説明

レーダ装置

【課題】レーダの反射波が飽和していても物標を適正に探知可能にすることを課題とする。
【解決手段】電波の反射波で物標を探知するレーダ装置1であって、反射波を受信する信号処理部10と、信号処理部10から得た信号をフーリエ変換して物標を探知する演算処理部2と、を備え、演算処理部2は、信号処理部10から得た信号の波形の一部が飽和している場合、飽和していない有効な部分の波形に基づいて生成した近似式を使って飽和している部分を補間し、波形を補間した信号をフーリエ変換して物標を探知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子工学の発展に伴い、レーダを使った技術の開発が盛んに行われている。例えば、車両の分野においては、車両前方や後方の障害物をレーダで探知し、衝突を未然に防ぐ技術の研究開発が盛んに行われており、特許文献1には、受信した反射波が強く、処理回路のダイナミックレンジを超えた場合に入力の振幅を補正するレーダ技術が開示されている。また、特許文献2には突発性のノイズの影響を軽減して距離測定を確実に行う技術が開示されている。また、特許文献3や4には、入力信号が飽和したか否かを検出する技術が開示されている。また、特許文献5には、入力信号の最大値が上限値となるように正規化したのち、演算処理する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−134266号公報
【特許文献2】特開平7−110373号公報
【特許文献3】特開2001−22544号公報
【特許文献4】特開2000−147087号公報
【特許文献5】特開2000−147101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーダを使った障害物等の物標の探知において、物標からの反射波が強い場合、装置内の回路で処理可能な信号強度の範囲を超えて波形が飽和してしまうことがある。波形の一部が飽和した信号をフーリエ変換すると、物標による周波数ピークの他に、この周波数の整数倍の周波数ピークが波形の一部飽和により得られてしまう。このような整数倍の周波数ピークとして表れるいわゆる倍波は、基準波が示す実在の物標と比較して距離、相対速度が整数倍の物標の存在を偽って示すことになり、実在する物標を探知する際に障害となる。本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、レーダの反射波が飽和していても物標を適正に探知可能にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明では、波形の一部が飽和している場合は補間したのちにフーリエ変換することにした。
【0006】
詳細には、電波の反射波で物標を探知するレーダ装置であって、前記反射波を受信する信号処理部と、前記信号処理部から得た信号をフーリエ変換して前記物標を探知する演算処理部と、を備え、前記演算処理部は、前記信号処理部から得た信号の波形の一部が飽和している場合、飽和していない有効な部分の波形に基づいて生成した近似式を使って飽和している部分を補間し、波形を補間した信号をフーリエ変換して前記物標を探知する。
【0007】
波形の一部が飽和している場合に、飽和している部分の波形を飽和していない有効な部分の波形に基づいてフーリエ変換前に予め補間してやることにより、波形が飽和している部分の周波数ピークが現れなくなる。よって、回路のダイナミックレンジに起因する倍波が現れなくなり、物標を適正に探知することが可能になる。なお、波形が飽和しているか否かは、例えば、前記信号処理部から得た信号の強度が、該信号処理部が処理可能な信号
強度の上限に近い所定強度であるか否かによって判定することができる。ここで、所定強度とは、波形が飽和していないときの信号強度であり、例えば、回路のダイナミックレンジを飽和しない範囲内で最大の信号強度よりもやや弱い強度である。
【0008】
ここで、上記演算処理部が波形の補間に際して使う近似式としては、例えば、線形関数、2次関数、代数関数、或いは指数関数によるものを例示できる。これらの関数によれば、波形を十分に補間可能な近似式を得ることができる。また、演算処理部が信号処理部から得る信号とは、例えば、送信波と反射波とを混合したビート信号である。
【発明の効果】
【0009】
レーダの反射波が飽和していても物標を適正に探知可能にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】車載レーダ装置の構成図。
【図2】演算処理回路で実行される処理のフロー図。
【図3】周波数分解処理の内容を示すフロー図。
【図4】車載レーダ装置で処理される波形を示すグラフ。
【図5】ビート信号の一部が飽和した場合の波形を示すグラフ。
【図6】一部が飽和した正弦波を時間領域と周波数領域で示すグラフ。
【図7】補間処理前後の波形を示すグラフ。
【図8】線形近似法による補間処理の概念図。
【図9】2次近似法による補間処理の概念図。
【図10】各近似法によって補間された波形の特徴。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態である車載レーダ装置1の構成図である。車載レーダ装置1は、自動車の前方をレーダで監視し、物標を検知するものであり、車両の前側あるいは後側に取り付けられる。車載レーダ装置1は、図1に示すように、演算処理回路2、三角波生成回路3、FM(Frequency Modulation)変調回路4、送信アンテナ5、受信アンテナ6A〜C、ミキサ7A〜C、アンプ8、及びA/D(Analog/Digital)変換回路9を備える。車載レーダ装置1を構成する機器のうち、演算処理回路2以外の機器が送受信波を処理する信号処理回路10を構成する。車載レーダ装置1は、車両の電源に接続されており、乗員であるユーザが車両のキースイッチを操作して電源をオンにすると、電力の供給を受けて作動する。
【0012】
演算処理回路2は、図示しないCPU(Central Processing Unit)やメモリで構成さ
