説明

レーダ装置

【課題】ターゲットからの応答波の周期とフーリエ変換の周期とを一致させ、ターゲットの検出性能を向上する。
【解決手段】送信回路部5と受信回路部6との間に設けた同期回路部7のパルスウィンドウ同期回路7bでパルス生成回路5cからの送信パルスの送信時刻を取得し、送信パルスを生成するタイミングで直並列変換回路6cからFFT回路6dへのサンプリングデータの供給を開始させる。FFTの窓の終了時刻は、窓の開始時刻から送信パルスの周期分だけ経過した時刻とし、この窓の時間内で、FFT用のサンプルデータを取得し、受信波形を時間軸のデータから周波数軸のデータに変換する。これにより、ターゲットからの応答波の周期とFFTの周期とを一致させ、波形のゆがみを生じることなく生データを周波数領域へ変換することができ、認識性能や距離分解能等のレーダ性能を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットで反射された応答波をフーリエ変換してターゲットを検出するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、レーダ装置は、空間に電波を放射して物体からの反射波を受信し、その受信信号を処理してターゲットの存在や距離を検出する。このようなレーダ装置では、受信信号の周波数スペクトルを用いてターゲットの認識や測距を行うものがあり、受信信号の周波数スペックトルを、FFT(Fast Fourie Transform;高速フーリエ変換)によって取得している。
【0003】
一般に、観測波形のFFT演算は、窓関数を用いて行われる。窓関数は、周期的な観測波形の一部分を切り出してフーリエ変換を行う際に、波形を切り出すウィンドウ(窓)の始端及び終端で生じる不連続点の影響を軽減するために重みをかける等の処理を行い、スペクトルの歪みを抑えるためのものであるが、窓関数処理後のデータには、窓関数処理による直流成分や低周波成分が発生する。
【0004】
このため、特許文献1には、送信信号と受信信号の周波数差に対応する周波数差信号を所定のサンプリング区間でサンプリングして第1のサンプリングデータを生成する共に、サンプリング区間の中央付近に第1の重み、中央付近から端部寄りに第1の重みより小さい第2の重みを重み付けする第1の窓関数処理をして第2のサンプリングデータを求め、第2のサンプリングデータの平均を第1のサンプリングデータから減算し、当該減算結果に対し第1の窓関数処理と同じ窓関数による第2の窓関数処理を行って周波数差信号の周波数検出用データを求めることで、窓関数に起因して周波数差信号のサンプリングデータに含まれる低周波成分を効果的に除去する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−298750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術では、窓関数を用いてFFTを行う場合、観測波形の周期が未知であることから、窓の開始位置は、設計上予め予想される観測波形の周期等から一義的に設定している。このため、実際の観測波形の周期とFFT用データのサンプリング周期とが必ずしも一致せず、不連続点が生じて波形がゆがんでしまい、レーダ性能を低下させる一因となっていた。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、ターゲットからの応答波の周期とフーリエ変換の周期とを一致させ、ターゲットの検出性能を向上することのできるレーダ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明によるレーダ装置は、空間に放射した送信波がターゲットで反射された応答波を受信し、該応答波のデータをフーリエ変換部でフーリエ変換して上記ターゲットを検出するレーダ装置であって、上記送信波の送信タイミングと上記フーリエ変換部に供給するフーリエ変換用データのサンプリング開始タイミングとを同期させ、上記送信波の周期に応じたフーリエ変換のウィンドウ幅を設定するウィンドウ同期部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ターゲットからの応答波の周期とフーリエ変換の周期とを一致させることができ、ターゲットの検出性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】レーダ装置の構成図
