説明

レーザ溶接装置及びレーザ溶接の品質管理方法

【課題】被溶接物にレーザ溶接を施すと同時にレーザ溶接の接合品質の検査工程を実施することにより、レーザ溶接の品質管理にかかる時間を短縮し、且つ、装置コストを抑えることのできるレーザ溶接装置及びレーザ溶接の品質管理方法を提供する。
【解決手段】被溶接物Wを一対のアーム間で保持しながら被溶接物Wをレーザ溶接するレーザスポットガン2を具備し、レーザスポットガン2によりレーザ溶接を施すと共に、被溶接物Wの接合状態の検査を行なうレーザ溶接装置1であって、レーザスポットガン2は、被溶接物Wにレーザ光Lを照射し被溶接物Wの溶融を行なう第1のアーム部3、4と、第1のアーム部3、4により溶融される被溶接物Wに対し所定波長の検査光S1を照射し、その反射光S2の強度を検出する第2のアーム部5、6と、被溶接物Wの接合状態の判定を行なう制御部13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接装置及びレーザ溶接の品質管理方法に関し、特に重ねられた鋼板に対しレーザ溶接を施し、その接合状態を検査するレーザ溶接装置及びレーザ溶接の品質管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、重ねられた鋼板同士を接合するためにレーザ溶接を施し、その接合状態を検査する場合、従来は、目視による検査や、或いは、溶接部を指向する光センサを配置し、レーザ光に誘起されて溶接部で発生するプラズマ強度を前記光センサで監視する方法等がある。このうち、目視による検査は、経験の長い作業者でなければ高精度の検査を行なうことができないため、歩留まりが低いという課題があった。
【0003】
一方、光センサを用いたレーザ溶接管理方法に関しては、特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されたレーザ溶接の管理方法について図5を用いて説明する。
図5に示すように、特許文献1に開示のレーザ溶接装置においては、重ね合わせられた被溶接物Wに対し、CO2、YAG等のレーザ発振器(図示せず)から出力されたレーザ光Lをレンズ等の集光光学系50で集光した上で照射し、被溶接物Wとレーザ光Lとを所定速度で相対移動させながら溶接を行なうようになされている。
【0004】
被溶接物Wの上方には、その溶接部Bを指向するフォトトランジスタ等の光センサ51が配置され、レーザ光Lに誘起されて溶接部Bで発生するプラズマPの強度を光センサ51で監視するようになされている。
さらに、被溶接物Wの下方(裏側)には、溶接部Bを指向し、被溶接物Wの裏側で発生するプラズマPの強度を監視する光センサ52が配置されている。
このような構成において、レーザ溶接の接合状態を検査する場合、光センサ51、52において検出された値と、図示しないコンピュータのメモリに予め記憶された基準値とを比較することにより、溶接状態の適否の判定がなされる。
【特許文献1】特開平6−262377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の方法によれば、レーザ誘起プラズマの発光強度と溶接の強度との相関関係に基づき溶接状態を検査するため、高精度にレーザ溶接の品質管理を行なうことができる。
しかしながら、特許文献1に開示の方法にあっては、光センサ51、52を被溶接物Wの上下に配置する際、溶接部位ごとに正確な位置決めを行なう必要があり、また、溶接後に検査工程を行なうため、各溶接部位に対する接合状態の検査に長時間を要するという課題があった。
また、図5に示される装置にあっては、前記光センサ51、52を高精度に固定するための治具が必要となるため、装置にかかるコストが嵩むという課題があった。
【0006】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、被溶接物にレーザ溶接を施すと同時にレーザ溶接の接合品質の検査工程を実施することにより、レーザ溶接の品質管理にかかる時間を短縮し、且つ、装置コストを抑えることのできるレーザ溶接装置及びレーザ溶接の品質管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するために、本発明に係るレーザ溶接装置は、被溶接物を一対のアーム間で保持しながら該被溶接物をレーザ溶接するレーザスポットガンを具備し、前記レーザスポットガンによりレーザ溶接を施すと共に、前記被溶接物の接合状態の検査を行なうレーザ溶接装置であって、前記レーザスポットガンは、前記被溶接物にレーザ光を照射し該被溶接物の溶融を行なう第1のアーム部と、前記第1のアーム部により溶融される前記被溶接物に対し所定波長の検査光を照射し、その反射光の強度を検出する第2のアーム部と、前記被溶接物の接合状態の判定を行なう制御部とを備え、前記制御部は、前記第2のアーム部により検出される前記反射光の強度に基づき、前記被溶接物の接合状態を判定することに特徴を有する。