れており、電力が供給されるとメモリに記録されたコンピュータプログラムを実行することで物標の有無を識別する処理回路である。三角波生成回路3は、演算処理回路2からの指令を受けて三角波の信号を生成する発振回路である。FM変調回路4は、三角波生成回路3が生成した三角波の信号を周波数変調してFM変調波を出力する回路であり、図示しない電圧制御発振器の制御信号に三角波生成回路3の信号波を加えることでFM変調波を生成する。FM変調回路4が生成するFM変調波の中心周波数は、いわゆるミリ波と呼ばれる76GHz帯の周波数である。送信アンテナ5は、FM変調回路4から出力されたFM変調波を送信するアンテナである。受信アンテナ6A〜Cは、物標等で反射したFM変調波の反射波を受信するアンテナである。ミキサ7A〜Cは、受信アンテナ6A〜Cが受信した反射波とFM変調回路4から出力されたFM変調波とを混合して出力する。
【0013】
なお、以下の記述において単に受信アンテナ6という場合は受信アンテナ6A〜Cのそれぞれを指しており、単にミキサ7という場合はミキサ7A〜Cのそれぞれを指しているものとする。アンプ8は、ミキサ7から出力される反射波を増幅する回路である。
【0014】
A/D変換回路9は、アンプ8から出力されるアナログの反射波を数値化してデジタルデータとし、演算処理回路2へ通知する変換回路である。アンプ8及びA/D変換回路9は、受信アンテナ6A〜C及びミキサ7A〜Cで構成される3チャンネルの受信経路の信号をそれぞれ独立に並列処理する。なお、本実施形態では、3チャンネルの受信経路で信号を処理しているが、本発明はこのようなチャンネル数に限定されるものではない。
【0015】
次に、上記車載レーダ装置1で実行される処理について説明する。図2は、演算処理回路2で実行される処理の処理フロー図である。演算処理回路2は、送信アンテナ5から送信されたFM変調波の反射波によって生成される、A/D変換回路9からの信号を取得したら、周波数分解処理(S101)を行って反射波を周波数領域で解析する。周波数分解処理(S101)の詳細については後述する。演算処理回路2は、周波数分解処理(S101)をしたら、処理された反射波の波形から物標を検出する処理(S102)を行なう。
【0016】
なお、演算処理回路2が実行する周波数分解処理(S101)は、次のようにして行われる。図3は、周波数分解処理(S101)の詳細な処理内容を示す処理フロー図である。演算処理回路2は、A/D変換回路9からの信号を取得したら、図3に示すように、この信号の波形が飽和しているか否かの確認処理を行う(S201)。波形が飽和しているか否かの確認処理は、最大出力が所定電圧、例えば5V(ダイナミックレンジの上限に相当する)のアンプ8において、アンプ8からの出力が(5−ε)V(本発明でいう所定強度に相当する)以上の信号が出力されていることを、A/D変換回路9を介して演算処理回路2が検出した場合に、信号が飽和していると判定する。なお、εVは、アンプ8の出力が5Vに達してから補間処理を開始すると処理が間に合わずに倍波が出力されてしまうために設定されるものであり、演算処理回路2の処理能力等に応じて適宜設定される。そして、演算処理回路2は、信号の波形が飽和していれば飽和の補間処理を行い(S202)、信号をフーリエ変換する(S203)。一方、演算処理回路2は、信号の波形が飽和していなければ、信号に補間処理を行わないでフーリエ変換する(S203)。なお、飽和の確認処理(S201)は、A/D変換回路9の出力データの変化が連続してゼロ或いは少ない場合に、信号が飽和していると判定してもよい。
【0017】
上述した処理を実行する演算処理回路2を備える車載レーダ装置1においては、以下のような波形の処理が実現される。図4は、車載レーダ装置1で処理される波形を示すグラフである。三角波生成回路3で生成された三角波がFM変調されて送信アンテナ5から送信され、物標の存在等により受信アンテナ6が反射波を受信すると、ミキサ7は受信した反射波とFM変調回路4の変調波とを混合した信号波(以下、ビート信号という)を出力する。三角波生成回路3が生成する三角波を、図4のグラフ(a)で符号W−SEとして示す。また、ミキサ7が出力するビート信号を、図4のグラフ(b)で符号W−BE−Tとして示す。なお、ミキサ7が出力する信号はFM波が混合されたものであるが、図4のグラフ(b)において示すビート信号W−BE−Tの波形は、理解を容易にするため、FM変調の成分を取り除いた波形を示している。ミキサ7が出力するビート信号W−BE−Tは、アンプ8による増幅やA/D変換回路9による符号化を経て、演算処理回路2に入力される。
【0018】
なお、図4に示す各グラフは、車載レーダ装置1と物標との相対的な距離が変化している場合を例に波形を図示している。三角波を送信波として用い、反射波で物標を特定する場合において、物標とレーダ装置との相対的な距離が変化しているときの送信波(FM変調波)と受信波(反射波)との関係は、図4のグラフ(a)で符号W−SE及び符号W−REとして示される関係になる。送信波W−SEと受信波W−REとの位相差Dtは、物標とレーダ装置との距離に比例して増減する成分であり、送信波W−SEと受信波W−R
Eとの周波数差Dfは、物標とレーダ装置との相対速度に比例して増減する成分である。よって、ミキサ7が出力するビート信号W−BE−Tには、送信した三角波W−SE及び受信した三角波W−REを合成した成分が含まれていることになる。なお、図4で符号Tとして示される成分は三角波生成回路3が生成する三角波の周期であり、符号βとして示される成分は三角波生成回路3が生成する三角波の変調幅である。
【0019】
ここで、演算処理回路2がビート信号W−BE−Tをフーリエ変換(S203)すると、ビート信号W−BE−Tには三角波W−SEと三角波W−REとを合成した成分が含まれているため、図4のグラフ(c)に示されるようなビート周波数W−BE−Fの波形を得ることになる。演算処理回路2は、フーリエ変換(S203)によって得られたビート周波数W−BE−Fのピークを抽出する(S102)。図4のグラフ(c)に示される例では、ピーク周波数f1、f2が抽出される。なお、図4のグラフ(c)に示される周波数f0は、FM変調回路4が出力するFM変調波の中心周波数である。演算処理回路2は、
抽出したピーク周波数f1、f2、及び三角波生成回路3が生成する三角波の周期Tを得たうえで、以下に示される連立方程式を解くことで物標とレーダ装置との相対距離γおよび相対速度νが得られる。
【数1】

