説明

ロール成形時の耐皮膜剥離性に優れた樹脂塗装金属板

【課題】耐食性等の樹脂塗装金属板に要求される特性を備えつつ、ロール成形時にもトラブルを起こさない樹脂塗装金属板を提供する。
【解決手段】表面処理組成物から得られた樹脂皮膜を備える樹脂塗装金属板であって、この樹脂皮膜のスォードロッカー硬度が35以上であり、かつ、ナノスクラッチ試験における圧子の進入深さが0.3μm未満であることを特徴とするロール成形時の耐皮膜剥離性に優れた樹脂塗装金属板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電製品、建材等に用いられる樹脂塗装金属板に関し、詳しくは、特に、耐食性とロール成形時の耐皮膜剥離性に優れた樹脂塗装金属板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建材等には、耐食性の観点から、電気亜鉛めっき鋼板や溶融亜鉛めっき鋼板等の亜鉛系めっき鋼板が用いられる。従来は、より一層の耐食性の向上を目的として、亜鉛系めっき鋼板上にクロメート処理を施していたが、近年の環境意識の高まりから、クロメート処理を施さない鋼板の需要が増大している。
【0003】
このようなクロメート処理に代わる耐食性向上手段として、例えば特許文献1は、オレフィンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸と共重合体エマルションと架橋剤とを含有する表面処理組成物を提案している。
【0004】
ところで、樹脂塗装金属板は、用途に応じて加工して成形される。例えば、長尺断面材の製造に適しているロール成形法は、一列に並んだ複数組のロール間に連続的に金属板を通過させ、順次に成形加工を行って、平板から目的の断面形状の成形品に加工する方法である。ロール成形に際しては、潤滑性を確保すると共に加工熱を冷却するため、クーラント液が金属板表面に供給される。このクーラント液は、成形品を切断する工程の前に水切りパッドで金属板表面を拭うことで除去される(水切り工程)。
【0005】
上記ロール成形(成形速度約20〜70m/分)のような面圧の高い過酷な加工を行う場合、樹脂塗装金属板の樹脂皮膜の加工性が劣っていると、樹脂皮膜が金属板表面から少しだけ剥がれてしまうことがある。この皮膜カスは、クーラント液の受槽に導入されることとなるが、樹脂皮膜は比重が約1と軽いため、クーラント液受槽の底に沈降することなく、液中を浮遊する。クーラント液の循環使用システムには、通常フィルターが備え付けられているが、亜鉛めっきの剥離小片をキャッチすることを目的とするフィルターであるために、上記樹脂皮膜カスをキャッチできるほどフィルターの目が細かくなく、皮膜カスは繰り返し使用されるクーラント液に随伴してしまう。その結果、水切り工程で水切りパッド表面に次第に皮膜カスが堆積し、この堆積した皮膜カスと成形品表面との間に摩擦が生じて異音が発生したり、成形品が水切りパッド部分を均一な走行速度で通り抜けることができなくなって、製品の形状や寸法に狂いが生じ、歩留まりが悪くなるという問題があった。
【0006】
上記問題の解決のため、樹脂皮膜中に無機成分を存在させて皮膜硬度を高めることも考えられたが、無機成分量が増えると樹脂皮膜が脆くなり、耐皮膜剥離性は却って低下してしまうため、適度に硬く、かつ脆さのない樹脂皮膜を形成する必要性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−269018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明では、耐食性等の樹脂塗装金属板に要求される特性を備えつつ、しかも上記したようなロール成形時の皮膜剥離が少なく、ロール成形時にトラブルを起こさない樹脂塗装金属板を提供することを課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のロール成形時の耐皮膜剥離性に優れた樹脂塗装金属板は、表面処理組成物から得られた樹脂皮膜を備える樹脂塗装金属板であって、この樹脂皮膜のスォードロッカー硬度が35以上であり、かつ、ナノスクラッチ試験における圧子の進入深さが0.3μm未満であるところに特徴を有する。なお、スォードロッカー硬度の測定方法およびナノスクラッチ試験の詳細は後述する。
