説明

ロボットハンド

【課題】 指部を使った種々の作業を適切に実施することができるロボットハンドを提供する。
【解決手段】 ロボットハンド1は、ベース2に連結された多関節の指部3〜6を備えている。指部4は関節11,13,15を有し、指部5は関節20,22,24を有し、指部6は関節26,28,30を有している。指部4の関節11,15は、ばねが組み込まれた柔軟関節として構成されている。同様に、指部5の関節20,24及び指部6の関節26,30は、何れも柔軟関節として構成されている。柔軟関節20,24及び柔軟関節26,30に組み込まれたばねのばね定数を柔軟関節11,15に組み込まれたばねのばね定数よりも高くすることで、柔軟関節20,24及び柔軟関節26,30の剛性が柔軟関節11,15の剛性よりも高くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多関節の指部を備えたロボットハンドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
多関節の指部を備えたロボットハンドとしては、例えば特許文献1に記載されているように、DIP関節がPIP関節に連動して駆動される連動受動柔軟関節で構成されてなるものが知られている。
【特許文献1】特開2003−220589号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術においては、指部毎の柔軟関節の最適化がなされていないため、以下のような問題点が存在する。即ち、柔軟関節の剛性が低い場合には、冷蔵庫や電子レンジ等の戸を開けたり窓を開ける等といった力のかかる作業を行うときに、ロボットハンドの指部が伸展してしまい、上手く作業できない場合がある。一方、柔軟関節の剛性が高い場合には、パンや牛乳パック等の柔軟物を把持するときに、それらの物体を握り潰してしまうことがある。
【0004】
本発明の目的は、指部を使った種々の作業を適切に実施することができるロボットハンドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、弾性体が設けられてなる柔軟関節を有する複数本の指部を備えたロボットハンドであって、指部毎に柔軟関節の剛性が異なるように構成されていることを特徴とするものである。
【0006】
このようなロボットハンドにおいて、例えば柔軟物を把持するときは、剛性の低い柔軟関節を有する指部を使用することで、柔軟物を握り潰すことなく安定して掴むことが可能となる。また、ドアや窓の開け閉め等といった力が必要な作業を行うときは、剛性の高い柔軟関節を有する指部を使用することで、対象物をしっかり掴んで作業をスムーズに行うことが可能となる。このように作業内容や目的に応じて指部を使い分けることにより、指部を使った種々の作業を適切に実施することができる。
【0007】
好ましくは、複数本の指部のうちの対向可能な2本の指部において、何れか一方の指部の剛性が他方の指部の剛性よりも大きい。対向する2本の指部の何れか一方に柔軟性を持たせ、他方に剛性を持たせることで、剛性の高い指部で物体に安定した反力を与えると共に、柔軟性のある指部で物体の形状や大きさの認識誤差を受動的に吸収することができるので、安定した把持等を行うことができる。
【0008】
また、複数本の指部のうちの対向しない2本の指部において、何れか一方の指部の剛性が他方の指部の剛性よりも大きくても良い。対向しない複数の指部の中から物体の柔軟性に適切な指部を選出することにより、対向する指部と共に適切な把持等を行うことができる。
【0009】
また、好ましくは、弾性体がばねであり、指部毎にばねのばね定数が異なることで柔軟関節の剛性が異なる。この場合には、指部毎に異なる剛性をもった柔軟関節を簡単な構造で実現することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、1つのロボットハンドでも種々の作業を適切に実施することができる。これにより、例えば種々の作業に対処すべく複数種類のロボットハンドを用意するといったことが不要となるため、コスト的に有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係わるロボットハンドの好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明に係わるロボットハンドの一実施形態を示す概略平面図である。同図において、本実施形態のロボットハンド1は、掌に相当するベース2と、このベース2に連結された多関節の指部3〜6とを備えている。なお、指部3は、人間の親指に相当するものである。
【0013】
