説明

レーダ信号処理装置及びドップラ気象レーダ

【課題】 降水エコーのドップラ速度が0m/s付近に集中している場合でも、降水エコーの減衰を招くことなく、地形エコーを除去することができるようにする。
【解決手段】 地形エコーの除去比SCR/速度幅W/速度Vと地形エコー有無判定用のスレッショルドを比較し、それらの比較結果から地形エコーが含まれているか否かを判定する地形エコー有無判定部15を設け、その判定結果が地形エコーが含まれている旨を示す場合、CMTI処理部16により地形エコーが除去されたIQデータを選択し、その判定結果が地形エコーが含まれていない旨を示す場合、地形エコーが除去される前のIQデータを選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、観測対象物に反射されたパルス状の電磁波であるレーダ信号が受信されると、そのレーダ信号に対する地形エコーの除去処理を実施するレーダ信号処理装置と、そのレーダ信号処理装置を搭載しているドップラ気象レーダとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドップラ気象レーダは、空中にパルス状の電磁波であるレーダ信号を放射して、観測対象物に反射されたレーダ信号を受信し、そのレーダ信号に所定の処理を施すことにより、観測対象物の位置・強度・ドップラ速度・速度幅を測定するものである。
しかし、観測対象物以外の物体に反射されたレーダ信号も受信してしまうため、観測対象物の情報を正確に取得するには、そのレーダ信号からクラッタ成分を除去する必要がある。
【0003】
ドップラ気象レーダの観測対象は雨(降水エコー)であり、その他の物体に反射された電磁波がクラッタになる。
ドップラ気象レーダで最も問題となるのは、地表面や地上の構造物などの反射波が原因となる地形クラッタである。
ドップラ気象レーダは地上に固定されており、かつ、地形クラッタ源も静止していることから地形クラッタは0ドップラの速度成分を有する。また、地形クラッタにより反射された電磁波の反射強度が極めて大きいため、観測対象物に対する影響が極めて大きい。
【0004】
このような地形クラッタを除去して移動目標を抽出する処理はMTI(Moving Target Indicator)と呼ばれ、従来から行なわれている。
ドップラ気象レーダにおけるMTI処理は、地形クラッタのドップラ速度成分が0であることを利用して、周波数軸上でドップラ0の成分のみを除去することにより実現している。
ただし、観測対象物である雨の速度成分が視線方向にのみ存在している場合や、ドップラ周波数がナイキスト幅の倍数と同一である場合、やはりドップラ速度が0となるため、上記のMTI処理を実施すると、降水エコーも減衰されることになる。
【0005】
そこで、従来のドップラ気象レーダにおける信号処理装置では、ドップラ0の降水エコーの減衰を補正するため、地形クラッタとして除去した部分の周囲のドップラ周波数点のデータを用いて、地形クラッタとして除去した部分を補間する内挿処理を実施するようにしている。
ただし、降水エコーのドップラ速度が0m/s付近に集中している場合、地形エコーと降水エコーを判別することができないため、上記の内挿処理を実施しても、降水エコーの減衰を防止することができない。
特に、低いPRFでの観測においては、ドップラ速度の折返しが頻繁に発生するため、ドップラ速度が0m/s付近となる箇所が多くなり、降水エコーが減衰するケースが多数発生する。
【0006】
降水エコーの減衰を防止する他の手段が以下の特許文献1に開示されている。
以下の特許文献1に開示されているドップラ気象レーダでは、大気中に放射された電磁波による観測範囲を均等分割して形成されるメッシュ毎に、クラッタ電力データを記憶するとともに、晴天時にクラッタ電力データが更新される静的クラッタマップを有し、雨天時における反射電力データからクラッタマップのクラッタ電力データを減算して、メッシュ毎に降水量を算出するようにしている。
【0007】
上記の方法では、地形エコーが存在する領域のみ減算処理が行われるため、少なくとも地形エコーの存在しないエリアでのドップラ速度0の降水エコーの減衰を予防することができる。
しかし、レーダビームの異常伝搬等によっては、予め設定された地形エコーの位置と異なる位置に地形エコーが現れて、その地形エコーを除去することができなくなることがある。
【0008】
【特許文献1】特開2001−242246号公報(段落番号[0012]から[0013]、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のドップラ気象レーダは以上のように構成されているので、MTI処理を実施して地形エコーを除去する場合、降水エコーのドップラ速度が0m/s付近に集中している状況下では、降水エコーが大きく減衰してしまう課題があった。
