説明

ロボット、ロボットの駆動方法

【課題】回生エネルギーの発生を抑制してロボットの全体としての生産性を向上させる。
【解決手段】ロボットの可動部を目標位置に向けて加速し、目標位置の手前で制動力を作
用させて可動部を減速させることで目標位置に停止させる。更に、可動部に制動力を作用
させるに先立って、停止時の制動力よりは小さな制動力を作用させることにより、可動部
を緩慢に減速させる予備減速を行う。こうすれば、可動部の移動速度が低下した状態から
停止させることができるので、停止時に発生する回生エネルギーを抑制することができる
。その結果、ロボット全体としてのエネルギー効率が改善されるので生産性を向上させる
ことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットの可動部を駆動する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のロボット技術の進歩により、工業製品の製造現場では、多くのロボットが導入さ
れている。例えば、工業製品の組み立てラインでは、ラインに沿って複数台のロボットが
設置され、ライン上を流れる製造中の製品に対して、ロボットが自動で各種の部品を組み
付けることで、生産効率を向上させることが広く行われている。あるいは、このようなロ
ボットが組み付ける部品をラインサイドまで搬送する際にも、ロボットを用いて部品を搬
送することで、工場全体としての生産効率を向上させることも広く行われている。
【0003】
ロボットを導入すれば、作業者を危険な作業から開放することが可能となり、あるいは
、ロボットは全く同じ動作を繰り返すことができるので作業精度が向上するなど、多くの
利点が得られるが、時間あたりの作業量の増加に伴って生産性の向上が可能となることも
大きな利点として挙げられる。もっとも、ロボットの導入時には多額の初期費用が必要と
なる。そこで、この初期費用を回収するためにも、ロボットにはできるだけ高い生産性が
望まれる。そして、生産性を向上させるためには、ロボットの動作速度をできるだけ高く
する必要がある。このため、ロボットアームなどの可動部分を目標の停止位置まで移動さ
せる際には、可動部分をできるだけ短時間で最高速度まで加速した後に最高速度で定速移
動させ、目標の停止位置の手前に達したら最高速度から急減速して目標の停止位置に停止
させる制御が行われることが通常である(たとえば、特許文献1)。
【0004】
ここで、ロボットの可動部分(たとえばロボットアームなど)はかなりの重量を有する
ことが通常であるため、最高速度で移動している状態から停止させる際には、大きな運動
エネルギーが放出される。そして、放出される運動エネルギーの大きさは、ロボットの生
産性を向上させるために可動部分の移動速度を高くすればするほど大きくなる。従って、
この運動エネルギーを熱として捨ててしまったのでは、生産性を向上させるためにロボッ
トの動作速度を高くしても、それに伴ってロボットを動作させるためのエネルギーが増加
することになって、十分に生産性を向上させることが困難となる。尚、ロボットアームな
どの可動部分を停止させる際に放出されるエネルギーは、回生エネルギーと呼ばれること
がある。そこで、ロボットアームなどの可動部分を停止させる際に発生する回生エネルギ
ーを電気エネルギーとして回収するようにした技術も提案されている(特許文献2、特許
文献3など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−311713号公報
【特許文献2】特許第3655056号公報
【特許文献3】特開2007−159213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、提案されている従来の技術では、回生エネルギーを電気エネルギーとして回収
することで、ロボットを動作させるためのエネルギーが増加することは抑制可能であるも
のの、回生エネルギーを回収するための特別な回路や制御が必要となるため、ロボットが
高価となる。このため、ロボットの初期費用が増加し、増加した初期費用を回収するため
に、更なる生産性の向上が必要になるという問題がある。
【0007】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題の少なくとも一部を解決するためになさ
れたものであり、発生した回生エネルギーを回収するのではなく、回生エネルギーの発生
自体を抑制することによって、ロボットを動作させるためのエネルギーも含めたロボット
全体としての生産性を向上させることが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明のロボットは次の構成を採用
した。すなわち、
本体部と、該本体部に対して移動可能に構成された可動部と、該可動部を移動させるた
めの動力を発生する動力発生部と、該動力発生部を制御する制御部とを備えるロボットで
あって、
前記制御部は、
前記動力発生部を制御して、前記可動部に対して所定の停止位置に向かう方向の駆動
力を作用させることにより、該可動部を該停止位置に向けて加速させる加速制御部と、
前記動力発生部を制御して、前記停止位置に向けて移動する前記可動部に対して該停
止位置に向かう方向とは逆方向の力である制動力を作用させることにより、該可動部を減
速させた後に該停止位置に停止させる停止制御部と、
前記停止制御手段が前記可動部を減速させるに先立って、該可動部を減速させるため
の前記制動力よりも小さな制動力が該可動部に作用するように前記動力発生部を制御する
ことにより、該可動部を前記停止制御手段による減速よりも緩やかに減速させる減速制御
部と
を備えることを要旨とする。
【0009】
また、上記のロボットに対応する本発明のロボットの駆動方法は、
本体部と、該本体部に対して移動可能に構成されたな可動部とを備えるロボットの駆動
方法であって、
停止している前記可動部に対して、所定の停止位置に向かう方向の駆動力を作用させる
ことにより、該可動部を該停止位置に向けて加速させる加速工程と、
前記停止位置に向かって移動している前記可動部に対して、該停止位置に向かう方向と
は逆方向の力である制動力を作用させて該可動部を減速させた後に、該可動部を該停止位
置に停止させる停止工程と、
前記停止工程で前記可動部を減速させるに先立って、該可動部を減速させるための前記
