説明

レーダ装置

【課題】目標角度を正確に計測することのできるレーダ装置を得る。
【解決手段】互いに異なる条件で観測した複数チャネルにおいて、それぞれ和信号と差信号とを観測する多チャネルモノパルス信号観測手段と、複数チャネルの信号にフィルタ処理を適用することにより、和信号および差信号に含まれる背景の不要信号をそれぞれ抑圧するフィルタ手段2a、2bと、フィルタ手段2a、2bにより背景の不要信号が抑圧された信号に対して閾値判定処理を適用し、目標の存在するレンジセルを検出する目標検出手段3と、目標検出手段3により検出された目標の存在するレンジセルにおいて、背景の不要信号を抑圧した和信号および差信号を用いたモノパルス測角処理を適用し、目標角度を計測する多チャネルモノパルス測角手段4と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、小目標の測角方式を実装したレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、レーダを用いた目標の測角方式はよく知られている(たとえば、非特許文献1参照)。
非特許文献1に記載のモノパルス測角方式は、指向方向の異なる2つのアンテナで計測した信号の和および差を利用して、レーダのボアサイトに対する目標角度を計測するものである。
【0003】
具体的には、目標角度に応じて、2つのアンテナで計測した信号の和と差との比率がどのような値となるかを、あらかじめ算出してテンプレートとして保存しておき、計測時に実際に得られた和信号と差信号との比率を、該テンプレートと比較することによって、目標角度を計測する方式である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S.M.Sherman,「Monopulse Principles and Techniques,」Artech House Inc.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、目標の測角を目的とした上記非特許文献1に記載のモノパルス測角方式においては、測角対象のレンジにおいて、目標以外の信号が存在しないことが前提となっているので、クラッタやジャミングなど背景の不要な信号の影響によって、目標角度の計測精度が低下するという課題があった。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、観測条件を種々に変化させた多チャネル信号を観測し、得られた多チャネル信号に対してフィルタ処理を適用し、クラッタやジャミングなどの背景の不要な信号を抑圧しつつ、フィルタ出力信号を用いてモノパルス測角処理を行うことにより、目標角度を正確に計測することのできるレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係るレーダ装置は、互いに異なる条件で観測した複数チャネルにおいて、それぞれ和信号と差信号とを観測する多チャネルモノパルス信号観測手段と、複数チャネルの信号にフィルタ処理を適用することにより、和信号および差信号に含まれる背景の不要信号をそれぞれ抑圧するフィルタ手段と、フィルタ手段により背景の不要信号が抑圧された信号に対して閾値判定処理を適用し、目標の存在するレンジセルを検出する目標検出手段と、目標検出手段により検出された目標の存在するレンジセルにおいて、背景の不要信号を抑圧した和信号および差信号を用いたモノパルス測角処理を適用し、目標角度を計測する多チャネルモノパルス測角手段と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、観測条件の異なる多チャネル信号を観測して得られた多チャネル信号に対してフィルタ処理を適用して、背景の不要な信号を抑圧しつつ、フィルタ出力信号を用いてモノパルス測角処理を行うことにより、目標角度を正確に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1内の多チャネルモノパルス信号観測手段の具体的構成を示すブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置の動作を説明するための機能ブロック図である。
【図4】この発明の実施の形態2による動作を説明するための機能ブロック図である。
【図5】この発明の実施の形態2による他の動作例を説明するための機能ブロック図である。
