説明

レーダ装置、飛翔体誘導装置及び目標検出方法

【課題】ステップ周波数合成帯域レーダのレンジ分解能、複数目標分離性能を損なわずに1パルスをチャープパルスとした合成帯域レーダを実現する。
【解決手段】目標から到来しアンテナ2で受信したチャープパルスをパルス毎にFFT部6にてフーリエ変換し、圧縮係数乗算部7にて圧縮係数を乗算し、補間IFFT部8にてパルス圧縮係数乗算後のスペクトルサンプルの外側に複数のゼロ点を付加して逆フーリエ変換処理を実行するようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる複数の周波数を利用するレーダ装置、飛翔体誘導装置及び目標検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ測距の高精度化の方法として合成帯域レーダがある(非特許文献1)。帯域合成レーダはチャープパルスレーダの周波数を離散化し、ステップ状に周波数を変化させて測距を行う方式である。一般には、非特許文献1に記載されるように、短パルスレーダで行うことが多いが、非特許文献2、特許文献1に記載されるように各パルスをチャープパルスとする方法も提案されている。各パルスをチャープパルスとすることによって、帯域幅を維持しつつ、すなわち、レンジ解像度を落とすことなく1パルスの時間を長くし、パルスのエネルギーを増大させることができる。
【0003】
短パルスの合成帯域で複数目標の分離検出を行う場合、複数パルスを同一周波数ステップ毎にフーリエ変換する段階で、移動速度、すなわちドップラ周波数毎に目標を分離し、さらに、分離されたドップラ周波数毎に合成帯域レンジ波形を計算して、レンジ波形に複数のピークが含まれる場合には、それぞれを異なる目標として検出する。
【0004】
各パルスをチャープパルスとした場合は、ドップラ周波数毎に目標を分離する段階の前のパルス圧縮後波形のピーク毎に目標を分離した後、短パルスの場合と同様にドップラ周波数による目標分離、合成帯域レンジ波形による目標分離を行う。すなわち、3段階に分かれて複数目標を分離する。
【0005】
チャープパルスのドップラ周波数検出については、例えば特許文献2に記載されるように、チャープパルスをパルス圧縮した後に、複数のパルスの圧縮結果をレンジビン毎にフーリエ変換することによってドップラ周波数が計算できることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-257884号公報
【特許文献2】特開平4-188089号公報
【非特許文献1】Donald R. Wehner, “High-Resolution Radar,” ch.5, Artech House Radar Library Series (1987, 1st edition, 1994, 2nd edition,)
【非特許文献2】D.J. Rabideau, “Nonlinear synthetic wideband waveforms”, IEEE Radar Conference 2002, pp.212 - 219
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、チャープパルスを復調する際にはパルス圧縮波形が完全なインパルスではなく、やや広がりを持った波形となるため、複数の目標が近い距離で混在すると、チャープパルスの解像度と距離の関係によっては、ピークが目標の数だけ検出できないことがある。パルス圧縮後の波形のうち、後段の合成帯域に送られる成分は波形のピークに相当するレンジビン成分のみであるため、パルス圧縮波形のピークに成分が含まれない目標は、後段の合成帯域でも検出されず、合成帯域のメリットが生かせない。
【0008】
すなわち、合成帯域は本来、高レンジ解像度の実現方法であるにも拘わらず、チャープパルスの段階での解像度に制約されて、高解像度な複数目標分離が実現できないという問題がある。
【0009】
