説明

レーザ走査型顕微鏡および制御方法

【課題】レーザ光の走査条件の変更に伴う誤差を抑制する。
【解決手段】X軸走査手段22およびY軸走査手段23は、所定の走査条件に基づいた駆動信号に従って、X走査ミラー18およびY走査ミラー19を駆動してレーザ光を走査し、角度センサ22bおよび23bは、試料13上のレーザ光の照射位置に応じた位置信号を出力する。そして、試料13へのレーザ光の照射を調整する光透過率可変手段16により試料へのレーザ光の照射を観察時の強度よりも抑制(停止も含む)させた状態で、X軸走査手段22およびY軸走査手段23に駆動信号を供給してX走査ミラー18およびY走査ミラー19を予備的に駆動させ、所定の時刻において位置信号を測定し、駆動信号に対して予め予測された位置信号の遅れ時間からのずれ時間が算出される。本発明は、例えば、レーザ走査型顕微鏡に適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ走査型顕微鏡および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料に照射されるレーザ光を走査し、試料から発せられた反射光または蛍光を光検出器に導入して、その検出光の強度とレーザ光の走査位置とを関連付けることで、レーザ光の走査範囲内の画像を取得し、試料の観察を行うレーザ走査型顕微鏡がある。レーザ走査型顕微鏡では、レーザ光の走査範囲を変更することにより画像の倍率(以下、適宜、走査倍率と称する)を変更することができ、例えば、レーザ光の走査範囲を縮小すると、より拡大した画像が取得される。
【0003】
例えば、ユーザは、所定の基準走査倍率で画像を取得した後、その画像のうちの注目している領域(以下、適宜、注目領域と称する)を指定して、注目領域にレーザ光を走査するようにレーザ走査型顕微鏡を操作する。これにより、基準走査倍率の画像の一部である注目領域を拡大した画像が取得される。
【0004】
このように基準走査倍率の画像から注目領域を指定して走査倍率を変更するとき、ユーザが指定した注目領域と、走査倍率変更後に取得される画像とが一致することが望ましい。例えば、ユーザは、試料中の目標観察対象が中心に配置されるように注目領域を指定した場合、その目標観察対象が走査倍率変更後の画像の中央に配置されていること、即ち、注目領域の中心位置と、走査倍率変更後に取得される画像の中心位置とが一致することを期待している。
【0005】
しかしながら、一般的に、レーザ走査型顕微鏡では、例えば、制御装置から出力される駆動信号に従ってガルバノモータが走査ミラーを駆動してレーザ光を走査しており、レーザ光の走査範囲を変更すると、即ち、走査ミラーの振幅を変更すると、駆動信号に対する走査ミラーの挙動が変化してしまう。このような走査ミラーの挙動の変化により発生する誤差により、ユーザが指定した注目領域の中心位置と、走査倍率変更後に取得される画像の中心位置とが一致しなくなる。そして、例えば、ユーザが指定した注目領域において中央に配置されていた目標観察対象が、走査倍率変更後の画像の中央から移動することにより、良好な観察を行うのに支障が生じていた。
【0006】
なお、走査倍率を変更したときだけでなく、レーザ光の走査速度を変更したときにも、走査ミラーの挙動が変化する。以下、適宜、走査倍率または走査速度、或いは、走査倍率と走査速度との組み合わせを、走査条件と称する。
【0007】
このような、走査条件の変更に伴って誤差が発生することを回避するため、例えば、特許文献1には、スリットを設けた光検出器により走査ミラーの裏面の反射を検出して制御を行うレーザ走査型顕微鏡が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−45826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示されているレーザ走査型顕微鏡では、走査ミラーが画像の中心(走査ミラーの全振幅の中心)に対応する位置となるタイミングのみしか検出することができない。このため、走査条件変更前の画像における中心以外の任意の位置に注目領域の中心が配置されるように走査条件を変更したときには、走査条件の変更に伴う誤差の発生を抑制することはできなかった。
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、レーザ光の走査条件の変更に伴う誤差を抑制することができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のレーザ走査型顕微鏡は、試料に照射されるレーザ光を走査して前記試料を観察するレーザ走査型顕微鏡であって、所定の走査条件に基づいた駆動信号に従って、前記レーザ光を走査する走査手段と、前記走査手段による走査位置に対応した位置信号を出力する位置出力手段と、前記試料へのレーザ光の照射強度を調整する照射強度調整手段と、前記照射強度調整手段により前記試料への前記レーザ光の照射を観察時の強度よりも抑制(停止も含む)させた状態で、前記走査手段に駆動信号を供給して前記走査手段を予備的に駆動させ、所定の時刻において前記位置信号を測定し、前記駆動信号に対して予め予測された前記位置信号の遅れ時間からのずれ時間を算出する演算手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の制御方法は、試料に照射されるレーザ光を走査して前記試料を観察するレーザ走査型顕微鏡の制御方法であって、前記照射強度調整手段により前記試料への前記レーザ光の照射を観察時の強度よりも抑制(停止も含む)させた状態で、前記走査手段に駆動信号を供給して前記走査手段を予備的に駆動させ、所定の時刻のおいて前記位置信号を測定し、前記駆動信号に対して予め予測された前記位置信号の遅れ時間からのずれ時間を算出するステップを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明のレーザ走査型顕微鏡および制御方法においては、照射強度調整手段により試料へのレーザ光の照射を観察時の強度よりも抑制(停止も含む)させた状態で、走査手段に駆動信号を供給して走査手段が予備的に駆動され、所定の時刻のおいて位置信号を測定し、駆動信号に対して予め予測された位置信号の遅れ時間からのずれ時間が算出される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のレーザ走査型顕微鏡および制御方法によれば、レーザ光の走査条件の変更に伴う誤差を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を適用したレーザ走査型顕微鏡の一実施の形態の構成例を示す図である。
