説明

レーダ装置

【課題】環境によって時々刻々と変化するノイズレベルの情報を生成し、生成した情報に基づいて受信感度調整や相関処理などの処理を行うレーダ装置を提供することを目的とする。
【解決手段】探索領域内に予め定めた分割領域毎にノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定を行い、ノイズ優勢領域と判定された領域の受信信号を用いてノイズレベルを算出する。これにより、物標エコーとノイズとを分離するための適正な値を算出することが可能になる。また、ノイズ優勢領域で算出したノイズレベルを補間或いは外挿することによって他の領域のノイズレベルを算出する。これにより、レーダ探索領域全域にわたって適正なノイズ分布を得ることが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス信号を送受信するレーダ装置に関し、特に、レーダ探索領域から得られた受信信号の振幅情報を用いて前記レーダ探索領域のノイズ分布を得るものである。
【背景技術】
【0002】
安全で効率的な航海を支援する目的で船舶に装備されるレーダ装置において、最適なレーダ画像を得るためには、適切に受信感度を調整し、レーダ受信機の内部で発生するホワイトノイズや、海面反射、雨雪反射等のクラッタを最適レベルで除去することが必要である。この受信感度の調整は、レーダ装置にある利得制御部で行われる。なお、以下の説明では、このホワイトノイズやクラッタなどの不要信号をノイズと称し、船、ブイ、陸地などの検出されるべき物体からの反射信号を物標エコーと称して区別する。
【0003】
従来のレーダ装置における受信感度調整手法には、例えば特許文献1に記載のものがある。
この特許文献1は、受信した信号から感度調整を行うために必要な信号を抽出し、抽出した信号を計数する。そして、計数値と予め設定した基準値とを比較し、その結果に応じて利得制御信号のレベルを調整している。
【0004】
また、クラッタなどの不要信号は、現画像と前画像とで連続的に発生する可能性が低いため、これを利用して、現画像と前画像との相関をとることにより、ランダムに発生するクラッタのような不要信号を除去して、必要とする物標からのエコーのみを表示することも可能である。
【特許文献1】特許第3288489号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、発生するホワイトノイズのレベルは、レーダ受信機ごとにそれぞれ異なるとともに、温度等の外部環境によっても変化する。また、海面反射と雨雪反射のクラッタのレベルは、それぞれ、海況と気象条件に応じて時々刻々と変化する。そのため、計数値を予め設定しておいた基準値と比較する特許文献1の方式では、前述したようなノイズレベルの変化に追従できないといった問題がある。
【0006】
さらに、特許文献1では、受信信号から抽出した信号を計数しているため、感度調整を行うために必要な信号がうまく抽出できない場合には、他の信号の影響によって適切な受信感度調整を行うことができない。例えば、ホワイトノイズやクラッタを除去したいのに、抽出した信号に他のレーダからの干渉波や物標エコーが含まれているような場合には、強いレベルの信号の影響で受信感度が必要以上に低くなってしまう。そのため、弱い物標エコーは表示画面上に表示されなくなってしまうという問題がある。
【0007】
また、相関処理を行うことにより、クラッタなどの不要信号を除去する場合は、クラッタのような不要信号を除去して、必要とする物標からのエコーのみが表示されるように現画像と前画像との重み付け量を最適化する必要がある。しかしながら、海面反射と雨雪反射のクラッタのレベルは、それぞれ、海況と気象条件に応じて時々刻々と変化し、レーダ探索領域内でも場所によってそれぞれクラッタのレベルが異なる。そのため、従来のレーダ装置は、最適な重み付け量を決定することが困難であるといった問題点も有していた。
【0008】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、環境によって時々刻々と変化するノイズレベルの情報を生成し、生成した情報に基づいて受信感度調整や相関処理などの処理を行うレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、探索領域をノイズ優勢領域と物標エコー優勢領域とに分離し、ノイズ優勢領域で求めたノイズレベルのみを用いてレーダ探索領域のノイズレベルを算出する。具体的には、本発明は、パルス信号を送受信するレーダ装置において、探索領域内に予め定めた分割領域毎にノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定を行う領域判定部と、前記ノイズ優勢領域と判定された分割領域の受信信号から、当該分割領域のノイズレベルを算出するノイズレベル算出部と、前記ノイズレベル算出部で算出した各分割領域のノイズレベルを方位方向又は距離方向に補間或いは外挿し、レーダ探索領域のノイズ分布を得る補間処理部とを備えることを特徴とする。これにより、物標エコーが支配的な領域の影響を受けずに適正なノイズ分布を得ることができる。