なお、上記の数式においてcは光速である。
【0020】
ミキサ7が出力するビート信号W−BE−Tが演算処理回路2で適正に処理されれば、上述した処理により適正な検出結果が得られる。ここで、A/D変換回路9から出力されるビート信号W−BE−Tは、ミキサ7やアンプ8、A/D変換回路9のダイナミックレンジ等の関係で波形の一部が飽和している場合があり得る。図5は、ビート信号W−BE−Tの一部が飽和した場合の波形を示すグラフである。図5のグラフ(b)で示すように、ビート信号W−BE−Tの一部が飽和すると、次のような現象が生じる。一般的に、図6のグラフ(a)に示されるように正弦波の一部が飽和すると、この波形は周波数領域で示すと図6のグラフ(b)のようになる。すなわち、一部が飽和した正弦波は周波数領域において倍波が生じてしまう。このため、一部が飽和したビート信号W−BE−Tをフーリエ変換すると、図5のグラフ(c)で示されるようなビート周波数W−BE−Fが得られてしまう。従って、実際には物標が一つしかなく、受信アンテナ6には受信波W−REが一つしか受信されていないにも関わらず、演算処理回路2においては、図5のグラフ(a)に示されるように、相対距離γが同じで相対速度νが異なるものであることを示す偽りの受信波W−REが存在するように見えてしまう。このため、ビート信号W−BE−Tの一部が飽和しているにも関わらずそのまま周波数分解(S101)を行ってしまうと、その後の処理(S102〜S108)において誤った判定結果を下すことになる。しかしながら、上記車載レーダ装置1によれば、ビート信号W−BE−Tの飽和が確認された場合、次のような補間処理(S202)が行われることにより、図7に示すようにビート信号W−BE−Tの飽和している部分が補間処理によって補間されるため、このような判定の誤りが無くなる。
【0021】
<線形近似法> 補間処理(S202)は、飽和した値の前と後の値を2つずつ用いた線形近似法によって実現される。図8は、本補間処理の概念を示す図である。飽和している部分の前後の2点をそれぞれ(x1、y1)、(x2、y2)とおいたとき、線形関数は以
下の数式によって表される。
【数2】