【図6】この発明の実施の形態3に係るレーダ装置の多チャネルモノパルス信号観測手段の構成を示すブロック図である。
【図7】この発明の実施の形態3によるモノパルスアンテナの各時刻の動作モードを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係るレーダ装置の概略構成を示すブロック図である。
図1において、レーダ装置は、多チャネルモノパルス信号観測手段1と、フィルタ手段2と、目標検出手段3と、多チャネルモノパルス測角手段4とを備えている。
【0011】
図2は図1内の多チャネルモノパルス信号観測手段1の具体的構成を示すブロック図である。
図2において、多チャネルモノパルス信号観測手段1は、送信機5と、送受切換器6と、モノパルスアンテナ7a、7b、7cと、受信機8a、8b、8cとを備えている。
【0012】
図3は図1に示したレーダ装置の動作を説明するための機能ブロック図である。
図3において、フィルタ手段2は、Σ(和信号)チャネルおよびΔ(差信号)チャネルに対応した2つのフィルタ手段2a、2bを備えている。
【0013】
目標検出手段3は、電力算出手段3aと、閾値判定手段3bとを備えている。
多チャネルモノパルス信号観測手段1の出力信号は、Σチャネルにおけるレンジプロフィールデータ100aと、Δチャネルにおけるレンジプロフィールデータ100bとを含む。
各レンジプロフィールデータ100a、100bの複数のセル(1、2、・・・、N)は、微小時間ごとの観測値に対応し、全体で1回の観測時間に対応する。
【0014】
Σチャネルにおける注目セル101aは、フィルタ手段2aに送られ、Δチャネルにおける注目セル101bは、フィルタ手段2bに送られる。
ここでは、各レンジプロフィールデータ100a、100bのn番目のセルが、注目セル101a、101bとして選択された場合を示している。
【0015】
次に、図1〜図3を参照しながら、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置の動作について説明する。
まず、多チャネルモノパルス信号観測手段1は、複数チャネル分のモノパルス信号を観測する。
【0016】
ここで、チャネルとは、観測条件を種々に変化させて観測した信号のうち、同じ条件で観測したひとまとめの信号を指す。たとえば、送信の中心周波数を変化させて複数の周波数帯で観測した場合は、各周波数帯で観測した信号が、それぞれ1チャネル分の信号に相当する。
【0017】
同様に、パルスを複数回送受信して得られる観測信号のうち、1パルス分の信号を1チャネルと見なしてもよいし、アレイ状に配された複数素子(アンテナ)のうちの1素子分の信号、または、異なる送受偏波の組み合わせのうちの1つの組み合わせなどを指して1チャネルと呼んでもよい。
以下、この発明の実施の形態1においては、アレイ状に配された複数素子(アンテナ)を用いて観測することを前提とし、1素子分の信号をチャネルと呼ぶこととする。
【0018】
まず、図2を参照しながら、多チャネルモノパルス信号観測手段1の動作について説明する。
送信機5から生成されたパルス信号は、送受切換器6を介してモノパルスアンテナ7aに送られ、モノパルスアンテナ7aから空間に放射される。
空間に放射されたパルス信号は、観測対象によって散乱され、観測対象で散乱された散乱波は、モノパルスアンテナ7a、7b、7cによりそれぞれ受信される。
【0019】
モノパルスアンテナ7a、7b、7cは、それぞれ、ビーム指向方向が若干異なる2つのアンテナ(図示せず)により構成されており、これら2つのアンテナで受信した各信号の加算結果である和信号と、各信号の減算差分結果である差信号とを出力する。
【0020】
モノパルスアンテナ7a、7b、7cの各受信信号は、それぞれ、個別の受信機8a、8b、8cに送られる。
各受信機8a、8b、8cは、モノパルスアンテナ7a、7b、7cが受信した散乱波の受信信号(和信号および差信号)のそれぞれに対して、位相検波処理およびA/D変換処理を施し、それぞれの受信信号の振幅および位相を示すデジタル受信信号を出力する。
【0021】
なお、図2においては、モノパルスアンテナ数が「3」であるが、モノパルスアンテナ数は、複数であればいくつに設定されてもよい。
ここで、受信機8a、8b、8cによって出力される和信号および差信号のレンジプロフィールを定式化して示すと、以下の式(1)、式(2)のように表される。
【0022】
【数1】

