説明

レーザ顕微鏡、光学装置、及び顕微鏡

【課題】標本のXY平面内での解像度を向上させることができる、レーザ顕微鏡、光学装置、及び顕微鏡を提供すること。
【解決手段】顕微鏡本体と、顕微鏡本体に設けられる標本に対して照明光を射出する光源部と、標本と共役な位置であり、且つ標本から射出された光の復路上に配置されるピンホールと、少なくとも光源部から射出された照明光が前記標本に向かう往路上に配置され、照明光を標本上で2次元的にスキャンされるように偏向する光走査部を有する走査ユニットと、光源部から射出された照明光における標本に向かう往路のうち、復路と重ならない位置に配置され、光源部から出射された単一偏光成分からなる照明光を透過させることで複数の偏光成分からなるものに制御する偏光制御素子と、を備えた走査型共焦点顕微鏡である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ顕微鏡、光学装置、及び顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型共焦点顕微鏡(レーザ顕微鏡の一種)は、レーザ光源からの照明光を、対物レンズを介して標本上に結像し、標本上に照射されたスポット状の光を2次元的に走査して観察を行うものである。標本にレーザ光が照射されると、標本の光学的な特性によって反射、吸収、蛍光、散乱などが照射領域において生じる。照射領域で発生した反射光や蛍光は、対物レンズで集光された後に検出器により検出される。通常、検出器は複数設けられており、フィルタ等を用いて所望の波長の光を検出器で検出するようにしている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−221663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術においては、光の回折限界という制限から集光スポットの大きさがレーザ光の波長程度に限られるため、例えば標本の厚さ方向をZ方向とした場合にXY平面内での解像度に限界があるといった問題があった。
【0005】
上記のような事情に鑑み、本発明は、標本のXY平面内での解像度を向上させることができる、レーザ顕微鏡、光学装置、及び顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に従えば、顕微鏡本体と、前記顕微鏡本体に設けられる標本に対してレーザ照明光を射出する光源部と、前記照明光を前記標本上に照射する照明部と、前記標本と共役な位置であり、且つ前記照明部にて照射された前記標本から射出された光の復路上に配置される検出光学系と、前記光源部から射出された前記照明光における前記標本に向かう往路のうち、前記復路と重ならない位置に配置され、前記光源部から出射された前記照明光を光軸に垂直な面内で偏光分布を所定分布に制御する偏光制御素子と、を備えるレーザ顕微鏡が提供される。
【0007】
また、上記レーザ顕微鏡においては、前記検出光学系は、ピンホールを有し、前記照明部は、前記照明光を前記標本上で2次元的にスキャンされるように偏向する光走査部を有する走査ユニットからなることが好ましい。
【0008】
また、上記レーザ顕微鏡においては、前記走査ユニットは、反射型あるいは透過型であることが好ましい。
【0009】
また、上記レーザ顕微鏡においては、前記偏光制御素子は、前記光源部から出射された前記照明光を透過させることで前記照明光を複数の偏光成分からなるものに制御することが好ましい。
【0010】
また、上記レーザ顕微鏡においては、前記偏光制御素子は、前記光源部から出射された前記照明光を透過させることで前記照明光の光軸の垂直な面内の偏光の位相状態を座標に応じて分布を持つように制御することが好ましい。
【0011】
また、上記レーザ顕微鏡においては、前記ピンホールは、走査ユニットに設けられており、前記光走査部は、前記標本から射出された光を偏向してデスキャンすることで前記ピンホールへと出射することが好ましい。
【0012】
また、上記レーザ顕微鏡においては、前記偏光制御素子は液晶装置から構成されることが好ましい。
【0013】
また、上記レーザ顕微鏡においては、前記液晶装置は、放射状に分割された複数の分割領域を有し、各々の分割領域における光学軸が異なっていることが好ましい。
【0014】
また、上記レーザ顕微鏡においては、前記液晶装置は放射状に分割された複数の分割領域を有しており、各々の分割領域ごとに、偏光の旋光性を独立制御可能であることが好ましい。
【0015】
