説明

レーダ装置

【課題】 物標との距離以外の情報が得られない検出エリアを含む複数の検出エリアにて物標検出を行うレーダ装置において、距離以外の情報が得られない検出エリアでも、移動物標であるか否かを速やかに判断できるようにする。
【解決手段】側方検出エリアで追跡中の物標が存在せず(S110:NO)、側方探査モードでの測定結果に基づき物標(側方検出物標)が検出された場合(S120:YES)、同時に、後方探査モードでの測定結果に基づき重複エリアで移動物標(重複エリア移動物標)が検出されていれば(S130:YES,S140:NO)、側方検出物標を側方検出エリアにて追跡の必要がある追跡対象物標として登録すると共に、その登録した追跡対象物標に、重複エリア移動物標の情報を引き継ぐ(S150)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載され、車両周囲の物標を検出するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーダ装置において広い検出エリアを実現する手法の一つとして、基板のパターン形成面に対して垂直な方向に向けて電磁波を放射する第1アンテナ(ここでは、ブロードサイドアレーアンテナ)と、基板のパターン形成面に対して平行な方向に向けて電磁波を放射する第2のアンテナ(ここでは、エンドファイアアレーアンテナ)とを、同一のアンテナ基板に形成したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このアンテナ基板上には、複数の第1アンテナ(以下、総称する場合は第1アンテナ群という)が一列に配置されていると共に、その第1アンテナ群の配列方向の両端に第2のアンテナが配置されている。そして、第1アンテナ群は、アンテナの配列方向に沿って方向の異なる複数のビームを形成し、第2のアンテナは、その第1アンテナ群のビームがカバーする領域(検出エリア)より外側にビームが向く(検出エリアが設定される)ように設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−5164号公報(図7,図12参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような広い検出エリアを有するレーダ装置は、例えば、車両の4隅等に設置し、車両の右後方の隅であれば、車両の右後方から右側方にわたる範囲が検出エリアとなるようにして使用することが考えられる。
【0006】
この場合、車両の前方や後方については、比較的遠距離まで検出エリアとする必要があるが、車両の側方については、せいぜい道路幅程度の検出エリアがあればよい。但し、車両の側方については、他車両との衝突や接触の危険性を正確に判断するために、距離を高分解能で計測できるようにすることが望ましい。
【0007】
そこで、第1アンテナ群の検出エリアが車両後方となり、第1アンテナ群の一方の端部に設けた第2アンテナの検出エリアが車両側方となるように、アンテナ基板を車両に設置すると共に、第2アンテナを介した物標の検出時に、高い距離分解能が得られるように、高帯域(UWB)変調を採用し、例えば、極めて短いパルス幅のパルスを用いるパルスレーダとして動作させることが考えられる。
【0008】
但し、この場合、第2アンテナを利用した側方検出エリアでの物標検出では、物標との相対速度を1回の計測で検出することができなくなり、その結果、検出された物標が、停止物(路側物等)であるか追跡の必要がある移動物(車両等)であるかを速やかに判断することができなくなってしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するために、物標との距離以外の情報が得られない検出エリアを含む複数の検出エリアにて物標検出を行うレーダ装置において、距離以外の情報が得られない検出エリアでも、移動物標であるか否かを速やかに判断できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた発明である請求項1に記載のレーダ装置は、車両に搭載して使用され、後方探査手段が、第1アンテナ部を介して電磁波を送受信することにより、当該装置を搭載する車両である自車両の後方に設定された後方検出エリア内に存在する物標の位置および相対速度を検出し、側方探査手段が、第2アンテナ部を介して電磁波を送受信することにより、後方検出エリアと重複する重複エリアを含むように自車両の側方に設定された側方検出エリアに存在する物標との距離を検出する。また、速度情報取得手段が、当該レーダ装置を搭載する車両の車速を表す速度情報を取得する。そして、移動判断手段が、後方探査手段による重複エリアでの検出結果、および車速取得手段により取得した速度情報に基づき、側方探査手段にて検出された物標である側方検出物標が移動しているか否かを判断する。