【0023】
ただし、式(1)において、
【数2】

は、それぞれ受信機8a、8b、8cによって出力される和信号である。
また、式(2)において、
【数3】

は、それぞれ受信機8a、8b、8cによって出力される差信号である。
さらに、式(1)、式(2)において、
【数4】

は、それぞれレンジセル番号n(n=1、2、・・・、N)のレンジセルにおける和信号と差信号とをまとめてベクトル表示したものである。
【0024】
次に、図3を参照しながら、フィルタ手段2、目標検出手段3および多チャネルモノパルス測角手段4の動作について説明する。
図3において、Σチャネルにおけるレンジプロフィールデータ100aと、Δチャネルにおけるレンジプロフィールデータ100bとは、それぞれ、前述の和信号のレンジプロフィール
【数5】

と、差信号のレンジプロフィール
【数6】

とに他ならない。
フィルタ手段2a、2bは、
【数7】

に対してフィルタ処理を適用する。
具体的な処理方法としては、以下の式(3)、式(4)に示す通り、フィルタ係数行列Fnを乗算する処理となる。
【0025】
【数8】

【0026】
ただし、式(3)、式(4)において、n=1、2、・・・、Nである。
ここで適用するフィルタ処理は、クラッタやジャミングなどの不要成分を抑圧するためのフィルタ処理であり、背景の環境に応じてどのようなフィルタ処理を適用してもよい。ここでは、
【数9】

の両方に同じフィルタ処理を適用している点が重要である。
【0027】
フィルタ手段2aの出力信号
【数10】

は、目標検出手段3に送られる。
目標検出手段3においては、まず、電力算出手段3aにより、
【数11】

が、以下の式(5)により算出される。
【0028】
【数12】

【0029】
電力算出手段3aにより計算された
【数13】

は、閾値判定手段3bに送られる。
閾値判定手段3bは、信号電力
【数14】

をあらかじめ設定した閾値Tと比較し、目標の有無を示す比較結果を、以下の式(6)のように得る。
【0030】
【数15】

【0031】
そして、信号電力
【数16】

が閾値Tの値を越えるレンジセルの番号を、目標検出セルの番号として出力する。
【0032】
ここで、検出の閾値Tは、要求される誤警報確率から決まる値である。
最後に、多チャネルモノパルス測角手段4は、目標検出手段3により目標が検出されたセルについて、モノパルス測角処理を適用してその目標の角度を計測し、測角結果を出力する。
ただし、ここでは、各チャネルにおける和パターンと差パターンとが一致していることを前提条件とする。
【0033】
次に、多チャネルモノパルス測角手段4におけるモノパルス測角処理について、さらに具体的に説明する。
まず、目標検出手段3により目標が検出されたセルについて、以下の式(7)からモノパルスの角度誤差電圧
【数17】

を算出する。
【0034】
【数18】

【0035】
ただし、式(7)において、上付き英字「H」は、行列またはベクトルの共役転置を表している。
続いて、式(7)の演算結果と、あらかじめ算出したモノパルスの角度誤差電圧パターンVm(θ)と比較することにより、目標角度を推定する。
すなわち、目標角度の推定値θ^は、以下の式(8)により得られる。
【0036】
【数19】

【0037】
ただし、式(8)において、
【数20】

は、モノパルスの角度誤差電圧パターンVm(θ)の逆関数を表す。
多チャネルモノパルス測角手段4は、このようにして得られた目標角度の推定値θ^を測角結果として出力する。
【0038】
ここで、モノパルスの角度誤差電圧パターンVm(θ)については、事前に算出しておく必要がある。
具体的には、和信号および差信号のアンテナパターンΣ(θ)、Δ(θ)を事前に計測し、以下の式(9)により、モノパルスの角度誤差電圧パターンVm(θ)を算出する。
【0039】
【数21】