【図2】送信波及び応答波とFFTの対象区間との関係を示す説明図
【図3】レーダ装置の使用状況を示す説明図
【図4】複数のターゲットからの応答波と直並列変換及びFFT区間を示す説明図
【図5】FFTによって得られるパワースペクトルを示す説明図
【図6】質感の認識に対する閾値を示す概念図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1に示すレーダ装置1は、自動車等の車両に搭載され、送信アンテナ2と受信アンテナ3とを別体で備えるアンテナ分離式のレーダであり、送信波とターゲットで反射された受信波との時間差に基づいて物体検出及び測距を行うパルスレーダ装置である。尚、本実施の形態においては、本発明をパルスレーダ装置に適用した例について説明するが、本発明はパルスレーダに限定されるものではなく、周波数変調した連続波を送信してターゲットで反射された応答波とのビート信号を取得し、このビート信号の周波数差から物体検出及び測距を行うFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式のレーダ装置にも適用される。
【0012】
本実施の形態のレーダ装置1は、送信アンテナ2からの出力処理及び受信アンテナ3の応答波に対する受信処理を行う送受信フロントエンド部4、送受信フロントエンド部4へ送る送信パルスを生成する送信回路部5、送受信フロントエンド部4からの受信波を処理する受信回路部6、送信回路部5と受信回路部6との同期処理を行う同期回路部7、受信回路6からの信号に基づいて物体の認識処理や距離測定を行う認識処理部8を主要として構成されている。
【0013】
送受信フロントエンド部4は、送信パルスの周波数帯域を送信帯域に変調してインパルス状のレーダ信号を生成し、このインパルス状のレーダ信号を送信アンテナ2から空間に放出する送信側RF(Radio Frequency)フロントエンド4a、ターゲットで反射された応答波を受信アンテナ3を介して取り込み、送信帯域から中間周波数帯へと復調する受信側RFフロントエンド4b、各RFフロントエンド4a,4bへ供給するクロックを発生するクロック発生器4cを備えて構成されている。
【0014】
送信回路部5は、基準クロックを発生するクロック発生器5a、基準クロックから任意の周波数のクロック信号を生成するPLL(Phase Locked Loop)回路5b、PLL回路5bで生成されたクロック信号の立ち上がりで送信パルスを生成するパルス生成回路5cを備えて構成されている。
【0015】
受信回路部6は、受信側RFフロントエンド4bからの中間周波数帯の応答波を、AD変換用の周波数へ復調するインターフェース(IF)6a、復調された応答波に対してAD変換を行うAD変換回路6b、AD変換された時間領域の直列データ(応答波データ)を直並列変換して並列データに並び替える直並列変換回路6c、FFT(Fast Fourier Transform;高速フーリエ変換)演算により時間領域のデータを周波数領域のデータへ変換するFFT回路6d、周波数領域に変換された並列データを直列データに変換する並直列変換回路6eを備えて構成されている。
【0016】
また、レーダ装置1は、送信回路部5と受信回路部6との間に同期回路部7を備えている。この同期回路部7は、PLL回路5bからのクロック周波数を逓倍し、AD変換回路6bのサンプリング周期を送信パルスと同期させる周波数逓倍回路7aと、パルス生成回路5cからの送信パルスをトリガとして受け取り、FFT用の直並列変換回路6cを制御するパルスウィンドウ同期回路7bとを備えて構成されている。
【0017】
以上の構成を有するレーダ装置1は、受信波形の周期とフーリエ変換の周期とを一致させることで、窓関数を要することなくFFTを行うことができる。従来、FFTの窓の開始位置は、設計上予め予想される観測波形の周期等から一義的に設定しており、実際の受信波形の周期とフーリエ変換用データのサンプリング周期との不一致による不連続点が生じて波形がゆがみ、レーダ性能を低下させる一因となっている。
【0018】
これに対して、レーダは、その原理上、レーダ自身が電波を発して、ターゲットで反射された電波を取得するため、ターゲットが静止若しくは静止に近い場合には、受信信号の周期は送信パルスの周期と一致する。従って、本実施の形態においては、送信パルスの送信時刻とFFTを行う窓の開始時刻とを同期させることで、FFTの周期を受信波の周期に一致させ、FFT後の波形のゆがみを抑制して高精度の物体認識や測距を可能としている。
