ローパスフィルタ
【課題】低損失で急峻な減衰特性を有する小型のローパスフィルタを提供する。
【解決手段】ローパスフィルタは、第1のフィルタ1と第2のフィルタ2と第3のフィルタ3と第4のフィルタ4とを有する。第1のフィルタ1は、2端子対SAW共振子11からなる。第2のフィルタ2は、1端子対SAW共振子21とインダクタ22とからなる。第3のフィルタ3は、キャパシタ33と1端子対SAW共振子31とインダクタ32とからなる。第4のフィルタ4は、2端子対SAW共振子41からなる。
【解決手段】ローパスフィルタは、第1のフィルタ1と第2のフィルタ2と第3のフィルタ3と第4のフィルタ4とを有する。第1のフィルタ1は、2端子対SAW共振子11からなる。第2のフィルタ2は、1端子対SAW共振子21とインダクタ22とからなる。第3のフィルタ3は、キャパシタ33と1端子対SAW共振子31とインダクタ32とからなる。第4のフィルタ4は、2端子対SAW共振子41からなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローパスフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機の高機能化が進み、音声通信及びデータ通信の機能に加えて、FM放送やTV放送を受信するチューナの搭載が進みつつある。TV放送では、携帯端末向けにUHF帯(470MHzから770MHz)を用いた地上波デジタルTV放送のサービスが開始され、デジタル方式の特徴を生かした高度なエラー訂正機能により、従来のアナログTVに比べて安定で高画質な映像や音声を楽しむことができる。
【0003】
TV放送受信用チューナ付き携帯電話機では、携帯電話機の送信信号がTV放送の受信信号に影響を与えないようにすることが重要である。その理由は、音声通信及びデータ通信用のアンテナから送信された電力の大きな送信信号がTV放送の受信回路に回りこみ、混信を生じる可能性があるからである。このような混信を防ぐため、VHF/UHF帯の信号を通過させ、音声通信及びデータ通信用の送信帯域の信号を抑圧するローパスフィルタが、チューナ側の回路に搭載される。
【0004】
このようなローパスフィルタ特性を実現するものとして、積層LCローパスフィルタが挙げられる(例えば、特許文献1参照)。積層LCフィルタは、薄いセラミック層上に導体パターンを形成し、これらを複数積層することにより、インダクタンスやコンデンサを形成し、所定の接続を行ったフィルタである。図14に積層LCローパスフィルタの一般的な回路図を示し、図15に積層LCローパスフィルタの通過特性の1例を示す。図14において、INは信号入力端子、OUTは信号出力端子、L10,L11はインダクタンス、C10〜C14はコンデンサである。図15では、インダクタンスL10,L11のQを30とした。インダクタ(コイル)は、その主特性であるインダクタンス成分を得ようとすると同時に抵抗成分ができる。通常、この抵抗成分は少ないほうが優れたインダクタと評価される。インダクタ成分と、この抵抗成分との比をQ特性として表現している。この値が高い方が高効率のインダクタといえる。周波数をf、インダクタ値をL、実効抵抗値をRとすると、Q=2πfL/Rである。図15に示すように、積層LCローパスフィルタでは、VHF/UHFの周波数帯(90MHzから770MHz)が通過帯域となり、800MHz帯CDMAの送信周波数帯(898MHzから925MHz)が減衰域となっている。
【0005】
【特許文献1】特開平07−336176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の積層LCローパスフィルタでは、減衰極が1.3GHzとなっているため、減衰域(898MHzから925MHz)の減衰量が9dB程度と不十分であるという問題点があった。TV放送受信用チューナ付き携帯電話機では、TV放送波の周波数帯域と携帯電話機の送信帯域(800MHzから900MHz)が近接しているため、低損失かつ急峻なロールオフ特性が要求される。
【0007】
また、従来の積層LCローパスフィルタでは、段数を増やすことで、減衰極をより通過帯域近傍に近づけ、より大きな減衰量を得ることが可能であるが、段数を増やすと、インダクタンスに含まれる直列抵抗の影響により、通過帯域の損失も増大し、必要な通過帯域挿入損失を得ることが難しくなるという問題点があった。さらに、従来の積層LCローパスフィルタでは、素子数が増加すると、フィルタの外形が大きくなるという問題点があった。携帯電話機に搭載するフィルタは小型であることが望ましく、大きなフィルタは携帯電話機には不向きである。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、低損失で急峻な減衰特性を有する小型のローパスフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のローパスフィルタは、第1のフィルタと、この第1のフィルタに並列に接続された第2のフィルタと、前記第1、第2のフィルタと信号入力端子との間に挿入された第3のフィルタと、この第3のフィルタと接地との間に挿入された第4のフィルタとを有し、前記第1のフィルタは、第1の端子が前記第3のフィルタに接続され、第2の端子が信号出力端子に接続され、第3の端子と第4の端子が接地された第1の2端子対SAW共振子からなり、前記第2のフィルタは、第1の端子が前記第1の2端子対SAW共振子の第1の端子に接続され、第2の端子が前記第1の2端子対SAW共振子の第2の端子に接続された第1の1端子対SAW共振子と、この第1の1端子対SAW共振子に並列に接続された第1のインダクタとからなり、前記第3のフィルタは、第1の端子が前記信号入力端子に接続されたキャパシタと、第1の端子が前記キャパシタの第2の端子に接続され、第2の端子が前記第1、第2のフィルタの第1の端子に接続された第2の1端子対SAW共振子と、第1の端子が前記信号入力端子に接続され、第2の端子が前記第1、第2のフィルタの第1の端子に接続された第2のインダクタとからなり、前記第4のフィルタは、第1の端子が前記信号入力端子に接続され、第2の端子が前記キャパシタと前記第2の1端子対SAW共振子との接続点に接続され、第3の端子と第4の端子が接地された第2の2端子対SAW共振子からなるものである。
また、本発明のローパスフィルタの1構成例は、前記第1、第2の2端子対SAW共振子と前記第1、第2の1端子対SAW共振子と前記キャパシタとが、圧電基板上に形成され、前記第1、第2のインダクタが、前記圧電基板を内蔵するパッケージ内に搭載されるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、第1のフィルタと、第1のフィルタに並列に接続された第2のフィルタと、第1、第2のフィルタと信号入力端子との間に挿入された第3のフィルタとを設け、第1のフィルタを第1の2端子対SAW共振子から構成し、第2のフィルタを第1の1端子対SAW共振子と第1のインダクタとから構成し、第3のフィルタをキャパシタと第2の1端子対SAW共振子と第2のインダクタとから構成することにより、減衰極を遮断周波数近傍にすることが可能となり、減衰域の減衰量を改善することができる。また、本発明では、SAW共振子を用いるため、フィルタを小型化できる。さらに、本発明では、積層LCフィルタのように所望の減衰量を得るために段数を増やす必要がないので、通過帯域の挿入損失が増大することがなく、外形が大型化することもない。その結果、本発明では、低損失で急峻な減衰特性を有する小型のローパスフィルタを実現することができる。また、本発明では、第3のフィルタと接地との間に第4のフィルタを設け、第4のフィルタを第2の2端子対SAW共振子から構成することにより、第1〜第3のフィルタによる上記減衰域とは別に、高周波領域に広帯域で減衰量の大きい減衰域をデバイスサイズの大幅な増大を招くことなく形成することが可能になる。