【図2】駆動信号、位置信号、および、各種のタイミング信号について説明する図である。
【図3】走査倍率の変更の前後で画像の中心位置がずれることについて説明する図である。
【図4】ディレイ時間を補正する方法について説明する図である。
【図5】制御装置の構成例を示すブロック図である。
【図6】予備走査処理を説明するフローチャートである。
【図7】画像取得処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明を適用したレーザ走査型顕微鏡の一実施の形態の構成例を示す図である。
【0018】
図1のレーザ走査型顕微鏡11では、ステージ12に載置された試料13が観察される。光源14から出力されるレーザ光は、集光レンズ15により平行光とされ、光透過率可変手段16に入射する。光透過率可変手段16は、制御装置28の制御に従って、レーザ光の強度を調整する。光透過率可変手段16として、例えば、AOTF(Acousto Optic Tunable Filter)、AOM(Acousto Optic Modulator)があげられる。
【0019】
光透過率可変手段16を通過したレーザ光は、ダイクロイックミラー17を介して、X走査ミラー18およびY走査ミラー19を備えて構成されるガルバノスキャナにより、試料13に向かって反射され、集光レンズ20により一旦結像された後、対物レンズ21により試料13に集光される。そして、X軸走査手段22およびY軸走査手段23が、制御装置28の制御に従って、X走査ミラー18およびY走査ミラー19を駆動することによりレーザ光が偏向され、試料13上に形成されるスポットが二次元的に走査される。
【0020】
ここで、レーザ走査型顕微鏡11では、X走査ミラー18およびY走査ミラー19が駆動することによって、レーザ光のスポットは、試料13の所定範囲を走査することができるが、より広範囲の走査を実現するために、駆動機構24がステージ12をX−Y方向(試料13に照射されるレーザ光の光軸をZ方向として、Z方向に直交する方向)に駆動するように構成されている。なお、駆動機構24は、ユーザによる手動で駆動する手動機構や、電気的に制御されて駆動する電動機構などにより構成される。
【0021】
試料13に含まれている蛍光材料にレーザ光が照射されると、その蛍光材料から蛍光が発せられ、対物レンズ21および集光レンズ20を介してレーザ光の経路を逆に辿り、ダイクロイックミラー17に向かう。ダイクロイックミラー17に入射した蛍光は、レーザ光よりも波長が長いためダイクロイックミラー17で反射し、集光レンズ25により集光されて光検出器26に入射する。光検出器26は、入射した光を、その強度に応じた電気信号に変換して強度信号画像化回路27に出力する。
【0022】
強度信号画像化回路27は、制御装置28の制御に従ったタイミングで、即ち、試料13上のスポットの位置に応じたX走査ミラー18およびY走査ミラー19の角度に関連付けられたタイミングで、光検出器26から出力される電気信号をサンプリングし、その結果得られる強度信号を試料13上の走査面に対応した強度信号列とすることで画像化する。そして、強度信号画像化回路27は、画像信号を表示装置(図示せず)に出力して表示させたり、記憶装置(図示せず)に出力して記憶させる。
【0023】
制御装置28は、図示しない上位の装置から供給される走査条件に従って、レーザ走査型顕微鏡11の各部の制御を行う。
【0024】
例えば、制御装置28は、光透過率可変手段16によるレーザ光の透過率を示す光透過率制御信号を光透過率可変手段16に供給し、試料13に照射されるレーザ光の強度を制御する。また、制御装置28は、例えば、図2を参照して後述するように、水平同期信号、水平サンプリング有効信号、強度信号サンプリング同期信号、垂直同期信号などの各種のタイミング信号を強度信号画像化回路27に供給し、強度信号画像化回路27による強度信号のサンプリングを制御する。
【0025】
また、制御装置28は、鋸形状のX走査軸駆動信号(図2)をX軸走査手段22に供給し、X軸走査手段22により駆動されるX走査ミラー18の回転角度を制御する。
【0026】
X軸走査手段22は、X走査ミラー18が固定されている走査軸22aの角度を検出する角度センサ22bを内蔵しており、その角度センサ22bの出力(即ち、X走査ミラー18の角度を示す情報)を制御装置28に供給する。ここで、X走査ミラー18の角度は、試料13上で形成されるレーザ光のスポットのX方向の位置に対応しており、制御装置28は、X軸走査手段22の角度センサ22bからの出力を、試料13上で形成されるレーザ光のスポットのX方向の位置を示すX軸位置信号として制御を行う。例えば、X軸走査手段22としてガルバノモータを使用することができ、ガルバノモータは、駆動信号に対して安定した挙動を実現するために角度センサを備えており、その角度センサの出力を制御装置28にフィードバックしてサーボ系を構成することで、ガルバノモータを駆動する際の安定化が図られる。
【0027】
また、制御装置28は、X軸走査手段22と同様に、Y軸走査手段23に対してY走査軸駆動信号を供給してY走査ミラー19を駆動させる。そして、Y走査ミラー19が固定されている走査軸23aの角度を検出する角度センサ23bの出力が、制御装置28に供給され、制御装置28は、その出力を、試料13上で形成されるレーザ光のスポットのY方向の位置を示すY軸位置信号として制御を行う。
【0028】
