0046】
比較例では、嵌合工程の後、上述のような予熱工程を経ずして溶接工程を開始する。このときの、レーザ光Lの出力値は、図5(A)の左側に実線で示すとおり、本実施形態における溶接工程でのレーザ光Lの出力値(図5(A)の右側に示す点線)よりも大きい値で一定に保たれている。これにより、燃料通路部材30の外壁と第1筒部41の内壁との嵌合面80の温度は、図5(B)の左側に実線で示すとおり、急激に第2温度以上の温度になる。この急激な温度上昇により、溶け込み部81の先端は燃料通路部材30の内壁まで達し、当該内壁にスパッタSが付着する結果となる(図5(C)参照)。
【0047】
このように、比較例によるレーザ溶接方法では、予熱工程を実施しないため、溶接工程において嵌合面80の温度が急激に上昇する。そのため、溶け込み部81の先端の位置、すなわち溶け込み深さ、および、溶け込み幅等を正確に制御するのが困難となり、溶接による「突き抜け」や「スパッタの付着」が生じるおそれがある。
また、比較例の溶接工程で必要となるレーザ光Lの出力値は、本実施形態の溶接工程で必要となる出力値よりも大きい。
【0048】
以上説明したように、本実施形態による燃料噴射弁10の燃料通路部材30とホルダ40とのレーザ溶接方法は、嵌合工程と、予熱工程と、溶接工程とを含む。嵌合工程では、金属製の燃料通路部材30(「第1パイプ」)の外壁と金属製のホルダ40の第1筒部41(「第2パイプ」)の内壁とが対面するよう燃料通路部材30と第1筒部41とを嵌合する。予熱工程では、燃料通路部材30と第1筒部41との嵌合面80の温度が燃料通路部材30およびホルダ40の融点より低い第1温度に収束するよう加熱する。溶接工程では、第1筒部41にレーザを照射することで嵌合面80の温度が前記融点以上の第2温度に収束するよう加熱し、当該加熱により嵌合面80近傍を溶融させることで燃料通路部材30と第1筒部41とを接合して「パイプ接合体」を形成する。本実施形態では、溶接工程において、レーザ光Lの出力値および照射時間は、第2温度が、嵌合面80近傍が溶融することで生じる溶け込み部81の先端が燃料通路部材30の板厚内に位置する程度の温度となるよう設定される。
【0049】
このように、本実施形態では、予熱工程において嵌合面80の温度が略第1温度となるよう予め加熱しておく。これにより、溶接工程におけるレーザ照射による加熱の際、嵌合面80の急激な温度上昇を回避することができる。そのため、溶接工程において嵌合面80の温度が略第2温度となるよう、レーザ光Lの出力値および照射時間を設定するのが容易になる。したがって、溶け込み部81の先端が燃料通路部材30の板厚内に位置するように溶け込み深さ(Dm)を正確に制御することができる。よって、突き抜け不良やスパッタの発生を防止し、「パイプ接合体」の溶接品質を向上することができる。
【0050】
また、本実施形態では、予熱工程において嵌合面80を予熱しておくことにより、予熱しない場合に比べ、溶接工程で溶接時に必要となるレーザ光Lの出力値を低減することができる。また、溶接工程において、嵌合状態の燃料通路部材30および第1筒部41を中心軸の回りに回転させながら溶接を実施することにより、全周均一な溶接が可能となる。
【0051】
また、本実施形態では、予熱工程において、第1筒部41にレーザを照射することにより、嵌合面80の温度が第1温度に収束するよう加熱する。よって、本実施形態では、予熱工程における嵌合面80の予熱と溶接工程における嵌合面80の加熱とを、一連の流れの中で連続して、1つのレーザ照射装置3により実施可能である。また、本実施形態では、レーザ照射によって加熱することにより、比較的短時間で嵌合面80の温度を略第1温度にすることができる。したがって、予熱工程の時間を短縮することができる。
【0052】
また、本実施形態では、予熱工程において、レーザ照射の始期から終期まで一定の出力でレーザを照射する。本実施形態では、嵌合状態の燃料通路部材30および第1筒部41を中心軸の回りに回転させながらレーザ照射することにより、嵌合面80の温度が全周に亘って略第1温度となるよう予熱することが可能である。
【0053】
