レーダ装置用の演算装置、レーダ装置、レーダ装置用の演算方法およびプログラム
【課題】軸ずれ判定に用いる物標の条件に拘束されないレーダ装置用の演算装置、レーダ装置、レーダ装置用の演算方法およびプログラムを提供することを課題とする。
【解決手段】物標の方向をアンテナ3の受信信号に基づいて特定するレーダ装置1用の演算装置15であって、前記アンテナ3を搭載した移動体が移動中に前記受信信号によって測位される物標のデータから、前記移動体の進行方向に対する物標の横方向への相対的な移動の大きさを算出し、前記レーダ装置1の走査方向の基準軸と前記移動体の進行方向の基準軸との相対的な傾きを前記移動の大きさに基づいて評価する演算部6を備える。
【解決手段】物標の方向をアンテナ3の受信信号に基づいて特定するレーダ装置1用の演算装置15であって、前記アンテナ3を搭載した移動体が移動中に前記受信信号によって測位される物標のデータから、前記移動体の進行方向に対する物標の横方向への相対的な移動の大きさを算出し、前記レーダ装置1の走査方向の基準軸と前記移動体の進行方向の基準軸との相対的な傾きを前記移動の大きさに基づいて評価する演算部6を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置用の演算装置、レーダ装置、レーダ装置用の演算方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ波をアレーアンテナで受信し、各アンテナの受信信号を解析すると、レーダ波の到来方向を推定することができる。算出される角度は、アレーアンテナとレーダ波の到来方向との相対的な角度となるため、アレーアンテナの取付角が傾いていると、誤った物標の角度を算出することになる。そこで、アレーアンテナの走査角の軸ずれを検出する各種の技術が考案されている(例えば、特許文献1−3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−166051号公報
【特許文献2】特開平8−320371号公報
【特許文献3】特開2002−228749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
軸ずれ判定は、受信信号を解析して得られる推定角度と実際の角度との誤差を修正するものであるため、推定される物標のデータを使って行なう必要がある。ここで、従来からある軸ずれ判定では、例えば、直線的な物標、直進走行する物標、或いは静止する物標のように、軸ずれ判定に用いる物標に各種の条件が必要であり、そのような条件を満たす物標が存在しないと軸ずれ判定が行えないという問題があった。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、軸ずれ判定に用いる物標の条件に拘束されないレーダ装置用の演算装置、レーダ装置、レーダ装置用の演算方法およびプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明では、移動中に受信信号によって測位される物標のデータから物標の横方向への移動量を算出し、軸ずれを評価することにした。
【0007】
詳細には、物標の方向をアンテナの受信信号に基づいて特定するレーダ装置用の演算装置であって、前記アンテナを搭載した移動体が移動中に前記受信信号によって測位される物標のデータから、前記移動体の進行方向に対する物標の横方向への相対的な移動の大きさを算出し、前記レーダ装置の走査方向の基準軸と前記移動体の進行方向の基準軸との相対的な傾きを前記移動の大きさに基づいて評価する演算部を備える。
【0008】
上記演算装置は、レーダ装置によって特定される物標は個々に自在な方向へ移動しつつも、物標全体の横方向への移動量は限りなくゼロに近くなるという前提の下、物標全体の横方向への移動量に基づいて軸ずれを検出する。よって、軸ずれ判定に用いる物標に各種の条件を課すことなく、あらゆる物標のデータを用いて軸ずれを検出できる。
【0009】
なお、前記演算部は、前記アンテナを搭載した移動体が移動中に前記受信信号によって測位される物標の角度および距離のデータの蓄積数が所定の物標数に達すると、前記移動
体の進行方向に対する物標の横方向への相対的な移動速度の平均値を蓄積データに基づいて算出し、前記レーダ装置の走査方向の基準軸と前記移動体の進行方向の基準軸との相対的な傾きの大きさを前記平均値に基づいて算出するものであってもよい。各物標の横方向への移動速度を算出することにより、軸ずれ量であるレーダ装置の走査方向の基準軸と移動体の進行方向の基準軸との相対的な傾きの大きさを具体的に算出できる。
【0010】
また、前記演算部は、算出した前記傾きの大きさに基づき、前記受信信号によって測位される物標の角度および距離のデータを修正するものであってもよい。これにより、各受信信号に基づいて得られる各物標のデータの精度が高まる。
【0011】
なお、前記演算部は、複数回に渡って算出した前記傾きの大きさの平均値を統計処理によって確定し、確定した前記傾きの大きさの平均値に基づき、前記受信信号によって測位される物標の角度および距離のデータを修正するものであれば、各受信信号に基づいて得られる各物標のデータの精度が更に高まる。
【0012】
なお、本発明は、方法やプログラム、上記演算部を備えたレーダ装置、或いはプログラムを記録した記録媒体として捉えることもできる。
【0013】
例えば、本発明は、物標の方向を特定するレーダ装置であって、アンテナを搭載した移動体の移動中に前記アンテナの受信信号によって測位される、物標のデータから、前記移動体の進行方向に対する各物標の横方向への相対的な移動の大きさを算出し、前記レーダ装置の走査方向の基準軸と前記移動体の進行方向の基準軸との相対的な傾きを前記移動の大きさに基づいて評価する演算部を備えるものであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
軸ずれ判定に用いる物標の条件に拘束されることが無くなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】レーダ装置の構成図である。
【図2】レーダ装置で処理される信号の波形を示した図である。
【図3】メインの処理を示すフローチャートである。
【図4】アップビート周波数成分の周波数スペクトラムである。
【図5】ダウンビート周波数成分の周波数スペクトラムである。
【図6】角度スペクトラムである。
【図7】各ピークの角度とパワーの一例である。
【図8】ECUへ送られるデータの一例である。
【図9】軸ずれが無い場合の物標の動きを示した図である。
【図10】軸ずれが有る場合の物標の動きを示した図である。
【図11】軸ずれ判定の処理概要を示した図である。
【図12】軸ずれ判定の処理を示すフローチャートである。
【図13】横速度の算出方法の概要図である。
【図14】蓄積する横速度のデータの一例である。
【図15】軸ずれ角度をプロットしたグラフである。
【図16】軸ずれ角度の正規分布を示したグラフである。
【図17】8つ目以降の軸ずれ角度をプロットした第一のグラフである。
【図18】8つ目以降の軸ずれ角度をプロットした第二のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本願発明を実施するための形態を例示的に説明する。以下に示す実施形態は例示であり、本願発明の技術的範囲をこれらに限定するものではない。
【0017】
図1は、本実施形態に係るレーダ装置1の構成図である。レーダ装置1は、車両に搭載されて車両の周辺をレーダで監視し、他の車両や障害物等の物標を検知する。物標の検知結果は、車両を制御するECU(Electrical Control Unit)2に出力されて車両の制御
等に用いられる。但し、本実施形態に係るレーダ装置は、車両に搭載する以外の各種用途(例えば、飛行中の航空機や航行中の船舶の監視等)に用いてもよい。
【0018】
レーダ装置1は、等間隔に配置された受信アンテナ3(ch1−4)、各受信アンテナ3に各々繋がるミキサ4(ch1−4)、各ミキサ4に各々繋がるAD(Analog to Digital)変換器5(ch1−4)、各AD変換器5のデータを処理するプロセッサ6を含む
信号処理装置15を備える。また、レーダ装置1は、送信アンテナ7、発振器8、信号生成部9、送信制御部10を備える。
【0019】
なお、レーダ装置1は、このように受信アンテナ毎に専用の受信回路を設けてもよいが、全受信アンテナによる受信信号をまとめて受信する受信回路を設けてもよい。この場合、時分割で受信回路が対応する受信アンテナを順次切り替える制御が必要となるが、レーダ装置1の回路構成をコンパクトにできる。
【0020】
また、レーダ装置1は、受信アンテナと送信アンテナとを独立に設けているが、受信アンテナが送信アンテナを兼ねるようにしてもよい。この場合、各アンテナは、レーダ波を送信した直後に受信状態に切り替わり、自身が送信したレーダ波の反射波を受信させることが可能である。
【0021】