このように構成されているレーザ走査型顕微鏡11において、制御装置28からX軸走査手段22にX走査軸駆動信号が供給されると、X軸走査手段22によりX走査ミラー18が所定の往復運動を行い、試料13からの蛍光が、X走査ミラー18の角度に応じた強度信号として、即ち、試料13上で形成されるスポットの位置に応じた強度信号として強度信号画像化回路27により検出されるため、スポットの位置と強度信号とを関連付けることにより画像が構築される。
【0029】
ところで、制御装置28からのX走査軸駆動信号に従って、X軸走査手段22がX走査ミラー18を駆動するため、X軸位置信号の波形は、X走査軸駆動信号と略同形状となるが、X軸走査手段22は、ガルバノモータなどの電磁力により走査軸22aを駆動させる機構であるため、X軸位置信号は、X走査軸駆動信号の変化に対して、ある遅れ時間で遅れて追従することになる。同様に、Y軸位置信号は、Y走査軸駆動信号の変化に対して、ある遅れ時間で遅れて追従することになる。即ち、図2に示すように、位置信号は駆動信号に対して遅れることになり、この遅れ時間を考慮して、制御装置28は、強度信号画像化回路27に各種のタイミング信号を出力する必要がある。
【0030】
図2を参照して、制御装置28が出力する駆動信号、制御装置28に入力される位置信号、および、各種のタイミング信号について説明する。なお、図2では、X軸方向(水平方向)について説明するが、Y軸方向(垂直方向)についても同様である。
【0031】
図2の上側には、鋸歯形状の駆動信号および位置信号が示されている。駆動信号(実線)および位置信号(破線)は、縦軸を信号の電圧値(V)とし、横軸を時刻(T)として表されている。
【0032】
駆動信号および位置信号の波形の下側には、上から順に、水平同期信号、光透過率制御信号、水平サンプリング有効信号、強度信号サンプリング同期信号、読み出しクロック信号が示されている。
【0033】
水平同期信号は、水平方向の走査の1ラインが開始されるタイミングを示す信号である。光透過率制御信号は、光源14から発せられるレーザ光により画像が取得される区間である画像取得区間に対応する区間で、レーザ光が試料13に照射されるように、光透過率可変手段16を通過するレーザ光を制御(オン/オフ)するための信号である。
【0034】
水平サンプリング有効信号は、レーザ光の水平方向の走査において、強度信号画像化回路27によるサンプリングが有効とされる区間を示す信号である。強度信号サンプリング同期信号は、強度信号画像化回路27が強度信号のサンプリングを行うタイミングを示す信号である。読み出しクロック信号は、数値データ列からアナログ信号である駆動信号を生成する際に、制御装置28が備えるD/A(Digital/Analog)コンバータが数値データを読み出すタイミングを示す信号である。
【0035】
駆動信号は、X軸走査手段22により駆動されるX走査ミラー18の回転角を制御するための信号であり、駆動信号に従って、X走査ミラー18が往復運動を行うように駆動される。駆動信号は、一定の範囲でスポットが等速度で移動するように走査した後に反転し、反転直後は、非線形に駆動して反転に係わる時間が最小となるような鋸歯形状となっている。
【0036】
このような駆動信号によってX走査ミラー18が駆動されると、X走査ミラー18が等速度で駆動している区間において、試料13上のスポットの軌跡が一定速度となり、等間隔の強度信号サンプリング同期信号でサンプリングされる強度信号が線形に変化するので、この区間が、強度信号画像化回路27が強度信号をサンプリングして、画像化するのに適している。
【0037】
ここで、駆動信号に対するX走査ミラー18の応答に遅れがないと仮定すると、図2に示すように、水平同期信号、光透過率制御信号、水平サンプリング有効信号、および、強度信号サンプリング同期信号が、制御装置28から強度信号画像化回路27に出力される。
【0038】
即ち、駆動信号の1周期の開始時刻に水平同期信号にLowが出力されて、X走査ミラー18の回転速度が安定するまでの一定時間Ts(一定時間Tsは、走査手段の機械的要因と、駆動回路の電気的特性により決定される)が経過した後、水平サンプリング有効信号が無効から有効に切り替えられ、一定の画像取得区間、水平サンプリング有効信号が有効とされる。また、光源14の光出力の立ち上がり時間分に応じたタイミングで、水平サンプリング有効信号が有効に切り替えられるよりも先に、光透過率制御信号がオフからオンに切り替えられており、この時間差により、水平サンプリング有効信号が有効に切り替えられた時点で、レーザ光の出力が安定状態に達している。
【0039】
そして、水平サンプリング有効信号が有効となっている画像取得区間において、強度信号サンプリング同期信号が、水平解像度に応じたパルス数で出力される。強度信号画像化回路27は、強度信号サンプリング同期信号に同期して光検出器26の出力信号をサンプリングし、これによりX走査ミラー18の走査位置に対応した強度信号列が得られ、強度に応じた表示を行うことで、1ラインの走査を画像化することができる。そして、X走査ミラー18により水平方向へ1ラインの走査が行われるたびに、Y走査ミラー19により垂直方向へ1ライン分移動させることを繰り返すことにより、1ラインずつ垂直方向に異なる水平方向の強度信号列が蓄積され、二次元の画像を得ることができる。
【0040】
このように、X軸走査手段22が駆動信号に従ってX走査ミラー18を駆動することにより画像が取得されるが、図2に示すように、X軸走査手段22から出力される位置信号は、駆動信号に対して遅れが生じている。この遅れは、走査条件によって異なるものである。従って、走査条件の変更の前後で、水平サンプリング有効信号がオンになるタイミングが同一である場合、遅れ時間が変化することによって、画像化される領域に誤差が生じてしまう。このような誤差によって、走査条件を変更する前の画像の中心位置と、走査条件を変更した後の画像の中心位置とにズレが発生してしまう。
【0041】