そこで、この発明の目的は、ステップ周波数合成帯域レーダのレンジ分解能、複数目標分離性能を損なわずに1パルスをチャープパルスとした合成帯域レーダを実現し得るレーダ装置、このレーダ装置を用いた飛翔体誘導装置及び目標検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、この発明に係るレーダ装置は、目標から到来した所定数のパルス毎に中心周波数をステップ状に変化させたチャープパルスの反射波を受信し、デジタルベースバンド信号に変換する受信部と、デジタルベースバンド信号をパルス毎に、パルス圧縮を施し、パルス圧縮後波形のピーク毎のパルス圧縮レンジを検出し、かつ、パルス圧縮後波形のピーク毎の各パルス代表値を抽出するパルス代表値抽出部と、パルス代表値から、そのパルス代表値で検出可能なドップラ周波数から1つ以上の相対速度を検出し、1測定期間内の同一周波数ステップの複数パルスから相対速度毎に各周波数ステップ代表値を抽出する周波数ステップ代表値抽出部と、相対速度を用いて補正した周波数ステップ代表値から合成帯域レンジ波形を算出し、その各ピークから各目標のレンジを検出する合成帯域レンジ検出部とを具備し、パルス代表値抽出部は、n(nは自然数)個のサンプル点で、デジタルベースバンド信号を周波数軸信号に変換するフーリエ変換手段と、このフーリエ変換手段の出力に対し圧縮係数を乗算する圧縮係数乗算手段と、圧縮係数乗算手段の出力を逆フーリエ変換して、n個のサンプル点で与えられる逆フーリエ変換後の信号サンプル点間の成分を計算する演算手段とを備えるようにしたものである。
【0011】
この構成によれば、パルス圧縮後の波形の信号サンプル点間の成分を計算することによりチャープパルスの段階でのピーク検出性能を向上させ、合成帯域のレンジ分解能を損なうことなく合成帯域にチャープパルスを併用することが可能となる。
【0012】
また、演算手段は、逆フーリエ変換を行う際、パルス圧縮係数乗算後のスペクトルサンプルの外側に複数のゼロ点を付加した後に、逆フーリエ変換を行うことによって、信号サンプル点間の成分を計算する。
【0013】
この構成によれば、パルス圧縮係数乗算後のスペクトルサンプルの外側に複数のゼロ点を付加して逆フーリエ変換処理を実行することで、パルス圧縮後の波形の信号サンプル点間の成分が簡単に演算され、これによりチャープパルスの段階でのピーク検出性能を向上させ、合成帯域のレンジ分解能を損なうことなく合成帯域にチャープパルスを併用することが可能となる。
【0014】
演算手段は、逆フーリエ変換を行う際、n点で逆フーリエ変換を行った後、逆フーリエ変換後のパルス圧縮後波形のうち目標ピークが検出されると予想される範囲において、逆フーリエ変換によって生成された信号サンプル点間のいずれかの成分を離散逆フーリエ逆変換によって計算するようにした。
【0015】
この構成によれば、初めから比較的狭い範囲で目標ピークが存在する範囲が限定されている場合に、パルス圧縮の際に全サンプルについての逆フーリエ変換を行う必要がなく、逆フーリエ変換によって生成された信号サンプル点間のいずれかの成分を離散逆フーリエ逆変換によって計算することで、上記と同様に、チャープパルスの段階でのピーク検出性能を向上させ、合成帯域のレンジ分解能を損なうことなく合成帯域にチャープパルスを併用することが可能となる。
【0016】
演算手段は、目標ピークが検出されると予想される範囲におけるパルス圧縮後波形成分を、参照時刻を指定した離散逆フーリエ変換によって計算する。
【0017】
この構成によれば、指定された参照時刻について、目標ピークが存在すると予想される範囲におけるパルス圧縮後波形成分を離散逆フーリエ変換によって計算することで、演算処理数を少なくして、チャープパルスの段階でのピーク検出性能を向上させ、合成帯域のレンジ分解能を損なうことなく合成帯域にチャープパルスを併用することが可能となる。
【0018】
また、この発明に係る飛翔体誘導装置は、上記レーダ装置と、レーダ装置の出力である相対速度、レンジを用いて飛翔体を誘導するための誘導信号を生成する誘導信号生成部とを備えるようにしたものである。
【0019】
この構成によれば、上記レーダ装置により得られた目標の検出結果を利用することにより、より高精度な飛翔体の誘導を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
上記発明によれば、ステップ周波数合成帯域レーダのレンジ分解能、複数目標分離性能を損なわずに1パルスをチャープパルスとした合成帯域レーダを実現し得るレーダ装置、このレーダ装置を用いた飛翔体誘導装置及び目標検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るレーダ装置の一実施形態を示すブロック図。
【図2】チャープパルスのパルス列の構成を示す図。
【図3】同実施形態におけるパルス圧縮・代表値抽出部、速度検出・周波数ステップ代表値抽出部及び合成帯域レンジ検出部の制御処理手順を示すフローチャート。
【図4】同実施形態における複数目標検出の流れを示す図。