この関数を飽和している前後で2つ作り、線形近似関数にx(時間)の値を代入してy(パワー)を求め、元の値(飽和点)に近い値を採用する。なお、x(時間)方向は等間隔なので値は判明している。演算処理回路2は、ビート信号W−BE−Tの一部が飽和していることを検知した場合に(S201)、線形近似法による補間処理を実行することで(S202)、偽りの物標の存在を示さないビート周波数W−BE−Fを得ることができるようになる。従って、フーリエ変換後の処理(S102〜S108)において誤った判定結果を下すことが無くなる。
【0022】
<2次近似法> なお、補間処理(S202)は、上述した線形近似法の他、2次近似法によって実現することも可能である。図9は、本補間処理の概念を示す図である。2次近似法は、飽和している部分の前後にある3点を使い、2次関数を作る。2次関数は、以下の数式のように定義できる。
【数3】

但し、この数式においてM、A、B、Cとして表される記号は、以下の数式を意味する。
【数4】

この2次関数に飽和しているx(時間)の値を代入してy(パワー)の値を求め、補間する。なお、このときに代入する3点の値は、x(時間)方向で飽和部分の前後の値であることが望ましいが、飽和部分の前または後ろの何れか側のみでも2次関数の作成は可能である。
【0023】
<代数関数近似法> また、補間処理(S202)は、上述した線形近似法や2次近似法の他、代数関数近似法によって実現することも可能である。代数近似法は、飽和していないすべての点を用いて代数関数を生成する方法である。代数関数とは、以下の数式で示されるものである。
【数5】

具体的な生成方法は以下の通りである。すなわち、飽和していない点を(x1、y1)、(x2、y2)、・・・・(xn、yn)として表した場合、これらの点を通る(n−1)次代数関数を以下の式で表すことができる(クラーメルの公式)。この(n−1)次代数関数に飽和しているx(時間)の値を代入してy(パワー)の値を求め、飽和している部分
を補間する。
【数6】

なお、上記式のM、及びAmは、以下の行列式で定義する値である。
【数7】

【0024】
<指数関数近似法> また、補間処理(S202)は、上述した線形近似法や2次近似法、代数関数近似法の他、指数関数近似法によって実現することも可能である。指数関数近似法は、代数関数近似法と同様の方法であり、具体的には上述した式M、及びAmの式の中のxm(n-1)をexp(i×(n−1)×xm)に置き換える。この方法によって生成
される関数は、以下の数式に示されるものとなる。
【数8】