【0040】
ただし、式(9)において、εは和信号と差信号との位相差である。
なお、モノパルスの角度誤差電圧
【数22】

を角度誤差電圧パターンVm(θ)と比較して測角する方法は、従来のモノパルス方式と同一であり、たとえば、前述の非特許文献1などに記された公知技術である。
【0041】
この発明の実施の形態1においては、ベクトル量であるフィルタ出力
【数23】

を用いてモノパルス測角を行うために、角度誤差電圧
【数24】

を算出する処理が特徴であり、従来のモノパルス方式では実現できない処理である。
以下、この発明の実施の形態1による正確な目標角度の計測処理について説明する。
すなわち、フィルタ出力
【数25】

を用いて、式(7)から角度誤差電圧
【数26】

を算出し、式(8)からモノパルス測角を行うことにより、目標角度を正しく計測できることを説明する。
【0042】
まず、目標(ここでは、点目標を仮定する)が、ボアサイトから角度θの位置にある場合には、位相検波後の
【数27】

は、以下の式(10)、式(11)のように表される。
【0043】
【数28】

【0044】
ただし、式(10)、式(11)において、kは目標の特性を表す散乱ベクトルである。また、送信パターンは、和パターンと一致することとする。
フィルタ手段2a、2bにおいて、和信号および差信号に同じフィルタFを適用した場合の出力は、以下の式(12)のように表される。
【0045】
【数29】

【0046】
式(12)の演算結果を前述の式(7)に代入すると、モノパルスの角度誤差電圧Vmは、以下の式(13)、式(14)の関係を満たすことが分かる。
【0047】
【数30】

【0048】
したがって、式(14)と式(9)とを比較すると、各チャネルのビームパターンが一致する場合には、式(7)および式(8)の処理により、モノパルス測角が成立することが明らかである。
【0049】
以上のように、この発明の実施の形態1(図1〜図3)に係るレーダ装置は、互いに異なる条件で観測した複数チャネルにおいて、それぞれ和信号と差信号とを観測する多チャネルモノパルス信号観測手段1と、複数チャネルの信号にフィルタ処理を適用することにより、和信号および差信号に含まれる背景の不要信号をそれぞれ抑圧するフィルタ手段2と、フィルタ手段2により背景の不要信号が抑圧された信号に対して閾値判定処理を適用し、目標の存在するレンジセルを検出する目標検出手段3と、目標検出手段3により検出された目標の存在するレンジセルにおいて、背景の不要信号を抑圧した和信号および差信号を用いたモノパルス測角処理を適用し、目標角度を計測する多チャネルモノパルス測角手段4と、を備えている。
【0050】
また、多チャネルモノパルス信号観測手段1は、複数のモノパルスアンテナ7a〜7cと、複数のモノパルスアンテナ7a〜7cの少なくとも1つ(モノパルスアンテナ7a)に接続された送受切換器6と、送受切換器6に接続された送信機5と、複数のモノパルスアンテナ7a〜7cのそれぞれに接続された受信機8a〜8cと、を備えている。
【0051】
さらに、多チャネルモノパルス測角手段4は、式(7)から得られた角度誤差電圧を、あらかじめ算出したモノパルスの角度誤差電圧パターンVm(θ)と比較することにより、目標の角度を推定する。
ここで、多チャネルモノパルス信号観測手段1により観測された多チャネルの和信号および差信号に対して、フィルタ手段2によりフィルタ係数Fn(n=1、2、・・・、N)が乗算された後の出力信号は、式(3)、式(4)で表される。
【0052】
このように、観測条件を種々に変化させた多チャネル信号を観測し、得られた多チャネル信号の和信号および差信号にフィルタ処理を適用することにより、クラッタやジャミングなど背景の不要な信号成分を抑圧しつつ、フィルタ出力信号を用いてモノパルス測角を行うことができる。
これにより、目標角度を正確に計測することができ、小目標の目標角度の推定精度を向上させることができるという効果を奏する。
【0053】
なお、この発明の実施の形態1において、モノパルスアンテナ7a、7b、7cを、それぞれ、指向方向の若干異なる2つのアンテナで構成したが、2つ以上のアンテナで構成しても、同様の処理が可能である。
たとえば、一般的に、エレベーション方向とアジマス方向との角度を計測するために、4つのアンテナで構成されるモノパルスアンテナがよく用いられるが、このようなモノパルスアンテナを用いても、同様の処理が可能であることは明らかである。
【0054】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態1では、言及しなかったが、図4のように、フィルタ係数Fnを生成するフィルタ生成手段9aを追加してもよい。
図4はこの発明の実施の形態2に係るレーダ装置の動作を説明するための機能ブロック図であり、前述(図3参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して詳述を省略する。なお、この発明の実施の形態2に係るレーダ装置および多チャネルモノパルス信号観測手段1の構成は、図1および図2に示した通りである。
【0055】
図4において、フィルタ手段2は、ΣチャネルおよびΔチャネルに対応したフィルタ手段2a、2bに加えて、フィルタ生成手段9aを備えている。
フィルタ生成手段9aは、Σチャネルにおける参照セル102に基づいてフィルタ係数Fnを生成し、各フィルタ手段2a、2bに入力する。
【0056】
前述の実施の形態1においては、フィルタ手段2でクラッタやジャミングなどの不要な信号成分を抑圧するために用いるフィルタ係数Fnの与え方については言及していない。
クラッタやジャミングの性質があらかじめ予測できる場合には、前述の実施の形態1のように、フィルタ係数Fnをあらかじめ設定しても問題ないが、一般に、クラッタやジャミングの性質が既知であることは少ない。
【0057】
そこで、この発明の実施の形態2においては、フィルタ生成手段9aにより、注目レンジセル(注目セル101a)の近傍に位置する参照レンジセル(参照セル102)の信号を用いて、フィルタ係数を算出する。
すなわち、フィルタ生成手段9aは、注目セル(test cell)101aの近傍の複数の参照セル(reference cell)102の和信号
【数31】