【0011】
また、本発明では、第1、第2の2端子対SAW共振子と第1、第2の1端子対SAW共振子とキャパシタとを圧電基板上に形成し、この圧電基板と第1、第2のインダクタとをパッケージ内に搭載することにより、ローパスフィルタの特性のばらつきを抑え、所望の特性を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態となるローパスフィルタの回路図である。図1のローパスフィルタは、第1のフィルタ1と、第2のフィルタ2と、第3のフィルタ3と、第4のフィルタ4とから構成されている。図1において、INは信号入力端子、OUTは信号出力端子である。
【0013】
図2に、第1のフィルタ1の平面図を示す。第1のフィルタ1は、2端子対SAW(Surface Acoustic Wave )共振子11からなる。2端子対SAW共振子11は、圧電基板上に送信用IDT(interdigital transducer :すだれ状電極)110と受信用IDT111とを形成し、さらにその両側にそれぞれ反射器112,113を配置したものである。周知のように、IDTは、金属からなる櫛状の対向する2つの電極部を有し、各電極部は、対向する電極部に向かって交互に突出した複数の電極指を有している。
【0014】
図1、図2において、12は2端子対SAW共振子11の第1の端子(フィルタ1の入力端子)、14は2端子対SAW共振子11の第2の端子(フィルタ1の出力端子)、13は2端子対SAW共振子11の第3の端子、15は2端子対SAW共振子11の第4の端子である。第3の端子13と第4の端子15は接地されている。
【0015】
第1のフィルタ1は、2つの反射器112,113間に生じる定在波の周波数とIDT110,111の共振周波数とが一致するときに、入力端子12と出力端子14間に信号が伝送される狭帯域通過フィルタとして動作する。第1のフィルタ1の通過特性の1例を図3に示す。
【0016】
図4に、第3のフィルタ3の平面図を示す。第3のフィルタ3は、キャパシタ33と、キャパシタ33に直列に接続された1端子対SAW共振子31と、キャパシタ33と1端子対SAW共振子31の直列構成に対して並列に接続されたインダクタ32とからなる。キャパシタ33は、圧電基板上に形成されたIDTや平行平板からなる。1端子対SAW共振子31は、圧電基板上に1つのIDT310を形成し、さらにその両側にそれぞれ反射器311,312を配置したものである。インダクタ32は、圧電基板を内蔵するセラミックパッケージ内に搭載される。
【0017】
図1、図4において、34は1端子対SAW共振子31の第1の端子(IDT310の入力端子)、35は1端子対SAW共振子31の第2の端子(IDT310の出力端子)、36はインダクタ32の第1の端子、37はインダクタ32の第2の端子、38はキャパシタ33の第1の端子、39はキャパシタ33の第2の端子である。
【0018】
第3のフィルタ3の通過特性の1例を図5に示す。第3のフィルタ3は、2つの減衰極を有する帯域通過フィルタの特性を示す。ただし、図5では、約0.9GHzの低周波側の減衰極のみ記載し、1GHz超の位置にある高周波側の減衰極については省略している。第1のフィルタ1と第3のフィルタ3とを直列に接続し、第1のフィルタ1の通過域(0.9〜1GHz)を第3のフィルタ3の2つの減衰極の間に設定すると、図6に示すように第1のフィルタ1の通過域の両側の約0.9GHzと1GHzの位置に第3のフィルタ3の減衰極が生じ、通過域近傍の減衰量が改善されていることが分かる。
【0019】
フィルタ1,3を直列に接続したフィルタ(以下、直列フィルタ1,3と呼ぶ)と似た構成が、特開昭56−47116号公報に開示されている。特開昭56−47116号公報に開示されたフィルタでは、弾性表面波素子としてトランスバーサルフィルタが使用され、圧電共振子としてセラミック共振子が使用されている。これに対して、本実施の形態の直列フィルタ1,3では、トランスバーサルフィルタの代わりに2端子対SAW共振子11を使用し、また圧電共振子の代わりに1端子対SAW共振子31を使用しており、これらを同一の圧電基板上に形成している点が特開昭56−47116号公報のフィルタと異なる。
【0020】
次に、本実施の形態では、直列フィルタ1,3において、第1のフィルタ1に並列に第2のフィルタ2を接続することにより、非常に急峻な減衰特性を有するローパスフィルタを実現している。図7に、第2のフィルタ2の平面図を示す。第2のフィルタ2は、1端子対SAW共振子21と、1端子対SAW共振子21に並列に接続されたインダクタ22とからなる。1端子対SAW共振子21は、圧電基板上に1つのIDT210を形成し、さらにその両側にそれぞれ反射器211,212を配置したものである。インダクタ22は、圧電基板を内蔵するセラミックパッケージ内に搭載される。
【0021】
図1、図7において、23は1端子対SAW共振子21の第1の端子(IDTの入力端子)、24は1端子対SAW共振子21の第2の端子(IDTの出力端子)、25はインダクタ22の第1の端子、26はインダクタ22の第2の端子である。
【0022】
第4のフィルタ4は、2端子対SAW共振子41からなる。2端子対SAW共振子41は、第1のフィルタ1の2端子対SAW共振子11と同様に、圧電基板上に送信用IDTと受信用IDTとを形成し、さらにその両側にそれぞれ反射器を配置したものである。図1において、42は2端子対SAW共振子41の第1の端子、44は2端子対SAW共振子41の第2の端子、43は2端子対SAW共振子41の第3の端子、45は2端子対SAW共振子41の第4の端子である。第3の端子43と第4の端子45は接地されている。
【0023】
図8に、図1のローパスフィルタの通過特性の1例を示す。図1の構成によれば、DC(直流)から770MHzまで低損失な通過域Aと828MHz付近に40dB以上の減衰域Bが形成され、さらに1.1GHz以上の帯域に広帯域な減衰域Dが形成されていることが分かる。
【0024】
本実施の形態では、図1の構成をセラミックパッケージ内に搭載した。すなわち、例えばLiTaO3 等からなる圧電基板上に、AlCu等の電極材料を用いて2端子対SAW共振子11,41と1端子対SAW共振子21,31とキャパシタ33とを形成し、この圧電基板とインダクタ22,32をアルミナ等からなるセラミックパッケージに搭載し、必要な配線をワイヤやセラミックパッケージ内の配線パターンで行った。