制動力よりも小さな制動力を該可動部に作用させることにより、該可動部を前記停止工程
における減速よりも緩やかに減速させる減速工程と
を備えることを要旨とする。
【0010】
こうした本発明のロボット、あるいはロボットの駆動方法においては、可動部に対して
、所定の停止位置に向かう方向の駆動力を作用させることによって、可動部を停止位置に
向けて加速した後、可動部が停止位置に近付くと、今度は逆方向の力(制動力)を作用さ
せて可動部を減速させることによって停止位置に停止させる。更に、可動部が停止位置に
近付いて減速する前の段階から、可動部を緩やかに減速させる。この緩やかな減速(予備
減速)は、次のような減速形態である。すなわち、可動部を停止位置で停止させるために
は、可動部が停止位置に近付いた段階で、停止位置に向かう方向とは逆方向の力(制動力
)を作用させることによって可動部を減速させる必要があるが、緩やかな減速(予備減速
)とは、停止させるための減速に先立って、このときの制動力よりも小さな制動力を作用
させることによって、予め可動部を緩やかに減速させる減速態様である。この緩やかな減
速(予備減速)時に可動部に作用させる制動力としては、可動部を停止させる際よりも緩
やかに減速させる制動力であれば良く、従って、たとえば可動部が移動する際に受ける摩
擦力よりも小さな力であれば、目標の停止位置に向かう方向の力(すなわち、マイナス方
向の制動力)であっても構わない。
【0011】
こうして緩やかな減速(予備減速)を行えば、可動部の移動速度が次第に低下していく
。従って、その後、可動部に制動力を作用させて停止させれば、可動部の移動速度が低下
した状態から停止させることになるので、停止時に発生する回生エネルギーを抑制するこ
とが可能となる。そして、可動部を停止させる際に発生する回生エネルギーは、元はと言
えば、動力発生部が可動部を移動させるために発生させたエネルギーであるから、停止時
に発生する回生エネルギーを抑制することができれば、動力発生部で発生するエネルギー
も少なくて良い。その結果、ロボットを動作させるためのエネルギーを抑制することがで
きるので、ロボット全体としての生産性を向上させることが可能となる。
【0012】
また、上述した本発明のロボットにおいては、加速後の可動部に対して緩やかな減速(
予備減速)を行わせるに際して、動力発生部が可動部に及ぼす駆動力が0となるようにす
ることによって、緩やかな減速(予備減速)を行わせるようにしても良い。
【0013】
可動部が移動する際には摩擦力が発生するので、動力発生部から可動部に駆動力を及ぼ
さなくても、可動部を緩やかに減速させることができる。そして、このようにして緩やか
な減速(予備減速)を行わせれば、その減速中は、可動部を移動させるためのエネルギー
を動力発生部で発生させる必要がない。このため、ロボットを動作させるためのエネルギ
ーが抑制されるので、ロボットを動作させるためのエネルギーまでを含めて考慮したロボ
ット全体としての生産性を向上させることが可能となる。
【0014】
また、上述した本発明のロボットにおいては、次のようにして緩やかな減速(予備減速
)を行っても良い。先ず、可動部を目標速度まで加速した後、目標速度に応じた所定の大
きさの駆動力を可動部に作用させることにより、そのままの速度(目標速度)で可動部を
定速移動させる。その後、定速移動している可動部に対して、緩やかな減速(予備減速)
を行わせるようにしてもよい。
【0015】
こうすれば、可動部を目標速度まで加速した後、暫くの間は目標速度で可動部を移動さ
せることができるので、可動部が目標の停止位置に達するまでの平均速度が低下すること
を抑制することができる。従って、可動部を目標速度まで加速した直後から緩やかな減速
(予備減速)を開始したのでは、可動部が停止位置に達するまでに時間がかかり過ぎるよ
うな場合には、このようにして暫くの間、目標速度で可動部を移動させた後に緩やかな減
速(予備減速)を開始することで、停止位置に達するまでにかかる時間を許容範囲内に収
めることが可能となる。
【0016】
また、上述した本発明のロボットは、次のようなロボットとすることができる。すなわ
ち、可動部は、本体部に設けられた回転軸を中心として回転移動可能に構成されており、
動力発生部はモーターによって構成されており、可動部はモーターの発する回転トルクに
よって回転移動するように構成してもよい。
【0017】
このようなロボットでは、可動部の先端部分で対象物を把持した後、回転軸を中心とし
て可動部を回転させる動作形態が通常である。そしてこのような動作形態では、可動部の
先端部分が重くなり勝ちであり、しかも回転軸からの距離があるので、可動部を回転させ
る際の慣性モーメントが大きくなる。更に、回転軸からの距離がある分だけ、先端部分の
移動速度も大きくなる。このため、可動部を停止させる際に、大きな回生エネルギーが発
生する傾向がある。そこで、このようなロボットの可動部の回転を停止させる際に緩やか
な減速(予備減速)を行えば、回生エネルギーが発生することを抑制することができる。
その結果、少ないエネルギーでロボットを動作させることができるので、ロボットを動作
させるためのエネルギーも考慮した全体としての生産性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ロボットを用いて対象物を搬送する動作を例示した説明図である。
【図2】アーム部を回転させる際の一般的な駆動方法を示した説明図である。
【図3】本実施例のロボットで採用されている代表的な駆動方法を例示した説明図である。
【図4】搬送時間の増加をできるだけ抑制可能な態様で予備減速を行う本実施例の駆動方法を例示した説明図である。
【図5】搬送時間が同一の条件で比較しても、予備減速を伴う本実施例の駆動方法を採用することで、予備減速を伴わない通常の駆動方法よりも回生エネルギーの発生を抑制可能な理由を示した説明図である。
【図6】搬送時間が増加しない態様で予備減速を行う本実施例の駆動方法を示した説明図である。
【図7】モーターで駆動トルクを発生させながら予備減速を行う第1変形例の駆動方法を例示した説明図である。
【図8】第1変形例の駆動方法の他の態様を例示した説明図である。
【図9】ロボットアームが並進移動することによって対象物を搬送するロボットを例示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施
例を説明する。