なお、静的クラッタマップを用いて地形エコーを除去する場合、3次元の領域に渡って予めグランドクラッタの有無情報を保持しなければならず、多くのメモリ容量を確保する必要が生る。また、レーダビームの異常伝搬等によって、予め設定された地形エコーの位置と異なる位置に地形エコーが現れると、その地形エコーを除去することができなくなる。
【0010】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、降水エコーのドップラ速度が0m/s付近に集中している場合でも、降水エコーの減衰を招くことなく、地形エコーを除去することができるレーダ信号処理装置及びドップラ気象レーダを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係るレーダ信号処理装置は、レーダ信号解析手段の解析結果と所定の閾値を比較し、その比較結果からレーダ信号に地形エコーが含まれているか否かを判定する地形エコー判定手段を設け、地形エコー判定手段の判定結果が地形エコーが含まれている旨を示す場合、地形エコー除去手段により地形エコーが除去された後のレーダ信号を選択して出力し、その地形エコー判定手段の判定結果が地形エコーが含まれていない旨を示す場合、地形エコー除去手段により地形エコーが除去される前のレーダ信号を選択して出力するようにしたものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、レーダ信号解析手段の解析結果と所定の閾値を比較し、その比較結果からレーダ信号に地形エコーが含まれているか否かを判定する地形エコー判定手段を設け、地形エコー判定手段の判定結果が地形エコーが含まれている旨を示す場合、地形エコー除去手段により地形エコーが除去された後のレーダ信号を選択して出力し、その地形エコー判定手段の判定結果が地形エコーが含まれていない旨を示す場合、地形エコー除去手段により地形エコーが除去される前のレーダ信号を選択して出力するように構成したので、降水エコーのドップラ速度が0m/s付近に集中している場合でも、降水エコーの減衰を招くことなく、地形エコーを除去することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるドップラ気象レーダを示す構成図であり、図において、送受信機2は空中線1から空間にパルス状の電磁波であるレーダ信号を放射し、その後、空中線1が観測対象物に反射されたレーダ信号を受信すると、そのレーダ信号に対する復調処理を実施してIQデータ(レーダ信号の信号強度とドップラ周波数を示すデータ)をレーダ信号処理装置3に出力する。
なお、空中線1及び送受信機2から送受信手段が構成されている。
【0014】
レーダ信号処理装置3は送受信機2から出力されたIQデータに対する地形エコーの除去処理を実施する。
気象観測装置4はレーダ信号処理装置3からIQデータを受けると、そのIQデータから降雨強度、ドップラ速度及び速度幅を測定するとともに、動的なクラッタマップを作成する処理を実施する。なお、気象観測装置4は気象観測手段を構成している。
【0015】
図2はこの発明の実施の形態1によるレーダ信号処理装置3を示す構成図であり、図において、NCMTI処理部11は送受信機2から出力されたIQデータのうち、小領域(1レンジビン・1セクタ)のIQデータに対するノンコヒーレントMTI(Moving Target Indicator)処理を実施して、そのIQデータから地形エコーを除去する処理を実施する。
SCR(Signal to Clutter Ratio)算出部12はNCMTI処理部11により地形エコーの除去処理が実施される前のIQデータの強度データTと、NCMTI処理部11により地形エコーの除去処理が実施された後のIQデータの強度データZncとから地形エコーの除去比SCR(=Znc/T)を算出する処理を実施する。
【0016】
速度幅算出部13は送受信機2から出力された小領域(1レンジビン・1セクタ)のIQデータから地形エコーの速度幅Wを算出する処理を実施する。
速度算出部14は送受信機2から出力された小領域(1レンジビン・1セクタ)のIQデータから地形エコーの速幅Vを算出する処理を実施する。
なお、NCMTI処理部11、SCR算出部12、速度幅算出部13及び速度算出部14からレーダ信号解析手段が構成されている。
【0017】