【0025】
以下、本実施の形態のローパスフィルタの設計法の概略について説明する。第1のフィルタ1の素子の値と第2のフィルタ2の素子の値を適宜設定すると、図8の減衰域Bが形成され、この減衰域Bより低い帯域が通過域Aとなり、減衰域Bより高い帯域が通過域Cとなる。所望の通過域Aと減衰域Bを得るためには、まず第1のフィルタ1のIDT110,111の共振波長λ1と第2のフィルタ2のIDT210の共振波長λ2を調整して、減衰域Bが所望の周波数範囲になるように設定する。第1のフィルタ1のIDT110,111の共振波長λ1は、減衰域Bの高域側の端部周波数の決定に影響を与える。共振波長λ1とλ2は、λ2<λ1の関係を満たすことが好ましい。その理由は、λ2>λ1とすると、減衰極が分離して、減衰域Bの減衰量が劣化するからである。
【0026】
第2のフィルタ2のIDT210の共振波長λ2を変化させると、通過域Aの高域側の端部周波数が変化するため、インダクタ22の値を調整して、通過域Aの高域側の端部周波数が所望の値になるように設定する。この操作により、減衰域Bの周波数範囲が変化するため、波長λ2を調整する。このようなインダクタ22の調整と第2のフィルタ2のIDT210の共振波長λ2の調整とを、所望の特性を満たすまで繰り返す。
【0027】
第1のフィルタ1及び第2のフィルタ2のIDT110,111,210の電極指の交差幅と電極指の対数は、通過域Aのインピーダンスと減衰域Bの広さに影響を与える。減衰域Bが所望の周波数範囲となり、通過域Aが所望の特性インピーダンス(通常50Ω)となるように、IDT110,111,210の電極指の交差幅と電極指の対数を適切に設定する。以上の調整は、手動で行うことも可能であるが、適切な誤差関数を定めて、コンピュータにより最適な組み合わせを探索するようにすると良い。
【0028】
なお、以上の設計方法の説明では、第1のフィルタ1のIDT110の共振波長とIDT111の共振波長を同一の値としたが、異なる値に設定しても良い。IDT110とIDT111の共振波長を異なる値にすると、減衰域Bを広帯域にすることができる。また、第1のフィルタ1のIDT110とIDT111間の距離を調整すると、減衰域Bを更に広帯域にすることができる。この調整は、IDT110とIDT111間の距離を通常0.5λとするところを0.7λから0.9λ付近にすると良い。
【0029】
第3のフィルタ3は、図5のような通過特性を有している。そこで、第1のフィルタ1に第2のフィルタ2を並列に接続したフィルタの通過域Aと、第3のフィルタ3の通過域Aとが一致し、かつ第1のフィルタ1に第2のフィルタ2を並列に接続したフィルタの減衰域Bと、第3のフィルタ3の減衰域Bとが一致するようにして、これらを図1に示したように従属接続すれば、減衰域Bの減衰量がより増大し好ましい。
【0030】
さらに、本実施の形態では、図1のローパスフィルタに存在するキャパシタとインダクタによりLC直列共振及びLC並列共振が生じて、図8の減衰域Dが形成されるが、キャパシタ33の両端と接地との間に2端子対SAW共振子41を挿入することにより、LC直列共振回路及びLC並列共振回路が複数形成されるため、減衰域Dをより広帯域にし、また減衰域Dの減衰量を増大させることができる。
【0031】
SAW共振子の共振周波数f=V/λ(IDTの共振波長λと圧電基板の弾性表面波表面波速度Vで決まる周波数)から十分離れた高周波領域(本実施の形態では、1.5GHz以上の周波数領域)では、IDTは等価的にキャパシタと見なすことができる。このような高周波領域における図1の等価回路を図9に示す。L1,L2はワイヤやパッケージ内の配線パターンによる微小な値のインダクタである。
【0032】
図9の等価回路によれば、2端子対SAW共振子11の静電容量とインダクタL1によりLC直列共振が生じ、1端子対SAW共振子21の静電容量とインダクタ22によりLC並列共振が生じる。また、2端子対SAW共振子41及び1端子対SAW共振子31の静電容量と、キャパシタ33と、インダクタ32及びインダクタL2により、LC直列共振とLC並列共振を組み合わせた共振が生じる。2端子対SAW共振子41を設けない場合でも、減衰域Dを形成することは可能であるが、キャパシタ33の両端と接地との間に2端子対SAW共振子41を設けることにより、より広帯域な減衰域Dを形成することができる。
【0033】
図9の等価回路は接続が複雑なため、簡単な数式で減衰極の周波数を見積もることは困難であるが、LC直列共振回路とLC並列共振回路が組み合わさっていることが分かる。前述のとおり、キャパシタ33の静電容量は3pF程度である。インダクタ32は、キャパシタ33が挿入されたことによりフィルタとして整合を得るため、10nHのインダクタとなっている。2端子対SAW共振子41と1端子対SAW共振子31の静電容量をそれぞれ3pFとして、第3のフィルタ3と第4のフィルタ4を接続した回路の周波数特性をシミュレータにより計算すると、図10の特性fc1のようになる。
【0034】
一方、本実施の形態の比較例として図11に示したようなローパスフィルタを考える。図11のローパスフィルタは、図1のローパスフィルタを一部変形し、さらに2端子対SAW共振子11の第3の端子13と接地との間にインダクタ16を挿入し、2端子対SAW共振子11の第4の端子15と接地との間にインダクタ17を挿入し、信号入力端子INと接地との間に1端子対SAW共振子51とインダクタ52とを挿入したものである。なお、図11の例では、キャパシタ33を省いているため、第3のフィルタを3aとしている。
【0035】
この図11のローパスフィルタについて、図9の場合と同様に、SAW共振子の共振周波数から十分離れた高周波領域における等価回路を求めると図12のようになる。図12より、1端子対SAW共振子51とインダクタ52がLC直列共振回路を形成し、1端子対SAW共振子31とインダクタ32がLC並列共振回路を形成していることが分かる。1端子対SAW共振子31,51の静電容量をそれぞれ3pFとして、第3のフィルタ3aと1端子対SAW共振子51とインダクタ52を接続した回路の周波数特性をシミュレータにより計算すると、図10の特性fc2のようになる。図11のローパスフィルタ全体の通過特性を図13に示す。図13におけるfc3は図11のローパスフィルタの通過特性、fc4は図11のローパスフィルタから1端子対SAW共振子51とインダクタ52を除き、インダクタ16,17を短絡したフィルタの通過特性である。このように、図11の構成では、本実施の形態のローパスフィルタに比べて減衰域Dが狭く、その減衰量も小さいことが分かる。
【0036】
また、一般にLC直列共振は、インダクタの値あるいはキャパシタの値を大きくすると共振周波数が低周波側に遷移し、値を小さくすると共振周波数が高周波側に遷移する。インダクタ22,32の静電容量と各SAW共振子の静電容量は、50Ωに整合した低損失な通過域を形成するために適した組み合わせが存在するため、必要以上に大きな値をとることができない。そのため、通常はインダクタ16,17,52の値を調整して、所望の周波数に減衰域を設けることになる。しかしながら、例えば2GHzに減衰域を設ける場合、図11の構成ではインダクタ16,17,52の値が少なくとも数nH必要となるため、ワイヤやパッケージ内の配線パターンを長くしたり、外付けのインダクタが必要となったりして、フィルタの外形が大きくなるという問題がある。