【0011】
このように構成された本発明のレーダ装置によれば、後方探査手段により重複エリア内で検出される物標は、側方検出物標と同一の物標である可能性が高いため、この後方探査手段から得られる情報(相対速度等)を利用することにより、側方検出物標が移動しているか否かを速やかに判断することができる。
【0012】
なお、本発明のレーダ装置において、移動判断手段は、例えば、後方探査手段により重複エリア内で移動する物標が検出された場合に、側方検出物標は移動していると判断するように構成することが考えられる。
【0013】
この場合、後方探査手段により検出された物標の情報を、側方検出物標に引き継がせるようにしてもよい。また、この場合、重複エリアは、複数の追跡対象物標が同時に存在することがないような大きさに設定されていることが望ましい。
【0014】
また、本発明のレーダ装置は、電磁波を第2アンテナ部から送信し第1アンテナ部にて受信することにより、重複エリア内に存在する物標を検出する重複エリア探査手段を備え、移動判断手段は、前記側方検出物標が移動していると判断した場合、重複エリア探査手段を動作させ、この重複エリア探査手段により検出された物標の情報を、側方検出物標に引き継がせるように構成されていてもよい。
【0015】
この場合、重複エリア探査手段により検出される物標は、重複エリア内に確実に存在するため、移動判断手段での判断や、側方検出物標に引き継ぐ情報の信頼性を向上させることができる。
【0016】
また、請求項4に記載のレーダ装置は、後方探査手段が、第1アンテナ部を介して電磁波を送受信することにより、当該装置を搭載する車両である自車両の後方に設定された後方検出エリア内に存在する物標の位置および相対速度を検出し、側方探査手段が、第2アンテナ部を介して電磁波を送受信することにより、自車両の側方に設定された側方検出エリアに存在する物標との距離を検出する。そして、判断手段が、側方探査手段により隣接車線内とみなせる距離に物標が検出され、かつ、後方探査手段により、自車両より後方の隣接車線上で移動する物標を検出した場合に、側方探査手段にて検出された物標である側方検出物標が移動していると判断する。
【0017】
つまり、側方検出物標が停止物であった場合、通常であれば、側方検出物標と同一車線上の移動物標は、側方検出物標を避けるものと考えられるため、自車両より後方の隣接車線上で移動する物標が検出される可能性が低く、逆に言えば、隣接後方移動物標が存在するのであれば、検出物標は移動物標である可能性が高い。従って、上述のような移動判断手段での判断が有効となるのである。
【0018】
ところで、第1アンテナ部と第2アンテナ部とは同一基板上に構成され、第1アンテナ部は、基板のパターン形成面に対して垂直方向に電磁波を放射し、第2アンテナ部は、基板のパターン形成面に対して平行に電磁波を放射するものを用いるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態の車載レーダ装置の全体構成を示すブロック図。
【図2】アンテナ基板のパターン配置を示す説明図。
【図3】後方検出エリア、側方検出エリア、重複エリアを示す説明図。
【図4】第1実施形態における追跡物標引継処理の内容を示すフローチャート。
【図5】第2実施形態における追跡物標引継処理の内容を示すフローチャート。
【図6】第3実施形態における追跡物標引継処理の内容を示すフローチャート。
【図7】第3実施形態に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
<全体構成>
図1は、実施形態の車載レーダ装置の全体構成を表すブロック図である。
【0021】
図1に示すように、レーダ装置1は、m(mは2以上の整数)個の単位アンテナSBi(i=1〜m)で構成された第1送信アンテナ群31、n(nは2以上の整数)個の単位アンテナRBj(j=1〜n)で構成された第1受信アンテナ群32からなる第1アンテナ部3と、単一の単位アンテナSEで構成された第2送信アンテナ41、単一の単位アンテナREで構成された第2受信アンテナ42からなり、第1アンテナ部3とは、主放射方向が異なるように構成された第2アンテナ部4とを備えている。