を用いて、以下の式(15)により背景信号共分散行列Cnを推定する。
【0058】
【数32】

【0059】
ただし、式(15)において、
【数33】

は、m番目のレンジセルの和信号である。また、nは注目セル101a、101bのセル番号であり、
【数34】

は、参照セル番号の集合を表し、Nrは参照セル102の数を表している。
【0060】
続いて、式(15)により推定された背景信号共分散行列Cnを用いて、フィルタ係数Fnを算出する。たとえば、フィルタ係数Fnを以下の式(16)から算出すると、背景信号を白色化するフィルタを生成することができる。
【0061】
【数35】

【0062】
または、背景信号共分散行列Cnとその固有値展開とを用いて、以下の式(17)からフィルタ係数Fnを算出すると、背景信号の最も強い成分を抑圧するノッチフィルタを生成することができる。
【0063】
【数36】

ただし、式(17)において、
【数37】

は、背景信号共分散行列Cnの固有値であり、Vは対応する固有ベクトルを列とする行列である。すなわち、背景信号共分散行列Cnは、以下の式(18)のように対角化することができるものとする。
【0064】
【数38】

【0065】
また、いずれか1チャネルのみについて、背景信号の影響が小さいことが判明した場合には、対応するチャネルの信号のみを用いて、検出および測角処理を行うことが望ましいので、以下の式(19)に示すようなフィルタを生成してもよい。
【0066】
【数39】

