説明

レーダ・フェージング防止システム及び方法

レーダ高度計(10)内の大地帰路レーダ・フェージングを抑止する方法が、記述される。この方法は、レーダ高度計の送信が当たるアンテナ照射域よりも小さい域(140)に対応するレーダ・レンジ・ゲート幅を供給する工程と、レーダ高度計の送信が当たるアンテナ照射域内のレーダ・ゲート視域(102)をディザリングする工程と、レーダ高度計でレーダ帰路サンプルを抽出する工程と、を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、レーダ操作に関し、特に、ホバリング(hovering)操作中に発生することがあるレーダ・フェージング(fading)問題に対処するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飛行体は、ホバリング操作中に、高度を保つことができなければならない。このような飛行体の例は、ヘリコプタであり、このような操作の例は、レスキュー操作である。レーダ高度計は、このような飛行体内に、全体的なフライト制御システムの一部として、一般的に実装されている。これらの飛行体には、ホバリング高度を保持するためにフライト制御システムを利用しているものがあり、これらのフライト制御システムは、ホバリング操作中、信頼できるレーダ高度計の性能に依存している。
【0003】
レーダ高度計は、一般に、電磁エネルギのパルスを規則的な間隔でアンテナに印加するための送信機を含んでおり、このアンテナは、その後、エネルギを送信ビームの形式で地表へと放射する。レーダからの送信ビームは、送信ビームを反射する(帰す)領域(例えば地表)を「照射する」と言われることがある。反射されたビーム(大地帰路)は、レーダ高度計の受信アンテナで受信され、高度を判定するために処理される。
【0004】
レーダ帰路信号の位相キャンセルによる大地帰路フェージングは、ホバリング操作中によく発生する。レーダ送信パルスを反射する地表の一画が実際に、正味位相がゼロに加算される多数のレーダ・リターンを実際に反射すると、大地帰路フェージングが発生し、その結果、全レーダ帰路振幅がゼロになる。航空機が低高度で水平に移動していると、これらの大地帰路はフェードし、逆振幅ピークがむしろランダム且つ急激に生ずるので、統合された、又はフィルタに掛けられた最終結果は、レーダ高度計の性能に影響を及ぼさない。
【0005】
しかし、水平運動が少ないか、又は全くないホバリング又はその他の高度維持操作では、大地帰路フェードは、無制限に続くことがある。少なくとも1つの結果は、レーダ高度計がトラックを破損し、中間高度をフライト制御システムに供給することがある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の概要)
1つの態様では、レーダ高度計における大地帰路レーダ・フェージングを抑止する方法が、提供される。この方法は、レーダ高度計からの送信によって照射されるアンテナ照射域よりも小さい域に対応するレーダ・ゲート幅を供給する工程と、レーダ高度計からの送信によって照射されるアンテナ照射域内のレーダ・ゲート視域をディザリングする工程と、レーダ高度計でレーダ帰路サンプルを抽出する工程と、を含んでいる。
【0007】
別の態様では、大地帰路フェージングを抑止するように構成されたレーダ高度計が、提供される。レーダ高度計は、第1信号を変調するためのシーケンサと、シーケンサに接続され、変調された第1信号を含むレーダ信号を地表に送信するための送信機と、地表からの反射レーダ信号を受信するための受信機と、を含んでいる。受信されたレーダ信号は、変調された第1信号を含んでいる。レーダ高度計は更に、サンプリング・クロックと、サンプリング・クロックに接続されたディザリング回路と、受信機及びサンプリング・クロックに接続されたデジタイザと、を含んでいる。デジタイザは、変調された第1信号のデジタル・サンプルを作成する。サンプリング・クロックと、ディザリング回路と、デジタイザとは、送信機がレーダ信号を送信するアンテナ照射域よりも小さい視域に対応するレーダ・レンジ・ゲート幅を供給し、且つ送信機がレーダ信号を送信する照射域内のレーダ・レンジ・ゲートの位置をディザリングするレーダ・レンジ・ゲート機能の少なくとも一部を含んでいる。
【0008】