A.装置構成:
B.本実施例のロボットの駆動方法:
C.変形例:
D−1.第1変形例:
D−2.第2変形例:
【0020】
A.装置構成 :
図1は、ロボット10を用いて対象物Wを搬送する動作を例示した説明図である。図示
したロボット10は、本体部11と、本体部11の上に搭載されたヘッド部12と、ヘッ
ド部12に設けられたアーム部13などから構成されている。ヘッド部12は、本体部1
1に対して回転移動が可能な態様で設けられており、本体部11にはヘッド部12を回転
させるための動力を発生させるモーター15や、モーター15を制御する制御部16など
が内蔵されている。アーム部13には複数の関節が設けられており、アーム部13の先端
には、対象物Wを把持するためのハンド部14が取り付けられている。
【0021】
このようなロボット10を用いて、A地点に置かれている対象物WをB地点に搬送する
場合、先ず初めに、アーム部13がA地点の上に来るようにヘッド部12を回転させる。
次に、アーム部13を動かしてハンド部14を対象物Wの上方から降下させる。そして、
ハンド部14で対象物Wを把持した後、アーム部13を動かしてハンド部14を上昇させ
る。図1(a)には、ハンド部14が対象物Wを把持した状態で、A地点から上昇する様
子が示されている。
【0022】
続いて、ハンド部14を把持したままヘッド部12を回転させることにより、アーム部
13をB地点の上方まで移動させる。そして、対象物Wを把持したまま、ハンド部14を
B地点まで降下させた後、把持している対象物Wを解放する。図1(b)には、ハンド部
14が対象物Wを把持した状態で、B地点に向けて降下する様子が示されている。こうす
ることで、A地点に置かれていた対象物WをB地点に搬送することができる。また、他に
も搬送すべき対象物Wが残っている場合には、ヘッド部12を回転させてアーム部13を
B地点からA地点まで移動させた後、上述した一連の動作を実行する。尚、ヘッド部12
およびアーム部13は、本体部11に対して移動していることから、これらヘッド部12
およびアーム部13は、本体部11に対する可動部となっている。また、モーター15は
、ヘッド部12およびアーム部13を移動させるための動力を発生する動力発生部となっ
ている。尚、以下では、ヘッド部12およびアーム部13を、単にロボットアームと称す
ることがあるものとする。
【0023】
ここで、前述したように、ロボット10には生産性を高めるため、短時間で多くの作業
量をこなすことが求められている。図1に示した例では、A地点の対象物Wをできるだけ
短い時間でB地点まで搬送し、その後、B地点からできるだけ短い時間でアーム部13を
A地点に復帰させることが求められる。そこで、ヘッド部12を回転させるモーター15
は、次のような態様で駆動することが通常である。
【0024】
図2は、アーム部13を回転させるモーター15の一般的な駆動方法を示した説明図で
ある。たとえば、アーム部13およびヘッド部12(ロボットアーム)を、A地点からB
地点まで回転させるのであれば、A地点で対象物Wを把持した後にアーム部13を引き上
げた状態から、ロボットアームを最大速度Vmax に達するまで急加速させた後、最大速度
Vmax を保ったまま回転させる。そして、B地点の手前に達したら、今度はロボットアー
ムを急減速させて停止させる。図2(a)には、ロボットアームがA地点からB地点まで
回転する間に、回転速度が変化する様子が示されている。
【0025】
また、図2(b)には、ロボットアーム(ヘッド部12およびアーム部13)がA地点
からB地点まで移動する間に、モーター15の発生する駆動トルクが変化する様子が示さ
れている。たとえば、A地点からアーム部13の回転速度が最大速度Vmax に達するまで
の間は、モーター15は最大トルクTmax を発生してロボットアームを駆動する。なお、
図2では、アーム部13の回転速度が最大速度Vmax に達した地点は、C地点と表示され
ている。
【0026】
ここで、モーター15の発生する最大トルクTmax は、モーター15のコイルに流すこ
とのできる最大電流値によって決定され、最大電流値はコイルの発熱によって決定されて
いる。すなわち、モーター15のコイルも電気抵抗を有しているので、コイルに電流を流
すと発熱によってコイルの温度が上昇する。従って、過大な電流を流すと、発熱によって
コイルが焼き付いてしまう。このように、コイルに流すことのできる電流値には上限があ
り、最大電流を流したときに発生する駆動トルクが、モーター15の最大トルクTmax に
設定されている。もっとも、ロボットアーム(実際にはヘッド部12)を回転させる際に
は摩擦力が生じるから、モーター15の発生する最大トルクTmax がそのままヘッド部1
2に作用するのではなく、最大トルクTmax からヘッド部12を回転させるための摩擦ト
ルクを減算したトルクがヘッド部12を回転させるための駆動トルクとして作用すること
になる。
【0027】
また、ロボットアーム(ヘッド部12およびアーム部13)の回転速度が最大速度Vma
x に達した後は、最大速度Vmax を維持することによって、できるだけ速くロボットアー
ムを回転させる。ここで、上述したようにロボットアームを回転させるための摩擦トルク
がかかるので、ロボットアームの回転速度を最大速度Vmax に維持しておくためには、こ
の間もモーター15は、摩擦トルクに相当する駆動トルクTfrを発生させておく必要があ
る(図2(b)参照)。
【0028】
そしてロボットアームが、目標のB地点の手前に達すると、今度はモーター15に逆方
向の最大トルクTmax を発生させてロボットアームを減速させる。逆方向の駆動トルク(
制動トルク)は、モーター15のコイルに流す電流の向きを逆向きにすることによって発
生させることができる。また、コイルに流すことのできる電流の最大値は、電流の向きに
は依存しないから、逆方向の最大トルクの絶対値は、正方向の最大トルクと同じTmax と
なる。もっとも、ロボットアーム(正確にはヘッド部12)に作用するトルクは、モータ
ー15の発生する制動トルクに摩擦トルクを加えたトルクとなる。このためロボットアー
ムは、最大速度Vmax に加速したときよりも、最大速度Vmax から減速するときの方が急
激に減速することになる。
【0029】
なお、図2では、最大速度Vmax で回転しているロボットアーム(ヘッド部12および
