説明

レーザ溶着術を用いたシース抜去孔閉鎖装置

血管カテーテルを用いた血管内の診断または治療を行う際にカテーテルを導入するために形成されたシース抜去孔を、レーザ溶着により閉鎖するための装置および方法の提供。 血管壁に形成されたシース抜去孔をレーザ溶着により閉鎖する装置であって、溶着用レーザ発生手段、溶着用レーザを伝送する手段および溶着用レーザ伝送手段の先端の位置をモニタする手段を含み、溶着用レーザ伝送手段の先端が血管壁内にある場合に溶着用レーザを照射する、シース抜去孔を閉鎖する装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、経皮的血管形成術等において生じるシース抜去孔のレーザ溶着術を用いた閉鎖法および閉鎖装置に関する。
【背景技術】
現在、血管、心臓等の循環器系の疾患の診断および治療において血管カテーテルを用いた術が行われている。例えば、虚血性心疾患に対しては、大腿動脈から血管内に血管カテーテルを挿入し、経皮的血管形成術が行われている。これらの血管カテーテルを血管内に挿入する際にカテーテルを挿入する血管にシースを穿刺して留置し、シース内にカテーテルを挿入する(図1)。術後穿刺したシースを抜くときにシース抜去孔(図2)ができ該抜去孔からの出血が問題になっていた。当初は、皮膚の上からシース抜去孔部分を圧迫することにより止血し、シース抜去孔を自然治癒させる方法がとられていた。しかし、この方法では止血するまでに15分から30分かかり、さらにその後数時間、ベッドで安静にする必要がある場合が多かった。特に、大腿動脈から血管カテーテルを挿入した場合は、止血後12時間以上もの絶対安静が必要であった。さらに、絶対安静時の排尿の確保のため、尿道カテーテルの挿入を必要とする場合があった。このように当初の方法では、医療側の労力が大きく、また患者の術後のQuality of Lifeの低下も著しかった。
このシース抜去孔を自然治癒に任せる方法に対して、積極的にシース抜去孔を閉鎖する方法も種々開発されていた。これらの方法には、抜去孔を縫合する経皮的血管縫合止血システムと抜去孔部分に止血プラークを挿入する経皮的プラーク挿入止血システムがあった(横井宏佳 Heart View Vol.7 No.2 pp.118−124(2003))。経皮的血管縫合止血システムには、例えばPerclose(商標)というシステムがあり、止血に要する時間は11〜19分であり、止血後の安静時間も4〜7時間で足りた。また、手技成功率は90〜100%であった。しかし、手技を取得するまでに経験数を必要とし、血管壁に縫合用の針を貫通させる必要があるため、貫通した針が抜けなくなり、外科的処置が必要となる場合があった。従って、透析患者等の石灰化の強い血管に対しては適応することが困難であった。また、経皮的プラーク挿入止血システムは、シース抜去孔部位にコラーゲンゲルを注入し、抜去孔を閉鎖するシステムであり、コラーゲンを抜去孔から血管壁まで注入し、コラーゲンの血小板凝集促進効果とコラーゲンゲルの形成により止血を行うシステムであるVasoSeal(商標)、血管外からコラーゲンを注入するとともに、血管内にアンカーを挿入し、シース抜去孔を挟みうちにするシステムであるAngio−Seal(商標)、血管外からコラーゲンとトロンビンの混入物を注入するとともに、血管内にバルーンを挿入し、シース抜去孔を挟みうちにするDuett(商標)等があった(Johannes Brachmann et al.,THE AMERICAN JOURNAL OF CARDIOLOGY VOL.81 pp.1502−1505 JUNE 15,1998;Gary Gershony et al.,Catheterization and Cardiovascular Interventions 45:82−88(1998);Ulrich Gerckens et al.,THE AMERICAN JOURNAL OF CARDIOLOGY VOL.83 pp.1658−1663 JUNE 15,1999;Donald D.Baim et al.,THE AMERICAN JOURNAL OF CARDIOLOGY VOL.85 pp.864−869 April 1,2000;Marie−Claude Morice et al.,Catheterization and Cardiovascular Interventions 51:417−421(2000);Michael R.Mooney et al.,Catheterization and Cardiovascular Interventions 50:96−102(2000))。VasoSeal(商標)においては、止血時間は数分であり、また安静時間も5時間程度で済む。また、手技成功率は88〜100%である。しかし、コラーゲンを挿入するため、感染やアレルギー反応等の合併症が起こる危険があった。さらに、皮膚と血管までの距離が短い痩せた患者等には適応することができなかった。Angio−Seal(商標)においては、止血時間は2〜4分、安静時間は6〜8時間で、手技成功率は91〜100%であった。しかし、VasoSeal(商標)と同様に、コラーゲンを挿入するため、感染やアレルギー反応が起こる危険があった。さらに、血管内にアンカーを挿入するため抜去孔部位にアテロームの多い部位では適用が困難であった。Duett(商標)においては、止血時間は4〜6分、安静時間は2〜6時間で、手技成功率は98〜100%であった。しかし、VasoSeal(商標)等と同様に、コラーゲンを挿入するため、感染やアレルギー反応が起こる危険があった。また、血管内にバルーンを挿入するため、内径が6mm未満の血管には適応することができず、皮膚と血管までの距離が短い痩せた患者等には適応することもできなかった。さらに、経皮的プラーク挿入止血システムにおいて、シース抜去孔部位に正確にコラーゲンを注入するには経験が必要であった。
