説明

レーダ装置

【課題】各探知距離領域において探知できない方位角範囲が広くならないようにできるレーダ装置を簡易且つ低廉な構成にて実現する。
【解決手段】送信部12は、同一種類の単パルス信号同士が一定の繰り返し周期となるように、複数種類の単パルス信号を特定の順で切り替えながら送信する。受信部15は、受信データ記憶部51とパルス積分部52とを備える。受信データ記憶部51は、種類毎のパルス応答データを時間的配列が認識できるように所定回数分記憶する。この際、新たなパルス応答データが入力されると、当該新たな応答データを含む新しい側の所定回数分のパルス応答データを保持するように更新記憶する。パルス積分部52は、同一種類のパルス応答データを新しいデータ側の特定個数分だけ読み出してパルス積分する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パルス信号を検知対象領域へ送信して物標の探知を行うレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パルス信号を探知対象領域へ送信して反射信号から物標の探知を行うレーダ装置が各種考案されている。これまで、レーダ装置は、マグネトロンを利用した大電力のレーダ装置が主流であり、このようなレーダ装置では、設定表示レンジに応じて特定のパルス幅の信号が用いていた。ところが、発振素子として半導体を利用した半導体レーダでは、送信電力がマグネトロンレーダと比較して極めて低いため、送信するパルス信号のパルス幅を長くしなければならない。そして、長距離探知を行う場合には、短距離探知を行う場合よりもパルス幅を長くしなければならない。このため、半導体レーダで長距離探知を行う場合には、より一層パルス幅が長いパルス信号を送信しなければならなくなり、このようにパルス幅の長いパルス信号を用いることで、距離分解能が低下したり、探知できないブラインドエリアが広くなるという問題が生じる。
【0003】
従来では、このような距離分解能の低下を改善するために、送信信号を変調してパルス圧縮する技術が一般的に用いられている。一方で、ブラインドエリアを抑圧するには、特許文献1のレーダ装置に示すように、長距離探知用の長パルス信号(ロングパルス)とともに、当該長パルス信号よりもパルス幅の短い複数種類のパルス信号(中パルス信号および短パルス信号)を送信する方法がある。
【0004】
ところで、このようなパルス信号を用いた場合、単発のパルス信号では送信電力が低くSNが劣化してしまうので、特許文献2のレーダ装置に示すように、同種のパルス信号を連続的に複数送信し、これらのパルス信号に基づく複数の反射信号(受信信号)を積算して検知に利用するパルス積分法が考案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−527391号公報
【特許文献2】特許第3639124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2のレーダ装置は、同じパルス幅の信号を連続して送信し、当該送信に対して受信した信号間のパルス積分を行うために、特許文献1に示したような短パルス信号、中パルス信号、および長パルス信号を順次送信する構成を用いた場合、次に示すような課題が発生する。図5は、短パルス信号、中パルス信号、長パルス信号を三回ずつ繰り返して送信した場合を示すタイミングチャートである。また、図6は、図5の送信を行った場合に生じる課題を模式的に示した図である。
【0007】
この場合、従来のレーダ装置は、まず、短パルスグループPSG1を構成する短パルス信号PS11,PS12,PS13を順次送信し、次に、中パルスグループPMG1を構成する中パルス信号PM11,PM12,PM13を順次送信する。さらに、従来のレーダ装置は、長パルスグループPLG1を構成する長パルス信号PL11,PL12,PL13を順次送信する。従来のレーダ装置は、このような短パルスグループPSG、中パルスグループPMG、長パルスグループPLGによる送信を、順次繰り返しながら行う。
【0008】
そして、従来のレーダ装置は、このような短パルスグループPSG、中パルスグループPMG、長パルスグループPLGによる各受信信号を、パルスグループ単位でパルス積分する。例えば、従来のレーダ装置は、短パルス信号PS11,PS12,PS13による受信信号を用いてパルス積分することで短距離探知を行い、中パルス信号PM11,PM12,PM13による受信信号を用いてパルス積分することで中距離探知を行い、長パルス信号PL11,PL12,PL13による受信信号を用いてパルス積分することで長距離探知を行う。
【0009】
そのため、一回のパルス積分結果を得るまでに、それぞれ三回ずつ信号の送受信を行う必要があり、探知距離毎のパルス積分結果を得られるまでに時間を要する。