【0010】
前述の領域判定部によるノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定は、例えば、分割領域毎に生成した、受信信号の振幅を変量とする度数分布に基づいて行うことが可能であり、
度数分布に基づくノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定は、例えば、度数分布の対称性を評価することにより行うことができる。
【0011】
なお、領域判定部は、発生頻度の低い物標エコーの影響を受けずにノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定を行うために、所定の値以上の度数に基づいて判定を行うことが好ましい。
【0012】
また、本発明の領域判定部によるノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定は、例えば、最大度数に対応する信号振幅値と当該最大度数のN%(N>0)の度数に対応する信号振幅値とに基づいて行うことが可能である。
また、別の手法として、領域判定部は、最大度数のN%(N>0)の度数に対応する信号振幅値と、最大度数のM%(M>0)の度数に対応する信号振幅値とに基づいて、ノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定を行うことも可能である。
【0013】
また、本発明の前記補間処理部は、前記ノイズレベル算出部で算出した分割領域のノイズレベルを方位方向又は距離方向に補間或いは外挿することにより、レーダ探索領域全域のノイズ分布を得ることも可能である。
【0014】
前記補間処理部で算出されたノイズ分布は、例えば、レーダ探索領域から得られた受信信号の振幅と所定の閾値(振幅閾値)とを比較し、所定の閾値以上の振幅を有する受信信号を出力する利得制御部で利用することができる。利得制御部は、前記補間処理部で算出されたノイズ分布に基づいて受信信号の利得制御を行い、時々刻々と変化するノイズレベルに追従した受信感度調整を実現できる。
【0015】
また、前記補間処理部で算出されたノイズ分布は、現画像と過去画像の相関処理を行う相関処理部でも利用することができる。つまり、相関処理部は、前記補間処理部で算出されたノイズ分布に基づいて現画像と過去画像の重み付け量を決定し、決定した重み付け量に基づいて現画像と過去画像の相関処理を行う。これにより、時々刻々と変化するノイズレベルに応じた相関処理を実現できる。
【0016】
ところで、前述の相関処理を行う場合には、現画像と過去画像との相関処理によりノイズに埋もれた物標エコーを検出することができるが、仮に相関処理よりも前段で行う利得制御によって物標エコーがカットされているとカットされた物標エコーは相関処理によっても検出することができない。そこで、レーダ装置が受信感度調整を行う利得制御部と相関処理を行う相関処理部の両者を備える場合には、前記相関処理部が相関処理を行う場合と、行わない場合とで、前記利得制御部が受信信号の振幅と比較する振幅閾値を変更することが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、分割領域毎にノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定を行い、ノイズ優勢領域と判定された領域の受信信号を用いてノイズレベルを算出することにより、物標エコーとノイズとを分離するための適正な値を算出することが可能になる。また、ノイズ優勢領域で算出したノイズレベルを補間或いは外挿することによって他の領域のノイズレベルを算出することにより、探索領域全域にわたって適正なノイズレベルを算出することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(実施の形態1)
船舶用のレーダ装置は、レーダアンテナから電波を送信し、物標で反射して得られた極座標系の受信データを直交座標系に変換して画像メモリに記憶した後、ラスター走査方式で表示器に表示する。ここで、受信データは、必ずしも目的とする物標で反射したものだけでなく、ホワイトノイズやクラッタなどのノイズをも含んでいる。このため、レーダ装置では、レーダ探索領域から得られた受信信号の振幅と所定の閾値とを比較し、前記所定の閾値以上の振幅を有する受信信号を出力するように、受信信号の利得制御を行っている。
図1は本発明のレーダ装置による自動利得制御処理を説明するためのブロック図である。
図1において、本発明の実施の形態1によるレーダ装置は、領域分割部11及び判定処理部12を備える領域判定部13と、ノイズレベル算出部14と、補間処理部15と、利得制御部16を備える。
【0019】
領域判定部13は、探索領域を分割して定められる複数の分割領域の各々がホワイトノイズやクラッタなどのノイズが支配的なノイズ優勢領域か、物標エコーが支配的な物標エコー優勢領域かの判定を行うものであり、領域分割部11と判定処理部12を備える。以下に、この領域分割部11、判定処理部12の処理内容について説明する。