このように、従来のシース抜去孔閉鎖術には、種々の問題点があり、さらに止血が迅速にでき、患者の早期離床・早期退院を可能にして、Quality of Lifeを向上し、また合併症併発の危険のないシース抜去孔閉鎖術が求められていた。
一方、従来よりレーザを用いた生体組織の溶着について種々の研究がされていた(Hasegawa et al.,Lasers in Surgery & Medicine 29(1):62−9,2001;Tang J,et al.,Lasers in Surgery & Medicine 22(4):207−11,1998;Tang J.et al.,Lasers in Surgery & Medicine 21(5):438−43,1997;Seaman EK.Et al.,Journal of Urology 158(2):642−5,1997;Menovsky T.et al.,Lasers in Surgery & Medicine 19(2):152−8,1996;Bass T.S.et al.,Lasers in Surgery & Medicine 12(5):500−5,1992;White RA.Et al.,Lasers in Surgery & Medicine 8(1):83−9,1988)。これらの方法においては、レーザ光としてアルゴンレーザ、半導体レーザ、炭酸ガスレーザ等を、レーザエネルギー吸収用の色素としてインドシアニングリーン(ICG)、フルオレセイン、酸化鉄等を用いていた。この溶着機構は、コラーゲンを約60℃で軟化させ、コラーゲン繊維を絡み合わせるというものである。これらの、レーザ溶着術は、血管への適用も報告されていたが(特開2001−190566号公報)、冠状動脈を対象とし、破れた血管壁を接合させる吻合を目的としていた。
【特許文献1】 特開2001−190566号公報
【発明の開示】
本発明は、血管カテーテルを用いた血管内の診断または治療を行う際にカテーテルを導入するために形成されたシース抜去孔を、レーザ溶着により閉鎖するための装置および方法の提供を目的とする。
本発明者らは、レーザ溶着術を用いたシース抜去孔の閉鎖術の開発について鋭意検討を行った。その結果、血管カテーテルを用いた施術後、カテーテルを除去し、血管壁に設置されたシースに溶着用レーザを照射しうるファイバーをシース内に挿入し、シースを抜去しながら、抜去孔部位にレーザを照射することにより、シース抜去孔部分の血管が溶着されシース抜去孔を閉鎖しうることを見出した(図3)。この際、レーザを血管壁部位にのみ照射する必要があり、レーザを照射するファイバーの先端の存在位置をモニタできるようにする必要がある。このため、ファイバー先端からモニタ用の微弱光を照射し、その後方散乱光を検出することにより、ファイバー先端が血液中、血管壁中、周囲組織中のどこに位置するか決定できるようにした。このため、血管壁に対して局所的に溶着用レーザを照射できるようになり、他の組織に傷害を与えることなくシース抜去孔を確実に閉鎖できるようになった。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 血管壁に形成されたシース抜去孔をレーザ溶着により閉鎖する装置であって、溶着用レーザ発生手段、溶着用レーザを伝送する手段および溶着用レーザ伝送手段の先端の位置をモニタする手段を含み、溶着用レーザ伝送手段の先端が血管壁内にある場合に溶着用レーザを照射する、シース抜去孔を閉鎖する装置、
[2] 溶着用レーザが血管壁を加熱し得るレーザである、[1]のシース抜去孔を閉鎖する装置、
[3] 溶着用レーザが血管壁を加熱し得る連続レーザである、[2]のシース抜去孔を閉鎖する装置、
[4] 溶着用レーザが、半導体レーザ、Nd:YAGレーザおよびNd:YAGレーザ第二高調波からなる群から選択される、[3]のシース抜去孔を閉鎖する装置、
[5] 溶着用レーザ伝送手段の先端の位置をモニタする手段が、モニタ用光を発生する手段、モニタ用光を伝送する手段およびモニタ用光の後方散乱光を検出する手段を含み、モニタ用光を伝送する手段の先端と溶着用レーザを伝送する手段の先端が同じ位置にあり、血液中に存在する物質に吸収され得る波長の光であるモニタ用光を照射し、照射したモニタ用光の後方散乱光を検出し、検出された光の強度により、溶着用レーザ伝送手段の先端の位置を判定する、[1]から[4]のいずれかのシース抜去孔を閉鎖する装置、
[6] 溶着用レーザ伝送手段の先端の位置をモニタする手段において、モニタ用光がヘモグロビンに吸収され得る波長の光であり、溶着用レーザ伝送手段の先端が、血液中、血管壁中および血管周囲組織中のいずれの組織内にあるか判別し得る[5]のシース抜去孔を閉鎖する装置、
[7] 溶着用レーザ伝送手段の先端の位置をモニタするための、ヘモグロビンに吸収され得る波長の光が波長810nmの半導体レーザ、波長543nmのHe−Neレーザおよび波長532nmのNd:YAGレーザ第二高調波からなる群から選択される、[6]のシース抜去孔を閉鎖する装置、
[8] 溶着用レーザを伝送する手段とモニタ用光を伝送する手段が共通のフレキシブル伝送手段である、[1]から[7]のいずれかのシース抜去孔を閉鎖する装置、
[9] フレキシブル伝送手段が、石英ガラスファイバー、プラスチックファイバーおよび中空医用導波管からなる群から選択される[8]のシース抜去孔を閉鎖する装置、
[10] 溶着用レーザ発生手段とモニタ用光発生手段が共通の半導体レーザまたはNd:YAGレーザ第二高調波発生装置である、[1]から[9]のいずれかのシース抜去孔を閉鎖する装置、
[11] さらに、溶着用レーザエネルギー吸収用色素をシース抜去孔に供給する手段を含む[1]から[10]のいずれかのシース抜去孔を閉鎖する装置、
[12] 溶着用レーザエネルギー吸収用色素がインドシアニングリーンである、[11]のシース抜去孔を閉鎖する装置、
[13] 以下の工程(a)〜(d)を含むレーザ溶着を利用してシース抜去孔を閉鎖するために、光伝送用ファイバーの先端位置を決定し溶着用レーザをシース抜去孔が形成されている血管壁に前記光伝送用ファイバーを通して照射するための制御方法、