【0010】
ところで、このようなレーダ装置では、全周方位を検知するため、アンテナは連続的に一定の速度で回転し続ける。このため、図5に示すようにパルス信号を探知距離毎にグループで送受信して順次切り替える場合、一つの探知距離に対するグループによる送受信中にアンテナの回転する角度が、単パルスを用いる場合よりも大きくなってしまう。これにより、図6に示すように、例えば、二つの短距離探知が行われる方位角範囲ΔθS1とΔθS2との間に、中距離探知および長距離探知が行われる方位角範囲ΔθM1+ΔθL1が介在する。このため、このような範囲では、短距離探知を行うことができなくなってしまう。この現象は、中距離探知および長距離探知でも同じである。すなわち、それぞれの探知距離領域に対して、当該探知距離領域で探知可能な方位角範囲よりも広い範囲の探知できない方位角範囲が存在してしまう。
【0011】
したがって、本発明の目的は、パルス積分を用いても、各探知距離領域において探知できない方位角範囲が広くならないようにできるレーダ装置を簡易且つ低廉な構成にて実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明のレーダ装置は、送信部、記憶部、パルス積分部、および画像生成部を備える。送信部は、異なるパルス幅からなる複数種類のパルス信号を所定間隔で順次送信する。記憶部は、各パルス信号に対するパルス応答データを、パルス信号の種類毎に所定回数分記憶する。パルス積分部は、記憶部に記憶されたパルス応答データをパルス信号の種類毎にパルス積分する。画像生成部は、パルス積分した結果を用いてレーダ画像を生成する。
【0013】
この構成では、探知距離領域毎にパルス応答データが記憶され、当該探知距離領域毎の複数のパルス応答データを用いてパルス積分が行われる。この際、異なる種類のパルス信号が切り替わりながら送信されている状況で、各パルス応答データが単に時系列に順次記憶されるのではなく、パルス信号の種類毎に記憶されることで、それぞれの距離領域に対するパルス積分処理におけるパルス応答データの読み出しが容易になる。また、各探知距離領域に対するパルス信号を順次切り替えられることで、各探知距離領域に対する探知可能な方位角範囲を重なり合うように設定できる。
【0014】
また、この発明のレーダ装置の記憶部は、パルス信号の種類毎に区分された複数の探知距離別記憶部を備える。そして、各探知距離別記憶部は、新たなパルス応答データが記憶される際に、当該新たなパルス応答データを含む時間的に最新側の所定回数分のパルス応答データを、各パルス応答データの時間的配列が識別できるように更新記憶する。パルス積分部は、更新記憶が行われる毎に、新たなパルス応答データを含む特定個数のパルス応答データを用いてパルス積分を行う。
【0015】
この構成では、各探知距離において、連続するパルス積分同士で利用する複数のパルス応答データを、新たなパルス応答データを含むように順次更新させながらも部分的に重複させることができる。これにより、簡素な構成を維持したままで、各探知距離領域に対して探知できない方位角範囲が発生することを防止できる。
【0016】
記憶部は、パルス信号の種類別に区分された複数の探知距離別記憶部を備える。これら探知距離別記憶部は、パルス信号の種類毎にそれぞれ異なる回数分のパルス応答データを記憶する。パルス積分部は、探知距離別記憶部に記憶されたパルス応答データを用いてパルス信号の種類毎にパルス積分する。
【0017】
この構成では、探知距離毎にパルス積分を行い、この一回のパルス積分に利用するパルス応答データを適宜設定する。これにより、各探知距離のパルス積分に応じた適切なパルス応答データ数を設定できるので、パルス幅やパルス幅の組み合わせの設計自由度が増し、所望の反射物標から所望の反射強度の信号を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、複雑な構成や処理を用いることなく、複数の探知距離領域に対して探知できない方位角範囲が広くなることを防止できるレーダ装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態のレーダ装置の主要構成を示すブロック図、および、受信データ記憶部71の具体的な構成及び動作を説明する図である。
【図2】送信タイミングおよび送信されるパルス信号の列びの一例を示す図である。
【図3】各探知距離領域に対するパルス積分を用いた探知の概念を示すタイミングチャートである。
【図4】本実施形態のパルス積分を用いた探知による方位角範囲の重複を説明する為の図である。
【図5】特許文献1に示したような短パルス、中パルス、長パルスを順次送信する構成に、特許文献2のレーダ装置に示すようなパルス積分の概念を組み合わせた場合を説明するタイミングチャートである。
