説明

ロボット用触覚センサ装置

【課題】弱く接触しても検知することができるとともに、センサをロボットのカバーに取り付けることができることを可能にする。
【解決手段】ロボット40の本体の周囲を覆うカバー50を振動させるアクチュエータ4と、カバーに取り付けられカバーの振動を検出するセンサ5と、アクチュエータを一定の条件で振動をするよう制御する振動制御部3と、アクチュエータにより与えた振動とセンサにより検出された振動とを比較しカバーへの接触の有無を検出する接触検出部2と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動または動作するロボットのカバーに取り付け、人や物との接触、衝突、押圧、またはすべりを検出するロボット用触覚センサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボット用接触センサとして、ロボットのカバー表面上にスイッチ状のセンサを多数配置したもの、タクタイルセンサなどのセンサをマトリクス状になったある一定範囲に取り付けるもの、ロボットの柔らかい中空空間のカバーを区分けし、区分けされ中空空間ごとに圧力センサをとりつけてその圧力の変動により検知するものが知られている。また、カバーを硬質カバーとし、その叩かれた際の振動音をマイクにより検出するものもある。一方、板にセンサを数箇所取り付け、板が叩かれた際にそれを検出するものが知られている。また、タッチパネルで触れられたときに、パネルを振動させることで接触をフィードバックさせて検知するものもある。
【0003】
特許文献1では、コミュニケーション用ロボットの全身を覆う皮膚として、ウレタンとシリコンゴム層を積層したものを用い、皮膚中に複数のピエゾセンサシートを分散配置させることで、接触を検出し、安全で親和性の高いコミュニケーション用ロボットが開示されている。
【0004】
特許文献2では、同じくコミュニケーション用ロボットにおいて、圧電センサの感度を動的に変化させることにより近接センサまたは圧力センサとして機能させるコミュニケーション用ロボットが開示されている。
【0005】
特許文献3では、圧電素子と、一定の周波数で発振する振動子を、絶縁部材を介した積層構造で一体的に接合し、圧覚およびすべり覚の両方を同時に検出する触覚センサが開示されている。
【0006】
特許文献4では、振動子および接触子を帰還ループによる自励発振回路によって共振状態で振動させ、その接触子が物体と接触したときの共振状態の変化情報を得て、これを物体の硬さ情報とする触覚センサが開示されている。
【0007】
特許文献5では、ディスプレイにタッチセンサを重ね合わせたタッチパネルのようなパネル上の入力装置で、画面上に表示されたボタンが使用者により押下された際に、パネルを振動させることで、使用者に押下したことを認識させるスイッチが開示されている。
【0008】
また、非特許文献1では、ロボットの対人行動において、常にサーボモータを用いてロボットの体全体を縦、横方向に振動させることにより「生物らしさ」を演出することが開示されている。
【特許文献1】特開2004−283975号公報
【特許文献2】特開2005−161450号公報
【特許文献3】特開2002−31574号公報
【特許文献4】特開平10−62328号公報
【特許文献5】特開2005−228161号公報
【非特許文献1】“ロボットの対人行動による親和感の演出”中田 亨,佐藤 知正,森 武俊,溝口 博,日本ロボット学会誌,Vol.15, No.7, pp.1068-1074,1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の問題点としては、上記スイッチ、タクタイルセンサ、中空空間と言ったものを用いることは、いずれも設置にスペースをとり、カバーへの制約が大きい。またマイクで検出することは叩く、強く撫でるなど変化の大きな接触は判別できるが、触れる、触るといった判別は困難である。
【0010】
また、特許文献1、2に示される全身に柔軟な皮膚センサを設置することは、カバーへの制約条件が大きく、設置が容易ではない。また、圧力に関しては測定ができるが、すべりに関しては測定が困難である。
【0011】
特許文献3に示される触覚センサは、センサに振動を与え、その抑制を検出することにより圧覚とすべり覚を検出することが可能であるが、その構成上、ロボット全体を覆うカバーへの適用は容易ではない。
【0012】
特許文献4に示される触覚センサは、同じく抑制を検出するものであるが、物体の硬さを測定することが目的であり、ロボットのカバーへの接触検出をするものではない。
【0013】