【0010】
上記表面処理組成物は、オレフィン−α,β−不飽和カルボン酸共重合体、α,β−不飽和カルボン酸重合体およびオキサゾリン基含有共重合体からなる樹脂成分と、コロイダルシリカとを含み、樹脂成分とコロイダルシリカとの合計100質量部のうち、樹脂成分が70〜90質量部、コロイダルシリカが10〜30質量部であることが好ましい。このとき、樹脂成分は、オレフィン−α,β−不飽和カルボン酸共重合体およびα,β−不飽和カルボン酸重合体の合計100質量部に対し、オキサゾリン基含有共重合体を1〜9質量部含むものであることが好ましい。また、コロイダルシリカの表面積平均粒子径は、4〜20nmであることが好ましい。
【0011】
上記樹脂成分とコロイダルシリカとの合計100質量部に対し、さらにグリシジル基含有シランカップリング剤を0.1〜10質量部含有する態様、あるいは、さらにメタバナジン酸塩を0.5〜6質量部含有する態様は、いずれも本発明の好ましい実施態様である。
【0012】
上記樹脂皮膜は、上記表面処理組成物を金属板に塗布した後、120〜180℃の板温(到達温度)で加熱されて形成されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、硬さと脆さのバランスの採れた強靱な樹脂皮膜を形成できたので、ロール成形時の耐皮膜剥離性を向上することができた。特に、樹脂皮膜の硬さをスォードロッカー硬度で表し、樹脂皮膜の脆さをナノスクラッチ試験における圧子の進入深さで表し、これらの好適範囲を把握することができたので、実際にロール成形したときの皮膜剥離量との相関性を高めることができた。その結果、ロール成形時の水切りパッド表面への皮膜カスの堆積がほとんど起こらなくなり、長期間、高い歩留まりでロール成形ができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】スォードロッカーの正面図である。
【図2】スォードロッカーの背面図である。
【図3】スォードロッカーの側面図である。
【図4】スォードロッカー値測定装置の正面図である。
【図5】表面摺動時の皮膜残存率を評価するときの試験方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者等は、樹脂塗装金属板における樹脂皮膜中の無機成分の割合を有機成分よりもかなり多くすることにより硬い皮膜を形成し、皮膜剥離を抑制することに成功し、既に出願している(特願2007−229395号)。本発明者等は、さらにロール成形性を高めることを目的として鋭意検討した結果、本願発明に到達したものである。以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明は、表面処理組成物から得られる樹脂皮膜を備えた樹脂塗装金属板に関するものであり、その特徴は、樹脂皮膜の硬さが、スォードロッカー硬度で35以上、樹脂皮膜の脆くなさがナノスクラッチ試験における圧子の進入深さで0.3μm未満であるところにある。スォードロッカー硬度が樹脂皮膜の硬さを的確に表し、ナノスクラッチ試験における圧子の進入深さが樹脂皮膜の脆さを的確に表すことが、本発明者等によって見出されたからである。ロール成形のように、皮膜表面に対して高面圧で接触し、多段ロールで繰り返し摺動を受ける厳しい加工の際には、皮膜の硬さと脆さをバランスさせることで皮膜の強靱さを向上させることが重要である。皮膜に硬さを付与するだけでは、脆さが発現するため、繰り返し摺動させると皮膜が削られやすい。スォードロッカー硬度と圧子の進入深さが上記範囲にある樹脂皮膜は、皮膜の硬さと脆さがバランスしており、強靱な皮膜を有しているため、ロール成形時の耐皮膜剥離性に優れている。
【0017】