【0022】
また、レーダ装置1は、第1送信アンテナ群31および第2送信アンテナ41を介して電磁波(レーダ波)を送信する送信機10と、第1受信アンテナ群32および第2受信アンテナ42を介して電磁波(反射波)を受信する受信機20と、周知のマイクロコンピュータを中心に構成され、送信機10および受信機20に対して、後述する変調信号M,送信制御信号CS,受信制御信号CR,パルス制御信号CPs,CPrを供給し、その結果、受信機20にて生成されるビート信号Bに基づいて各種信号処理を行う制御回路5とを備えている。
【0023】
<アンテナ基板>
図2は、第1アンテナ部3および第2アンテナ部4が形成されたアンテナ基板6上のパターンの配置を示す説明図であり、(a)が平面図、(b)が側面図である。但し、図2は、m=n=4の場合を示している。
【0024】
図2に示すように、第1アンテナ部3を構成する第1送信アンテナ群31および第1受信アンテナ群32は、アンテナ基板6上に並べて配置されており、第2アンテナ部4は、第1送信アンテナ群31を挟んで、第1受信アンテナ群32とは反対側となるアンテナ基板6の端部に配置されている。
【0025】
そして、第1送信アンテナ群31を構成する各単位アンテナSBiおよび第1受信アンテナ群32を構成する各単位アンテナRBjは、第1送信アンテナ群31,第1受信アンテナ群32,第2アンテナ部4の配列方向(以下「単位アンテナ配列方向」という)に沿って一列に配置されている。
【0026】
但し、単位アンテナSBiは、単位アンテナ配列方向とは直交する方向(図中上下方向)に沿って等間隔で1列に配置された複数のパッチアンテナからなり、また、単位アンテナRBjは、単位アンテナ配列方向とは直交する方向に沿って2列に等間隔で配置された複数のパッチアンテナからなる。
【0027】
つまり、第1アンテナ部3は、アンテナ基板6のパターン形成面に垂直な方向(以下「面方向」という)が主放射方向となる所謂ブロードサイドビームアンテナとして構成されている。
【0028】
一方、第2アンテナ部4は、第2送信アンテナ41と第2受信アンテナ42とが、単位アンテナ配列方向とは直交する方向に沿って配置されている。
但し、第2送信アンテナ41および第2受信アンテナ42は、いずれも、アンテナ基板6のパターン形成面に平行かつ第1アンテナ部3の形成端から直交する方向(以下「端方向」という)が主放射方向となるようにパターン形成された八木アンテナを、第2アンテナ部4の形成端に沿って複数配置することで構成されており、所謂エンドファイアアンテナとして構成されている。
【0029】
なお、パッチアンテナや八木アンテナは、同じ単位アンテナSBi,RBj,SE,REを構成するもの同士は、それぞれ同位相の信号を送受信するように配線されている。
このように構成されたアンテナ基板6は、図3に示すように、上述のアンテナ基板6の面方向と一致し、かつ、単位アンテナ配列方向が道路面と平行な方向(水平方向)と一致するように配置され、自車両より右側の車線(以下「右隣接車線」という)を走行する後続車両や、右隣接車線で自車両と併走している車両等を検出するためのレーダ装置を構成するために用いられる。
【0030】
具体的には、第1アンテナ部3の検出エリア(以下「後方検出エリア」と称する)ABが、車両の後方直進方向から約30°傾いた方向(アンテナ基板6の面方向)を中心に、±約60°(合計約120°)の範囲をカバーし、かつ、第2アンテナ部4の検出エリア(以下「側方検出エリア」と称する)ASが、後方検出エリアABの中心軸方向から90°車両の前方に向いた方向(アンテナ基板6の端方向)を中心に±約60°(合計約120°)の範囲をカバーするように設定されている。
【0031】
つまり、後方検出エリアABと側方検出エリアASとは、一部が重なる(約30°)ように設定されており、この重なり合うエリアを以下では重複エリアAWと称する。
また、第1アンテナ部3を使用して後方検出エリアAB内の物標検出を行う動作モードを後方探査モード、第2アンテナ部4を使用して側方検出エリアAS内の物標検出を行う動作モードを側方探査モードという。
【0032】
<送信機>