レーダ装置1は、車両から電力が供給されるとプロセッサ6がコンピュータプログラムを実行し、フーリエ変換部11やピーク抽出部12、方位演算部13、距離・相対角度演算部14、軸ずれ演算部14Aといった機能部を実現する。これらの機能部は、プロセッサ6がメモリ16と協働してコンピュータプログラムを実行することによって実現される機能部であるが、説明の便宜上、図1ではプロセッサ6内に各機能部を図示している。なお、これらの機能部は、必ずしもソフトウェアで実現されるものに限定されるものでなく、例えば、プロセッサ6の内部あるいは外部に配置された専用の演算回路によってその全部または一部が実現されてもよい。
【0022】
図2は、レーダ装置1で処理される信号の波形を示したものである。レーダ装置1は、FM−CW(Frequency Modulation - Continuous Wave)方式を採用しており、図2(a)に示すような三角波状の送信波STを信号生成部9が生成し、発振器8で変調して送信する。そして、物標から反射した受信波SRをミキサ4(ch1−4)が送信波STとミキシングすることにより、図2(b)に示すようなビート信号SBを得る。図2において、送信波STと受信波SRとの位相差(フェーズシフト)が物標とレーダ装置との距離に比例して増減し、送信波STと受信波SRとの周波数差(ドップラシフト)が物標とレーダ装置との相対速度に比例して増減する。図2の記号FMは、信号生成部9が生成する三角波の周波数である。なお、相対速度や距離の異なる物標が複数存在する場合、各アンテナにはフェーズシフト量やドップラシフト量の異なる反射波が複数受信され、各ミキサ4(ch1−4)から得られるビート信号SBには各物標に対応した様々な成分が含まれることになるが、図2では理解を容易にするため、1つの物標が存在する場合の波形を例示している。
【0023】
以下、車両からレーダ装置1へ電力が供給されるとプロセッサ6が実行する処理フローについて、図3のフローチャートに沿って説明する。プロセッサ6は、車両の駆動源が作動状態、すなわち、駆動源が内燃機関であればエンジンが始動し、ハイブリッドシステムやEV(Electric Car)システムであればシステム電源がオンになると、以下に示す処理
フローを繰り返す。
【0024】
(ステップS101)プロセッサ6は、ビート信号SBのアップビート周波数成分FBUとダウンビート周波数成分FBDのそれぞれについてch毎にフーリエ変換を行い、図4に示すようなアップビート周波数成分FBUの周波数スペクトラムおよび図5に示すようなダウンビート周波数成分FBDの周波数スペクトラムを得る。
【0025】
各受信アンテナ3(ch1−4)は同じ物標からの反射波を受信するため、フーリエ変換では同じピーク周波数を有する同じ形状の周波数スペクトラムが各受信アンテナ3(ch1−4)のそれぞれから得られる。但し、各受信アンテナ3(ch1−4)で位相は異なるため、同じピーク周波数であっても位相はアンテナ毎に異なる。例えば、受信アンテナ3(ch1)の周波数スペクトラムのピークPU1(ch1)と受信アンテナ3(ch2)の周波数スペクトラムのピークPU1(ch2)は、周波数については互いに同じであるが、位相については相違している。
【0026】
プロセッサ6は、フーリエ変換によって得たアップビート周波数成分FBUとダウンビート周波数成分FBDのそれぞれの周波数スペクトラムから、所定パワー以上のピークを抽出し、抽出したピークの周波数、パワー、及び位相を抽出する。
【0027】
周波数スペクトラムのピークには複数の物標の情報が含まれ得るため、1つのピークから物標を分離し、分離した物標の角度を推定する必要がある。そのため、プロセッサ6は、アップビート周波数成分FBUとダウンビート周波数成分FBDのそれぞれについて、全受信アンテナ3(ch1−4)で周波数が互いに同じピーク(例えば、アップビート周波数成分FBU側であればピークPU1(ch1)とピークPU1(ch2)とピークPU1(ch3)とピークPU1(ch4)が互いに同じ周波数FU1のピークであり、ダウンビート周波数成分FBD側であればピークPD1(ch1)とピークPD1(ch2)とピークPD1(ch3)とピークPD1(ch4)が互いに同じ周波数FD1のピークである)のものを元に、図6に示すような角度スペクトラムを、ESPRITやMUSICといった各種の角度推定方式を用いて演算により求める。
【0028】
プロセッサ6は、周波数スペクトラムのピーク周波数毎に角度スペクトラムを所定の角度推定方式で算出する。例えば、図4および図5に示した周波数スペクトラムを例にとれば、プロセッサ6は、5つのピークの周波数(FU1−3、FD1−2)毎に角度スペクトラムを算出する。図6はピーク周波数FU1の角度スペクトラムの一例であり、アップビート周波数成分FBUとダウンビート周波数成分FBDとを併記している。そして、5つのピーク周波数(FU1−3、FD1−2)の各角度スペクトラムについて、角度スペクトラムのピークの角度とパワーを抽出する。5つのピーク周波数(FU1−3、FD1−2)の各角度スペクトラムの各ピークの角度とパワーの一例を図7に示す。
【0029】
(ステップS102)プロセッサ6は、各角度スペクトラムの各ピークの角度とパワーを抽出したら、各ピークのペアリングを行ない、実在する物標の特定を行なう。すなわち、プロセッサ6は、アップビート周波数成分FBUの角度スペクトラムの各ピークとダウンビート周波数成分FBDの角度スペクトラムの各ピークとの間で、角度やパワーが互いに近似しているもの同士をペアリングする。例えば、図6に例示した角度スペクトラムでは、ピーク周波数FU1のアップビート周波数成分FBUのピークU1とピークU2の角度およびパワーが、ダウンビート周波数成分FBDのピークD1とピークD2の角度およびパワーにそれぞれ近似している。例えば、ピークU1とピークD2は互いに角度が約0°で近似しており、ピークU2とピークD1は互いに角度が約3°で近似している。よって、図7に示すピークU1の角度θU1およびパワーPWU1がピークD2の角度θD2およびパワーPWD2と互いに近似していて、ピークU1とピークD2がペアリングされ
るので、ピークU1とピークD2が物標TG1を示していることが特定される。
【0030】
プロセッサ6は、アップビート周波数成分FBUの角度スペクトラムの各ピーク(ピークU1−6)とダウンビート周波数成分FBDの角度スペクトラムの各ピーク(ピークD1−5)とを互いにペアリングすることにより、図7に示すように、物標TG1−5の5つの物標を特定する。なお、アップビート周波数成分FBUの角度スペクトラムのピークU6は、ダウンビート周波数成分FBDの角度スペクトラムの何れのピークにもペアリングされていない。よって、ピークU6は、内部ノイズ等に起因して表れたピークであり、実在する物標に因るものでないことが判る。
【0031】
プロセッサ6は、ペアリングされたピーク周波数に基づいて、各物標の角度や距離、相対速度を算出する。ここで、レーダ波の伝搬速度をC、信号生成部9が生成する三角波の変調周波数をFM、三角波の中心周波数をF0、三角波の変調幅をΔFとすると、各物標の距離R(R1〜R5)および相対速度V(V1〜V5)は、次式によって導かれる。
R=((FU+FD)・C)/(8・ΔF・FM)
V=((FD+FD)・C)/(4・F0)
【0032】
また、各物標の角度は、ペアリングされたアップビート周波数成分FBUのピークとダウンビート周波数成分FBDのピークの角度が互いにほとんど同じではあるが、より精度を高めるため、各物標の角度D(D1〜D5)は、次式より導く。
D=(θU+θD)/2
【0033】
なお、プロセッサ6は、本ステップにおいて、ペアリングされたアップビート周波数成分FBUのピークとダウンビート周波数成分FBDのピークとの本数の合計を検出する。検出された合計の値は、後述する軸ずれ判定処理(ステップS104)において用いられる。角度スペクトラムのピークの本数とは、図6における所定角度[Deg]範囲内で閾値を
超えるピークの本数である。所定角度とは、例えば3[Deg]である。所定角度を3[Deg]とした場合には、図6における角度スペクトラムのピークの本数の合計は、2本となる。
【0034】
(ステップS103)プロセッサ6は、繰り返し行なうスキャンによって連続的に検出される物標の位置をメモリ16に記憶しておく。そして、スキャンを行なう毎に、前回の物標の位置データと今回の物標の位置データとを比較し、物標の変位量から連続性の有無を判定する。プロセッサ6は、変位量が規定の範囲内であれば連続性有りと判定し、変位量が規定の範囲外であれば連続性無しと判定する。そして、レーダ装置10は、連続性有りと判断した物標の角度、距離および相対速度のデータをECU2に出力する。例えば、角度スペクトラムの各ピークから図7に示すような5つの物標が特定された場合、プロセッサ6からECU2へ図8に示すようなデータが送られる。各物標の角度、距離および相対速度のデータは、ECU2で車両の制御等に用いられる。
【0035】
なお、プロセッサ6は、何らかの理由によって十分な強度の受信信号が得られず、物標をロストしたスキャンを行なう場合がある。この場合、プロセッサ6は、物標をロストしたスキャンについてはロストした物標の位置を推定する、いわゆる外挿を行うことにより、再び物標の位置が検出されたときに、推定した位置と新たに検出された位置との連続性を維持する。
【0036】
