説明

ロータ

【課題】塑性変形による磁石の軸方向への抜けを抑えつつ、塑性変形によって磁石の固定を行うことができるロータを提供する。
【解決手段】貫通孔36の周囲に形成された小穴部41を径方向に塑性変形させて磁石34と径方向において当接する小突部42と、少なくとも軸方向両側に位置するコアシート35に形成される大穴部45を周方向に塑性変形させて磁石34と軸方向において当接する大突部46とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ロータコアに貫通孔を有し、この貫通孔に磁石を配設した所謂IPM型のロータが広く知られている(例えば特許文献1参照)。
特許文献1のロータは、コアシートを複数積層してなるロータコアの軸方向両側のコアシートにおいて、その貫通孔の周囲にかしめ用の穴部を形成し、この穴部をかしめによって塑性変形することでロータコアの略径方向に突出する凸部を形成している。これにより、ロータコアの軸方向両側の凸部がロータコアの貫通孔に配設した磁石を挟み込むため磁石の軸方向への脱落を抑えることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3403682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のロータでは、穴部を塑性変形させることで凸部を形成しているが、このとき凸部を形成するために穴部が大きくなってしまい、穴部の拡大によって磁気抵抗が増大してしまう虞がある。また、この穴部の塑性変形では貫通孔からの軸方向への抜けを抑えることができるものの、塑性変形によって磁石の固定を行うことは考慮されていない。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、塑性変形による磁石の軸方向への抜けを抑えつつ、塑性変形によって磁石の固定を行うことができるロータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、貫通孔を有するコアシートを積層してなるロータコアと、該ロータコアの貫通孔に挿入配置される磁石とを備えて径方向においてステータと対向配置されるロータであって、前記貫通孔の周囲に形成された小穴部を径方向に塑性変形させて前記磁石と径方向において当接する小突部と、少なくとも軸方向両側に位置するコアシートの前記貫通孔の周囲に形成される大穴部の少なくとも1つを周方向に塑性変形させて前記磁石と軸方向視においてラップする大突部とを備えたことをその要旨とする。
【0007】
この発明では、貫通孔の周囲には、径方向に塑性変形されて前記磁石と径方向において当接する小突部と、少なくとも軸方向両側に位置するコアシートの前記貫通孔の周囲に形成される大穴部の少なくとも1つを周方向に塑性変形させて前記磁石と軸方向視においてラップする大突部とを備える。このように、塑性変形によって形成される小突部によって磁石を径方向に当接固定しつつ、周方向に塑性変形されて形成される大突部によって磁石の抜けを抑えることができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のロータにおいて、前記大突部は、周方向に対向する位置にそれぞれ少なくとも1つ形成されることをその要旨とする。
この発明では、大突部が周方向に対向する位置にそれぞれ少なくとも1つ形成されるため、磁石の少なくとも周方向両側が前記大突部と軸方向で当接することとなり、より確実に貫通孔から磁石の抜け抑えることができる。
【発明の効果】
【0009】
従って、上記記載の発明によれば、塑性変形による磁石の軸方向への抜けを抑えつつ、塑性変形によって磁石の固定を行うことができるロータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態におけるモータの断面図である。
【図2】同上におけるロータ及びステータの断面図である。
【図3】(a)(b)同上におけるロータの要部拡大図である。
【図4】別例におけるモータの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態のモータ10を構成するモータケース11は、ケース本体12と、このケース本体12の開口部を閉塞する略円板状のカバープレート13とから構成されている。
【0012】
有底円筒状をなすケース本体12は、円筒状の筒状部12aと、同筒状部12aの軸方向の一端(図1では上端)を閉塞する閉塞部12bと、同筒状部12aの軸方向の他端部から径方向外側に延びる円環状のフランジ部12cとから構成されている。尚、筒状部12a、閉塞部12b及びフランジ部12cは一体に形成されている。また、本実施形態のケース本体12は、磁性体からなる金属板材にプレス加工を施して形成されている。そして、ケース本体12のフランジ部12cに前記カバープレート13が固定されることにより、ケース本体12の開口部は該カバープレート13にて閉塞されている。
【0013】
筒状部12aの内周面には、円筒状のステータ21が固定されている。このステータ21は、円筒状のステータコア22と、このステータコア22に巻装されたコイル23とを備えている。
【0014】
図1及び図2に示すように、ステータコア22は、筒状部12aに固定される円筒状のステータ固定部22aと、該ステータ固定部22aから径方向内側に延びて前記コイル23が巻回された複数のティース22bとを有する。そして、このステータコア22は、周方向に配置されティース22bをそれぞれ有する複数(本実施形態では12個)の分割コア24から構成されている。