(a) 血管に挿入されたシースに挿入された光発生装置と連結した光伝送用ファイバーに周囲組織を判別するための微弱光を照射する工程
(b) 照射した微弱光の後方散乱光を検出器で測定する工程
(c) 光伝送用ファイバー先端の周囲の組織が何かを判別する工程
(d) 光伝送用ファイバー先端の周囲の組織が血管壁であると判別された場合に溶着用レーザを照射する工程
[14] モニタ用光を発生する手段、モニタ用光を伝送する手段およびモニタ用光の後方散乱光を検出する手段を含み、血液中に存在する物質に吸収され得る波長の光であるモニタ用光を照射し、照射したモニタ用光の後方散乱光を検出し、検出された光の強度により、モニタ用光伝送手段の先端の位置を判定する、モニタ用光伝送手段の先端の位置をモニタする装置、
[15] モニタ用光伝送手段の先端の位置をモニタする手段において、モニタ用光がヘモグロビンに吸収され得る波長の光であり、モニタ用光伝送手段の先端が、血液中、血管壁中および血管周囲組織中のいずれの組織内にあるか判別し得る[14]のモニタ用光伝送手段の先端の位置をモニタする装置、ならびに、
[16] モニタ用光伝送手段の先端の位置をモニタするための、ヘモグロビンに吸収され得る波長の光が波長810nmの半導体レーザ、波長543nmのHe−Neレーザおよび波長532nmのNd:YAG第二高調波からなる群から選択される、[14]または[15]のモニタ用光伝送手段の先端の位置をモニタする装置。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2004−045204号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
図1は、血管カテーテルを用いた血管の診断・治療方法を示す図である。
図2は、シース抜去孔を示す写真である。
図3は、レーザ溶着術を用いたシース抜去孔閉鎖法の概要を示す図である。
図4Aは、後方散乱光を利用して組織を判別する方法を示す図である。
図4Bは、図4Aの方法における光の進み方および強さを示す図である。図中、矢印の太さは光の強さを示す。左は吸収が少ない場合、右は吸収が多い場合である。
図5は、各組織(血液中、血管壁中および周囲組織中)における後方散乱光の理論的変化を示す図である。
図6Aは、レーザ溶着術を用いたシース抜去孔閉鎖実験の概要を示す図であり、実験装置を正面から見た図である。
図6Bは、レーザ溶着術を用いたシース抜去孔閉鎖実験の概要を示す図であり、実験装置を横から見た図である。
図7は、レーザ溶着術により溶着閉鎖されたシース抜去孔の断面を示す写真である。
図8は、レーザ溶着術に溶着閉鎖されたシース抜去孔の断面の染色写真である。図8中、青色部分はコラーゲン繊維を、淡赤色部分はエラスチン繊維を、黒褐色部分は細胞核を示す。右の写真は左の写真の矩形部分の拡大写真である。
図9は、後方散乱光測定実験の概用を示す図である。用いたレーザは、波長543nm、出力1mWのHe−Neレーザ(緑色)である。レーザは、ビームスプリッター、レンズを通過し、コア径400μm、NA0.25のファイバーを通って試料に達する。試料から戻る光はファイバー、レンズ、ビームスプリッターを通り、シリコンフォトダイオードで認識される。
図10は、後方散乱光測定実験に用いた血管モデルを示す図である。大動脈は大腿動脈を模擬し、心筋は周囲組織を模擬する。
図11Aは、後方散乱光の測定値を示す図である。
図11Bは、後方散乱光の測定に用いた材料を示す図である。
図12は、レーザ溶着術を利用したシース抜去孔閉鎖装置の図である。
図13は、血管内腔加圧装置を示す図である。
【符号の説明】
1 光発生装置
2 ファイバー
3 ビームスプリッター
4 レンズ
5 フィルター
6 光検出器
7 シース
8 血管壁
9 血管(血液)
10 周囲組織
11 レーザ光
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の装置は、血管内の診断または治療のために血管内に血管カテーテルを挿入する際にカテーテルを導入するために挿入されるシースを診断または治療終了後に抜いたときに血管壁に形成されるシース抜去孔の閉鎖に用いることができる。対象とする血管は血管カテーテルが挿入され得る血管ならば限定されず、例えば大腿動脈、とう骨動脈等が含まれる。
通常用いられるシースの径は種々あり、シースが挿入される血管の種類や太さによって異なるが、5F(フレンチ)サイズから11Fサイズまでのものが用いられ、本発明のシース抜去孔閉鎖に用いる装置は、あらゆるサイズのシース抜去孔に適用することができる。
1.シース抜去孔閉鎖に用いる装置の構成
本発明のシース抜去孔閉鎖に用いる装置は、少なくとも溶着用レーザ発生手段、溶着用レーザを血管壁に伝送する手段、レーザ伝送手段の先端の位置をモニタする手段を含む。本発明の装置の構成例を図12に示すが、本発明の装置は図12に示す装置構成に限定されるものではない。
(1)溶着用レーザ発生手段
溶着用レーザ発生手段(レーザ光源)は、通常の治療用近赤外光レーザ発生装置を用いることができ、本発明の装置を用いてのレーザ溶着は、シース抜去孔の存在する血管壁にレーザを照射し、局所的に発熱させ、血管壁中のコラーゲンを軟化させて溶着させる。発熱による発生温度は60℃〜70℃である。
レーザ種としては、血管壁を加熱し得るレーザ、好ましくは血管壁を加熱し得る連続レーザを用いることができる。波長範囲は、血管壁に対して適度な侵達性を持つものがこの好ましく、この場合の侵達性は、光侵達長が50μmから1cmのものが好ましい。具体的には、波長が300nm〜2.5μmあるいは4μm〜11μmのものが挙げられ、石英ガラスファイバー、プラスチックファイバー、中空医用導波管などのフレキシブル伝送手段で伝送可能な波長を有するレーザを用いることができる。このようなレーザとして、例えば、半導体レーザ(810nm)、Nd:YAGレーザ(1064nm)、波長532nmのNd:YAG第二高調波等が用いられる。