なお、プロセッサ6は、本ステップにおいて、後述する軸ずれ判定処理(ステップS104)において用いる、連続の取れた物標の横位置を算出する。すなわち、プロセッサ6は、連続性が有ると判定された物標の軸ずれ検出用横位置を、この物標の角度および距離のデータに基づいて算出する。軸ずれ検出用横位置は次式から導かれる。
軸ずれ検出用横位置=距離*sin(角度)
【0037】
(ステップS104)また、プロセッサ6は、連続性判定処理を行なった後、以下のような軸ずれ判定処理を実行する。以下に示す処理は、レーダ装置1の取付角度の変化等に起因する軸ずれを評価し、補正することを目的としている。軸ずれが無く、レーダ装置1の走査角の中心方向とレーダ装置1が搭載される車両の直進方向とが一致している場合、図9に示すように、各物標が見かけ上、横方向に移動することが無い。しかし、軸ずれが有り、レーダ装置1の走査角の中心方向とレーダ装置1が搭載される車両の直進方向とが一致していない場合、図10に示すように、各物標が見かけ上、横方向に移動する。
【0038】
そこで、プロセッサ6は、軸ずれの補正を行なうにあたり、軸ずれがない場合には各物標は個々に自在な方向へ移動しつつも、物標全体の横速度の平均は限りなくゼロに近くなるという前提の下、物標全体の横速度の平均の大きさに基づいて軸ずれを検出するものである。なお、以下に示す軸ずれ判定処理においては、横速度の平均の大きさを直ちに軸ずれの判定処理に用いると、レーダ装置1が出力するデータが不安定になるため、図11に示すように、軸ずれ角度の平均を算出した後、確率分布による割合確認を行ない、軸ずれ検出角度を確定させている。確率分布による割合確認は、レーダ装置1の仕様である±0.3°以内の許容誤差を満たすべく、この範囲内にあるものの割合を統計的に確認する。
【0039】
以下に説明する処理フローは、上記概念に基づいており、プロセッサ6が連続性判定処理(ステップS103)の後に実行するものである。以下、軸ずれ判定処理(ステップS104)の詳細な処理フローを、図12に示すフローチャートに沿って説明する。
【0040】
(ステップS201)プロセッサ6は、軸ずれ判定に供するデータの累積に適した環境であるか否かを判定する。例えば、自車の速度が遅い場合に採取したデータは、仮に軸ずれがあったとしても、反射波の解析によって得られる各物標の横速度の大きさが小さすぎるため、軸ずれ判定に用いることができる程度の有効なデータにならない。また、例えば、自車がカーブを走行している場合に採取したデータは、仮に軸ずれが無かったとしても、反射波の解析によって各物標に横速度が表れてしまい、有効なデータにならない。そこで、プロセッサ6は、ハンドル角度センサ2Bや車速センサ2C、或いはナビゲーション装置2AからECU2を介して送られる自車の速度やカーブの大きさが一定の条件を満たしているか否かの判定を行なう。ここでは、例えば、自車の速度が毎時40km以上で且つカーブの半径Rの大きさが3000m以上の場合にプロセッサ6が肯定判定を行い、それ以外の場合に否定判定を行うものとする。プロセッサ6は、肯定判定を下したら、下記に示すステップS202からステップS205に示す処理を実行し、横速度の平均を算出する。
【0041】
(ステップS202)プロセッサ6は、ステップS103の処理によって得られた各物標のデータから、当該物標が軸ずれ判定に適したものであるか否かの判定を行なう。例えば、対地速度の遅い物標のデータを軸ずれ判定に用いると、反射波の解析によって得られる当該物標の横速度の大きさが小さすぎるため、軸ずれ判定に用いることができる程度の有効なデータにならない。また、ステップS202において、ステップS201で求めた角度スペクトラムのピークの本数の合計が3以上の物標のデータについては、推定される角度の精度が劣ると考えられる。当該合計が3以上となる場合は、ノイズ等によりピークが実際の数以上に現れている可能性が高いと考えられるためである。このため、このような物標のデータについても軸ずれ判定に用いることができる程度の有効なデータにならない。そこで、プロセッサ6は、ステップS103の処理によって得られた物標のデータから、物標の対地速度の絶対値が毎時30km以上であるか否かの判定を行なう。また、プロセッサ6は、当該物標の角度スペクトルのパワーやピークの本数等の条件が規定値を満たしているか否かについても判定を行い、当該物標が軸ずれ判定に適したものであるか否かの判定を行なう。
【0042】
(ステップS203)プロセッサ6は、ステップS202の判別処理において、規定の条件を満たした物標については、下記のステップS204およびステップS205の処理を実行する。また、規定の条件を満たさなかった物標については、ステップS204およびステップS205の処理を省略する。
【0043】
(ステップS204)プロセッサ6は、ステップS202における判別条件を満たした物標のデータが、規定の条件を満たしているか否かを判別する。すなわち、物標そのものがステップS202の条件を満たすものであっても、例えば、50ミリ秒周期で採取されたデータのうち一部が欠損している故に、欠損部分のデータが補間されていたような場合には、軸ずれ判定に用いるデータとしては信憑性に乏しい。そこで、プロセッサ6は、採取された物標のデータが補間されたものであるか否かのフラグ(外挿フラグ)の有無や、物標が新規に現れたものであるか否かのフラグ(新規フラグ)の有無の判定を行なう。横速度の算出は、後述するように、特定のタイミングで採取されたデータに基づく軸ずれ用横位置(今回)と、その一つ前のタイミングで採取されたデータに基づく軸ずれ用横位置(前回)との差分、及びその間の経過時間に基づいて算出する。よって、前回および今回の何れかに外挿フラグあるいは新規フラグが立っていれば、そのデータは、横速度の算出に不適であることが判る。
【0044】
(ステップS205)プロセッサ6は、ステップS204において肯定判定を下した場合、横速度の平均を算出する。横速度の平均は以下のようにして算出する。プロセッサ6は、まず、各物標の横速度を算出する。横速度は、図13に示されるように、横位置の移動速度であるため、以下の数式により算出される。
横速度=(軸ずれ検出用横位置(今回)−軸ずれ検出用横位置(前回))/経過時間(ΔT[sec]/相対速度の絶対値[m/sec]
【0045】
なお、上記式に示すように、横速度については相対速度の絶対値で除算して算出している。これは、相対速度で除算することにより、算出される横速度を、物標と自車との相対速度から物標の絶対速度へ変換し、横速度のばらつきを抑えるためである。よって、相対速度の絶対値がゼロの場合には横速度の計算を行わないものとする。
【0046】
プロセッサ6は、各物標の横速度を算出したら、これを図14に示すようにメモリ16に蓄積していく。なお、図14に示すように、プロセッサ6は、複数個(例えば、40個程度)の物標のそれぞれの横速度をメモリ16に蓄積する。図14では、横速度が算出されていない部分が多数存在するが、当該部分については、例えば、上記ステップS204の判定処理等において否定判定されることにより、横速度の算出が行なわれなかった部分である。
【0047】
次に、プロセッサ6は、各物標の横速度を算出したら、横速度の算出回数と横速度の合計から全体の横速度平均を算出する。横速度平均は以下の数式により算出される。
横速度平均[m/s]=横速度合計/横速度算出回数
【0048】
(ステップS206)プロセッサ6は、上記ステップS201からS205までの処理を行ったら、データサンプル数のカウンタを1つ加算する。
【0049】
(ステップS207)プロセッサ6は、軸ずれ判定に必要なデータサンプル数が揃ったか否かを判定する。データサンプル数は、例えば、2000とする。プロセッサ6は、データサンプル数のカウンタが2000以上であればステップS208以降の処理を実行する。また、プロセッサ6は、データサンプル数のカウンタが2000未満であればステップS211以降の処理を実行する。なお、データサンプルは50ミリ秒周期で採取されて
いるため、データサンプル数のカウンタが2000に達するのは最短で100秒となる。
【0050】
(ステップS208)プロセッサ6は、横速度平均から軸ずれ角度を算出する。軸ずれ角度は以下のようにして算出する。プロセッサ6は、まず、全体の横速度平均を算出する。横速度平均は以下の数式により算出される。横速度平均の合計値は、所定回(例えば、3回)に渡るサンプリングデータを合計したものとし、一定回数以上過去に遡った古いデータについては逐次廃棄しながら最新の所定回分のデータに基づいて算出していくものとする。
全体の横速度平均=横速度平均の合計/横速度平均の累積データ数
【0051】
プロセッサ6は、次に、全体の横速度平均から、軸ずれ角度を以下の式により算出する。
軸ずれ角度[deg]=ASIN(全体の横速度平均*180/π)
【0052】
(ステップS209)プロセッサ6は、軸ずれ角度を算出したら、軸ずれ演算回数のカウンタを1つ加算する。
【0053】
(ステップS210)プロセッサ6は、軸ずれ演算回数のカウンタを1つ加算したら、データサンプル数のカウンタをクリアする。
【0054】
(ステップS211)プロセッサ6は、軸ずれ演算回数を判定する。プロセッサ6は、軸ずれ演算回数が8以上であれば、確率分布による統計処理によって軸ずれ角度を確定させるのに十分な軸ずれ角度のサンプル数が得られたものとし、ステップS212以降の処理を実行する。一方、プロセッサ6は、軸ずれ演算回数が8未満であれば、一連の処理を完了し、再びステップS201以降の処理を繰り返す。
