説明

レーダ装置及び物標位置検出方法

【課題】ビーム角度ごとの反射ビームの強度が複数の極大値を有するような分布形状を形成したときに,1つの物標からの反射ビームによるものであるかを判別して,精度よく物標位置を検出する。
【解決手段】スキャン式レーダ装置により,所定のビーム角度ごとに順次ビームを射出してスキャンを行い,ビーム角度ごとの反射ビームの強度の分布形状を求め,スキャンごとに分布形状が極大値を示す角度方向を1つの物標位置として検出する。そして第1のスキャンにおいて1つの極大値を有する第1の分布形状が形成された後,第2のスキャンにおいて複数の極大値を有する第2の分布形状が形成され,且つ第1の分布形状を形成する反射ビーム本数の合計と第2の分布形状を形成する反射ビーム本数の合計との差が基準値以下である場合は,当該第2のスキャンでは第2の分布形状に基づき1つの物標位置を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,所定のビーム角度ごとにビームを射出してスキャンを行うレーダ装置及びその物標検出方法に関し,特に,前記ビーム角度ごとの反射ビームの強度の分布形状を求め,前記スキャンごとに前記分布形状が極大値を示す角度方向を1つの物標位置として検出するレーダ装置及びその物標位置検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,車両の予防安全システムにおいては,車両前方約100メートルをミリ波やレーザなどを用いたレーダ装置により探索し,前方の車両の位置,自車両との距離及び相対速度を検出して,その検出結果に基づき車間距離制御を行っている。すなわち,レーダ装置により検出される前方の車両の位置情報等に基づき車間距離制御ECU(Electronic Control Unit)がブレーキやスロットルなどを制御して,前方の車両との距離を適切に保つように自車両の速度を加減する。かかる車間距離制御に用いられるレーダ装置の例として,車両前方に対し所定のビーム角度ごとに順次ビームを射出してスキャンを行うスキャン式レーダ装置が特許文献1に開示されている。
【0003】
一般にスキャン式レーダ装置においては,図1(A)に示すようにレーダアンテナ1が一定のスキャン範囲を所定のビーム角度θ度ずつ揺動しながらビームBmを射出し,ビーム角度θ1,θ2,…,θn−1,θnごとの反射ビームの強度を求め,その分布形状に基づいて物標T,つまり前方の車両が存在する角度方向を検出する。具体的には,物標の中心部ではビームの反射量が最も多く,物標の端部では反射量が少なくなることを利用して,ビーム角度をパラメータとして分布する反射ビームの強度を補間し,その結果図1(B)に示すように極大値Sを有する山状の分布形状が形成されるとき,それらの反射ビームは1つの物標からの反射によるものと判断し,極大値Sの角度方向θcを物標Tの中心位置Cとして検出する。
【特許文献1】特許第3447234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のスキャン式レーダ装置によれば,スキャン範囲内に複数の物標が存在している場合は各物標からの反射ビームの強度がそれぞれ極大値を有する複数の山状の分布形状を形成し,それぞれの極大値の角度方向に対応して各物標の中心位置が検出される。そして,検出結果に基づいて車間距離制御ECUでは複数の物標,つまり前方の車両に対して車間距離制御を行う。
【0005】
しかしながら,1つの物標によるビームの反射が常に均一とは限らず,例えば前方の車両がトラックなどであって車体表面に突起物を有しておりビームが均一に反射されない場合や,カーブを曲がる前方の車両の側面などでビームが反射される場合には,図1(C)に示すように1つの物標からの反射ビームの強度の分布形状が複数の極大値S1,S2を有する場合がある。また反射ビームに重畳されるノイズの影響により,複数の極大値を有する分布形状が形成される場合もある。
【0006】
このような場合,極大値S1,S2に対応する角度方向θc1,θc2はそれぞれ物標Tの実際の中心位置Cとは異なるので,例えば角度方向θc1を物標の中心位置C1として検出すると,実際の物標の中心位置Cとは誤差が生じてしまう。さらにこの場合は,角度方向θc2に対応して実際には存在しない物標の位置C2も検出されることになる。かかる検出結果に基づく物標の位置情報が車間制御ECUに供給されて車間距離制御が行われると,前方の車両の位置の誤検出や存在しない前方の車両に対する車間距離制御などの誤動作を生じることになり,予防安全システムの信頼性が損なわれてしまう。
【0007】