【0037】
これに対して、本実施の形態では、数pFのキャパシタ33と2端子対SAW共振子41を1個付加すれば、高周波領域に減衰域Dを形成することができる。数pFのキャパシタ33と2端子対SAW共振子41は、外付けのチップインダクタや配線パターンに比べてデバイスサイズに与える影響が少ない。SAW共振子を形成する圧電基板は一般に比誘電率が高いので、この圧電基板上にキャパシタ33を形成すれば、小型で大容量のキャパシタ33を容易に形成可能である。しかも、図9に示したインダクタL1,L2の値は0.3nH程度なので、ワイヤやパッケージ内の配線パターンによってインダクタL1,L2を容易に実現できる。
【0038】
以上のように、本実施の形態によれば、従来の積層LCフィルタに比べて、非常に急峻な減衰特性を得ることができる。本実施の形態では、SAW共振子を用いるため、フィルタを小型化できる。さらに、本実施の形態では、積層LCフィルタのように所望の減衰量を得るために段数を増やす必要がないので、通過帯域の挿入損失が増大することがなく、外形が大型化することもない。その結果、本実施の形態では、低損失で急峻な減衰特性を有する小型のローパスフィルタを実現することができる。
【0039】
また、本実施の形態では、第3のフィルタ3のキャパシタ33の両端と接地との間に2端子対SAW共振子41を挿入することにより、広帯域で減衰量の大きい減衰域Dを形成することが可能になる。近年、800MHz帯と2GHz帯をそれぞれ音声通信とデータ通信に割り当てたデュアルタイプの携帯電話機が登場しているが、本実施の形態によれば、800MHz帯の減衰域Bだけでなく、2GHz帯の減衰域Dについても十分な減衰量を得ることができるので、このようなデュアルタイプの携帯電話機にTV放送受信用チューナを設ける場合に、携帯電話機の送信信号がチューナ回路に回り込むことのないように携帯電話機の送信信号を十分に減衰させることができ、十分な妨害波除去機能を果たすことができる。キャパシタ33と2端子対SAW共振子41は、デバイスサイズに与える影響が少ないので、デバイスサイズの大幅な増大を招くことなく、高周波領域に広帯域な減衰域Dを形成することが可能となる。
【0040】
なお、本実施の形態において、使用する圧電基板やカット角は、種々変更可能である。特に電気機械結合係数は、フィルタの急峻性に寄与する。電極材料も、AlCuに限らず種々の合金、多層膜、高配向膜を用いてよく、表面にSiO2 等の保護膜を形成してもよい。
【0041】
また、本実施の形態のローパスフィルタは、他の構成のフィルタと組み合わせてもよく、分波器用のフィルタの一部または全部を構成してもよい。また、第1のフィルタ1の2端子対SAW共振子11は、対称構成でなくてもよく、IDT110と111の間で共振波長λや電極指の対数などを変えてもよい。また、IDT110と111間の距離も要求特性に応じて変更してよい。また、第1のフィルタ1と第2のフィルタ2の組み合わせを複数段直列に接続するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、例えばTV放送受信用チューナ付き携帯電話機のチューナ回路に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施の形態となるローパスフィルタの回路図である。
【図2】本発明の実施の形態における第1のフィルタの平面図である。
【図3】本発明の実施の形態における第1のフィルタの通過特性の1例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態における第3のフィルタの平面図である。
【図5】本発明の実施の形態における第3のフィルタの通過特性の1例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態において第1のフィルタと第3のフィルタとを直列に接続したフィルタの通過特性の1例を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態における第2のフィルタの平面図である。
【図8】図1のローパスフィルタの通過特性の1例を示す図である。
【図9】図1のローパスフィルタの等価回路図である。
【図10】本発明の実施の形態において第3のフィルタと第4のフィルタとを接続した回路の通過特性の1例を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態の比較例となるローパスフィルタの回路図である。
【図12】図11のローパスフィルタの等価回路図である。
【図13】図11のローパスフィルタの通過特性の1例を示す図である。
【図14】従来の積層LCローパスフィルタの回路図である。
【図15】図14の積層LCローパスフィルタの通過特性の1例を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1…第1のフィルタ、2…第2のフィルタ、3…第3のフィルタ、4…第4のフィルタ、11,41…2端子対SAW共振子、21,31…1端子対SAW共振子、22,32…インダクタ、33…キャパシタ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローパスフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機の高機能化が進み、音声通信及びデータ通信の機能に加えて、FM放送やTV放送を受信するチューナの搭載が進みつつある。TV放送では、携帯端末向けにUHF帯(470MHzから770MHz)を用いた地上波デジタルTV放送のサービスが開始され、デジタル方式の特徴を生かした高度なエラー訂正機能により、従来のアナログTVに比べて安定で高画質な映像や音声を楽しむことができる。
【0003】
TV放送受信用チューナ付き携帯電話機では、携帯電話機の送信信号がTV放送の受信信号に影響を与えないようにすることが重要である。その理由は、音声通信及びデータ通信用のアンテナから送信された電力の大きな送信信号がTV放送の受信回路に回りこみ、混信を生じる可能性があるからである。このような混信を防ぐため、VHF/UHF帯の信号を通過させ、音声通信及びデータ通信用の送信帯域の信号を抑圧するローパスフィルタが、チューナ側の回路に搭載される。
【0004】