【0067】
ただし、式(19)においては、背景信号の影響の小さいチャネル(背景信号の最も弱いチャネル)に対応する要素のみを「1」としており、式(19)は、チャネル「1」において背景信号の影響が小さかった場合のフィルタ係数Fnを表している。
【0068】
なお、図4の構成においては、フィルタ生成手段9aにより、Σチャネル(和信号)の参照セル102のみに基づいてフィルタ係数Fnを生成したが、図5に示すように、フィルタ生成手段9bにより、和信号の参照セル102aのみならず、Δチャネル(差信号)の参照セル102bも用いて背景信号共分散行列Cnを推定し、フィルタ係数Fnを生成するように構成してもよい。
【0069】
以上のように、この発明の実施の形態2(図1、図2、図4、図5)に係るレーダ装置は、フィルタ手段2a、2bが不要信号を抑圧するために用いるフィルタ係数Fnを算出するためのフィルタ生成手段9a(または、9b)を備えている。
【0070】
フィルタ生成手段9a(または、9b)は、注目セル101a(または、101a、101b)近傍の複数の参照セル102(または、102a、102b)の信号を用いて背景信号共分散行列Cnを推定し、背景信号共分散行列Cnに基づいてフィルタ係数Fnを決定する。
【0071】
フィルタ生成手段9a(図4)は、多チャネルモノパルス信号観測手段1からの和信号(Σチャネル)のみを用いて、背景信号共分散行列Cnを推定する。
また、フィルタ生成手段9b(図5)は、多チャネルモノパルス信号観測手段1からの和信号および差信号(ΣチャネルおよびΔチャネル)を用いて、背景信号共分散行列Cnを推定する。
【0072】
フィルタ生成手段9a(または、9b)は、フィルタ係数Fnとして、背景信号を白色化するフィルタ係数を、背景信号共分散行列Cnに基づき、式(16)により生成する。
または、フィルタ生成手段9a(または、9b)は、フィルタ係数Fnとして、背景信号の最も強い成分を抑圧するフィルタ係数を、背景信号共分散行列Cnに基づいて、式(17)により生成する。ここで、λ2≧λ3は、背景信号共分散行列Cnの固有値であり、Vは対応する固有ベクトルを列とする行列である。
【0073】
または、フィルタ生成手段9a(または、9b)は、背景信号の最も弱いチャネル(背景信号の影響が小さいチャネル)を判別し、判別されたチャネルのみを選択するフィルタ係数Fを生成する。
【0074】
このように、注目セル101a(または、101b)近傍の参照セル102(または、102a、102b)の情報を用いて、クラッタやジャミングなどの不要信号成分を推定したうえで、フィルタを構成することができる。
これにより、周囲の環境に適応してクラッタやジャミングなどの不要信号成分を抑圧するフィルタを構成したレーダ装置を実現することができる。
【0075】
実施の形態3.
なお、上記実施の形態1、2では、図2の構成からなる多チャネルモノパルス信号観測手段1を用いた場合を前提として説明したが、図6のように、送信アンテナ切換型(多偏波型)の多チャネルモノパルス信号観測手段1Aを用いてもよい。
【0076】
図6はこの発明の実施の形態3に係るレーダ装置の多チャネルモノパルス信号観測手段1Aの構成を示すブロック図であり、前述(図2参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して、または符号の後に「A」を付して詳述を省略する。なお、この発明の実施の形態3に係るレーダ装置の構成は、図1に示した通りである。
【0077】
図6において、送信アンテナ切換型(多偏波型)の多チャネルモノパルス信号観測手段1Aは、複数のモノパルスアンテナ7a、7bと、モノパルスアンテナ7a、7bに接続された複数の送受切換器6a、6bと、送受切換器6a、6bに接続されたアンテナ切換器10と、アンテナ切換器10に接続された送信機5Aと、送受切換器6a、6bを介してモノパルスアンテナ7a、7bに接続された複数の受信機8a、8bと、を備えている。
【0078】
前述の実施の形態1、2(図2)における送信機5は、モノパルスアンテナ7aのみに接続されていたが、この発明の実施の形態3(図6)における送信機5Aは、アンテナ切換器10および送受切換器6a、6bを介して、複数のモノパルスアンテナ7a、7bに接続されている。
なお、図6では、2個のモノパルスアンテナ7a、7bのみが示されているが、任意数のモノパルスアンテナが接続され得ることは言うまでもない。
【0079】
送信機5Aには、アンテナ切換器10および送受切換器6a、6bを介して、それぞれ、モノパルスアンテナ7a、7bが接続される。
モノパルスアンテナ7a、7bには、それぞれ、送受切換器6a、6bを介して、受信機8a、8bが接続される。
【0080】
次に、図6に示したこの発明の実施の形態3による動作について説明する。
まず、送信機5Aが第1のパルス信号を生成すると、アンテナ切換器10は、第1のパルス信号を、モノパルスアンテナ7a側の送受切換器6aに送る。
これにより、第1のパルス信号は、送受切換器6aを介して、モノパルスアンテナ7aから空間に放射される。
【0081】
空間に放射された第1のパルス信号は、観測対象によって散乱され、観測対象で散乱された第1の散乱波は、モノパルスアンテナ7a、7bでそれぞれ受信される。