アーム部13)の減速を開始する地点は、D地点と表示されている。また、ロボットアー
ムがA地点からB地点まで移動するために要する時間をできるだけ短縮するためには、ロ
ボットアームの回転速度をできるだけ最大速度Vmax に保っておく必要があるから、ロボ
ットアームが減速を開始するD地点は、ロボットアームを最大加速度で急減速させたとき
に、ロボットアームがちょうどB地点で停止するような地点に設定されている。
【0030】
以上に説明したように、ロボット10は、生産性をできるだけ高める目的から、上述し
た態様、すなわち、ロボットアーム(ヘッド部12およびアーム部13)を最大トルクT
max で最大速度Vmax まで急加速して、できるだけ長い期間に亘って最大速度Vmax の状
態を維持した後、ギリギリで間に合うタイミングで急減速させてロボットアームを停止さ
せるような態様で駆動されることが通常である。
【0031】
もっとも、ロボットアームが最大速度Vmax で回転している状態は、回転方向の大きな
運動エネルギーを有している状態であり、この状態から回転を停止すると、回転方向の運
動エネルギーが0の状態となる。従って、この回転方向の運動エネルギーの減少分(いわ
ゆる回生エネルギー)を、何らかの特別な方法によって回収しない限り、回生エネルギー
はすべて熱として捨てられることになる。そして、熱として捨てられる回生エネルギーも
、元はと言えば、モーター15が電力を消費して発生させたエネルギーであるから、結局
は、回生エネルギーを熱として捨てる分だけ、ロボット10を動作させるためのエネルギ
ーが増加することになる。もちろん、何らかの方法で回生エネルギーを回収すれば、ロボ
ット10を動作させるためのエネルギーが増加することを抑制することができるが、回生
エネルギーを回収するためには特別な駆動回路や制御方法が必要となるため、ロボット1
0が高価になり、ロボット10を導入するための初期費用が増加してしまう。そこで、本
実施例のロボット10では、ロボット10の生産性をできるだけ犠牲にすることなく、回
生エネルギーの放出を抑制することが可能となるように、以下のような駆動方法を採用し
ている。
【0032】
B.本実施例のロボットの駆動方法 :
図3は、本実施例のロボット10で採用されているロボットアーム(ヘッド部12およ
びアーム部13)の代表的な駆動方法を例示した説明図である。図3(a)には、A地点
からB地点まで回転させる間の回転速度の変化が示されており、図3(b)には、モータ
ー15が発生する駆動トルクの変化が示されている。
【0033】
図3に示した本実施例の代表的な駆動方法においても、先ず初めは一般的な駆動方法と
同様に、モーター15から最大トルクTmax を発生させて、ロボットアーム(ヘッド部1
2およびアーム部13)を最大速度Vmax まで急加速する。しかし図3(b)に示すよう
に本実施例の代表的な駆動方法では、最大速度Vmax まで加速した後は、モーター15が
発生する駆動トルクを0にしてしまう。前述したように、ロボットアーム(正確にはヘッ
ド部12)が回転すると摩擦トルクが作用するから、モーター15の発生する駆動トルク
が0の状態では、摩擦トルクによってロボットアームの回転速度は次第に低下していく。
図3(a)には、ロボットアームの回転速度が最大速度Vmax に達した後、摩擦トルクに
よって次第に減速していく様子が示されている。
【0034】
その後、目標とするB地点の手前のE地点に達したら、今度は、逆方向の最大トルクT
max を発生させて急減速させることにより、ロボットアーム(ヘッド部12およびアーム
部13)を停止させる。ロボットアームの減速時には、モーター15が発生する逆方向の
駆動トルク(制動トルク)に加えて摩擦トルクも作用することから、ロボットアームを加
速する際よりも急激に減速させることができる。また、ロボットアームの減速を開始する
E地点は、ロボットアームを最大の加速度で急減速させたときに、ロボットアームがちょ
うどB地点で停止するような地点に設定されている。
【0035】
なお、E地点からB地点に到着するまでの期間では、モーター15から逆方向の最大ト
ルクTmax を発生させてロボットアームを急減速させているが、C地点からE地点に達す
るまでの期間では、モーター15から逆方向の駆動トルク(制動トルク)を発生させてい
るわけではないので、緩慢に減速しているに過ぎない。以下では、このようにモーター1
5から積極的に逆方向の駆動トルク(制動トルク)を発生させてロボットアームの回転速
度を減速しているわけではないが、摩擦トルクを利用してロボットアームを緩慢に減速さ
せることを「予備減速」と称するものとする。また、図3(a)中に示したC地点からE
地点まで移動する期間のように、予備減速を行っている期間を「予備減速期間」と称する
ものとする。
【0036】
図3(a)に示されるように、予備減速を行った後にロボットアーム(ヘッド部12お
よびアーム部13)を停止させることとすれば、ロボットアームの回転速度が最大速度V
max よりも低い速度V1 まで低下してから、モーター15で逆方向の駆動トルク(制動ト
ルク)を発生させて急減速させればよい。すなわち、ロボットアームを停止させる際に発
生する回生エネルギーは、ロボットアーム(ヘッド部12およびアーム部13)が速度V
1 で回転している時の運動エネルギーとなる。このため、図3に例示した本実施例の駆動
方法によれば、図2に示した一般的な駆動方法のようにロボットアームが最大速度Vmax
で回転している状態から停止する場合に比べて、発生する回生エネルギーを大幅に抑制す
ることが可能となる。回生エネルギーを抑制可能な割合は、A地点からB地点までの距離
や、ロボットアーム(ヘッド部12およびアーム部13)の質量(図1に示すロボット1
0の場合は、ロボットアーム部分の慣性モーメント)や、摩擦トルクの大きさなどの要因
によって異なるが、モーター15を用いて減速を開始する時点(すなわちE地点)での回
転速度を、たとえば図3(a)に示したように約半分に減らすことができれば、発生する
回生エネルギーを約1/4に減少させることが可能となる。
【0037】
もちろん、図2に示した一般的な駆動方法と、図3に例示した本実施例の代表的な駆動
方法とを比較すれば明らかなように、本実施例の代表的な駆動方法では予備減速を行って
いる分だけ、平均的な回転速度が低下する。その結果、A地点からB地点まで移動するた