本実施形態のレーザ溶接方法により形成された「パイプ接合体」は、燃料通路部材30の内壁が溶接前の金属光沢を維持する。したがって、燃料通路部材30の内壁を観察することにより、当該レーザ溶接方法によって形成された「パイプ接合体」であることを判定することができる。
【0054】
燃料通路部材30は、高圧燃料の流動抵抗を低減するため、また、高圧の燃料流により内壁から剥離する異物が燃料に混入することを防ぐため、内壁の面粗度等について高レベルの品質が要求される。したがって、上述のレーザ溶接方法が燃料噴射弁10の燃料通路部材30の溶接方法として適用されると、特に大きな効果が得られる。
【0055】
なお、本実施形態では、噴射ノズル20と燃料通路部材30との溶接にも、上述のレーザ溶接方法が適用されている。この場合、噴射ノズル20が「第1パイプ」に対応し、燃料通路部材30が「第2パイプ」に対応する。この場合でも、上述した効果と同様の効果が得られる。
【0056】
(第2実施形態)
第2実施形態による燃料噴射弁について、図6に基づいて説明する。第2実施形態は、燃料噴射弁の構成については第1実施形態と同様であるが、レーザ溶接方法の一部(予熱工程)が第1実施形態と異なる。
【0057】
第2実施形態では、図6(A)の左側に示すように、予熱工程において、回転台2(燃料通路部材30および第1筒部41)の回転角度が0°から360°の間、すなわち回転台2が1回転する間、レーザ光Lの出力値が徐々に高くなるようレーザ照射装置3を制御する。これにより、燃料通路部材30の外壁と第1筒部41の内壁との嵌合面80の温度は、図6(B)の左側に示すように変化する。ここで、図6(B)の左側に示す実線は、嵌合面80の周方向の箇所毎(回転角度毎)の温度を表している。実際には、燃料通路部材30および第1筒部41は回転しながら予熱されるため、嵌合面80の温度の平均値は、予熱工程において略第1温度に収束する。
予熱工程の後、第1実施形態と同様、溶接工程が実施され、燃料通路部材30とホルダ40とが溶接(接合)される。
【0058】
以上説明したように、本実施形態では、予熱工程において、レーザ照射の始期から終期にかけてレーザの出力を徐々に高めつつレーザを照射する。本実施形態では、例えば嵌合状態の燃料通路部材30および第1筒部41を中心軸の回りに比較的高速で回転させながらレーザ照射することにより、嵌合面80の温度が全周に亘って略第1温度となるよう予熱することが可能である。本実施形態は、燃料通路部材30および第1筒部41の径および板厚が比較的小さく、予熱時の回転速度が比較的高い場合に好適である。
【0059】
(第3実施形態)
第3実施形態による燃料噴射弁について、図7および8に基づいて説明する。第3実施形態は、燃料噴射弁の構成については第1実施形態および第2実施形態と同様であるが、レーザ溶接方法の一部(予熱工程)が第1実施形態および第2実施形態と異なる。
【0060】
第3実施形態では、予熱工程において、レーザを用いないで予熱を行う点が第1実施形態および第2実施形態と異なる。
以下、第3実施形態による燃料噴射弁の燃料通路部材30とホルダ40とのレーザ溶接方法を説明する。
【0061】
(嵌合工程)
図7(A)に示すように、嵌合工程では、燃料通路部材30と第1筒部41とを、燃料通路部材30の外壁と第1筒部41の内壁とが対面するよう嵌合する。
(予熱工程)
図7(B)に示すように、予熱工程では、嵌合状態の燃料通路部材30および第1筒部41を、加熱室4内の回転台2に設置する。このとき、燃料通路部材30および第1筒部41を、燃料通路部材30および第1筒部41の中心軸が回転台2の回転軸Rと一致するよう、回転台2に設置する。そして、加熱室4内の気体(本実施形態では空気)を加熱することにより、嵌合面80の温度が第1温度に収束するよう加熱(予熱)する。ここで、第1温度とは、燃料通路部材30および第1筒部41の融点よりも低い所定の温度である。
【0062】
(溶接工程)
