説明

レーダ装置

【課題】 送信電磁波の目標物体以外からの反射波の影響を抑え、目標物体の検出性能を高めるレーダ装置を得る。
【解決手段】 第1の変調信号と第2の変調信号を発生する変調信号発生手段と、第1の変調信号を送信電磁波として空間に放射する送信手段と、送信電磁波を受信する受信手段と、受信手段で受信した信号と第2の変調信号の位相変換信号の組み合わせ、または受信手段で受信した信号の位相変換信号と第2の変調信号の組み合わせを入力としてビート信号を出力する検波手段と、ビート信号を元に物体の運動情報を求めるとともに位相制御信号を送信する信号処理手段と、信号処理手段から送信された位相制御信号により、受信手段で受信した信号と第2の変調信号との位相差を制御し、目標以外の所定の物体に対応するビート信号を打ち消すような位相変換信号を検波手段に出力する位相制御手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば目標物体との距離や相対速度等を測定するためのレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
目標物体との距離及び相対速度を測定するためのレーダ装置として、従来図5のような装置が知られている。図5において、101は目標物体に対して放射する信号を発生する信号発生器、102は信号発生器101の出力信号に変調を施すための変調器、103は変調器102の出力を送信アンテナ104と受信ミクサ108に分配する電力分配器、104は電力分配器103により送信用に分配された信号を送信電磁波として空間に放射する送信アンテナ、105はレドーム、106は目標物体、107は目標物体で反射された電磁波を受信信号として受信する受信アンテナ、108は電力分配器103によりLO用に分配された信号と目標物体106からの反射信号とを混合してビート信号を出力する受信ミクサ、109は受信ミクサ108から出力されたビート信号のうち、不要な周波数成分を除去するフィルタ、110はフィルタ109を通過したビート信号を増幅する増幅器、111は増幅器110からの出力であるアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器、112はA/D変換器111からの出力信号に基づいて、目標物体106までの距離及び相対速度を演算する信号処理器である。
【0003】
次に動作について説明する。信号発生器101から出力される信号は変調器102により変調が施される。変調器102の出力は電力分配器103で2分配され、一方は送信アンテナ104から送信電磁波として放射される。送信電磁波の一部は目標物体106で反射され、受信アンテナ107で受信された後、RF信号として受信ミクサ108に入力される。また、電力分配器103で分配された信号の他方は、LO波として受信ミクサ108に入力される。
【0004】
ここで、受信ミクサ108の動作について説明する。送信電磁波の角周波数をωとし、受信ミクサ108に入力されるLO波をSLO(t)=A*cos(ωt+θ)とする。また目標物体106で反射された電磁波の角周波数は、送信電磁波の角周波数に対して目標物体106までの距離及び相対速度に応じた角周波数Δωだけシフトするとし、受信ミクサ108に入力されるRF信号をSRF(t)=B*cos((ω+Δω)t+ψ)とする。すると、受信ミクサ108の出力は以下のように表される。
A*cos(ωt+θ)×B*cos((ω+Δω)t+ψ)
=(AB/2)*{cos((2ω+Δω)t+(θ+ψ)) + cos(Δωt-(θ-ψ))} ・・・式(1)
【0005】
式(1)の右辺第1項は2ω+Δωの角周波数成分を持ち、これはフィルタ109で除去される。一方、右辺第2項はΔωの角周波数成分を持ち、目標物体106との距離や相対速度の情報を保持している。これはフィルタ109を通過し、増幅器110で増幅され、A/D変換器111でデジタル信号に変換された後、信号処理器12で演算が行われ、目標物体106との距離や相対速度が求まる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3565812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術には次のような課題がある。