めに要する時間も若干長くなる。しかし、ロボット10が用いられる状況によっては、た
とえば対象物WをA地点からB地点に搬送する以外の工程が、生産性を向上させる際の律
速工程となっているなどの理由により、必ずしも最短時間で搬送しなくてもよい場合が起
こりえる。このような場合には、図3に例示した方法でロボットアーム(ヘッド部12お
よびアーム部13)を駆動することにより、回生エネルギーの発生を大幅に抑制すること
が可能となるので、ロボット10を動作させるためのエネルギーも抑制することができる
。その結果、ロボット10を動作させるためのエネルギーも考慮したロボット10全体と
しての生産性を大幅に向上させることが可能となる。
【0038】
また、図3に例示した駆動方法では搬送時間がかかり過ぎるということであれば、次の
ような態様で予備減速を行えばよい。図4は、搬送時間があまり長くならない態様で予備
減速を行う本実施例のロボットアームの駆動方法を例示した説明図である。図4に示した
例では、A地点からモーター15の最大トルクTmax でロボットアーム(ヘッド部12お
よびアーム部13)を急加速させて、回転速度が最大速度Vmax に達すると、そのまま最
大速度Vmax でC地点からF地点までロボットアームを回転させる(図4(a)を参照の
こと)。この期間は最大速度Vmax を維持する必要があるので、図4(b)に示したよう
に、モーター15は摩擦トルクに相当する駆動トルクTfrでロボットアーム(正確にはヘ
ッド部12)を駆動する。そして、F地点に達したら、モーター15の発生する駆動トル
クを0にして予備減速を開始する。その後、ロボットアームがB地点の手前のG地点に達
したら、今度は、モーター15で逆方向の最大トルクTmax を発生させて急減速させるこ
とにより、B地点でロボットアームを停止させる。
【0039】
こうすれば、図3に示した駆動方法に比べて、ロボットアームが最大速度Vmax で回転
する時間が長くなるので、対象物WをA地点からB地点まで搬送するために要する時間(
搬送時間)を短縮することができる。また、ロボットアームが最大速度Vmax で回転する
時間を増減させてやれば、図3に示したようにロボットアームが最大速度Vmax に達した
直後から予備減速を開始する状態から、図2に示したように予備減速を行わない状態まで
の間で、自由に搬送時間を調整することが可能となる。もちろん、ロボットアームが最大
速度Vmax で回転する時間を増加させると、それに伴って予備減速期間は減少する。そし
て予備減速期間が減少すれば、回生エネルギーの発生を抑制する効果も減少することにな
る。
【0040】
また、前述したように、対象物Wの搬送時間は必ずしも最短時間でなくてもよい場合が
ある。このような場合、従来の一般的なロボットアームの駆動方法では、ロボットアーム
を最大速度Vmax まで加速するのではなく、最大速度Vmax よりも少し低い速度まで加速
した時点で加速を中断し、その速度で定速回転させている。しかし、このような方法で駆
動するよりも、本実施例の駆動方法のように一旦、最大速度Vmax まで加速して、その後
に予備減速させた方が発生する回生エネルギーが小さくなり、その結果、ロボット10を
動作させるためのエネルギーまで考慮したロボット10全体の生産性を向上させることが
可能となる。以下、この点について説明する。
【0041】
図5は、搬送時間が同一であれば、予備減速を伴う本実施例の駆動方法を採用すること
によって、回生エネルギーの発生を抑制することが可能な理由を示した説明図である。図
5(a)には、予備減速を伴わない従来の駆動方法でロボットアーム(ここでは、ヘッド
部12およびアーム部13)を駆動する様子が示されている。搬送時間は最短時間よりも
長くて良いことから、ロボットアームの最大の回転速度は、最大速度Vmax よりも低い速
度V3 となっている。そして、モーター15を用いてロボットアームを減速させる際には
、ロボットアームが速度V3 で回転している状態から減速させることになるので、速度V
3 で回転するロボットアーム(ヘッド部12およびアーム部13)が有する回転方向の運
動エネルギーがそのまま回生エネルギーとなる。
【0042】
図5(b)には、予備減速を伴う本実施例の駆動方法でロボットアームを駆動する様子
が示されている。図示されているように、図5(b)に示した本実施例の駆動方法では、
ロボットアームを一旦、最大速度Vmax まで加速して、その速度で一定期間だけロボット
アームを回転させた後に予備減速を開始する。ロボットアームを最大速度Vmax で回転さ
せる期間(換言すれば予備減速を開始するタイミング)は、図5(a)に示した場合と搬
送時間が同一となるように設定されている。また、図5(b)では、参考のために、図5
(a)を用いて前述した従来の駆動方法による場合も細い波線で示されている。
【0043】
図5(b)中に太線で示された本実施例の駆動方法を用いた場合の速度変化と、細線で
示された従来の駆動方法を用いた場合の速度変化とを比較すれば明らかなように、ロボッ
トアームがA地点からB地点まで移動する間の平均速度は、どちらの駆動方法による場合
も等しく、従って、移動に要する時間(搬送時間)も等しくなる。しかし、モーター15
による減速を開始するときのロボットアームの回転速度には大きな違いが生じている。す
なわち、従来の駆動方法を用いた場合よりも、予備減速を行う本実施例の駆動方法を用い
た場合の方が、モーター15で積極的に減速を開始する際のロボットアームの回転速度が
低くなっている。従って、本実施例の駆動方法では、その分だけ回生エネルギーの発生が
抑制されることになる。
【0044】
実際に回生エネルギーを抑制可能な割合は、A地点からB地点までの距離や、ロボット
アーム(ヘッド部12およびアーム部13)の質量(あるいは慣性モーメント)や、摩擦
トルクの大きさなどの要因によって異なるが、ある条件での試算によれば、予備減速を行
うことで、ロボット10を動作させるためのエネルギーを約60%程度に減少させること
が可能となる。従って、ロボット10を動作させるためのエネルギーを考慮したロボット
10全体としての生産性の向上を図ることが可能となる。
【0045】
また、以上の説明では、本実施例の駆動方法を採用した場合には、予備減速を行う分だ
け搬送時間が必ず長くなるものとして説明した。しかし、搬送時間を増加させることなく
、予備減速を行うことも可能である。そして、このような場合でも、予備減速を行ってい