このようなローパスフィルタ特性を実現するものとして、積層LCローパスフィルタが挙げられる(例えば、特許文献1参照)。積層LCフィルタは、薄いセラミック層上に導体パターンを形成し、これらを複数積層することにより、インダクタンスやコンデンサを形成し、所定の接続を行ったフィルタである。図14に積層LCローパスフィルタの一般的な回路図を示し、図15に積層LCローパスフィルタの通過特性の1例を示す。図14において、INは信号入力端子、OUTは信号出力端子、L10,L11はインダクタンス、C10〜C14はコンデンサである。図15では、インダクタンスL10,L11のQを30とした。インダクタ(コイル)は、その主特性であるインダクタンス成分を得ようとすると同時に抵抗成分ができる。通常、この抵抗成分は少ないほうが優れたインダクタと評価される。インダクタ成分と、この抵抗成分との比をQ特性として表現している。この値が高い方が高効率のインダクタといえる。周波数をf、インダクタ値をL、実効抵抗値をRとすると、Q=2πfL/Rである。図15に示すように、積層LCローパスフィルタでは、VHF/UHFの周波数帯(90MHzから770MHz)が通過帯域となり、800MHz帯CDMAの送信周波数帯(898MHzから925MHz)が減衰域となっている。
【0005】
【特許文献1】特開平07−336176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の積層LCローパスフィルタでは、減衰極が1.3GHzとなっているため、減衰域(898MHzから925MHz)の減衰量が9dB程度と不十分であるという問題点があった。TV放送受信用チューナ付き携帯電話機では、TV放送波の周波数帯域と携帯電話機の送信帯域(800MHzから900MHz)が近接しているため、低損失かつ急峻なロールオフ特性が要求される。
【0007】
また、従来の積層LCローパスフィルタでは、段数を増やすことで、減衰極をより通過帯域近傍に近づけ、より大きな減衰量を得ることが可能であるが、段数を増やすと、インダクタンスに含まれる直列抵抗の影響により、通過帯域の損失も増大し、必要な通過帯域挿入損失を得ることが難しくなるという問題点があった。さらに、従来の積層LCローパスフィルタでは、素子数が増加すると、フィルタの外形が大きくなるという問題点があった。携帯電話機に搭載するフィルタは小型であることが望ましく、大きなフィルタは携帯電話機には不向きである。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、低損失で急峻な減衰特性を有する小型のローパスフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のローパスフィルタは、第1のフィルタと、この第1のフィルタに並列に接続された第2のフィルタと、前記第1、第2のフィルタと信号入力端子との間に挿入された第3のフィルタと、この第3のフィルタと接地との間に挿入された第4のフィルタとを有し、前記第1のフィルタは、第1の端子が前記第3のフィルタに接続され、第2の端子が信号出力端子に接続され、第3の端子と第4の端子が接地された第1の2端子対SAW共振子からなり、前記第2のフィルタは、第1の端子が前記第1の2端子対SAW共振子の第1の端子に接続され、第2の端子が前記第1の2端子対SAW共振子の第2の端子に接続された第1の1端子対SAW共振子と、この第1の1端子対SAW共振子に並列に接続された第1のインダクタとからなり、前記第3のフィルタは、第1の端子が前記信号入力端子に接続されたキャパシタと、第1の端子が前記キャパシタの第2の端子に接続され、第2の端子が前記第1、第2のフィルタの第1の端子に接続された第2の1端子対SAW共振子と、第1の端子が前記信号入力端子に接続され、第2の端子が前記第1、第2のフィルタの第1の端子に接続された第2のインダクタとからなり、前記第4のフィルタは、第1の端子が前記信号入力端子に接続され、第2の端子が前記キャパシタと前記第2の1端子対SAW共振子との接続点に接続され、第3の端子と第4の端子が接地された第2の2端子対SAW共振子からなるものである。
また、本発明のローパスフィルタの1構成例は、前記第1、第2の2端子対SAW共振子と前記第1、第2の1端子対SAW共振子と前記キャパシタとが、圧電基板上に形成され、前記第1、第2のインダクタが、前記圧電基板を内蔵するパッケージ内に搭載されるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、第1のフィルタと、第1のフィルタに並列に接続された第2のフィルタと、第1、第2のフィルタと信号入力端子との間に挿入された第3のフィルタとを設け、第1のフィルタを第1の2端子対SAW共振子から構成し、第2のフィルタを第1の1端子対SAW共振子と第1のインダクタとから構成し、第3のフィルタをキャパシタと第2の1端子対SAW共振子と第2のインダクタとから構成することにより、減衰極を遮断周波数近傍にすることが可能となり、減衰域の減衰量を改善することができる。また、本発明では、SAW共振子を用いるため、フィルタを小型化できる。さらに、本発明では、積層LCフィルタのように所望の減衰量を得るために段数を増やす必要がないので、通過帯域の挿入損失が増大することがなく、外形が大型化することもない。その結果、本発明では、低損失で急峻な減衰特性を有する小型のローパスフィルタを実現することができる。また、本発明では、第3のフィルタと接地との間に第4のフィルタを設け、第4のフィルタを第2の2端子対SAW共振子から構成することにより、第1〜第3のフィルタによる上記減衰域とは別に、高周波領域に広帯域で減衰量の大きい減衰域をデバイスサイズの大幅な増大を招くことなく形成することが可能になる。
【0011】
また、本発明では、第1、第2の2端子対SAW共振子と第1、第2の1端子対SAW共振子とキャパシタとを圧電基板上に形成し、この圧電基板と第1、第2のインダクタとをパッケージ内に搭載することにより、ローパスフィルタの特性のばらつきを抑え、所望の特性を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態となるローパスフィルタの回路図である。図1のローパスフィルタは、第1のフィルタ1と、第2のフィルタ2と、第3のフィルタ3と、第4のフィルタ4とから構成されている。図1において、INは信号入力端子、OUTは信号出力端子である。
【0013】
図2に、第1のフィルタ1の平面図を示す。第1のフィルタ1は、2端子対SAW(Surface Acoustic Wave )共振子11からなる。2端子対SAW共振子11は、圧電基板上に送信用IDT(interdigital transducer :すだれ状電極)110と受信用IDT111とを形成し、さらにその両側にそれぞれ反射器112,113を配置したものである。周知のように、IDTは、金属からなる櫛状の対向する2つの電極部を有し、各電極部は、対向する電極部に向かって交互に突出した複数の電極指を有している。
【0014】
図1、図2において、12は2端子対SAW共振子11の第1の端子(フィルタ1の入力端子)、14は2端子対SAW共振子11の第2の端子(フィルタ1の出力端子)、13は2端子対SAW共振子11の第3の端子、15は2端子対SAW共振子11の第4の端子である。第3の端子13と第4の端子15は接地されている。
【0015】
第1のフィルタ1は、2つの反射器112,113間に生じる定在波の周波数とIDT110,111の共振周波数とが一致するときに、入力端子12と出力端子14間に信号が伝送される狭帯域通過フィルタとして動作する。第1のフィルタ1の通過特性の1例を図3に示す。