また、上記レーザ顕微鏡においては、前記液晶装置は一対の基板間に挟持された液晶を有し、前記液晶に電圧を印加することで偏光制御を行う状態と、前記液晶に電圧を印加しないことで偏光制御を行わない状態とを切り替え可能とされていることが好ましい。
【0016】
また、上記レーザ顕微鏡においては、前記液晶装置は、前記光源部から射出される前記照明光の波長に応じて前記液晶への印加電圧を可変とされていることが好ましい。
【0017】
また、上記レーザ顕微鏡においては、前記偏光制御素子は入射した前記照明光の位相をずらして射出する波長板としての機能を含むことが好ましい。
【0018】
また、上記レーザ顕微鏡においては、前記偏光制御素子は、放射状に分割され、且つ前記波長板が配置された複数の分割領域を有し、前記分割領域に配置された前記波長板の光学軸がそれぞれ異なっていることが好ましい。
【0019】
本発明の第2の態様に従えば、標本に対して照明光を射出する光源部と、前記光源部から射出された前記照明光を前記標本に対して結像させる光学系と、前記標本と非共役の位置に設けられ、前記光源部から出射された単一偏光成分からなる前記照明光を透過させることで複数の偏光成分からなるものに制御する偏光制御素子と、を備えた光学装置が提供される。
【0020】
また、上記光学装置においては、前記偏光制御素子は、対物レンズの瞳面もしくは該瞳面と共役な面のいずれか一方及びその近傍に配置されることが好ましい。
【0021】
本発明の第3の態様に従えば、第2の態様に係る光学装置を照明光として用いた顕微鏡が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、走査型共焦点顕微鏡において、標本のXY平面内での解像度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】走査型共焦点顕微鏡の一実施形態に係る構成を示す図。
【図2】光源部、検出ユニット、及び処理ユニットの概略構成を示す図。
【図3】偏光制御素子の構成を模式的に示す図。
【図4】偏光制御素子から出射されるビームの偏光状態を示す図。
【図5】光走査部の詳細構成を示す図。
【図6】(a)はレーザ光の走査経路を示し、(b)は蛍光の発生領域を示す図。
【図7】3種類の蛍光波長を検出することができる検出ユニットを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の走査型共焦点顕微鏡に係る一実施例について説明する。図1は本実施形態に係る走査型共焦点顕微鏡の構成を示す図である。なお、図1、3,4においてはXYZ座標系を用い、標本24が配置されるステージ面をXY平面とし、該標本24の厚さ方向をZ方向としている。走査型共焦点顕微鏡は、顕微鏡本体10と光源部1と検出ユニット26とからなり、顕微鏡本体10の鏡筒部11には走査ユニット12が着脱可能な状態で装着されている。光源部1および検出ユニット26と走査ユニット12とはシングルモード光ファイバ9およびマルチモード光ファイバ25により接続されており、光源部1で発生したレーザ光は光ファイバ9により走査ユニット12に入力される。標本24からの光は、後述するように対物レンズ23,第2対物レンズ22,走査ユニット12および光ファイバ25を介して検出ユニット26に伝達される。
【0025】
光ファイバ9,25と光源部1,検出ユニット26および走査ユニット12との接続は、コネクタC1〜C4を用いて行われており、この部分は容易に着脱可能とされている。検出ユニット26には信号線77を介して処理ユニット37が接続されており、検出ユニット26で検出された画像信号に基づく標本24の観察画像が処理ユニット37において形成される。
【0026】
図2は光源部1、検出ユニット26及び処理ユニット37の概略構成を示す図である。図2に示すように、信号線77はコネクタC5を介して処理ユニット37に着脱可能に接続されている。処理ユニット37にはモニタ36が接続されており、画像処理により得られた観察像が表示される。35は画像データを保存記憶するための記憶装置である。検出ユニット26および処理ユニット37の詳細については後述する。
【0027】
光源部1には出力波長の異なる複数のレーザ発生装置2,3,4が設けられている。レーザ発生装置2,3,4から出射された各レーザ光は全反射ミラー5およびダイクロイックミラー6,7を用いて同一光軸に合わせられた後に、集光レンズ8により集光されて光ファイバ9に入射される。図1に示すように、光ファイバ9により走査ユニット12に伝送されたレーザ光はファイバ端面から所定のNA(開口数)で出射され、走査ユニット12内のコリメータレンズ15により平行光に変換される。
【0028】