【図5】同実施形態におけるパルス圧縮後波形の一例を示す図。
【図6】ショートタイムフーリエ変換を説明するための図。
【図7】ショートタイムを行う場合に窓関数を適用する場合の一例を説明するための図。
【図8】上記図1に示した補間IFFT部でショートタイム逆フーリエ変換を行う場合の構成を示すブロック図。
【図9】IFFT後の波形から補間する範囲を決定する場合の補間IFFT部の構成を示すブロック図。
【図10】指定された範囲について離散フーリエ変換処理を実行する場合の補間IFFT部の構成を示すブロック図。
【図11】本発明に係るレーダ装置の他の実施形態を示すブロック図。
【図12】本発明に係る飛翔体誘導装置の実施形態を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、実施形態では、本発明の動作に直接関係する部分のみを記述し、それ以外は省略している。
【0023】
図1は本発明に係るレーダ装置の一実施形態を示す図である。本実施形態のレーダ装置1は、予め目標までの距離、すなわちレンジがある程度既知であって、詳細な距離の追跡を行う追随レーダである。
【0024】
レーダ装置1は合成帯域レーダであり、アンテナ2と、サーキュレータ3と、送信部4と、受信RF(Radio Frequency)部5とを備えている。このレーダ装置1は、送信部4で生成され所定数のパルス毎に中心周波数をステップ状に変化させたチャープパルスをサーキュレータ3を介してアンテナ2から空間に向けて送出する。このチャープパルスは、図2に示すようなパルス列の構成となる。
【0025】
図2において、横軸は時間であり、縦軸は周波数である。それぞれの四角はパルスを示しており、各パルスはそのパルス内で時間と共に周波数が変化するチャープパルスとなっている。このようなパルスを、同一周波数ステップで所定のPRI(Pulse Repetition Interval)でNパルス送出する。これを所定のM周波数ステップ分、所定の周波数ステップ間隔で周波数を変えながら繰り返す。N×Mパルスで1測定期間、すなわち、1CPI(Coherent Processing Interval)を構成する。
【0026】
レーダ装置1から送出されたチャープパルスは、目標に当たって反射され、アンテナ2で受信される。アンテナ2に入力された信号は、サーキュレータ3を介して、受信RF部5に供給される。受信RF部5では、受信信号は増幅され、ベースバンドにダウンコンバージョンされ、アナログ-デジタル変換されて、デジタル信号に変換される。
【0027】
受信RF部5および送信部4には同一の発振器17の出力が供給され、あるパルスをダウンコンバージョンする際に利用するローカル信号は、そのパルスを生成する際に用いたローカル信号に同期したローカル信号である。すなわち、異なる周波数ステップのパルスは、それぞれの周波数ステップに対応したローカル周波数でベースバンドに周波数変換される。
【0028】
デジタル信号に変換された受信信号は、パルス圧縮・代表値抽出部14に供給される。すると、パルス圧縮・代表値抽出部14は、図3に示す制御処理手順を実行する。
【0029】
パルス圧縮・代表値抽出部14では、まず、FFT部6にて、目標反射波が存在すると予想される期間のサンプルを一定数抽出してフーリエ変換処理を施して、時間軸信号から周波数軸信号に変換して、圧縮係数乗算部7に出力する(ステップST3a)。なお、FFT部6では、フーリエ変換の際のサンプル数をn点としている。圧縮係数乗算部7では、レーダ装置1のチャープパルス仕様に対応した圧縮係数が予め準備されているか、必要に応じて計算し、圧縮係数を乗算する(ステップST3b)。
【0030】
圧縮係数を乗算された受信信号は、補間IFFT部8に出力される。補間IFFT部8では、圧縮係数を乗算された信号に対し逆フーリエ変換処理を施して時間軸信号に戻す(ステップST3c)。なお、補間IFFT部8の出力は、圧縮係数が乗算されたため、元々のパルス長の長いチャープパルスではなく、パルス圧縮されたインパルスに近い波形となっている。
【0031】
また、補間IFFT部8は、少なくとも、後段でピーク検出を行う範囲内について、仮に普通にn点で逆フーリエ変換を行った場合に得られる波形のサンプル点とサンプル点の間の点の値を計算することによって、詳細なパルス圧縮後波形を生成する。このパルス圧縮後波形は、ピーク検出部9に供給される。
【0032】