また、レーザ溶着を行う際、シース抜去孔部にレーザエネルギーを吸収する色素を供給して染色してもよい。色素による染色後、レーザをシース抜去孔に局所的に照射することにより溶着することができる。レーザエネルギーを吸収するための色素としては、血管に透過性の高いレーザ波長に吸収が高く、生体に投与できるものが選択され、例えばインドシアニングリーン、酸化鉄等の鉄製剤が用いられる。ここで、酸化鉄としては、フェジン(登録商標、吉富製薬社)のような含糖酸化鉄が挙げられる。シース抜去孔部で局所的に60℃〜70℃の温度を発生し得る組み合わせとして、インドシアニングリーンと半導体レーザの組み合わせ、または鉄製剤とNd:YAGレーザの組み合わせが好ましい。但し、これらの組み合わせに限定されるのではなく、上述のレーザ種および色素の条件を満たし、かつ組み合わせたときにシース抜去孔部で局所的に60℃〜70℃の高温度を発生し得るレーザ種および色素の組み合わせならば、公知のいかなるものも用いることができる。
レーザ発生装置として、例えば、半導体レーザ発生装置であるUDL−60(オリンパス工業社)等が挙げられる。
局所的な温度上昇は、レーザの強度と照射時間によって決まるが、過度に高強度、短パルスとするならば、組織での音波発生による障害が生じる。この為、レーザ照射時間は比較的長いパルスあるいは連続とするのがよい。しかし、その一方で、余り長い時間の照射は周囲組織に熱による損傷をもたらすので、比較的短時間の連続レーザによる処置が必要になってくる。照射時間は、1ms〜10秒が好ましく、この範囲で短時間の方が周囲損傷を避ける上でより好ましいといえる。ただし、溶着は一種の化学反応過程と考えられるので、溶着温度に応じたある程度の照射時間が必要になる。この点を考慮した場合は、好ましい照射時間として、5ms〜10秒、さらに4〜10秒が好ましい。照射時間はここに挙げた範囲で、シース抜去孔部のコラーゲン含量やシース抜去孔部の大きさ等により適宜選択することができる。また、照射開始から照射終了までに上記時間の照射を繰り返し行ってもよい(間歇照射)。
用いるレーザの出力は0.05〜30W/mmである。上記の短時間照射条件を満たすために、この範囲でなるべく大きい出力が好ましい。
また、シース抜去孔を溶着閉鎖するためには、レーザ照射時にシース抜去孔を適当な圧で押さえつける必要がある。通常シースは血管に対して約45度の角度で挿入される。従って、シース抜去孔も血管壁に対して45度の角度で形成される(図3)。この場合、血管中を流れる血液によりもたらされる血圧によりシース抜去孔が押さえつけられるので、シース抜去孔は自然に塞がれる。塞がれたシース抜去孔にレーザを照射すればよい。但し、シース抜去孔の形成角度、シース抜去孔の大きさあるいは血圧によっては、血管中の血圧だけでは十分シース抜去孔が塞がれない。そのような場合には、例えば血管外からシース抜去孔部を押さえつける操作等により圧力をかけシース抜去孔を塞ぐ必要がある。また、バルーンやステントを用いて血管内部から圧力をかけてもよい。その時の印加圧力は0.05〜1kg/cmであり、好ましくは0.1〜1kg/cmであり、さらに好ましくは動脈の血圧に相当する130g/cm前後である。
従って、本発明のレーザ溶着によるシース抜去孔閉鎖の好ましい態様は、レーザ種として半導体レーザを、色素としてインドシアニングリーンを用いるか、またはレーザ種としてNd:YAGレーザを、色素として酸化鉄製剤を用い、シース抜去孔部分に局所的に連続レーザを1ms〜10秒間照射し、60〜70℃の高温を発生させ、コラーゲンを軟化させて絡み合わせシース抜去孔を溶着閉鎖させるというものである。
(2)溶着用レーザ伝送手段
溶着用レーザを血管壁に伝送する手段には、レーザをレーザ発生装置からシース抜去孔へ伝送し得るフレキシブル伝送手段が含まれる。該フレキシブル伝送手段として、石英ガラスファイバー、プラスチックファイバー、中空医用導波管等が挙げられる。本明細書において、これらのフレキシブル伝送手段を光ファイバーあるいはファイバーと呼ぶことがある。レーザは該ファイバー内を伝送されファイバー先端から照射される。
ファイバーは、適当な保護用の管、例えばシースまたはシースに挿入したカテーテルの中に収容され、その一端でレーザ発生装置と連結している。ファイバー先端にはレンズ等の適当なレーザ光照射装置を設けてもよい。本発明で用いられるファイバーは、直径0.05〜0.6mm程度のきわめて細いものから、可視的な太さのものまで、広く種々の径のものを用いることができる。
(3)溶着用レーザ伝送手段の先端の位置をモニタする手段
シース抜去孔に溶着用レーザを照射する場合、溶着用レーザ伝送用ファイバーをシース抜去孔に沿って移動させたとき、溶着用レーザ伝送手段の先端に位置する溶着用レーザ照射部位は、血管内、血管壁中または血管外の周囲組織中のいずれかに存在し得る(図3)。本発明の装置を用いてシース抜去孔を閉鎖しようとする場合、シース抜去孔が形成されている血管壁に対してのみ溶着用レーザを照射する必要がある。このため、溶着用レーザが照射されるファイバー先端の存在位置をモニタし、ファイバー先端が血管壁中に存在するときのみ溶着用レーザを照射するようにする。この場合、溶着用レーザを伝送し照射するファイバー先端の周囲の組織が何かを判別できればよい。組織の判別は、組織中の特定の物質が特定の波長の光を吸収することを利用すればよい。すなわち、溶着用レーザ伝送用ファイバー先端の位置から、血管壁中に少なくて血液中および周囲組織中に多く存在する物質が吸収する波長を有するモニタ用の光を照射し、該光の後方散乱光を検出すればよい。ここで後方散乱光とはファイバーから照射した光が照射部付近の組織中で吸収・散乱され再びファイバーに戻る光をいう。図4AおよびBは、レーザ伝送手段の先端の位置をモニタする方法の概要を示す。図4Aの黒矢印は、ファイバー先端より照射されたモニタ用光、白矢印は後方散乱光を示す。