特許文献5に示されるスイッチは、平面板への接触結果を使用者にフィードバックするものであり、ロボットのカバーには適さない。
【0014】
非特許文献1に示すロボットは、人が接触したかどうかは2つのタッチセンサによって検出しており,あらかじめ行っている振動動作が接触を検出しているのではない。
【0015】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであって、弱く接触しても検知することができるとともに、センサをロボットのカバーに取り付けることのできるロボット用触覚センサ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様によるロボット用触覚センサ装置は、ロボットの本体の周囲を覆うカバーを振動させるアクチュエータと、前記カバーに取り付けられ前記カバーの振動を検出するセンサと、前記アクチュエータを一定の条件で振動をするよう制御する振動制御部と、前記アクチュエータにより与えた振動と前記センサにより検出された振動とを比較し前記カバーへの接触の有無を検出する接触検出部と、を備えていることを特徴とする。
【0017】
なお、前記センサは前記カバーに複数個取り付けられていてもよい。
【0018】
なお、前記アクチュエータは、振動を加えることが可能であるとともに、振動を抑制された際にその出力が変化するアクチュエータであってもよい。
【0019】
なお、前記アクチュエータは、前記ロボットに備え付けられ、前記ロボットを動作させるためのアクチュエータであってもよい。
【0020】
なお、前記ロボットの周囲に人がいるか否かを検出する検出器を更に備え、前記検出器により前記ロボットの周囲に人がいると検出されたときにのみ、前記振動制御部が前記アクチュエータを制御して前記カバーを振動させてもよい。
【0021】
なお、前記振動制御部は、前記ロボットが移動または動作しているときにのみ、前記アクチュエータを介して前記カバーを振動させてもよい。
【0022】
なお、前記接触検出部により接触が検出された際、前記振動制御部は、前記接触が検出される前の振動と異なる振動を前記カバーに与えるように制御してもよい。
【0023】
なお、前記振動制御部は、人や動物のもつ固有のリズムに合わせ振動を前記カバーに与えてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、弱く接触しても検知することができるとともに、センサをロボットのカバーに取り付けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の実施形態を以下に図面を参照して説明する。
【0026】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態によるロボット用触覚センサ装置の構成を図1に示す。本実施形態のセンサ装置1は、接触検出部2と、振動制御部3と、アクチュエータ4と、センサ5と、検出信号処理部6とを備えている。
【0027】
アクチュエータ4は、例えば振動モータや圧電素子などで構成され、図2に示すようにロボットのカバー50に取り付けられ、カバー50を振動させる。このアクチュエータとして、モータや圧電素子を用いると、カバー50に人または物体が接触し振動が抑制された際にその出力から上記接触をセンシングすることが可能となる。また、カバー50を振動させるには、ロボットの移動や腕などの動作に用いられるサーボモータを発振させることにより振動を与えてもよい。この場合、ロボットの移動や腕などの動作用のサーボモータを流用することで、発振させるための専用のアクチュエータを備えなくてもよいという効果がある。
【0028】
ロボットのカバー50は、ロボットの周囲を覆う複数の部分に分けられ、各部分自体は振動しやすい硬質な部材からなっていて振動を伝えにくい柔軟な部材を介してロボット本体に固定される。
【0029】
また、図2に示すように、センサ5はロボットのカバー50に取り付けられ、例えば加速度センサや圧電センサ、カバーの振動を検出可能なマイクなどで構成され、カバー50の振動を検出する。なお、センサ5としては、例えば、アクチュエータ4として用いられる振動モータの出力電流などを測定するなど、振動が抑制された際にアクチュエータ4で取得できる信号を利用して振動を検出してもよい。
【0030】