【0016】
図4に、第3のフィルタ3の平面図を示す。第3のフィルタ3は、キャパシタ33と、キャパシタ33に直列に接続された1端子対SAW共振子31と、キャパシタ33と1端子対SAW共振子31の直列構成に対して並列に接続されたインダクタ32とからなる。キャパシタ33は、圧電基板上に形成されたIDTや平行平板からなる。1端子対SAW共振子31は、圧電基板上に1つのIDT310を形成し、さらにその両側にそれぞれ反射器311,312を配置したものである。インダクタ32は、圧電基板を内蔵するセラミックパッケージ内に搭載される。
【0017】
図1、図4において、34は1端子対SAW共振子31の第1の端子(IDT310の入力端子)、35は1端子対SAW共振子31の第2の端子(IDT310の出力端子)、36はインダクタ32の第1の端子、37はインダクタ32の第2の端子、38はキャパシタ33の第1の端子、39はキャパシタ33の第2の端子である。
【0018】
第3のフィルタ3の通過特性の1例を図5に示す。第3のフィルタ3は、2つの減衰極を有する帯域通過フィルタの特性を示す。ただし、図5では、約0.9GHzの低周波側の減衰極のみ記載し、1GHz超の位置にある高周波側の減衰極については省略している。第1のフィルタ1と第3のフィルタ3とを直列に接続し、第1のフィルタ1の通過域(0.9〜1GHz)を第3のフィルタ3の2つの減衰極の間に設定すると、図6に示すように第1のフィルタ1の通過域の両側の約0.9GHzと1GHzの位置に第3のフィルタ3の減衰極が生じ、通過域近傍の減衰量が改善されていることが分かる。
【0019】
フィルタ1,3を直列に接続したフィルタ(以下、直列フィルタ1,3と呼ぶ)と似た構成が、特開昭56−47116号公報に開示されている。特開昭56−47116号公報に開示されたフィルタでは、弾性表面波素子としてトランスバーサルフィルタが使用され、圧電共振子としてセラミック共振子が使用されている。これに対して、本実施の形態の直列フィルタ1,3では、トランスバーサルフィルタの代わりに2端子対SAW共振子11を使用し、また圧電共振子の代わりに1端子対SAW共振子31を使用しており、これらを同一の圧電基板上に形成している点が特開昭56−47116号公報のフィルタと異なる。
【0020】
次に、本実施の形態では、直列フィルタ1,3において、第1のフィルタ1に並列に第2のフィルタ2を接続することにより、非常に急峻な減衰特性を有するローパスフィルタを実現している。図7に、第2のフィルタ2の平面図を示す。第2のフィルタ2は、1端子対SAW共振子21と、1端子対SAW共振子21に並列に接続されたインダクタ22とからなる。1端子対SAW共振子21は、圧電基板上に1つのIDT210を形成し、さらにその両側にそれぞれ反射器211,212を配置したものである。インダクタ22は、圧電基板を内蔵するセラミックパッケージ内に搭載される。
【0021】
図1、図7において、23は1端子対SAW共振子21の第1の端子(IDTの入力端子)、24は1端子対SAW共振子21の第2の端子(IDTの出力端子)、25はインダクタ22の第1の端子、26はインダクタ22の第2の端子である。
【0022】
第4のフィルタ4は、2端子対SAW共振子41からなる。2端子対SAW共振子41は、第1のフィルタ1の2端子対SAW共振子11と同様に、圧電基板上に送信用IDTと受信用IDTとを形成し、さらにその両側にそれぞれ反射器を配置したものである。図1において、42は2端子対SAW共振子41の第1の端子、44は2端子対SAW共振子41の第2の端子、43は2端子対SAW共振子41の第3の端子、45は2端子対SAW共振子41の第4の端子である。第3の端子43と第4の端子45は接地されている。
【0023】
図8に、図1のローパスフィルタの通過特性の1例を示す。図1の構成によれば、DC(直流)から770MHzまで低損失な通過域Aと828MHz付近に40dB以上の減衰域Bが形成され、さらに1.1GHz以上の帯域に広帯域な減衰域Dが形成されていることが分かる。
【0024】
本実施の形態では、図1の構成をセラミックパッケージ内に搭載した。すなわち、例えばLiTaO3 等からなる圧電基板上に、AlCu等の電極材料を用いて2端子対SAW共振子11,41と1端子対SAW共振子21,31とキャパシタ33とを形成し、この圧電基板とインダクタ22,32をアルミナ等からなるセラミックパッケージに搭載し、必要な配線をワイヤやセラミックパッケージ内の配線パターンで行った。
【0025】
以下、本実施の形態のローパスフィルタの設計法の概略について説明する。第1のフィルタ1の素子の値と第2のフィルタ2の素子の値を適宜設定すると、図8の減衰域Bが形成され、この減衰域Bより低い帯域が通過域Aとなり、減衰域Bより高い帯域が通過域Cとなる。所望の通過域Aと減衰域Bを得るためには、まず第1のフィルタ1のIDT110,111の共振波長λ1と第2のフィルタ2のIDT210の共振波長λ2を調整して、減衰域Bが所望の周波数範囲になるように設定する。第1のフィルタ1のIDT110,111の共振波長λ1は、減衰域Bの高域側の端部周波数の決定に影響を与える。共振波長λ1とλ2は、λ2<λ1の関係を満たすことが好ましい。その理由は、λ2>λ1とすると、減衰極が分離して、減衰域Bの減衰量が劣化するからである。
【0026】
第2のフィルタ2のIDT210の共振波長λ2を変化させると、通過域Aの高域側の端部周波数が変化するため、インダクタ22の値を調整して、通過域Aの高域側の端部周波数が所望の値になるように設定する。この操作により、減衰域Bの周波数範囲が変化するため、波長λ2を調整する。このようなインダクタ22の調整と第2のフィルタ2のIDT210の共振波長λ2の調整とを、所望の特性を満たすまで繰り返す。
【0027】
第1のフィルタ1及び第2のフィルタ2のIDT110,111,210の電極指の交差幅と電極指の対数は、通過域Aのインピーダンスと減衰域Bの広さに影響を与える。減衰域Bが所望の周波数範囲となり、通過域Aが所望の特性インピーダンス(通常50Ω)となるように、IDT110,111,210の電極指の交差幅と電極指の対数を適切に設定する。以上の調整は、手動で行うことも可能であるが、適切な誤差関数を定めて、コンピュータにより最適な組み合わせを探索するようにすると良い。
【0028】
なお、以上の設計方法の説明では、第1のフィルタ1のIDT110の共振波長とIDT111の共振波長を同一の値としたが、異なる値に設定しても良い。IDT110とIDT111の共振波長を異なる値にすると、減衰域Bを広帯域にすることができる。また、第1のフィルタ1のIDT110とIDT111間の距離を調整すると、減衰域Bを更に広帯域にすることができる。この調整は、IDT110とIDT111間の距離を通常0.5λとするところを0.7λから0.9λ付近にすると良い。
【0029】
第3のフィルタ3は、図5のような通過特性を有している。そこで、第1のフィルタ1に第2のフィルタ2を並列に接続したフィルタの通過域Aと、第3のフィルタ3の通過域Aとが一致し、かつ第1のフィルタ1に第2のフィルタ2を並列に接続したフィルタの減衰域Bと、第3のフィルタ3の減衰域Bとが一致するようにして、これらを図1に示したように従属接続すれば、減衰域Bの減衰量がより増大し好ましい。