送信アンテナ104から放射される電磁波は、目標物体106で反射し受信アンテナ107で受信されるが、実際にはそれ以外にも、レドーム105等の極近距離反射物からも反射し同様に受信アンテナ107で受信される。ところが、レドーム105等からの反射波の電力は目標物体106からの反射波の電力よりも大きいため、受信ミクサ107や増幅器110が飽和してしまうという問題がある。また、増幅器110で飽和しないように増幅器110の利得を下げると、遠方の目標物体を検出できなくなるなどの問題点がある。また、目標物体106が近距離にある場合、受信ミクサ109の出力であるビート信号において、目標物体106によるビート信号の周波数が、レドーム105等の極近距離反射物によるビート信号の周波数と近くなることがある。しかしこのとき、レドーム105等からのビート信号の周波数スペクトル強度のほうが大きいため、目標物体106からのビート信号の周波数スペクトルが隠れてしまい、近距離の目標物体の検出が難しくなるという問題がある。
【0008】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、送信電磁波の目標物体以外からの反射波の影響を抑え、目標物体の検出性能を高めることが可能なレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るレーダ装置は、
第1の変調信号と第2の変調信号を発生する変調信号発生手段と、
この変調信号発生手段から出力された前記第1の変調信号を送信電磁波として空間に放射する送信手段と、
この送信手段から放射され、目標物体および目標以外の所定の物体で反射された前記送信電磁波を受信する受信手段と、
この受信手段で受信した信号と前記第2の変調信号の位相変換信号の組み合わせ、または前記受信手段で受信した信号の位相変換信号と前記第2の変調信号の組み合わせを入力としてビート信号を出力する検波手段と、
この検波手段から出力された前記ビート信号を元に前記物体の運動を示す運動情報を求めるとともに位相制御信号を送信する信号処理手段と、
この信号処理手段から送信された前記位相制御信号により、前記受信手段で受信した信号と前記第2の変調信号との位相差を制御し、前記目標以外の所定の物体に対応するビート信号を打ち消すような前記位相変換信号を前記検波手段に出力する位相制御手段と、
を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、送信電磁波の目標物体以外からの反射波の影響を抑え、目標物体の検出性能を高めることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1によるレーダ装置を示す構成図
【図2】この発明の実施の形態2によるレーダ装置を示す構成図
【図3】この発明の実施の形態3によるレーダ装置を示す構成図
【図4】この発明の実施の形態4によるレーダ装置を示す構成図
【図5】従来のレーダ装置を示す構成図
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるレーダ装置を示す構成図である。1は信号発生器であり、目標物体に対して放射する信号を発生する。2は変調手段である変調器であり、信号発生器1の出力信号に変調を施す。3は分配手段である電力分配器であり、変調器2の出力を後述する送信アンテナ4と移相器13に分配する。信号発生器1と変調器2と電力分配器3とで変調信号発生手段を構成している。4は送信手段である送信アンテナであり、電力分配器3により送信用に分配された信号を送信電磁波として空間に放射する。5は目標以外の所定の物体であるレドーム、6は目標物体である。7は受信手段である受信アンテナであり、目標物体6およびレドーム5で反射された電磁波を受信信号として受信する。13は位相制御手段である移相器であり、後述する信号処理器12からの位相制御信号に基づいて、電力分配器3により受信用に分配された信号の位相を制御する。8は検波手段である受信ミクサであり、受信アンテナ7で受信した信号と移相器13の出力信号とを混合してビート信号を含む混合信号を出力する。9はフィルタであり、受信ミクサ8から出力された混合信号のうち、不要な周波数成分を除去しビート信号を出力する。10は増幅器であり、フィルタ9を通過したビート信号を増幅する。11はA/D(アナログ/デジタル)変換器であり、増幅器10からの出力であるアナログ信号をデジタル信号に変換する。12は信号処理手段である信号処理器であり、A/D変換器11からの出力信号に基づいて目標物体6までの距離や相対速度などを演算する。