更に別の態様では、レーダ・レンジ・ゲートの位置をディザリングするためのユニットが、提供される。このユニットは、サンプリング・クロックと、サンプリング・クロックに接続されたディザリング回路と、ディザリング回路に接続されたアナログ・デジタル(A/D)変換器と、を含んでいる。A/D変換器は、レーダ高度計の各送信に追従してサンプルを抽出する。サンプルが抽出される時間は、ディザリング回路によって、サンプリング・クロック・サイクルからディザリングされる。
【0009】
更に別の態様では、レーダ高度計の動作方法が、提供される。この方法は、信号を地表に送信する工程と、送信された信号を反射する域よりも狭い地表の視域に対応する幅を有するレーダ・レンジ・ゲート内で送信された信号の反射を受信する工程と、送信された信号を反射する域内のレーダ・レンジ・ゲートの位置を移動する工程と、を含んでいる。この方法は更に、上記の工程を繰り返す工程を含んでいる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、レーダ高度計10の一実施形態を示したブロック図である。好適な実施形態では、レーダ高度計10は、例えばヘリコプタのような飛行体に搭載される。以下に詳細に説明するように、レーダ高度計10は、知られているレーダ・リターンの大地帰路フェージングの問題を生ずることなく、飛行体のホバリング及び維持操作の達成を可能にする効果的な機構を組み込んでいる。レーダ高度計10は、電圧制御発振器(VCO)12と、クロック14と、ディザー回路15と、送信アンテナ18と、送信機20と、シーケンサ22と、プロセッサ24と、受信アンテナ26と、受信機28と、中間周波数(IF)増幅器フィルタ20と、デジタイザ32と、メモリ34と、を含んでいる。
【0011】
送信機20は、アンテナ18を介してRFエネルギのパルスを送信する。一実施形態では、RFエネルギは、シーケンサ22によって作成されるパルス圧縮バイフェーズ符号化フォーマット(pulse compression Bi−phase coded format)で変調される。送信機20の出力電力は、プロセッサ24によって閉ループ方式で制御される。送信機20の出力電力は、不都合な放射信号傍受者により検知される公算を低くするために、プロセッサ24によって最小限にされる。
【0012】
アンテナ26は、地表から反射されるレーダ信号を受信する。受信された信号は、増幅され、受信機28によってIFへとミックスダウンされ、更にIF増幅器フィルタ30によって増幅され、帯域制限される。デジタイザ32は、(IF)増幅器フィルタ30から受信された信号をデジタル化し、デジタル化されたサンプルをメモリ34に出力する。
【0013】
シーケンサ22は、(プロセッサ24によって判定され、内部レンジ線36でシーケンサ22に伝達された)現在の高度遅延に対応する大地帰路サンプルを選択し、選択されたサンプルをメモリ34からプロセッサ24へと移す。次にプロセッサ24は、送信パルスと予期されるパルス・リターンとの間の遅延に対応して、レンジにより接近して、又は更に遠ざかって次のサンプル・セットを抽出するべきかを判定する。プロセッサ24は次に、新規の内部レンジ指令を作成し、これは、レーダ・レンジ・ゲートの移動と呼ばれることがある。その結果、閉ループ高度トラッキング・サーボが生ずるので、高度が変化すると、プロセッサ24は、レンジ・トラッキング・エラーの基準を作成し、これは、シーケンサ22にフィードバックされる内部レンジ指令を変更するために利用される。プロセッサ24は、判定されたレンジから出力高度を生成する。
【0014】
レーダ・レンジ(range)は、レーダ・パルスが送信アンテナから地表へと伝播し、ターゲット(例えば地表)から反射し、次にレーダ・リターン信号として受信アンテナ26まで帰るために要する時間を利用して判定される。デジタイザ32へと組み込まれたレーダ・レンジ・ゲート(gate)は、基本的に、リターン信号の選択されたサンプルだけが処理されるのを許容するスイッチである。ある場合では、「レンジ・ゲート」は、ゲーティング期間中に限定された長さの時間だけ閉鎖されることができるスイッチを意味するが、デジタル信号処理の場合では、レンジ・ゲートは、ゲーティング期間内に抽出された個別サンプルに対応する。リターン信号は、スイッチが閉鎖される時点までレンジ・ゲートを通過することができない。例えば、レーダ・レンジ・ゲートが、304.80メートル(1000フィート)の直距離(slant range)に設定された場合、レンジ・ゲートは、送信後、(約304.80メートル(1000フィート)を伝播するレーダ信号に対応する時間である)2マイクロ秒待機し、その後、サンプリングされたリターン信号が通過できるように閉じられる。スイッチが閉じられる時間は、ゲート幅(gate width)と呼ばれる。プロセッサ24内のレンジ・プロセッサは、デジタイザ32内のレンジ・ゲートの直距離を設定する役割を担う。