例えば、画像取得期間が開始するときの駆動電圧Vsと、画像取得期間が終了するときの駆動電圧Veと間の振幅が走査倍率に対応しており、この駆動電圧の振幅が小さくなると走査倍率が高くなる。このように走査倍率を変更したとき、水平サンプリング有効信号がオンになるタイミングが同一である場合、その前後において画像の中心位置にズレが発生する。
【0042】
次に、図3を参照して、走査倍率の変更の前後における画像の中心位置のズレについて説明する。
【0043】
図3の左側には、レーザ走査型顕微鏡11において基準となる走査倍率である基準走査倍率で画像を取得するときの駆動信号(実線)と、その駆動信号に従って駆動するX軸走査手段22から出力される位置信号(破線)とが示されている。また、図3の右側には、基準走査倍率のn倍の走査倍率で画像を取得するときの駆動信号(実線)と位置信号(破線)とが示されている。
【0044】
基準走査倍率での駆動信号における画像取得区間に対応する駆動電圧の振幅VRに対して、n倍の走査倍率での駆動信号における画像取得区間に対応する駆動電圧の振幅Vnは、1/nである。基準走査倍率での位置信号は、所定の遅れ時間DRの後に、駆動信号に対応した出力として、駆動信号と略同形状の波形として計測される。なお、駆動信号が急峻に変化している箇所において、機械的な応答限界により、位置信号は、同形状となっていない。
【0045】
例えば、基準走査倍率での駆動信号の振幅VRの中心電圧Vcに対応した位置を中心に画像を取得したいとき、駆動信号の周期が開始される基準時刻(水平同期信号Lowが出力されるタイミング)から、中心電圧Vcが画像取得区間の中央時刻となるような適切な一定時間Tsが経過した後に、水平サンプリング有効信号を画像取得区間だけ有効とすることで、駆動信号の中心電圧Vcに対応した位置を中心とした画像を取得することができる。
【0046】
そして、基準走査倍率での画像の中心付近をn倍に拡大したい場合、駆動電圧の変化を1/nにすることにより、同一のサンプリング数(画素数)で試料13上の狭い範囲でスポットが走査され、その結果、光学的にn倍の画像を得ることができる。
【0047】
しかしながら、上述したように、基準走査倍率で画像を取得するときの振幅VRの駆動信号に対する遅れ時間DRと、n倍の走査倍率で画像を取得するときの振幅Vnの駆動信号に対する遅れ時間Dnとは、一般的に異なる時間となるため、水平サンプリング有効信号を有効とする区間を維持したまま駆動信号の振幅だけを変化させただけでは、取得される画像の範囲(視野に相当)にズレが発生することになる。
【0048】
このとき、走査倍率の変化に応じて、水平サンプリング有効信号を有効にするタイミングを変化させることにより、画像の範囲にズレが発生することを補正することができると考えられるが、走査倍率を変更したときの駆動信号の振幅の変化に対する遅れ時間の変化は、走査ミラーの質量、駆動機構のトルク、駆動機構の動摩擦係数、可動部全体の重心と可動中心のずれ、駆動電気回路の周波数特性、電流供給能力等、様々な要素が関連していて線形の関係とならないため、走査倍率の変化から遅れ時間のずれ時間(基準走査条件の時の遅れ時間からのずれ時間)(以下、適宜、ディレイ時間と称する)を算出することは困難である。例えば、走査速度が500Hzまたは1KHzのとき、遅れ時間は160μ秒前後であり、走査倍率の変更に伴って遅れ時間に数μ秒程度のずれ時間が発生する。
【0049】
そこで、レーザ走査型顕微鏡11では、試料13の画像を取得する前に、レーザ光を試料13に照射せずに予備的な走査を行い、ディレイ時間を測定して補正することで、走査条件の変化による誤差の発生を抑制することができる。
【0050】
次に、図4を参照して、ディレイ時間を補正する方法について説明する。
【0051】
図4Aには、基準走査倍率での駆動信号(実線)および位置信号(破線)について、画像取得区間の中心に対応する中心電圧Vc付近が示されている。
【0052】
X軸走査手段22に供給される駆動信号に対し、X走査ミラー18は、駆動信号が示す位置へ遅れ時間DR後に到達する。従って、駆動信号から遅れ時間DRに応じた時間差で、強度信号画像化回路27により強度信号がサンプリングされるように制御することで、意図した位置の強度がサンプリングされる。
【0053】
そして、基準走査倍率で取得された画像の中央付近が注目領域として指定され、その注目領域の画像を取得するように走査倍率が変更されると、駆動信号および位置信号は、図4Bに示すような傾きとなる。
【0054】
走査条件が変更されて、図4Bに示すような傾きの駆動信号でX軸走査手段22がX走査ミラー18を駆動すると、位置信号は、基準走査倍率のときの遅れ時間DRよりもディレイ時間ΔDで遅れることになる。このとき、基準走査倍率のときと同一のタイミングで強度信号をサンプリングすると、誤差電圧ΔVに応じて異なる位置の強度信号がサンプリングされる。
【0055】
従って、ディレイ時間ΔDだけタイミングを変更して、強度信号のサンプリングを行うようにすることで、誤差電圧ΔVに応じたズレを解消することができると考えられるが、制御装置28が出力する強度信号サンプリング同期信号は、所定の基準クロックを基に生成されるため、基準クロック単位で強度信号サンプリング同期信号を変更させることに対して、任意の時間で強度信号サンプリング同期信号を変更させることは困難である。
【0056】
そこで、例えば、ディレイ時間ΔDが解消される方向に、強度信号サンプリング同期信号を基準クロック単位で変更した後、基準クロック単位では変更することができない微小な時間差を、駆動信号を誤差電圧ΔDに応じてオフセットすることで、時間差と等価な効果を高精度に得ることができる。
【0057】
即ち、図4Cに示すように、駆動信号をオフセットすることで、結果的に、基準走査倍率のときと同一のタイミング(即ち、遅れ時間DRで遅れたタイミング)で、希望の位置でサンプリングを行うことができる。
【0058】
このように、レーザ走査型顕微鏡11では、走査条件を変更する際に、強度信号サンプリング同期信号のタイミングの調整、および、駆動信号のオフセットを行うことで、走査条件の変更に伴って誤差が発生することを防止することができる。
【0059】