スォードロッカー硬度は、ASTM D2134−93に規定されている硬度であって、スォードロッカー硬度計(上島製作所(現在生産中止)やテスター産業社の他、多数の外国企業によって製造販売されている)によって測定される。なお、JIS K 5400-1959(現在は廃止されている)にも規定されていた。簡単には、振り子(スォードロッカー)を樹脂皮膜等が形成された試料の上で揺らし、減衰して振り子がある一定の振り幅になるまでの揺れ回数をカウントし、硬度を求める。硬い材料では、皮膜に下向きに作用する垂直力(ロッカーの自重)とロッカーに対する皮膜の反発力(上向き)が釣り合って左右の反復運動を妨げないため、振り子が止まるまでの回数が多くなる。軟らかい材料では、垂直力に比べて反発力が小さいため、左右の反復運動を妨げ、振り子が止まるまでの回数が小さくなる。
【0018】
スォードロッカーは、図1〜3に示したような構造であって、同形同大の平行した2枚の輪で転がり往復運動ができるように構成されている。図4には、測定時の側面視を示した。試験板固定装置の試験板の中央部には直方体状に凹部が形成され、凹部の底面に試験板を置き、その上でスォードロッカーを転がすことができるように構成されている。
【0019】
JIS K 5400-1959に準拠した具体的な測定方法を説明する。まず、スォードロッカーを水平な面に置き、垂直軸が垂直になるように垂直安定用のオモリで調節する。試験板固定装置に標準ガラス板をセットして、試験板固定装置で固定し、板面に水準器を載せ、縦と横の方向について水平となるように、固定装置の調節足で高さを調節する。スォードロッカーを試験板の上に載せ、転がり運動を与えてから風よけを被せ、風よけの外部から水準器の状態を観察する。スォードロッカーの水準器BのアワがBのオオイの陰に隠れて初めて見えなくなった時を0(スタート)と数える。その後、ころがり運動1往復ごとにカウント数を1ずつ加え、水準器Cのアワがオオイの陰に隠れて初めて見えなくなるまで、カウントし、この値をスォードロッカー値とする。標準ガラス板のスォードロッカー値は50であるので、5回の測定でスォードロッカー値が50±1になるように、水準器B,Cそれぞれの傾きを調整する。また、50±1往復に要する時間が60±5秒になるように、周期調整用オモリの垂直位置を調整する。次に、試験板を標準メタクリルメチル板(ポリメチルメタクリレート)に変え、スォードロッカー値が、5個とも20±1になるように、水準器B,Cのそれぞれの傾きを調整する。これを繰り返して、両標準板でそれぞれの測定値が上記基準を満たしたとき、水準器B,Cを固定する。なお、雰囲気温度は20〜23℃、湿度は20〜40%RHとする。試験板を、スォードロッカーを測定したい試料へと変更し、上記と同様の方法で、スォードロッカー値を測定する。n=5とし、それぞれについてスォードロッカー値を測定し、5個のスォードロッカー値のうち大きい方から3個について平均を求め、それを最終値とする。最終値そのままが、試料のスォードロッカー値であり、これを2倍した値がスォードロッカー硬度となる。なお、雰囲気温度は20〜23℃、湿度は20〜40%RHとする。
【0020】
次にナノスクラッチ試験について説明する。ナノスクラッチ試験は、樹脂皮膜の脆さと相関し、ロール成形時の耐皮膜剥離性とも相関する。本発明では、高荷重マイクロインデンター(「High Load Tribo Indenter」:Hysitron社製)を用いて、ナノスクラッチ試験を行った。使用圧子は、球形圧子(先端半径84.5μm、ダイヤモンド製)である。この圧子に0.1mNの荷重を加えて測定試料の上に垂直に固定し、荷重を維持したままスクラッチ速度10μm/秒で圧子を100μm水平移動させたときの樹脂皮膜への圧子の進入深さを測定した。なお、雰囲気温度は20〜23℃、湿度は20〜40%RHとする。本発明では、ナノスクラッチ試験による圧子の進入深さが0.3μm未満でなければならない。この値が0.3μmを超える皮膜は、スォードロッカー硬度が高くても、脆いため、ロール成形時に皮膜が剥がれやすい。よって、耐皮膜剥離性という点では不適切である。
【0021】
以下においては、上記スォードロッカー硬度の要件と、ナノスクラッチ試験における圧子の進入深さの要件を満足する樹脂皮膜を得るために好適な表面処理組成物の各成分について説明する。
【0022】
[樹脂成分]