図4Bはファイバーから照射された光が散乱し、後方散乱光としてファイバーに戻る様子を示し、太い矢印は強い光を、細い矢印は弱い光を示す。図に示すように、ファイバー先端の周囲組織の光の吸収が大きい場合は、戻ってくる後方散乱光は弱く、ファイバー先端の周囲組織の光の吸収が小さい場合は、戻ってくる後方散乱光は強い。血管壁中に少なくて血液中および周囲組織中に多く存在する物質としては、血液中の物質が挙げられ、特にヘモグロビンが好ましい。ヘモグロビンは、色素タンパク質であり、特定の波長の光を吸収する。従って、各組織におけるヘモグロビンの含有量により、光吸収・散乱特性が異なるので、後方散乱光を検出することにより光を照射した部位の組織が何かを判別することができる。理論上、血管中は血液で満たされているのでヘモグロビン含有量が多く光の吸収が多くなるので、後方散乱光は少ない。血管壁中には、ヘモグロビンはほとんど含まれないので(シース抜去孔中への血液の浸入はあるが)吸収が少なく後方散乱光は多い。血管壁外部の周囲組織(例えば、筋肉組織)では毛細血管等が存在するため比較的ヘモグロビン含有量は大きく、吸収が比較的多くなるので、後方散乱光は比較的少なくなる。図5は、理論から予測した各組織における後方散乱光量の変化を示す。図5中、横軸はモニタ用光を照射するファイバー先端の位置を示し、縦軸は後方散乱光量を示す。
モニタ用光としては、波長200nmから900nmの光を用いればよい。ヘモグロビンが吸収する光の波長の極大は400、550nm付近にあるが、これを外れたとしても、色素タンパク質であるヘモグロビンにより吸収され得るので、本発明の装置で用いるモニタ用光として採用し得る。例えば、溶着用レーザの波長は、ヘモグロビンの吸収極大波長とは開きがあるが、該レーザをモニタ用光として用いることもできる。また、光強度は小さくてよく出力0.01mWから1mWの微弱光を用いればよい。特に、溶着用レーザを同時にモニタ用光として用いる場合は、モニタ用として用いるときは組織への影響を避けるため出力を小さくし、微弱光として用いる必要がある。モニタ用光として、例えば、波長543nm、出力1mWのHe−Neレーザ(緑色)が挙げられる。モニタ用の光は、外部の光発生装置で発生させ、モニタ用光伝送用ファイバーを伝送させ、該ファイバー先端から照射する。この際用いるファイバーは、溶着用レーザ伝送用ファイバーと同じ径のものを用いることができる。後方散乱光は、モニタ用光を照射した伝送用ファイバーに再び入射し、該ファイバー中を逆進し戻ってくる。後方散乱光の検出のためには、後方散乱光が入射し戻ってくるファイバーに後方散乱光をモニタするための検出器を連結しておけばよく、ファイバーの途中にビームスプリッタを設けておくことにより、光ファイバー中を戻ってくる光の進路を変化させ、さらに適当なバンドパスフィルターを通し所望の波長の光のみ選択し散乱光検出器に導けばよい。散乱光検出器は光を検出できるものならば限定されないが、例えばシリコンフォトダイオードを用いることができる。この際、モニタ用光伝送用ファイバー先端が血液中から血管壁中に移動するとき、および血管壁から周囲組織中に移動するときに急激に後方散乱光の強度が変化するので(図5)、後方散乱光の変化量をモニタしてもよい。
モニタ用光を伝送するファイバーは、溶着用レーザを伝送するファイバーと別に設けてもよい。但し、この場合は、モニタ用光を伝送するファイバーの先端と溶着用レーザの先端位置を合わせておく必要がある。一方、1本のファイバーを溶着用レーザの伝送およびモニタ用光の伝送の両方に用いることもできる。本発明の装置のシースを通して血管まで挿入する部分を細くすることができるという点で、1本のファイバーを両方の光の伝送に用いるほうが好ましい。
溶着用レーザ伝送用ファイバーとモニタ用光伝送用ファイバーが同じものである場合、ファイバーの一端に溶着用レーザ発生手段と、モニタ用光発生手段を連結し、適宜光源を切り替えできるようにすればよい。また、上述のように溶着用レーザを、光強度を変えることによりモニタ用の光としても用いることができるため、半導体レーザ発生装置等のレーザ発生装置を連結し、レーザ溶着を行うときに高強度光を照射し、ファイバー先端の位置をモニタをするときに微弱光を照射するようにしてもよい。
(4)その他の手段
また、必要に応じ溶着用レーザを照射した部分の温度変化を測定できるように、熱電対のような温度測定手段をファイバー先端部に設けてもよい。該温度測定手段でモニタできる温度上昇を指標にしてもシース抜去孔の溶着閉鎖の程度を判断することができる。
さらに、本発明の装置は、溶着用レーザの溶着効率を高めるための色素を供給するための手段を含んでいてもよい。色素をシース抜去孔に供給するための手段は、インドシアニングリーン、フェジンなどの酸化鉄のレーザエネルギー吸収性色素をシース抜去孔に供給する手段である。該手段を本装置に備える場合には、送液チューブを光伝送用ファイバーを収めているカテーテル等の管内に設ける。該管の先端部付近に色素溶液の注入手段を設けることにより、色素をシース抜去孔に供給することができる。色素溶液の送液は例えば、シリンジやペリスタポンプ等のポンプを用いて行うことができる。色素溶液の注入は、例えば送液チューブの末端に小孔やスリット状の孔を設けておくことにより行うことができる。この場合の色素濃度は、許容量より十分少ないことが望ましい。供給する色素の量および濃度は、静脈投与する場合と、色素供給手段を用いて供給する場合とで適宜変更することができる。例えば、色素供給手段でシース抜去孔部分に直接供給する場合、数μg〜数十mg/mLの濃度の色素を適当量供給すればよい。但し、色素によっては人体に悪影響を及ぼすことがあるので、各色素毎にLD50値等を考慮して投与量を決めてもよい。色素は装置に備えた専用の手段を用いなくても、本発明の治療装置による治療を行う前に、患者のシース抜去孔部分に色素を投与することによっても可能である。例えば、色素溶液をシースを抜去する前のシースが挿入されている部分に、適当なチューブや注射器を通して注入すればよい。色素を供給するタイミングは、溶着用レーザ照射の前ならばよく、溶着用レーザ照射用ファイバーを挿入する前であってもよいし、溶着用レーザ照射用ファイバーを挿入し、レーザを照射する直前であってもよい。