尚、前記制御部は、所定の光強度を基準値として記憶する記憶手段を備え、前記第2のアーム部により検出される前記反射光の強度と前記記憶手段に記憶されている基準値とを比較することにより前記被溶接物の接合状態を判定することが好ましい。
【0008】
このような構成によれば、被溶接物に対しレーザ溶接を施しながら、その接合品質の検査工程を実施することができるため、レーザ溶接の品質管理に要する時間を短縮することができる。
また、装置構成として、レーザ溶接を施す状態で、反射光の強度を検出する第2のアーム部は常に被溶接物に対し所定位置に配置されるため、接合状態の検査工程における、その配置を容易にすることができる。
また、本発明にかかるレーザ溶接装置を構成する場合、前記第2のアーム部が有する機構を、従来汎用のスポットガンの下側のアーム側に持たせることで実現できるため、装置コストを抑えることができる。
【0009】
また、課題を解決するために、本発明に係るレーザ溶接の品質管理方法は、被溶接物を一対のアーム間で保持しながら該被溶接物をレーザ溶接するレーザスポットガンによりレーザ溶接を施すと共に、前記被溶接物の接合状態の検査を行なうレーザ溶接の品質管理方法であって、前記レーザスポットガンは、第1のアーム部により前記被溶接物にレーザ光を照射し該被溶接物の溶融を行うと共に、前記第1のアーム部により溶融される前記被溶接物に対し第2のアーム部により所定波長の検査光を照射して、その反射光強度を検出し、前記反射光強度の検出値が供給される制御部において、前記反射光強度に基づき、前記被溶接物の接合状態を判定することに特徴を有する。
尚、前記制御部は、前記第2のアーム部により前記反射光強度の検出値が供給されると、所定の光強度を基準値として記憶する記憶手段から該基準値を読出し、当該基準値と前記供給された反射光強度の検出値とを比較することにより前記被溶接物の接合状態を判定することが好ましい。
【0010】
このような方法によれば、被溶接物に対しレーザ溶接を施しながら、その接合品質の検査工程を実施することができるため、レーザ溶接の品質管理に要する時間を短縮することができる。
また、この方法を実施する装置構成として、レーザ溶接を施す状態で、反射光の強度を検出する第2のアーム部は常に被溶接物に対し所定位置に配置されるため、接合状態の検査工程における、その配置を容易にすることができる。
また、本発明にかかるレーザ溶接の品質管理方法を構成する場合、前記第2のアーム部が有する機構を、従来汎用のスポットガンの下側のアーム側に持たせることで実現できるため、装置コストを抑えることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被溶接物にレーザ溶接を施すと同時にレーザ溶接の接合品質の検査工程を実施することにより、レーザ溶接の品質管理にかかる時間を短縮し、且つ、装置コストを抑えることのできるレーザ溶接装置及びレーザ溶接の品質管理方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係るレーザ溶接装置及びレーザ溶接の品質管理方法の実施の形態について図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係るレーザ溶接装置の概略全体構成を示す図である。図1に示すように、このレーザ溶接装置1は、複数の鋼板(図では2枚)が重ねられた被溶接物WをYAGレーザ光により溶接し、その接合状態を検査するためのレーザスポットガン2を備える。尚、図1において、このレーザスポットガン2については断面図で示している。
【0013】
レーザスポットガン2は、図1に示すように先端がC字型形状をなした一対のアーム部からなり、図示するように被溶接物Wを前記アーム部で挟み込み、被溶接物Wを保持した状態で使用される。