【0055】
(ステップS212)プロセッサ6は、軸ずれ演算回数が8以上であれば、確率分布による軸ずれ確定処理を行う。すなわち、プロセッサ6は、図15に示すように8つ分の軸ずれ角度を算出したら、下記の確定処理を行う。なお、ステップS208の処理では所定回分の横速度平均のデータから軸ずれ角度を算出しているため、3回目のデータについては1回目から3回目までの横速度の平均値から算出されている。
【0056】
プロセッサ6は、軸ずれ角度の平均を下記の式より算出する。
軸ずれ角度平均[deg]=軸ずれ角度合計/軸ずれ演算累積データ数
【0057】
次に、図16に示すように、軸ずれ角度平均の±0.3[deg]の範囲での確率を累積分
布関数P(x)により求める。正規分布は、その平均をμ、標準偏差をσとすると、累積分布関数は以下の式で表される。
【数1】
【0058】
例えば、軸ずれ角度の平均が−1.5[deg]であった場合、それよりも−0.3[deg]側(a)と+0.3[deg]側(b)との間の確率は上記式により、以下の数式で求められる
。
確率[%]=(P(b)−P(a))*100 (b≧a)
【0059】
ここでの確率とは、演算した軸ずれ角度が、直前8回分(当該軸ずれを演算した回を含む)の軸ずれ角度の平均値の±0.3[deg]に入る確率である。たとえば、確率80%と
なるには、軸ずれ角度を演算した8回のうち7回以上が軸ずれ角度の平均値の±0.3[deg]に入っている場合である。
【0060】
算出された確率が80%以上の場合、aからbの範囲内で角度ずれが発生している可能性が高いといえる。このため、次のサイクル(すなわち、9つ目以降の軸ずれ角度の算出)では軸ずれ角度が、確率が80%以上になったときの軸ずれ角度の平均値±0.3[deg]の範囲に入るデータのみを累積する。そして、図17に示されるように、確率が100
%になった時点で、かかる時点を含む直前8回分の軸ずれ角度の平均値を確定させる。なお、累積するデータは8つまでとし、9つ目以降のデータを累積する場合には古いデータを逐次廃棄する。
【0061】
また、算出された確率が80%以上になった後、軸ずれ角度が平均値の±0.3[deg]
の範囲に入るデータのみを累積していったものの、軸ずれ角度の平均値の±0.3[deg]
の範囲に入るデータがその後算出されず、例えば図18の符号Aに示されるように、算出される確率が80%を下回る場合もある。この場合、軸ずれ角度の平均値の±0.3[deg]の範囲に入る軸ずれ角度のデータの累積を止め、演算された軸ずれ角度を累積する。ま
た、算出される確率が80%をさらに下回って図18の符号Bに示されるように60%未満になった場合には、累積した軸ずれ角度のデータを全てクリアする。また、軸ずれ演算回数が50回を超えても軸ずれ角度が確定しない場合、累積した軸ずれ角度のデータを全てクリアする。そして、ステップS214およびステップS215の処理を省略し、ステップS201以降の処理を再び実行する。
【0062】
(ステップS214)プロセッサ6は、ステップS213の処理で確定した軸ずれ角度の平均値を軸ずれ検出角度とする。かかる軸ずれ検出角度を学習値としてメモリ16に記録する。また、軸ずれ演算回数や軸ずれ角度データの値をクリアする。
【0063】
(ステップS215)プロセッサ6は、ステップS214で学習値として記録された軸ずれ検出角度に基づき、ECU2へ出力する角度データを補正するための補正角度を更新
する。補正角度の更新は、確定した軸ずれ検出角度を以下の数式によってフィルタリングすることにより、少しずつ時間をかけて行う。
新軸ずれ角度[deg]=(1−0.98)*今回演算した軸ずれ検出角度+0.98*
前回の新軸ずれ角度
【0064】
なお、補正角度が僅かな変化によって頻繁に更新されるのを防ぐため、補正角度の更新は、新軸ずれ角度の絶対値が0.5[deg]以上の場合にデータの更新を行う。算出した新
軸ずれ角度は、メモリ16の不揮発性記憶領域へ格納され、軸ずれ発生の有無の判定に用いられる。
【0065】
本実施形態に係るレーダ装置1は、プロセッサ6が、上記処理フロー(S201〜S215)に示す一連の軸ずれ判定処理(ステップS104)を行なうことにより、軸ずれが補正される。これにより、各物標の見かけ上の横方向への移動が解消される。
【0066】
また、上記レーダ装置1では、プロセッサ6が軸ずれ判定に用いる物標に制約がほとんど無く、あらゆる物標のデータを用いて軸ずれを検出できる。よって、軸ずれの判定を頻繁に行なうことが可能であり、軸ずれが発生した場合にこれを直ちに検知して補正角度の更新や装置の修理、ドライバーへの警告等の対応を採ることができる。すなわち、従来であれば、軸ずれ判定に際して直線的な静止物や一定方向に向かって走行する車両の物標データなど、サンプリング対象とする物標に様々な制約があったが、上記レーダ装置1ではあらゆる物標のデータを用いて軸ずれ判定を行うことができる。
【0067】
なお、上記レーダ装置1では、不適切な補正角度の更新が行なわれないよう、プロセッサ6が各種の統計的な処理を行うことで、補正角度を最終的に確定させていた。しかし、物標全体の横速度の平均の大きさに基づいて軸ずれを検出するという思想を逸脱しない範囲内であれば、上記プロセッサ6が実行する一連の処理は適宜変更可能である。例えば、補正角度の更新に際して各種の統計的な処理を施さない場合であれば、算出した軸ずれ角度の値をただちに補正角度の更新値としてもよい。
【0068】
また、上記レーダ装置1では、プロセッサ6が軸ずれ判定に用いる物標や自車速度等に各種の条件を課していたが、角度スペクトラムによって得られる物標の推定方向や距離が高精度なものであれば、そのような各種の条件を省いてもよい。また、上記レーダ装置1は、複数のアンテナの受信信号に基づいて一連の処理を実行していたが、例えば、単体のアンテナを機械的に動かして走査するものであってもよい。
【符号の説明】
【0069】
1・・レーダ装置,2・・ECU,2A・・ナビゲーション装置,2B・・ハンドル角度センサ,2C・・ナビゲーション装置,3・・受信アンテナ,4・・ミキサ,5・・AD変換器,6・・プロセッサ,7・・送信アンテナ,8・・発振器,9・・信号生成部,10・・送信制御部,11・・フーリエ変換部,12・・ピーク抽出部,13・・方位演算部,14・・距離・相対角度演算部,14A・・軸ずれ演算部,15・・信号処理装置,16・・メモリ
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置用の演算装置、レーダ装置、レーダ装置用の演算方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ波をアレーアンテナで受信し、各アンテナの受信信号を解析すると、レーダ波の到来方向を推定することができる。算出される角度は、アレーアンテナとレーダ波の到来方向との相対的な角度となるため、アレーアンテナの取付角が傾いていると、誤った物標の角度を算出することになる。そこで、アレーアンテナの走査角の軸ずれを検出する各種の技術が考案されている(例えば、特許文献1−3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−166051号公報
【特許文献2】特開平8−320371号公報
【特許文献3】特開2002−228749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
軸ずれ判定は、受信信号を解析して得られる推定角度と実際の角度との誤差を修正するものであるため、推定される物標のデータを使って行なう必要がある。ここで、従来からある軸ずれ判定では、例えば、直線的な物標、直進走行する物標、或いは静止する物標のように、軸ずれ判定に用いる物標に各種の条件が必要であり、そのような条件を満たす物標が存在しないと軸ずれ判定が行えないという問題があった。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、軸ずれ判定に用いる物標の条件に拘束されないレーダ装置用の演算装置、レーダ装置、レーダ装置用の演算方法およびプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明では、移動中に受信信号によって測位される物標のデータから物標の横方向への移動量を算出し、軸ずれを評価することにした。
【0007】
詳細には、物標の方向をアンテナの受信信号に基づいて特定するレーダ装置用の演算装置であって、前記アンテナを搭載した移動体が移動中に前記受信信号によって測位される物標のデータから、前記移動体の進行方向に対する物標の横方向への相対的な移動の大きさを算出し、前記レーダ装置の走査方向の基準軸と前記移動体の進行方向の基準軸との相対的な傾きを前記移動の大きさに基づいて評価する演算部を備える。
【0008】
上記演算装置は、レーダ装置によって特定される物標は個々に自在な方向へ移動しつつも、物標全体の横方向への移動量は限りなくゼロに近くなるという前提の下、物標全体の横方向への移動量に基づいて軸ずれを検出する。よって、軸ずれ判定に用いる物標に各種の条件を課すことなく、あらゆる物標のデータを用いて軸ずれを検出できる。
