説明

レーダ装置及び遅延時間測定方法

【課題】 通常の変換能力を有したA/D変換器等を利用して、距離分解能を向上する。
【解決手段】 カオスコード発生部30が出力する周期f/nのカオス信号から、遅延回路31が(k−1)/(2f)だけ基準の時点(基準点)から遅延させて、ずらしながらn個取り出し、これにより搬送波を変調してn個の信号波を生成し、対象物に放射し、対象物で反射して受信されたn個の反射波からn個のベースバンド信号を得て、これをそれぞれ周期2f/nでA/D変換器44がディジタル信号に変換し、その周期に合わせてn個のディジタル信号を合成し、疑似的な周波数fのカオス信号に対応するベースバンド信号を生成する。同様に、遅延回路31が出力するn個のカオス信号から周波数fの疑似的なカオス信号を生成し、ベースバンド信号に基づくディジタル信号と、当該疑似的なカオス信号に基づくディジタル信号との相関演算により、反射波の遅延時間を測定。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、カオスコードを用いたレーダ装置及びカオスコードを用いた反射波の遅延時間測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、カオスコードによりパルス幅を変更した信号(カオス信号)を変調した信号波を用い、この信号波を空間に放射し、その反射波を受信して復調し、一定の周期で符号化して得た信号系列と、先に送信したカオス信号との相関演算を行って、特定のカオス信号を含む信号波が送信された時間と、その信号波が対象で反射されて反射波として受信された時間との差(遅延時間)を測定する技術(カオスレーダ技術)が開発されている。この技術の具体的内容は、例えば、イギリスの特許、GB2345149号、「Time delay determination and determination of signal shift」等に記載されている。
【0003】従来のカオスレーダの基本的構成は、図8に示すように、カオスコード発生部11と、サンプリング部12と、発振器13と、位相変調部14と、送信アンテナ15と、受信アンテナ16と、方向性結合器17と、混合器18と、ローパスフィルタ(LPF)19と、A/D変換器20と、カオス処理部21とから構成されている。
【0004】カオスコード発生部11は、カオスコードによりそのパルス幅を変更したパルス信号をカオス信号として生成して出力する。ここで、カオス信号は、具体的には、パルス幅がカオスコードによって疑似ランダムに変更されたものとなっている。すなわち理想的には、このカオス信号の一部は、他の一部とは正確には重なり合わないようになっている。
【0005】サンプリング部12は、カオスコード発生部11が出力するカオス信号を所定の周期でサンプリングしてディジタル信号に変換し、カオス処理部21に出力する。発振器13は、所定周波数の搬送波を出力している。位相変調部14は、カオスコード発生部11から入力されるカオス信号により、発振器13が出力する搬送波を位相変調して、当該位相変調した信号を送信アンテナ15を介して放射する。
【0006】受信アンテナ16は、送信アンテナ15から放射された信号波の反射波を受信して、混合器18に出力する。方向性結合器17は、発振器13が出力する搬送波と同等の信号を混合器18に出力する。混合器18は、受信アンテナ16により受信された反射波と方向性結合器17により入力される搬送波と同等の信号とを混合して、ベースバンド信号(復調信号)を出力する。
【0007】LPF19は、ベースバンド信号から高周波成分を除去してA/D変換器20に出力する。A/D変換器20は、所定の周期でLPF19から入力されるベースバンド信号をディジタル値に変換して信号系列を生成し、カオス処理部21に出力する。そしてカオス処理部21が当該信号系列とサンプリング部12から入力されるサンプリングされた信号(元のカオス信号)との相関演算を行い、処理結果としての遅延時間の情報を出力する。ここでの相関処理の内容は各パルスの立上がりエッジや立ち下りエッジに着目して相関演算を行うもので、その具体的内容は、上述のGB2345149号特許に詳しく開示されているので、ここでの説明を省略する。