【0020】
領域判定部13の領域分割部11は、探索領域全域の受信信号から、探索領域を分割して定められる複数の分割領域の各々に含まれる受信信号を抽出する。図2は分割領域の一例を示す図である。図2において中心から外周へ向かう方向を距離方向とし、円周に沿う方向を方位方向とする。
図2の最も外側の円がレーダ装置で探索したレーダ探索領域を示し、ノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定を行う単位となる分割領域は、レーダ探索領域を距離方向及び方位方向に分割した領域である。ここでは、距離方向に5分割、方位方向に12分割した例を示している。なお、ここで示した分割例はあくまで一例である。分割数や、各分割領域における距離方向、方位方向の幅や中心点の座標は任意に決定することが可能であるとともに、探索領域の大きさに応じて変化するようにしてもよい。また、必ずしもレーダ探索領域全域にわたって領域を分割する必要もなく、例えば、自船近傍の領域のみを分割するようにしてもよい。
【0021】
領域判定部13の判定処理部12は、分割領域毎に当該分割領域がホワイトノイズやクラッタなどのノイズが支配的なノイズ優勢領域か、物標エコーが支配的な物標エコー優勢領域かの判定処理を行う。
【0022】
レーダ装置における自動利得制御処理では、物標エコーとノイズとを分離するための適正な閾値の決定が要求される。しかしながら、レーダ受信信号は、ホワイトノイズ、クラッタ、物標エコーをさまざまな割合で含んでおり、ホワイトノイズやクラッタなどのノイズと物標エコーとが混在する領域では適正な閾値を決定することが困難である。そこで、本発明では、予め定めた分割領域毎の受信信号を抽出し、分割領域毎にノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定を行うようにしている。
【0023】
判定処理部12によるノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定は、受信信号の振幅を変量とする度数分布がノイズ優勢領域と物標エコー優勢領域とで異なっていることを利用して、分割領域毎の度数分布を評価することにより行うことができる。ノイズ優勢領域と物標エコー優勢領域かの判定は、例えば、度数分布の対称性を評価することにより行うことができ、その評価に度数分布の歪度や尖度などを用いることも可能である。なお、ノイズ優勢領域と物標エコー優勢領域との具体的な判定手法については、具体例を示して後述する。
【0024】
分割領域毎の度数分布を生成するために用いる受信信号データのサンプル数には、特に制限はないが、各分割領域における度数分布の特徴が明確に、かつ安定して現われる程度のサンプル数を確保することが必要であり、例えば、各分割領域で1000点以上のサンプル数を確保することが好適である。
【0025】
図3は領域判定部13による判定結果の一例示す。図3において灰色塗潰し部がノイズ優勢領域を示し、白色塗潰し部が物標エコー優勢領域を示す。領域判定部13は、図3に示すように、分割領域毎に、ノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定を行い、その判定結果をノイズレベル算出部14に出力する。
【0026】
ノイズレベル算出部14は、領域判定部13による判定でノイズ優勢領域と判定された分割領域についてノイズレベルを算出する。この時、ノイズレベル算出部14によるノイズレベルの算出は、ノイズ優勢領域と判定された分割領域の受信信号に基づいて行われる。一方で、領域判定部13により物標エコー優勢領域と判定された分割領域については、ノイズレベル算出部14は当該分割領域のノイズレベルを算出せず、後述する補間処理部15がその周辺のノイズ優勢領域の閾値から補間或いは外挿することにより、当該物標エコー優勢領域のノイズレベルを算出する。
【0027】
つまり、本発明は、ホワイトノイズ或いはクラッタが支配的な領域の受信信号をもとにノイズ除去のための適正なノイズレベルを算出し、物標エコー優勢領域のノイズレベルについては、適正なノイズ優勢領域のノイズレベルを用いて、補間或いは外挿によって算出する。
【0028】
補間処理部15は、ノイズレベル算出部14で算出したノイズレベルを方位方向又は距離方向に補間或いは外挿する。図4は、補間処理部15による処理を説明するための図である。図4において黒丸がノイズレベル算出部14により算出された各分割領域のノイズレベルである。図4の例では、補間処理部15は、ノイズレベル算出部14で算出された分割領域のノイズレベルを当該分割領域の中心位置におけるノイズレベルとし、このノイズレベルを方位方向又は距離方向に補間或いは外挿することにより、探索領域全域のノイズ分布を算出している。補間処理部15による補間或いは外挿処理は、例えば直線的に行うことが可能である(図5(A)及び(B))。また、補間処理部15は、補間或いは外挿後のノイズレベルの系列にメディアンフィルタや移動平均フィルタなどの平滑化処理を行うようにしてもよい。