溶接工程では、回転台2を所定の速度で回転させることで燃料通路部材30および第1筒部41を中心軸の回りに回転させつつ、レーザ照射装置3から第1筒部41の外壁に向けてレーザ光Lを照射する。回転台2(燃料通路部材30および第1筒部41)の回転角度が0°から360°の間、すなわち回転台2が1回転する間、レーザ光Lの出力値は、図8(A)に示す実線のとおり、一定である。これにより、嵌合面80の温度は、図8(B)に示す実線のように変化する。嵌合面80の温度は、溶接工程開始直後は、第2温度より高くなるものの、やがて第2温度に収束する。ここで、第2温度とは、燃料通路部材30および第1筒部41の融点以上の所定の温度である。
【0063】
図7(C)に示すように、溶接工程では、レーザ照射により第1筒部41および燃料通路部材30が溶融し、第1筒部41の外壁から嵌合面80近傍にかけて溶け込み部81が生じる。回転台2(燃料通路部材30および第1筒部41)が回転することで、溶け込み部81は、略円環状に形成される。これにより、燃料通路部材30と第1筒部41とは溶接(接合)され、燃料通路部材30の外壁と第1筒部41の内壁との間は液密に保たれた状態となる。
【0064】
本実施形態では、溶接工程の直前に嵌合面80の温度が第1温度となるよう予熱を行っているため、溶接工程において嵌合面80の温度が急激に上昇することはない。そのため、溶け込み部81の溶け込み深さ、および、溶け込み幅を容易に制御することができる。
このように、上述の溶接工程を経て形成された「パイプ接合体」(燃料通路部材30および第1筒部41)では、溶け込み部81の先端が燃料通路部材30の板厚内に位置している。そのため、燃料通路部材30の内壁は、溶接前の金属光沢を維持し、面粗度等が高レベルに保たれている。
【0065】
なお、比較のため、図8(A)に、上述の比較例の溶接工程で必要となるレーザ光の出力値を点線で示す。この図から、本実施形態では、予熱を行わない比較例と比べ、溶接工程で必要となるレーザ光の出力値が低いことがわかる。
また、図8(B)に点線で示すとおり、比較例の溶接工程では、レーザ照射開始直後、嵌合面80の温度が急激に上昇する。一方、図8(B)に実線で示すとおり、本実施形態の溶接工程では、レーザ照射開始直後の嵌合面80の温度の急激な温度上昇(単位時間当たりの温度上昇率)が抑えられる。
【0066】
以上説明したように、本実施形態では、予熱工程において、嵌合状態の燃料通路部材30および第1筒部41を加熱室4に設置し、当該加熱室4内の気体を加熱することにより、嵌合面80の温度が第1温度に収束するよう加熱する。本実施形態では、燃料通路部材30および第1筒部41の1組あたりの予熱には所定の時間を要するものの、例えば複数の燃料通路部材30および第1筒部41の組を加熱室4内で一度に予熱すれば、作業効率を高めることができる。また、本実施形態では、予熱にレーザを用いないため、予熱にもレーザを用いる方法(第1実施形態および第2実施形態)に比べ、レーザ照射装置3に供給する電力を低減することができる。
【0067】
(他の実施形態)
本発明の他の実施形態では、予熱工程において、「第1パイプ」と「第2パイプ」との嵌合面の温度が略第1温度に収束するのであれば、照射するレーザの出力および回転台の回転速度は、どのように制御してもよい。また、溶接工程において、前記嵌合面の温度が略第2温度に収束するのであれば、照射するレーザの出力および回転台の回転速度は、どのように制御してもよい。
【0068】
上述の実施形態では、溶接工程において、大気圧の空気中でレーザ溶接する例を示した。これに対し、本発明の他の実施形態では、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス中、あるいは低圧の空気中でレーザ溶接することとしてもよい。あるいは、溶接箇所に不活性ガスを噴き付けつつレーザ溶接を行うこととしてもよい。
【0069】
上述の実施形態では、予熱工程および溶接工程において、レーザ照射装置を固定し、「第1パイプ」および「第2パイプ」を回転させることで「第2パイプ」の外壁の周方向にレーザ照射を行う例を示した。これに対し、本発明の他の実施形態では、「第1パイプ」および「第2パイプ」を固定し、レーザ照射装置を回転させることで「第2パイプ」の外壁の周方向にレーザ照射を行うこととしてもよい。
【0070】