【図6】図5の送信を行った場合に生じる課題を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態に係るレーダ装置について図を参照して説明する。
図1(A)は本実施形態のレーダ装置11の主要構成を示すブロック図であり、図1(B)は図1(A)の受信データ記憶部51の具体的な構成及び動作を説明する図である。
【0021】
図1(A)に示すように、本実施形態のレーダ装置11は、送信部12、DPX13、アンテナ14、および受信部15を備え、受信部15は、受信データ記憶部51、パルス積分部52、および画像データ生成部53を備える。
【0022】
送信部12は、図2に示すような送信タイミングでパルス信号を出力するように制御されており、基準周波数信号を用いて、設定されたタイミングでパルス信号を出力する。出力されたパルス信号は、DPX13を介してアンテナ14へ供給される。
【0023】
ここで、図2は、送信タイミングおよび送信されるパルス信号の列びの一例を示す図である。
具体的に、送信部12は、短パルス送信タイミングになると、パルス幅WPSからなる短パルス信号PS1を出力する。次に、送信部12は、短パルス信号PS1に基づく反射信号の受信のために設定された時間長RTSの経過後に、パルス幅WPMからなる中パルス信号PM1を出力する。この際、受信時間長RTsは、短パルス信号PS1で探知したい短距離領域の反射信号を受信できる時間長に設定されている。さらに、送信部12は、中パルス信号PM1に基づく反射信号の受信のために設定された時間長RTMの経過後に、パルス幅WPLからなる長パルス信号PL1を出力する。この際、中パルス信号PM1用の受信時間長RTMは、短パルス信号PS1の探知領域よりも長距離となる中距離領域を探知するために、短パルス信号の受信時間長RTSよりも長く設定されている。
【0024】
次に、送信部12は、長パルス信号PL1に基づく反射信号の受信のために設定された時間長RTLの経過後に、再びパルス幅WPSからなる短パルス信号PS2を出力する。この際、受信時間長RTLは、短パルス信号PS1、中パルス信号PM1の探知領域よりもさらに長距離となる長距離領域を探知するために、短パルス信号の受信時間長RTSおよび中パルス信号の受信時間長RTMよりも長く設定されている。
【0025】
この後、送信部12は、中パルス信号PM2、長パルス信号PL2、短パルス信号PS3、・・・というように、それぞれに異なるパルス幅からなる短パルス信号PS、中パルス信号PM、長パルス信号PLを順次繰り返しながら送信する。すなわち、送信部12は、短パルス信号PS、中パルス信号PM、長パルス信号PLが時系列に特定間隔で配列されたパルス送信グループPG単位に、パルス信号の送信を繰り返す。
【0026】
この際、パルス送信グループPGのパルス繰り返し周期PRF(例えば3000Hz)は常に一定になるように設定されている。これにより、短パルス信号PSのパルス繰り返し周期PRFS、中パルス信号PMのパルス繰り返し周期PRFM、長パルス信号PLのパルス繰り返し周期PRFLも常に一定になる。なお、このパルス繰り返し周期PRFは、アンテナ14の回転速度と、送信される送信ビームのビーム幅と、所望とする方位分解能とにより設定される。
【0027】
DPX(デュプレクサ)13は、送信部12からの各パルス信号をアンテナ14に伝送する。アンテナ14は、予め設定された回転速度(例えば25rpm)で定速度回転し続けながら、供給されたパルス信号を外部へ送信するとともに、パルス信号が供給されていない期間は、外部の物標からの反射信号を受信して、受信信号をDPX13へ出力する。DPX13は、アンテナ14からの受信信号を受信部15へ出力する。
【0028】
受信部15は、受信データ記憶部51、パルス積分部52および画像データ生成部53を備える。
【0029】
受信データ記憶部51は、図1(B)に示すように、送信するパルス信号のパルス幅毎に異なるデータ長が記憶可能な探知距離別記憶部510S,510M,510Lを備える。探知距離別記憶部510S,510M,510Lは、各パルス信号PS,PM,PLに基づくパルス応答データを記憶するメモリであり、それぞれに所定回数分(図3では4回分)のパルス応答データを記憶する。例えば、探知距離別記憶部510Sは、短パルス応答データを記憶する4つのメモリ領域を有し、それぞれのメモリ領域に短パルス応答データを順次記憶する。
【0030】