続いて、ピーク検出部9は、パルス圧縮後波形からピークを検出する(ステップST3d)。つまり、予めおおよそ既知である目標のレンジの範囲内に存在するピークで、予め決定されているピーク検出閾値を超える高さのピークを検出する。
【0033】
この段階で全くピークが検出されないこともあるが、前述のように本実施形態のレーダは追随レーダであるので、少なくとも1つ以上のピークが検出されるものとする。仮に全くピークが検出されない場合には、捜索モードに切り換えたり、過去の結果からトラッキングを利用して目標のレンジを推定する必要があるが、このような処理は本実施形態の内容とは関連しないため省略する。
【0034】
ピーク検出部9で検出されたピーク位置情報は、レンジ検出部10に供給される。レンジ検出部10は、入力されたピーク位置をレンジ(目標までの距離)に変換して出力する(ステップST3e)。ここで推定されたレンジは、後に、合成帯域のレンジと組み合わせて、トータルのレンジを推定し、推定結果として出力される。
【0035】
ピーク検出部9の出力は、さらに、代表値抽出部11に入力される。代表値抽出部11では、ピーク検出部9で検出された1つ以上のピークについて、圧縮後パルスのそのピーク位置の複素値、すなわち、位相と振幅をパルス代表値として抽出する(ステップST3f)。パルス代表値は合成帯域に用いるため、後段の速度検出・周波数ステップ代表値抽出部15に出力される。
【0036】
なお、パルス圧縮・代表値抽出部14はデジタル信号処理を行うブロックであり、実装上は、DSP(Digital Signal Processor)やFPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC、あるいはその他のデジタル信号処理を行う部品内にプログラムとして実装される。従って、パルス圧縮・代表値抽出部14内の各詳細ブロックは動作を説明するための便宜的なものであり、必ずしもこの通りのブロック分割となっている必要は無い。
【0037】
本実施形態では、合成帯域の処理そのものには特徴がないので、合成帯域については以下に簡単に説明する。
まず、速度検出・周波数ステップ代表値検出部15にて、パルス圧縮・代表値抽出部14から出力されたパルス代表値から目標の移動速度が検出される。同一周波数ステップの複数パルスの復調結果を、本実施形態では同一周波数ステップの複数パルスのパルス代表値を、フーリエ変換し(ステップST3g)、その変換後の周波数軸上の複数のピークを検出し(ステップST3h)、これらピーク値から目標反射波のドップラ周波数を検出し(ステップST3i)、これを移動速度に変換する。この段階で複数のピークがドップラ検出閾値を超えて検出されることがあるが、その場合は、それらを個別の目標として、個々に検出する。それぞれのピークについて、その位相と振幅を、そのピークの周波数ステップ代表値として抽出する。
【0038】
個々のピークについて、各周波数ステップ代表値が抽出されたら、これらは合成帯域レンジ検出部16に送られる(ステップST3j)。合成帯域レンジ検出部16では、まず、検出された移動速度に対応して、周波数ステップ代表値を補正する(ステップST3k)。補正の内容については、公知であるので、ここで詳細は述べない。単純には、1CPIの間の目標レンジの変化を補正する処理である。
【0039】
補正された各ステップ代表値は、周波数ステップの周波数の順に並べられて、逆フーリエ変換される(ステップST3l)。逆フーリエ変換の結果はレンジを示すインパルス状の波形となっており、そのピークから合成帯域の結果のレンジを検出する(ステップST3m)。ただし、合成帯域は、離散的な周波数情報に基づいたレンジ検出であるため、周波数ステップ間隔に相当するレンジ範囲で波形が繰り返される。例えば、10MHzの周波数ステップ間隔では、10MHzの波長である30mが測定できる往復の距離に対応する。従って、測定できるレンジ範囲は10MHzならば15mとなり、15mおきに波形が繰り返される。殆どの場合、このような距離範囲は短すぎるため、合成帯域前のパルスで測距した結果のレンジと併せて、トータルの距離を決定する。
【0040】
本実施形態では、チャープパルスの段階で、レンジ検出部10によってレンジが検出されている。チャープパルスの段階では、個々のパルスの帯域幅は合成帯域の全体の帯域幅より狭いため、解像度も比例して粗い。そこで、繰り返される合成帯域レンジのうち、チャープパルスで検出したレンジに最も近いレンジをその目標のトータルのレンジとして出力する。
【0041】