さらに、本発明の装置を用いてレーザ溶着によりシース抜去孔を閉鎖する際、後方散乱光の測定によりファイバーの先端の位置を決定するためにファイバー先端を0.1mmかそれ以下の単位で移動させる。この移動を手動で行ってもよいが、適当な精密移動手段を装置に設けて該手段により移動させてもよい。精密移動手段には、例えばマイクロメーターねじ等を利用したものがある。
本発明のシース抜去孔を閉鎖する装置に含まれる、溶着用レーザ伝送手段の先端の位置をモニタする手段は、モニタ用光伝送手段の先端の位置をモニタする装置として利用することができ、種々のレーザ照射により血管内の状態を診断し、あるいは血管内の疾患を治療する血管カテーテルを用いた診断・治療用装置と組合わせ、診断あるいは治療すべき血管内の部位をモニタすることができる。
2. 本発明の装置の使用方法
図2にシース抜去孔の状態を示す。図12にレーザ溶着によりシース抜去孔を閉鎖する本発明の装置の構成を示す。図12中、レーザ発生装置は溶着用レーザとモニタ用光(レーザ)を照射することができ、光伝送用ファイバーは、溶着用レーザおよびモニタ用光(レーザ)の両方を伝送し得る。
図12に基づいて本発明の装置の使用方法を説明する。本発明の装置のファイバー部分2を、血管カテーテルを挿入するために血管に挿入されたシース7を通して挿入し、ファイバー2先端をシース抜去孔に到達させればよい。ファイバー2を挿入しただけでは、ファイバー2先端の位置を知ることはできないため、図12中の光発生装置(レーザ発生装置)1からモニタ用微弱光を発生させ、該光をファイバー2を伝送させ、ファイバー2先端より照射する。該モニタ用光は、照射部分の組織で吸収・散乱され、該散乱光は後方散乱光として再びファイバー2中に入り戻ってくる。戻ってきた光の進路をビームスプリッター3により変え、適当なフィルター5を通して光検出器(シリコンフォトダイオード)6に導き、光の強度を測定する。この際、ファイバー2先端の位置をずらしながら、照射した微弱光の後方散乱光を測定する。後方散乱光の変化によりファイバー2先端の存在位置を知ることができる。従って、ファイバー2先端の位置を移動させながら、モニタ用光を照射しその後方散乱光の強度を測定し、強度の変化をモニタする。ファイバー2先端が血液中と血管壁中または血管壁中と周囲組織中との間を移動した場合、図5に示すように、強度の変化量が急激に変化するので、ファイバー2先端の存在位置がわかる。
このようにして、ファイバー2の先端が血液中にあることを確認した後、ファイバー2を徐々に引き抜きながら、光発生装置1で発生したモニタ用微弱光を照射する。図12中、シース7部分の矢印はファイバー2の先端の位置をずらす方向を示している。ファイバー2を戻ってきた後方散乱光をモニタし、後方散乱光の強度が上昇し、ファイバー2先端が血管壁中に移動したと判断できた時点で、光発生装置1で溶着用レーザを発生させファイバー2を伝送させ先端からシース抜去孔に対して照射する。微弱光の照射、後方散乱光の測定、ファイバー2先端の位置決定、ファイバー2先端の位置移動の各操作を繰り返して、ファイバー2先端の位置を移動させながら溶着用レーザによりシース抜去孔を溶着閉鎖すればよい。また、移動しながら溶着用レーザを照射しなくても、シース抜去孔中の適当な一点または複数の点において照射してもよい。照射するシース抜去孔中の点として、ファイバー2先端が血液9中から血管壁8に移動した点、ファイバー2先端が血管壁8中から周囲組織10に移動する直前の点、該2点の間の任意の数点が挙げられる。ファイバー2先端が血管壁8中から周囲組織10に移動する直前の点は、後方散乱光のモニタにより、ファイバー2先端が血管壁8中から周囲組織10に移動したのを確認した後に、わずかにファイバー2を押し込めばよい。
また逆に、ファイバー2の位置が周囲組織10中にあることを確認した後、ファイバー2を押し込みながら、上述の溶着操作を行ってもよい。
なお、シース抜去孔に溶着用レーザを照射するときに、血管壁に挿入されているシースを抜く必要があるが、ファイバーと一緒に抜けばよい。例えば、ファイバー先端の位置が血液中にあることを確認できた時点で、ファイバーとシースがずれないように固定し、シースを引き抜いていけば、シースとファイバーを同時に抜くことができる。
3.レーザ溶着を用いたシース抜去孔閉鎖術における溶着用レーザ照射位置の制御方法
本発明は、レーザ溶着を利用してシース抜去孔を閉鎖するために、シース抜去孔の位置を決定し溶着用レーザを照射するための制御方法をも包含する。
すなわち、シース抜去孔に微弱光を照射し、該微弱光の後方散乱光をモニタすることにより、微弱光を照射した部分の位置が血液中か、血管壁内か、あるいは血管の周囲組織内かを判定し、照射した部分が血管壁内であると判定した場合に、シース抜去孔を閉鎖するための溶着用レーザを照射する、溶着用レーザ照射位置を制御する方法である。
該制御方法は、以下の工程を含む。
血管に挿入されたシースに挿入されたモニタ用光発生装置と連結したモニタ用光伝送用ファイバーに周囲組織を判別するための微弱光を照射する工程、
照射した微弱光の後方散乱光を検出器で測定する工程、
モニタ用光伝送用ファイバー先端と同じ位置にある溶着用レーザ伝送用ファイバー先端の周囲の組織が何かを判別する工程、および
溶着用レーザ伝送用ファイバー先端の周囲の組織が血管壁であると判別された場合に溶着用レーザを照射する工程。
また、溶着用レーザ伝送用ファイバーとモニタ用光伝送用ファイバーを共通のファイバーとした場合、該方法は、以下の工程を含む。
血管に挿入されたシースに挿入された光発生装置と連結した光伝送用ファイバーに周囲組織を判別するための微弱光を照射する工程、
照射した微弱光の後方散乱光を検出器で測定する工程、
光伝送用ファイバー先端の周囲の組織が何かを判別する工程、および