【0008】このような従来のカオスレーダでは、距離分解能は、カオスコードの周波数によって決まる。カオス信号と反射波から得られた信号系列との相関演算が細かく行われるからである。すなわち、カオスコードの周波数が高くなれば、距離分解能も向上する。そこで、高分解能のカオスレーダにおいては、カオスコードの周波数を高めるとともにサンプリング部12におけるサンプリング周期と、A/D変換器20の変換周期とを短く設定している。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】このように、上記従来の高分解能のカオスレーダでは、例えばA/D変換器の変換周期が短くなる結果、高速の変換能力が必要とされる。しかしながらA/D変換器等の変換能力は、いかに高速のものであっても、用途によっては距離分解能に対して十分な能力とはいえない場合が多いのが現状である。
【0010】本発明は上記実情に鑑みて為されたもので、通常の変換能力を有したA/D変換器等を利用して、距離分解能を向上できるレーダ装置及び遅延時間測定方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記従来例の問題点を解決するために、本発明は、カオス信号を変調して得た信号波を放射し、その反射波を受信して復調し、当該復調結果と前記カオス信号との相関演算により目標物との距離を測定するレーダ装置であって、所望の最大距離の測定に必要な時間長を単位とした、単位時間長分の複数のカオス信号をそれぞれ所定の時間だけその開始点を基準点からずらしながら順次出力する手段と、前記複数のカオス信号を、前記基準点を合わせて合成し、合成カオス信号を出力する手段と、前記複数のカオス信号を変調して得た複数の信号波を放射する手段と、前記放射された複数の信号波の反射波を受信し、各反射波を一定の周期でディジタル値に変換して、各反射波に基づいて複数の信号系列を生成する手段と、前記複数の信号系列を前記変換の周期に合わせて合成し、当該合成した信号系列と前記合成カオス信号との相関を演算する手段と、を含むこととしたものである。
【0012】また本発明は、カオス信号を変調して得た信号波を放射し、その反射波を受信して復調し、当該復調結果と前記カオス信号との相関演算により目標物との距離を測定するレーダ装置であって、前記復調結果について、一定の周期ごとにディジタル値に変換して信号系列を生成する複数の変換手段であって、各変換手段がディジタル値へ変換する周期の開始点が互いに異なる複数の変換手段と、前記複数の変換手段によりそれぞれ生成された複数の信号系列を前記カオス信号の開始点に合わせて合成し、当該合成した信号系列と元のカオス信号との相関を演算する手段と、を含むこととしたものである。
【0013】また本発明は、カオス信号を変調して得た信号波を放射し、その反射波を受信して復調し、当該復調結果を一定の周期で符号化して信号系列を得て、当該信号系列と前記カオス信号との相関演算により反射波の遅延時間を測定する方法であって、所望の最大距離の測定に必要な時間長を単位とした、単位時間長分の複数のカオス信号をそれぞれ所定の時間だけその開始点を基準点からずらしながら順次出力する工程と、前記複数のカオス信号を、前記基準点を合わせて合成し、合成カオス信号を出力する工程と、前記複数のカオス信号を変調して得た複数の信号波を放射する工程と、前記放射された複数の信号波の反射波を受信し、各反射波を一定の周期でディジタル値に変換して、各反射波に基づいて複数の信号系列を生成する工程と、前記複数の信号系列を前記変換の周期に合わせて合成し、当該合成した信号系列と前記合成カオス信号との相関を演算する工程と、を含むこととしたものである。
【0014】また本発明は、カオス信号を変調して得た信号波を放射し、その反射波を受信して復調し、当該復調結果と前記カオス信号との相関演算より反射波の遅延時間を測定する方法であって、前記復調結果について、一定の周期ごとにディジタル値に変換して信号系列を生成する複数の変換手段を用い、各変換手段でのディジタル値へ変換する周期の開始点を互いに異ならせて複数の信号系列を生成し、前記生成された複数の信号系列を前記カオス信号の開始点に合わせて合成し、当該合成した信号系列と元のカオス信号との相関を演算することとしたものである。