なお、合成帯域のレンジ検出処理でも、複数のピークがレンジ検出閾値を超えて検出されることがある。このような場合は、個々のピークを別個の目標として検出する。
【0042】
図4は複数目標検出の流れを示したものである。パルス圧縮で分離されたピークは、それぞれがドップラ周波数検出ステップST4aに送られて、ドップラ周波数検出でさらに、複数のピークに分離され、分離されたピークは個別に合成帯域でレンジ検出され、ここでもさらに複数のピークに分離される(ステップST4b)。なお、図4では、最終的にn個のピークが検出されているが、場合によっては、これらの中には同一の目標が形を変えて現れていることがある。そのような場合には、それらの融合処理を行う必要があるが、それは本実施形態の内容とは関連しないため省略する。
【0043】
次に、本実施形態の特徴となる部分の動作を説明する。図5は、パルス圧縮後波形の例であり、若干距離の異なる2つの点目標AとBで反射されたパワーのほぼ等しいパルスが合成された受信信号をパルス圧縮した結果の波形であり、点目標AとBのピークを含む近傍を抜き出したものである。
【0044】
図5(a)は、フーリエ変換時の点数がn点であり、逆フーリエ変換時の点数もn点の場合である。点目標Aについてはピークが検出されているが、点目標Bは逆フーリエ変換後のビンとビンの間にピークがあるため、ピークとして検出されない。従って、この波形からピーク検出を行って検出できるピークは点目標Aの矢印で示したピークのみである。
【0045】
ここで点目標Aのピークを検出し、そのピーク位置の位相と振幅をパルス代表値として抽出して、合成帯域の速度検出にかけても、点目標Aの矢印で示された点には、点目標Aの成分は含まれているが、点目標Bの成分は十分に含まれていない。そのため、ドップラスペクトルのピーク検出時に点目標Bの成分が検出閾値を超える保証はない。
【0046】
一方、図5(b)は、パルス圧縮の逆フーリエ変換時にサンプル点を4倍にするショートタイム逆フーリエ変換を適用して、ビンとビンの間の値を算出した場合の波形である。点数4倍のショートタイム逆フーリエ変換であるため、図5(a)のビンとビンの間に3点分計算されている。その結果、図5(a)ではビンとビンの間に挟まってピークとならなかった点目標Bのピークが現れ、点目標Aのピークと明確に区別できていることが分かる。
【0047】
このようにすることによって、合成帯域の1パルスをチャープパルスとした場合でも、チャープパルスの段階で、ピークを見落とすことなく検出することができ、合成帯域の高解像度性を損なうことなく目標のレンジ検出が可能となる。
【0048】
次に、レンジビンとビンの間の点の値を計算する方法について説明する。まず、ショートタイム逆フーリエ変換を利用する方法を説明する。
【0049】
図6はショートタイムフーリエ変換を説明するための図である。「本来の信号」で示される区間があり、これは例えばnサンプルからなる信号である。この外側、大抵の場合は信号の後ろ側に複数サンプルのゼロを付加する。多くの場合、元の信号点数の整数倍の数のゼロを付加する。ゼロを付加した「FFT区間」で示される全体を1フレームとしてフーリエ変換、場合によっては高速フーリエ変換(FFT)処理を施す。
【0050】
仮に3n点のゼロを付加して、全体のサンプル数を4倍にしたとすると、フーリエ変換の点数が4倍になる。従ってフーリエ変換後の点数も4倍になる。一方、フーリエ変換後の帯域幅は、信号のサンプル間隔で決定するので、サンプル間隔を変えない限り、フーリエ変換後の帯域幅は不変である。また、フーリエ変換後のサンプル間隔は、フーリエ変換時のフレーム長で決定する。従って、ショートタイムフーリエ変換を施すことによって、フーリエ変換後のスペクトルのサンプル間隔を細かく取ることが可能となる。
【0051】
なお、本実施形態の補間IFFTで利用される変換は正確には、スペクトルの外側にゼロを付加して行われる「逆」フーリエ変換であって、フーリエ変換ではない。しかし、フーリエ変換と逆フーリエ変換は相関を取る際の位相が反転しているだけで、ほぼ同じ処理である。ショートタイム逆フーリエ変換は、有意なスペクトル成分の外側にゼロを付加して、フレーム長を長くして逆フーリエ変換を行うものであり、ショートタイムという部分に関しては、原理も動作も全く同じである。
【0052】