振動制御部3は、接触検出部2からの指令波形に基づき、ロボットのカバー50が一定周期での振動するようアクチュエータ4を制御する。振動制御部3は、ロボットが移動しているときまたは腕などが物理的に動作しているときのみ振動を与えてもよい。また、ロボットの周囲にいる人を検出するセンサ(例えば、ロボットの周囲の温度変化を赤外線を用いて検出することで人の動きを検出する焦電センサや、カメラ等)をロボットに取り付け、周囲に人が存在すると検出されたときのみ振動を与えてもよい。人や物体に触れるまたは触れられる可能性が高いロボットが移動または動作する際や、周囲に人が居るときにのみ、振動させることでエネルギー損失を減らす効果がある。
【0031】
検出信号処理部6では、センサ5が検出した振動を電気信号(例えば電圧信号)の波形に変換し、この変換された検出波形を接触検出部2に送る。
【0032】
接触検出部2では、振動制御部3に与えた指令波形と、検出信号処理部6から送られてきた検出波形とを比較し、接触、衝突、押圧、すべりの有無を検出する。具体的な検出方法の一例としては、事前に、カバー50にある基準振動波形を与え、カバー50に接触していない状態の波形を測定。これを基準検出波形とする。次に、同じく、基準振動波形を与えながら、カバー50のいくつかの箇所をある一定の力で触れた際の検出波形を取得し、その基準振動検出波形を蓄積する。実際に測定する際には、この基準振動検出波形と検出信号処理部6の検出波形との比較を行うことで、接触箇所の推定を行う。同様に押圧を変化させた波形、衝突を与えた際の波形、すべりを与えた際の波形を蓄積し、これらと比較することで、接触状態を検出する。また検出の別な方法としては、カバー50の振動特性を予め求めて、力学的な解析により、その接触状態および位置を検出する方法もある。接触検出部2は、接触が検出された際に、その波形が小さい場合などは、制御振動部3に与える振動を変化させ、検出感度を上げることも可能である。また振動を変化させることは、接触対象が人である場合には、接触を検出したことを人にフィードバックすることも可能となる。例えば、人ならば、腕を触られたときに、ビクッとする(腕がこわばり微小に振動する)ようにロボットが触れられたときに、振動パターンまたは振幅を変化させることで、自然な形で、その検出を人に知らせる効果がある。カバー50に振動を与え、ロボットが人または物体に接触した際に検出される信号の模式図を図3に示す。図3からわかるように、カバー50に振動が与えられているときにロボットが人または物体に接触すると、カバー50の振動波形の振幅が小さくなるか、または振動の周期が乱れる。
【0033】
本実施形態の触覚センサ装置1を取り付けたロボット40が、人60に接触した際の様子を模式的に図4に、物体70に接触した際の様子を模式的に図5に示す。図4または図5に示すようにロボット40のカバー50が振動した状態で人60や物体70に接触し、その接触状況・接触部位を検出する。
【0034】
次に、本実施形態の触覚センサ装置によってロボットのカバー50に与えられる振動の周期について述べる。この振動の周期は、厳密な接触したかどうかを検出するために高周波数での振動を行う。しかし、周波数が高すぎると,振動そのものの発する音が不快となるので、不快にならないように人にとって気にならない程度の超音波領域の波形を用いてもよい。また生物の鼓動を表現するような、数Hz程度の大きな周期を持つ振動パターン、リスなどの小動物が静止時にも行っているような細かい振動を積極的に与えることで、より生物らしさを表現、演出することにより、ユーザに対して親密な感情を与える効果を持つことが知られている(例えば、前掲の非特許文献1参照)。本実施形態においても、振動の周期を、人や動物のもつ固有のリズムに合わせて振動させることで、ロボットがユーザに対して、親密な感情を与える効果がある。
【0035】
以上説明したように、本実施形態によれば、振動をロボットのカバーに発生させ、カバーへの接触をその振動の波形に基づいて検出しているので、弱い接触も検出することができる。また、「生物らしさ」の演出、すなわち、ロボットが“生きている”感じの演出を行うことができ、ロボットで問題となる、“動きがないことによる違和感”の解消を図ることが可能となる。また、人がロボットに触れた際、触れられたことをフィードバックすることができる。
【0036】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態によるロボット用触覚センサ装置の構成を図6に示す。本実施形態の触覚センサ装置1Aは、図1に示す第1実施形態の触覚センサ装置1において、センサ5を複数のセンサ5Aに、検出信号処理部6を複数の検出信号処理部6Aに置き換えた構成となっている。検出信号処理部6Aは複数のセンサ5Aに対応して設けられている。本実施形態において、ロボットのカバー50に取り付けたアクチュエータおよび複数のセンサ5Aの取り付け例を図7に示す。本実施形態では、センサ5Aと検出信号処理部6Aを複数配して検出波形を増やし、接触検出部2において推定される接触位置、接触状態の精度を向上させることができる。