【0015】
【発明の実施の形態】実施の形態1.本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本発明の実施の形態に係るレーダ装置は、図1に示すように、カオスコード発生部30と、遅延回路31と、発振器32と、位相変調部33と、送信アンテナ34と、受信アンテナ35と、方向性結合器36と、混合器37と、ローパスフィルタ(LPF)38と、逆遅延回路39と、ディジタル回路部40とから主として構成され、ディジタル回路部40は、サンプリング部41と、第1メモリ部42と、第1合成メモリ43と、A/D変換器44と、第2メモリ部45と、第2合成メモリ46と、カオス処理部47とを含んで構成されている。ここで第1メモリ部42は、図2(a)に示すように、入力切替部51と、複数(n個;nは1以上の整数)のメモリからなるメモリ群52と、出力切替部53とから構成される。また、第2メモリ部45は、入力切替部54と、複数(n個)のメモリからなるメモリ群55と、出力切替部56とから構成されている。
【0016】次に、各部の動作について説明する。なお、次の説明において、必要な距離分解能を得るためのカオスコードの周波数がfであるとする。
【0017】カオスコード発生部30は、周波数f/nのカオスコードを生成し、このカオスコードによりパルスの幅を変更したパルス信号(カオス信号)を出力する。このカオス信号は、従来のものと同様のものである。遅延回路31は、カオスコード発生部30が出力するカオス信号から、所定の時点を基準にして、事前に設定された時間分のカオス信号をn個だけ抽出して順次出力する。またこの遅延回路31は、n個のうち、k番目のカオス信号の抽出の開始点を、(k−1)/(2f)だけ基準の時点(基準点)から遅延させて、ずらす。ここで、事前に設定された時間とは、所望の最大測定距離に応じて設定された時間Tである。つまり、遅延回路31が順次出力する複数のカオス信号は、その開始点が、基準点から所定の時間ずつずれたものとなる。また、n個のカオス信号が出力されるまでにかかる時間tは、上記設定された時間Tをn倍したものに、各(k−1)/(2f)の(k=1からnまでの)総和をさらに加算したもの((1)式)になる。
【0018】
【数1】


発振器32は、所定周波数の搬送波を出力している。位相変調部33は、発振器32が出力する搬送波を遅延回路31が順次出力するn個のカオス信号でそれぞれ位相変調し、n個の信号波を生成する。送信アンテナ34は、生成された信号波を順次放射する。
【0019】受信アンテナ35は、送信アンテナ34から順次放射されたn個の信号波の反射波を受信し、混合器37に出力する。方向性結合器36は、発振器32が出力する搬送波と同等の信号を混合器37に出力する。混合器37は、受信されたn個の反射波の信号と、方向性結合器36から入力される信号とを混合して復調を行い、復調された信号をLPF38に出力する。LPF38は、復調された信号から高周波成分を取除いたn個のベースバンド信号を順次出力する。
【0020】逆遅延回路39は、n個のベースバンド信号のうち、k番目のベースバンド信号をそれぞれ(n−k+1)/(2f)だけ遅延させて出力する。これにより、各ベースバンド信号の演算の基準点が一致させられる。
【0021】ディジタル回路部40のサンプリング部41は、遅延回路31が出力するカオス信号を周波数2f/nでサンプリングしたディジタル信号系列に変換して出力する。第1メモリ部42の入力切替部51は、所定の時点を基準にして、事前に設定された時間ごとにメモリ群52のいずれかのメモリを順次選択し、サンプリング部41が出力するディジタル信号系列を当該選択中のメモリに格納する。メモリ群52は、n個のRAM(Random Access Memory)からなり、入力切替部51を介してサンプリング部41が出力するディジタル信号系列の入力を受けると、これを順次格納して保持する。出力切替部53は、メモリ群52に格納されたカオス信号に基づくディジタル信号系列を、カオス信号の基準点を合わせて合成するよう、メモリ群52のいずれかのメモリから選択的にディジタル信号を取り出して、合成カオス信号として第1合成メモリ43に出力する。これら第1メモリ部42による合成の動作については、後に詳しく述べる。