レーザスポットガン2を構成する一対のアーム部のうち、被溶接物Wの上方に配置されるアーム部(第1のアーム部)は、YAGレーザ光Lを発射するレーザノズル4と、このレーザノズル4を支持し、レーザノズル4に光ファイバ10によりレーザ光を伝送するガンアーム3からなる。一方、被溶接物Wの下方に配置されるアーム部(第2のアーム部)は、溶接部位Bの下側(裏側)からのデータ検出を行なうセンサ部6とこのセンサ部6を支持するセンサアーム5からなる。
【0014】
尚、ガンアーム3とセンサアーム5とは夫々上下方向に移動可能に構成されており、レーザ溶接及び溶接状態の検査を行なう際には、レーザノズル4が被溶接物Wの溶接部位Bの上側面に密着し、センサ部6の上端が溶接部位Bの下側面に密着するようアーム移動操作がなされる。
【0015】
また、図示するようにガンアーム3には、YAGレーザ光を発振するレーザ発振部11からレーザ光が供給される。そして、ガンアーム3は光ファイバ10によってレーザノズル4にレーザ光を伝送し、レーザノズル4はレーザ光Lを被溶接物Wの溶接部位Bに照射することによって溶接を行なうようになされている。
また、センサ部6は、図2の拡大断面図及び図3の平面図に示すように、上部が開放した円筒状のケーシング9の内周面9aに円板ドーナツ状の照明部材7が係止し、さらに照明部材7の中央に形成された貫通孔7bにフォトセンサ8が係止している。
【0016】
図2に示すように照明部材7の上面7aからは、上方に向けて所定波長の検査光S1が照射される。照明部材7には、例えば指向性の高い照明素子として複数のLED素子(図示せず)が配置され、それら複数のLED素子が発光することにより、照明部材7の上面7a全体から溶接部位Bに対し所定波長の検査光S1が照射されるようになされている。
また、図1に示すように照明部材7(のLED素子)には発光駆動部12が接続され、この発光駆動部12からの電源供給により照明部材7が発光するよう構成されている。尚、発光駆動部12は、このレーザ溶接装置1全体の動作制御を行なう制御部13に接続され、制御部13の制御により発光駆動部12の動作が制御される。
【0017】
また、フォトセンサ8は、照明部材7によって被溶接物Wの下側W1の溶接部位Bに照射されて反射した反射光S2の光強度を検出するよう機能し、その検出値を制御部13に供給するようになされている。
また、制御部13内には所定の光強度が基準値として予め記憶されているメモリ13a(記憶手段)が設けられている。
【0018】
このように構成されたレーザ溶接装置1において、被溶接物Wに対する溶接及び溶接状態の検査を行なう場合、次のようになされる。
先ず、図1に示すように被溶接物Wをレーザスポットガン2により挟み込み、保持した状態で、制御部13からの命令によりレーザ発振部11がYAGレーザを発振し、レーザ光Lがレーザノズル4まで伝送される。
レーザノズル4の先端(下端)からはレーザ光が被溶接物Wの溶接部位Bに照射され、これにより溶接部位Bの溶融が開始される。
【0019】
一方、センサ部6では、レーザ溶接開始と同時に発光駆動部12の駆動制御により照明部材7が発光し、被溶接物Wの下側W1の溶接部位Bに検査光S1が照射される。
そして、被溶接物Wの下側W1の溶接部位Bに反射した反射光S2がフォトセンサ8の受光部8aで受光され、受光強度の検出値が制御部13に供給される。
制御部13では、メモリ13aに予め記憶された光強度の基準値を読み出し、その基準値と、前記供給された検出値とを比較し、その比較結果に基づき溶接の接合状態を判定する。
【0020】
尚、この制御部13における接合状態の判定は、反射光S2の強度と溶接の強度との相関関係に基づき行なわれる。
例えば、反射光S2の検出値が基準値より大きければ接合不十分(NG)と判定され、検出値が基準値より小さければ接合十分(OK)と判定される。
即ち、図4(a)に示すように、溶融が不十分で溶融物15が被溶接物Wの下側W1まで達していない場合、被溶接物Wの下側W1の表面は滑らかであり、検査光S1の反射光S2は、その大部分がフォトセンサ8の受光部8aによって受光される。したがって、溶接が不十分な場合、受光強度値は大きな値となる。
【0021】
一方、図4(b)に示すように、溶融が十分で溶融物15が被溶接物Wの下側W1まで達している場合、被溶接物Wの下側W1にはビード(凹凸)が形成される。このため、照明部材7から照射された検査光S1の反射光S2はケーシング9内で拡散し、フォトセンサ8の受光部8aによって受光される反射光S2の受光強度は小さくなる。したがって、溶接が十分な場合、受光強度の検出値は小さな値となる。