ることから回生エネルギーの発生を抑制することができる。以下では、このような態様の
本実施例の駆動方法について説明する。
【0046】
図6は、搬送時間を増加させることなく予備減速を行う本実施例の駆動方法を示した説
明図である。図6(a)には、ロボットアーム(ヘッド部12およびアーム部13)の回
転速度の変化が示されており、図6(b)にはモーター15が発生する駆動トルクの変化
が示されている。図6(b)に示されるように、この駆動方法ではモーター15から最大
トルクTmax よりも大きな駆動トルクT1 を発生させて、ロボットアームを急加速させる
。前述したようにモーター15が発生する最大トルクTmax は、モーター15を焼き付か
せることなくコイルに流すことのできる最大電流値によって決定されているから、通常で
あれば、最大トルクTmax よりも大きな駆動トルクを発生させようとするとモーター15
が焼き付いてしまう。しかし、予備減速を行う本実施例の駆動方法を採用すれば、最大ト
ルクTmax よりも大きな駆動トルクT1 を発生させることが可能となる。この理由につい
ては、後ほど詳しく説明する。
【0047】
モーター15から最大トルクTmax よりも大きな駆動トルクT1 を発生させることがで
きれば、ロボットアーム(ヘッド部12およびアーム部13)をより短時間で最大速度V
max まで加速することができる。従って、このことは、搬送時間を短縮する方向に作用す
る。また、ロボットアームの回転速度が最大速度Vmax に達したら、その回転速度で所定
の期間だけ回転させ、その後、予備減速を開始する。図6(b)に示されるように、最大
速度Vmax で回転させている間は、モーター15からは摩擦トルクに相当する駆動トルク
Tfrを発生させ、予備減速に移行するとモーター15の発生する駆動トルクを0にする。
そして、ギリギリのタイミングで、今度はモーター15から逆方向の最大トルクTmax を
発生させることによって,B地点で停止させる。
【0048】
ここで、図4を用いて前述したように、予備減速を開始するに先立って、ロボットアー
ムが最大速度Vmax で回転する期間を設ければ、対象物Wの搬送時間が長くなることを抑
制することができる。また、ロボットアームを最大速度Vmax で回転させる期間の長さを
変更すれば、搬送時間が長くなる程度を自由に変更することができる。更に、上述したよ
うに、モーター15から最大トルクTmax よりも大きな駆動トルクT1 を発生させること
ができれば、搬送時間を短縮することができる。従って、モーター15から最大トルクT
max よりも大きな駆動トルクT1 を発生させて搬送時間を短縮した上で、その分だけ搬送
時間が長くなるように予備減速を行えば、全体としての搬送時間は増加させることなく予
備減速を行うことができる。そして、予備減速を行うことで、最大速度Vmax よりも低い
速度V4 (図6(a)参照のこと)からモーター15を用いて減速させることができるの
で、その分だけ、回生エネルギーの発生を抑制することが可能となる。
【0049】
ここで、予備減速を行えば、モーター15の発生する駆動トルクを最大トルクTmax よ
りも大きくすることが可能となる理由について説明する。前述したように、モーター15
が発生する最大トルクTmax は、モーター15を焼き付かせることなくコイルに流すこと
ができる最大電流値によって決定されている。しかし、コイルにも熱容量があるので電流
を流した瞬間にコイルの温度が上昇する訳ではなく、電流を流してからコイルの温度が上
昇し始めるまでの間には若干のタイムラグが存在する。従って、コイルの温度が低い状態
であれば、最大電流値よりも大きな電流を流しても直ちにコイルが焼け付くことはない。
ここで、図2(b)を用いて前述したように、従来の一般的な駆動方法では、ロボットア
ームを加速する際あるいは減速する際に、モーター15は順方向または逆方向の最大トル
クTmax を発生している。従ってこれらの期間では、モーター15のコイルに最大電流値
の電流が流れており、コイルはたいへん発熱した状態となっている。更に、ロボットアー
ムを最大速度Vmax で回転させている間も、モーター15は摩擦トルクに相当する駆動ト
ルクTfrを発生している。従って、最大速度Vmax で定速回転させている期間中もコイル
は発熱した状態となっている。このように従来の一般的な駆動方法では、モーター15の
コイルには常に電流が流されており、常にコイルが発熱した状態となっている。
【0050】
これに対して、図3あるいは図4に例示した本実施例の駆動方法では、予備減速期間中
ではモーター15は駆動トルクを発生させていない。従って、この期間では、モーター1
5のコイルには電流が流れておらず、コイルは発熱していない。更に、予備減速を行って
ロボットアームの回転速度を減少させてから、モーター15から逆方向の最大トルクTma
x を発生させてロボットアームを停止させている関係上、モーター15が逆方向の最大ト
ルクTmax を発生している時間も短くなる。すなわち、モーター15のコイルに最大電流
値の電流が流れている時間が短くなり、コイルが発熱している時間も短くなる。このよう
に予備減速を行うと、予備減速中はモーター15のコイルに電流を流す必要が無く、加え
て、ロボットアームを停止させるために大きな電流を流す時間も短くなる。その結果、モ
ーター15のコイルの熱的な負荷が軽くなり、その分だけコイルの温度が低くなる。従っ
て、短い時間であれば、モーター15のコイルに最大電流値よりも大きな電流を流しても
モーター15を焼け付かせることがない。このような理由から、予備減速を行うと、ロボ
ットアームを加速する際の短時間であれば、最大トルクTmax よりも大きな駆動トルクT
1 を発生させることが可能となるのである。
【0051】
以上、本実施例の駆動方法の種々の態様について説明したが、何れの態様の駆動方法に
おいても、先ず初めにロボットアーム(ここではヘッド部12およびアーム部13)を加
速した後、予備減速を行ってからロボットアームを停止させている。このため、ロボット
アームの回転速度がある程度まで減速した状態から、モーター15を用いてロボットアー
ムを停止させることができるので、回生エネルギーの発生を大きく抑制することが可能と
なる。また、ロボット10が使用される状況に応じて、図3に例示した態様や、図4に例
示した態様や、図6に例示した態様など、種々の態様の駆動方法を使い分けることにより