コリメータレンズ15からの平行光はダイクロイックミラー18により反射され、光走査部19に入射するようになっている。図1に示したように、走査ユニット12は、コリメータレンズ15とダイクロイックミラー18との間における光路の途中に設けられた偏光制御素子100を備えている。偏光制御素子100は、詳細について後述するように(図4参照)、光源部1から射出されたビーム(照明光)を透過させることで該ビームの偏光状態を単一の偏光成分を含むものから複数の偏光成分を含むものへと制御可能な素子を意味する。
【0029】
ここで、単一偏光成分とは、ビームの進行方向と垂直な断面を規定し、その面内のいずれの座標でも一様な偏光状態(直線偏光、楕円偏光、円偏光など)であり、かつその面内の偏光の位相状態がほぼ一定とみなせるものである。一方、複数の偏光状態とは、上記断面内の座標位置に依存して、偏光状態が一様でない分布を持つ、あるいは面内の偏光の位相状態を座標に応じて分布を持つ、の少なくとも一方を満たすものである。
【0030】
本実施形態においては、偏光制御素子100は、光源部1から出射された光が標本24に向かう光路である往路上に配置されている。具体的に、偏光制御素子100は、往路のうち、標本24から出射された光が後述(図5参照)の遮光板14に形成された開口13に向かう光路である復路と重ならない位置に配置されている。
【0031】
図3は偏光制御素子100の構成を模式的に示す図であり、図3(a)は偏光制御素子100の平面図であり、図3(b)は偏光制御素子100の要部断面構成を示す図である。図3(a)に示すように、偏光制御素子100は、放射状に分割された8つの領域を有している(以下、本説明において、この8つの領域を分割領域151〜分割領域158と称す)。すなわち、偏光制御素子100は、8つの分割領域151〜158を備えている。
【0032】
分割領域151〜158は、中心点に対して対称に分割されている。したがって、分割領域151〜158は、放射状に配置されている。このように、放射状に分割された8つの領域が分割領域151〜158となっている。それぞれの分割領域の大きさは等しくなっており、各分割領域151〜158は周方向の全体にわたって設けられている。したがって、分割領域151〜158のそれぞれは、中心点近傍の点に対応する内角が45°の二等辺三角形となっている。そして、分割領域151〜158を合わせた形状は、円板形状となっている。換言すると、円形を放射状に8等分したものが、分割領域151〜158となる。なお、分割領域の中心点は、偏光制御素子100の中心でなくてもよい。すなわち、偏光制御素子100の中心と、分割領域151〜158の中心とは、一致していなくてもよい。
【0033】
分割領域151〜分割領域158はそれぞれ液晶装置151a〜158aから構成されている。液晶装置151a〜158aの各々は、図3(b)に示すように、一対のガラス基板160,161間に液晶162を挟持することで構成されている。ガラス基板160,161の内面側には、一対の電極(不図示)が設けられており、これら電極間に電圧を印加することで液晶162を駆動し、各々の分割領域を透過する光の偏光状態を変化させるようになっている。液晶装置151a〜158aの各々は液晶162の駆動時に入射光に対して1/2波長の位相差を与えて出射するように構成されている。すなわち、液晶装置151a〜158aは、液晶162の駆動時に1/2波長板として機能する一方、液晶162の非駆動時には入射光の偏光状態を変化させない状態を切り替え可能となっている。
【0034】
ところで、光源部1から射出されるレーザ光の波長が変化すると、各液晶装置151a〜158aを1/2波長として機能させるための位相量が変化する。そこで、光源部1から射出されるレーザ光の波長を測定し、該測定結果に基づき、各液晶装置151a〜158aにおける電極間に印加する電圧を可変とすることができる。これにより、異なる波長の入射光が各液晶装置151a〜158aを通過した場合においても、常に1/2波長の位相差を与えることができる。
【0035】
図3(a)においては、説明を分かり易くするため、液晶装置151a〜158aの駆動に基づき、各分割領域151〜158に発現される光学軸を矢印で示している。ここで、それぞれの分割領域151〜158の光学軸は、隣の分割領域の光学軸から22.5°ずれている。すなわち、Y軸の方向を基準とすると、分割領域151における波長板の光学軸の角度は0°となり、分割領域152の光学軸は−22.5°となり、分割領域152の光学軸は−45°となり、分割領域154の光学軸は−67.5°となっている。また、分割領域158の光学軸は22.5°であり、分割領域157の光学軸は45°となり、分割領域156の光学軸は67.5°となり、分割領域155の光学軸は、90°となっている。