モノパルスアンテナ7a、7bで受信された各受信信号は、送受切換器6a、6bを介して、それぞれ受信機8a、8bに送られる。
【0082】
受信機8a、8bは、モノパルスアンテナ7a、7bが受信した第1の散乱波の受信信号のそれぞれに対して、位相検波処理およびA/D変換処理を施し、それぞれの受信信号の振幅および位相を示すデジタル受信信号を出力する。
【0083】
次に、送信機5Aが第2のパルス信号を生成すると、アンテナ切換器10は、第2のパルス信号を、モノパルスアンテナ7b側の送受切換器6bに送る。
これにより、第2のパルス信号は、送受切換器6bを介して、モノパルスアンテナ7bから空間に放射される。
【0084】
以下、前述と同様に、観測対象で散乱された第2の散乱波は、モノパルスアンテナ7a、7bでそれぞれ受信され、送受切換器6a、6bを介して、それぞれ受信機8a、8bに送られる。
受信機8a、8bは、第2の散乱波の受信信号に対して、同様の処理を繰り返し実行することにより、振幅および位相を示すデジタル受信信号を得る。
【0085】
図7はこの発明の実施の形態3による上記動作を示す説明図であり、モノパルスアンテナ7a、7bの各時刻での動作モードを示している。
【0086】
図7において、インターバルτ1には、第1のパルス信号の送信期間t1と、第1の散乱波の受信期間t2と、第2のパルス信号の送信期間t3と、第2の散乱波の受信期間t4とが示されている。続くインターバルτ2においても、同様のシーケンスが繰り返される。
【0087】
各インターバルτ1、τ2は、4チャネル分の受信信号の一組を得るために要する動作のひとまとめに相当する。
図7に示した観測例によれば、2つのモノパルスアンテナ7a、7b(送受信アンテナ)の組み合わせにより、1つのインターバルτ1(または、τ2)の受信期間t2、t4において、4チャネル分の信号が得られることが分かる。
【0088】
以上のように、この発明の実施の形態3(図1、図6、図7)に係るレーダ装置の多チャネルモノパルス信号観測手段1Aは、複数のモノパルスアンテナ7a、7bと、送信機5Aと、送信機5Aから生成されたパルスを複数のモノパルスアンテナ7a、7bに順番に供給するためのアンテナ切換器10と、アンテナ切換器10と複数のモノパルスアンテナ7a、7bとの間にそれぞれ挿入された送受切換器6a、6bと、送受切換器6a、6bを介して複数のモノパルスアンテナ7a、7bのそれぞれに接続された受信機8a、8bとを備えている。
【0089】
このように、アンテナ切換器10および送受切換器6a、6bを介して、送信機5Aを複数のモノパルスアンテナ7a、7bのそれぞれに接続することにより、送信条件を変更しながら複数チャネルの信号を観測することができる。
したがって、観測のチャネル数を増加することができるので、クラッタやジャミングなどの不要な信号成分の抑圧効果が向上し、測角精度をさらに向上させることができる。
【符号の説明】
【0090】
1、1A 多チャネルモノパルス信号観測手段、2、2a、2b フィルタ手段、3 目標検出手段、4 多チャネルモノパルス測角手段、5、5A 送信機、6、6a、6b 送受切換器、7a、7b、7c モノパルスアンテナ、8a、8b、8c 受信機、9a、9b フィルタ生成手段、100a、100b レンジプロフィールデータ、101a、101b 注目セル、102、102a、102b 参照セル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる条件で観測した複数チャネルにおいて、それぞれ和信号と差信号とを観測する多チャネルモノパルス信号観測手段と、
前記複数チャネルの信号にフィルタ処理を適用することにより、前記和信号および前記差信号に含まれる背景の不要信号をそれぞれ抑圧するフィルタ手段と、
前記フィルタ手段により前記背景の不要信号が抑圧された信号に対して閾値判定処理を適用し、目標の存在するレンジセルを検出する目標検出手段と、
前記目標検出手段により検出された前記目標の存在するレンジセルにおいて、前記背景の不要信号を抑圧した和信号および差信号を用いたモノパルス測角処理を適用し、目標角度を計測する多チャネルモノパルス測角手段と
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記多チャネルモノパルス信号観測手段は、
複数のモノパルスアンテナと、
前記複数のモノパルスアンテナの少なくとも1つに接続された送受切換器と、
前記送受切換器に接続された送信機と、
前記複数のモノパルスアンテナのそれぞれに接続された受信機と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記多チャネルモノパルス信号観測手段は、
複数のモノパルスアンテナと、
送信機と、
送信機から生成されたパルスを前記複数のモノパルスアンテナに順番に供給するためのアンテナ切換器と、
前記アンテナ切換器と前記複数のモノパルスアンテナとの間にそれぞれ挿入された送受切換器と、
前記送受切換器を介して前記複数のモノパルスアンテナのそれぞれに接続された受信機と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記多チャネルモノパルス測角手段は、次式
【数1】