なお、パルス圧縮の逆フーリエ変換時には、圧縮後波形のスプリアスを抑圧するため、通常、スペクトルに窓関数をかけてから逆フーリエ変換を行う。ショートタイムを行う場合に窓関数を適用する場合は、図7に示すように、本来の信号12の区間に、対応した長さの適切な窓関数波形13をかける。ただし、窓関数波形13として、両端がゼロであるような窓関数波形を利用する際には、その両端のゼロを取り除いた区間が本来の信号の区間と一致するような窓関数を生成して乗算すればよい。ショートタイムを行うために付加したゼロが窓の両端のゼロの役割を果たすためである。
【0053】
なお、そもそもの目的が、ビンとビンの間の値を出力させたいということであるので、ショートタイム逆フーリエ変換を行う際に付加するゼロの点数は、少なくとも元の信号点数と同じ点数、上記の例ならば少なくともn点のゼロを付加して、ビンとビンの間で少なくとも1点以上の成分を計算することが望ましい。もちろん、n点以上のゼロを付加してもかまわない。
【0054】
図8は、補間IFFT部8でショートタイム逆フーリエ変換を行う場合の構成である。補間IFFT部8に入力されたスペクトル信号は、ゼロ付加部18で適切な長さのゼロが付加され、ゼロが付加されたスペクトルはIFFT部19で逆フーリエ変換されることでパルス圧縮されて出力される。
【0055】
ビンとビンの間の成分を計算する他の方法としてはIDFT(離散逆フーリエ変換)を利用する方法がある。
【0056】
例えば、パルス圧縮前の点数は256点であるが、上記図5(a)からも分かるように、レンジを検出する範囲はせいぜい数サンプルの範囲である。DFT,IDFTと比較してFFT,IFFTは処理としては非常に高速であるが、そもそもの点数が非常に多く、ビン間を補間する成分の点数がせいぜい数点である場合には、補間したい点を選択してIDFTを適用する法が処理が少ない場合がある。
【0057】
図9は、IDFTを適用する場合の補間IFFT部8の構成を示す。補間が必要であるレンジ範囲をどの部分で推定するかによって二通りの構成がある。
【0058】
図9は、IFFT後の波形から補間する範囲を決定する場合である。補間IFFT部8に入力されたスペクトル信号は2分岐され、一方は、IFFT部20に入力される。IFFT部20は、元の信号がn点であるならば、n点のまま逆フーリエ変換処理を実行する。
【0059】
逆フーリエ変換の結果は、まず、目標範囲検出部23に送られ、そのピークを含む範囲が特定される。目標範囲検出部23は、さらに、特定されたピークを含む範囲内でIDFTを適用して補間を行うべき点を決定する。決定された点は、IDFT部22に供給される。IDFT部22には、補間IFFT部8への入力が分岐されて入力されており、この入力に対して指定された点でのIDFTを行って合成部21に出力する。合成部21は、IDFT部22の出力と、IFFT部20の出力とを合成して補間されたパルス圧縮後波形を生成し、出力する。
【0060】
IDFTを適用する場合の式を簡単に説明する。圧縮係数乗算後の逆フーリエ変換前のスペクトルは次式のように表される。
【数1】

【0061】
ただし、Nはサンプルレート、Tは目標レンジでのパルス往復時間であって、合成帯域後に検出されるレンジ、Tはチャープパルスをサンプリングするゲート開始時刻からチャープパルス先頭までの時間であってパルス圧縮の段階で検出されるレンジである。ωはそのパルスの送出時のパルス先頭のRF周波数、N3はフーリエ変換を行った際のサンプル数である。Aは目標の振幅である。mは周波数ビン番号である。これにレンジビン番号kについての逆フーリエ変換を掛けると逆フーリエ変換係数は次式のようになる。
【数2】

【0062】
通常のFFTでは、kは整数以外の値を取らないが、(2)式のような計算を直接行う分には、kは整数である必要は無い。従って、図5(a)の横軸において、レンジビン番号として、例えば、0.5, 1.5, 2.5のようなビンとビンの間の番号をkとして指定して(2)式より逆フーリエ変換係数を求めることによって、ビンとビンの間の成分を求めることができる。
【0063】
なお、初めから、比較的狭い範囲でピークが存在する範囲が限定されている場合には、パルス圧縮の際に全ポイントについての逆フーリエ変換を行う必要がない。そこで、ピークが存在すると推定される範囲の中だけ、離散逆フーリエ変換によって成分を求めても良い。
【0064】
図10は、指定された範囲について離散フーリエ変換処理を実行する場合の補間IFFT部8の構成を示す。端子24から目標が存在すると推定される範囲内のIDFTを適用すべき複数の点が入力される。IDFT部22は、指定された点について、前段から入力されたスペクトル信号にIDFTを施し、ピークが存在すると推定される範囲の波形を生成して出力する。
