説明

レーダ装置

【課題】
高誘電率ブロックの共振器を用いる方法では、マイクロストリップ線路に高誘電率ブロックを結合させて共振器を構成する方法が良く用いられるが、最適な発振条件を得るためには、マイクロストリップ線路と高誘電率ブロックの相対位置を調整する必要がある。PLL回路を構成する方法は、構成する部品数が多くなるため、コスト高になるとともに、部品面積が大きくなり小型化が難しくなる。
【解決手段】
本レーダ装置は、送信波を発生する発振器と、発振器から伝播された送信波と、当該送信波が物体に反射して戻ってきた受信波を混合するミキサを備え、発振器は、遅延回路を介して、ミキサに送信波を伝播する。遅延回路の遅延量が可変制御可能でもよい。又、遅延回路を介さずにミキサへ送信波を伝播する経路を備えてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用に用いられるレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーダの基本構成は、発振器,電力増幅器,ミキサ,送信アンテナ,受信アンテナより構成される(図8参照)。発振器で変調された電磁波が電力増幅器で増幅され送信アンテナを介して検知領域に放出される。発振器からの電磁波の一部は電力分配器などにより分配されてミキサ回路に入力される。検知領域に放出された電磁波の一部は被検知物である車両などで反射され、レーダ装置方向に到来したものが受信アンテナで受け取られる。受信アンテナで受けた電磁波はミキサ回路に入力され、発振器から分岐して入力された電磁波と混合される。ミキサ回路では混合された2つの電磁波からそれらの周波数差の周波数をもつ信号が出力される。この信号の周波数は変調方式や被検知物の距離,速度による。この信号を信号処理して被検知物の距離,速度などを検出している。
【0003】
特に車載用レーダでは、低コスト部品であることや、コストとサイズからシンプルな構成であることが望まれる。又、ミリ波帯の電磁波が用いられるため、レーダの検知性能に大きく関わる発振器には高性能なものが要求される。発振器の特性のうち特に、レーダ性能に関する一つに位相ノイズがあげられる。発振器から発生した電磁波と、この一部の電磁波を送信して遠方の被検知物で反射して戻ってきて再びレーダで受信した電磁波とを混合し、2つの電磁波からそれらの周波数差の周波数をもつ出力信号を信号処理して被検知物の情報を得るレーダ装置においては、この2つの電磁波相関性で出力信号の強度が決まる。出力信号の強度、即ち、出力信号のS/N比で被検知物の情報精度が決まる。位相ノイズは周波数の変動による位相変動を示したものであり、位相ノイズが大きい場合、被検知物が遠方になるにつれ、2つの電磁波が発振器から発生された時間からの差が大きくなるため、相関性が小さくなる。このため、位相ノイズが大きい場合、被検知物の情報精度が悪くなる。そこで、位相のノイズを小さくするために高誘電率ブロックの共振器を用いた発振器や(特許文献1参照)、PLL回路により位相補正を行う発振器(特許文献2参照)を用いられることが行われてきた。
【0004】
【特許文献1】特許第3914401号公報
【特許文献2】特開2004−56172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高誘電率ブロックの共振器を用いる方法では、マイクロストリップ線路に高誘電率ブロックを結合させて共振器を構成する方法が良く用いられるが、最適な発振条件を得るためには、マイクロストリップ線路と高誘電率ブロックの相対位置を調整する必要がある。このマイクロストリップ線路に繋がる負性抵抗を発生する能動素子の特性ばらつき、高誘電率ブロックの大きさのばらつきなどにより、この相対位置は最適条件に対して同じ位置ではないため、製造にあたっては発振器の発振周波数,発振電力を確認しながら、高誘電率ブロックの位置を走査する必要がある。この走査時間及び組立時間が製造の工数増加になる。一方、PLL回路を構成する方法は、構成する部品数が多くなるため、コスト高になるとともに、部品面積が大きくなり小型化が難しくなる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、位相ノイズが大きい安価な発振器を用いても遠距離の被検知物への検知精度の劣化を小さくできるレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の望ましい態様の一つは次の通りである。