【0030】
さらに、本実施の形態では、図1のローパスフィルタに存在するキャパシタとインダクタによりLC直列共振及びLC並列共振が生じて、図8の減衰域Dが形成されるが、キャパシタ33の両端と接地との間に2端子対SAW共振子41を挿入することにより、LC直列共振回路及びLC並列共振回路が複数形成されるため、減衰域Dをより広帯域にし、また減衰域Dの減衰量を増大させることができる。
【0031】
SAW共振子の共振周波数f=V/λ(IDTの共振波長λと圧電基板の弾性表面波表面波速度Vで決まる周波数)から十分離れた高周波領域(本実施の形態では、1.5GHz以上の周波数領域)では、IDTは等価的にキャパシタと見なすことができる。このような高周波領域における図1の等価回路を図9に示す。L1,L2はワイヤやパッケージ内の配線パターンによる微小な値のインダクタである。
【0032】
図9の等価回路によれば、2端子対SAW共振子11の静電容量とインダクタL1によりLC直列共振が生じ、1端子対SAW共振子21の静電容量とインダクタ22によりLC並列共振が生じる。また、2端子対SAW共振子41及び1端子対SAW共振子31の静電容量と、キャパシタ33と、インダクタ32及びインダクタL2により、LC直列共振とLC並列共振を組み合わせた共振が生じる。2端子対SAW共振子41を設けない場合でも、減衰域Dを形成することは可能であるが、キャパシタ33の両端と接地との間に2端子対SAW共振子41を設けることにより、より広帯域な減衰域Dを形成することができる。
【0033】
図9の等価回路は接続が複雑なため、簡単な数式で減衰極の周波数を見積もることは困難であるが、LC直列共振回路とLC並列共振回路が組み合わさっていることが分かる。前述のとおり、キャパシタ33の静電容量は3pF程度である。インダクタ32は、キャパシタ33が挿入されたことによりフィルタとして整合を得るため、10nHのインダクタとなっている。2端子対SAW共振子41と1端子対SAW共振子31の静電容量をそれぞれ3pFとして、第3のフィルタ3と第4のフィルタ4を接続した回路の周波数特性をシミュレータにより計算すると、図10の特性fc1のようになる。
【0034】
一方、本実施の形態の比較例として図11に示したようなローパスフィルタを考える。図11のローパスフィルタは、図1のローパスフィルタを一部変形し、さらに2端子対SAW共振子11の第3の端子13と接地との間にインダクタ16を挿入し、2端子対SAW共振子11の第4の端子15と接地との間にインダクタ17を挿入し、信号入力端子INと接地との間に1端子対SAW共振子51とインダクタ52とを挿入したものである。なお、図11の例では、キャパシタ33を省いているため、第3のフィルタを3aとしている。
【0035】
この図11のローパスフィルタについて、図9の場合と同様に、SAW共振子の共振周波数から十分離れた高周波領域における等価回路を求めると図12のようになる。図12より、1端子対SAW共振子51とインダクタ52がLC直列共振回路を形成し、1端子対SAW共振子31とインダクタ32がLC並列共振回路を形成していることが分かる。1端子対SAW共振子31,51の静電容量をそれぞれ3pFとして、第3のフィルタ3aと1端子対SAW共振子51とインダクタ52を接続した回路の周波数特性をシミュレータにより計算すると、図10の特性fc2のようになる。図11のローパスフィルタ全体の通過特性を図13に示す。図13におけるfc3は図11のローパスフィルタの通過特性、fc4は図11のローパスフィルタから1端子対SAW共振子51とインダクタ52を除き、インダクタ16,17を短絡したフィルタの通過特性である。このように、図11の構成では、本実施の形態のローパスフィルタに比べて減衰域Dが狭く、その減衰量も小さいことが分かる。
【0036】
また、一般にLC直列共振は、インダクタの値あるいはキャパシタの値を大きくすると共振周波数が低周波側に遷移し、値を小さくすると共振周波数が高周波側に遷移する。インダクタ22,32の静電容量と各SAW共振子の静電容量は、50Ωに整合した低損失な通過域を形成するために適した組み合わせが存在するため、必要以上に大きな値をとることができない。そのため、通常はインダクタ16,17,52の値を調整して、所望の周波数に減衰域を設けることになる。しかしながら、例えば2GHzに減衰域を設ける場合、図11の構成ではインダクタ16,17,52の値が少なくとも数nH必要となるため、ワイヤやパッケージ内の配線パターンを長くしたり、外付けのインダクタが必要となったりして、フィルタの外形が大きくなるという問題がある。
【0037】
これに対して、本実施の形態では、数pFのキャパシタ33と2端子対SAW共振子41を1個付加すれば、高周波領域に減衰域Dを形成することができる。数pFのキャパシタ33と2端子対SAW共振子41は、外付けのチップインダクタや配線パターンに比べてデバイスサイズに与える影響が少ない。SAW共振子を形成する圧電基板は一般に比誘電率が高いので、この圧電基板上にキャパシタ33を形成すれば、小型で大容量のキャパシタ33を容易に形成可能である。しかも、図9に示したインダクタL1,L2の値は0.3nH程度なので、ワイヤやパッケージ内の配線パターンによってインダクタL1,L2を容易に実現できる。
【0038】
以上のように、本実施の形態によれば、従来の積層LCフィルタに比べて、非常に急峻な減衰特性を得ることができる。本実施の形態では、SAW共振子を用いるため、フィルタを小型化できる。さらに、本実施の形態では、積層LCフィルタのように所望の減衰量を得るために段数を増やす必要がないので、通過帯域の挿入損失が増大することがなく、外形が大型化することもない。その結果、本実施の形態では、低損失で急峻な減衰特性を有する小型のローパスフィルタを実現することができる。
【0039】
また、本実施の形態では、第3のフィルタ3のキャパシタ33の両端と接地との間に2端子対SAW共振子41を挿入することにより、広帯域で減衰量の大きい減衰域Dを形成することが可能になる。近年、800MHz帯と2GHz帯をそれぞれ音声通信とデータ通信に割り当てたデュアルタイプの携帯電話機が登場しているが、本実施の形態によれば、800MHz帯の減衰域Bだけでなく、2GHz帯の減衰域Dについても十分な減衰量を得ることができるので、このようなデュアルタイプの携帯電話機にTV放送受信用チューナを設ける場合に、携帯電話機の送信信号がチューナ回路に回り込むことのないように携帯電話機の送信信号を十分に減衰させることができ、十分な妨害波除去機能を果たすことができる。キャパシタ33と2端子対SAW共振子41は、デバイスサイズに与える影響が少ないので、デバイスサイズの大幅な増大を招くことなく、高周波領域に広帯域な減衰域Dを形成することが可能となる。
【0040】
なお、本実施の形態において、使用する圧電基板やカット角は、種々変更可能である。特に電気機械結合係数は、フィルタの急峻性に寄与する。電極材料も、AlCuに限らず種々の合金、多層膜、高配向膜を用いてよく、表面にSiO2 等の保護膜を形成してもよい。