光伝送用ファイバー先端の周囲の組織が血管壁であると判別された場合に溶着用レーザを照射する工程。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
レーザ溶着
シース抜去孔モデルを作製し、本発明の装置を用いてシース抜去孔の閉鎖を行った。
摘出したブタ頚動脈(血流方向に長さ2cm、幅0.5cm)に4Fのシースを45度の角度で穿刺し一時間留置した後抜き、シース抜去孔を形成させ、シース抜去孔モデルとして用いた。シース抜去孔に2.5mg/mLのインドシアニングリーン(吸収ピーク波長805nm)をシリンジを用いて滴下することにより添加した。図6に示すようにシース抜去孔モデルを内径9.4mmの中空のガラス管内に内径に密着するように置き、さらにその上に直径5mmのガラス棒を置き、該ガラス棒の両端付近に130gの錘を紐で吊るし、シース抜去孔モデルに130g/cmの圧力(動脈血圧に相当する圧力)で加圧した。次いで、ガラス管外側から溶着用レーザを照射した。使用したレーザは、波長810nmの半導体レーザで、照射条件は、0.37W/mmで8秒であった。
この結果、シース抜去孔全体が溶着により閉鎖された。図7に溶着部位の断面の写真を示す。図7の写真において、上が血管内膜側であり下が外膜側である。図8は、溶着面の断面をマッソントリクローム(MT)染色し、組織性状を示した写真である。この染色法においては、コラーゲン線維が青色に染まり、エラスチン線維が淡赤色に染まり、細胞核が黒渇色に染まる。この染色写真よりコラーゲンが絡まって溶着されているのがわかった。
【実施例2】
ファイバー先端における後方散乱光の計測
血管および周囲組織を模したモデルを、血管としてブタの大動脈を用い、周囲組織としてブタ心筋を用い以下のようにして作製した。厚さ11mmに切った心筋切片を2枚準備し、2枚の心筋の間にブタ血液を満たしたブタ大動脈を挟んだ。ブタ大動脈の厚さは1.2mmであり、血管中心から血管壁内膜までの距離は0.5mmであった(図10)。石英ファイバー(コア径:400μm、NA:0.25)をHe−Neレーザ(波長543nm、出力1mW)発生装置(LASOS社、型番LGK7786P50)に連結した。この際、石英ファイバーとレーザ発生装置の間にファイバー側から順にレンズおよびビームスプリッターを設けた。ビームスプリッターは、ファイバー側からビームスプリッターへ到着した光が進路を変えるように設け、進路を変えた光がシリコンフォトダイオードに到達するように、シリコンフォトダイオードを設けた(図9)。ファイバー先端を前記のモデルに心筋、血管壁を貫通しファイバー先端が血液中に位置するように挿入した。レーザ発生装置より微弱光を照射しながら、血液中、大動脈壁、心筋へとファイバー先端を移動させ、ファイバーを通りシリコンフォトダイオードでモニタし得る後方散乱光量を経時計測した。図9中の矢印は光の進路方向を示す。レーザ発生装置で発生したHe−Neレーザは、灰色の矢印が示すようにレンズを通してファイバー中に導かれ、ファイバー中をファイバー先端まで進む。該光は試料(血管および周囲組織を模したモデル)中に照射され、吸収・散乱され、後方散乱光としてファイバー中に戻る。図9中、後方散乱光の進路は黒矢印で示す。後方散乱光はビームスプリッターで進路を変え、光検出器(シリコンフォトダイオード)に入り計測される。
結果を図11Aに示す。図11Aに示すように、ファイバー先端が血液中に存在するときは、後方散乱光は極めて弱かったが、血管壁中では急激に増加し、徐々に低下し、心筋中ではさらに低下した。すなわち、血液、血管壁および心筋の3層モデルにおいて、ファイバー先端の位置と組織からの後方散乱光量が対応していた。図11Bは、実験に用いた材料を示す。
【実施例3】
閉鎖されたシース抜去孔に関する溶着力評価
実施例1の方法により閉鎖されたシース抜去孔の溶着力を溶着力評価装置(内腔加圧装置)を用いて評価した。
溶着力評価装置の構造
血管内腔加圧装置は、窒素ボンベ(東横化学、神奈川)、容量5lのバッファータンク(ステンレス加圧容器 TM5SRV,アズワン株式会社、東京)、ストップバルブ(ボンネット一体型ニードル・バルブ B−1RS4、swagelok company、OH)、圧力計(耐環境型デジタル圧力センサAP−13S、株式会社キーエンス、大阪)、ビニールチューブで構成されている。バッファータンクは、気体加圧により液体が外部に出される構造になっている。本実験では、気体に窒素、液体に生理食塩水(大塚生食注(登録商標)、大塚製薬株式会社、東京)を用いた。ルアーフィッティング(VRM206、株式会社アイシス、大阪)を用いて血管モデルをビニールチューブ端に装着する。バルブ1,2を開いた状態で系全体の圧力を動脈血圧相当の圧力まで高めた後、バルブ1だけを閉め、系全体の圧力を一定に保つ。圧力計によって圧力を計測することができる。本装置は、血管モデルの容積(約50mL)に対してバッファータンクの容量(5L)が十分に小さく、血管モデルからの生理食塩水の漏れによる圧力損失が小さいため、血管モデルから生理食塩水の漏れが生じても系全体の圧力維持が可能である。図13に用いた血管内腔加圧装置の図を示す。中膜溶着達成時の溶着力について
中膜溶着がなされた試料に生理食塩水による内腔加圧を行った結果、内腔が202mmHgに達するまで生理食塩水の漏れが見られず、カテーテルシース抜去孔は完全に封止されていた。ヒトの動脈血圧(およそ100mmHg)の約2倍の閉鎖力を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
本発明の装置を用いてシース抜去孔に微弱光を照射し該光の後方散乱光を測定することにより、光を照射する光ファイバー先端部の存在位置を決定することができる。次いで、光ファイバー先端部の位置が血管壁内であると決定されたときに、溶着用レーザを照射することにより、軟化したコラーゲン線維が絡み、シース抜去孔が溶着閉鎖される。本発明の装置を用いることにより、他の組織にレーザを照射することなく、シース抜去孔が形成されている血管壁にのみ溶着用レーザを照射できる。実施例3に示すように、本発明のシース抜去孔を閉鎖する装置を用いて閉鎖したシース抜去孔は動脈血液の約2倍の内腔圧力をかけても液体の漏れがない程度に確実に閉鎖される。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4A】