【0022】第1合成メモリ43は、第1メモリ部42の動作により基準点を合わせて合成されたn個のカオス信号の合成結果を保持する。A/D変換器44は、逆遅延回路39が出力するベースバンド信号を、2f/nの周期でディジタル信号系列に変換して出力する。第2メモリ部45の入力切替部54は、A/D変換器44が出力する、k番目のベースバンド信号から得られたディジタル信号系列を、メモリ群55のk番目のメモリに出力する。メモリ群55は、n個のRAMからなり、入力切替部54を介してA/D変換器44から入力されるディジタル信号系列を順次格納して保持する。
【0023】出力切替部56は、メモリ群55に格納された、n個のベースバンド信号に基づくn個のディジタル信号系列を、A/D変換の基準点に合わせて合成し、その合成の結果を出力する。この第2メモリ部45による合成の動作についても、後に詳しく述べる。
【0024】第2合成メモリ46は、第2メモリ部45が出力する合成の結果を保持する。カオス処理部47は、第1合成メモリ43が保持する合成カオス信号と、第2合成メモリ46が保持する合成されたディジタル信号との相関演算を行い、反射波の遅延時間の情報を出力する。
【0025】ここで、第1メモリ部42及び第2メモリ部45における合成の処理について説明する。なお、所望の最大測定距離に応じて設定された時間をTとした場合、サンプリング周波数が2f/nであれば、データ量Mは、T×2f/n個となる。
【0026】まず、第1メモリ部42での合成の処理について説明する。入力切替部51は、遅延回路31が出力したn個のカオス信号をそれぞれ、サンプリング部41にてディジタル変換して得た、n個のディジタル信号のうち、k番目のディジタル信号を、メモリ群52(メモリ1,メモリ2…メモリn)のk番目のRAM(メモリk)に格納する。各RAMには、M個のデータが蓄積されるから、メモリ群52にn個のディジタル信号が格納された結果は、図2に示すような状態となる。
【0027】本実施の形態において特徴的なことは、k番目のディジタル信号系列は、遅延回路31によって基準点から(k−1)/(2f)だけずれた位置から開始される系列であることである。つまり、1番目のディジタル信号系列は、基準点を0として、0,n/(2f),2n/(2f)…の時間でカオス信号をサンプリングした結果であり、2番目のディジタル信号系列は、1/(2f),n/(2f)+1/(2f)=(n+1)/(2f),…という時間でカオス信号をサンプリングした結果となっている。さらにn番目のメモリの先頭は基準点から(n−1)/(2f)だけずれた時刻のカオス信号をサンプリングした結果となっている。
【0028】そこで、このメモリ群52の各メモリから1番目のメモリの先頭、2番目のメモリの先頭…n番目のメモリの先頭、1番目のメモリの2つ目、…という順序で読出すよう、出力切替部53によりメモリを切替えて読出すようにすれば、基準点を0として、0,1/(2f),2/(2f),…(n−1)/(2f),n/(2f),(n+1)/(2f)…という時刻でカオス信号をサンプリングしたかのような、疑似的なカオス信号が生成される。この疑似的なカオス信号の生成が本実施の形態の変換周期に合わせての合成に相当する。つまり、第1の合成メモリ43には、図2との対応において図3に示すような状態で各ディジタル信号が合成されて格納されているようになり、これは、0,1/(2f),2/(2f),…(n−1)/(2f),n/(2f),(n+1)/(2f)…という時刻でカオス信号をサンプリングしたかのような疑似的なカオス信号に相当するのである。