から得られた角度誤差電圧
【数2】

を、あらかじめ算出したモノパルスの角度誤差電圧パターンVm(θ)と比較することにより、前記目標の角度を推定し、ここで、
【数3】

は、前記多チャネルモノパルス信号観測手段により観測された多チャネルの和信号
【数4】

および差信号
【数5】

に対して、前記フィルタ手段によりフィルタ係数Fが乗算された後の出力信号であり、次式
【数6】

で表される、
ことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記フィルタ手段が不要信号を抑圧するために用いるフィルタ係数を算出するためのフィルタ生成手段を有し、
前記フィルタ生成手段は、注目セル近傍の複数の参照セルの信号を用いて背景信号共分散行列を推定し、前記背景信号共分散行列に基づいてフィルタ係数を決定する、
ことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記フィルタ生成手段は、前記多チャネルモノパルス信号観測手段からの和信号のみを用いて、前記背景信号共分散行列を推定する、
ことを特徴とする請求項5に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記フィルタ生成手段は、前記多チャネルモノパルス信号観測手段からの和信号および差信号を用いて、前記背景信号共分散行列を推定する、
ことを特徴とする請求項5に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記フィルタ生成手段は、前記フィルタ係数として、背景信号を白色化するフィルタ係数Fを、前記背景信号共分散行列Cに基づき、次式
【数7】

により生成することを特徴とする請求項5から請求項7までのいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記フィルタ生成手段は、前記フィルタ係数として、背景信号の最も強い成分を抑圧するフィルタ係数Fを、前記背景信号共分散行列Cに基づいて、次式
【数8】

により生成し、ここで、
【数9】

は前記背景信号共分散行列Cの固有値であり、Vは対応する固有ベクトルを列とする行列である、
ことを特徴とする請求項5から請求項7までのいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記フィルタ生成手段は、背景信号の最も弱いチャネルを判別し、判別された前記チャネルのみを選択するフィルタ係数Fを生成することを特徴とする請求項5から請求項7までのいずれか1項に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−223895(P2010−223895A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74156(P2009−74156)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】