本発明で用いられる表面処理組成物は、オレフィン−α,β−不飽和カルボン酸共重合体(以下、「オレフィン−酸共重合体」と省略することがある。)と、α,β−不飽和カルボン酸重合体(以下、「カルボン酸重合体」と省略することがある。)と、これらと架橋することができるオキサゾリン基含有共重合体とからなる樹脂成分を含むものである。なお、本発明における「α,β−不飽和カルボン酸」には、後述する中和剤でカルボキシル基の一部が中和された「α,β−不飽和カルボン酸塩」も含まれる。
【0023】
本発明における「オレフィン−α,β−不飽和カルボン酸共重合体」または「オレフィン−酸共重合体」とは、オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸との共重合体であって、オレフィン由来の構成単位が、共重合体中に50質量%以上(すなわちα,β−不飽和カルボン酸由来の構成単位が50質量%以下)であるものを意味し、「α,β−不飽和カルボン酸重合体」または「カルボン酸重合体」とは、α,β−不飽和カルボン酸を単量体として得られる重合体(共重合体も含む)であって、α,β−不飽和カルボン酸由来の構成単位が重合体中に90質量%以上であるものを意味する。
【0024】
オレフィン−酸共重合体およびカルボン酸重合体の双方を含有する組成物で表面処理することにより、樹脂塗装金属板の耐食性が向上する正確なメカニズムは不明であるが、これら双方を後述するオキサゾリン基含有共重合体と併用することによって、緻密な樹脂皮膜が形成されて、水および酸素の透過が効果的に抑制されたためであると推定することができる。但し本発明は、この推定には限定されない。
【0025】
本発明で用いるオレフィン−酸共重合体は、オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸とを既知の方法で共重合させることにより製造でき、また市販されている。本発明において、1種または2種以上のオレフィン−酸共重合体を使用することができる。
【0026】
オレフィン−酸共重合体の製造に使用できるオレフィンには、特に限定は無いが、エチレン、プロピレン等が好ましく、エチレンがより好ましい。オレフィン−酸共重合体として、オレフィン構成単位が、1種のオレフィンのみに由来するもの、または2種以上のオレフィンから由来するもののいずれも使用することができる。
【0027】
オレフィン−酸共重合体の製造に使用できるα,β−不飽和カルボン酸にも、特に限定はないが、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等のモノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のジカルボン酸等を挙げることができる。これらの中でもアクリル酸が好ましい。オレフィン−酸共重合体として、α,β−不飽和カルボン酸の構成単位が、1種のα,β−不飽和カルボン酸のみに由来するもの、または2種以上のα,β−不飽和カルボン酸から由来するもののいずれも使用することができる。
【0028】
本発明で用いるオレフィン−酸共重合体は、本発明の効果である耐食性等に悪影響を及ぼさない範囲で、その他の単量体に由来する構成単位を有していても良い。オレフィン−酸共重合体中において、その他の単量体に由来する構成単位量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であり、最も好ましいオレフィン−酸共重合体は、オレフィンおよびα,β−不飽和カルボン酸のみから構成されるものである。好ましいオレフィン−酸共重合体として、エチレン−アクリル酸共重合体が挙げられる。
【0029】
オレフィン−酸共重合体中のα,β−不飽和カルボン酸は、樹脂皮膜と金属板との密着性を向上させるため、および架橋の反応基となるカルボキシル基の量を確保するために用いられる。共重合体中のα,β−不飽和カルボン酸量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。しかしα,β−不飽和カルボン酸が過剰になると、耐食性および耐アルカリ性が低下するおそれがあるため、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