【0008】
本レーダ装置は、送信波を発生する発振器と、発振器から伝播された送信波と、当該送信波が物体に反射して戻ってきた受信波を混合するミキサを備え、発振器は、遅延回路を介して、ミキサに送信波を伝播する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、位相ノイズが大きい安価な発振器を用いても遠距離の被検知物への検知精度の劣化を小さくできるレーダ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図を用いて、実施例を説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、レーダの構成を示す図である。
【0012】
レーダの高周波回路1は、発振器2,方向性結合器3,電力増幅器4,送信アンテナ5,受信アンテナ6,ミキサ7,遅延回路8から構成される。
【0013】
まず、動作について説明する。変調回路からの信号に基づいて変調された電磁波が発振器2で発生する。この電磁波は、方向性結合器3により送信側と受信側に分配される。送信側に分配された電磁波は、電力増幅器4で所望の電力に増幅された後、送信アンテナ5より空間へ送信される。送信された電磁波の一部は空間にある物体で反射され、その一部は受信アンテナ6で受信され、ミキサ7へ入力される。一方、方向性結合器3で受信側へ分配された電磁波は、まず遅延回路8へ伝播され、当該遅延回路8を介して、ミキサ7へ入力される。ミキサ7では受信アンテナ6から入力された信号と遅延回路8から入力された電磁波との周波数差により、中間周波数(IF)信号が生成される。このIF信号に基づいて信号処理回路によって空間の物体、例えば車載レーダであれば先行する車両などの距離,相対速度などが算出される。
【0014】
次に、図2と合わせて遅延回路8の役割を説明する。発振器2は簡単のため変調を行っていない図で示す。発振器2の出力周波数は位相ノイズを伴って時間とともに微小変動をしている。ここで、発振器2から送信アンテナ5を経て被検知物2−3で反射され、受信アンテナ6で受信されてミキサ7までの経路2−1での伝播時間をt1、発振器2から遅延回路8を通ってミキサへ入力される経路2−2の伝播時間をt2とする。時刻Tのとき、それぞれの経路からミキサに入力される信号はそれぞれt1,t2時間前に発振器から発生した信号f(t1),f(t2)となる。f(t1)付近とf(t2)付近との信号からミキサ7が中間周波数(IF)信号を生成したものを信号処理するが、遅延回路8の遅延量がない場合、t1とt2の差Δtは大きくなるため、f(t1)付近とf(t2)付近の信号の相関性は小さく、中間周波数(IF)信号の強度は小さくなる。即ち、伝播時間t1,t2に差があると中間周波数(IF)信号の強度は小さくなるため、遅延回路8の遅延量が時間差Δtの分遅延できれば相関性を大きくすることができ、中間周波数(IF)信号の強度は距離による低下はあるものの相関による劣化を小さくすることが出来る。例えば、レーダの仕様として最大検知距離が150mに対して、100m以上の被検知物による信号の相関性が急激に小さくなるような位相ノイズをもつ発振器の場合、遅延量を50mに相当するものとすれば良い。
【0015】
次に、遅延回路の影響に対して行う補正について説明する。図3は、代表的なレーダ変調方式であるFMCW方式の時間による送受信の周波数変化を示す図である。
【0016】
送信周波数3−1は、時間とともに上り下りを繰り返す変調を用いるため、受信周波数3−2は送信周波数3−1から被検知物までの往復時間による変位t_objと被検知物との相対速度によるドップラシフト量f_objによって周波数が変位する。検知距離Rは、被検知物までの往復時間による変位t_objによって求められるが、周波数の時間変動を捕らえるのは難しく、実際には送受信信号から得られる中間周波数(IF)信号を高速フーリエ変換(FFT)した信号を用いる。変調時の周波数fuと下り変調時の周波数fdを用いて距離Rは
R=(fu+fd)c/(8・Δf・fm) (式1)
c:光速,Δf:変調幅,fm:三角波の周期
として演算する。
【0017】