【0036】
したがって、中心点に対して互いに対向する分割領域は、各々の光学軸が直交している。例えば、分割領域151の光学軸は0°であり、分割領域151に対向する分割領域155の光学軸は90°となっている。また、分割領域152の光学軸と、分割領域156の光学軸は、互いに直交している。同様に、分割領域153と分割領域157とでは、光学軸が直交しており、分割領域154と分割領域158とでは、光学軸が直交している。換言すると、互いに対向する分割領域の光学軸の角度の差が90°となっている。
【0037】
本実施形態においては、偏光軸がZ方向に沿った方向である直線偏光からなる単一偏光成分からなるビームを偏光制御素子100に入射させるようにしている。ここで、直線偏光の方位が各分割領域151〜158における光学軸に対して成す角度をθとすると、各分割領域151〜158を通過した光は、元の直線偏光から2θだけ回転した直線偏光の光となる。例えば、分割領域151〜158の光学軸と、直線偏光の偏光軸とが45°ずれている場合、分割領域151〜158は、偏光軸が90°ずれた直線偏光を出射する。
【0038】
続いて、偏光制御素子100から出射される光の偏光状態について図4を用いて説明する。図4(a)は、偏光軸がZ方向に沿った方向である直線偏光が入射した場合を示しており、図4(b)は偏光制御素子100から出射されるビームの偏光状態を示している。したがって、入射偏光方位が0°の直線偏光が入射した時に出射される出射光の偏光方位について説明する。すなわち、分割領域151の光学軸と、入射光の偏光軸が一致している場合について説明する。図4には、各分割領域151〜158から出射される出射光の偏光軸が矢印でそれぞれ示されている。分割領域151〜158から出射される直線偏光の偏光軸は放射状になっている。
【0039】
具体的には、中心点に対して対向する一対の分割領域から出射される直線偏光の偏光軸が平行になっている。そして、対向する一対の分割領域では振動方向が反対になっている。また、隣接する分割領域から出射される光の偏光軸は45°ずれている。例えば、分割領域151及び分割領域155から出射する光の偏光軸は、0°である。また、分割領域152及び分割領域156から出射される光の偏光軸は、−45°であり、分割領域153及び分割領域157から出射される光の偏光軸は90°であり、分割領域154及び分割領域158から出射される光の偏光軸は、+45°である。したがって、入射位置に応じて偏光軸の角度が変化して、出射される偏光変位が放射状となる。このように、本実施の形態にかかる偏光制御素子100は、入射位置に応じて入射光の偏光状態を制御し、所望の偏光状態になるように制御することができる。
【0040】
このように、本実施形態においては、上記の偏光制御素子100に所定方向に沿った直線偏光を入射すると、ラジアル偏光に近い偏光状態となるよう制御することができる。すなわち、直線偏光をラジアル偏光に近似する擬似ラジアル偏光にすることができる。
【0041】
なお、偏光制御素子100の分割領域の数を増加させることによって、偏光制御素子100を透過後のビームをよりラジアル偏光に近い偏光状態とすることができる。すなわち、分割領域の数を増やすと、偏光軸がよりなめらかに変化する。換言すると、分割数を無限大にすれば、理想的なラジアル偏光状態を生成することができる。分割数は、偶数であることが好ましく、例えば、2あるいは4以上とすることができる。さらに、電場ベクトルのY成分を高くするためには、分割数を8以上とすることが好ましく、16以上とすることがより好ましい。すなわち、分割数を2n(nは1以上の整数)とすることが好ましい。また、分割領域の中心点に対して対称に分割し、対向する分割領域の大きさを同じとすることが好ましい。すなわち、分割領域の中心角を等しくして、同じ大きさの分割領域とすることが好ましい。例えば、分割数を2nとすると、1つの分割領域に対応する角度は、360/2n(度)となる。
【0042】
具体的には、例えば、分割数が16の場合、波長板の光学軸を隣の分割領域から11.25°ずらす。これにより、対向する分割領域で、光学軸が直交する。そして、この偏光制御素子に一定角度の偏光軸を入射させると、直線偏光が擬似ラジアル偏光となって出射されることとなる。
【0043】
本実施形態では、偏光制御素子100から出射された擬似ラジアル偏光に対し、液晶制御による透過率制御アポダイゼーションで光軸近傍を遮光する、あるいは、レーザ光量のロスを防止すべく、アキシコンレンズを介して光軸近傍を遮光することにより、図4(b)に示すように略ドーナツ形状からなるラジアル偏光の軸対称偏光ドーナツビーム(以下、軸対称偏光ドーナツビームと称す。)を生成することができる。