【0015】
図2に示すように、各分割コア24は、軸方向から見た形状が円弧状をなす分割固定部24aと、この分割固定部24aの内周面から径方向内側に延びる前記ティース22bとから構成されている。各分割コア24において、ティース22bは、分割固定部24aの周方向の中央部から径方向内側に延びるとともに、各分割コア24は、軸方向から見た形状が略T字状をなしている。
【0016】
そして、図2に示すように、複数の分割コア24は、ティース22bの先端が径方向内側を向くように、且つ、分割固定部24aにて円筒状のステータ固定部22aが形成されるように連結されることによりステータコア22を形成している。
【0017】
前記ステータ21の内側には、ロータ31が配置されている。ロータ31は、円柱状の回転軸32と、この回転軸32に一体回転可能に固定されたロータコア33と、このロータコア33にて保持された複数(本実施形態では4個)の磁石34とから構成されている。
【0018】
回転軸32は、円柱状をなし、通常は鋼材が用いられ、磁束の漏れを抑制したい場合にはステンレス等の非磁性体が用いられる。この回転軸32の反出力側である基端部(図1において上側の端部)は、閉塞部12bの径方向の中央部に設けられた軸受32aによって軸支される。一方、同回転軸32の出力側である先端側の部位は、前記カバープレート13の径方向の中央部に設けられた軸受32bによって軸支されている。そして、回転軸32は、ステータコア22の径方向内側で同ステータコア22と同心状に配置されている。また、回転軸32の先端部は、カバープレート13の径方向の中央部を貫通してモータケース11の外部に突出(露出)して出力軸を形成する。
【0019】
図1及び図2に示すように、前記ロータコア33は、磁性体よりなる金属板材をプレス加工により打ち抜いて形成した複数枚のコアシート35を積層して構成され、筒状の固定部33aと、この固定部33aの外周に固定部33aと一体に形成された4個の疑似磁極33bとを備えている。
【0020】
固定部33aの径方向の中央部に形成された固定孔33cは、固定部33aを軸方向に貫通するとともに、固定孔33cの内径は、回転軸32の外径よりも若干小さく設定されている。
【0021】
また、固定部33aの外周面には、疑似磁極33b間となる部分に軸方向に貫通する貫通孔36が形成されている。この貫通孔36には、磁石34が挿入されている。各磁石34は、ロータコア33の軸方向に長い直方体状をなすとともに、その軸方向の長さは、ロータコア33の軸方向の長さよりも若干短く形成されている。具体的には、軸方向両端部に位置する2枚のコアシート35の分だけ軸方向長さが前記ロータコア33よりも短く形成される。
【0022】
この磁石34は、図1〜図3に示すように、前記貫通孔36に挿入された状態で、前記貫通孔36を構成する各コアシート35の枠部35a(貫通孔36)の径方向内側に形成された小穴部41を図示しない治具にて径方向外側に塑性変形させて形成される小突部42にて径方向外側に押圧される。具体的には、貫通孔36の径方向外側の壁部36aに磁石34を当接(面接触)させた状態で、径方向内側の前記小穴部41を前記磁石と当接する位置まで塑性変形させて小突部42を形成する。このため、小突部42によって前記磁石34が前記壁部36aと挟持されて保持される。
【0023】
ここで、軸方向両端側に位置する2枚のコアシート35には、前記貫通孔36を構成する枠部35bの周方向外側(磁石34の両側)に形成された2つの大穴部45を図示しない治具にて周方向中心側に塑性変形させて形成される大突部46が形成される。この大突部46は、軸方向視で前記磁石34と重なる位置に形成されるため、前記磁石34の軸方向の抜けが抑えられるようになっている。なお、前記大穴部45は小穴部41よりも大きな直径となるように塑性変形される。
【0024】
なお、前記磁石34は、本実施形態では、径方向外側の端部がN極、径方向内側の端部がS極となるようにそれぞれ着磁されている。従って、本実施形態のロータ31では、S極及びN極のうちN極の磁極を径方向外側とした磁石34がロータコア33に対して周方向に4個配置されている。そして、各磁石34が貫通孔36に挿入されることにより、周方向に隣り合う磁石34間にそれぞれ疑似磁極33bが配置され、その結果、N極の磁石34と疑似磁極33bとが周方向に交互に配置される。疑似磁極33bを有するロータコア33に対して磁石34がこのように配置されることにより、疑似磁極33bは、疑似的に径方向外側をS極として機能する。即ち、本実施形態のロータ31は、一方の磁極の磁石34と他方の磁極として機能する疑似磁極33bとが周方向に交互に配置されたコンシクエントポール型のロータである。
【0025】
図1に示すように、前記回転軸32には、同回転軸32の先端面(図1において下側の端面)とロータコア33との間となる位置に、環状のセンサマグネット37が同回転軸32と一体回転可能に固定されている。センサマグネット37は、N極とS極とが周方向に交互となるように着磁されている。
【0026】
また、前記カバープレート13の内側面には、モータ10を制御するための図示しない回路素子が搭載された回路基板38が固定されている。この回路基板38上には、前記センサマグネット37と軸方向に対向するようにホールセンサ39が配置されている。ホールセンサ39は、ホール素子を備えたホールICである。また、回路基板38は、モータ10の外部に設けられる駆動制御回路(図示略)に電気的に接続されている。
【0027】
次に、本実施形態の磁石34の固定方法について説明する。