【0009】
なお、前記演算部は、前記アンテナを搭載した移動体が移動中に前記受信信号によって測位される物標の角度および距離のデータの蓄積数が所定の物標数に達すると、前記移動
体の進行方向に対する物標の横方向への相対的な移動速度の平均値を蓄積データに基づいて算出し、前記レーダ装置の走査方向の基準軸と前記移動体の進行方向の基準軸との相対的な傾きの大きさを前記平均値に基づいて算出するものであってもよい。各物標の横方向への移動速度を算出することにより、軸ずれ量であるレーダ装置の走査方向の基準軸と移動体の進行方向の基準軸との相対的な傾きの大きさを具体的に算出できる。
【0010】
また、前記演算部は、算出した前記傾きの大きさに基づき、前記受信信号によって測位される物標の角度および距離のデータを修正するものであってもよい。これにより、各受信信号に基づいて得られる各物標のデータの精度が高まる。
【0011】
なお、前記演算部は、複数回に渡って算出した前記傾きの大きさの平均値を統計処理によって確定し、確定した前記傾きの大きさの平均値に基づき、前記受信信号によって測位される物標の角度および距離のデータを修正するものであれば、各受信信号に基づいて得られる各物標のデータの精度が更に高まる。
【0012】
なお、本発明は、方法やプログラム、上記演算部を備えたレーダ装置、或いはプログラムを記録した記録媒体として捉えることもできる。
【0013】
例えば、本発明は、物標の方向を特定するレーダ装置であって、アンテナを搭載した移動体の移動中に前記アンテナの受信信号によって測位される、物標のデータから、前記移動体の進行方向に対する各物標の横方向への相対的な移動の大きさを算出し、前記レーダ装置の走査方向の基準軸と前記移動体の進行方向の基準軸との相対的な傾きを前記移動の大きさに基づいて評価する演算部を備えるものであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
軸ずれ判定に用いる物標の条件に拘束されることが無くなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】レーダ装置の構成図である。
【図2】レーダ装置で処理される信号の波形を示した図である。
【図3】メインの処理を示すフローチャートである。
【図4】アップビート周波数成分の周波数スペクトラムである。
【図5】ダウンビート周波数成分の周波数スペクトラムである。
【図6】角度スペクトラムである。
【図7】各ピークの角度とパワーの一例である。
【図8】ECUへ送られるデータの一例である。
【図9】軸ずれが無い場合の物標の動きを示した図である。
【図10】軸ずれが有る場合の物標の動きを示した図である。
【図11】軸ずれ判定の処理概要を示した図である。
【図12】軸ずれ判定の処理を示すフローチャートである。
【図13】横速度の算出方法の概要図である。
【図14】蓄積する横速度のデータの一例である。
【図15】軸ずれ角度をプロットしたグラフである。
【図16】軸ずれ角度の正規分布を示したグラフである。
【図17】8つ目以降の軸ずれ角度をプロットした第一のグラフである。
【図18】8つ目以降の軸ずれ角度をプロットした第二のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本願発明を実施するための形態を例示的に説明する。以下に示す実施形態は例示であり、本願発明の技術的範囲をこれらに限定するものではない。
【0017】
図1は、本実施形態に係るレーダ装置1の構成図である。レーダ装置1は、車両に搭載されて車両の周辺をレーダで監視し、他の車両や障害物等の物標を検知する。物標の検知結果は、車両を制御するECU(Electrical Control Unit)2に出力されて車両の制御
等に用いられる。但し、本実施形態に係るレーダ装置は、車両に搭載する以外の各種用途(例えば、飛行中の航空機や航行中の船舶の監視等)に用いてもよい。
【0018】
レーダ装置1は、等間隔に配置された受信アンテナ3(ch1−4)、各受信アンテナ3に各々繋がるミキサ4(ch1−4)、各ミキサ4に各々繋がるAD(Analog to Digital)変換器5(ch1−4)、各AD変換器5のデータを処理するプロセッサ6を含む
信号処理装置15を備える。また、レーダ装置1は、送信アンテナ7、発振器8、信号生成部9、送信制御部10を備える。
【0019】
なお、レーダ装置1は、このように受信アンテナ毎に専用の受信回路を設けてもよいが、全受信アンテナによる受信信号をまとめて受信する受信回路を設けてもよい。この場合、時分割で受信回路が対応する受信アンテナを順次切り替える制御が必要となるが、レーダ装置1の回路構成をコンパクトにできる。
【0020】
また、レーダ装置1は、受信アンテナと送信アンテナとを独立に設けているが、受信アンテナが送信アンテナを兼ねるようにしてもよい。この場合、各アンテナは、レーダ波を送信した直後に受信状態に切り替わり、自身が送信したレーダ波の反射波を受信させることが可能である。
【0021】
レーダ装置1は、車両から電力が供給されるとプロセッサ6がコンピュータプログラムを実行し、フーリエ変換部11やピーク抽出部12、方位演算部13、距離・相対角度演算部14、軸ずれ演算部14Aといった機能部を実現する。これらの機能部は、プロセッサ6がメモリ16と協働してコンピュータプログラムを実行することによって実現される機能部であるが、説明の便宜上、図1ではプロセッサ6内に各機能部を図示している。なお、これらの機能部は、必ずしもソフトウェアで実現されるものに限定されるものでなく、例えば、プロセッサ6の内部あるいは外部に配置された専用の演算回路によってその全部または一部が実現されてもよい。
【0022】
図2は、レーダ装置1で処理される信号の波形を示したものである。レーダ装置1は、FM−CW(Frequency Modulation - Continuous Wave)方式を採用しており、図2(a)に示すような三角波状の送信波STを信号生成部9が生成し、発振器8で変調して送信する。そして、物標から反射した受信波SRをミキサ4(ch1−4)が送信波STとミキシングすることにより、図2(b)に示すようなビート信号SBを得る。図2において、送信波STと受信波SRとの位相差(フェーズシフト)が物標とレーダ装置との距離に比例して増減し、送信波STと受信波SRとの周波数差(ドップラシフト)が物標とレーダ装置との相対速度に比例して増減する。図2の記号FMは、信号生成部9が生成する三角波の周波数である。なお、相対速度や距離の異なる物標が複数存在する場合、各アンテナにはフェーズシフト量やドップラシフト量の異なる反射波が複数受信され、各ミキサ4(ch1−4)から得られるビート信号SBには各物標に対応した様々な成分が含まれることになるが、図2では理解を容易にするため、1つの物標が存在する場合の波形を例示している。
【0023】
以下、車両からレーダ装置1へ電力が供給されるとプロセッサ6が実行する処理フローについて、図3のフローチャートに沿って説明する。プロセッサ6は、車両の駆動源が作動状態、すなわち、駆動源が内燃機関であればエンジンが始動し、ハイブリッドシステムやEV(Electric Car)システムであればシステム電源がオンになると、以下に示す処理
フローを繰り返す。
【0024】
(ステップS101)プロセッサ6は、ビート信号SBのアップビート周波数成分FBUとダウンビート周波数成分FBDのそれぞれについてch毎にフーリエ変換を行い、図4に示すようなアップビート周波数成分FBUの周波数スペクトラムおよび図5に示すようなダウンビート周波数成分FBDの周波数スペクトラムを得る。
【0025】
各受信アンテナ3(ch1−4)は同じ物標からの反射波を受信するため、フーリエ変換では同じピーク周波数を有する同じ形状の周波数スペクトラムが各受信アンテナ3(ch1−4)のそれぞれから得られる。但し、各受信アンテナ3(ch1−4)で位相は異なるため、同じピーク周波数であっても位相はアンテナ毎に異なる。例えば、受信アンテナ3(ch1)の周波数スペクトラムのピークPU1(ch1)と受信アンテナ3(ch2)の周波数スペクトラムのピークPU1(ch2)は、周波数については互いに同じであるが、位相については相違している。
【0026】
プロセッサ6は、フーリエ変換によって得たアップビート周波数成分FBUとダウンビート周波数成分FBDのそれぞれの周波数スペクトラムから、所定パワー以上のピークを抽出し、抽出したピークの周波数、パワー、及び位相を抽出する。
【0027】
周波数スペクトラムのピークには複数の物標の情報が含まれ得るため、1つのピークから物標を分離し、分離した物標の角度を推定する必要がある。そのため、プロセッサ6は、アップビート周波数成分FBUとダウンビート周波数成分FBDのそれぞれについて、全受信アンテナ3(ch1−4)で周波数が互いに同じピーク(例えば、アップビート周波数成分FBU側であればピークPU1(ch1)とピークPU1(ch2)とピークPU1(ch3)とピークPU1(ch4)が互いに同じ周波数FU1のピークであり、ダウンビート周波数成分FBD側であればピークPD1(ch1)とピークPD1(ch2)とピークPD1(ch3)とピークPD1(ch4)が互いに同じ周波数FD1のピークである)のものを元に、図6に示すような角度スペクトラムを、ESPRITやMUSICといった各種の角度推定方式を用いて演算により求める。