そこで,上記に鑑みてなされた本発明の目的は,ビーム角度ごとの反射ビームの強度が複数の極大値を有するような分布形状を形成したときに,1つの物標からの反射ビームによるものであるかを判別して,精度よく物標の中心位置を検出することができるレーダ装置及びその物標位置検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために,本発明の第1の側面によれば,所定のビーム角度ごとに順次ビームを射出してスキャンを行い,前記ビーム角度ごとの反射ビームの強度の分布形状を求め,前記スキャンごとに前記分布形状が極大値を示す角度方向を1つの物標の中心位置として検出するレーダ装置において,第1のスキャンにおいて1つの極大値を有する第1の分布形状が形成された後,第2のスキャンにおいて近接する複数の極大値を有する第2の分布形状が形成され,且つ前記第1の分布形状を形成する反射ビーム本数の合計と前記第2の分布形状を形成する反射ビーム本数の合計との差が基準値以下である場合は,当該第2のスキャンでは前記第2の分布形状に基づき1つの物標の中心位置を検出することを特徴とする。
【0009】
上記側面の好ましい実施態様によれば,上記レーダ装置は車両に搭載されて車両周囲に対して前記スキャンを繰り返し行い,前記物標の中心位置のスキャンごとの変化量が所定範囲内の場合に,物標の中心位置情報を当該車両の走行制御を行う走行制御装置へ出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記側面によれば,第1のスキャンにおいて1つの極大値を有する第1の分布形状を形成する反射ビーム本数の合計と第2のスキャンにおいて複数極大値を有する第2の分布形状を形成する反射ビーム本数の合計との差が基準値以下の場合は,第2のスキャンでは1つの物標からの反射ビームにより複数の極大値が形成されたと判断して当該第2の分布形状に基づき1つの物標の中心位置を検出する。よって,一律に1つの極大値から1つの物標の中心位置を求めることにより実際の物標の中心位置とは異なる位置を検出したり,実際には存在しない物標の位置を検出したりすることを防ぎ,精度よく物標の位置を検出することができる。
【0011】
また,上記レーダ装置を車両の予防安全システムに適用する場合は,車両周囲のスキャンを行い,検出される物標(前方の車両等)の中心位置に基づいて走行制御を行うので,走行制御装置へ供給される物標の中心位置情報は有る程度以上の信頼性が求められる。具体的には物標の中心位置が一定回数のスキャンで連続して検出され,その位置がスキャンの時間間隔に比べて極端に大きく変化していないことが求められる。上記実施態様によれば,第2のスキャンでは第2の分布形状に基づき1つの物標の中心位置を検出するので,第1のスキャンで検出される物標の中心位置との変化量が極端に大きくなることなく,信頼性の高い物標の位置情報を走行制御装置へ供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下,図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し,本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず,特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0013】
図2は,本実施形態におけるレーダ装置と,レーダ装置が適用される車両の予防安全システムの構成例を説明する図である。車両に搭載されるレーダ装置20は,ミリ波のレーダアンテナ1と,レーダアンテナ1のスキャン機構1a,レーダアンテナで受信する反射ビームの信号処理を行う信号処理回路2とを有する。信号処理回路2のスキャン角制御部21はスキャン機構1aに制御信号を送り,スキャン機構1aは所定のビーム角度,例えば自車両の前方中央を基準にプラスマイナス8度の範囲を100ミリ秒ごとに1度ずつ順次アンテナ1を揺動させ,それぞれのビーム角度でビームを射出させてスキャンを実行する。
【0014】
信号処理回路2のレーダ信号処理部22はレーダアンテナ1が受信する反射ビームをFFT処理し,ビーム角度ごとにパワースペクトルを検出して,反射ビームの強度のデータを物標認識部23へ入力する。すると物標認識部23は物標の中心位置,距離及び速度を算出してそのデータを車間距離制御ECU3へ入力する。車間距離制御ECU3は,車両の「走行制御装置」に対応し,ステアリングセンサ5,ヨーレートセンサ6,車速センサ7から自車両の走行情報を,レーダ装置20の信号処理回路からは前方の車両の位置,距離,速度等の情報を受け,これに基づいて車間距離を適切に保つような自車速度の制御量を算出し,その結果に基づいてブレーキ9,スロットル10を制御して自車速度を制御し,あるいは警報機8により乗員に警告を行う。