図1に戻り、送信機10は、ミリ波帯の高周波信号を生成する発振器を中心に構成され、制御回路5からの変調信号Mに従って発振周波数が変化するように構成された電圧制御発振器(VCO)11と、VCO11からの出力を増幅する増幅器12と、増幅器12の出力を、送信信号Ssとローカル信号Lとに分岐する分岐線路13と、分岐線路13を介して供給される送信信号Ssを、単位アンテナSB1〜SBm,SEに接続された各伝送線路に分配する分配器15と、制御回路5からのパルス制御信号CPsに従って、分岐線路13から分配器15に至る伝送経路を導通,遮断することにより、パルス信号を発生させるパルス生成器14と、分配器15から単位アンテナSB1〜SBm,SEに至る各伝送線路にて伝送される送信信号Ssの振幅や位相を、送信制御信号CSに従って制御する信号制御部16とを備えている。
【0033】
なお、信号制御部16は、単位アンテナSB1〜SBm,SEに接続される伝送経路毎に移相器および増幅器を備えている。そして、信号制御部16では、動作モードが後方探査モードの時に、送信制御信号CSに従って、単位アンテナSB1〜SBm(第1送信アンテナ群31)に送信信号Ssを供給するように増幅器が制御されると共に、指定された放射方向を有するビームを形成するように移相器が制御される。また、動作モードが側方探査モードの時に、送信制御信号CSに従って、単位アンテナSE(第2送信アンテナ41)に送信信号Ssを供給するように増幅器が制御される。
【0034】
また、パルス生成器14は、動作モードが後方探査モードの時に、送信信号Ssをそのまま通過させ、動作モードが側方探査モードの時に、分岐線路13から分配器15に至る経路を、パルス制御信号CPsに従って開閉することにより、高帯域(UWB)変調で用いる短いパルス幅(本実施形態では1ns程度)のパルス信号を発生させるように動作する。
【0035】
<受信機>
受信機20は、各単位アンテナRB1〜RBn,REからの受信信号を個別に増幅する増幅部21と、制御回路5からの受信制御信号CRに従って、単位アンテナRB1〜RBn,REに接続された伝送線路のいずれかを選択して、選択された伝送線路からの受信信号を出力する受信スイッチ回路22と、受信スイッチ回路22からの受信信号Srに、分岐線路13からのローカル信号Lを混合しビート信号Bを生成するミキサ24と、ミキサ24が出力するビート信号Bを増幅して制御回路5に供給する増幅器25と、分岐線路13からミキサ24に至るローカル信号Lの伝送経路を、制御回路5からのパルス制御信号CPrに従って導通,遮断することにより、パルス状のローカル信号Lを発生させるパルス生成器23とを備えている。
【0036】
なお、受信スイッチ回路22は、動作モードが後方探査モードの時には、受信制御信号CRに従って、単位アンテナRB1〜RBn(第1受信アンテナ群32)からの受信信号を順次かつ繰り返し選択し、動作モードが側方探査モードの時には、単位アンテナREだけを選択するように動作する。
【0037】
また、パルス生成器23は、動作モードが後方探査モードの時には、ローカル信号Lをそのまま通過させ、動作モードが側方探査モードの時には、分岐線路13からミキサ24に至る経路を、パルス制御信号CPrに従って開閉することにより、所望のパルス幅(本実施形態では1ns程度)を有するパルス信号を発生させるように動作する。
【0038】
<制御回路>
制御回路5は、動作モードを後方探査モードと側方探査モードとに交互に切り替えて、後方検出エリアAB、側方検出エリアASのそれぞれにて物標の検出を行う物標検出処理と、物標検出処理にて検出された物標のうち、移動する物標を抽出して後方検出エリアAB,側方検出エリアASのそれぞれにて追跡する追跡処理と、側方検出エリアASで検出された物標が移動しているか否かを判断する移動判断処理などを実行する。
【0039】
なお、制御回路5は、当該装置1を搭載する車両から、車速(自車速)を表す速度情報を取得するように構成されている(図示せず)。そして、速度情報は、具体的には、例えば、CAN等の車載ネットワークを介して取得するように構成すればよい。
【0040】
<物標検出処理>
このうち、物標検出処理では、送信機10および受信機20を、後方探査モードの時には、FMCWレーダとして動作するように制御し、側方探査モードの時には、UWB変調のパルスレーダとして動作するように制御する。
【0041】
具体的には、後方探査モードの時には、時間に対して周波数が直線的に漸増,漸減を繰り返すような変調を行わせる三角波状の変調信号MをVCO11に供給すると共に、送信制御信号CSにより、第1送信アンテナ群31を介してFMCW波が後方検出エリアABに照射されるように信号制御部16を制御する。但し、変調信号Mの一周期毎に、移相器の設定を変化させることでビームの照射方向を順次変化させることによって、後方検出エリアAB内をビームで走査するようにされている。