ここで、タイミングを調整するタイミング調整値およびオフセット値を求める方法について、さらに説明する。
【0060】
上述したように、レーザ走査型顕微鏡11は、光透過率可変手段16により試料13へのレーザ光の照射をオン/オフすることができ、レーザ光を照射しての画像の取得を行う前に、レーザ光の照射をオフにした状態で、画像を取得するときの走査条件と同一の条件でX走査ミラー18およびY走査ミラー19を予備的に駆動し、その位置信号を解析することで、ディレイ時間ΔDが精密に測定される。このように、予備的な駆動を行う際に、試料13にレーザ光が照射されないようにすることで、試料13にダメージを与えることが回避される。
【0061】
駆動信号に対する位置の遅れは、駆動信号から一定の時間関係を持ったサンプリング信号で位置信号を計測し、その時刻での位置から、駆動信号に対する応答遅れ時間として測定される。具体的には、駆動信号に対する機械的応答は、遅れることが既知であるため、画像取得区間の開始時刻に位置計測を行うと、開始位置に到達していない位置を計測してしまうのは明らかである。そこで、例えば、概略の応答遅れ時間(図3の一定時間Ts)を考慮した上で、駆動信号の画像取得区間の中央時刻で、位置信号の計測を行えば、実際に画像取得を行っているほぼ中央時刻付近で位置を計測することができ、かつ、推定位置が不足、過分であっても画像取得区間から大きく外れないことが期待できる。このため、画像取得区間の中央付近での計測が最も合理的な計測タイミングとなる。
【0062】
ここで、図2に示したように、画像取得期間が開始するときの駆動電圧Vsと、画像取得期間が終了するときの駆動電圧Veとから、予測遅れ時間(予め予測された応答遅れ時間)が正確であれば、中央時刻での位置信号の電圧Vrは、Vr=(Vs+Ve)/2の値で計測される。しかしながら、予測遅れ時間が正確ではないため、例えば、電圧Vrとは異なる電圧Vfが計測される。電圧Vrと電圧Vfの差、および、画像取得有効区間の単位時間当たりの電圧変化量Scから、ディレイ時間ΔDは、ΔD=(Vr−Vf)/Scで算出することができる。
【0063】
このようにディレイ時間ΔDを算出することで、その遅れを補正するための補正値を求めることができる。ディレイ時間ΔDは、アナログ量であるので、精密に補正するには、補正計算の有効桁の範囲で補正するのが望ましい。ところが、画像取得のタイミング信号は、走査信号を生成するD/Aコンバータの読み出しクロックと同期関係が必要となるため、共通の基準クロックに由来する信号を元に作られるのが普通である。従って、基準クロックの周期単位が、時間調整の最小単位となる。
【0064】
通常、デジタル回路のクロックは、ノイズ低減のため、可能な限り低い周波数に保つ必要があり、無闇に時間分解能をあげる目的で、高い周波数とすることができない。例えば、水平走査速度を1KHzの周期で走査を行う場合、走査の1周期は1msecとなるが、そのうち、画像取得区間を走査の1周期の50%程度と仮定すると、画像取得区間は500μsecとなる、又、画像化する際の解像度を512と仮定すると、1画素あたりの時間は、約1μsecとなる。従って、タイミングを生成するための元となる基準クロックは、その数分の1にとるのが普通である。仮に、タイミングを生成するための元となる基準クロックが、画像取得のタイミング信号の1/8とすると、基準クロックは約125nsec程度なる。即ち、125nsec程度の時間単位でないと、画像取得タイミングを調整することができない。
【0065】
また、1画素あたりの画像取得時間が約1μsecの仮定では、調整時間単位が125nsecであれば、1画素の1/8であるから、画像位置の調整精度は1/8画素と言い換えることができる。即ち、同じ走査倍率で画像を取得している間は、十分な調整精度と言えるが、仮に最初に取得した画像の中央部を、走査倍率で50倍に拡大したと仮定すると、元々の位置調整精度が1/8画素の誤差を含んでいた為、50倍に拡大後の画像では、約6画素の誤差となってしまう。従って、走査倍率により拡大を行う場合、元となる画像の位置精度は可能な限り高くしておく方が望ましい。
【0066】
さらに、基準クロックを基にしたタイミング信号により、ディレイ時間ΔDを調整する場合、精密に調整しようとすると、元となる基準クロックの周波数が非常に高くなってしまい、現実的ではない。例えば、10nsec単位で調整しようとすると、100MHzの基準クロックが必要となり、一般のプログラマブルロジックアレイ等では扱えない周波数となってしまう。
【0067】
そこで、レーザ走査型顕微鏡11においては、画像取得区間の駆動信号が直線的に増加することに着目し、ディレイ時間ΔDを調整する代わりに、微小な時間の調整は、駆動信号を電圧方向にオフセットすることで、図4Cを参照して説明したように、時間の調整と等価なことを、アナログオフセット電圧の調整で実現している。
【0068】
アナログ信号のオフセット電圧であれば、D/A変換器の分解能が調整限界となり、16bit程度のDA変換機を使用すれば、全出力振幅に対し、1/65536となるが、全振幅の半分程度を画像取得区間に使用すると仮定すると、分解能は、1/32768となる。また、最大振幅の際の画素解像度を512と仮定すると、512/32768≒0.016となり、約100分の2画素以下となり、基準クロックを基にしたタイミング信号による調整よりも、高精度の調整を行うことができる。
【0069】
次に、図5は、制御装置28の構成例を示すブロック図である。
【0070】
制御装置28では、演算処理回路31は、外部の装置から供給される走査条件に従って、制御装置28の各ブロックに対する設定を行う。また、演算処理回路31には、X軸走査手段22の角度センサ22bおよびY軸走査手段23の角度センサ23bからの出力が、位置信号検出回路32を介してX軸位置信号およびY軸位置信号として供給され、演算処理回路31は、X走査軸駆動信号およびY走査軸駆動信号に対するX軸位置信号およびY軸位置信号のディレイ時間ΔDから、Xオフセット値、Yオフセット値、およびタイミング調整値を算出する。
【0071】