【0029】一方、第2メモリ部45における合成の処理はつぎのようになる。入力切替部54は、A/D変換器44が出力した一連のディジタル信号を、M個ずつ、メモリ群55の各メモリに格納する。すなわち、このメモリ群55には、図4に示すように、1〜M番目に入力されたディジタル信号は1番目のメモリに、M+1〜2M番目に入力されたディジタル信号は2番目のメモリに、というように格納された状態になる。なお、例えば2f/nの周期でA/D変換器44が出力するディジタルデータをそのまま取込んだ場合、逆遅延回路39の働きによって遅延されたベースバンド信号のディジタルデータへの変換結果がそのまま取込まれるため、各メモリの先頭は実際には意味のないデータ(反射波を反映していないデータ)、すなわち「不定」のデータとなる。格納するM個は、この「不定」のデータを除いてM個とする。
【0030】また、出力切替部56が、このメモリ群55の各メモリから1番目のメモリの第1番目に入力されたディジタル信号、M+1番目に入力されたディジタル信号、というように取り出して第2の合成メモリ46に出力する。こうして第2の合成メモリ46にも図3に示したのと同様の状態で、0,1/(2f),2/(2f),…(n−1)/(2f),n/(2f),(n+1)/(2f)…という時刻で出力されたカオス信号に関するベースバンド信号が格納された状態となる。
【0031】そしてカオス処理部47が第1の合成メモリ43に格納された一連のディジタル信号と、第2の合成メモリ46に格納された一連のディジタル信号との相関を演算し、その結果によって受信信号の遅延時間を測定することになる。ここで、カオス信号を利用した遅延時間の演算は、既に述べた、イギリスの特許GB2345149号、「Time delay determination and determination of signal shift」等に記載されているように、パルス位置の立上がり(又は立ち下り)において相関演算が行われるものであるので、その詳細な説明を省略する。
【0032】また、このようにパルス位置の立上がり時点に着目して相関演算を行うので、周波数f/nのカオス信号をn個合成して得た疑似的なカオス信号を用いても、周波数fのカオス信号を用いる場合と、相関演算の結果には変わりないのである。
【0033】そして、この疑似的なカオス信号は、0,1/(2f),…という時刻で出力されたカオス信号に相当するので、周波数2fでサンプリングし、受信波を復調して得たベースバンド信号を周波数2fでA/D変換したのと同等の分解能を得ることができる。すなわち、本実施の形態によれば、ほぼn倍の時間をかけて測定し、その時間内で測定された結果を利用してn倍の分解能での遅延時間の測定を可能としたのである。また、この測定された遅延時間の情報に基づき、測定対象までの距離が算出される。
【0034】実施の形態2.また、本発明の第2の実施の形態に係るレーダ装置について、図5を参照しながら説明する。本実施の形態に係るレーダ装置は、図5に示すように、カオスコード発生部61と、発振器32と、位相変調部33と、送信アンテナ34と、受信アンテナ35と、方向性結合器36と、混合器37と、ローパスフィルタ(LPF)38と、遅延回路群62と、ディジタル回路部70とを含んで構成され、ディジタル回路部70は、A/D変換器群71と、メモリ群72と、切替スイッチ73と、合成メモリ74と、サンプリング部75と、コードメモリ76と、カオス処理部77とを含んで構成されている。なお、第1の実施の形態におけるものと同様の動作をするものについては、同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0035】カオスコード発生部61は、周波数fのカオスコードを生成し、このカオスコードによりパルスの幅を変更したパルス信号(カオス信号)を出力する。このカオス信号は、従来のものと同様のものである。遅延回路群62は、n個の遅延回路からなり、k番目の遅延回路は、LPF38から入力されるベースバンド信号を、(k−1)/(2f)だけ遅延させて出力する。
【0036】ディジタル回路部70のA/D変換器群71は、n個のA/D変換器からなり、k番目のA/D変換器は、遅延回路群62のk番目の遅延回路から入力される遅延されたベースバンド信号を周波数2f/nでディジタル信号に変換して出力する。つまり、各A/D変換器は、n/(2f)ごとにディジタル信号を出力する。カオス信号の開始時点を0とすると、1番目のA/D変換器は、0,n/(2f),2n/(2f)…の時点でのカオス信号に対応するベースバンド信号に基づくディジタル信号を、2番目のA/D変換器は、1/(2f),(n+1)/(2f),(2n+1)/(2f)…の時点でのカオス信号に対応するベースバンド信号に基づくディジタル信号を出力していることとなる。なお、k番目のA/D変換器は、(k−1)/(2f),(k×n+k−1)/(2f),(k×(2n)+k−1)/(2k)…の時点でのカオス信号に対応するベースバンド信号に基づくディジタル信号を出力していることとなる。