地形エコー有無判定部15はSCR算出部12により算出された地形エコーの除去比SCRと地形エコー有無判定用のSCRスレッショルドSCRth(所定の閾値)を比較するとともに、速度幅算出部13により算出された地形エコーの速度幅Wと地形エコー有無判定用の速度幅スレッショルドWth(所定の閾値)を比較し、また、速度算出部14により算出された地形エコーの速度Vと地形エコー有無判定用の速度スレッショルドVth(所定の閾値)を比較し、これらの比較結果からIQデータに地形エコーが含まれているか否かを判定する処理を実施する。なお、地形エコー有無判定部15は地形エコー判定手段を構成している。
【0018】
CMTI処理部16は送受信機2から出力されたIQデータのうち、小領域のIQデータに対するコヒーレントMTI(Moving Target Indicator)処理を実施して、そのIQデータから地形エコーを除去する処理を実施する。なお、CMTI処理部16は地形エコー除去手段を構成している。
選択処理部17は地形エコー有無判定部15の判定結果が地形エコーが含まれている旨を示す場合、CMTI処理部16により地形エコーが除去されたIQデータを選択して、そのIQデータを気象観測装置4に出力し、地形エコー有無判定部15の判定結果が地形エコーが含まれていない旨を示す場合、送受信機2から出力された小領域のIQデータを選択して、そのIQデータを気象観測装置4に出力する処理を実施する。なお、選択処理部17は信号選択手段を構成している。
【0019】
次に動作について説明する。
送受信機2は、空中線1から空間にレーダ信号(パルス状の電磁波)を放射し、その後、空中線1が観測対象物に反射されたレーダ信号を受信すると、そのレーダ信号に対する復調処理を実施してIQデータ(レーダ信号の信号強度とドップラ周波数を示すデータ)をレーダ信号処理装置3に出力する。
【0020】
レーダ信号処理装置3のCMTI処理部16は、気象観測装置4における気象の観測精度を高めるため、送受信機2からIQデータを受けると、小領域(1レンジビン・1セクタ)のIQデータに対するコヒーレントMTI処理を実施して、そのIQデータから地形エコーを除去する処理を実施する。
ここで、図15(a)はドップラ速度0に高いレベルの地形エコーを含むピリオドグラムを示しており、図15(b)はCMTI処理部16により図15(a)のピリオドグラムからドップラ速度0の部分が除去された状況を示している。
また、図15(c)はCMTI処理部16により地形エコーとして除去された部分が、周囲のドップラ周波数点のデータを用いて補間された状況を示している。
【0021】
したがって、図16(a)に示すように、地形エコーと降水エコーが重畳されている場合、レーダ信号処理装置3のCMTI処理部16がIQデータから地形エコーを除去する処理を実施すると、図16(b)に示すように、降水エコーが減衰することなく、地形エコーのみが除去され、地形エコーの除去処理が降水エコーの観測に影響を与えることがない。
しかし、図17(a)に示すように、降水エコーのドップラ速度が0m/s付近に集中している場合、レーダ信号処理装置3のCMTI処理部16がIQデータから地形エコーを除去する処理を実施すると、図17(b)に示すように、地形エコーの除去に伴って、ドップラ速度が0m/s付近の降水エコーが除去され、0m/s付近の降水エコーが大きく減衰してしまうことがある。この場合、降水エコーの観測に大きな影響を与えることになる。
【0022】
レーダ信号処理装置3のNCMTI処理部11は、後段の地形エコー有無判定部15が地形エコーが含まれているか否かを判定することができるようにする前処理として、送受信機2からIQデータを受けると、小領域(1レンジビン・1セクタ)のIQデータに対するノンコヒーレントMTI処理を実施して、そのIQデータから地形エコーを除去する処理を実施する。
ここで、NCMTI処理部11におけるノンコヒーレントMTI処理のフィルタ特性として、図3に示すようなフィルタ特性が考えられる。
しかし、図3のフィルタ特性は、阻止域における抑圧比は十分に高いが、阻止域境界部分の特性が緩やかであるため、その阻止域境界部分では抑圧比が不十分になり、地形エコーと降水エコーの分離性能に関する感度が鈍くなる可能性がある。
そこで、NCMTI処理部11は、図4に示すように、抑圧比はあるレベルで打ち切りになるが、阻止域境界部分での特性が急峻なフィルタ特性を使用するようにして、地形エコーと降水エコーの分離性能に関する感度を高めている。
【0023】
レーダ信号処理装置3のSCR算出部12は、NCMTI処理部11が地形エコーの除去処理を実施すると、地形エコーの除去処理が実施される前のIQデータの強度データTと、地形エコーの除去処理が実施された後のIQデータの強度データZncとから地形エコーの除去比SCR(=Znc/T)を算出する。
【0024】
レーダ信号処理装置3の速度幅算出部13は、送受信機2から出力された小領域(1レンジビン・1セクタ)のIQデータから地形エコーの速度幅Wを算出する。