指部3は、ベース2にMP関節7を介して連結されたリンク8と、このリンク8にIP関節9を介して連結されたリンク10とからなっている。関節7,9は、ばね等の弾性体が組み込まれていない剛体関節として構成されている。関節7,9には、指部3を曲げ伸ばしさせるためのモータ(図示せず)がそれぞれ内蔵されている。
【0014】
指部4は、ベース2にMP関節11を介して連結されたリンク12と、このリンク12にPIP関節13を介して連結されたリンク14と、このリンク14にDIP関節15を介して連結されたリンク16とからなっている。関節13は剛体関節として構成され、関節11,15は、ばね18(図2参照)が組み込まれた柔軟関節として構成されている。関節11,13には、指部4を曲げ伸ばしさせるためのモータ(図示せず)がそれぞれ内蔵されている。
【0015】
DIP関節15は、PIP関節13に内蔵されたモータにより関節13と連動して回動する連動受動柔軟関節となっている。このようにDIP関節15を連動受動構造とすることにより、指部4の構造がシンプル化されると共に指部4を細くすることができる。
【0016】
このような指部4におけるDIP関節15の具体的構造を図2に示す。図2において、PIP関節13の回転軸13aとDIP関節15の回転軸15aとは、リンク14の主リンク部材17で連結されている。関節15には、トーションばね18が回転軸15aを巻き付けるように装着されている。トーションばね18の一端は関節15に固定され、トーションばね18の他端はリンク16に固定されている。また、関節13,15同士は、連動リンク部材19で連結されている。
【0017】
関節13に内蔵されたモータ(図示せず)により関節13を矢印A方向に回動させると、この回転動作に連動して関節15が矢印B方向に回動し、指部4が曲がるようになる。そして、関節15の回動中に指部4のリンク16が何らかの物体に当たることで、矢印C方向(伸展方向)の反力が発生すると、その反力がトーションばね18に吸収されるようになる。
【0018】
指部5は、ベース2にMP関節20を介して連結されたリンク21と、このリンク21にPIP関節22を介して連結されたリンク23と、このリンク23にDIP関節24を介して連結されたリンク25とからなっている。関節22は剛体関節として構成され、関節20,24は柔軟関節として構成されている。関節20,22には、指部5を曲げ伸ばしさせるためのモータ(図示せず)がそれぞれ内蔵されている。関節24は、関節22と連動して回動する連動受動柔軟関節となっている。
【0019】
指部6は、ベース2にMP関節26を介して連結されたリンク27と、このリンク27にPIP関節28を介して連結されたリンク29と、このリンク29にDIP関節30を介して連結されたリンク31とからなっている。関節28は剛体関節として構成され、関節26,30は柔軟関節として構成されている。関節26,28には、指部6を曲げ伸ばしさせるためのモータ(図示せず)がそれぞれ内蔵されている。関節30は、関節28と連動して回動する連動受動柔軟関節となっている。
【0020】
指部5の柔軟関節20,24の剛性は、指部4の柔軟関節11,15の剛性よりも高くなっている。また、指部6の柔軟関節26,30の剛性は、柔軟関節20,24の剛性と同等である。具体的には、柔軟関節20,24及び柔軟関節26,30に組み込まれたばね(図示せず)のばね定数は、柔軟関節11,15に組み込まれたばね(図2のトーションばね18に相当)のばね定数よりも高くなっている。
【0021】
例えば、ドアの開閉を可能とする柔軟関節20,24及び柔軟関節26,30の剛性は、物体の柔らかさ認識を可能とする柔軟関節11,15の剛性に対して1.5倍程度に設定されている。
【0022】
以上から、互いに対向する指部3,4においては、指部3の剛性は指部4の剛性よりも高くなっている。また、互いに対向する指部4,5においては、指部5の剛性は指部4の剛性よりも高くなっている。さらに、対向しない指部3,5においては、指部3の剛性は指部5の剛性よりも高くなっている。
【0023】
以上のように構成したロボットハンド1において、指先で器用に操る必要がある動作や、指先で物体の柔らかさを認識する動作等については、図3に示すように、指部3と柔らかい柔軟関節11,15を有する指部4とを用いて行う。この場合には、指先に十分ななじみが必要な操り動作を安定して行うことができる。また、物体の柔らかさが正確に認識可能となるため、パンや牛乳パック等の柔軟物体32を握り潰すこと無く把持することができる。
【0024】