【0065】
このように、上記補間IFFT部8において、目標ピークが検出されると予想される範囲におけるパルス圧縮後波形成分を、参照時刻を指定した離散逆フーリエ変換によって計算するようにしてもよい。
【0066】
このようにすれば、指定された参照時刻について、目標ピークが存在すると予想される範囲におけるパルス圧縮後波形成分を離散逆フーリエ変換によって計算することで、演算処理数を少なくして、チャープパルスの段階でのピーク検出性能を向上させ、合成帯域のレンジ分解能を損なうことなく合成帯域にチャープパルスを併用することが可能となる。
【0067】
なお、(3)式は逆フーリエ変換係数を求める際の係数部分を記述した式であるが、ショートタイム逆フーリエ変換は、(3)式のN3の値を2倍、4倍と言った値に増加させることによって、等価的に端数のkを実現する方法である。
【数3】

【0068】
以上のように、上記実施形態では、目標から到来しアンテナ2で受信したチャープパルスをパルス毎にFFT部6にてフーリエ変換し、圧縮係数乗算部7にて圧縮係数を乗算し、補間IFFT部8にてパルス圧縮係数乗算後のスペクトルサンプルの外側に複数のゼロ点を付加して逆フーリエ変換処理を実行するようにしている。
【0069】
従って、パルス圧縮後の波形の信号サンプル点間(ビンとビンとの間)の成分が簡単に演算され、これによりチャープパルスの段階でのピーク検出性能を向上させ、合成帯域のレンジ分解能を損なうことなく合成帯域にチャープパルスを併用することが可能となる。
【0070】
また、上記実施形態では、補間IFFT部8において、逆フーリエ変換を行う際、n点で逆フーリエ変換を行った後、逆フーリエ変換後のパルス圧縮後波形のうち目標ピークが検出されると予想される範囲において、逆フーリエ変換によって生成された信号サンプル点間のいずれかの成分を離散逆フーリエ逆変換によって計算するようにしている。
【0071】
従って、初めから比較的狭い範囲で目標ピークが存在する範囲が限定されている場合に、パルス圧縮の際に全サンプルについての逆フーリエ変換を行う必要がなく、逆フーリエ変換によって生成された信号サンプル点間のいずれかの成分を離散逆フーリエ変換によって計算することで、上記と同様に、チャープパルスの段階でのピーク検出性能を向上させ、合成帯域のレンジ分解能を損なうことなく合成帯域にチャープパルスを併用することが可能となる。
【0072】
図11は本発明に係るレーダ装置の他の実施形態を示す図である。なお、図1と殆ど同様であるが、送信部を有さない、受信専用の形態となっている。レーダの方式としては、送信部と受信部が同一機器に搭載されているアクティブ型の他に、送信部と受信部が異なる機器に搭載され、異なる位置に配置されるバイスタティック型がある。図11はバイスタティック型レーダの受信機に本願の発明を搭載する際の形態である。送信部を有さない他に図1と異なる点は、アンテナ25は受信用アンテナであることと、送信部と同期した発振器を持たず、受信RF部26の中に図示しない発振器が備えられていることである。他は図1と同様であるので説明を省略する。
【0073】
図12は、本発明に係る飛翔体誘導装置の実施形態を示すブロック図である。本発明のレーダ装置1の出力および他のN個のセンサ26−1〜26−Nの出力が誘導信号生成部27に入力される。誘導信号生成部27は、本発明のレーダ装置1を搭載する飛翔体を誘導するための誘導信号を生成し、飛翔体の操舵装置28に出力する。本発明のレーダ装置1を飛翔体誘導装置30に搭載することによって、より高精度な飛翔体の誘導を行うことが可能となる。
【0074】
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1…レーダ装置、2…アンテナ、3…サーキュレータ、4…送信部、5…受信RF部、6…FFT部、7…圧縮係数乗算部、8…補間IFFT部、9…ピーク検出部、10…レンジ検出部、11…代表値抽出部、14…パルス圧縮・代表値抽出部、15…速度検出・周波数ステップ代表値抽出部、16…合成帯域レンジ検出部、17…発振器、18…ゼロ付加部、22…IDFT部、23…目標範囲検出部、26−1〜26−N…センサ、27…誘導信号生成部、28…操舵装置、30…飛翔体誘導装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標から到来した所定数のパルス毎に中心周波数をステップ状に変化させたチャープパルスの反射波を受信し、デジタルベースバンド信号に変換する受信部と、