【0013】
次に動作について説明する。信号発生器1から出力される信号は変調器2により変調が施される。変調の方式は、パルス変調、振幅変調、位相変調、周波数変調、およびこれらを組み合わせた種々の変調を用いることができる。変調器2の出力は電力分配器3で2分配され、第1の変調信号である一方の信号は送信アンテナ4から送信電磁波として放射される。送信電磁波の一部は目標物体6で反射され、受信アンテナ7で受信された後、RF(無線周波数)信号として受信ミクサ8に入力される。また送信電磁波の一部はレドーム5でも反射され、同様に受信アンテナ7で受信された後、RF信号として受信ミクサ8に入力される。さらに、電力分配器3で分配された第2の変調信号である他方の信号は移相器13で位相を制御され、位相変換信号としてのLO(局発)波として受信ミクサ8に入力される。
【0014】
ここで、受信ミクサ8での動作について説明する。送信電磁波の角周波数をωとし、移相器13から出力され受信ミクサに入力されるLO波をSLO(t)=A*cos(ωt+θ)とする。ここで、tは時間、A、θはLO波の振幅、位相である。レドーム5は極近距離にあり相対速度が0であるため、レドーム5で反射された電磁波の角周波数は変わらずωであるとし、受信ミクサ8に入力されるRF信号をSRF1(t)=B*cos(ωt+φ)とする。ここで、B、φはレドーム5からの反射によるRF信号の振幅、位相である。一方、目標物体6で反射された電磁波の角周波数は、送信電磁波の角周波数に対してΔωだけシフトするとし、受信ミクサ8に入力されるRF信号をSRF2(t)=C*cos((ω+Δω)t+ψ)とする。ここで、C、ψは目標物体6からの反射によるRF信号の振幅、位相である。すると、受信ミクサ8の出力は以下のように表される。
A*cos(ωt+θ)×{B*cos(ωt+φ) + C*cos((ω+Δω)t+ψ)}
=(AB/2)*cos(2ωt+(θ+φ)) + (AB/2)*cos(θ-φ)
+ (AC/2)*cos((2ω+Δω)t+(θ+ψ)) + (AC/2)*cos(Δωt-(θ-ψ)) ・・・式(2)
【0015】
式(2)の右辺第1項及び第3項は2ω及び2ω+Δωの角周波数成分を持ち、これらはフィルタ9で除去される。
【0016】
式(2)の右辺第2項はSLO(t)とSRF1(t)の位相差に応じたDC(直流)電圧である。これは不要な成分であり、この電圧の絶対値が大きいと後段の増幅器10を飽和させたりしてしまう。しかし、信号処理器12でこのDC電圧を測定しながら、移相器13に位相制御信号を出力し、θの値をθ=φ+90°となるようにフィードバック制御することにより、レドーム5で反射される反射波によるビート信号である右辺第2項を0とすることができる。つまり、レドーム5で反射される反射波の影響を最小にできる。
【0017】
最後に、式(2)の右辺第4項はΔωの角周波数成分を持ち、目標物体6との距離や相対速度の情報を保持している。レドーム5で反射される反射波の影響が最小のとき、この成分のみがフィルタ9を通過し、増幅器10で増幅され、A/D変換器11でデジタル信号に変換された後、信号処理器12で演算が行われ、目標物体6との距離や相対速度が求まる。
【0018】
このとき、レドーム5で反射される反射波によるビート信号のDC成分が小さくなっているため、近距離の目標物体6からのビート信号であっても、この不要反射波の影響を受けにくい。
【0019】
以上のように、実施の形態1によれば、上記のような構成とすることにより、レドーム5等の極近距離からの反射波の影響を最小とすることができるため、増幅器10の利得を最大にでき、その結果最大検知距離を大きくすることができるという利点を有する。また、送信周波数と受信周波数が近くなるような近距離でも目標物体6を正確に検知することができるという利点を有する。
【0020】
なお、実施の形態1では、変調信号発生手段の一部に、信号発生器1と変調器2を組み合わせて用いる構成を示したが、これに限らず、変調器2を外付けせずに信号発生器1自身で変調信号を発生するものを用いても良い。
【0021】