【0044】
ここで、本実施形態における軸対称偏光ドーナツビームとは、Maxwell方程式を円筒座標上で解いて得られる通常のラジアル偏光の軸対称偏光ビームよりもビーム断面強度分布における中心付近の強度が減衰した、もしくは強度の弱い面積が広いビームを意味している。
したがって、偏光制御素子100を通過した光は、軸対称偏光ドーナツビームとしてダイクロイックミラー18へと入射する。このようなラジアル偏光ドーナツビームをレンズで集光させると、偏光制御素子100を通過させないビーム(ガウスビーム)を集光させた場合に比べて、格段に小さな集光スポット径が得られることが報告されている(S.Quabis,R.Dron,M.Eberier,O.Glocki,G.Leuchs:Optics Communications 179 (2000))。この報告によると、ラジアル偏光ドーナツビームをNAの大きな集光レンズで集光させた場合、ガウスビームを同じ対物レンズで集光させた場合と比較して、強度分布の半値全幅で半分以下にすることが可能であることが分かっている。
【0045】
図5は走査ユニット12の拡大図であり、光走査部19の詳細を示したものである。光走査部19には一対の可動式全反射ミラー191,192が設けられており、全反射ミラー191,192を連動して傾けることにより、ダイクロイックミラー18から光走査部19に入射したレーザ光を、レーザ光と直交する2方向に2次元的に走査することができる。
【0046】
光走査部19から出射されたレーザ光は、走査レンズ20を介して一次像面21に結像された後に、第2対物レンズ22および対物レンズ23によって標本24上に結像される。図6(a)は標本24を対物レンズ23側から見た平面図であり、241は標本24の観察領域を示している。レーザ光を図5の光走査部19により走査すると、標本24上に結像されたスポット状のレーザ光L(点像)は、観察領域241を経路R1のようにラスタ走査される。
【0047】
図6(b)は任意の時刻におけるレーザ光Lの照射状態を示したものであり、標本24の光学的な特性によって反射、吸収、蛍光、散乱などがレーザ光Lの照射領域において生じる。生物組織を蛍光観察する場合には、標本24の組織を複数の蛍光試薬で染色して観察する。標本24にレーザ光Lが照射されると、蛍光試薬で染色された各組織から試薬に応じた蛍光が発せられる。
【0048】
本実施形態では、レーザ光Lが上述のように偏光制御素子100を通過することで軸対称偏光ドーナツビームとなっているので、レーザ光Lの集光スポット径が偏光制御素子100を通過させない従来の構成に比べ、格段に小さくすることが可能となる。なお、これらの蛍光はほとんどレーザ光Lが照射された領域から発せられるが、その領域の周辺領域Aからも蛍光が若干発生する。
【0049】
図1に示した標本24から発せられた蛍光は、対物レンズ23および第2対物レンズ22により一次像面21の位置に結像された後に、走査レンズ20で平行光とされて光走査部19に入射する。標本24からの蛍光はレーザ光Lが照射された領域から出射されるので、光走査部19によって再び走査されることにより、すなわちデスキャンされることにより、ダイクロイックミラー18から光走査部19の反射ミラー191(図5参照)に入射したレーザ光と同一の光路に常に戻されることになる。すなわち、標本24から出射されたレーザ光Lがダイクロイックミラー18に向かう復路と、光源部1から出射された光が標本24に向かう往路のうち、ダイクロイックミラー18及び標本24間の光路が重なっている。
【0050】
光走査部19からダイクロイックミラー18に出射された蛍光はダイクロイックミラー18を透過し、全反射ミラー17により反射された後に集光レンズ16に入射する。本実施形態においては、上述のように標本24から出射されたレーザ光Lが開口13に至る往路の途中に偏光制御素子100が配置されていないため、レーザ光Lが偏光制御素子100を透過することで減衰するといった不具合を防止できる。
【0051】
蛍光は集光レンズ16により遮光板14上に結像される。すなわち、遮光板14と標本24とは共役な位置関係にあり、遮光板14に形成された開口(ピンホール)13の位置にスポット状レーザ光L(図6参照)の像が形成される。そして、開口13を通過した蛍光のみが光ファイバ25を介して検出ユニット26に伝達される。前述したように、図6(b)に示した周辺領域Aからも蛍光が出射されるが、これらの蛍光は遮光板14上の開口13より外側に結像される。そのため、蛍光観察に悪影響を与える周辺領域Aからの蛍光は、遮光板14に遮られて検出ユニット26に伝達されない。