【0015】
地表に向けて送信された各レーダ・パルスは、アンテナ照射域によって囲まれた地形の広がりによって、より幅広い信号として帰路する。デジタイザ32は、レーダ信号が送信された後、(レーダ・レンジに対応する)ゲートの時間位置をタイムマークするシーケンサ22からの指令でサンプリング及びデジタル化を開始する(ゲーティング機能を効果的に実行する)。次にデジタイザ32は、サンプルをメモリ34に出力し、これは、上記のレーダ・レンジ・ゲート機能を実行するためにプロセッサ24によってアクセスされる。地表上の最も近い、若しくは一般に最も高い地点を特定するために、エネルギを有する最も近い、又は最も早いサンプルが特定されなければならない。
【0016】
デジタイザ32は、ゲート制御されたサンプルをメモリ34に出力し、そこでサンプルは、プロセッサ24内のレンジ処理機能によって最終的に処理される。閉ループ・レンジ処理機能は、メモリ34から受け取ったサンプルに関して質問し、リターンの前縁(例えばエネルギを有する最初のサンプル)のゲート位置を追跡する。エネルギを有する最初のサンプルが得られた送信時間に対するサンプル数、又は時点は、そのレーダ送信にとって最も近いターゲットへの直距離と呼ばれる。プロセッサ24内のレンジ処理機能は、プロセッサ24内のレーダ・レンジ・ゲート機能を適宜の直距離に設定する。好適な実施形態では、レンジ処理機能は、メモリ34を介してデジタイザ32から受け取ったサンプルの質問を、以前の高度計算によって算定された履歴平均高度に対応する時点で開始する。次に、レンジ処理機能は、非ゼロ・エネルギを有する最初のサンプルが特定されるまで、レンジ・ゲートを、内部へと又は時間的に早く、移動させる。
【0017】
一実施形態では、ディザリング回路15と、レーダ受信機28と、デジタイザ32と、メモリ34と、プロセッサ24とは、レーダ高度計10内に狭いレンジ・ゲート生成器を形成する。一実施形態では、デジタイザ32は、高速A/D変換器であり、これは、各レーダ・パルス送信に追従するサンプルであって、プロセッサ24によって判定され、シーケンサ22によってデジタイザ32に供給されるレーダ遅延時間(若しくはレーダ・レンジ)におけるサンプルを抽出する。大地帰路フェージングが発生することがある低高度では、シーケンサ22は、レンジ・ゲート生成器のゲート幅を単一のサンプル幅に等しい幅に設定し、その結果、ゲート幅は、2ナノ秒(レーダ信号が約0.30メートル(1フィート)又は1レーダ・フィート伝播するのに要する時間)になる。極めて狭いゲートが、100MHzのA/D変換器の約2ナノ秒のアパーチャ時間(単一のサンプルを抽出するのに要する実時間)によって生成される。大地帰路フェージングが発生する公算がないより高い高度では、レーダ受信機28のデューティサイクルを高めて、より高い高度で必要な感度を増強するために、ゲート幅は、2ナノ秒のサンプル幅(100MHzのアパーチャ時間)の何倍にも拡大される。
【0018】
送信パルス及びレンジ・ゲート制御に関するレーダ高度計10の動作を、図2から図7を参照して更に説明する。図2は、例えばヘリコプタ100が体験するような低高度ホバリングでのレーダ高度計の動作を示している。約6.10メートル(20フィート)のホバリング高度では、代表的には50°の送信アンテナ・ビームからのレーダ送信パルスによって、レーダ送信パルス(例えばレーダ送信ビーム)の一部を受信する直径約5.67メートル(18.6フィート)のアンテナ・ビーム照射域(antena illumination area)102が、生ずる。しかし、一般に使用されている20ナノ秒のレンジ・ゲート幅を有するレーダ高度計を使用すると、レーダ・リターンは、直径が約13.72メートル(45フィート)の視域(viewing area)を有するレンジ・ゲート域104から処理される結果となる。アンテナ・ビーム照射域102がレンジ・ゲート視域104よりも狭いことは、大地帰路フェージングの原因になる。その理由は、ゲート制御された視域は、アンテナ照射された域より広いが、ゲート期間中に得られるエネルギは、アンテナ照射域からのエネルギのみであるからである。ゲート位置が移動されると、又は定位置でややディザリングされると、同じ照射域がサンプリングされる。言い換えると、何も変化せず、フェードが存在していたなら、フェードは、依然として存在する。