また、実施の形態1では、目標以外の所定の物体としてレドーム5を挙げ、レドーム5から反射された送信電磁波によるビート信号を打ち消す構成を示したが、本発明はこれに限らず、装置の筐体など、種々の目標以外の所定の物体からの反射によるビート信号を打ち消すことができる。この場合にも本実施例の効果を同様に得ることができる。
【0022】
さらに、実施の形態1では、図1のように電力分配器3と受信ミクサ8との間に移相器13を接続する例を示したが、移相器13の代わりにダイレクト・デジタル・シンセサイザ(Direct Digital Synthesizer、以下DDSという)を接続してもよい。DDSは外部からの設定データにより、出力の位相を入力するデジタル制御信号のクロックのタイミングで素早く変化させることができる。よって、DDSを移相器13の代わりに接続し、信号処理器12から位相制御用の設定データを出力することにより、受信ミクサのLO波の位相を制御することができるため、本実施例の同様の効果が得られる。さらに、DDSはデジタル信号を用いて制御されるので、信号処理器12から出力されるデジタル信号に対して相性が良く、制御信号に対して特段の変換回路などを必要としない。
【0023】
また、電力分配器3と送信アンテナ4との間に周波数変換手段としてN次の逓倍器(Nは2以上の整数)を接続し、受信ミクサ8の代わりにN次の高調波形受信ミクサを検波手段として用いても良い。N次の値としては、2次や4次のものなどを用いることができる。この場合、信号発生器1、変調器2、移相器13の動作周波数が、送信電磁波の周波数の1/Nで済むため、装置の簡素化が可能となる。特に、送信電磁波の周波数がミリ波帯などの高周波帯となる場合においては信号発生器1、変調器2、移相器13の動作周波数を1/Nにできることは大きな効果がある。
【0024】
もしくは、逓倍器は用いず、電力分配器3と移相器13との間に周波数変換手段としてN次の分周器(Nは2以上の整数)を接続し、受信ミクサ8の代わりにN次の高調波形受信ミクサを用いることもできる。この場合も、移相器13の動作周波数が、送信電磁波の周波数の1/Nで済むため、装置の簡素化が可能となる。
【0025】
さらに、実施の形態1では、図1のように電力分配器3と受信ミクサ8との間に移相器13を接続する例を示したが、移相器13の位置は、電力分配器3と送信アンテナ4との間にあってもよく、また、受信アンテナ7と受信ミクサ8の間にあってもよい。すなわち移相器13は、受信ミクサ8におけるRF信号とLO波との位相差を制御できる位置にあればどこでもよく、同様の効果が得られる。このとき、移相器13に代えてDDSを接続してもよいことは言うまでもない。
【0026】
実施の形態2.
図2はこの発明の実施の形態2によるレーダ装置を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
17は2周波信号発生器であり、目標物体に対して放射する周波数foの信号とその1/Nの周波数である周波数fo/N(Nは2以上の整数)の信号を異なる端子から出力する。18は変調器であり、2周波信号発生器17から出力される周波数foの信号に変調を施す。19は変調器であり、2周波信号発生器17から出力される周波数fo/Nの信号に変調を施す。2周波信号発生器17と変調器18、19とで変調信号発生手段を構成している。このとき、変調器18からは第1の変調信号が出力し、変調器19からは第2の変調信号が出力する。20は位相制御手段である移相器であり、信号処理手段である信号処理器12からの位相制御信号に基づいて、変調器19の出力信号の位相を制御し、後述するN次の高調波形受信ミクサ21へ位相変換信号としてのLO波として出力する。21は検波手段であるN次の高調波形受信ミクサであり、受信アンテナ7で受信した信号と移相器20の出力である周波数fo/Nの信号とを混合してビート信号を出力する。
【0027】
N次の値としては、2次や4次のものなどを用いることができる。
【0028】
図2において、検波手段であるN次の高調波形受信ミクサ21では、入力するRF信号と、入力するLO波のN次高調波とのビート信号が出力する。よって、不要成分として、入力するRF信号とLO波のN次高調波との位相差に応じたDC電圧成分が同時に発生する。したがって、実施の形態1と同様に、このDC電圧を信号処理器12で測定しながら、移相器13に位相制御信号を出力し、DC電圧が0となるようにフィードバック制御することができる。つまり、レドーム5で反射される反射波の影響を最小にでき、その結果目標物体6の最大検知距離を大きくすることができるとともに、近距離でも目標物体6を正確に検知することができるという利点を有する。