【0015】
ここで,図3を用いて物標認識部23による物標の中心位置の検出方法を説明する。図3はレーダ信号処理部12により検出されて物標認識部23に入力される,ビーム角度ごとの反射ビームの強度を説明する図である。図3には,ビーム角度θ1,θ2,…,θ7ごとに,強度P1,P2,…,P7の7本の反射ビームが示される。
【0016】
まず,物標認識部23は1つの物標からの反射ビームをグルーピングするために,反射ビームの強度の最大値P4とそのビーム角度θ4とを求める。そして,ビーム角度θ4に隣接するビーム角度θ3,θ2,…,およびθ5,θ6,…,の反射ビームの強度が順次減少するような反射ビームのグループG1を求める。すると7本の反射ビームはすべてグループG1に含まれる。すなわち,これらの7本の反射ビームの強度は次の補間処理によって1つの極大値を有する分布形状を形成するので,同一の物標からの反射ビームと判断される。なお,「分布形状」は複数の反射ビームの強度を補間して得られる形状をいい,以下の文中では2次補間により得られる2次曲線を例に説明する。
【0017】
次に物標認識部23は,グループG1に含まれる反射ビームの角度分解能を補間するために強度P1,…,P7を2次補間してすべての強度を含む曲線である分布形状M1を求め,分布形状M1における極大値Smとこれに対応する角度方向θmを算出する。すると,角度方向θmがグループG1に対応する物標の中心位置として検出される。なお,分布形状M1の全域を求める代わりに強度の最大値P4とその両隣の反射ビームの強度P3,P5とを用いて3点間を2次補間することにより,より少ない処理量で極大値Smとその角度方向θmを算出することも可能である。
【0018】
このように物標認識部23では,物標の中心部ではビームの反射量が最も多く,物標の端部では反射量が少なくなることを利用して,反射ビームの強度が極大値を示す角度方向が物標の中心位置として検出される。すると,極大値が複数形成されるような分布形状からは物標が複数存在すると判断し複数物標の中心位置が検出されることになる。
【0019】
しかしながら,1つの物標によるビームの反射が常に均一とは限らず,また反射ビームに重畳されるノイズの影響によっても1つの物標からの反射ビームの強度が複数の極大値を有するような分布形状を形成する場合がある。そのような場合に,一律に1つの極大値から1つの物標の中心位置を求めると,実際の物標の中心位置が誤検出されたり,実際には存在しない物標の位置が検出されたりして,かかる検出結果に基づく車間距離制御の信頼性が損なわれてしまう。そこで,本実施形態では,後述する手順に従って,反射ビームの強度が複数の極大値を有するような分布形状を形成したときに,1つの物標からの反射ビームによるものであるかを判別し,判別結果に応じて物標の中心位置の検出を行う。
【0020】
図4は物標認識部23による物標位置の検出手順を説明するフローチャート図である。図5は,反射ビームの強度が1つの極大値を有するような分布形状を形成するスキャン結果の例を示す図である。図5には,ビーム角度θ1,θ2,…,θ7ごとに,強度P51,P52,…,P57の強度を有する7本の反射ビームが示される。まず,図5を用いつつ,図4に従って反射ビームの強度が1つの極大値を有する分布形状を形成する場合の物標位置検出手順について説明する。その際,図5の結果が得られたスキャンの前回のスキャンでは,上述の図3の結果が得られたものとする。
【0021】
まず,物標認識部23は1つの物標からの反射ビームをグルーピングする(手順S1)。すなわち,最大値P55を有するビーム角度θ5の反射ビームを中心に7本の反射ビームで構成されるグループG2を求める。
【0022】
次に物標認識部23は,前回のスキャン結果から,グループG2に対応する物標と同一の物標を検索する(手順S2)。具体的には,まずグループG2における反射ビームの強度の最大値P55とこれに対応するビーム角度θ5に最も近似した極大値と角度方向を有する物標を前回のスキャンの検出結果から検索する。ここで,前回のスキャンでは図3に示した検出結果が得られたので,グループG2に対応する物標と同一の物標としてグループG1に対応する物標が検索され,グループG1とグループG2とが対応付けされる。
【0023】
次に物標認識部23は,前回のスキャンでグループG1に含まれるビームの本数と,今回のスキャンでグループG2に含まれるビームの本数とを比較する(手順S3)。すると,グループG1に含まれるビームと,グループG2に含まれる反射ビームはともに7本であるので,ビーム本数は等しい(手順S4の「NO」)。よって,グループG1とグループG2とは同一物標からの反射ビームにより構成されていると判断し,手順S9に進む。