【0019】
図3に示すように、アンテナ・ビーム照射域102及びレンジ・ゲート視域104の直径は、20ナノ秒幅(10レーダ・フィート幅)の代表的な最小レンジ・ゲートと、レーダ・レンジ・ゲート及びレーダ・アンテナ・ビームとの関係を表しており、更に、ホバリング及びレスキュー操作における代表的な高度である6.10メートル(20フィート)の高度に基づいている。このような代表的なホバリング条件では、また、上記のように、レンジ・ゲート域104は、直径が約13.72メートル(45フィート)であり、これは、幅が20ナノ秒(10レーダ・フィート)のレンジ・ゲートと高度6.10メートル(20フィート)にある地形との交差によって照射される域である。従って、レンジ・ゲート域104は、明確に、6.10メートル(20フィート)の高度にあるレーダ高度計10から、代表的には50°の送信アンテナ・ビームによって照射される域である直径5.67メートル(18.6フィート)のアンテナ・ビーム照射域102の外側にある。
【0020】
図2及び図3は、低高度で、更に、現在レーダ高度計に組み込まれている最小のレンジ・ゲート幅で、大地帰路フェードが、レーダ・レンジ・ゲートの移動によって除去することができないことを示している。その理由は、公知の高度計に現在組み込まれている最も狭いレンジ・ゲート幅は、依然として、アンテナ・ビーム照射域102によって照射される域よりも直径が大幅に大きいレンジ・ゲート視域104を有しているからである。
【0021】
図4は、例えばレーダ高度計10からの送信パルス110と、各送信パルス110間の遅延とを示している。サンプル112によって示されているように、レーダ・レンジ・ゲートは、ほぼ、レーダ送信パルスの反射114がレーダ高度計10の受信アンテナ26によって受信される時間である時間に設定されている。レーダ高度計内にデジタイザとして使用されるのに充分なダイナミック・レンジを有する公知のA/D変換器は、約100MHzの最大クロック・サンプル速度で動作する。図4に示されているように、100MHzのサンプル抽出間隔116は、サンプル間が10ナノ秒(即ち5レーダ・フィート)である。次に、100MHzのサンプル抽出間隔116により、1.52メートル(5フィート)のゲート位置解像度が生ずる。100MHzのサンプル抽出間隔116を参照すると、サンプル112に先行し追従するサンプル118及び120が抽出される時間(ゲート位置)をディザリングすることによって他のサンプルを抽出可能である、個々のサンプル間の間隔が存在することが分かる。本明細書で用いられる用語「ディザリング」は、ある時点の周囲のレンジ・ゲートの位置(視域)を飛び越える(hopping)ことを意味している。
【0022】
レーダ・レンジ・ゲート内の個々のサンプルは、プロセッサ24内の前述のレーダ処理機能によって得られるレーダ高度遅延によって遅延され、最小有効レンジ・ゲート幅は、A/D変換器(デジタイザ32)のサンプル抽出アパーチャ時間である。しかし、一実施形態では、プロセッサ24は、レーダ・レンジ・ゲート位置の視域をディザリングする機能を含んでおり、これは、ゲート・パッチ(patch)と呼ばれることがある。レンジ・ゲート視域のディザリングの代表的な一実施形態では、レーダ・レンジ・ゲート視域は、各々のレーダ送信で異なるゲート・パッチを得るために、レーダ・パルスがレーダ送信パルス間隔中に0.30メートル(1フィート)伝播するのに要する時間をプラス又はマイナスして移動される。従って、ディザリングによって、所望の位置の周囲に極めて迅速なレンジ・ゲートの移動がなされ、大地帰路フェージングの作用が軽減又は除去される。何故ならば、ゲート視域は、新規にディザリングされた各ゲート位置で異なるが、依然として、アンテナ照射域内にあるからである。
【0023】