【0029】
また、実施の形態2によれば、2周波信号発生器17およびN次の高調波形受信ミクサ21を組み合わせて適用することにより、電力分配器3を削減でき、また変調器19、移相器20の動作周波数が1/Nで済むため、装置の簡素化が可能となる。特に、ミリ波帯などの高周波帯においては変調器19、移相器20の動作周波数を1/Nにできることは大きな効果がある。
【0030】
さらに、実施の形態2では、図2のように変調器19とN次の高調波形受信ミクサ21との間に移相器20を接続する例を示したが、移相器20の位置は、変調器18と送信アンテナ4との間にあってもよく、また、受信アンテナ7とN次の高調波形受信ミクサ21の間にあってもよい。すなわち移相器20は、N次の高調波形受信ミクサ21におけるRF信号とLO波のN次高調波との位相差を制御できる位置にあればどこでもよく、実施の形態2と同様の効果が得られる。このとき、移相器20に代えてDDSを接続してもよいことは言うまでもない。
【0031】
実施の形態3.
図3はこの発明の実施の形態3によるレーダ装置を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
14は移相器であり、信号処理器12からの位相制御信号に基づいて、電力分配器3により受信用に分配された信号の位相を制御する。15は振幅制御手段である増幅器であり、信号処理器12からの振幅制御信号に基づいて、移相器14の出力を増幅する。図3では、移相器14と増幅器15とで位相制御手段を構成している。16は合成器であり、受信アンテナ7で受信した信号と、増幅器15の出力とを合成する。図3においては、合成器16と受信ミクサ8とを合わせて検波手段を構成している。
【0032】
次に動作について説明する。信号発生器1から出力される信号は変調器2により変調が施される。変調器2の出力は電力分配器3で3分配され、そのうち第1の変調信号である1つ目の信号は送信アンテナ4から送信電磁波として放射される。送信電磁波の一部は、目標物体6で反射され受信アンテナ7で受信された後、合成器16に入力される。また送信電磁波の一部は、レドーム5で反射され受信アンテナ7で受信された後、やはり合成器16に入力される。一方、電力分配器3で分配された信号のうち第2の変調信号である2つ目の信号は、移相器14で位相を制御され、さらに増幅器15で振幅を制御された後、位相変換信号として合成器16に入力される。電力分配器3で分配された信号のうち3つ目の信号は、LO波として受信ミクサ8に入力される。
【0033】
増幅器15から出力され合成器16に入力される位相変換信号の振幅及び位相は、レドーム5で反射され合成器16に入力される信号を打ち消すように、信号処理器12から出力される振幅制御信号及び位相制御信号によって制御される。すなわち、増幅器15からは、レドーム5で反射され合成器16に入力される信号と同じ振幅で位相差が180°の位相変換信号が出力される。
【0034】
その結果、合成器16からは目標物体6から反射された信号のみがRF信号として出力される。受信ミクサ8において、このRF信号は電力分配器3で分配されたLO波と混合され、ビート信号を含む混合信号が出力される。この混合信号のうち、高調波成分はフィルタ9で除去され、目標物体6との距離や相対速度の情報を保持している残りの成分のみが、ビート信号としてフィルタ9を通過し、増幅器10で増幅される。さらに、このビート信号はA/D変換器11でデジタル信号に変換された後、信号処理器12で演算が行われ、目標物体6との距離や相対速度が求まる。
【0035】
以上のように、実施の形態3によれば、上記のような構成とすることにより、レドーム5等の極近距離からの反射波の影響を最小とすることができるため、増幅器10の利得を最大にでき、その結果最大検知距離を大きくすることができるという利点を有する。また、送信周波数と受信周波数が近くなるような近距離でも目標物体6を正確に検知することができるという利点を有する。
【0036】