【0028】
プロセッサ6は、周波数スペクトラムのピーク周波数毎に角度スペクトラムを所定の角度推定方式で算出する。例えば、図4および図5に示した周波数スペクトラムを例にとれば、プロセッサ6は、5つのピークの周波数(FU1−3、FD1−2)毎に角度スペクトラムを算出する。図6はピーク周波数FU1の角度スペクトラムの一例であり、アップビート周波数成分FBUとダウンビート周波数成分FBDとを併記している。そして、5つのピーク周波数(FU1−3、FD1−2)の各角度スペクトラムについて、角度スペクトラムのピークの角度とパワーを抽出する。5つのピーク周波数(FU1−3、FD1−2)の各角度スペクトラムの各ピークの角度とパワーの一例を図7に示す。
【0029】
(ステップS102)プロセッサ6は、各角度スペクトラムの各ピークの角度とパワーを抽出したら、各ピークのペアリングを行ない、実在する物標の特定を行なう。すなわち、プロセッサ6は、アップビート周波数成分FBUの角度スペクトラムの各ピークとダウンビート周波数成分FBDの角度スペクトラムの各ピークとの間で、角度やパワーが互いに近似しているもの同士をペアリングする。例えば、図6に例示した角度スペクトラムでは、ピーク周波数FU1のアップビート周波数成分FBUのピークU1とピークU2の角度およびパワーが、ダウンビート周波数成分FBDのピークD1とピークD2の角度およびパワーにそれぞれ近似している。例えば、ピークU1とピークD2は互いに角度が約0°で近似しており、ピークU2とピークD1は互いに角度が約3°で近似している。よって、図7に示すピークU1の角度θU1およびパワーPWU1がピークD2の角度θD2およびパワーPWD2と互いに近似していて、ピークU1とピークD2がペアリングされ
るので、ピークU1とピークD2が物標TG1を示していることが特定される。
【0030】
プロセッサ6は、アップビート周波数成分FBUの角度スペクトラムの各ピーク(ピークU1−6)とダウンビート周波数成分FBDの角度スペクトラムの各ピーク(ピークD1−5)とを互いにペアリングすることにより、図7に示すように、物標TG1−5の5つの物標を特定する。なお、アップビート周波数成分FBUの角度スペクトラムのピークU6は、ダウンビート周波数成分FBDの角度スペクトラムの何れのピークにもペアリングされていない。よって、ピークU6は、内部ノイズ等に起因して表れたピークであり、実在する物標に因るものでないことが判る。
【0031】
プロセッサ6は、ペアリングされたピーク周波数に基づいて、各物標の角度や距離、相対速度を算出する。ここで、レーダ波の伝搬速度をC、信号生成部9が生成する三角波の変調周波数をFM、三角波の中心周波数をF0、三角波の変調幅をΔFとすると、各物標の距離R(R1〜R5)および相対速度V(V1〜V5)は、次式によって導かれる。
R=((FU+FD)・C)/(8・ΔF・FM)
V=((FD+FD)・C)/(4・F0)
【0032】
また、各物標の角度は、ペアリングされたアップビート周波数成分FBUのピークとダウンビート周波数成分FBDのピークの角度が互いにほとんど同じではあるが、より精度を高めるため、各物標の角度D(D1〜D5)は、次式より導く。
D=(θU+θD)/2
【0033】
なお、プロセッサ6は、本ステップにおいて、ペアリングされたアップビート周波数成分FBUのピークとダウンビート周波数成分FBDのピークとの本数の合計を検出する。検出された合計の値は、後述する軸ずれ判定処理(ステップS104)において用いられる。角度スペクトラムのピークの本数とは、図6における所定角度[Deg]範囲内で閾値を
超えるピークの本数である。所定角度とは、例えば3[Deg]である。所定角度を3[Deg]とした場合には、図6における角度スペクトラムのピークの本数の合計は、2本となる。
【0034】
(ステップS103)プロセッサ6は、繰り返し行なうスキャンによって連続的に検出される物標の位置をメモリ16に記憶しておく。そして、スキャンを行なう毎に、前回の物標の位置データと今回の物標の位置データとを比較し、物標の変位量から連続性の有無を判定する。プロセッサ6は、変位量が規定の範囲内であれば連続性有りと判定し、変位量が規定の範囲外であれば連続性無しと判定する。そして、レーダ装置10は、連続性有りと判断した物標の角度、距離および相対速度のデータをECU2に出力する。例えば、角度スペクトラムの各ピークから図7に示すような5つの物標が特定された場合、プロセッサ6からECU2へ図8に示すようなデータが送られる。各物標の角度、距離および相対速度のデータは、ECU2で車両の制御等に用いられる。
【0035】
なお、プロセッサ6は、何らかの理由によって十分な強度の受信信号が得られず、物標をロストしたスキャンを行なう場合がある。この場合、プロセッサ6は、物標をロストしたスキャンについてはロストした物標の位置を推定する、いわゆる外挿を行うことにより、再び物標の位置が検出されたときに、推定した位置と新たに検出された位置との連続性を維持する。
【0036】
なお、プロセッサ6は、本ステップにおいて、後述する軸ずれ判定処理(ステップS104)において用いる、連続の取れた物標の横位置を算出する。すなわち、プロセッサ6は、連続性が有ると判定された物標の軸ずれ検出用横位置を、この物標の角度および距離のデータに基づいて算出する。軸ずれ検出用横位置は次式から導かれる。
軸ずれ検出用横位置=距離*sin(角度)
【0037】
(ステップS104)また、プロセッサ6は、連続性判定処理を行なった後、以下のような軸ずれ判定処理を実行する。以下に示す処理は、レーダ装置1の取付角度の変化等に起因する軸ずれを評価し、補正することを目的としている。軸ずれが無く、レーダ装置1の走査角の中心方向とレーダ装置1が搭載される車両の直進方向とが一致している場合、図9に示すように、各物標が見かけ上、横方向に移動することが無い。しかし、軸ずれが有り、レーダ装置1の走査角の中心方向とレーダ装置1が搭載される車両の直進方向とが一致していない場合、図10に示すように、各物標が見かけ上、横方向に移動する。
【0038】
そこで、プロセッサ6は、軸ずれの補正を行なうにあたり、軸ずれがない場合には各物標は個々に自在な方向へ移動しつつも、物標全体の横速度の平均は限りなくゼロに近くなるという前提の下、物標全体の横速度の平均の大きさに基づいて軸ずれを検出するものである。なお、以下に示す軸ずれ判定処理においては、横速度の平均の大きさを直ちに軸ずれの判定処理に用いると、レーダ装置1が出力するデータが不安定になるため、図11に示すように、軸ずれ角度の平均を算出した後、確率分布による割合確認を行ない、軸ずれ検出角度を確定させている。確率分布による割合確認は、レーダ装置1の仕様である±0.3°以内の許容誤差を満たすべく、この範囲内にあるものの割合を統計的に確認する。
【0039】
以下に説明する処理フローは、上記概念に基づいており、プロセッサ6が連続性判定処理(ステップS103)の後に実行するものである。以下、軸ずれ判定処理(ステップS104)の詳細な処理フローを、図12に示すフローチャートに沿って説明する。
【0040】
(ステップS201)プロセッサ6は、軸ずれ判定に供するデータの累積に適した環境であるか否かを判定する。例えば、自車の速度が遅い場合に採取したデータは、仮に軸ずれがあったとしても、反射波の解析によって得られる各物標の横速度の大きさが小さすぎるため、軸ずれ判定に用いることができる程度の有効なデータにならない。また、例えば、自車がカーブを走行している場合に採取したデータは、仮に軸ずれが無かったとしても、反射波の解析によって各物標に横速度が表れてしまい、有効なデータにならない。そこで、プロセッサ6は、ハンドル角度センサ2Bや車速センサ2C、或いはナビゲーション装置2AからECU2を介して送られる自車の速度やカーブの大きさが一定の条件を満たしているか否かの判定を行なう。ここでは、例えば、自車の速度が毎時40km以上で且つカーブの半径Rの大きさが3000m以上の場合にプロセッサ6が肯定判定を行い、それ以外の場合に否定判定を行うものとする。プロセッサ6は、肯定判定を下したら、下記に示すステップS202からステップS205に示す処理を実行し、横速度の平均を算出する。
【0041】
(ステップS202)プロセッサ6は、ステップS103の処理によって得られた各物標のデータから、当該物標が軸ずれ判定に適したものであるか否かの判定を行なう。例えば、対地速度の遅い物標のデータを軸ずれ判定に用いると、反射波の解析によって得られる当該物標の横速度の大きさが小さすぎるため、軸ずれ判定に用いることができる程度の有効なデータにならない。また、ステップS202において、ステップS201で求めた角度スペクトラムのピークの本数の合計が3以上の物標のデータについては、推定される角度の精度が劣ると考えられる。当該合計が3以上となる場合は、ノイズ等によりピークが実際の数以上に現れている可能性が高いと考えられるためである。このため、このような物標のデータについても軸ずれ判定に用いることができる程度の有効なデータにならない。そこで、プロセッサ6は、ステップS103の処理によって得られた物標のデータから、物標の対地速度の絶対値が毎時30km以上であるか否かの判定を行なう。また、プロセッサ6は、当該物標の角度スペクトルのパワーやピークの本数等の条件が規定値を満たしているか否かについても判定を行い、当該物標が軸ずれ判定に適したものであるか否かの判定を行なう。