【0024】
そして手順S9では,物標認識部23はグループG2に含まれる反射ビームの強度P51,…,P57を2次補間して分布形状M2における極大値Sm2とこれに対応する角度方向θm2を求め,角度方向θm2をグループG2に対応する物標の中心位置として検出する。なお,検出結果は物標認識部23内のメモリに格納され,次のスキャンにおける比較に用いられる。
【0025】
さらに,物標認識部23は前回のスキャンで検出された物標の中心位置と,今回のスキャンで検出された物標の中心位置との変化量が予め定められた所定範囲内,例えば1度以内であれば(手順S10のYES),今回の物標の中心位置情報を車間距離制御ECU3に出力する(手順S11)。このように,過去のスキャンにおける物標の中心位置,つまり極大値の角度方向の変化量を監視してその変化量が所定範囲内の場合に,より信頼性の高い物標の中心位置情報を車間距離制御ECU3に提供できる。また,物標の中心位置の変化量を監視する対象となるスキャンの回数は任意に設定可能であり,あるいは連続したスキャンでなくてもよく,過去複数回のスキャンにおいて一定回数以上のスキャンを対象としてもよい。あるいは,さらに信頼性を高めるために,角度方向に加えて極大値の変化量を監視し,その変化量が一定範囲内であることを車間距離制御ECU3へ物標の中心位置情報を出力するための条件としてもよい。
【0026】
次に,図4,図6,図7を用いて,反射ビームの強度が2つの極大値を有するような分布形状を形成する場合の物標位置検出手順について説明する。図6には,ビーム角度θ1,θ2,…,θ7ごとに,強度P61,P62,…,P67の強度を有する7本の反射ビームが示され,反射ビームの強度を2次補間すると1つの極大値を有する山状の分布形状M3,M4がそれぞれ形成される。ここで,分布形状M3とM4とが2つの極大値を有する「第2の分布形状」に対応する。また図7は,反射ビームの強度の分布形状が複数の極大値を有する場合の物標認識部23による物標位置の検出方法について説明する図である。
【0027】
まず物標認識部23は1つの物標からの反射ビームをグルーピングする(手順S1)。すなわち,反射ビームの強度の最大値P63とそのビーム角度θ3とを求め,ビーム角度θ3に隣接するビーム角度θ2,θ1,およびθ4の強度が順次減少するような反射ビームのグループG3を求める。するとビーム角度θ1〜θ4の4本の反射ビームによりグループG3が構成される。次に,グループG3に含まれないビーム角度θ5〜θ7の3本の反射ビームに対し同様のグルーピングを行うと,強度P66を最大値としてこれらの反射ビームによるグループG4が構成される。この時点では,グループG3に含まれる反射ビームで構成される分布形状M3と,G4に含まれる反射ビームで構成される分布形状M4とがそれぞれ極大値を有することになるので,それぞれのグループが異なる物標からの反射ビームにより構成されている可能性がある。よって,以降の手順でグループG3,G4が同一の物標からの反射ビームによるものであるかを判別する。
【0028】
次に物標認識部23は前回のスキャン結果から,グループG3,G4に対応する物標と同一の物標を検索する(手順S2)。具体的には,まずグループG3における強度の最大値P63とこれに対応するビーム角度θ3,またはグループG4における強度の最大値P66とこれに対応するビーム角度θ6に最も近似した極大値と角度方向を有する物標を前回のスキャンの検出結果から検索する。
【0029】
ここで再び,前回のスキャンでは図3に示した検出結果が得られたとすると,図3のグループG1に含まれる反射ビームで形成される分布形状M1の極大値Smとその角度方向θmは,グループG3の最大値P63とそのビーム角度θ3と最も近似している。よって,前回のスキャンで検出されたグループG1に対応する物標と今回のスキャンで検出されたグループG3に対応する物標は同一物標と仮に判断し,グループG1とグループG3とを対応付ける。
【0030】
次に物標認識部23は,前回のスキャンでグループG1に含まれる反射ビームの本数の合計と,今回のスキャンでグループG3に含まれる反射ビームの本数の合計とを比較する(手順S3)。すると,グループG1に含まれる反射ビームが7本であるのに対し,グループG3に含まれる反射ビームは4本であり,ビーム本数が減少しているので(手順S4の「YES」),手順S5に進む。
【0031】