【0029】
利得制御部16は、補間処理部15で算出したレーダ探索領域全域のノイズ分布に基づいて、受信信号の収録位置に対応する閾値を決定する。そして、受信信号の受信信号レベルと決定した閾値とを比較して、閾値以上の受信信号レベルの信号を出力する。これにより、レーダ探索領域全域にわたって、適正な閾値を用いて受信信号の利得制御を行うことができる。
【0030】
もっとも、自船から一定以上距離が離れた領域については、クラッタよりもホワイトノイズが支配的になるため、物標エコーとノイズとを分離するための閾値は、ホワイトノイズのみに対応する一定の値になる。そのため、ノイズレベル算出部14及び補間処理部15は、必ずしもレーダ探索領域全域に対応するノイズレベルを算出する必要はなく、自船近傍の領域についてのみノイズレベルを算出し、自船から一定以上距離が離れた領域については、ノイズレベルを算出しない、又は一定の値のノイズレベルにするようにしてもよい。
【0031】
次に、判定処理部12が行うノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定処理の一例について図6から図8を用いて説明する。なお、ここでは、度数分布の対称性を評価する手法について説明する。
【0032】
図6はクラッタ、ホワイトノイズ、物標エコーがそれぞれ優勢な領域の度数分布を示す図であり、受信信号の振幅を変量とする度数折線である。図6(A)はクラッタが優勢な領域の度数折線を示し、図6(B)はホワイトノイズが優勢な領域の度数折線を示す。また、図6(C)は物標エコーが優勢な領域の度数折線を示す。なお、度数折線とは、度数分布のi番目の度数をy[i]、y[i]に対応する振幅の値をx[i]とするとき、すべての度数y[i]についてx−y直交座標上に点(x[i],y[i])をプロットし、これらの各点をx[i]の小さい方から大きい方へ順に線分で結んで得られる折線を意味する。
図6(A),(B)に示すように、クラッタが優勢な領域或いはホワイトノイズが優勢な領域では度数折線は略左右対称となる。一方で、図6(C)に示すように、物標からのエコーが優勢な領域では度数折線は左右非対称となる。
そこで、本発明の領域判定部13では、受信信号の振幅を変量とした度数分布の対称性を評価してノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定を行う。
【0033】
なお、ホワイトノイズやクラッタが支配的であるが、極一部から物標エコーが得られるような分割領域から算出されるノイズレベルは、物標エコーの影響を殆ど受けない。そのため、このような分割領域はノイズ優勢領域として判定することが望ましい。そこで、判定処理部12は、発生頻度の低い物標エコーの影響を受けずにノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定を行うために、所定の値よりも小さい度数を無視し、所定の値以上の度数に基づいてノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定を行う。なお、前記所定の値は、最大度数の値のN%(N>0)など、最大度数の値を基準に決定することが好適である。
【0034】
次に、判定処理部12が行う具体的な判定処理について説明する。
図7、図8は、本発明の利得制御装置の領域判定部による判定処理を説明するための説明図であり、図7は第1の判定手法を説明する説明図、図8は、第2の判定手法を説明する説明図である。
【0035】
ここで、判定手法の説明に用いる用語の定義を示す。
度数折線上の点のx座標とy座標を、それぞれ、この点の振幅、度数と称する。
度数折線上の点のうち、最大度数を有する点を最大度数点と称する。
度数折線上の点のうち、最大度数のk%(0<k<100)の度数を有する点をk%度数点と称する。
k%度数点のうち、その振幅が最大度数点の振幅よりも小さいものを下方k%度数点と称する。
k%度数点のうち、その振幅が最大度数点の振幅よりも大きいものを上方k%度数点と称する。
【0036】
1.第1の判定手法
図7は、本発明のレーダ装置の領域判定部による第1の判定手法を説明するための説明図であり、受信信号の振幅を変量とする度数折線の模式図である。図7(A)はクラッタが優勢な領域の度数折線、図7(B)、(D)はクラッタと物標エコーが混在する領域の度数折線、図7(C)は分割領域内の極一部から物標エコーが得られているが領域全体としてはクラッタが支配的な領域の度数折線を示し、各度数折線は、最大度数で正規化されている。
【0037】
第1の判定手法は、領域判定部13が最大度数点とN%(0<N<100)度数点とに基づいて、ノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定を行う。
【0038】
領域判定部13は、先ず、最大度数点とN%度数点の座標を算出する。図7に示す点Pが最大度数点であり、図7に示す点L及び点Hから点HがN%度数点(ここではN=25)である。