【0052】
図2に示したように、光ファイバ25により検出ユニット26に伝達された蛍光は、コリメータレンズ27を介してダイクロイックミラー28に入射する。ダイクロイックミラー28およびバリアフィルタ29、30は蛍光分離用の光学素子であり、これらの光学素子により走査ユニット12から伝達された蛍光から所望の波長を有する2種類の蛍光が分離され、それぞれ異なる検出器31、32により検出される。検出器31、32から出力されたアナログ信号は処理ユニット37に設けられたA/D変換器33でデジタル信号に変換され、CPU34に送られて画像処理される。画像処理により得られた観察像はモニタ36に表示される。
【0053】
本実施形態によれば、偏光制御素子100の作用により、標本24の表面に集光スポット径の小さいレーザ光Lが入射させることができ、且つ、標本24から出射される蛍光が偏光制御素子100を通過することで減衰することが防止されるので、モニタ36にXY平面内における解像度が高く、明瞭な標本24の観察像を表示させることができる。
【0054】
検出ユニット26はコネクタC2、C5を介して光ファイバ25および処理ユニット37に接続されており、走査ユニット12に対して着脱可能となっている。図2に示した検出ユニット26は、2つの検出器31、32を備えていて2種類の蛍光波長を観察できる。なお、バリアフィルタおよび検出器を1つずつ備えるような構成としても良い。また、観察対象によってはより多数の蛍光波長に関する観察が必要なものもあり、そのような場合には、3つ以上の検出器を備えた検出ユニットと検出ユニット26とを交換すれば容易に対応できる。そのため、従来の顕微鏡のように検出器増設のために走査ユニットを改造する必要がなく、低コストで容易に対応することができる。
【0055】
図7は3種類の蛍光波長を検出することができる検出ユニット50を示す図であり、検出ユニット26に設けられていた検出器31、32に加えて3つ目の検出器51を備えている。52および53は検出器51用のバリアフィルタおよびダイクロイックミラーであり、その他の構成は検出ユニット26と同様であり同様の符号を付した。ダイクロイックミラー28を透過した蛍光は2番目のダイクロイックミラー53に入射し、検出器51で検出すべき波長を含む蛍光が反射分離されてバリアフィルタ52へと導かれる。バリアフィルタ52では不要な蛍光波長が除去され、所望の波長の蛍光のみが検出器51に入射する。また、ダイクロイックミラー53を透過した蛍光はバリアフィルタ30を介して検出器32に入射する。このようにして、波長の異なる3種類の蛍光が3つの検出器31、32、51によってそれぞれ検出される。
【0056】
なお、上記実施形態では、偏光制御素子100として液晶装置から構成された場合について説明したが、偏光制御素子として各分割領域151〜158に所定の光学軸(偏光制御素子100の駆動時に各分割領域151〜158に発現される光学軸を矢印に一致)を有する1/2波長板を設けたものを採用することができる。この構成においても、所定方向に沿った直線偏光を入射させることでレーザ光Lの集光スポット径を小さくすることができる。
【0057】
また、上記実施形態では、偏光制御素子100の各分割領域151〜158が1/2波長板として機能させる場合について説明したが、また、各分割領域151〜158ごとに偏光の旋光性を独立して制御することで上記ラジアル偏光のように複数の偏光状態を含むビームを形成することができる。このような旋光性を有する光学材料としては、液晶の他、水晶(非線形光学結晶)を例示することができる。水晶は光学軸の方向に光が入射すると偏光が回る特性を有している。すなわち、各々の光学軸の方向が異なる複数の水晶を組み合わせることで偏光制御素子を構成しても構わない。
【0058】
また、各分割領域151〜158を独立して制御することでそれぞれの位相差(旋光性)を異ならせ、偏光制御素子100を通過したレーザ光を所定のラジアル偏光に変換する構成であっても構わない。
【0059】
以上、偏光制御素子100を共焦点顕微鏡に適用した場合について説明したが、偏光制御素子100による偏光制御特性を利用した光学装置への応用例について説明する。
【0060】
本発明の光学装置は、標本24に対してレーザ光(照明光)を射出する光源部1と、照明光を標本に対して結像させる光学系と、標本24と非共役の位置に設けられた偏光制御素子100と、を備えたもので構成できる。偏光制御素子100は対物レンズの瞳面もしくは該瞳面と共役な面のいずれか一方及びその近傍に配置するのが好ましい。より好ましい形態としては、例えば対物レンズ内に瞳面が設定された構成において、光学部材を介してリレーした瞳面の近傍に偏光制御素子100を配置することにより、リレー光学系による偏光状態の変化の影響を最小とすることができる。