この数式は、フーリエ級数となっているため、改めてフーリエ変換をする必要がない。なお、この数式でa0〜anとして示されるものがフーリエ変換の値である。
【0025】
上述した各近似法によって補間された波形の特徴を図10に示す。図10(a)が、物標から反射した反射波の波形であり、図10(b)が、ミキサ7やアンプ8、A/D変換回路9のダイナミックレンジ等の関係で一部が飽和した波形である。一部が飽和した波形を上述した線形近似法、或いは2次近似法で補間すると、図10(c1)に示されるような波形の補間がなされる。線形近似法や2次近似法によれば、図10(c1)に示されるように飽和前の波形と形状が若干異なり、精度よく補間されないものの、演算量が少ないので補間処理が容易で短時間にできるといる利点がある。また、代数関数近似法、或いは指数関数近似法で補間すると、図10(c2)に示されるような波形の補間がなされる。代数関数近似法、或いは指数関数近似法によれば、演算量が多いので補完処理が複雑である程度の時間を要するものの、図10(c2)に示されるように飽和前の波形とほとんど同じような形状のものを精度良く補間することができる。線形近似法や2次近似法に比べて、代数関数近似法や指数関数近似法の方が精度よく補間できるのは、前者が飽和前後の
波形を局所的に見て補間処理しているのに対し、後者が飽和前後の波形を全体的に見て補間処理しているためである。
【0026】
上記実施形態に係る車載レーダ装置1によれば、次のような効果がある。すなわち、レーダを使った障害物等の物標の探知において、物標からの反射波が強い場合、装置内の回路で処理可能な信号強度の範囲を超えて波形が飽和してしまうことがある。従来技術であれば、波形の一部が飽和した信号をフーリエ変換すると、物標による周波数ピークの他に、この周波数の整数倍の周波数ピークが波形の一部飽和により得られてしまう。このような整数倍の周波数ピークとして表れるいわゆる倍波は、基準波が示す実在の物標と比較して距離、相対速度が整数倍の物標の存在を偽って示すことになる。ここで、倍波が存在を示す偽りの物標は、基準波が示す実在の物標と比較して整数倍の距離、相対速度となるものの、角度は等しい。そこで、従来は、反射波の周波数ピークから得た複数の物標の距離、相対速度が互いに整数倍の関係にある場合、整数倍の物標に関しては偽りの物標であると判定してその存在を否定判定する処理等を行ったりしていた。しかし、この場合、次のような問題が生じる。第一に、角度が安定しない場合に倍波として判定されず、偽りの物標の存在を誤って肯定判定してしまう場合がある。第二に、基準波と倍波の周波数ピークの乱立により、アップビート信号における反射波の周波数ピークとダウンビート信号における反射波の周波数ピークとの対応付けを誤り、ミスペアしてしまう場合がある。第三に、倍波が存在を示す偽りの物標と同様の動きをしている実在の物標が存在していた場合にその存在が否定判定されてしまう場合がある。第四に、倍波と同一の周波数を持つ物標の反射波が合成されると各アンテナで受信される反射波の位相差が不明となり、角度の検出精度が低下する。これらの問題は、次のような問題に起因する。すなわち、フーリエ変換時に倍波のピークが存在していたこと、基準波同士、倍波同士で連続性をとる前提での対策であったこと、及び「倍波だから」ではなく「倍波と疑わしいため」出力させないという対策であったことに起因する。
【0027】
このような問題は、実在しない物標の存在を誤って肯定判定したり、実在するにも関わらず物標の存在を誤って否定判定したりすることに繋がるため、車両等を制御する機器類へ誤った情報を発信する事になる。しかし、上述した実施形態に係る車載レーダ装置1によれば、フーリエ変換前にビート信号の飽和を解消しているため、車両等を制御する機器類へ誤った情報を発信することがなくなる。具体的には、例えば、実在しない物標の存在を誤って肯定判定したり、アップビート信号の周波数ピークとダウンビート信号の周波数ピークとをミスペアしたり、反射波の位相差が不明となることによる角度の検出精度の低下、実在するにも関わらず倍波によって物標の存在を否定判定したりといったことがことなくなる。
【符号の説明】
【0028】
1・・車載レーダ装置
2・・演算処理回路
3・・三角波生成回路
4・・FM変調回路
5・・送信アンテナ
6A,6B,6C・・受信アンテナ
7A,7B,7C・・ミキサ
8・・アンプ
9・・A/D変換回路
10・・信号処理回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波の反射波で物標を探知するレーダ装置であって、
前記反射波を受信する信号処理部と、
前記信号処理部から得た信号をフーリエ変換して前記物標を探知する演算処理部と、を備え、
前記演算処理部は、前記信号処理部から得た信号の波形の一部が飽和している場合、飽和していない有効な部分の波形に基づいて生成した近似式を使って飽和している部分を補間し、波形を補間した信号をフーリエ変換して前記物標を探知する、
レーダ装置。
【請求項2】
前記演算処理部は、前記信号処理部から得た信号の波形の一部が飽和している場合、飽和していない有効な部分の波形に基づいて生成した線形関数、2次関数、代数関数、又は指数関数の近似式を使って飽和している部分を補間し、波形を補間した信号をフーリエ変換して前記物標を探知する、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記演算処理部は、前記信号処理部から得た信号の強度が、該信号処理部が処理可能な信号強度の上限に近い所定強度の場合、飽和していない有効な部分の波形に基づいて生成した近似式を使って飽和している部分を補間し、波形を補間した信号をフーリエ変換して前記物標を探知する、
請求項1または2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記信号処理部は、送信波と反射波とを混合したビート信号を前記演算処理部へ出力し、
前記演算処理部は、前記信号処理部から得た前記ビート信号の波形の一部が飽和している場合、飽和していない有効な部分の波形に基づいて生成した近似式を使って飽和している部分を補間し、波形を補間したビート信号をフーリエ変換して前記物標を探知する、
請求項1から3の何れか一項に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−2429(P2011−2429A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147875(P2009−147875)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】