【0042】
(ステップS203)プロセッサ6は、ステップS202の判別処理において、規定の条件を満たした物標については、下記のステップS204およびステップS205の処理を実行する。また、規定の条件を満たさなかった物標については、ステップS204およびステップS205の処理を省略する。
【0043】
(ステップS204)プロセッサ6は、ステップS202における判別条件を満たした物標のデータが、規定の条件を満たしているか否かを判別する。すなわち、物標そのものがステップS202の条件を満たすものであっても、例えば、50ミリ秒周期で採取されたデータのうち一部が欠損している故に、欠損部分のデータが補間されていたような場合には、軸ずれ判定に用いるデータとしては信憑性に乏しい。そこで、プロセッサ6は、採取された物標のデータが補間されたものであるか否かのフラグ(外挿フラグ)の有無や、物標が新規に現れたものであるか否かのフラグ(新規フラグ)の有無の判定を行なう。横速度の算出は、後述するように、特定のタイミングで採取されたデータに基づく軸ずれ用横位置(今回)と、その一つ前のタイミングで採取されたデータに基づく軸ずれ用横位置(前回)との差分、及びその間の経過時間に基づいて算出する。よって、前回および今回の何れかに外挿フラグあるいは新規フラグが立っていれば、そのデータは、横速度の算出に不適であることが判る。
【0044】
(ステップS205)プロセッサ6は、ステップS204において肯定判定を下した場合、横速度の平均を算出する。横速度の平均は以下のようにして算出する。プロセッサ6は、まず、各物標の横速度を算出する。横速度は、図13に示されるように、横位置の移動速度であるため、以下の数式により算出される。
横速度=(軸ずれ検出用横位置(今回)−軸ずれ検出用横位置(前回))/経過時間(ΔT[sec]/相対速度の絶対値[m/sec]
【0045】
なお、上記式に示すように、横速度については相対速度の絶対値で除算して算出している。これは、相対速度で除算することにより、算出される横速度を、物標と自車との相対速度から物標の絶対速度へ変換し、横速度のばらつきを抑えるためである。よって、相対速度の絶対値がゼロの場合には横速度の計算を行わないものとする。
【0046】
プロセッサ6は、各物標の横速度を算出したら、これを図14に示すようにメモリ16に蓄積していく。なお、図14に示すように、プロセッサ6は、複数個(例えば、40個程度)の物標のそれぞれの横速度をメモリ16に蓄積する。図14では、横速度が算出されていない部分が多数存在するが、当該部分については、例えば、上記ステップS204の判定処理等において否定判定されることにより、横速度の算出が行なわれなかった部分である。
【0047】
次に、プロセッサ6は、各物標の横速度を算出したら、横速度の算出回数と横速度の合計から全体の横速度平均を算出する。横速度平均は以下の数式により算出される。
横速度平均[m/s]=横速度合計/横速度算出回数
【0048】
(ステップS206)プロセッサ6は、上記ステップS201からS205までの処理を行ったら、データサンプル数のカウンタを1つ加算する。
【0049】
(ステップS207)プロセッサ6は、軸ずれ判定に必要なデータサンプル数が揃ったか否かを判定する。データサンプル数は、例えば、2000とする。プロセッサ6は、データサンプル数のカウンタが2000以上であればステップS208以降の処理を実行する。また、プロセッサ6は、データサンプル数のカウンタが2000未満であればステップS211以降の処理を実行する。なお、データサンプルは50ミリ秒周期で採取されて
いるため、データサンプル数のカウンタが2000に達するのは最短で100秒となる。
【0050】
(ステップS208)プロセッサ6は、横速度平均から軸ずれ角度を算出する。軸ずれ角度は以下のようにして算出する。プロセッサ6は、まず、全体の横速度平均を算出する。横速度平均は以下の数式により算出される。横速度平均の合計値は、所定回(例えば、3回)に渡るサンプリングデータを合計したものとし、一定回数以上過去に遡った古いデータについては逐次廃棄しながら最新の所定回分のデータに基づいて算出していくものとする。
全体の横速度平均=横速度平均の合計/横速度平均の累積データ数
【0051】
プロセッサ6は、次に、全体の横速度平均から、軸ずれ角度を以下の式により算出する。
軸ずれ角度[deg]=ASIN(全体の横速度平均*180/π)
【0052】
(ステップS209)プロセッサ6は、軸ずれ角度を算出したら、軸ずれ演算回数のカウンタを1つ加算する。
【0053】
(ステップS210)プロセッサ6は、軸ずれ演算回数のカウンタを1つ加算したら、データサンプル数のカウンタをクリアする。
【0054】
(ステップS211)プロセッサ6は、軸ずれ演算回数を判定する。プロセッサ6は、軸ずれ演算回数が8以上であれば、確率分布による統計処理によって軸ずれ角度を確定させるのに十分な軸ずれ角度のサンプル数が得られたものとし、ステップS212以降の処理を実行する。一方、プロセッサ6は、軸ずれ演算回数が8未満であれば、一連の処理を完了し、再びステップS201以降の処理を繰り返す。
【0055】
(ステップS212)プロセッサ6は、軸ずれ演算回数が8以上であれば、確率分布による軸ずれ確定処理を行う。すなわち、プロセッサ6は、図15に示すように8つ分の軸ずれ角度を算出したら、下記の確定処理を行う。なお、ステップS208の処理では所定回分の横速度平均のデータから軸ずれ角度を算出しているため、3回目のデータについては1回目から3回目までの横速度の平均値から算出されている。
【0056】
プロセッサ6は、軸ずれ角度の平均を下記の式より算出する。
軸ずれ角度平均[deg]=軸ずれ角度合計/軸ずれ演算累積データ数
【0057】
次に、図16に示すように、軸ずれ角度平均の±0.3[deg]の範囲での確率を累積分
布関数P(x)により求める。正規分布は、その平均をμ、標準偏差をσとすると、累積分布関数は以下の式で表される。
【数1】
【0058】
例えば、軸ずれ角度の平均が−1.5[deg]であった場合、それよりも−0.3[deg]側(a)と+0.3[deg]側(b)との間の確率は上記式により、以下の数式で求められる
。
確率[%]=(P(b)−P(a))*100 (b≧a)
【0059】
ここでの確率とは、演算した軸ずれ角度が、直前8回分(当該軸ずれを演算した回を含む)の軸ずれ角度の平均値の±0.3[deg]に入る確率である。たとえば、確率80%と
なるには、軸ずれ角度を演算した8回のうち7回以上が軸ずれ角度の平均値の±0.3[deg]に入っている場合である。
【0060】
算出された確率が80%以上の場合、aからbの範囲内で角度ずれが発生している可能性が高いといえる。このため、次のサイクル(すなわち、9つ目以降の軸ずれ角度の算出)では軸ずれ角度が、確率が80%以上になったときの軸ずれ角度の平均値±0.3[deg]の範囲に入るデータのみを累積する。そして、図17に示されるように、確率が100
%になった時点で、かかる時点を含む直前8回分の軸ずれ角度の平均値を確定させる。なお、累積するデータは8つまでとし、9つ目以降のデータを累積する場合には古いデータを逐次廃棄する。
【0061】
また、算出された確率が80%以上になった後、軸ずれ角度が平均値の±0.3[deg]
の範囲に入るデータのみを累積していったものの、軸ずれ角度の平均値の±0.3[deg]
の範囲に入るデータがその後算出されず、例えば図18の符号Aに示されるように、算出される確率が80%を下回る場合もある。この場合、軸ずれ角度の平均値の±0.3[deg]の範囲に入る軸ずれ角度のデータの累積を止め、演算された軸ずれ角度を累積する。ま
た、算出される確率が80%をさらに下回って図18の符号Bに示されるように60%未満になった場合には、累積した軸ずれ角度のデータを全てクリアする。また、軸ずれ演算回数が50回を超えても軸ずれ角度が確定しない場合、累積した軸ずれ角度のデータを全てクリアする。そして、ステップS214およびステップS215の処理を省略し、ステップS201以降の処理を再び実行する。
【0062】
(ステップS214)プロセッサ6は、ステップS213の処理で確定した軸ずれ角度の平均値を軸ずれ検出角度とする。かかる軸ずれ検出角度を学習値としてメモリ16に記録する。また、軸ずれ演算回数や軸ずれ角度データの値をクリアする。
【0063】
(ステップS215)プロセッサ6は、ステップS214で学習値として記録された軸ずれ検出角度に基づき、ECU2へ出力する角度データを補正するための補正角度を更新
する。補正角度の更新は、確定した軸ずれ検出角度を以下の数式によってフィルタリングすることにより、少しずつ時間をかけて行う。
新軸ずれ角度[deg]=(1−0.98)*今回演算した軸ずれ検出角度+0.98*