【0061】
光学装置としては、照射光の持つエネルギを用いて例えば細胞内外に存在する細かな粒子を意図的に掴み移動させる光ピンセット(Laser Optical Tweezers:LOT)技術を用いた捕捉装置を例示できる。このような光ピンセット技術では、掴む力を大きくすることが好ましく、この為には対物レンズの開口数を大きくする必要がある。しかしながら、一般的には開口数の大きな対物レンズは倍率も大きく、広視野観察の状態で用いる事ができない。これに対し、本発明を採用すれば、上記偏光制御素子100を用いることで、対物レンズの倍率に関わらず開口数を上げる効果があるので光ピンセット技術において高い開口数の対物レンズを用いた場合と同等の効果を得ることができる。なお、光ピンセット技術においては、ピンセット動作に用いた光を再び対物レンズを通して戻す必要性はない。したがって、偏光制御素子100は光ピンセットの波長に対応して位相制御等を行えば良い。
【0062】
また、本発明の顕微鏡としては、上述の光学装置を照明光として用いた走査型多光子励起レーザ顕微鏡(例えば、走査型2光子励起レーザ顕微鏡)についても適用可能である。
【0063】
具体的には、例えば、偏向制御素子が光源部と対物レンズとの間に設置された走査型2光子励起レーザ顕微鏡においても、光を走査する平面の分解能(XY分解能)を向上させることができる。
【0064】
1光子観察時の蛍光強度分布は励起光のPSF(Point Spread Function:点像強度分布)の1乗に比例するのに対し、2光子観察時の蛍光強度分布は励起光のPSFの2乗に比例する。従って、1光子観察時と比べて、2光子観察時では、蛍光強度のピーク強度に対するサイドローブ強度が低下する。そのため、2光子観察時には、サイドローブの強いPSFであっても、サイドローブによる信号雑音比(SN比)の低下およびXY分解能の低下を防止できるというメリットがある。従って、2光子観察というのは本発明の好ましい適用例であると言える。
【0065】
なお、上述の光学装置を照明光として用いる際、ビームが干渉フィルタやレンズ等の光学素子を通過するほど、ビームの偏光状態は崩れて変わってしまう。そこで、上記光学素子の影響を受け難い、結像系との合流の直前に偏光制御素子を配置するのが好ましい。この構成によれば、理想的な状態に近いビームを得ることができる。
【0066】
また、本発明の顕微鏡は、光刺激に応用することができる。光刺激とは例えばレーザスキャン顕微鏡やCCDカメラを用いた顕微鏡画像解析システムにおいて、画像化と同じもしくは異なる光路から画像化と同じもしくは異なる波長の光(レーザ光である場合が多い)を用いて、ターゲットとする細胞(標本)の一部に意図的に光照射して、その細胞内で起こっている様々な生物化学的現象を、例えば、光照射による意図的な退色によって退色させた部位を追従調査したり、或いは光照射による蛍光タンパクの光変換を利用して変色した部位を追従調査したりする等の所謂光操作一般を指す。この光操作は、画像化とは異なり操作に用いた光を再び対物レンズを通して戻す必要性はない。すなわち、偏光制御素子100は光刺激の波長のみを考慮して位相制御等を行えば良い。本発明を適用すれば、照射ビームのXY面内における照射ビーム径を細くする事ができ、より詳細で細かなターゲットの光操作が可能となる。
【0067】
また、本実施形態のレーザ顕微鏡は、蛍光相関分光法に用いることが好適である。蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy:FCS)は、蛍光物質の分子運動を調べるために用いられるものであり、共焦点顕微鏡の照射によって生じた中央がくびれた光の空間的照射領域内を通過する、蛍光色素がラベリングされていたり蛍光タンパクが発現している分子の発する蛍光をフォトンカウンティングする技術がベースとなっている。蛍光相関分光法における精度を向上させる為には、照射領域をより小さくする必要がある。これに対し、本発明を採用すれば、上記偏光制御素子100を用いることで、光の空間的照射領域の中央のくびれは更に狭くなり、逆に光軸方向はやや延びる傾向にあるが、光軸方向は検出器前に設置したピンホールによってその長さを制御できるので、結果的には光の空間的照射領域(体積)を小さくして、傾向相関分光法の感度を向上することができる。なお、蛍光相関分光法では発生した蛍光は再び対物レンズを通るが必要な信号は、1点からの信号のみであり画像化する必要は無い。