前記デジタルベースバンド信号をパルス毎に、パルス圧縮を施し、パルス圧縮後波形のピーク毎のパルス圧縮レンジを検出し、かつ、パルス圧縮後波形のピーク毎の各パルス代表値を抽出するパルス代表値抽出部と、
前記パルス代表値から、そのパルス代表値で検出可能なドップラ周波数から1つ以上の相対速度を検出し、1測定期間内の同一周波数ステップの複数パルスから前記相対速度毎に各周波数ステップ代表値を抽出する周波数ステップ代表値抽出部と、
前記相対速度を用いて補正した前記周波数ステップ代表値から合成帯域レンジ波形を算出し、その各ピークから各目標のレンジを検出する合成帯域レンジ検出部とを具備し、
前記パルス代表値抽出部は、
n(nは自然数)個のサンプル点で、前記デジタルベースバンド信号を周波数軸信号に変換するフーリエ変換手段と、
このフーリエ変換手段の出力に対し圧縮係数を乗算する圧縮係数乗算手段と、
前記圧縮係数乗算手段の出力を逆フーリエ変換して、前記n個のサンプル点で与えられる逆フーリエ変換後の信号サンプル点間の成分を計算する演算手段とを備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
さらに、所定数のパルス毎に中心周波数をステップ状に変化させてチャープパルスを送信する送信部とを備えたことを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記演算手段は、前記逆フーリエ変換を行う際、前記パルス圧縮係数乗算後のスペクトルサンプルの外側に複数のゼロ点を付加した後に、逆フーリエ変換を行うことによって、信号サンプル点間の成分を計算することを特徴とする請求項1または2記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記複数のゼロ点はn点以上であることを特徴とする請求項3記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記演算手段は、前記逆フーリエ変換を行う際、n点で逆フーリエ変換を行った後、逆フーリエ変換後のパルス圧縮後波形のうち目標ピークが検出されると予想される範囲において、逆フーリエ変換によって生成された信号サンプル点間のいずれかの成分を離散逆フーリエ逆変換によって計算することを特徴とする請求項1または2記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記演算手段は、目標ピークが検出されると予想される範囲におけるパルス圧縮後波形成分を、参照時刻を指定した離散逆フーリエ変換によって計算することを特徴とする請求項1または2記載のレーダ装置。
【請求項7】
請求項1記載のレーダ装置と、レーダ装置の出力である相対速度、レンジを用いて飛翔体を誘導するための誘導信号を生成する誘導信号生成部とを備えたことを特徴とする飛翔体誘導装置。
【請求項8】
目標から到来した所定数のパルス毎に中心周波数をステップ状に変化させたチャープパルスの反射波を受信し、デジタルベースバンド信号に変換する受信部を有するレーダ装置で使用される目標検出方法において、
前記デジタルベースバンド信号をパルス毎にパルス圧縮を施すべくn(nは自然数)個のサンプル点で、前記デジタルベースバンド信号を周波数軸信号に変換し、
このフーリエ変換出力に対し圧縮係数を乗算し、
前記乗算結果を逆フーリエ変換して、前記n個のサンプル点で与えられる逆フーリエ変換後の信号サンプル点間の成分を計算し、
前記演算されたパルス圧縮後波形のピーク毎のパルス圧縮レンジを検出し、かつ、パルス圧縮後波形のピーク毎の各パルス代表値を抽出し、
前記パルス代表値から、そのパルス代表値で検出可能なドップラ周波数から1つ以上の相対速度を検出し、1測定期間内の同一周波数ステップの複数パルスから前記相対速度毎に各周波数ステップ代表値を抽出し、
前記相対速度を用いて補正した前記周波数ステップ代表値から合成帯域レンジ波形を算出し、その各ピークから各目標のレンジを検出するようにしたことを特徴とする目標検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−149805(P2011−149805A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11097(P2010−11097)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】