前回の新軸ずれ角度
【0064】
なお、補正角度が僅かな変化によって頻繁に更新されるのを防ぐため、補正角度の更新は、新軸ずれ角度の絶対値が0.5[deg]以上の場合にデータの更新を行う。算出した新
軸ずれ角度は、メモリ16の不揮発性記憶領域へ格納され、軸ずれ発生の有無の判定に用いられる。
【0065】
本実施形態に係るレーダ装置1は、プロセッサ6が、上記処理フロー(S201〜S215)に示す一連の軸ずれ判定処理(ステップS104)を行なうことにより、軸ずれが補正される。これにより、各物標の見かけ上の横方向への移動が解消される。
【0066】
また、上記レーダ装置1では、プロセッサ6が軸ずれ判定に用いる物標に制約がほとんど無く、あらゆる物標のデータを用いて軸ずれを検出できる。よって、軸ずれの判定を頻繁に行なうことが可能であり、軸ずれが発生した場合にこれを直ちに検知して補正角度の更新や装置の修理、ドライバーへの警告等の対応を採ることができる。すなわち、従来であれば、軸ずれ判定に際して直線的な静止物や一定方向に向かって走行する車両の物標データなど、サンプリング対象とする物標に様々な制約があったが、上記レーダ装置1ではあらゆる物標のデータを用いて軸ずれ判定を行うことができる。
【0067】
なお、上記レーダ装置1では、不適切な補正角度の更新が行なわれないよう、プロセッサ6が各種の統計的な処理を行うことで、補正角度を最終的に確定させていた。しかし、物標全体の横速度の平均の大きさに基づいて軸ずれを検出するという思想を逸脱しない範囲内であれば、上記プロセッサ6が実行する一連の処理は適宜変更可能である。例えば、補正角度の更新に際して各種の統計的な処理を施さない場合であれば、算出した軸ずれ角度の値をただちに補正角度の更新値としてもよい。
【0068】
また、上記レーダ装置1では、プロセッサ6が軸ずれ判定に用いる物標や自車速度等に各種の条件を課していたが、角度スペクトラムによって得られる物標の推定方向や距離が高精度なものであれば、そのような各種の条件を省いてもよい。また、上記レーダ装置1は、複数のアンテナの受信信号に基づいて一連の処理を実行していたが、例えば、単体のアンテナを機械的に動かして走査するものであってもよい。
【符号の説明】
【0069】
1・・レーダ装置,2・・ECU,2A・・ナビゲーション装置,2B・・ハンドル角度センサ,2C・・ナビゲーション装置,3・・受信アンテナ,4・・ミキサ,5・・AD変換器,6・・プロセッサ,7・・送信アンテナ,8・・発振器,9・・信号生成部,10・・送信制御部,11・・フーリエ変換部,12・・ピーク抽出部,13・・方位演算部,14・・距離・相対角度演算部,14A・・軸ずれ演算部,15・・信号処理装置,16・・メモリ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物標の方向をアンテナの受信信号に基づいて特定するレーダ装置用の演算装置であって、
前記アンテナを搭載した移動体が移動中に前記受信信号によって測位される物標のデータから、前記移動体の進行方向に対する物標の横方向への相対的な移動の大きさを算出し、前記レーダ装置の走査方向の基準軸と前記移動体の進行方向の基準軸との相対的な傾きを前記移動の大きさに基づいて評価する演算部を備える、
レーダ装置用の演算装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記アンテナを搭載した移動体が移動中に前記受信信号によって測位される物標の角度および距離のデータの蓄積数が所定の物標数に達すると、前記移動体の進行方向に対する物標の横方向への相対的な移動速度の平均値を蓄積データに基づいて算出し、前記レーダ装置の走査方向の基準軸と前記移動体の進行方向の基準軸との相対的な傾きの大きさを前記平均値に基づいて算出する、
請求項1に記載のレーダ装置用の演算装置。
【請求項3】
前記演算部は、算出した前記傾きの大きさに基づき、前記受信信号によって測位される物標の角度および距離のデータを修正する、
請求項1または2に記載のレーダ装置用の演算装置。
【請求項4】
前記演算部は、複数回に渡って算出した前記傾きの大きさの平均値を統計処理によって確定し、確定した前記傾きの大きさの平均値に基づき、前記受信信号によって測位される物標の角度および距離のデータを修正する、
請求項1から3の何れか一項に記載のレーダ装置用の演算装置。
【請求項5】
物標の方向を特定するレーダ装置であって、
アンテナを搭載した移動体の移動中に前記アンテナの受信信号によって測位される物標のデータから、前記移動体の進行方向に対する各物標の横方向への相対的な移動の大きさを算出し、前記レーダ装置の走査方向の基準軸と前記移動体の進行方向の基準軸との相対的な傾きを前記移動の大きさに基づいて評価する演算部を備える、
レーダ装置。
【請求項6】
物標の方向をアンテナの受信信号に基づいて特定するレーダ装置用の演算方法であって、
前記アンテナを搭載した移動体の移動中に前記受信信号によって測位される物標のデータから、前記移動体の進行方向に対する物標の横方向への相対的な移動の大きさを算出し、
前記レーダ装置の走査方向の基準軸と前記移動体の進行方向の基準軸との相対的な傾きを前記移動の大きさに基づいて評価する、
レーダ装置用の演算方法。
【請求項7】
物標の方向をアンテナの各受信信号に基づいて特定するレーダ装置用の演算プログラムであって、
前記レーダ装置に、
前記アンテナを搭載した移動体の移動中に前記各受信信号によって測位される物標のデータから、前記移動体の進行方向に対する物標の横方向への相対的な移動の大きさを算出させ、
前記レーダ装置の走査方向の基準軸と前記移動体の進行方向の基準軸との相対的な傾きを前記移動の大きさに基づいて評価させる、
レーダ装置用の演算プログラム。
【請求項1】
物標の方向をアンテナの受信信号に基づいて特定するレーダ装置用の演算装置であって、
前記アンテナを搭載した移動体が移動中に前記受信信号によって測位される物標のデータから、前記移動体の進行方向に対する物標の横方向への相対的な移動の大きさを算出し、前記レーダ装置の走査方向の基準軸と前記移動体の進行方向の基準軸との相対的な傾きを前記移動の大きさに基づいて評価する演算部を備える、
レーダ装置用の演算装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記アンテナを搭載した移動体が移動中に前記受信信号によって測位される物標の角度および距離のデータの蓄積数が所定の物標数に達すると、前記移動体の進行方向に対する物標の横方向への相対的な移動速度の平均値を蓄積データに基づいて算出し、前記レーダ装置の走査方向の基準軸と前記移動体の進行方向の基準軸との相対的な傾きの大きさを前記平均値に基づいて算出する、
請求項1に記載のレーダ装置用の演算装置。
【請求項3】
前記演算部は、算出した前記傾きの大きさに基づき、前記受信信号によって測位される物標の角度および距離のデータを修正する、
請求項1または2に記載のレーダ装置用の演算装置。
【請求項4】
前記演算部は、複数回に渡って算出した前記傾きの大きさの平均値を統計処理によって確定し、確定した前記傾きの大きさの平均値に基づき、前記受信信号によって測位される物標の角度および距離のデータを修正する、
請求項1から3の何れか一項に記載のレーダ装置用の演算装置。
【請求項5】
物標の方向を特定するレーダ装置であって、
アンテナを搭載した移動体の移動中に前記アンテナの受信信号によって測位される物標のデータから、前記移動体の進行方向に対する各物標の横方向への相対的な移動の大きさを算出し、前記レーダ装置の走査方向の基準軸と前記移動体の進行方向の基準軸との相対的な傾きを前記移動の大きさに基づいて評価する演算部を備える、
レーダ装置。
【請求項6】
物標の方向をアンテナの受信信号に基づいて特定するレーダ装置用の演算方法であって、
前記アンテナを搭載した移動体の移動中に前記受信信号によって測位される物標のデータから、前記移動体の進行方向に対する物標の横方向への相対的な移動の大きさを算出し、
前記レーダ装置の走査方向の基準軸と前記移動体の進行方向の基準軸との相対的な傾きを前記移動の大きさに基づいて評価する、
レーダ装置用の演算方法。
【請求項7】
物標の方向をアンテナの各受信信号に基づいて特定するレーダ装置用の演算プログラムであって、
前記レーダ装置に、
前記アンテナを搭載した移動体の移動中に前記各受信信号によって測位される物標のデータから、前記移動体の進行方向に対する物標の横方向への相対的な移動の大きさを算出させ、
前記レーダ装置の走査方向の基準軸と前記移動体の進行方向の基準軸との相対的な傾きを前記移動の大きさに基づいて評価させる、
レーダ装置用の演算プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−202703(P2012−202703A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64608(P2011−64608)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】
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