なお、受信ミクサ8を用いる代わりにN次の高調波形受信ミクサを検波手段として用い、電力分配器3を用いて受信ミクサ8、移相器14、送信アンテナ4へ分配する代わりに、まず電力分配器を用いて2分配し、一方をN次の高調波形受信ミクサへ出力した後、他方の出力を周波数変換手段であるN次の逓倍器を用いて逓倍し、N次の逓倍器の出力をさらに電力分配器を用いて2分配し、一方を送信アンテナ4へ、他方を移相器14へ出力してもよい。この場合、信号発生器1と変調器2の動作周波数が1/Nで済むため、装置の簡素化が可能となる。特に、ミリ波帯などの高周波帯においては信号発生器1と変調器2の動作周波数を1/Nにできることは大きな効果がある。もしくは、同様に受信ミクサ8を用いる代わりにN次の高調波形受信ミクサを用いるとともに、電力分配器3とN次の高調波形受信ミクサとの間に周波数変換手段であるN次の分周器を接続して、LO波の信号をN分周する構成とすることもできる。この場合でも同様の効果が得られる。
【0037】
また、実施の形態3では、電力分配器3で分配された信号のうち2つ目の信号を、移相器14で位相制御し、増幅器15で振幅制御しているが、増幅器15を用いずに移相器14で位相制御のみを行う構成とすることもできる。この場合でも、合成器16に入力される2つの信号の位相差が180°となるようにすることで、不要波の振幅を小さくするように打ち消すことができるので、本実施例の効果が得られる。
【0038】
さらに、増幅器15の代わりに、減衰器を用いたり、増幅器15と減衰器とを組み合わせて用いることなどにより信号の振幅制御を行うこともできる。
【0039】
加えて、実施の形態3では、電力分配器3で分配された信号のうち3つ目の信号をLO波として受信ミクサ8に入力する構成を示しているが、これに限らず、図示した信号発生器1とは異なる信号発生器を新たに設けて、この信号発生器から発生した信号を、LO波として受信ミクサ8に入力する構成としても良い。この場合でも本実施例の効果が同様に得られる。
【0040】
実施の形態4.
図4はこの発明の実施の形態4によるレーダ装置を示す構成図であり、図1と図3の構成を組み合わせた構成となっている。
【0041】
動作についても実施の形態1で説明したものと実施の形態3で説明したものを組み合わせたものとなっている。すなわち、レドーム5で反射され受信アンテナ7で受信された信号は、まず移相器14、増幅器15、合成器16により、振幅が等しく位相差が180°の位相変換信号と合成され、その大部分が打ち消される。次に、打ち消すことができなかった残りについては、受信ミクサ8のLO波との位相差が90°となるよう、移相器13を用いて位相変換信号としてのLO波の位相を制御することにより、受信ミクサ8の出力であるビート信号のDC成分を0にする。その結果、信号処理器12には目標物体6との距離や相対速度の情報を保持している成分のみが入力され、演算により目標物体6との距離や相対速度が求まる。
【0042】
以上のように、実施の形態4によれば、上記のような構成とすることにより、レドーム5等の極近距離からの反射波の影響を最小とすることができるため、増幅器10の利得を最大にでき、その結果最大検知距離を大きくすることができるという利点を有する。また、送信周波数と受信周波数が近くなるような近距離でも目標物体6を正確に検知することができるという利点を有する。
【0043】
なお、実施の形態4では、図4のように電力分配器3と受信ミクサ8との間に移相器13を接続する例を示したが、移相器13の代わりにDDSを接続しても同様の効果が得られる。
【0044】
また、実施の形態4では、図4のように電力分配器3と受信ミクサ8との間に移相器13を接続する例を示したが、移相器13の位置は、電力分配器3と送信アンテナ4との間にあってもよく、また、受信アンテナ7と合成器16の間、さらに、合成器16と受信ミクサ8の間にあってもよい。すなわち移相器13は、受信ミクサ8におけるRF信号とLO波との位相差を制御できる位置にあればどこでもよく、本実施例の同様の効果が得られる。このとき、移相器13に代えてDDSを接続してもよいことは言うまでもない。
【0045】
さらに、受信ミクサ8を用いる代わりにN次の高調波形受信ミクサを検波手段として用い、電力分配器3を用いて移相器13、移相器14、送信アンテナ4へ分配する代わりに、まず電力分配器を用いて2分配し、一方を移相器13へ出力した後、他方の出力をN次の逓倍器を用いて逓倍し、N次の逓倍器の出力をさらに電力分配器を用いて2分配し、一方を送信アンテナ4へ、他方を移相器14へ出力してもよい。この場合、信号発生器1、変調器2、移相器13の動作周波数が1/Nで済むため、装置の簡素化が可能となる。特に、ミリ波帯などの高周波帯においては信号発生器1、変調器2、移相器13の動作周波数を1/Nにできることは大きな効果がある。