また、本実施形態は、レーザ走査型共顕微鏡として、レーザ光の反射タイプのものを示したが、レーザ透過型共焦点顕微鏡のものでもよく、例えば、ニッポウディスクタイプのものや、液晶マトリクスタイプのものがある。
【符号の説明】
【0068】
1…光源部、10…顕微鏡本体、12…走査ユニット、13…開口(ピンホール)、19…光走査部、24…標本、100…偏光制御素子、151〜158…分割領域、151a〜158a…液晶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡本体と、
前記顕微鏡本体に設けられる標本に対してレーザ照明光を射出する光源部と、
前記照明光を前記標本上に照射する照明部と、
前記標本と共役な位置であり、且つ前記照明部にて照射された前記標本から射出された光の復路上に配置される検出光学系と、
前記光源部から射出された前記照明光における前記標本に向かう往路のうち、前記復路と重ならない位置に配置され、前記光源部から出射された前記照明光を光軸に垂直な面内で偏光分布を所定分布に制御する偏光制御素子と、
を備えるレーザ顕微鏡。
【請求項2】
前記検出光学系は、ピンホールを有し、
前記照明部は、前記照明光を前記標本上で2次元的にスキャンされるように偏向する光走査部を有する走査ユニットからなることを特徴とする請求項1に記載のレーザ顕微鏡。
【請求項3】
前記走査ユニットは、反射型あるいは透過型であることを特徴とする請求項2のレーザ顕微鏡。
【請求項4】
前記偏光制御素子は、前記光源部から出射された前記照明光を透過させることで前記照明光を複数の偏光成分からなるものに制御する請求項1乃至3のいずれか1つのレーザ顕微鏡。
【請求項5】
前記偏光制御素子は、前記光源部から出射された前記照明光を透過させることで前記照明光の光軸の垂直な面内の偏光の位相状態を座標に応じて分布を持つように制御する請求項1乃至4のいずれか1つのレーザ顕微鏡。
【請求項6】
前記ピンホールは、前記走査ユニットに設けられており、
前記光走査部は、前記標本から射出された光を偏向してデスキャンすることで前記ピンホールへと出射する請求項2に記載のレーザ顕微鏡。
【請求項7】
前記偏光制御素子は液晶装置から構成される請求項1乃至6のいずれか1つに記載のレーザ顕微鏡。
【請求項8】
前記液晶装置は、放射状に分割された複数の分割領域を有し、各々の分割領域における光学軸が異なっている請求項7に記載のレーザ顕微鏡。
【請求項9】
前記液晶装置は放射状に分割された複数の分割領域を有しており、各々の分割領域ごとに、偏光の旋光性を独立制御可能である請求項7に記載のレーザ顕微鏡。
【請求項10】
前記液晶装置は一対の基板間に挟持された液晶を有し、前記液晶に電圧を印加することで偏光制御を行う状態と、前記液晶に電圧を印加しないことで偏光制御を行わない状態とを切り替え可能とされている請求項7〜9のいずれか一項に記載のレーザ顕微鏡。
【請求項11】
前記液晶装置は、前記光源部から射出される前記照明光の波長に応じて前記液晶への印加電圧を可変とされている請求項8に記載のレーザ顕微鏡。
【請求項12】
前記偏光制御素子は入射した前記照明光の位相をずらして射出する波長板としての機能を含む請求項1に記載のレーザ顕微鏡。
【請求項13】
前記偏光制御素子は、放射状に分割され、且つ前記波長板が配置された複数の分割領域を有し、前記分割領域に配置された前記波長板の光学軸がそれぞれ異なっている請求項12に記載のレーザ顕微鏡。
【請求項14】
標本に対して照明光を射出する光源部と、
前記光源部から射出された前記照明光を前記標本に対して結像させる光学系と、
前記標本と非共役の位置に設けられ、前記光源部から出射された単一偏光成分からなる前記照明光を透過させることで複数の偏光成分からなるものに制御する偏光制御素子と、を備えた光学装置。
【請求項15】
前記偏光制御素子は、対物レンズの瞳面と共役な面のいずれか一方及びその近傍に配置される請求項14に記載の光学装置。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の光学装置を照明光として用いた顕微鏡。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−47835(P2012−47835A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187703(P2010−187703)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】