また、「第1パイプ」および「第2パイプ」とレーザ照射装置との相対回転中、レーザ光が連続して照射されてパイプの全周を均一に溶接する実施形態に限らず、断続的に照射されて「点溶接」されることとしてもよい。この場合、「第1パイプ」と「第2パイプ」との間の液密性は低下するが、「第1パイプ」と「第2パイプ」との間に例えばOリング等のシール部材を設ければ液密性を確保することができる。
【0071】
本発明の他の実施形態では、上述のレーザ溶接方法により形成する「パイプ接合体」を、燃料噴射弁に限らず、種々の装置または機器類等の部品として用いてもよい。
このように、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0072】
21 ・・・筒部(第1パイプ、パイプ接合体)
30 ・・・燃料通路部材(第1パイプ、第2パイプ、パイプ接合体)
41 ・・・第1筒部(第2パイプ、パイプ接合体)
70、80 ・・・嵌合面
71、81 ・・・溶け込み部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の第1パイプの外壁と金属製の第2パイプの内壁とが対面するよう前記第1パイプと前記第2パイプとを嵌合する嵌合工程と、
前記第1パイプと前記第2パイプとの嵌合面の温度が前記第1パイプおよび前記第2パイプの融点より低い第1温度に収束するよう加熱する予熱工程と、
前記第2パイプにレーザを照射することで前記嵌合面の温度が前記融点以上の第2温度に収束するよう加熱し、当該加熱により前記嵌合面近傍を溶融させることで前記第1パイプと前記第2パイプとを接合してパイプ接合体を形成する溶接工程と、を含み、
前記溶接工程において、レーザの出力および照射時間は、前記第2温度が、前記嵌合面近傍が溶融することで生じる溶け込み部の先端が前記第1パイプの板厚内に位置する程度の温度となるよう設定されることを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項2】
前記予熱工程において、前記第2パイプにレーザを照射することにより、前記嵌合面の温度が前記第1温度に収束するよう加熱することを特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項3】
前記予熱工程において、レーザ照射の始期から終期まで一定の出力でレーザを照射することを特徴とする請求項2に記載のレーザ溶接方法。
【請求項4】
前記予熱工程において、レーザ照射の始期から終期にかけてレーザの出力を徐々に高めつつレーザを照射することを特徴とする請求項2に記載のレーザ溶接方法。
【請求項5】
前記予熱工程において、嵌合状態の前記第1パイプおよび前記第2パイプを加熱室に設置し、当該加熱室内の気体を加熱することにより、前記嵌合面の温度が前記第1温度に収束するよう加熱することを特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のレーザ溶接方法によって形成され、
前記第1パイプの内壁が溶接前の金属光沢を維持することを特徴とするパイプ接合体。
【請求項7】
内燃機関の燃料噴射装置に用いられる燃料噴射弁であって、
燃料が噴射される噴孔を形成する噴射ノズルと、
前記噴射ノズルに接合し、前記噴孔に連通する燃料通路を形成する燃料通路部材と、
前記燃料通路部材の前記噴射ノズルとは反対側に接合するよう設けられるホルダと、
前記燃料通路部材の内側に往復移動可能に収容され、前記噴孔を開閉する弁部材と、
前記ホルダに収容され、前記弁部材を駆動する駆動部と、を備え、
前記燃料通路部材および前記ホルダは、それぞれ、請求項6に記載のパイプ接合体の前記第1パイプおよび前記第2パイプに対応することを特徴とする燃料噴射弁。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−245546(P2011−245546A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124314(P2010−124314)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】