【0037】メモリ群72は、n個のRAMから構成され、k番目のRAMは、A/D変換器群71のk番目のA/D変換器から入力されるディジタル信号を格納する。すなわち、各RAMに格納されたディジタル信号は、図6(a)に示すようなものとなる。なお、図6(a)では、各RAMに、どの時点のカオス信号に対応するディジタル信号が格納されているかを示している。
【0038】切替スイッチ73は、図6(b)に示す順序で各RAMに格納された各ディジタル信号を読出して合成メモリ74に出力している。従って、合成メモリ74には、図7に示すように、カオス信号の開始時点を0とすると、0,1/(2f),2/(2f),…(n−1)/(2f),n/(2f),(n+1)/(2f)…,2n/(2f)の時点でのカオス信号に対応するベースバンド信号に基づく、一連のディジタル値が合成結果のディジタル信号として記憶されている状態となる。なお、図7では、各RAMに、どの時点のカオス信号に対応するディジタル信号が格納されているかを示している。ここで所望の最大測定距離に応じて設定された時間をTとした場合、サンプリング周波数が2f/nであれば、各A/D変換器が出力するデータの量Mは、T×2f/n個となる。
【0039】サンプリング部75は、カオスコード発生部61が出力するカオス信号を周波数2fでサンプリングしたディジタル信号系列に変換して出力する。コードメモリ76は、サンプリング部75から入力されたディジタル信号系列を格納する。従って、このコードメモリ76には、カオス信号の開始時点を0として、0,1/(2f),2/(2f),…2n/(2f)の時点でのカオス信号に基づくディジタル信号系列が格納された状態となる。カオス処理部77は、コードメモリ76に格納されているディジタル信号の系列と、合成メモリ74に格納されているディジタル信号の系列との相関演算を行い、受信した信号の遅延時間を演算して出力する。
【0040】本実施の形態によれば、n個のA/D変換器を用いることで、それぞれが、1/(2f)ずつずれたタイミングで、周期n/(2f)ごとにA/D変換を行い、これらを利用してカオス処理を行うことで、n倍の分解能で、すなわち周波数fのカオス信号を用い、周波数fでA/D変換を行ったときと同等の分解能での遅延時間の測定を可能としたのである。また、この測定された遅延時間の情報に基づき、測定対象までの距離が算出される。
【0041】
【発明の効果】本発明によれば、カオス信号を変調して得た信号波を放射し、その反射波を受信して復調し、当該復調結果とカオス信号との相関演算により目標物との距離を測定するレーダ装置であって、所望の最大距離の測定に必要な時間長を単位とした、単位時間長分の複数のカオス信号をそれぞれ所定の時間だけその開始点を基準点からずらしながら順次出力し、これら複数のカオス信号を、基準点を合わせて合成して合成カオス信号を生成し、一方で複数のカオス信号の各々により搬送波を変調して得た複数の信号波を放射し、当該放射された複数の信号波の反射波を受信し、各反射波を一定の周期でディジタル値に変換して、各反射波に基づいて複数の信号系列を生成し、この複数の信号系列をディジタル値の変換の周期に合わせて合成し、当該合成した信号系列と合成カオス信号との相関により目標物との距離を演算して出力するレーダ装置としているので、カオス信号の周期やディジタル値への変換周期が長くても、それぞれ開始点をずらしながら生成した複数のカオス信号に基づく信号波及びその反射波を合成して用いることで、測定距離の分解能を向上できる。従って、通常の変換能力を有したA/D変換器等を利用して、距離分解能を向上できる。