また、ドアの取っ手を掴んでのドアの開け閉めといった十分な力が必要となる動作等については、図4に示すように、指部3と硬い柔軟関節20,24を有する指部5とを用いて行う。この場合には、ドア33の取っ手33aを掴んだときに、指部5のリンク25が柔軟関節24に組み込まれたばね(図示せず)の力に負けて伸展してしまうことが無くなるため、ドア33の開閉動作をスムーズに行うことができる。なお、指部3,5に加えて、硬い柔軟関節26,30を有する指部6を使用しても良く、取っ手33aに十分なスペースがある場合には、更に指部4を使用しても良い。
【0025】
このように本実施形態においては、指部4の柔軟関節11,15の剛性と指部5の柔軟関節20,24の剛性とを異なるように設定し、作業の動作や目的に応じて、使用する指部3〜5を使い分けるようにしたので、多種多様な作業を1つのロボットハンド1で適切に実施することができる。
【0026】
なお、本発明のロボットハンドは、上記実施形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。
【0027】
例えば低剛性の柔軟関節を有する指部と高剛性の柔軟関節を有する指部との組み合わせとしては、特に上記実施形態のものには限られない。例えば図5(A)に示すロボットハンド1では、指部4の柔軟関節11,15及び指部6の柔軟関節26,30の剛性を指部5の柔軟関節20,24の剛性よりも高くしている。
【0028】
また、柔軟関節の剛性の設定パターンとしては、特に上記実施形態のような2段階に限られず、3段階以上に分けても良い。例えば図5(B)に示すロボットハンド1では、指部6の柔軟関節26,30の剛性を十分高くし、指部5の柔軟関節20,24の剛性をやや高くし、指部4の柔軟関節11,15の剛性を低くしている。
【0029】
また、柔軟関節及び剛体関節の存在箇所としては、特に上記実施形態のものには限られない。例えば図6(A)に示すロボットハンド1では、指部6のPIP関節28に加えてMP関節26が剛体関節となっており、図6(B)に示すロボットハンド1では、指部6の全ての関節26,28,30が剛体関節となっている。
【0030】
さらに、指部の本数としては、特に上記実施形態のような4本に限られず、例えば3本でも5本でも良い。
【0031】
また、上記実施形態では、ばねが組み込まれた関節が柔軟関節となっているが、弾性体としてばねの代わりにゴムを組み込んで柔軟関節を構成しても良い。この場合には、ゴムの硬さを指部毎に変えることで、柔軟関節の剛性を指部毎に変えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係わるロボットハンドの一実施形態を示す概略平面図である。
【図2】図1に示したIP関節(連動受動柔軟関節)の具体的構造を示す図である。
【図3】図1に示したロボットハンドにより柔らかい物体を把持している状態を示す図である。
【図4】図1に示したロボットハンドによりドアの開閉動作を行っている状態を示す図である。
【図5】図1に示したロボットハンドの変形例を示す概略平面図である。
【図6】図1に示したロボットハンドの他の変形例を示す概略平面図である。
【符号の説明】
【0033】
1…ロボットハンド、4〜6…指部、11…MP関節(柔軟関節)、15…DIP関節(柔軟関節)、18…トーションばね(弾性体)、20…MP関節(柔軟関節)、24…DIP関節(柔軟関節)、26…MP関節(柔軟関節)、30…DIP関節(柔軟関節)。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体が設けられてなる柔軟関節を有する複数本の指部を備えたロボットハンドであって、
前記指部毎に前記柔軟関節の剛性が異なるように構成されていることを特徴とするロボットハンド。
【請求項2】
前記複数本の指部のうちの対向可能な2本の指部において、何れか一方の指部の剛性が他方の指部の剛性よりも大きいことを特徴とする請求項1記載のロボットハンド。
【請求項3】
前記複数本の指部のうちの対向しない2本の指部において、何れか一方の指部の剛性が他方の指部の剛性よりも大きいことを特徴とする請求項1記載のロボットハンド。
【請求項4】
前記弾性体がばねであり、
前記指部毎に前記ばねのばね定数が異なることで前記柔軟関節の剛性が異なることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のロボットハンド。






【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−125888(P2009−125888A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304994(P2007−304994)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】