【0019】
具体的には、送信回路部5と受信回路部6との間に設けた同期回路部7のパルスウィンドウ同期回路7bでパルス生成回路5cからの送信パルスの送信時刻を取得し、送信パルスを生成するタイミングで直並列変換回路6cからFFT回路6dへのサンプリングデータの供給を開始させる。また、FFTの窓の終了時刻は、窓の開始時刻から送信パルスの周期分だけ経過した時刻とし、この窓の時間内で、FFT用のサンプルデータを取得し、受信波形を時間軸のデータから周波数軸のデータに変換する。
【0020】
周波数軸のデータに変換された受信波形は、認識処理部8で処理されてターゲットの情報が認識される。認識処理部8では、ターゲットの位置(ターゲットまでの距離)や、水分との金属との相違といったターゲットの質感によるターゲットの種別を認識し、認識結果を図示しない表示装置に出力して運転者への情報提示を行う。ターゲットの種別は、水分と金属との相違等による反射波の周波数成分の相違から、人間、車両等の種別を判定する。
【0021】
次に、レーダ装置1の詳細な動作について図2を用いて説明する。本レーダ装置1は、動作に先立ち、予めFFT回路6dにFFT用のサンプリング数が登録されている。登録されるサンプリング数は、AD変換回路6bのサンプリング時間×サンプリング数によって導き出される時間が送信パルスの周期となるよう設定されている。
【0022】
先ず、図2(a)に示すように、PLL回路5bにてクロックが生成されると、このクロックの立ち上がりで、図2(b)に示すような送信パルスがパルス生成回路5cにて生成され、送信側RFフロントエンド4aに送られる。そして、送信側RFフロントエンド4aで送信帯域に周波数変調されたインパルス状の信号が送信アンテナ2から空中に放出され、放出された電波がターゲットに跳ね返り、図2(d)に示すような応答波として受信アンテナ3で受信される。
【0023】
受信された応答波は、受信側RFフロントエンド4bで送信帯域から中間周波数帯へ復調され、AD変換回路6bを通じてデジタルデータに変換される。このAD変換回路6bのサンプリング周期は、サンプリング定理から送信パルスの周期の2の倍数に周波数逓倍回路7aにて逓倍された周期である。
【0024】
AD変換されたサンプリングデータは、直並列変換回路6cを介してFFT回路6dへ入力される。このとき、パルス生成回路5cの送信パルスの生成をトリガとして、パルスウィンドウ同期回路7bから直並列変換回路6cへ直並列変換の開始が指示され、AD変換されたデジタルデータの直並列変換によるFFT用サンプルデータの取得が始まる。
【0025】
そして、FFT用データの取得が事前に設定されたサンプリング数(2のn乗分)に達すると、FFT回路6dで、これまで取得していたデジタルデータを時間領域から周波数領域へ変換する。これにより、ターゲットからの応答波の周期とFFTの周期とを一致させてFFT後の波形のゆがみを防止することができ、また、窓関数の使用による生データの情報量低減も回避することができる。
【0026】
周波数領域に変換されたデータは、認識処理部8で認識処理が行われた後、図示しない表示回路に出力され、ターゲットまでの距離が表示される。より詳細には、例えば、図3に示すように、本レーダ装置1を搭載する自車両C0の前方に、距離Aの地点に人間H1と車両C1とが存在し、距離B(B>A)の地点に別の人間H2が存在する場合を例として説明する。
【0027】
このような種別の異なる複数のターゲットを検出する場合、図4(a)に示すように、送信波(パルス)を周期Wで送信する。その結果、図4(b)に示すような距離Aの地点からの反射波と、図4(c)に示すような距離Bの地点から反射波とが重畳され、図4(d)に示すような応答波が受信される。
【0028】
このとき、Aの距離のターゲットからの反射波は、送信開始から時間T1の遅延を持って受信され、Bの距離のターゲットからの反射波は、送信開始から時間T2の遅延を持って受信される。パルスレーダである本実施の形態のレーダ装置1では、時間T1,T2は、下式によって与えられる。但し、下式中のcは光速である。
T1=2×A/c,T2=2×B/c
【0029】