【0041】
また、本実施の形態のローパスフィルタは、他の構成のフィルタと組み合わせてもよく、分波器用のフィルタの一部または全部を構成してもよい。また、第1のフィルタ1の2端子対SAW共振子11は、対称構成でなくてもよく、IDT110と111の間で共振波長λや電極指の対数などを変えてもよい。また、IDT110と111間の距離も要求特性に応じて変更してよい。また、第1のフィルタ1と第2のフィルタ2の組み合わせを複数段直列に接続するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、例えばTV放送受信用チューナ付き携帯電話機のチューナ回路に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施の形態となるローパスフィルタの回路図である。
【図2】本発明の実施の形態における第1のフィルタの平面図である。
【図3】本発明の実施の形態における第1のフィルタの通過特性の1例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態における第3のフィルタの平面図である。
【図5】本発明の実施の形態における第3のフィルタの通過特性の1例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態において第1のフィルタと第3のフィルタとを直列に接続したフィルタの通過特性の1例を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態における第2のフィルタの平面図である。
【図8】図1のローパスフィルタの通過特性の1例を示す図である。
【図9】図1のローパスフィルタの等価回路図である。
【図10】本発明の実施の形態において第3のフィルタと第4のフィルタとを接続した回路の通過特性の1例を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態の比較例となるローパスフィルタの回路図である。
【図12】図11のローパスフィルタの等価回路図である。
【図13】図11のローパスフィルタの通過特性の1例を示す図である。
【図14】従来の積層LCローパスフィルタの回路図である。
【図15】図14の積層LCローパスフィルタの通過特性の1例を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1…第1のフィルタ、2…第2のフィルタ、3…第3のフィルタ、4…第4のフィルタ、11,41…2端子対SAW共振子、21,31…1端子対SAW共振子、22,32…インダクタ、33…キャパシタ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のフィルタと、この第1のフィルタに並列に接続された第2のフィルタと、前記第1、第2のフィルタと信号入力端子との間に挿入された第3のフィルタと、この第3のフィルタと接地との間に挿入された第4のフィルタとを有し、
前記第1のフィルタは、第1の端子が前記第3のフィルタに接続され、第2の端子が信号出力端子に接続され、第3の端子と第4の端子が接地された第1の2端子対SAW共振子からなり、
前記第2のフィルタは、第1の端子が前記第1の2端子対SAW共振子の第1の端子に接続され、第2の端子が前記第1の2端子対SAW共振子の第2の端子に接続された第1の1端子対SAW共振子と、この第1の1端子対SAW共振子に並列に接続された第1のインダクタとからなり、
前記第3のフィルタは、第1の端子が前記信号入力端子に接続されたキャパシタと、第1の端子が前記キャパシタの第2の端子に接続され、第2の端子が前記第1、第2のフィルタの第1の端子に接続された第2の1端子対SAW共振子と、第1の端子が前記信号入力端子に接続され、第2の端子が前記第1、第2のフィルタの第1の端子に接続された第2のインダクタとからなり、
前記第4のフィルタは、第1の端子が前記信号入力端子に接続され、第2の端子が前記キャパシタと前記第2の1端子対SAW共振子との接続点に接続され、第3の端子と第4の端子が接地された第2の2端子対SAW共振子からなることを特徴とするローパスフィルタ。
【請求項2】
請求項1記載のローパスフィルタにおいて、
前記第1、第2の2端子対SAW共振子と前記第1、第2の1端子対SAW共振子と前記キャパシタとが、圧電基板上に形成され、前記第1、第2のインダクタが、前記圧電基板を内蔵するパッケージ内に搭載されることを特徴とするローパスフィルタ。
【請求項1】
第1のフィルタと、この第1のフィルタに並列に接続された第2のフィルタと、前記第1、第2のフィルタと信号入力端子との間に挿入された第3のフィルタと、この第3のフィルタと接地との間に挿入された第4のフィルタとを有し、
前記第1のフィルタは、第1の端子が前記第3のフィルタに接続され、第2の端子が信号出力端子に接続され、第3の端子と第4の端子が接地された第1の2端子対SAW共振子からなり、
前記第2のフィルタは、第1の端子が前記第1の2端子対SAW共振子の第1の端子に接続され、第2の端子が前記第1の2端子対SAW共振子の第2の端子に接続された第1の1端子対SAW共振子と、この第1の1端子対SAW共振子に並列に接続された第1のインダクタとからなり、
前記第3のフィルタは、第1の端子が前記信号入力端子に接続されたキャパシタと、第1の端子が前記キャパシタの第2の端子に接続され、第2の端子が前記第1、第2のフィルタの第1の端子に接続された第2の1端子対SAW共振子と、第1の端子が前記信号入力端子に接続され、第2の端子が前記第1、第2のフィルタの第1の端子に接続された第2のインダクタとからなり、
前記第4のフィルタは、第1の端子が前記信号入力端子に接続され、第2の端子が前記キャパシタと前記第2の1端子対SAW共振子との接続点に接続され、第3の端子と第4の端子が接地された第2の2端子対SAW共振子からなることを特徴とするローパスフィルタ。
【請求項2】
請求項1記載のローパスフィルタにおいて、
前記第1、第2の2端子対SAW共振子と前記第1、第2の1端子対SAW共振子と前記キャパシタとが、圧電基板上に形成され、前記第1、第2のインダクタが、前記圧電基板を内蔵するパッケージ内に搭載されることを特徴とするローパスフィルタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−5277(P2008−5277A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−173520(P2006−173520)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(000104722)京セラキンセキ株式会社 (870)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(000104722)京セラキンセキ株式会社 (870)
【Fターム(参考)】
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