【0042】
この時、受信機20では、受信制御信号CRにより、第1受信アンテナ群32からの受信信号が時分割でミキサ24に供給されるように受信スイッチ回路22を制御し、これにより受信機20から出力されるビート信号Bの信号レベルを、制御回路5がA/D変換して取り込む。なお、受信スイッチ回路22でのスイッチの切り替えは、変調信号Mに同期して、その一周期の間に、物標検出処理にて実行する周波数解析処理に必要な数のデータが得られるような早さで行われる。
【0043】
そして、第1受信アンテナ群32を構成する単位アンテナRBj毎に得られたビート信号Bを周波数解析し、FMCWレーダにおける周知の手法を用いて、物標との距離、相対速度を求めると共に、第1受信アンテナ群32を構成する単位アンテナRBjの位置が水平方向に異なることにより生じるビート信号B間の位相差に基づいて、物標が存在する方位を検出する。
【0044】
つまり、後方探査モードでは、後方検出エリアABに存在する物標に関する情報として、その物標の位置(距離,方位)と相対速度が少なくとも得られることになる。
一方、側方探査モードの時には、一定周波数の送信信号Ssが生成されるように、信号レベルが一定の変調信号MをVCO11に供給すると共に、パルス制御信号CPsにより、電磁波がレーダ装置1の最大検知距離を往復するのに要する時間より長くなるように設定された一定時間間隔毎に伝送経路を、一定時間(例えば1ns)だけ導通させることによって、パルス状の送信信号Ssを生成する。更に、送信制御信号CSにより、第2送信アンテナ41を介してパルス波を側方検出エリアASに照射されるように信号制御部16を制御する。
【0045】
この時、受信機20では、受信制御信号CRにより、第2受信アンテナ42からの受信信号がミキサ24に供給されるように受信スイッチ回路22を制御すると共に、パルス制御信号CPrにより、パルス波が送信される毎に、同じパルス幅を有するパルス状のローカル信号Lを発生させるようにパルス生成器23を制御する。但し、パルス状のローカル信号Lは、パルス波の送信タイミングに同期し、かつ、パルス波の送信を繰り返す毎に、パルス幅分だけ発生タイミングが遅延するようにされている。
【0046】
つまり、送信波と受信波とが重なり合うとビート信号が発生するため、最も強度の大きいビート信号(相関値が最も大きい)が得られた時のローカル信号の発生タイミングから、パルス波を反射した物標までの距離を算出する、パルスレーダにおける周知の処理を実行する。
【0047】
このような側方探査モードでは、側方検出エリアASに存在する物標に関する情報として、その物標との距離が得られることになる。
<追跡処理>
追跡処理は、後方検出エリアABと側方検出エリアASとでは別々に実行され、後方検出エリアABでの追跡処理では、検出された後方探査モードでの検出結果から検出された物標のうち、速度を有する物標(相対速度≠自車速となる物標)を追跡対象物標として、その追跡対象物標について得られる情報(位置,相対速度)から、同一と推定される物標を、時系列的に追跡する。なお、このような位置や相対速度に基づく物標の追跡は、車載レーダ装置において周知の技術であるため、その詳細な説明については省略する。
【0048】
また、側方検出エリアASでの追跡処理では、物標に関する情報として高い距離精度は得られるものの、距離情報しか得られないため、側方探査モードでの検出結果だけでは、追跡対象とすべき移動物標であるか否かを判断できない。たとえば、距離情報のみでは車両なのかガードレールなのどの側壁なのか判断が難しい。そこで、後述する後方探査モードの検出結果やアンテナを用いる移動判断処理によって、側方検出エリアでの検出物標が移動していると判断された物標について追跡処理を実行する。
【0049】
<移動判断処理>
次に、移動判断処理の詳細を、図4に示すフローチャートに沿って説明する。
なお、本処理は、両動作モード(側方探査モード,後方探査モード)による測定結果に基づく物標検出処理での処理結果が得られる毎に起動する。
【0050】
本処理が起動すると、まず、側方検出エリアASで追跡中の物標が存在するか否かを判断し(S110)、存在すれば(S110:YES)、そのまま本処理を終了する。
追跡中の物標が存在しなければ(S110:NO)、側方探査モードでの測定結果に基づく物標検出処理により物標が検出されたか否かを判断し(S120)、検出されていなければ(S120:NO)、そのまま本処理を終了する。以下では、側方探査モードでの想定結果に基づいて検出された物標を側方検出物標と称する。