約0.30メートル(1フィート)だけディザリングされたゲート位置は、一実施形態では、ディザー回路15によって提供され、ディザー回路15は、デジタイザ32に提供されるサンプリング・クロック14をディザリングする(全て図1に示されている)。一実施形態では、ディザー回路15は、プログラム可能遅延線であり、又、代替実施形態では、ディザー回路15は、複数の選択可能な遅延経路を含んでいる。500MHzのサンプル周波数で動作する、レーダ高度計が必要とするダイナミック・レンジを有するA/D変換器が入手可能となることが予測され、それによって2ナノ秒(1レーダ・フィート)のサンプルング間隔を得ることが可能である。このようなA/D変換器を使用する場合、ディザリング機能は、プロセッサ24によって得られるので、ディザー回路15は、不要になる。レーダ・レンジ・ゲート位置をディザリングするための工程は、図5、図6、及び図7を参照して更に説明される。
【0024】
図5及び図6は、極めて狭く、ディザリングされることが可能なレーダ・レンジ・ゲートを、図1に関連して記載したレーダ高度計10に組み込んだ場合に生ずる結果を示している。図示のように、ヘリコプタ100は、前述のように約5.67メートル(18.6フィート)のアンテナ・ビーム照射域102を提供する。しかし、約2ナノ秒(1レーダ・フィート)の極めて狭いレーダ・レンジ・ゲート幅を組み込むことによって、直径1.95メートル(6.4フィート)のレンジ・ゲート視域140が、得られる。レンジ・ゲート視域140は、充分、5.67メートル(18.6フィート)のアンテナ・パッチ102内にある。レンジ・ゲート視域140が相当狭いので、図示のように、ディザー回路15の実装によって、アンテナ・ビーム照射域102を生成するアンテナ・ビーム内の複数の位置に、レンジ・ゲート視域140を移動するための相当のスペースがある。図5には、5つの別個のレンジ・ゲート視域140を図示しているが、大地帰路フェージングの問題に対処するため、レンジ・ゲート視域140は、サンプルごとに僅かに移動させるだけでよく、実際に以前のサンプル域と部分的に重複してもよいことが理解されよう。加えて、アンテナ・ビーム照射域102内で、5つ未満、又は5つ以上のレンジ・ゲート視域140を得ることが可能である。
【0025】
レーダ大地帰路フェージングに対する上記の解決は、充分に狭い寸法のレンジ・ゲートを生成して、レンジ・ゲート視域140をアンテナ・ビーム照射域102よりも相当小さくさせるシステム及びこれに対応する方法である。フェードの発生が始まった時に、このレンジ・ゲート視域140をアンテナ・ビーム照射域102内で迅速に移動させることによって、僅かに異なる照射パッチ(レンジ・ゲート視域140)が発生し、以前の大地帰路とは異なる位相関係を生じさせ、その結果、大地帰路フェードは、僅かであるか、全くなくなる。
【0026】
レーダ高度計10内に狭いレンジ・ゲート生成器及びディザー回路15(図1に示す)を実装することによって、代表的にはホバリング中に発生する大地帰路フェージングの問題に対する簡単ではあるが効果的な解決方法が、得られる。一実施形態では、デジタイザ32(図1に示す)内の高速アナログ・デジタル(A/D)変換器は、各レーダ・パルスの送信に続くレンジ・ゲート視域140の単一のサンプルを抽出する。サンプルの抽出は、プロセッサ24内の公知のレーダ追跡機能によって得られるレーダ高度遅延によって、遅延される。従って、効果的なレーダ・ゲート幅は、A/D変換器のサンプル抽出アパーチャ時間である。高速A/D変換器のアパーチャ時間は、2ナノ秒未満、即ち約0.30メートル(1フィート)のレーダ・ゲート幅である。プロセッサ24は、更に、レーダ・レンジ・ゲート視域をディザリングする機能をも含んでいる。ゲート視域をディザリングする(サンプリング・クロックをA/D変換器のサンプリング・クロック入力へとディザリングする)ことによって、レーダ・リターンは、アンテナ・ビーム照射域102内の異なる位置でサンプル抽出され、大地帰路フェージングの作用が除去される。
【0027】
図7は、更に、ゲート位置のディザリングを示している。波形150は、レンジ・ゲートのディザリングを組み込んでいない高速A/D変換器を使用したレーダ高度計用のレーダ・レンジ・ゲートを示している。パルス152は、幅が約2ナノ秒であり、発生間隔は均等である。例えばパルス152は、100マイクロ秒毎に発生する。波形154は、高速A/D変換器を使用し、上記のレンジ・ゲートのディザリングを実施するレーダ高度計10用のレンジ・ゲートも示している。パルス156のパルス間隔は、2ナノ秒であるが、これは、時間的にパルス152と一致する。しかし、パルス158は、レーダ高度計10内で約2ナノ秒だけディザリングされており、従って、パルス158は、第2のパルス152の約2ナノ秒前に発生する。パルス160は、パルス158から、約4ナノ秒だけディザリングされている。従って、パルス160は、対応する第3のパルス152の約2ナノ秒後に発生する。パルス158及び160に関して図示したディザリングと同様にレーダ・ゲート・パルスをディザリングすることによって、レーダ送信パルスを反射するアンテナ照射域内の異なる視域が、サンプル抽出され、大地帰路フェージングは、大幅に低減され、又は除去される。