位置信号検出回路32は、タイミング生成回路33から供給されるX位置信号検出タイミング信号およびY位置信号検出タイミング信号に従ったタイミングで、X軸走査手段22の角度センサ22bおよびY軸走査手段23の角度センサ23bからの出力をサンプリングし、X軸位置信号およびY軸位置信号として演算処理回路31に供給する。
【0072】
演算処理回路31は、走査条件設定信号をタイミング生成回路33に供給して走査条件をタイミング生成回路33に設定する。タイミング生成回路33は、演算処理回路31による設定に従い、基準となる所定の基準クロックから各種のタイミング信号を生成して、各ブロックに供給する。
【0073】
例えば、タイミング生成回路33は、光透過率制御信号を光透過率可変手段16に供給し、水平同期信号、垂直同期信号、水平サンプリング有効信号、および強度信号サンプリング同期信号を強度信号画像化回路27に供給する。また、タイミング生成回路33は、X走査軸駆動波形生成画素アドレス信号および読み出しクロック信号をX走査軸駆動波形生成回路34に供給し、Y走査軸駆動波形生成ラインアドレス信号および読み出しクロック信号をY走査軸駆動波形生成回路35に供給する。
【0074】
また、演算処理回路31は、算出したタイミング調整値をタイミング調整値保持回路36に保持させ、タイミング調整値保持回路36を介して、タイミング調整値をタイミング生成回路33に供給する。これにより、タイミング生成回路33は、タイミング調整値に従って、出力するタイミング信号を調整する。
【0075】
また、演算処理回路31は、走査条件に応じて、所定の制御プログラムに従ってX走査ミラー18を駆動するためのX走査軸駆動波形データを生成してX走査軸駆動波形生成回路34に設定するとともに、算出したXオフセット値(駆動中心)をXオフセット値保持回路37に保持させる。なお、演算処理回路31が、制御プログラムに従ってX走査軸駆動波形データを生成することにより、様々な走査条件に対応する波形を生成することができる。
【0076】
X走査軸駆動波形生成回路34は、書き換え可能なメモリ(例えば、RAM(Random Access Memory)など)を内蔵しており、そのメモリにX走査軸駆動波形データ(数値データ列)を格納させる。そして、X走査軸駆動波形生成回路34は、タイミング生成回路33から供給されるX走査軸駆動波形生成画素アドレス信号に応じたアドレスに記憶されている数値を、読み出しクロック信号(図2)に従ったタイミングで順次読み出すことで、時系列的に変化する波形を示す信号を生成する。そして、X走査軸駆動波形生成回路34は、その信号を、Xオフセット値保持回路37に保持されているXオフセット値でオフセットしてX走査軸駆動波形信号を生成し、X走査軸駆動回路39に供給する。
【0077】
X走査軸駆動回路39は、X走査軸駆動波形信号をD/A変換して、アナログ電圧であるX走査軸駆動信号(図2の駆動信号)を生成し、X軸走査手段22に供給する。これにより、X軸走査手段22が、X走査軸駆動信号に従ってX走査ミラー18を駆動し、X軸の走査が行われる。
【0078】
ここで、演算処理回路31が、X走査軸駆動波形信号を生成するためのX走査軸駆動波形データとXオフセット値とを分離してX走査軸駆動波形生成回路34に供給することで、即ち、Xオフセット値をXオフセット値保持回路37を介してX走査軸駆動波形生成回路34に供給することで、駆動波形は、振幅と走査速度とにより全振幅電圧幅の中心電圧を基点とした、振幅および周期の変化として一般化され、オフセット電圧は、振幅中心の位置を静的に与えることができる。
【0079】
このようにX軸走査手段22が駆動されるのに伴って、X走査ミラー18の実位置を示すX軸位置信号がX軸走査手段22から位置信号検出回路32に供給され、演算処理回路31は、任意のタイミングで、X走査ミラー18の実位置を測定することができる。
【0080】
また、X軸走査と同様に、演算処理回路31は、Y走査軸駆動信号をY走査軸駆動波形生成回路35に設定するとともに、算出したYオフセット値をYオフセット値保持回路38に保持させ、X走査軸駆動回路40から出力されるY走査軸駆動信号に従ってY軸走査手段23によりY走査ミラー19を駆動させてY軸走査を行わせる。そして、Y走査ミラー19の実位置を示すY軸位置信号がY軸走査手段23から位置信号検出回路32に供給され、演算処理回路31は、Y走査ミラー19の実位置を測定することができる。
【0081】
次に、図6は、レーザ走査型顕微鏡11により行われる予備走査処理を説明するフローチャートである。
【0082】
ステップS11において、制御装置28は、例えば、基準走査倍率で走査を行うようにX軸走査手段22およびY軸走査手段23を制御し、強度信号画像化回路27から基準走査倍率での画像信号が表示装置(図示せず)に出力して表示される。そして、ユーザが、基準走査倍率での画像に対して注目領域を指定すると、その注目領域を走査するための走査条件(走査速度、走査倍率、中心位置など)が決定されて演算処理回路31に供給されると、処理はステップS12に進む。
【0083】
ステップS12において、演算処理回路31は、ステップS11で決定された走査条件に応じて、所定の制御プログラムに従ってX走査ミラー18およびY走査ミラー19を駆動するためのX走査軸駆動波形データおよびY走査軸駆動波形データを生成し、X走査軸駆動波形生成回路34およびY走査軸駆動波形生成回路35に設定する。
【0084】
ステップS13において、光透過率可変手段16により試料13へのレーザ光の照射がオフとされた状態で、X走査軸駆動波形生成回路34は、X走査軸駆動波形データを読み出しクロック信号に従って読み出し、X走査軸駆動波形信号を生成してX走査軸駆動回路39に供給する。X走査軸駆動回路39は、X走査軸駆動波形信号をD/A変換してX走査軸駆動信号を生成し、X軸走査手段22は、X走査軸駆動信号に従ってX走査ミラー18を予備的に駆動する。
【0085】