また、レーダ信号処理装置3の速度算出部14は、送受信機2から出力された小領域(1レンジビン・1セクタ)のIQデータから地形エコーの速幅Vを算出する。
なお、速度幅算出部13及び速度算出部14における速度幅Wや速幅Vの算出方法は、公知の技術であるため詳細な説明を省略する。
【0025】
レーダ信号処理装置3の地形エコー有無判定部15は、SCR算出部12が地形エコーの除去比SCRを算出すると、その地形エコーの除去比SCRと地形エコー有無判定用のSCRスレッショルドSCRthを比較し、その地形エコーの除去比SCRがSCRスレッショルドSCRthより小さい場合、地形エコーが含まれていると判断する。ただし、地形エコーの反射強度が小さい場合、地形エコーが含まれている場合でも、その地形エコーの除去比SCRがSCRスレッショルドSCRthより大きくなり、誤判定を招くことがある。
【0026】
地形エコー有無判定部15は、上記の誤判定を防止するため、速度幅算出部13により算出された地形エコーの速度幅Wと地形エコー有無判定用の速度幅スレッショルドWthを比較するとともに、速度算出部14により算出された地形エコーの速度Vと地形エコー有無判定用の速度スレッショルドVthを比較する処理を実施する。
地形エコーが含まれている場合、その速度幅Wが狭くなり、速度Vが遅くなる特性があるので、地形エコー有無判定部15は、地形エコーの除去比SCRがSCRスレッショルドSCRthより小さい場合でも、速度幅Wが速度幅スレッショルドWthより狭く、かつ、速度Vが速度スレッショルドVthより遅い場合に限り、IQデータに地形エコーが含まれていると判定する。
したがって、上記の3つの条件のうち、いずれか1つの条件を満たさない場合、IQデータに地形エコーが含まれていないと判定する。
【0027】
レーダ信号処理装置3の選択処理部17は、地形エコー有無判定部15の判定結果が地形エコーが含まれている旨を示す場合、CMTI処理部16により地形エコーが除去されたIQデータを選択して、そのIQデータを気象観測装置4に出力する。
一方、地形エコー有無判定部15の判定結果が地形エコーが含まれていない旨を示す場合、ドップラ速度が0m/s付近の降水エコーが減衰されている可能性が無いIQデータ、即ち、CMTI処理部16により地形エコーの除去処理が実施されていない送受信機2から出力された小領域のIQデータを選択して、そのIQデータを気象観測装置4に出力する処理を実施する。
【0028】
気象観測装置4は、レーダ信号処理装置3からIQデータを受けると、そのIQデータから降雨強度、ドップラ速度及び速度幅を測定するとともに、動的なクラッタマップを作成する処理を実施する。
なお、気象観測装置4による降雨強度等の測定処理や、動的なクラッタマップの作成処理は公知の技術であるため説明を省略する。
【0029】
ここで、図5は動的クラッタマップの評価用データである晴天時の地形エコー情報を示す説明図であり、図6はSCR算出部12により算出された地形エコーの除去比SCRのみを考慮して地形エコーの有無を判定して、動的クラッタマップを作成したときの動的クラッタマップを示している。
図6において、領域Aは地形エコー有りと判定された領域であり、領域Bは地形エコー無しと判定された領域である。
図5と図6を比較すると、地形エコー領域は正確に判定できているが、それ以外の領域では誤判定が存在していることが分かる。
【0030】
図7は速度算出部14により算出された地形エコーの速度Vのみを考慮して地形エコーの有無を判定して、動的クラッタマップを作成したときの動的クラッタマップを示している。
この場合も、ドップラ速度が0m/s付近の降雨エコー領域が誤判定される問題は原理的には回避できていない。しかし、図7を見ると、地形エコー領域は的確に判定されており、また、地形エコーと降雨エコーのドップラ速度が0m/s付近以外の領域での誤判定はほとんど見られないことが分かる。
したがって、速度Vを考慮して地形エコーの有無を判定すれば、ドップラ速度が0m/s付近以外の領域での誤判定を低減することができる。
【0031】
図8は速度幅算出部13により算出された地形エコーの速度幅Wのみを考慮して地形エコーの有無を判定して、動的クラッタマップを作成したときの動的クラッタマップを示している。
この場合、地形エコーの除去比SCRのみを考慮して地形エコーの有無を判定した場合と同様に、地形クラッタ以外の領域での誤判定が出てくることが分かる。
【0032】
図9は地形エコーの除去比SCR、速度幅W及び速度Vのすべてを考慮して地形エコーの有無を判定して、動的クラッタマップを作成したときの動的クラッタマップを示している。