ここで、上述のように、送信されるパルス信号は、短パルス信号PS、中パルス信号PM、長パルス信号PLが順次切り替わりながら送信される信号であるので、パルス応答データも、短パルス応答データ、中パルス応答データおよび長パルス応答データが順次切り替わりながら入力される。このため、受信データ記憶部51は、送信部からの送信タイミング情報に基づいて、短パルス応答データが入力される期間には探知距離別記憶部510Sへデータが入力されるように書込アドレスを制御し、中パルス応答データが入力される期間には探知距離別記憶部510Mへデータが入力されるように書込アドレスを制御し、長パルス応答データが入力される期間には探知距離別記憶部510Lへデータが入力されるように書込アドレスを制御する。また、受信データ記憶部51は、予め設定した読出タイミングに各探知距離別記憶部510S,510M,510Lを読出制御する。なお、読出タイミングは、上述の書込タイミングとは別に設定されており、例えば、新たな短パルス応答データが入力され、且つ予め設定したデータ数の短パルス応答データ(図3の例であれば4つ)が揃って記憶されたタイミングに設定されている。
【0031】
次に、各探知距離別記憶部510S,510M,510Lの処理について、より具体的に説明する。なお、各探知距離別記憶部510S,510M,510Lは記憶容量が異なるのみで、処理は同じであるので、探知距離別記憶部510Sを例に詳細な処理を説明する。
【0032】
探知距離別記憶部510Sは、新たな短パルス応答信号が入力されるタイミングに、既に記憶されている過去の複数の短パルス応答データの内、最も古い短パルス応答データを消去して、新たな短パルス応答データを書き込む。この際、各短パルス応答データの時間的配列が認識できるように書き込み処理を行う。
【0033】
例えば、探知距離別記憶部510Sは、4つのメモリ領域に時間情報(送信タイミング情報に対応)とともに短パルス応答信号を記憶する。そして、新たな短パルス応答データが入力されると、最古の短パルス応答データの書込アドレスに時間情報とともに新たな短パルス応答データを書き込む。そして、読出制御が行われると、時間情報とともに各短パルス応答データを出力したり、時間情報に基づいて時系列に配列して短パルス応答データを出力する。また、別の方法として、探知距離別記憶部510Sは、内部に4つのメモリ領域を設定し、LSBからMSBに向けて順に過去に遡るように、各短パルス応答データを記憶する。そして、新たな短パルス応答データが入力されると、LSB側から三つのメモリ領域に記憶された短パルス応答データをMSB側に一つずつシフトさせて更新記憶し、最もLSB側のメモリ領域に新たな短パルス応答データを書き込む。そして、読出制御が行われると、MSB側のメモリ領域から順に短パルス応答データを出力する。
【0034】
このような構成とすることで、それぞれが一定のパルス繰り返し周期PRFで送信される短パルス信号PS、中パルス信号PM、および長パル信号PLに対するパルス応答データが入力される際に、それぞれの探知距離毎に、当該レンジに対応する複数のパルス応答データを、時間的配列を狂わせることなく記憶することができる。また、各探知距離に対応する複数のパルス応答データが予め設定された個数毎に、個別に記憶されているので、異なる種類のパルス応答データが切り替わりながら入力されるような状況下であっても、探知距離毎のパルス積分を実行する際の読み出し処理を簡素化することができる。
【0035】
そして、このような処理は、書込アドレスの設定や読出制御の設定を上述のように最適化することで実現したものであり、複雑な回路構成や煩雑な処理を必要とすることなく、種類別のパルス応答データの書き込み、読み出しを確実に且つ容易に実行することができる。
【0036】
パルス積分部52は、上述のように所定個数からなる探知距離毎のパルス応答データを読み出し、既知の方法を用いて探知距離毎のパルス積分処理を行い、パルス積分結果を画像データ生成部53へ出力する。
【0037】
例えば上述の図2に示すように送信制御が行われた場合、受信データ記憶部51には、短パルス応答データ、中パルス応答データおよび長パルス応答データが切り替わりながら順次記憶される。そして、短パルス応答データが所定個数(本実施形態では4つ)記憶されており、読出制御されると、これらの短パルス応答データはパルス積分部52へ入力される。パルス積分部52は、これら所定個数の短パルス応答データを用いてDFTやFFT等を利用したパルス積分を行い、短距離領域に対する探知結果を算出し、画像データ生成部53へ出力する。また、中パルス応答データが所定個数(本実施形態では4つ)記憶されると読出制御されて、パルス積分部52へ入力される。パルス積分部52は、これら4つの中パルス応答データを用いてDFTやFFT等を利用したパルス積分を行い、中距離領域に対する探知結果を算出し、画像データ生成部53へ出力する。また、長パルス応答データが所定個数(本実施形態では4つ)記憶されると読出制御されて、パルス積分部52へ入力される。パルス積分部52は、これら4つの長パルス応答データを用いて、DFTやFFT等を利用したパルス積分を行い、長距離領域に対する探知結果を算出し、画像データ生成部53へ出力する。画像データ生成部53は、パルス積分部52から出力される探知距離領域毎の探知結果に基づいて画像データを形成し、表示器へ出力する。