次に、領域判定部13は、最大度数点とN%度数点との関係から度数分布の対称性を評価する。
【0039】
図7に示すように、最大度数点Pから直線L−Hに下ろした垂直の足をC1とする。また、下方N%点のうち振幅が最小である点と点Cとの距離をWとし、上方N%点のうち振幅が最大である点と点Cとの距離をWとする。図7(A)、(B)、(C)の例では、線分C−Lの長さがWとなり、線分C−Hの長さがWとなる。図7(D)の例では、線分C−Lの長さがWとなり、線分C−Hの長さがWとなる。
【0040】
領域判定部13はWとWの比を算出し、この比が一定の範囲内にあるときには度数分布が対称であると判定し、該当分割領域をノイズ優勢領域であると判定する。一方で、この比が一定の範囲内にないときには度数分布が非対称であると判定し、該当分割領域を物標エコー優勢領域であると判定する。ノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定に用いる閾値(前述の「一定の範囲」)は、実測値をもとに、図7(A)、(C)がノイズ優勢領域と判定され、図7(B)(D)が物標エコー優勢領域と判定されるような値を設定すればよい。
【0041】
なお、これ以外に、上方N%度数点と下方N%度数点の個数やこれらの個数の比などを度数分布の対称性を評価する指標として用いることも可能である。また、領域判定部13は、前述したW、Wの値や、N%度数点の個数や座標などを特徴量として、ニューラルネットなどのパターン認識によりノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定を行うようにしてもよい。
【0042】
2.第2の判定手法
図8は、本発明のレーダ装置の領域判定部による第2の判定手法を説明するための説明図であり、受信信号の振幅を変量とする度数折線の模式図である。図8(A)はクラッタが優勢な領域の度数折線、図8(B)、(D)はクラッタと物標エコーが混在する領域の度数折線、図8(C)は分割領域内の極一部から物標エコーが得られているが領域全体としてはクラッタが支配的な領域の度数折線を示し、各度数折線は、最大度数で正規化されている。
【0043】
第2の判定手法は、領域判定部13がN%(0<N<100)度数点とM%(0<M<100、M≠N)度数点とに基づいて、ノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定を行う。
【0044】
領域判定部13は、先ず、N%度数点とM%度数点の座標を算出する。図8に示す点LN1及び点HN1から点HN5がN%度数点(ここではN=25)であり、点LM1及び点HM1から点HM3がM%度数点(ここではM=50)である。
次に、領域判定部13は、N%度数点とM%度数点との関係から度数分布の対称性を評価する。
【0045】
ここでは、図8に示すように、下方M%点のうち振幅が最大である点LM1と、上方M%点のうち振幅が最小である点HM1との距離をWとする。また、線分LM1−HM1の中点Cから直線LN1−HN1に下ろした垂線の足を点C1とする。
また、下方N%点のうち振幅が最小である点と点Cとの距離をWとし、上方N%点のうち振幅が最大である点と点Cとの距離をWとする。図8(A)、(B)、(C)の例では、線分C−LNの長さがWとなり、線分C−HN1の長さがWとなる。図8(D)の例では、線分C−LN1の長さがWとなり、線分C−HN5の長さがWとなる。
【0046】
領域判定部13はWとWの比を算出し、この比が一定の範囲内にあるときには度数分布が対称であると判定し、該当分割領域をノイズ優勢領域であると判定する。一方で、この比が一定の範囲内にないときには度数分布が非対称であると判定し、該当分割領域を物標エコー優勢領域であると判定する。ノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定に用いる閾値(前述の「一定の範囲」)は、実測値をもとに、図8(A)、(C)がノイズ優勢領域と判定され、図8(B)(D)が物標エコー優勢領域と判定されるような値を設定すればよい。
【0047】
なお、これ以外に、上方N%度数点と下方N%度数点の個数やこれらの個数の比、上方M%度数点と下方M%度数点の個数やこれらの個数の比などを度数分布の対称性を評価する指標として用いることも可能である。また、領域判定部13は、前述したW、W、Wの値や、N%度数点とM%度数点の個数や座標などを特徴量として、ニューラルネットなどのパターン認識によりノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定を行うようにしてもよい。
【0048】
また、度数分布の対称性を評価してノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かを判定する前述の判定処理の結果と、次に示す[1]から[3]の判定処理の結果とに基づいて、該当分割領域がノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かを判定するようにしてもよい。これらの判定処理を適切に組み合わせることによって、誤った判定が生じる確率を低減することが可能になる。