【0028】
上述の方法及び装置を、レーダ高度計に組み込むことによって、代表的にはホバリング、又は同類の操縦中に体験される大地帰路フェージングの公知の問題を克服可能である。従って上述の改良が、既存のレーダ高度計によって提供される安全機構に追加される。
【0029】
本発明を様々な特定の実施形態に関して説明してきたが、本発明は、特許請求の範囲の趣旨及び範囲内で修正して実施できることが、当業者には理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】レーダ高度計のブロック図である。
【図2】レーダ高度計用のレーダ・レンジ・ゲート域に対するアンテナ・ビーム域を示す図面である。
【図3】図2のアンテナ・ビーム域及びレーダ・レンジ・ゲート域の側面図である。
【図4】送信パルス及び大地帰路に対するレーダ・レンジ・ゲート・パルスを示す図面である。
【図5】狭められたレーダ・レンジ・ゲート域に対するアンテナ・ビーム域を示す図面である。
【図6】図5の1つの狭められたレーダ・レンジ・ゲート域及びアンテナ・ビーム域の側面図である。
【図7】レーダ・レンジ・ゲート・パルスのディザリングを示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ高度計(10)内の大地帰路レーダ・フェージングを抑止する方法であって、
前記レーダ高度計の送信が当たるアンテナ照射域(102)よりも小さい視域(140)に対応するレーダ・レンジ・ゲート幅を供給する工程と、
前記レーダ高度計の送信が当たる前記アンテナ照射域内の前記レーダ・ゲート視域をディザリングする工程と、
前記レーダ高度計でレーダ帰路サンプルを抽出する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、レーダ・レンジ・ゲート幅を供給する前記工程は、約2ナノ秒のレンジ・ゲート幅を供給する工程を含む、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、レーダ帰路サンプルを抽出する前記工程は、アナログ・デジタル変換器(32)で、各レーダ送信に追従するサンプルを抽出する工程を含み、前記サンプルは、高度遅延だけ、レーダ送信に追従する、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、前記レーダ・レンジ・ゲート位置をディザリングする前記工程は、前記アナログ・デジタル変換器(32)に供給されるサンプリング・クロック(14)をディザリングする工程を含む、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、サンプリング・クロック(14)をディザリングする前記工程は、少なくとも1本のプログラム可能遅延線と、サンプリング・クロックと前記A/D変換器(32)に入力されるサンプリング・クロックとの間の多重遅延経路と、を実装する工程を含む、方法。
【請求項6】
レーダ高度計(10)であって、
第1信号を変調するためのシーケンサ(22)と、
前記シーケンサに接続され、前記変調された第1信号を含むレーダ信号を地表に送信するための送信機(20)と、
前記変調された第1信号を含む地表からの反射レーダ信号を受信するための受信機(28)と、
サンプリング・クロック(14)と、
前記サンプリング・クロックに接続されたディザリング回路(15)と、
前記受信機と前記ディザリング回路とに接続されたデジタイザ(32)と、
を含み、
前記デジタイザは、前記変調された第1信号のデジタル・サンプルを作成し、
前記サンプリング・クロックと、前記ディザリング回路と、前記デジタイザとは、前記送信機が前記レーダ信号を送信するアンテナ照射域(102)よりも小さい視域(140)に対応するレーダ・レンジ・ゲート幅を供給し、且つ前記送信機が前記レーダ信号を送信する前記アンテナ照射域内の前記レーダ・レンジ・ゲートの位置をディザリングするレーダ・レンジ・ゲート機能の少なくとも一部を含む、レーダ高度計。