手順5では,物標認識部23は最も隣接した角度方向の極大値を有するグループG4を検索する(手順S6の「YES」)。そして,グループG4と,グループG3とが同一の物標からの反射であるか否かを確認するために,グループG3を形成する反射ビーム本数(4本)とグループG4を形成する反射ビーム本数(3本)との合計(7本)と,前回スキャンのグループG1を形成する反射ビーム本数(7本)との差を求め,予め設定される基準値と比較する。ここで,仮に基準値を0本とすると求めた差は基準値以下であり,同一の物標からの反射ビームによりグループG3とG4とが形成されていると判断される(手順S7の「YES」)。よって,手順S8へ進み,グループG3,G4を形成する反射ビームにより形成される分布形状M3,M4に基づいて物標の中心位置を検出する。なお,手順S7における基準値は,上記に限られず,任意に設定することが可能である。
【0032】
手順S8で物標認識部23は,図7(A)〜(C)で示す方法によって物標の中心位置を検出する。図7(A)に示す第1の例では,物標認識部23は2つのグループG3,G4を形成する7本のビームのうち両側端のビームBm1,Bm7のビーム角度θ1,θ7に対応する水平位置の中点CDを物標の中心位置として求める。また,図7(B)に示す第2の例では,物標認識部23は分布形状M3,M4からなる分布形状が有する極大値Sm3,Sm4に対応するビーム角度θm3,θm4の幅の中心の角度θc5を物標の中心位置として求める。
【0033】
あるいは,図7(A)に示した第1の例と図7(B)に示した第2の例とを組合せ,図7(A)における両側端のビームBm1,Bm7のビーム角度θ1,θ7の幅の中心の角度を物標の中心位置として求めてもよい。あるいは,図7(B)に示す極大値Sm3,Sm4に対応するビーム角度θm3,θm4に対応する水平位置の中点を物標の中心位置として求めてもよい。
【0034】
さらに,図7(C)に示す第3の例では,物標認識部23は,分布形状M3,M4により形成される領域Rの面積を2等分するような角度方向θc6を物標の中心位置として求める。あるいは,領域Rの面積を2等分するような水平方向の位置CD2を求めても良い。なおこの例は,分布形状M3,M4が図示するように重複した領域を有さない場合にも適用される。
【0035】
このように図7(A),(B),(C)では代表的な物標位置検出方法の例を3つ示したが,複数の極大値を有する反射ビームから1つの物標の位置を検出するその他の公知の方法を用いてもよい。
【0036】
上述のようにしてグループG3,G4を形成する反射ビームの位置,またはその強度により形成される分布形状M3,M4に基づいて物標の中心位置を検出した後,物標認識部23は物標の中心位置のスキャンごとの変化量が所定範囲内であれば(手順S10のYES)物標の中心位置情報を車間距離制御ECU3に出力する(手順S11)。
【0037】
このように,反射ビームの強度の分布形状が複数の極大値を有するときに,1つの物標からの反射ビームによるものであるかを判別することにより,実際は存在しない物標の位置を検出してしまい,不要なデータを車間制御ECU3へ供給することを防ぐことができる。さらに,反射ビームの強度の分布形状が複数の極大値を有するときであっても,その分布形状に基づいて1つの物標の中心位置を精度よく検出することができる。
【0038】
なお,本実施形態は,反射ビームの強度が3つ以上の極大値を有する場合にも適用できる。その場合は,物標認識部23は図4の手順S5〜手順S7を繰り返し,最も近接した極大値を有する反射ビームのグループを順次検索してゆき,反射ビームの本数の合計と前回のグループに含まれる反射ビームの本数との差が所定範囲内になるようなグループを求める。そして,求められたグループを対象として手順S8を実行する。その際,図7(A)の第1の例では,すべてのグループを形成する反射ビームのうち両側端のビームを用いる。また図7(B)の第2の例では,それぞれの極大値の角度方向のうち,その幅が最大となる2つ角度方向を用いる。また図7(C)の第3の例では,すべてのグループを形成する反射ビームの強度の分布形状により形成される領域の面積を用いる。
【0039】
なお上述の説明において反射ビームの分布形状は2次補間により求められるが,1次補間,あるいはさらに高次の補間方法を用いてもよい。
【0040】
図8は,レーダ装置20が車両に搭載された例を示す平面図である。レーダ装置20は車両100の前部に搭載され,車両100前面のバンパーやフロントグリル,ナンバープレート板脇などに設けられるレドームを透過して車両100の前方(矢印F)へのビームの射出と,反射ビームの受信が行われる。また,レーダ装置20は車両100の前方だけでなく,後部や側面部に搭載されてもよく,車両100の後方や側方をスキャンするように構成することも可能である。その場合も上述した実施形態と同様に実施可能であり,同様の作用効果を奏する。
【0041】