【0051】
側方検出物標が検出されていれば(S120:YES)、後方探査モードでの測定結果に基づく物標検出処理により重複エリアAWで物標が検出されたか否かを判断し(S130)、重複エリアAWで物標が検出されていなければ(S130:NO)、そのまま本処理を終了する。
【0052】
重複エリアAWで物標が検出されていれば(S130:YES)、その物標の相対速度は自車速と一致しているか否かにより、その物標が停止物であるか否かを判断し(S140)、停止物であれば(S140:YES)、側方検出物標を停止物として登録して(S160)本処理を終了する。
【0053】
重複エリアAWで検出された物標が停止物でなければ(S140:NO)、側方検出物標を、側方検出エリアASでの追跡対象物標(即ち移動物)として登録すると共に、後方探査モードの測定結果に基づき重複エリアAWで検出された物標の情報(位置,相対速度等)を、登録した側方対象物標に引き継がせて(S150)、本処理を終了する。
【0054】
<効果>
以上説明したように、本実施形態のレーダ装置1では、側方探査モードでの測定結果に基づく側方検出物標と同時に、後方探査モードでの測定結果に基づき重複エリアAWで移動物標(以下「重複エリア移動物標」という)が検出されていれば、側方検出物標を側方検出エリアASでの追跡対象物標として登録すると共に、その登録した追跡対象物標に、重複エリア移動物標の情報を引き継ぐようにされている。
【0055】
従って、レーダ装置1によれば、物標との距離以外の情報が得られない側方検出物標であっても、後方探査モードの重複エリアAWでの情報を利用することで、物標が移動しているか否か、ひいては、追跡の必要があるか否かを速やかに判断することができる。更に、後方探査モードにて検出された情報を、登録した追跡対象物標に引き継がせて利用することにより、側方検出エリアASでの追跡処理の精度を向上させることができる。
【0056】
<発明との対応>
本実施形態において、後方探査モードでの動作、及びその測定結果に基づく物標検出処理が後方探査手段、側方探査モードでの動作、及びその測定結果に基づく物標検出処理が側方探査手段、制御回路7がレーダ装置1を搭載する車両の車速を表す速度情報を取得するための構成が速度情報取得手段、移動判断処理が移動判断手段に相当する。
【0057】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。
なお、本実施形態では、動作モードとして、後方探査モード、側方探査モードに加えて重複探査モードが存在する点、および移動判断処理の内容が一部異なる点以外は、第1実施形態の場合と同様であるため、これら相違点を中心に説明する。
【0058】
<重複探査モード>
重複探査モードは、第2送信アンテナ41および第1受信アンテナ群32を使用して、重複エリアAW内の物標検出を行う動作モードである。
【0059】
この重複探査モードの時には、三角波状の変調信号MをVCO11に供給し(後方探査モードの時と同様)、送信制御信号CSにより、第2送信アンテナ41を介してFMCW波が側方検出エリアASに照射されるように信号制御部16を制御する。
【0060】
この時、受信機20では、後方探査モードと同様に、受信制御信号CRにより、第1受信アンテナ群32からの受信信号が時分割でミキサ24に供給されるように受信スイッチ回路22を制御し、これにより受信機20から出力されるビート信号Bの信号レベルをA/D変換して取り込む。なお、受信スイッチ回路22でのスイッチの切り替えは、変調信号Mに同期して、その一周期の間に、物標検出処理が実行する周波数解析処理で必要な数のデータが得られるような早さで行われる。
【0061】
そして、重複探査モードで得られた測定結果に基づいて実行される物標検出処理では、得られたビート信号Bを周波数解析し、FMCWレーダにおける周知の手法を用いて、物標との距離、相対速度を求めると共に、第1受信アンテナ群32を構成する単位アンテナRBjの位置が水平方向に異なることにより生じるビート信号B間の位相差に基づいて、物標が存在する方位を検出する。
【0062】
<移動判断処理>
次に、移動判断処理の内容を、図5に示すフローチャートに沿って説明する。