この場合、ドップラ速度が0m/s付近の降雨エコーに若干の誤判定が残るが、全体的な誤判定はかなり減少し、晴天時の地形エコー分布に近づいていることが分かる。
よって、地形エコーの除去比SCR、速度幅W及び速度Vのすべてを考慮して地形エコーの有無を判定して、動的クラッタマップを作成することが有効であり、地形エコーがあるエリアにのみMTI処理を実施することになるため、地形エコーが実在しないエリアについては、ドップラ速度が0m/sである降水エコーの減衰は生じないようになる。
【0033】
図10はドップラ速度0m/s付近の降雨エコーのみの領域のMTI処理前の強度分布を示し、図11はドップラ速度0m/s付近の降雨エコーのみの領域のMTI処理前のドップラ速度分布を示している。
また、図12はレーダ信号処理装置3により処理が実施されたときの強度分布を示し、図13はレーダ信号処理装置3により処理が実施されたときのドップラ速度分布を示している。
また、図14はレーダ信号処理装置3による処理前後のドップラ速度0m/s付近の降雨エコーの強度毎のメッシュのヒストグラムを示している。
これより、MTI処理を実施していないヒストグラムと比較して、コヒーレントMTI処理後のヒストグラムでは、ドップラ速度が0m/sの降水エコーの減衰量は4.61dB、ノンコヒーレントMTI処理後のヒストグラムでは2.52dB、上記処理時には0.49dBとなり、明らかにドップラ速度が0m/sの降水エコーの減衰を防止するのに有効であることが分かる。
【0034】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、地形エコーの除去比SCR/速度幅W/速度Vと地形エコー有無判定用のスレッショルドを比較し、それらの比較結果からレーダ信号に地形エコーが含まれているか否かを判定する地形エコー有無判定部15を設け、地形エコー有無判定部15の判定結果が地形エコーが含まれている旨を示す場合、CMTI処理部16により地形エコーが除去された後のIQデータを選択して出力し、その地形エコー有無判定部15の判定結果が地形エコーが含まれていない旨を示す場合、CMTI処理部16により地形エコーが除去される前のIQデータを選択して出力するように構成したので、降水エコーのドップラ速度が0m/s付近に集中している場合でも、降水エコーの減衰を招くことなく、地形エコーを除去することができる効果を奏する。
【0035】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、地形エコーの除去比SCR、速度幅W及び速度Vのすべてを考慮して地形エコーの有無を判定するものについて示したが、地形エコーの除去比SCR、速度幅W又は速度Vのいずれかのみを考慮して、地形エコーの有無を判定するようにしてもよい。
即ち、地形エコーの除去比SCR、速度幅W又は速度Vのいずれかのみを考慮して、地形エコーの有無を判定すると、上述したように、若干の誤判定を招くことになるが、いずれかのみを考慮しても、ある程度の判定精度は得られるので、高精度の判定精度よりも、装置の簡略化や判定処理速度を優先する場合には、いずれかのみを考慮して、地形エコーの有無を判定するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明の実施の形態1によるドップラ気象レーダを示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1によるレーダ信号処理装置を示す構成図である。
【図3】ノンコヒーレントMTI処理のフィルタ特性を示す説明図である。
【図4】ノンコヒーレントMTI処理の理想的なフィルタ特性を示す説明図である。
【図5】動的クラッタマップの評価用データである晴天時の地形エコー情報を示す説明図である。
【図6】SCR算出部により算出された地形エコーの除去比SCRのみを考慮して地形エコーの有無を判定して、動的クラッタマップを作成したときの動的クラッタマップを示す説明図である。
【図7】速度算出部により算出された地形エコーの速度Vのみを考慮して地形エコーの有無を判定して、動的クラッタマップを作成したときの動的クラッタマップを示す説明図である。
【図8】速度幅算出部により算出された地形エコーの速度幅Wのみを考慮して地形エコーの有無を判定して、動的クラッタマップを作成したときの動的クラッタマップを示す説明図である。
【図9】地形エコーの除去比SCR、速度幅W及び速度Vのすべてを考慮して地形エコーの有無を判定して、動的クラッタマップを作成したときの動的クラッタマップを示す説明図である。
【図10】ドップラ速度0m/s付近の降雨エコーのみの領域のMTI処理前の強度分布を示す説明図である。