【図4B】

【図5】

【図6A】

【図6B】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11A】

【図11B】

【図12】

【図13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管壁に形成されたシース抜去孔をレーザ溶着により閉鎖する装置であって、溶着用レーザ発生手段、溶着用レーザを伝送する手段および溶着用レーザ伝送手段の先端の位置をモニタする手段を含み、溶着用レーザ伝送手段の先端が血管壁内にある場合に溶着用レーザを照射する、シース抜去孔を閉鎖する装置。
【請求項2】
溶着用レーザが血管壁を加熱し得るレーザである、請求項1記載のシース抜去孔を閉鎖する装置。
【請求項3】
溶着用レーザが血管壁を加熱し得る連続レーザである、請求項2記載のシース抜去孔を閉鎖する装置。
【請求項4】
溶着用レーザが半導体レーザ、Nd:YAGレーザおよびNd:YAGレーザ第二高調波からなる群から選択される、請求項3記載のシース抜去孔を閉鎖する装置。
【請求項5】
溶着用レーザ伝送手段の先端の位置をモニタする手段が、モニタ用光を発生する手段、モニタ用光を伝送する手段およびモニタ用光の後方散乱光を検出する手段を含み、モニタ用光を伝送する手段の先端と溶着用レーザを伝送する手段の先端が同じ位置にあり、血液中に存在する物質に吸収され得る波長の光であるモニタ用光を照射し、照射したモニタ用光の後方散乱光を検出し、検出された光の強度により、溶着用レーザ伝送手段の先端の位置を判定する、請求項1から4のいずれか1項に記載のシース抜去孔を閉鎖する装置。
【請求項6】
溶着用レーザ伝送手段の先端の位置をモニタする手段において、モニタ用光がヘモグロビンに吸収され得る波長の光であり、溶着用レーザ伝送手段の先端が、血液中、血管壁中および血管周囲組織中のいずれの組織内にあるか判別し得る請求項5記載のシース抜去孔を閉鎖する装置。
【請求項7】
溶着用レーザ伝送手段の先端の位置をモニタするための、ヘモグロビンに吸収され得る波長の光が波長810nmの半導体レーザ、波長543nmのHe−Neレーザおよび波長532nmのNd:YAGレーザ第二高調波からなる群から選択される、請求項6記載のシース抜去孔を閉鎖する装置。
【請求項8】
溶着用レーザを伝送する手段とモニタ用光を伝送する手段が共通のフレキシブル伝送手段である、請求項1から7のいずれか1項に記載のシース抜去孔を閉鎖する装置。
【請求項9】
フレキシブル伝送手段が、石英ガラスファイバー、プラスチックファイバーおよび中空医用導波管からなる群から選択される請求項8記載のシース抜去孔を閉鎖する装置。
【請求項10】
溶着用レーザ発生手段とモニタ用光発生手段が共通の半導体レーザまたはNd:YAGレーザ第二高調波発生装置である、請求項1から9のいずれか1項に記載のシース抜去孔を閉鎖する装置。
【請求項11】
さらに、溶着用レーザエネルギー吸収用色素をシース抜去孔に供給する手段を含む請求項1から10のいずれか1項に記載のシース抜去孔を閉鎖する装置。
【請求項12】
溶着用レーザエネルギー吸収用色素がインドシアニングリーンである、請求項11記載のシース抜去孔を閉鎖する装置。
【請求項13】
以下の工程(a)〜(d)を含むレーザ溶着を利用してシース抜去孔を閉鎖するために、光伝送用ファイバーの先端位置を決定し溶着用レーザをシース抜去孔が形成されている血管壁に前記光伝送用ファイバーを通して照射するための制御方法。
(a) 血管に挿入されたシースに挿入された光発生装置と連結した光伝送用ファイバーに周囲組織を判別するための微弱光を照射する工程
(b) 照射した微弱光の後方散乱光を検出器で測定する工程
(c) 光伝送用ファイバー先端の周囲の組織が何かを判別する工程
(d) 光伝送用ファイバー先端の周囲の組織が血管壁であると判別された場合に溶着用レーザを照射する工程
【請求項14】
モニタ用光を発生する手段、モニタ用光を伝送する手段およびモニタ用光の後方散乱光を検出する手段を含み、血液中に存在する物質に吸収され得る波長の光であるモニタ用光を照射し、照射したモニタ用光の後方散乱光を検出し、検出された光の強度により、モニタ用光伝送手段の先端の位置を判定する、モニタ用光伝送手段の先端の位置をモニタする装置。
【請求項15】
モニタ用光伝送手段の先端の位置をモニタする手段において、モニタ用光がヘモグロビンに吸収され得る波長の光であり、モニタ用光伝送手段の先端が、血液中、血管壁中および血管周囲組織中のいずれの組織内にあるか判別し得る請求項14記載のモニタ用光伝送手段の先端の位置をモニタする装置。
【請求項16】
モニタ用光伝送手段の先端の位置をモニタするための、ヘモグロビンに吸収され得る波長の光が波長810nmの半導体レーザ、波長543nmのHe−Neレーザおよび波長532nmのNd:YAG第二高調波からなる群から選択される、請求項14または15に記載のモニタ用光伝送手段の先端の位置をモニタする装置。

【国際公開番号】WO2005/079690
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【発行日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510336(P2006−510336)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003239
【国際出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】