【請求項7】
請求項6に記載のレーダ高度計(10)であって、前記デジタイザ(32)は、アナログ・デジタル(A/D)変換器を含み、前記A/D変換器は、約2ナノ秒のアパーチャ時間を含む、レーダ高度計。
【請求項8】
請求項6に記載のレーダ高度計(10)であって、
プロセッサ(24)を、
更に含み、
前記プロセッサは、前記アナログ・デジタル変換器の単一のサンプリング時間にほぼ等しい時間に設定された前記レーダ・レンジ・ゲート幅を前記デジタイザ(32)に供給する、レーダ高度計。
【請求項9】
請求項6に記載のレーダ高度計(10)であって、前記レーダ・レンジ・ゲートの位置をディザリングするため、前記ディザリング回路(15)は、前記サンプリング・クロック(14)からのサンプリング・クロック信号をディザリングするように構成され、前記ディザリングされたサンプリング・クロック信号は、前記デジタイザ(32)に供給される、レーダ高度計。
【請求項10】
請求項6に記載のレーダ高度計(10)であって、
プロセッサ(24)を、
更に含み、
前記レーダ・レンジ・ゲートの位置をディザリングするため、前記プロセッサは、前記ディザリング回路(15)に、前記変調された第1信号のサンプリングを遅延又は促進させ、その結果、前記レーダ・ゲート位置が、レーダ送信間隔中にレーダ・パルスが約0.30メートル(1フィート)伝播するのに要する時間をプラス又はマイナスして移動される、レーダ高度計。
【請求項11】
レーダ・レンジ・ゲートの位置をディザリングするためのユニットであって、
サンプリング・クロック(14)と、
前記サンプリング・クロックに接続されたディザリング回路(15)と、
前記ディザリング回路に接続されたアナログ・デジタル(A/D)変換器(32)と、
を含み、
前記A/D変換器は、レーダ高度計(10)の各送信に追従してサンプルを抽出し、サンプルが抽出される時間は、前記ディザリング回路によって、前記サンプリング・クロック・サイクルからディザリングされる、ユニット。
【請求項12】
請求項11に記載のユニットであって、前記ディザリング回路(15)は、少なくとも1本のプログラム可能遅延線と、前記サンプリング・クロックと前記デジタイザとの間の複数の選択可能な遅延経路と、を含む、ユニット。
【請求項13】
請求項11に記載のユニットであって、前記ユニットは、レーダ高度計(10)に接続され、前記A/D変換器(32)によって抽出された前記ディザリングされたサンプルは、前記レーダ高度計用のレーダ・レンジ・ゲート幅を備える、ユニット。
【請求項14】
レーダ高度計(10)の動作方法であって、
(a)信号を地表に送信する工程と、
(b)前記送信された信号を反射する域(102)よりも狭い地表の視域(140)に対応する幅を有するレーダ・レンジ・ゲート内で前記送信された信号の反射を受信する工程と、
(c)前記送信された信号を反射する前記域内の前記レーダ・レンジ・ゲートの位置を移動する工程と、
(d)工程(a)、(b)及び(c)を繰り返す工程と、
を含む方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、反射を受信する前記工程は、前記レンジ・ゲート幅と等しいサンプル抽出アパーチャ時間を有するアナログ・デジタル変換器(32)を利用して前記反射をサンプル抽出する工程を含む、方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、前記レーダ・レンジ・ゲートの位置を移動する前記工程は、前記A/D変換器(32)によってサンプルが抽出される時間をディザリングする工程を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−500854(P2007−500854A)
【公表日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533598(P2006−533598)
【出願日】平成16年6月8日(2004.6.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/018098
【国際公開番号】WO2005/031386
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】