【図11】ドップラ速度0m/s付近の降雨エコーのみの領域のMTI処理前のドップラ速度分布を示す説明図である。
【図12】レーダ信号処理装置により処理が実施されたときの強度分布を示す説明図である。
【図13】レーダ信号処理装置により処理が実施されたときのドップラ速度分布を示す説明図である。
【図14】レーダ信号処理装置による処理前後のドップラ速度0m/s付近の降雨エコーの強度毎のメッシュのヒストグラムを示す説明図である。
【図15】CMTI処理部による地形エコーの除去処理の原理を示す説明図である。
【図16】CMTI処理部による地形エコーの除去処理を示す説明図である。
【図17】CMTI処理部による地形エコーの除去処理を示す説明図である。
【符号の説明】
【0037】
1 空中線(送受信手段)、2 送受信機(送受信手段)、3 レーダ信号処理装置、4 気象観測装置(気象観測手段)、11 NCMTI処理部(レーダ信号解析手段)、12 SCR算出部(レーダ信号解析手段)、13 速度幅算出部(レーダ信号解析手段)、14 速度算出部(レーダ信号解析手段)、15 地形エコー有無判定部(地形エコー判定手段)、16 CMTI処理部(地形エコー除去手段)、17 選択処理部(信号選択手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間に放射された後、観測対象物に反射されたパルス状の電磁波であるレーダ信号が受信されると、そのレーダ信号を解析するレーダ信号解析手段と、上記レーダ信号解析手段の解析結果と所定の閾値を比較し、その比較結果からレーダ信号に地形エコーが含まれているか否かを判定する地形エコー判定手段と、上記レーダ信号に対する地形エコーの除去処理を実施する地形エコー除去手段と、上記地形エコー判定手段の判定結果が地形エコーが含まれている旨を示す場合、上記地形エコー除去手段により地形エコーが除去された後のレーダ信号を選択して出力し、上記地形エコー判定手段の判定結果が地形エコーが含まれていない旨を示す場合、上記地形エコー除去手段により地形エコーが除去される前のレーダ信号を選択して出力する信号選択手段とを備えたレーダ信号処理装置。
【請求項2】
レーダ信号解析手段は、レーダ信号に対する地形エコーの除去処理を実施するとともに、その除去処理を実施する前のレーダ信号と、その除去処理を実施した後のレーダ信号とから地形エコーの除去比を算出し、その地形エコーの除去比をレーダ信号の解析結果として地形エコー判定手段に出力することを特徴とする請求項1記載のレーダ信号処理装置。
【請求項3】
レーダ信号解析手段は、レーダ信号から地形エコーの速度幅を算出し、その速度幅をレーダ信号の解析結果として地形エコー判定手段に出力することを特徴とする請求項1または請求項2記載のレーダ信号処理装置。
【請求項4】
レーダ信号解析手段は、レーダ信号から地形エコーの速度を算出し、その速度をレーダ信号の解析結果として地形エコー判定手段に出力することを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載のレーダ信号処理装置。
【請求項5】
地形エコー除去手段が地形エコーの除去処理としてコヒーレントMTI処理を実施し、レーダ信号解析手段が地形エコーの除去処理としてノンコヒーレントMTI処理を実施することを特徴とする請求項2記載のレーダ信号処理装置。
【請求項6】
空間にパルス状の電磁波であるレーダ信号を放射して、観測対象物に反射されたレーダ信号を受信する送受信手段と、上記送受信手段により受信されたレーダ信号を解析するレーダ信号解析手段と、上記レーダ信号解析手段の解析結果と所定の閾値を比較し、その比較結果からレーダ信号に地形エコーが含まれているか否かを判定する地形エコー判定手段と、上記送受信手段により受信されたレーダ信号に対する地形エコーの除去処理を実施する地形エコー除去手段と、上記地形エコー判定手段の判定結果が地形エコーが含まれている旨を示す場合、上記地形エコー除去手段により地形エコーが除去されたレーダ信号を選択して出力し、上記地形エコー判定手段の判定結果が地形エコーが含まれていない旨を示す場合、上記送受信手段により受信されたレーダ信号を選択して出力する信号選択手段と、上記信号選択手段から出力されたレーダ信号から気象を観測する気象観測手段とを備えたドップラ気象レーダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−292476(P2006−292476A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−111180(P2005−111180)
【出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】