この駆動に従って、X軸走査手段22の角度センサ22bから出力される位置信号が位置信号検出回路32を介して演算処理回路31に供給され、演算処理回路31は、画像取得区間の中央時刻に対応する位置信号を計測する。このとき、概略的な遅れ時間として予め測定してある一定時間Tsを考慮して位置信号が測定される。同様に、Y軸に対しても予備的な駆動が行われる。
【0086】
ステップS14において、演算処理回路31は、ステップS13で計測された位置信号の電圧値Vfと、本来あるべき電圧値Vrとの差を求める。そして、この電圧値の差と、駆動信号の単位時間当たりの電圧変化量Scから、ディレイ時間ΔDを算出する。
【0087】
ステップS15において、演算処理回路31は、ディレイ時間ΔDのうち、時間調整単位の整数倍の時間を、タイミング調整値として算出し、タイミング調整値保持回路36に保持させる。
【0088】
ステップS16において、演算処理回路31は、時間調整単位の整数倍では調整できなかったディレイ時間ΔDの残りの時間をオフセット電圧に変換してXオフセット値およびYオフセット値を算出し、Xオフセット値保持回路37およびYオフセット値保持回路38に保持させ、予備走査処理は終了する。
【0089】
以上のように、レーザ光の照射をオフにした状態で予備走査処理を実行することで、試料13に影響を及ぼすこと(劣化や退色など)を回避して、誤差を補正するためのタイミング調整値、Xオフセット値、およびYオフセット値を算出することができる。なお、本実施の形態の説明では、予備走査はレーザ光の照射をオフにした状態で行う例を説明したが、これに限定されず、試料に影響を与えない程度にレーザ光の強度を観察時の強度より十分に弱めた状態で、予備走査を行ってもよい。
【0090】
次に、図7は、レーザ走査型顕微鏡11により行われる画像取得処理を説明するフローチャートである。
【0091】
ステップS21において、演算処理回路31は、図6のステップS12で生成した駆動信号を使用するように、X走査軸駆動波形生成回路34およびY走査軸駆動波形生成回路35を制御する。
【0092】
ステップS22において、タイミング生成回路33は、タイミング調整値保持回路36に保持されているタイミング調整値を一定時間Tsに加算した時間で、駆動信号の周期が開始する基準時刻から遅れて水平サンプリング有効信号が有効となるように、タイミング信号を生成するように設定を行う。
【0093】
ステップS23において、X走査軸駆動波形生成回路34は、X走査軸駆動波形データを、Xオフセット値保持回路37に保持されているXオフセット値でオフセットすることによりX走査軸駆動波形信号を生成するように設定を行う。また、Y走査軸駆動波形生成回路35は、Y走査軸駆動波形データを、Yオフセット値保持回路38に保持されているYオフセット値でオフセットすることによりY走査軸駆動波形信号を生成するように設定を行う。
【0094】
ステップS24において、X走査軸駆動波形生成回路34およびY走査軸駆動波形生成回路35が、タイミング生成回路33から供給される読み出しクロック信号に従ったタイミングでX走査軸駆動波形信号およびY走査軸駆動波形信号を生成して出力することで、レーザ光が走査される。また、タイミング生成回路33から出力される水平サンプリング有効信号に従って強度信号画像化回路27によるサンプリングが開始される。これにより、レーザ光の走査と、試料13の画像の取得が行われ、画像取得処理は終了される。
【0095】
以上のように、予備走査処理により算出されたタイミング調整値、Xオフセット値、およびYオフセット値に基づいた補正を行って画像を取得するので、レーザ光の走査条件の変更に伴う誤差を抑制することができる。これにより、例えば、走査倍率の変更の前後における画像の中心位置がずれることが回避され、試料13の観察をよりスムーズに行うことができる。また、同一走査条件での走査に対するディレイ時間ΔDは、短時間では安定しているため、画像を取得するのに先立って、ディレイ時間ΔDを測定して、補正量を精密に調整することで、走査位置の安定化を図ることができる。
【0096】
また、例えば、代表的な走査条件に対する応答遅れ時間を予め測定して補正値を記憶しておき、代表的な走査条件と異なる走査条件については、その走査条件に近い代表的な走査条件から補正値を推定することで誤差を抑制するような手法よりも、レーザ走査型顕微鏡11では、実際の測定条件と同一の条件で補正値を算出しているので、より精密に誤差を抑制することができる。
【0097】
なお、本実施の形態においては、タイミング調整値とオフセット値とを併用して、誤差の補正を行っているが、タイミング調整値およびオフセット値どちらか一方だけを用いて誤差の補正を行ってもよい。例えば、時間調整制度と、D/A変換の直線性との兼ね合いから、誤差を高精度に抑制することが期待される方を選択することができる。また、オフセット値だけで誤差の補正を行うことにより、処理を単純化することができ、オフセット値だけの調整によっても、従来よりも誤差の発生を抑制することができる。
【0098】
また、例えば、所定の時間毎に画像の取得を間歇的に行うことを長時間繰り返すような(一般にタイムラプスと呼ばれる)観察を行う場合には、一定の期間が経過したときに予備走査処理を再度行うことで、より正確な測定を行うことができる。また、ある走査条件に対する遅れ時間が長期間に渡って安定していることが分かっている場合には、走査条件に対応付けてタイミング調整値およびオフセット値を記録しておき、同一の走査条件に対しては、記録されているタイミング調整値およびオフセット値を使用するようにすることで、観察に要する時間を短縮することができる。
【0099】
さらに、例えば、試料の希望箇所にレーザ光を照射して試料を刺激する観察を行う場合にも、レーザ光による刺激を行う際に走査条件が変更されるため、例えば、所定の走査倍率で得られた画像に対し、刺激する箇所を指定したとき、希望箇所からズレた箇所にレーザ光が照射されることがあった。このような観察を行う場合にも、レーザ光の刺激を行う走査条件で予備走査処理を行うことにより、走査条件の変更に伴う誤差の発生を抑制し、希望箇所に確実にレーザ光を照射して、所望の観察を行うことができる。
【0100】