なお、S210〜S230は、第1実施形態の場合と同様であり、側方検出エリアASで追跡中の物標がなく(S210:NO)、側方探査モードでの測定結果に基づいて側方検出物標が検出され(S220:YES)、後方探査モードでの測定結果に基づいて重複エリア物標が検出されると(S230:YES)、送信機10および受信機20を重複探査モードで動作させ、その測定結果に基づいて物標を検出する処理を実行する(S240)。
【0063】
そして、重複探査モードで検出された物標の相対速度は自車速と一致しているか否かを判断し(S250)、一致していれば(S250:YES)、側方検出物標を停止物として登録して(S270)本処理を終了する。
【0064】
一方、一致していなければ(S250:NO)、側方検出物標を側方検出エリアASでの追跡対象物標(即ち移動物)として登録すると共に、重複探査モードで検出された物標の情報(位置,相対速度等)を、登録した追跡対象物標に引き継がせて(S260)、本処理を終了する。
【0065】
<効果>
以上説明したように、本実施形態のレーダ装置1によれば、側方検出エリアASでの追跡対象物標に引き継がせる情報として、重複探査モードでの測定結果により検出された物標の情報を用いているため、重複エリアAW以外に存在する物標の情報を誤って引き継がせてしまうことを防止でき、側方検出エリアASでの追跡処理の信頼性を向上させることができる。
【0066】
<発明との対応>
本実施形態において、重複エリア探査モードでの動作、及びその測定結果に基づく物標検出処理が重複エリア探査手段に相当する。
【0067】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態について説明する。
なお、本実施形態は、第1実施形態とは、移動判断処理の内容が一部異なるだけであるため、この相違点を中心に説明する。
【0068】
<移動判断処理>
移動判断処理の内容を、図6に示すフローチャートに沿って説明する。
なお、S310〜S320は、第1実施形態の場合と同様であり、側方検出エリアASで追跡中の物標がなく(S310:NO)、側方探査モードでの測定結果に基づいて側方検出物標が検出されると(S320:YES)、側方検出物標との距離により、側方検出物標が隣接車線内に存在するか否かを判断する(S330)。
【0069】
側方検出物標が隣接車線内に存在しなければ(S330:NO)、そのまま、本処理を終了し、側方検出物標が、隣接車線内に存在すれば(S330:YES)、後方探査モードでの測定結果に基づいて、隣接車線後方で移動物標が検出されたか否かを判断する(S340)。
【0070】
隣接車線後方で移動物標が検出されていなければ(S340:NO)、そのまま本処理を終了し、隣接車線後方で移動物標が検出されていれば(S340:YES)、側方検出物標を、側方検出エリアASでの追跡対象物標として登録して(S350)、本処理を終了する。
【0071】
<効果>
以上説明したように、本実施形態のレーダ装置1では、図7に示すように、側方検出エリアASで物標(側方検出物標)が検出された場合、この側方検出物標と同一車線の後方(隣接車線後方)で移動物標が検出されていれば、側方検出物標は、停止物ではなく、移動物である可能性が高いものとして、側方検出物標を追跡対象物標として登録している。つまり、側方検出物標が停止物であれば、隣接車線の後方に位置する移動物は、停止物を避けるはずであるため、このような推定が成立する。
【0072】
このように、レーダ装置1によれば、後方探査モードでの検出結果を利用して、側方検出物標が移動しているか否か、ひいては側方検出エリアASでの追跡対象とすべきか否かを速やかに判断することができる。
【0073】
[他の実施形態]
以上本発明のいくつかの実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において様々な態様にて実施することが可能である。
【0074】
例えば、上記実施形態では、第2アンテナ部4を構成するエレメントアンテナとして、八木アンテナを用いているが、これに限らず、第1アンテナ部3と同一基板上に構成することができ、かつ、主放射方向が端方向を向くものであればよく、例えば、テーパスロットアンテナ等を用いてもよい。
【0075】