【0038】
この時、パルス積分にDFTやFFTを利用することで、アンテナが回転して各パルス応答データ間に位相ズレが生じても、この位相ズレが解消されるので、SNが改善し、探知性能を向上することができる。なお、受信データ記憶部51の各探知距離別記憶部510S,510M,510Lが、送信するパルス信号のパルス幅毎に2n回数分のパルス応答データを記憶する容量を備える場合には、DFTよりも高速なFFTを利用することができる。
【0039】
次に、パルス積分部52の処理をより具体的な一例を用いて説明する。
パルス積分部52は、次に示す手順で、パルス積分法を用いて探知距離領域毎の探知を行う。図3は各探知距離領域に対するパルス積分による探知の概念を示すタイミングチャートである。また、図4は本実施形態のパルス積分を用いた探知による方位角範囲の重複を説明する為の図である。
【0040】
パルス積分部52は、まず短パルス信号PS1〜PS4に基づく短パルス応答データ群を用いて短距離探知用第1パルス積分PiS1を実行し、短パルス信号PS1〜PS4に対応する方位の短距離領域探知を行う。次に、パルス積分部52は、中パルス信号PM1〜PM4に基づく中パルス応答データ群を用いて中距離探知用第1パルス積分PiM1を実行し、中パルス信号PM1〜PM4に対応する方位の中距離領域探知を行う。ここで、短距離探知用第1パルス積分PiS1用の短パルス信号PS2〜PS4に対応する方位角範囲と、中距離探知用第1パルス積分PiM1用の中パルス信号PM1〜PM3に対応する方位角範囲は重なり合うので、短距離探知用第1パルス積分PiS1に基づく探知方位角範囲と中距離探知用第1パルス積分PiM1に基づく探知方位角範囲も重なり合う。
【0041】
次に、パルス積分部52は、長パルス信号PL1〜PL4に基づく長パルス応答データ群を用いて長距離探知用第1パルス積分PiL1を行い、長パルス信号PL1〜PL4に対応する方位の長距離領域探知を行う。ここでも、中距離探知用第1パルス積分PiM1用の中パルス信号PM2〜PM4に対応する方位角範囲と、長距離探知用第1パルス積分PiL1用の長パルス信号PL1〜PL3に対応する方位角範囲は重なり合うので、中距離探知用第1パルス積分PiM1に基づく探知方位角範囲と長距離探知用第1パルス積分PiL1に基づく探知方位角範囲も重なり合う。さらには、短距離探知用第1パルス積分PiS1に基づく物標検知の方位角範囲と、長距離探知用第1パルス積分PiL1に基づく探知方位角範囲も同様に重なり合う。
【0042】
このように短パルス信号PS1〜PS4、中パルス信号PM1〜PM4、および長パルス信号PL1〜PL4に基づく探知が実行された後、物標検知部72は、短パルス信号PS2〜PS5に基づく短距離探知用第2パルス積分PiS2を用いて物標検知を行い、次に中パルス信号PM2〜PM5に基づく中距離探知用第2パルス積分PiM2を用いて探知を行い、さらに長パルス信号PL2〜PL5に基づく長距離探知用第2パルス積分PiL2を用いて探知を行う。そして、パルス積分部52は、このようなパルス積分による距離別の探知を継続的に繰り返す。
【0043】
このような処理を行うことで、図5に示すように、短パルス信号PS1〜PS4による短距離探知用第1パルス積分PiS1を用いた探知方位角範囲と、短パルス信号PS2〜PS5による短距離探知用第2パルス積分PiS2を用いた探知方位角範囲とは、短パルス信号PS2〜PS4に対応する範囲で重複する。また、中パルス信号PM1〜PM4による中距離探知用第1パルス積分PiM1を用いた探知方位角範囲と、中パルス信号PM2〜PM5による中距離探知用第2パルス積分PiM2を用いた探知方位角範囲とは、中パルス信号PM2〜PM4に対応する範囲で重複する。また、長パルス信号PL1〜PL4による長距離探知用第1パルス積分PiL1を用いた探知方位角範囲と、長パルス信号PL2〜PL5による長距離探知用第2パルス積分PiL2を用いた探知方位角範囲とは、長パルス信号PL2〜PL4に対応する範囲で重複する。
【0044】
このため、図4に示すように、同じ探知距離領域において隣り合う探知方位角範囲を部分的に重複させながら、順に回転方向へシフトさせて、全周方位へ探知を行うことができる。これにより、パルス信号を用いてパルス積分を行う手法を用いても、全周方位に亘り等間隔に或程度の方位角分解能を有しながら、各探知距離領域で探知できない方位角範囲が発生することを防止できる。特に、船舶や自動車のように移動速度が、航空機等と比較して相対的に遅いような物標を検出する場合には、同じ探知距離領域の連続するパルス信号同士が連続して物標に当たり反射信号(パルス応答信号)を得やすい。そのため、本実施形態の構成及び処理をより有効に活用できる。