また,上述のレーダ装置においては,物標認識部23は物標の中心位置の検出をレーダ1による1回のスキャンごとに行っているが,物標の中心位置検出の頻度はこれに限られず,複数回のスキャンごとに行うようにしてもよい。さらに,本実施形態はミリ波レーダだけでなく,レーザなどの指向性のビームを用いたレーダ装置にも適用できる。
【0042】
以上説明したように,本実施形態によれば,ビーム角度ごとの反射ビームの強度が複数の極大値を有するような分布形状を形成したときに,1つの物標からの反射ビームによるものであるかを判別して,精度よく物標の中心位置を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】従来のスキャン式レーダ装置による物標位置検出方法を説明する図である。
【図2】本実施形態におけるレーダ装置と,レーダ装置が適用される予防安全システムの構成例を説明する図である。
【図3】物標認識部23による物標位置の検出方法を説明する図である。
【図4】物標認識部23による物標位置の検出手順を説明するフローチャート図である。
【図5】反射ビームの強度が1つの極大値を有するような分布形状を形成するスキャン結果の例を示す図である。
【図6】反射ビームの強度が複数の極大値を有するような分布形状を形成するスキャン結果の例を示す図である。
【図7】反射ビームの強度の分布形状が複数の極大値を有する場合の物標認識部23による物標位置の検出方法について説明する図である。
【図8】レーダ装置20が車両に搭載された例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0044】
1:レーダアンテナ,2:信号処理回路,3:車間距離制御ECU,
20:レーダ装置,22:レーダ信号処理部,23:物標認識部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のビーム角度ごとに順次ビームを射出してスキャンを行い,前記ビーム角度ごとの反射ビームの強度の分布形状を求め,前記スキャンごとに前記分布形状が極大値を示す角度方向を1つの物標の中心位置として検出するレーダ装置において,
第1のスキャンにおいて1つの極大値を有する第1の分布形状が形成された後,第2のスキャンにおいて複数の極大値を有する第2の分布形状が形成され,且つ前記第1の分布形状を形成する反射ビーム本数の合計と前記第2の分布形状を形成する反射ビーム本数の合計との差が基準値以下である場合は,当該第2のスキャンでは前記第2の分布形状に基づき1つの物標の中心位置を検出することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
請求項1において,
車両に搭載されて車両周囲に対して前記スキャンを繰り返し行い,
前記物標の中心位置のスキャンごとの変化量が所定範囲内の場合に,前記物標の中心位置情報を当該車両の走行制御を行う走行制御装置へ出力することを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
請求項1において,
前記第2の分布形状に基づく物標の中心位置の検出を行う場合は,当該第2の分布形状を形成する反射ビームのうち両側端の反射ビームのビーム角度に対応する水平位置の中点,当該第2の分布形状の複数の極大値に対応する角度方向の幅の中心の角度方向,または当該第2の分布形状により形成される領域の面積を2等分する角度方向のいずれかを前記物標の中心位置とすることを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
所定のビーム角度ごとに順次ビームを射出してスキャンを行うレーダ装置の物標位置検出方法において,
前記ビーム角度ごとの反射ビームの強度の分布形状を求め,前記スキャンごとに前記分布形状が極大値を示す角度方向を1つの物標の中心位置として検出する工程を有し,
前記工程では,第1のスキャンにおいて1つの極大値を有する第1の分布形状が形成された後,第2のスキャンにおいて複数の極大値を有する第2の分布形状が形成され,且つ前記第1の分布形状を形成する反射ビーム本数の合計と前記第2の分布形状を形成する反射ビーム本数の合計との差が基準値以下である場合は,当該第2のスキャンでは前記第2の分布形状に基づき1つの物標の中心位置を検出することを特徴とする物標位置検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−122241(P2008−122241A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306721(P2006−306721)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】