[1]所定の値A以上の振幅値に対応する度数の総和が所定の値S以上であるときには、該当分割領域を物標エコー優勢領域であると判定する。
[2]所定の値A以下の振幅値に対応する度数の総和が所定の値S以上であるときには、該当分割領域をノイズ優勢領域であると判定する。
[3]ノイズレベル算出部14が算出したノイズレベルが所定の値ATH以上であるときには、該当分割領域を物標エコー優勢領域であると判定する。
ここで、所定の値A、A、ATHは、自船から各分割領域までの距離に応じて異なるようにしてもよい。
【0049】
図9は、本発明の効果を説明するための説明図である。
図9(A)は特定海域におけるレーダ受信信号を9bitのデジタルデータに変換して得た画像を示す図である。図9(A)において、丸で囲まれている部分T1にはブイからのエコーが表示されており、四角で囲まれている部分T2には陸地からのエコーが表示されている。図9(B)及び図9(C)は図9(A)と同じ受信信号に対して、表示対象とする振幅値の範囲を狭くして得た画像を示す図であり、図9(B)は受信信号レベルと比較する閾値を固定した場合に得られる画像、図9(C)は受信信号レベルと比較する閾値を本発明の手法を用いて可変にした場合に得られる画像である。なお、図9において、横軸は方位(単位:deg)、縦軸は自船からの距離(単位:NM)を示す。
【0050】
図9(B)及び図9(C)に示すように、閾値が固定の図9(B)では、陸地からのエコーを明瞭に視認することができるものの、ブイからのエコーはクラッタと混在してしまい、うまく視認することができない。一方で、本発明の手法を用いて閾値を制御した図9(C)では、ブイからのエコーと陸地からのエコーの両方を明瞭に視認することが可能になる。
【0051】
以上のように本発明によれば、探索領域内に予め定めた分割領域毎にノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定を行い、ノイズ優勢領域と判定された領域の受信信号を用いてノイズレベルを算出することにより、物標エコーとノイズとを分離するための適正なノイズレベルを算出することが可能になる。また、他のレーダからの干渉波や、物標エコーが受信信号に含まれているような場合であっても、ノイズ優勢領域で算出したノイズレベルを補間或いは外挿することによって他の領域のノイズ分布を算出することにより、これらの影響を受けず、適正なノイズ分布を算出することができる。
そして、このように算出した適正なノイズ分布を用いて、受信信号の受信信号レベルと比較する所定の閾値を決定することにより、利得制御部16によって物標エコーとノイズとを適切に分離できることが可能になる。
【0052】
(実施の形態2)
船舶用のレーダ装置には、受信データに含まれるホワイトノイズやクラッタなどのノイズを除去するための手段として、前述した利得制御処理以外にも、レーダアンテナが1回転する間に得られる今回の受信データと以前のスキャン相関処理データとの相関を繰り返し行うスキャン相関処理がある。
【0053】
図10は本発明のレーダ装置による相関処理を説明するためのブロック図である。
図10において、本発明の実施の形態2によるレーダ装置は、領域分割部11及び判定処理部12を備える領域判定部13と、ノイズレベル算出部14と、補間処理部15と、利得制御部21と、スイープメモリ22と、相関処理部23と、相関処理用画像メモリ24とを備える。なお、前述の実施の形態1によるレーダ装置と同様の構成要素については、同一の符号を付し、ここでは説明を省略する。
【0054】
利得制御部21は、レーダ探索領域から得られた受信信号の振幅と所定の閾値とを比較し、所定の閾値以上の振幅を有する受信信号を出力する。ここで用いる所定の閾値は、公知の手法により定めた閾値であってもよいし、前述の実施の形態1による手法により定めた閾値であってもよい。
【0055】
スイープメモリ22は、1スイープ分の受信信号を実時間で記憶し、次の送信により得られる受信信号が再び書き込まれるまでに、この1スイープ分のデータを相関処理部23に出力する。
【0056】
相関処理部23は、スイープメモリ22から入力される受信信号と、相関処理用画像メモリ24に記憶されている該受信信号に対応する1回転前の画像データとを用いてスキャン相関処理を行い、相関処理後のデータを再度、相関処理用画像メモリ24に記憶させる。
【0057】
ここで、例えば、相関処理部23は、スイープメモリ22から入力される受信信号をN(t)とし、相関処理用画像メモリ24から入力される、前回までに得られた、受信信号に該当する画素位置の相関処理画像データをW(t−1)とすると、次式を用いて、今回1回転中の相関処理画像データW(t)を演算する。
【0058】
W(t)=α・N(t)+β・W(t−1)
α,βは任意の数であり、このα,βの値を変えることにより、相関処理結果を変更することができる。