【0037】
以上説明したように、本実施形態も第1実施形態と同様に、振動をロボットのカバーに発生させ、カバーへの接触をその振動の波形に基づいて検出しているので、弱い接触も検出することができる。また、「生物らしさ」の演出、すなわち、ロボットが“生きている”感じの演出を行うことができ、ロボットで問題となる、“動きがないことによる違和感”の解消を図ることが可能となる。また、人がロボットに触れた際、触れられたことをフィードバックすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1実施形態によるロボット用触覚センサ装置の構成を示すブロック図。
【図2】第1実施形態のロボット用触覚センサ装置に係るアクチュエータおよびセンサが取り付けられたカバーを示す模式図。
【図3】第1または第2実施形態のロボット用触覚センサ装置によって検出される接触の有無を示す信号波形図。
【図4】第1または第2実施形態のロボット用触覚センサ装置を取り付けたロボットが人と接触したときの様子を示す模式図。
【図5】第1または第2実施形態のロボット用触覚センサ装置を取り付けたロボットが物体と接触したときの様子を示す模式図。
【図6】本発明の第2実施形態によるロボット用触覚センサ装置の構成を示すブロック図。
【図7】第2実施形態のロボット用触覚センサ装置に係るアクチュエータおよびセンサが取り付けられたカバーを示す模式図。
【符号の説明】
【0039】
1 ロボット用触覚センサ装置
1A ロボット用触覚センサ装置
2 接触検出部
3 振動制御部
4 アクチュエータ
5 センサ
5A センサ
6 検出信号処理部
6A 検出信号処理部
40 ロボット
50 カバー
70 物体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットの本体の周囲を覆うカバーを振動させるアクチュエータと、
前記カバーに取り付けられ前記カバーの振動を検出するセンサと、
前記アクチュエータを一定の条件で振動をするよう制御する振動制御部と、
前記アクチュエータにより与えた振動と前記センサにより検出された振動とを比較し前記カバーへの接触の有無を検出する接触検出部と、
を備えていることを特徴とするロボット用触覚センサ装置。
【請求項2】
前記センサは前記カバーに複数個取り付けられていることを特徴とするロボット用触覚センサ装置。
【請求項3】
前記アクチュエータは、振動を加えることが可能であるとともに、振動を抑制された際にその出力が変化するアクチュエータであることを特徴とする請求項1または2記載のロボット用触覚センサ装置。
【請求項4】
前記アクチュエータは、前記ロボットに備え付けられ、前記ロボットを動作させるためのアクチュエータであることを特徴とする請求項1または2記載のロボット用触覚センサ装置。
【請求項5】
前記ロボットの周囲に人がいるか否かを検出する検出器を更に備え、前記検出器により前記ロボットの周囲に人がいると検出されたときにのみ、前記振動制御部が前記アクチュエータを制御して前記カバーを振動させることを特徴とする請求項1乃至4のいずかに記載のロボット用触覚センサ装置。
【請求項6】
前記振動制御部は、前記ロボットが移動または動作しているときにのみ、前記アクチュエータを介して前記カバーを振動させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のロボット用触覚センサ装置。
【請求項7】
前記接触検出部により接触が検出された際、前記振動制御部は、前記接触が検出される前の振動と異なる振動を前記カバーに与えるように制御することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のロボット用触覚センサ装置。
【請求項8】
前記振動制御部は、人や動物のもつ固有のリズムに合わせ振動を前記カバーに与えることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のロボット用触覚センサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−268620(P2007−268620A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93973(P2006−93973)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】