磁石34を貫通孔36に挿入配置した状態で、コアシート35の各枠部35a,35bに形成された各穴部41,45を同時に塑性変形させて小突部42及び大突部46を形成する。このとき、小突部42は径方向外側に塑性変形されて形成されるため、磁石34と径方向に当接して磁石34を小突部42と貫通孔36の壁部36aとの間で挟持・固定される。また、大突部46は貫通孔36のロータ31における周方向の中心側に塑性変形されて形成される。この大突部46は軸方向において前記磁石34よりも外側(前記磁石34の軸方向両側)に形成されるため、磁石34を大突部46によって挟持することができ、磁石34の貫通孔36からの抜けが抑えられる。
【0028】
次に、上記構成のモータ10の動作例(作用)を記載する。
モータ10では、コイル23に電源が供給されると、ステータ21にて発生される回転磁界に応じてロータ31が回転される。そして、ホールセンサ39は、ロータ31の回転軸32と一体回転するセンサマグネット37の磁界の変化を検出するとともに、検出した磁界の変化に応じたパルス信号である回転検出信号を駆動制御回路に出力する。駆動制御回路は、この回転検出信号に基づいて、ロータ31の回転情報(回転速度、回転位置等)を検出する。そして、駆動制御回路は、検出したロータ31の回転情報に基づいて、ロータ31の回転速度が所望の回転速度となるようにステータ21に供給する電源を制御する。従って、ロータ31の回転状態に応じて駆動制御回路からコイル23に電源が供給される。
【0029】
次に、本実施形態の特徴的な効果を記載する。
(1)貫通孔36の周囲に形成された小穴部41を径方向に塑性変形させて磁石34と径方向において当接する小突部42と、少なくとも軸方向両側に位置するコアシート35に形成される大穴部45を周方向に塑性変形させて磁石34と軸方向視においてラップして軸方向において当接する大突部46とを備える。このように、塑性変形によって形成される小突部42によって磁石34を径方向に当接固定しつつ、周方向に塑性変形されて形成される大突部46によって磁石34の抜けを抑えることができる。また、軸方向両側に位置するコアシート35の大突部46が軸方向において磁石34と当接するため磁石34の軸方向への移動を抑えることができる。
【0030】
(2)大突部46が周方向に対向する位置にそれぞれ少なくとも1つ形成されるため、磁石34の周方向両側が大突部46と軸方向で当接することとなり、より確実に貫通孔36から磁石34の抜け抑えることができる。
【0031】
(3)軸方向視で磁石34の周方向両側に位置する大穴部45を小穴部41よりも大きくなるように塑性変形させることで、大穴部45の磁気抵抗を大きくして、大穴部45側(磁石34の周方向両側)への磁気漏れが少なくできる。
【0032】
尚、本発明の実施形態は、以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、大突部46を軸方向において常時、磁石34と当接する構成としたが、磁石34及び大突部46に隙間を設けて単に磁石34の抜け止めを行う構成としてもよい。
【0033】
・上記実施形態では、磁石34の形状について特に言及していないが、例えば、図4に示すように、磁石50の4隅を切り欠いて切欠部51を形成してもよい。この場合、切欠部51の軸方向端面51aと前記大突部46とが軸方向視においてラップするよう或いは軸方向に当接するような構成とすることで、磁石50の貫通孔36からの軸方向への抜けを抑えて、大突部46用のコアシート35を不要とすることも可能となる。
【0034】
・上記実施形態では、大突部46を2つ形成する構成としたが、1つでもよく、また3つ以上形成してもよい。
・上記実施形態では、特に言及していないが、小穴部41を塑性変形させて形成される小突部42により磁石34を貫通孔36に圧入する構成を採用してもよい。
【0035】
・上記実施形態では、所謂コンシクエントポール型としてロータ31を構成したが、これに限らず、極性の異なる磁石を周方向において交互に配置した構成を採用してもよい。要は、ロータコア33内に磁石を埋設する所謂IPM型のロータであればよい。
【符号の説明】
【0036】
21…ステータ、31…ロータ、33…ロータコア、34,50…磁石、35…コアシート、36…貫通孔、41…小穴部、42…小突部、45…大穴部、46…大突部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有するコアシートを積層してなるロータコアと、該ロータコアの貫通孔に挿入配置される磁石とを備えて径方向においてステータと対向配置されるロータであって、
前記貫通孔の周囲に形成された小穴部を径方向に塑性変形させて前記磁石と径方向において当接する小突部と、
少なくとも軸方向両側に位置するコアシートの前記貫通孔の周囲に形成される大穴部の少なくとも1つを周方向に塑性変形させて前記磁石と軸方向視においてラップする大突部とを備えたことを特徴とするロータ。
【請求項2】
請求項1に記載のロータにおいて、
前記大突部は、周方向に対向する位置にそれぞれ少なくとも1つ形成されることを特徴とするロータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−51795(P2013−51795A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187907(P2011−187907)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【Fターム(参考)】