尚、接合状態を判定するためにメモリ13aに予め記憶される光強度の基準値は、実験による複数回のデータ採取により決定されるのが望ましい。
また、制御部13における判定処理は、短時間間隔で連続的に行なうのが好ましく、その結果は、図示しない出力手段(例えば、画面モニタ、スピーカ等)に出力される。
【0022】
以上のように本発明に係るレーザ溶接装置及びレーザ溶接の品質管理方法の実施の形態によれば、被溶接物Wに対しレーザ溶接を施しながら、その接合品質の検査工程を実施することができ、レーザ溶接の品質管理に要する時間を短縮することができる。
また、装置構成として、レーザ溶接を施す状態で、センサ部6は常に溶接部位Bの下方に位置するため、センサ部6の配置を容易に行なうことができる。
また、本発明にかかるレーザ溶接装置を構成する場合、センサ部6は、従来汎用のスポットガンの下側のアーム側に設ければよいため、装置コストを抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、車両組立工程等の薄鋼板の重ね溶接に用いられるレーザ溶接装置及びレーザ溶接の品質管理方法に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明に係るレーザ溶接装置の概略全体構成を示す図である。
【図2】図2は、センサ部の拡大断面図である。
【図3】図3は、センサ部の平面図である。
【図4】図4は、溶接の接合状態に対する反射光の変化を説明するための図である。
【図5】図5は、従来のレーザ溶接装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0025】
1 レーザ溶接装置
2 レーザスポットガン
3 ガンアーム
4 レーザノズル
5 センサアーム
6 センサ部
7 照明部材
8 フォトセンサ
10 光ファイバ
11 レーザ発振部
12 発光駆動部
13 制御部(制御手段)
13a メモリ(記憶手段)
B 溶接部位
L レーザ光
S1 検査光
S2 反射光
W 被溶接物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接物を一対のアーム間で保持しながら該被溶接物をレーザ溶接するレーザスポットガンを具備し、前記レーザスポットガンによりレーザ溶接を施すと共に、前記被溶接物の接合状態の検査を行なうレーザ溶接装置であって、
前記レーザスポットガンは、前記被溶接物にレーザ光を照射し該被溶接物の溶融を行なう第1のアーム部と、前記第1のアーム部により溶融される前記被溶接物に対し所定波長の検査光を照射し、その反射光の強度を検出する第2のアーム部と、前記被溶接物の接合状態の判定を行なう制御部とを備え、
前記制御部は、前記第2のアーム部により検出される前記反射光の強度に基づき、前記被溶接物の接合状態を判定することを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項2】
前記制御部は、所定の光強度を基準値として記憶する記憶手段を備え、
前記第2のアーム部により検出される前記反射光の強度と前記記憶手段に記憶されている基準値とを比較することにより前記被溶接物の接合状態を判定することを特徴とする請求項1に記載されたレーザ溶接装置。
【請求項3】
被溶接物を一対のアーム間で保持しながら該被溶接物をレーザ溶接するレーザスポットガンによりレーザ溶接を施すと共に、前記被溶接物の接合状態の検査を行なうレーザ溶接の品質管理方法であって、
前記レーザスポットガンは、第1のアーム部により前記被溶接物にレーザ光を照射し該被溶接物の溶融を行うと共に、前記第1のアーム部により溶融される前記被溶接物に対し第2のアーム部により所定波長の検査光を照射して、その反射光強度を検出し、
前記反射光強度の検出値が供給される制御部において、前記反射光強度に基づき、前記被溶接物の接合状態を判定することを特徴とするレーザ溶接の品質管理方法。
【請求項4】
前記制御部は、
前記第2のアーム部により前記反射光強度の検出値が供給されると、
所定の光強度を基準値として記憶する記憶手段から該基準値を読出し、当該基準値と前記供給された反射光強度の検出値とを比較することにより前記被溶接物の接合状態を判定することを特徴とする請求項3に記載されたレーザ溶接の品質管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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