【0042】また、本発明によれば、カオス信号を変調して得た信号波を放射し、その反射波を受信して復調し、当該復調結果とカオス信号との相関演算により目標物との距離を測定するレーダ装置であって、当該復調結果について、一定の周期ごとにディジタル値に変換して信号系列を生成する複数の変換手段を用いて、各変換手段がディジタル値へ変換する周期の開始点が互いに異なるようにし、これら複数の変換手段によりそれぞれ生成された複数の信号系列をカオス信号の開始点に合わせて合成し、当該合成した信号系列と元のカオス信号との相関により目標物との距離を演算して出力するデータ装置としているので、各変換手段の変換周期が長くても、それぞれ変換周期の開始時点をずらしながら生成した複数の信号系列を合成して用いることで、測定距離の分解能を向上できる。従って、通常の変換能力を有したA/D変換器等を利用して、距離分解能を向上できる。
【0043】さらに、本発明によれば、カオス信号を変調して得た信号波を放射し、その反射波を受信して復調し、当該復調結果を一定の周期で符号化して信号系列を得て、当該信号系列とカオス信号との相関演算により反射波の遅延時間を測定する方法であって、所望の最大距離の測定に必要な時間長を単位とした、単位時間長分の複数のカオス信号をそれぞれ所定の時間だけその開始点を基準点からずらしながら順次出力し、当該複数のカオス信号を、基準点を合わせて合成し、合成カオス信号を生成しておき、これら複数のカオス信号を変調して得た複数の信号波を放射し、この放射された複数の信号波の反射波を受信し、各反射波を一定の周期でディジタル値に変換して、各反射波に基づいて複数の信号系列を生成し、これら複数の信号系列を変換の周期に合わせて合成し、当該合成した信号系列と合成カオス信号との相関により反射波の遅延時間の測定方法としているので、カオス信号の周期やディジタル値への変換周期が長くても、それぞれ開始点をずらしながら生成した複数のカオス信号に基づく信号波及びその反射波を合成して用いることで、測定距離の分解能を向上できる。従って、通常の変換能力を有したA/D変換器等を利用して、測定の分解能を向上できる。
【0044】さらに本発明によれば、カオス信号を変調して得た信号波を放射し、その反射波を受信して復調し、当該復調結果とカオス信号との相関演算より反射波の遅延時間を測定する方法であって、当該復調結果について、一定の周期ごとにディジタル値に変換して信号系列を生成する複数の変換手段を用い、各変換手段でのディジタル値へ変換する周期の開始点を互いに異ならせて複数の信号系列を生成し、当該生成された複数の信号系列を前記変換の周期に合わせて合成し、当該合成した信号系列と元のカオス信号との相関により反射波の遅延時間を演算するので、各変換手段の変換周期が長くても、それぞれ変換周期の開始時点をずらしながら生成した複数の信号系列を合成して用いることで、測定距離の分解能を向上できる。従って、通常の変換能力を有したA/D変換器等を利用して、測定の分解能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施の形態に係るレーダ装置の構成ブロック図である。
【図2】 カオス信号をサンプリングした結果を格納するメモリ群の内容の一例を表す説明図である。
【図3】 合成メモリの内容の一例を表す説明図である。
【図4】 ベースバンド信号をディジタル信号に変換した結果を格納するメモリ群の内容の一例を表す説明図である。
【図5】 本発明の第2の実施の形態に係るレーダ装置の構成ブロック図である。
【図6】 ベースバンド信号をディジタル信号に変換した結果を格納するメモリ群の内容の一例及び読出し順序を表す説明図である。
【図7】 合成メモリの内容の一例を表す説明図である。
【図8】 従来のカオスレーダ装置の構成ブロック図である。
【符号の説明】