なお、制御装置28により誤差の補正を自動的に行う他、例えば、計測されたディレイ時間をユーザに提示し、ユーザの判断により誤差を補正するようにしてもよい。また、本発明は、試料13から発せられる蛍光により画像が取得するような観察の他、例えば、レーザ光を試料13に照射した際の反射光により画像を取得するような観察にも適用することができる。
【0101】
なお、制御装置28は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ(例えば、EEPROM(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory))などを備えて構成されており、ROMまたはフラッシュメモリに記憶されているプログラムをRAMにロードして実行することで、レーザ走査型顕微鏡11の各部を制御する。なお、CPUが実行するプログラムは、あらかじめROMおよびフラッシュメモリに記憶されているものの他、適宜、フラッシュメモリにダウンロードして更新することができる。
【0102】
また、上述のフローチャートを参照して説明した各処理は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいは個別に実行される処理(例えば、並列処理あるいはオブジェクトによる処理)も含むものである。また、プログラムは、1のCPUにより処理されるものであっても良いし、複数のCPUによって分散処理されるものであっても良い。
【0103】
なお、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0104】
11 レーザ走査型顕微鏡, 12 ステージ, 13 試料, 14 光源, 15 集光レンズ, 16 光透過率可変手段, 17 ダイクロイックミラー, 18 X走査ミラー, 19 Y走査ミラー, 20 集光レンズ, 21 対物レンズ, 22 X軸走査手段, 23 Y軸走査手段, 24 駆動機構, 25 集光レンズ, 26 光検出器, 27 強度信号画像化回路, 28 制御装置, 31 演算処理回路, 32 位置信号検出回路, 33 タイミング生成回路, 34 X走査軸駆動波形生成回路, 35 Y走査軸駆動波形生成回路, 36 タイミング調整値保持回路, 37 Xオフセット値保持回路, 38 Yオフセット値保持回路, 39 X走査軸駆動回路, 40 X走査軸駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に照射されるレーザ光を走査して前記試料を観察するレーザ走査型顕微鏡において、
所定の走査条件に基づいた駆動信号に従って、前記レーザ光を走査する走査手段と、
前記走査手段による走査位置に対応した位置信号を出力する位置出力手段と、
前記試料へのレーザ光の照射強度を調整する照射強度調整手段と、
前記照射強度調整手段により前記試料への前記レーザ光の照射を観察時の強度よりも抑制(停止も含む)させた状態で、前記走査手段に駆動信号を供給して前記走査手段を予備的に駆動させ、所定の時刻において前記位置信号を測定し、前記駆動信号に対して予め予測された前記位置信号の遅れ時間からのずれ時間を算出する演算手段と
を備えることを特徴とするレーザ走査型顕微鏡。
【請求項2】
前記演算手段は、
前記予め予測された遅れ時間からのずれ時間に応じて、前記駆動信号をオフセットさせるオフセット値を算出し、
前記照射強度調整手段により前記試料へのレーザ光の照射を観察時の強度で行わせる状態で、前記オフセット値でオフセットされた前記駆動信号を前記走査手段に供給する
ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項3】
前記試料からの観察光の強度に応じた強度信号をサンプリングして画像信号を取得する画像化手段をさらに備え、
前記演算手段は、
前記予め予測された遅れ時間からのずれ時間に応じて、前記画像化手段によるサンプリングを開始するタイミングを調整するタイミング調整値を算出し、
前記照射強度調整手段により前記試料へのレーザ光の照射を観察時の強度で行わせる状態で、前記タイミング調整値で調整されたタイミングで、サンプリングの開始を指示する信号を前記画像化手段に供給する
ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項4】
前記画像化手段によるサンプリングを開始するタイミングは、所定の時間調整単位の整数倍で調整可能とされ、
前記演算手段は、
前記所定の時間調整単位の整数倍で前記画像化手段によるサンプリングを開始するタイミングを調整するとともに、前記所定の時間調整単位以下の前記遅れ時間からのずれ時間の残りに応じて、前記駆動信号をオフセットさせるオフセット値を算出し、
前記オフセット値でオフセットされた前記駆動信号を前記駆動手段に供給する
ことを特徴とする請求項3に記載のレーザ走査型顕微鏡。
【請求項5】
試料に照射されるレーザ光を走査して前記試料を観察するレーザ走査型顕微鏡の制御方法において、
前記レーザ走査型顕微鏡は、
所定の走査条件に基づいた駆動信号に従って、前記レーザ光を走査する走査手段と、
前記走査手段による走査位置に対応した位置信号を出力する位置出力手段と、
前記試料へのレーザ光の照射を調整する照射強度調整手段と
を備え、
前記照射強度調整手段により前記試料への前記レーザ光の照射を観察時の強度よりも抑制(停止も含む)させた状態で、前記走査手段に駆動信号を供給して前記走査手段を予備的に駆動させ、所定の時刻のおいて前記位置信号を測定し、前記駆動信号に対して予め予測された前記位置信号の遅れ時間からのずれ時間を算出する
ステップを含むことを特徴とする制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−154312(P2011−154312A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17196(P2010−17196)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】