【0059】
ここで、本発明の実施の形態2によるレーダ装置の相関処理部23は、この現画像データと過去画像データの重み付け量であるα,βを補間処理部15で算出したノイズ分布に基づいて決定し、決定した重み付け量に基づいて現画像データと過去画像データの相関処理を行う。
つまり、補間処理部15により生成されたノイズ分布は、レーダ探索領域内における各画素のノイズレベルを反映した値として利用することができる。そのため、相関処理部23は、補間処理部15で算出したノイズ分布に基づいて、クラッタなどのノイズのレベルが高い画素領域では、1回転前の画像データとの相関を強め(相対的にαを小さくβを大きくする)、クラッタなどのノイズのレベルが低い画素領域では、1回転前の画像データとの相関を弱める(相対的にαを大きくβを小さくする)ようにする。これにより、探索領域のノイズ分布に応じた相関処理を行うことが可能になる。
【0060】
相関処理用画像メモリ24は、スイープの1回転分、つまりレーダアンテナの1回転分の受信データ(相関処理画像データ)を記憶する容量を備え、スキャン相関処理のために、1回転前の相関処理画像データを相関処理部23にフィードバックする。また、相関処理用画像メモリ25は、図示されていない表示器がラスター走査されると、このラスター走査に同期して、相関処理画像データを出力する。ここで、相関処理画像データの画素データ毎のデータ値に応じて輝度や表示色を異ならせることで、オペレータはこのスキャン相関処理された画像を用いて物標の位置や動きを認識することができる。
【0061】
なお、本発明の実施の形態2によるレーダ装置の相関処理部23の説明では、1回転前の画像データとの相関処理を行うものについて説明したが、現画像と相関処理を行う画像データは過去の画像データであればよく、例えば、過去数回転分の画像データとの相関処理を行うようにしてもよい。
【0062】
また、図11は本発明の別の実施例を説明するためのブロック図である。図11と図10の相違点は、補間処理部15で算出されたノイズ分布が、利得制御部31及び相関処理部23の両方に出力され、利得制御部31が、相関処理部23において相関処理を行う場合と行わない場合とで受信信号の振幅と比較する閾値を変更する点にある。
物標からのエコーは現画像と前画像とで連続して得られる可能性が高い一方で、クラッタなどの不要信号は、現画像と前画像とで連続的に発生する可能性が低い。そのため、相関処理部23により行われる相関処理は、現画像と前画像との相関をとることにより、ランダムに発生するクラッタのような不要信号を除去して、物標からのエコーをより鮮明に表示するための技術である。
【0063】
一方で、利得制御部31により行われる利得制御は、レーダ探索領域から得られた受信信号の受信信号レベルと所定の閾値とを比較し、所定の閾値以上の振幅を有する受信信号を出力するものである。そのため、補間処理部15で算出されたノイズ分布に基づいて決定される所定の閾値が高い場合には、当該閾値以下のレベルを有する物標エコーはカットされてしまい、後段の相関処理部23により相関処理を行ったとしても、カットされた物標からの信号を検出することができない。
【0064】
そこで、図11に示す利得制御部31は、相関処理部23において相関処理を行う場合と行わない場合とで受信信号の振幅と比較する閾値を変更する。具体的には、相関処理部23において相関処理を行う場合には、利得制御部31は、補間処理部15が算出したノイズ分布に基づいて定められる所定の閾値を低めの値に設定し、ノイズレベル以下の弱いレベルの物標からのエコーがカットされないようにする。これにより、後段の相関処理部23により相関処理を行った場合には、ノイズのレベルより低いレベルの物標からのエコーを相関処理により検出することできる。
【0065】
一方で、相関処理部23において相関処理を行わない場合には、利得制御部31は、補間処理部15が算出したノイズ分布に基づいて定められる所定の閾値を所望のノイズ発生確率になるように調整し、ノイズを最適レベルで除去した信号を出力するようにする。
これにより、補間処理部15で算出されたノイズ分布を用いて物標エコーとノイズとを適切に分離できることが可能になる。
【0066】
なお、本発明は、本発明の各実施の形態で説明した発明の本旨を逸しない範囲で自由に設計変更可能であり、本発明の各実施の形態で説明した内容に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明のレーダ装置による自動利得制御処理を説明するためのブロック図
【図2】分割領域の一例を示す図
【図3】本発明のレーダ装置の領域判定部による判定結果の一例を示す図
【図4】本発明のレーダ装置の補間処理部での処理を説明するための図
【図5】本発明の補間処理部の補間或いは外挿処理を説明するための図
【図6】クラッタ、ホワイトノイズ、物標エコーがそれぞれ優勢な領域の度数分布を示す図
【図7】本発明のレーダ装置の領域判定部による第1の判定手法を説明するための説明図