、ロボット10の使用状況に応じて回生エネルギーの発生を抑制することが可能となる。
【0052】
C.変形例 :
上述したように、本実施例のロボットアームの駆動方法には種々の態様が存在するが、
その他にも、幾つかの変形例を考えることができる。以下では、これら変形例について簡
単に説明する。
【0053】
D−1.第1変形例 :
上述した本実施例のロボットアームの駆動方法では、予備減速期間中はモーター15の
駆動トルクが0に設定されるものとして説明した。しかし前述したように予備減速とは、
モーター15から積極的に逆方向の駆動トルク(制動トルク)を発生させてロボットアー
ムを減速する動作に先立って、摩擦トルクを利用することによってロボットアームを緩慢
に減速させる動作である。従って、モーター15が発生する駆動トルクが摩擦トルクより
も小さいのであれば、モーター15が駆動トルクを発生した状態でも予備減速を行うこと
が可能である。尚、駆動トルクと制動トルクとは、互いに正負が逆の関係にある。従って
、駆動トルクはマイナスの制動トルクに対応しており、モーター15が駆動トルクを発生
している状態は、モーター15が小さな制動トルク(マイナスの制動トルク)を発生する
状態の一態様と考えることができる。
【0054】
図7は、モーター15が駆動トルクを発生しながら予備減速を行う第1変形例の駆動方
法を例示した説明図である。図7(a)には、ロボットアームの回転速度が示されており
、図7(b)には、モーター15が発生する駆動トルクが示されている。図7(a)に示
されているように、第1変形例の駆動方法では、モーター15から最大トルクTmax を発
生させて、ロボットアームを最大速度Vmax まで急加速すると、続いて予備減速を開始す
る。また、図7(b)に示されるように、この予備減速期間中もモーター15は駆動トル
クT2 を発生しているが、この駆動トルクT2 は、摩擦トルクに相当する駆動トルクTfr
よりも小さいので、ロボットアームの回転速度はゆっくりと低下する。もっとも、図3を
用いて前述した代表的な駆動方法とは異なって、図7に例示した第1変形例の駆動方法で
は、予備減速期間中も、モーター15がロボットアームを回転させる方向の駆動トルクT
2 を発生させているので、ロボットアームの回転速度は、図3に示した場合よりも緩慢に
低下していく。そして、ギリギリのタイミングでモーター15から逆方向の最大トルクT
max を発生させることによって、ロボットアームをB地点で停止させる。
【0055】
このように第1変形例の駆動方法によれば、予備減速期間中の回転速度の低下が緩慢に
なるので、A地点からB地点までの平均の回転速度が大きく低下することがない。従って
、搬送時間をあまり長くすることができない場合には、図4を用いて前述した駆動方法に
替えて、図7に例示した第1変形例の駆動方法を採用することも可能である。この第1変
形例の駆動方法を用いた場合でも、予備減速を行ってロボットアームの回転速度を低下さ
せた後に、モーター15から逆方向の最大トルクTmax を発生させて急減速させることが
できるので、回生エネルギーの発生を抑制することが可能となる。
【0056】
また、図7に示した例では、ロボットアームが最大速度Vmax に達した後、直ちに予備
減速を開始するものとして説明した。しかし、ロボットアームが最大速度Vmax に達した
ら、ある期間だけ最大速度Vmax で回転させた後に、予備減速を開始するようにしても良
い。
【0057】
更に、図7に示した例では、予備減速期間中のモーター15が、ロボットアームを回転
させる方向の駆動トルクを発生させるものとして説明した。しかし、摩擦トルクと同じ方
向(ロボットアームの回転方向とは逆方向)の駆動トルク(制動トルク)を発生すること
によって予備減速を行っても良い。
【0058】
図8は、モーター15から制動トルクを発生しながら予備減速を行う第1変形例の駆動
方法を例示した説明図である。図示した例では、ロボットアームの回転速度が最大速度V
max に達すると、モーター15から摩擦トルクと同じ方向の小さな駆動トルクT3 を発生
させている。この駆動トルクT3 は、ロボットアームの回転を制動する方向のトルクであ
るが、摩擦トルクよりも小さいので、ロボットアームを急減速させることはない。従って
、摩擦トルクだけでは減速が緩慢すぎる場合に、減速を若干強くする程度の効果しか有し
ておらず、このような小さな制動トルクを発生させる場合も、予備減速の一つの態様と考
えることができる。そして、このような態様で予備減速を行った場合でも、予備減速を行
ってロボットアームの回転速度を低下させた後に、モーター15から逆方向の最大トルク
Tmax を発生させて急減速させることができるので、回生エネルギーの発生を抑制するこ
とが可能となる。
【0059】
D−2.第2変形例 :
上述した各種態様の実施例あるいは変形例においては、ロボット10のロボットアーム
(ヘッド部12およびアーム部13)が回転移動することによって、対象物Wを搬送する
ものとして説明した。しかし、本発明の駆動方法は、ロボットアームが回転移動すること
によって対象物Wを搬送する場合に限らず、並進移動することによって対象物Wを搬送す
るロボットに対しても好適に適用することができる。以下では、ロボットアームが並進移
動することによって対象物Wを搬送するロボットに、本発明の駆動方法を適用した第2変
形例について説明する。
【0060】
図9は、ロボットアームが並進移動することによって対象物Wを搬送するロボット20
を例示した説明図である。図示したロボット20は、2箇所に設けられた本体部21の間
に、長尺のレール27が指し渡されており、そのレール27を、モーター25を内蔵した
ヘッド部22が移動可能となっている。また、ヘッド部22からは鉛直方向にアーム部2
3が延設されており、アーム部23の先端には対象物Wを把持するハンド部24が設けら
れている。更に、アーム部23は、ヘッド部22に内蔵された図示しないアクチュエータ
によって上下方向に移動可能となっており、ヘッド部22あるいはアーム部23の動作は
、本体部21に内蔵された制御部26によって制御されている。尚、このロボット20で
は、ヘッド部22およびアーム部23によってロボットアームが構成されている。
【0061】
このようなロボット20では、次のようにして対象物Wを搬送する。たとえば、A地点