ここで、図1の場合、被検知物までの往復時間による変位t_objが相対的に短くなり、受信信号はt′_objになる。そのため遅延回路設定した遅延時間τによる距離L=c×τ/2補正量として追加する必要がある。又、被検知物の距離が遅延時間τによる補正距離LよりΔL近い位置にある場合とΔL遠い位置にある場合は、中間周波数(IF)信号の周波数fu,fdは同じ値になるが、複素FFTによって得られるfuに対するfdの位相により、経路2−1と経路2−2のどちらが進んでいるのかが符号に表れて、近い位置にあるのか遠い位置にあるのか判断できる。2FSK方式など他のレーダ方式にも同様の補正を行うことで、距離測定は可能となる。
【実施例2】
【0018】
次に図4を用いて、遅延回路を切り替えることによる拡張機能について説明する。図1の構成に加え、発振器2の出力がミキサ7へ遅延回路8を介して入力する経路と直接入力する経路とを切り替えるために高周波スイッチ9を設けた構成とする。
【0019】
次に、この構成により発振器の変調感度、即ち、変調信号に対する周波数変化量が環境温度や経時的に変化した場合に補正する動作について、図3で示したFMCW方式の場合を例に説明する。安価な発振器の場合、変調信号に対する周波数変化量が環境温度によって変化したり、経時変化したりすることがある。この変調感度が変化すると、(式1)で示す変調幅Δfが変化することになり検知距離Rが正しく演算されないことになる。そこで既知の遅延量τをもつ遅延回路8を通らない経路5−3と遅延回路8を通る経路5−2を切り替えてそれぞれで距離計測を行う。遅延回路8を通らない経路5−3と5−1から演算される距離R1、遅延回路8を通る経路5−2と5−1から演算される距離R2とすると、この差分ΔR=R1−R2はτc/2(=Roとする)と一致するはずである。しかし、変調感度が変化すると目標のΔfとなっておらず、Roと一致しなくなる。(式1)から実際の周波数振り幅Δfは、目標の周波数振り幅Δfoから
Δf=Ro・Δfo/ΔR
と、演算される。この実際の周波数振り幅Δfが目標の周波数振り幅Δfoと一致するように変調信号の出力値を調整することで、環境温度や経時的に変化した場合に補正することが可能となる。
【0020】
同様の動作を実現する手段を図6と図7に示す。図6はスイッチで遅延回路を通る場合と通らない場合を切り替える代わりに、ミキサ回路を2系統とし、一方が遅延回路ありで、他方を遅延回路なしとする構成である。それぞれのミキサで出力される中間周波数(IF)信号から計算される距離で上記と同様の動作が可能である。図7は遅延回路の遅延量を可変となるものとすることで、上記と同様の動作が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】レーダ構成図。
【図2】実施例1の動作説明をするための図。
【図3】距離計測と補正の説明をするための図。
【図4】実施例2のレーダ構成図。
【図5】実施例2の動作説明をするための図。
【図6】実施例2の他のレーダ構成図1。
【図7】実施例2の他のレーダ構成図2。
【図8】従来のレーダ構成図。
【符号の説明】
【0022】
1 レーダ高周波回路部
2 発振器
3 方向性結合器
4 電力増幅器
5 送信アンテナ
6 受信アンテナ
7 ミキサ
8 遅延回路
9 高周波スイッチ
2−1,2−2 電磁波伝播経路
2−3 被検知物(車)
3−1 FMCW方式の送信周波数
3−2,3−2′ FMCW方式の受信周波数
5−1,5−2,5−3 電磁波伝播経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信波を発生する発振器と、
前記発振器から伝播された送信波と、当該送信波が物体に反射して戻ってきた受信波を混合するミキサを備え、
前記発振器は、遅延回路を介して、前記ミキサに前記送信波を伝播する、レーダ装置。
【請求項2】
前記遅延回路の遅延量は可変制御可能である、請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記遅延回路を介さずに前記ミキサへ前記送信波を伝播する経路を備える、請求項1記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−168763(P2009−168763A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−9968(P2008−9968)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】