【図8】本発明のレーダ装置の領域判定部による第2の判定手法を説明するための説明図
【図9】本発明の効果を説明するための説明図
【図10】本発明のレーダ装置による相関処理を説明するためのブロック図
【図11】本発明のレーダ装置による自動利得制御処理と相関処理との相互関係を説明するためのブロック図
【符号の説明】
【0068】
11 領域分割部
12 判定処理部
13 領域判定部
14 ノイズレベル算出部
15 補間処理部
16、21、31 利得制御部
22 スイープメモリ
23 相関処理部
24 相関処理用画像メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ探索領域内で、予め定めた分割領域毎にノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定を行う領域判定部と、
前記ノイズ優勢領域と判定された分割領域の受信信号から、当該分割領域のノイズレベルを算出するノイズレベル算出部と、
前記ノイズレベル算出部で算出した分割領域のノイズレベルを方位方向又は距離方向に補間或いは外挿し、レーダ探索領域のノイズ分布を得る補間処理部とを備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダ装置において、
前記領域判定部は、前記分割領域毎の、受信信号の振幅を変量とする度数分布に基づいて、ノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定を前記分割領域毎に行うことを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のレーダ装置において、
前記領域判定部は、前記度数分布の対称性を評価することにより、ノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定を行うことを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のレーダ装置において、
前記領域判定部は、所定の値以上の度数に基づいて、ノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定を行うことを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
請求項2に記載のレーダ装置において、
前記領域判定部は、最大度数に対応する信号振幅値と該最大度数のN%(0<N<100)の度数に対応する信号振幅値とに基づいて、ノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定を行うことを特徴とするレーダ装置。
【請求項6】
請求項2に記載のレーダ装置において、
前記領域判定部は、最大度数のN%(0<N<100)の度数に対応する信号振幅値と、最大度数のM%(0<M<100、M≠N)の度数に対応する信号振幅値とに基づいて、ノイズ優勢領域か物標エコー優勢領域かの判定を行うことを特徴とするレーダ装置。
【請求項7】
請求項1から6の何れかに記載のレーダ装置において、
前記補間処理部は、前記ノイズレベル算出部で算出した分割領域のノイズレベルを方位方向又は距離方向に補間或いは外挿することにより、レーダ探索領域全域のノイズ分布を得ることを特徴とするレーダ装置。
【請求項8】
請求項1に記載のレーダ装置において、
レーダ探索領域から得られた受信信号の振幅と所定の閾値とを比較し、所定の閾値以上の振幅を有する受信信号を出力する利得制御部をさらに備え、
前記利得制御部は、前記補間処理部で算出したレーダ探索領域のノイズ分布に基づいて前記所定の閾値を決定し、受信信号の利得制御を行うことを特徴とするレーダ装置。
【請求項9】
請求項8に記載のレーダ装置において、
現画像と過去画像の相関処理を行う相関処理部を備え、
前記利得制御部は、前記相関処理部において相関処理を行う場合と行わない場合とで受信信号の振幅と比較する前記所定の閾値を変更することを特徴とするレーダ装置。
【請求項10】
請求項1に記載のレーダ装置において、
現画像と過去画像の相関処理を行う相関処理部を備え、
前記相関処理部は、前記補間処理部で算出したノイズ分布に基づいて、現画像と過去画像の重み付け量を決定し、決定した重み付け量に基づいて現画像と過去画像の相関処理を行うことを特徴とするレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図3】
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【図4】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−75093(P2009−75093A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216039(P2008−216039)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】