にある対象物WをB地点まで搬送するのであれば、先ず初めに、ロボットアーム(ヘッド
部22およびアーム部23)をA地点の上方まで移動させ、次に、アーム部23を降下さ
せてハンド部24で対象物Wを把持する。続いて、対象物Wを把持したままアーム部23
を上昇させた後、B地点までロボットアーム(ヘッド部22およびアーム部23)を並進
移動させる。そして、B地点でアーム部23を降下させた後、ハンド部24を開くことに
よって、把持していた対象物Wを放出する。
【0062】
このようなロボット20においても、A地点からB地点までロボットアーム(ヘッド部
22およびアーム部23)を並進移動させるに際しては、A地点から急加速させたロボッ
トアームを、B地点の手前で急減速させて停止させる。従って、B地点の手前で急減速さ
せるに先立って、摩擦力を利用して予備減速を行えば、ロボットアームの急減速時に発生
する回生エネルギーを抑制することができる。その結果、ロボット20を動作させるため
の費用を抑制することができるので、ロボット20を動作させるための費用も考慮したロ
ボット20全体としての生産性を大幅に向上させることが可能となる。
【0063】
以上、本実施例のロボットの駆動方法について説明したが、本発明は上記すべての実施
例および変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様
で実施することが可能である。
【0064】
たとえば、上述した各種の態様の実施例、あるいは変形例では、何れもロボットアーム
の回転速度を最大速度Vmax まで加速した後に、予備減速を開始するものとして説明した
。しかし、ロボットアームが最大速度Vmax に達する前に加速を中止した場合でも、その
後に予備減速を行うようにしても良い。
【0065】
また、上述した各種の態様の実施例、あるいは変形例では、予備減速を伴う動作モード
と、予備減速を伴わない動作モードとを切り換えられるようにしても良い。たとえば、ベ
ルトコンベアーなどでA地点まで運ばれて来た対象物Wを、ロボットアームでB地点まで
搬送する場合、A地点で把持した対象物Wをできるだけ短時間でB地点に搬送するために
、A地点からB地点までは予備減速を伴わない一般的な動作モード(A地点から最大速度
まで急加速して最大速度で定速移動した後、急減速してB地点で停止させるモード)でロ
ボットアームを移動させる。B地点で対象物Wを放した後は、次に搬送する対象物Wが運
ばれてくるまでの間にA地点に戻ればよく、ロボットアームを最短時間で移動させる必要
はない。そこで、B地点からA地点まで戻す際には、予備減速を伴う動作モードでロボッ
トアームを移動させる。このように、ロボットアームの往動時には予備減速を伴わない一
般的な動作モードで移動させ、ロボットアームの復動時には予備減速を伴う動作モードで
移動させるようにしてもよい。あるいは、A地点からB地点までは予備減速を伴わない一
般的な動作モードで移動し、B地点からC地点までは予備減速を伴う動作モードで移動す
るようにしてもよい。
【符号の説明】
【0066】
10…ロボット、 11…本体部、 12…ヘッド部、 13…アーム部、
14…ハンド部、 15…モーター、 16…制御部、 20…ロボット、
21…本体部、 22…ヘッド部、 23…アーム部、 24…ハンド部、
25…モーター、 26…制御部、 27…レール、 W…対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と、該本体部に対して移動可能に構成された可動部と、該可動部を移動させるた
めの動力を発生する動力発生部と、該動力発生部を制御する制御部とを備えるロボットで
あって、
前記制御部は、
前記動力発生部を制御して、前記可動部に対して所定の停止位置に向かう方向の駆動
力を作用させることにより、該可動部を該停止位置に向けて加速させる加速制御部と、
前記動力発生部を制御して、前記停止位置に向けて移動する前記可動部に対して該停
止位置に向かう方向とは逆方向の力である制動力を作用させることにより、該可動部を減
速させた後に該停止位置に停止させる停止制御部と、
前記停止制御手段が前記可動部を減速させるに先立って、該可動部を減速させるため
の前記制動力よりも小さな制動力が該可動部に作用するように前記動力発生部を制御する
ことにより、該可動部を前記停止制御手段による減速よりも緩やかに減速させる減速制御
部と
を備えるロボット。
【請求項2】
請求項1に記載のロボットであって、
前記減速制御部は、前記動力発生部が前記可動部に及ぼす前記駆動力が0となるように
制御することにより、前記可動部を減速させる制御部であるロボット。
【請求項3】
請求項1に記載のロボットであって、
前記加速制御部によって加速された前記可動部に対して、所定の大きさの駆動力を作用
させることにより、該可動部を加速後の速度で定速移動させる定速移動制御部を備え、
前記減速制御部は、前記定速移動した後の前記可動部を減速させる制御部であるロボッ
ト。
【請求項4】
請求項1に記載のロボットであって、
前記可動部は、前記本体部に設けられた回転軸を中心として回転する可動部であり、
前記動力発生部は、前記可動部を回転させる回転トルクを発生するモーターであるロボ
ット。
【請求項5】
本体部と、該本体部に対して移動可能に構成されたな可動部とを備えるロボットの駆動
方法であって、
停止している前記可動部に対して、所定の停止位置に向かう方向の駆動力を作用させる
ことにより、該可動部を該停止位置に向けて加速させる加速工程と、
前記停止位置に向かって移動している前記可動部に対して、該停止位置に向かう方向と
は逆方向の力である制動力を作用させて該可動部を減速させた後に、該可動部を該停止位
置に停止させる停止工程と、
前記停止工程で前記可動部を減速させるに先立って、該可動部を減速させるための前記
制動力よりも小さな制動力を該可動部に作用させることにより、該可動部を前記停止工程
における減速よりも緩やかに減速させる減速工程と
を備える駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−40665(P2012−40665A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185846(P2010−185846)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】