11,30,61 カオスコード発生部、12,41,75 サンプリング部、13,32 発振器、14,33 位相変調部、15,34 送信アンテナ、16,35 受信アンテナ、17,36 方向性結合器、18,37 混合器、19,38 ローパスフィルタ、20,44 A/D変換器、21,47,77カオス処理部、31 遅延回路、39 逆遅延回路、40,70 ディジタル回路部、42 第1メモリ部、43 第1合成メモリ、45 第2メモリ部、46 第2合成メモリ、51,54 入力切替部、52,71 メモリ群、53,56 出力切替部、62 遅延回路群、71 A/D変換器群、73 切替スイッチ、76 コードメモリ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 カオス信号を変調して得た信号波を放射し、その反射波を受信して復調し、当該復調結果と前記カオス信号との相関演算により目標物との距離を測定するレーダ装置であって、所望の最大距離の測定に必要な時間長を単位とした、単位時間長分の複数のカオス信号をそれぞれ所定の時間だけその開始点を基準点からずらしながら順次出力する手段と、前記複数のカオス信号を、前記基準点を合わせて合成し、合成カオス信号を出力する手段と、前記複数のカオス信号を変調して得た複数の信号波を放射する手段と、前記放射された複数の信号波の反射波を受信し、各反射波を一定の周期でディジタル値に変換して、各反射波に基づいて複数の信号系列を生成する手段と、前記複数の信号系列を前記変換の周期に合わせて合成し、当該合成した信号系列と前記合成カオス信号との相関を演算する手段と、を含むことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】 カオス信号を変調して得た信号波を放射し、その反射波を受信して復調し、当該復調結果と前記カオス信号との相関演算により目標物との距離を測定するレーダ装置であって、前記復調結果について、一定の周期ごとにディジタル値に変換して信号系列を生成する複数の変換手段であって、各変換手段がディジタル値へ変換する周期の開始点が互いに異なる複数の変換手段と、前記複数の変換手段によりそれぞれ生成された複数の信号系列を前記カオス信号の開始点に合わせて合成し、当該合成した信号系列と元のカオス信号との相関を演算する手段と、を含むことを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】 カオス信号を変調して得た信号波を放射し、その反射波を受信して復調し、当該復調結果を一定の周期で符号化して信号系列を得て、当該信号系列と前記カオス信号との相関演算により反射波の遅延時間を測定する方法であって、所望の最大距離の測定に必要な時間長を単位とした、単位時間長分の複数のカオス信号をそれぞれ所定の時間だけその開始点を基準点からずらしながら順次出力する工程と、前記複数のカオス信号を、前記基準点を合わせて合成し、合成カオス信号を出力する工程と、前記複数のカオス信号を変調して得た複数の信号波を放射する工程と、前記放射された複数の信号波の反射波を受信し、各反射波を一定の周期でディジタル値に変換して、各反射波に基づいて複数の信号系列を生成する工程と、前記複数の信号系列を前記変換の周期に合わせて合成し、当該合成した信号系列と前記合成カオス信号との相関を演算する工程と、を含むことを特徴とする反射波の遅延時間の測定方法。
【請求項4】 カオス信号を変調して得た信号波を放射し、その反射波を受信して復調し、当該復調結果と前記カオス信号との相関演算より反射波の遅延時間を測定する方法であって、前記復調結果について、一定の周期ごとにディジタル値に変換して信号系列を生成する複数の変換手段を用い、各変換手段でのディジタル値へ変換する周期の開始点を互いに異ならせて複数の信号系列を生成し、前記生成された複数の信号系列を前記カオス信号の開始点に合わせて合成し、当該合成した信号系列と元のカオス信号との相関を演算することを特徴とする反射波の遅延時間の測定方法。

【図7】
image rotate


【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【図8】
image rotate


【公開番号】特開2003−207564(P2003−207564A)
【公開日】平成15年7月25日(2003.7.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−4093(P2002−4093)
【出願日】平成14年1月11日(2002.1.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】