【0046】
もしくは、受信ミクサ8を用いる代わりにN次の高調波形受信ミクサを用いるともに、電力分配器3と移相器13との間にN次の分周器を接続して、信号をN分周する構成とすることもできる。この場合、移相器13の動作周波数が1/Nで済むため、装置の簡素化が可能となるとともに、本実施例の同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0047】
1 信号発生器
2 変調器
3 電力分配器
4 送信アンテナ
5 レドーム
6 目標物体
7 受信アンテナ
8 受信ミクサ
12 信号処理器
13 移相器
14 移相器
15 増幅器
16 合成器
17 2周波信号発生器
18 変調器
19 変調器
20 移相器
21 N次の高調波形受信ミクサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の変調信号と第2の変調信号を発生する変調信号発生手段と、
この変調信号発生手段から出力された前記第1の変調信号を送信電磁波として空間に放射する送信手段と、
この送信手段から放射され、目標物体および目標以外の所定の物体で反射された前記送信電磁波を受信する受信手段と、
この受信手段で受信した信号と前記第2の変調信号の位相変換信号の組み合わせ、または前記受信手段で受信した信号の位相変換信号と前記第2の変調信号の組み合わせを入力としてビート信号を出力する検波手段と、
この検波手段から出力された前記ビート信号を元に前記物体の運動を示す運動情報を求めるとともに位相制御信号を送信する信号処理手段と、
この信号処理手段から送信された前記位相制御信号により、前記受信手段で受信した信号と前記第2の変調信号との位相差を制御し、前記目標以外の所定の物体に対応するビート信号を打ち消すような前記位相変換信号を前記検波手段に出力する位相制御手段と、
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
変調信号発生手段は、
信号発生器と、
この信号発生器から出力された信号を変調する変調器と、
この変調器により変調された信号を分配し、変調された第1及び第2の変調信号として出力する電力分配器と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
第1の変調信号の周波数は、第2の変調信号の周波数のN倍(Nは2以上の整数)であることを特徴とする請求項1または2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
位相制御手段は、
信号処理手段から送信された位相制御信号により、
目標以外の所定の物体で反射し受信手段で受信した信号と第2の変調信号との位相差が90°になるよう制御し、
前記目標以外の所定の物体に対応するビート信号を打ち消すような位相変換信号を検波手段に出力することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のレーダ装置。
【請求項5】
位相制御手段は、
信号処理手段から送信された位相制御信号により、
目標以外の所定の物体で反射し受信手段で受信した信号と第2の変調信号との位相差が180°になるよう制御し、
前記目標以外の所定の物体に対応するビート信号を打ち消すような位相変換信号を検波手段に出力することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のレーダ装置。
【請求項6】
位相制御手段は、移相器及び振幅制御手段を有し、
移相器による位相制御に加え、振幅制御手段による振幅制御を行うことにより、目標以外の所定の物体に対応するビート信号を打ち消すような位相変換信号を検波手段に出力する
ことを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−197283(P2010−197283A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43809(P2009−43809)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】