【0045】
なお、上述の説明では、探知距離領域を短距離領域、中距離領域および長距離領域の三種類にする例を示したが、複数の探知距離領域を設定することもできる。例えば、探知対象領域全体を距離別に四種類の探知距離領域に区分して設定し、四種類の探知領域毎にパルス幅の異なるパルス信号を設定する。そして、これらパルス幅の異なる四つのパルス信号を用いて上述のパルス送信グループPG単位を形成し、探知を行うようにすればよい。このように、探知対象領域全体を複数の探知距離領域に分けて設定するものであれば、上述の構成および処理を適用することができる。
【0046】
また、上述の説明では、短距離領域用の短パルス信号、中距離領域用の中パルス信号、および長距離領域用の長パルス信号の順に送信する例を示したが、パルス送信グループ内での順番はこれに限るものでなく、適宜設定すればよい。この際、各パルス送信グループ同士では、短パルス信号、中パルス信号、長パルス信号の列びを一致させればよい。
【0047】
また、上述の説明では、各探知距離でのパルス積分に利用するパルス応答データの個数が同じ場合を示したが、それぞれの探知距離に対して異なるパルス応答データの個数でパルス積分を行ってもよい。例えば、短距離領域探知用には16個単位でパルス積分を行い、中距離領域探知用には8個単位でパルス積分を行い、長距離領域探知用には4個単位でパルス積分を行うようにしても良い。また、短距離領域探知および中距離領域探知用には8個単位でパルス積分を行い、長距離領域探知には4個単位でパルス積分を行う等、各探知距離でのパルス積分に利用するパルス応答データの個数は適宜設定すればよい。このように送信するパルス幅に応じてパルス積分数を変更することにより、パルス幅やパルス幅の組み合わせの設計自由度が増し、所望の反射物標から所望の反射強度の信号を得ることが可能になる。
【0048】
また、上述の説明では、探知距離別記憶部に新たなパルス応答データが記憶される毎にパルス積分を行う場合を示したが、探知距離別記憶部の全体のパルス応答データが、直前のパルス積分に利用された全てのパルス応答データと異なるものに更新された時点で新たなパルス積分処理を行うようにしてもよい。このような処理を用いることで、パルス積分処理回数を低減することができる。
【符号の説明】
【0049】
11−レーダ装置、12−送信部、13−DPX、14−アンテナ、15−受信部、51−受信データ記憶部、52−パルス積分部、53−画像データ生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なるパルス幅からなる複数種類のパルス信号を所定の送信パターンで順次送信する送信部と、
各パルス信号に対するパルス応答データを、前記パルス信号の種類毎に所定回数分記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶されたパルス応答データを前記パルス信号の種類毎にパルス積分するパルス積分部と、
前記パルス積分した結果を用いてレーダ画像を生成する画像生成部と、を備えたレーダ装置。
【請求項2】
前記記憶部は、前記パルス信号の種類毎に区分された複数の探知距離別記憶部を備え、
各探知距離別記憶部は、新たなパルス応答データが記憶される際に、当該新たなパルス応答データを含む時間的に最新側の前記所定回数分のパルス応答データを、各パルス応答データの時間的配列が識別できるように更新記憶し、
前記パルス積分部は、前記更新記憶が行われる毎に、前記新たなパルス応答データを含む特定個数のパルス応答データを用いてパルス積分を行う、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記記憶部は、前記パルス信号の種類別に区分された複数の探知距離別記憶部を備え、
該探知距離別記憶部は、前記パルス信号の種類毎にそれぞれ異なる回数分のパルス応答データを記憶し、
前記パルス積分部は、前記探知距離別記憶部に記憶されたパルス応答データを用いて前記パルス信号の種類毎にパルス積分する、請求項1に記載のレーダ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−203941(P2010−203941A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50357(P2009−50357)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】