上記第1および第2実施形態では、側方検出エリアASで追跡中の物標がなく(S110/S210:NO)、側方探査モードでの測定結果に基づいて側方検出物標が検出され(S120/S220:YES)、後方探査モードでの測定結果に基づいて重複エリア物標が検出された場合に(S130/S230:YES)、後方探査モードや重複探査モードでの測定結果に基づいて、側方検出物標を追跡すべきか(追跡対象物標として登録すべきか)否かを判断すると共に、重複探査モードでの測定結果に基づく情報を、側方追跡物標に引き継がせるようにしているが、後方検出エリアABでの追跡対象物標が、重複エリアAWに進入した時、同時に検出される側方検出物標を、側方検出エリアASでの追跡対象物標として登録し、後方検出エリアABでの追跡対象物標の情報を引き継がせるようにしてもよい。
【0076】
上記実施形態では、後方探査モードや重複探査モードでFMCW波を用いているが、CW波(無変調の連続波)を用いる等してもよい。
上記実施形態では、アンテナ基板6を、車両の右後方隅に設置した場合について説明したが、車両の四隅のいずれに設置してもよく、また、同時に複数箇所に設置してもよい。
【符号の説明】
【0077】
1…レーダ装置 3…第1アンテナ部 4…第2アンテナ部 5…制御回路 6…アンテナ基板 10…送信機 12,25…増幅器 13…分岐線路 14,23…パルス生成器 15…分配器 16…信号制御部 20…受信機 21…増幅部 22…受信スイッチ回路 24…ミキサ 31…第1送信アンテナ群 32…第1受信アンテナ群 41…第2送信アンテナ 42…第2受信アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるレーダ装置であって、
第1アンテナ部を介して電磁波を送受信することにより、当該装置を搭載する車両である自車両の後方に設定された後方検出エリア内に存在する物標の位置および相対速度を検出する後方探査手段と、
第2アンテナ部を介して電磁波を送受信することにより、前記後方検出エリアと重複する重複エリアを含むように自車両の側方に設定された側方検出エリアに存在する物標との距離を検出する側方探査手段と、
当該レーダ装置を搭載する車両の車速を表す速度情報を取得する速度情報取得手段と、
前記後方探査手段による前記重複エリア内での検出結果、および前記速度情報取得手段により取得した速度情報に基づき、前記側方探査手段にて検出された物標である側方検出物標が移動しているか否かを判断する移動判断手段と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記移動判断手段は、前記後方探査手段により重複エリア内で移動する物標が検出された場合、前記側方検出物標は移動していると判断することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
電磁波を前記第2アンテナ部から送信し前記第1アンテナ部にて受信することにより、前記重複エリア内に存在する物標を検出する重複エリア探査手段を備え、
前記移動判断手段は、前記側方検出物標が移動していると判断した場合、前記重複エリア探査手段を動作させ、該重複エリア探査手段により検出された物標の情報を、前記側方検出物標に引き継がせることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
車両に搭載されるレーダ装置であって、
第1アンテナ部を介して電磁波を送受信することにより、当該装置を搭載する車両である自車両の後方に設定された後方検出エリア内に存在する物標の位置および相対速度を検出する後方探査手段と、
第2アンテナ部を介して電磁波を送受信することにより、自車両の側方に設定された側方検出エリアに存在する物標との距離を検出する側方探査手段と、
前記側方探査手段により隣接車線内とみなせる距離に物標が検出され、かつ、前記後方探査手段により、自車両より後方の前記隣接車線上で移動する物標を検出した場合に、前記側方探査手段にて検出された物標である側方検出物標が移動していると判断する移動判断手段と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
前記第1アンテナ部と前記第2アンテナ部とは同一基板上に構成され、前記第1アンテナ部は、該基板に対して垂直方向に電磁波を放射し、前記第2アンテナ部は、前記パターン形成面に対して平行に電磁波を放射することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−159348(P2012−159348A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18101(P2011−18101)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】