従って、距離A,Bを、レーダが測定できる最小、最大距離、或いは所望する検出範囲の距離として、送信開始からFFT用の直並列変換を開始するまでの時間を、開始時刻T1に決定する。そして、図4(e)に示すように、応答波をAD変換した後、開始時刻T1を距離分解能に相当する時間刻みΔtだけずらしながら(T1+n×Δt;n=0,1,2,…)、窓幅Wで直並列変換を行ってFFTを実行し、周波数成分を得る。その後、開始時刻T1+n×Δtが時間T2に達すると、1回目の走査を終了し、2回目以降の走査を同様に行う。
【0030】
このFFTによる周波数解析により、図5(a),(b),(c),(d)に示すように、サンプリング開始時刻T1,T1+Δt,T1+2×Δt,…,T2の各タイミングで周波数fを軸するパワースペクトルPの分布が得られる。このような応答波のFFTによって得られた周波数領域のデータはベクトル空間に写像され、ターゲットの質感が認識される。
【0031】
例えば、図6に示すように、FFTで得られたパワースペクトルの分布を周波数f1,f2を軸とするベクトル平面に投射する場合、応答波の水分(人間)に対する周波特性を示す領域R1、金属(車両)に対する周波数特性を示す領域R2,その何れでもない周波数特性の領域R3を、ターゲットの質感を判定する閾値として予め実験或いはシミュレーション等によって定めておく。そして、実際に得られる応答波の周波数特性が何れの領域に属するかを判定することで、ターゲットの質感を認識をする。
【0032】
この応答波のFFT解析により、水分、金属といった妥当な質感が得られ、ターゲットの種別が「人間」や「車両」と認識された場合、FFTの開始時刻に基づいて距離を求め、質感が不明の場合には、距離を算出せずに「その他」を出力する。すなわち、ターゲットまでの距離を仮定して送信パルスを発し、応答波が妥当なものであればその距離に物体があると判定することから、仮定する距離を適宜設定することで、最終的に周囲の状況を得ることができる。
【0033】
上述の図3の例では、以下のように、距離Aに存在するターゲットと、距離Bに存在するターゲットとを正しく識別し、その種別及び距離を出力することができる。
FFT開始時刻 ターゲット 距離
T1 人間H1+車両C1 A
T1+Δt その他 出力せず
T1+2×Δt その他 出力せず
・ ・ ・
・ ・ ・
T2 人間H2 B
【0034】
このように本実施の形態においては、ターゲットからの応答波の周期とFFTの周期とを一致させ、波形のゆがみを生じることなく生データを周波数領域へ変換することができ、認識性能や距離分解能等のレーダ性能を向上させることができる。また、FFTに際して窓関数を要しないことから、ハードウェア回路を簡略化することが可能となり、コスト低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0035】
1 レーダ装置
5c パルス生成回路
6b AD変換回路
6c 直並列変換回路
6d FFT回路
7b パルスウィンドウ同期回路
8 認識処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間に放射した送信波がターゲットで反射された応答波を受信し、該応答波のデータをフーリエ変換部でフーリエ変換して上記ターゲットを検出するレーダ装置であって、
上記送信波の送信タイミングと上記フーリエ変換部に供給するフーリエ変換用データのサンプリング開始タイミングとを同期させ、上記送信波の周期に応じたフーリエ変換のウィンドウ幅を設定するウィンドウ同期部を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
上記応答波のデータをサンプリングする周期と上記送信波の送信周期との比を2の倍数として、上記フーリエ変換用データのサンプリング数を設定することを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
上記応答波のデータをフーリエ変換して得られる周波数特性に基づいて、上記ターゲットの種別を判定することを特徴とする請求項1又は2記載のレーダ装置。
【請求項4】
上記レーダ装置は、上記送信波と上記応答波との時間差に基づいて測距を行うパルスレーダ装置であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−99752(P2011−99752A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254291(P2009−254291)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】