【0030】
本発明で用いるオレフィン−酸共重合体の質量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン換算で、好ましくは1,000〜10万、より好ましくは3,000〜7万、さらに好ましくは5,000〜3万である。このMwは、ポリスチレンを標準として用いるGPCにより測定することができる。
【0031】
カルボン酸重合体としては、1種または2種以上のα,β−不飽和カルボン酸の単独重合体若しくは共重合体、またはさらに他の単量体を共重合させた共重合体のいずれも使用することができる。このようなカルボン酸重合体は、既知の方法で製造でき、また市販されている。本発明において、1種または2種以上のカルボン酸重合体を使用できる。
【0032】
カルボン酸重合体の製造に使用できるα,β−不飽和カルボン酸には、上記オレフィン−酸共重合体の合成に使用することのできるものとして例示したα,β−不飽和カルボン酸がいずれも使用可能である。これらの中でもアクリル酸およびマレイン酸が好ましく、マレイン酸がより好ましい。
【0033】
カルボン酸重合体は、α,β−不飽和カルボン酸以外の単量体に由来する構成単位を含有していても良いが、その他の単量体に由来する構成単位量は、重合体中に10質量%以下、好ましくは5質量%以下であり、α,β−不飽和カルボン酸のみから構成されるカルボン酸重合体がより好ましい。
【0034】
好ましいカルボン酸重合体として、例えばポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリマレイン酸等を挙げることができ、これらの中でも塗膜密着性、樹脂皮膜密着性および耐食性の観点から、ポリマレイン酸がより好ましい。ポリマレイン酸を使用することにより耐食性等が向上する正確なメカニズムは不明であるが、カルボキシル基量が多いため、樹脂皮膜と金属板との密着性が向上し、それに伴い耐食性も向上することが考えられる。但し本発明は、この推定には限定されない。
【0035】
本発明で用いるカルボン酸重合体のMwは、ポリスチレン換算で、好ましくは500〜3万、より好ましくは800〜1万、さらに好ましくは900〜3,000、最も好ましくは1,000〜2,000である。このMwは、ポリスチレンを標準として用いるGPCにより測定することができる。
【0036】
表面処理組成物中のオレフィン−酸共重合体とカルボン酸重合体との含有比率は、1,000:1〜10:1、好ましくは200:1〜20:1、より好ましくは100:1〜100:3である。カルボン酸重合体の含有比率が低すぎると、オレフィン−酸共重合体とカルボン酸重合体とを組み合わせた効果が充分に発揮されず、逆にカルボン酸重合体の含有比率が過剰であると、表面処理組成物中でオレフィン−酸共重合体とカルボン酸重合体とが相分離し、均一な樹脂皮膜が形成されなくなるおそれや、耐アルカリ性が低下する可能性が生ずるからである。
【0037】
上記樹脂成分には、オキサゾリン基含有共重合体も含まれる。オキサゾリン基含有共重合体は、そのオキサゾリン基が、上記オレフィン−酸共重合体やカルボン酸重合体の有するカルボキシル基と架橋反応するので、樹脂同士が架橋して、緻密な網目構造を形成する。これにより皮膜の強靱さが向上する。
【0038】
オキサゾリン基含有共重合体としては、主鎖がスチレン/アクリルである日本触媒社製の「エポクロス(登録商標)」が好適である。非常に硬い皮膜を形成すると共に、皮膜の脆さが改善される。特に、エマルジョンタイプの「エポクロス(登録商標)K」シリーズが好ましく、グレードとしては、K−2010E(Tg:−50℃)、K−2020E(Tg:0℃)およびK−2030E(Tg:50℃)がある。硬い皮膜を得るには、エポクロスK−2030Eが最も好ましい。これらの「エポクロス(登録商標)K」シリーズは、官能基がブロックされていて常温ではほとんど架橋反応を起こさないため、表面処理剤組成物のポットライフが長いというメリットがある。
【0039】
樹脂成分においては、樹脂皮膜の硬度を向上させるために、オレフィン−酸共重合体とカルボン酸重合体との合計100質量部に対して、オキサゾリン基含有共重合体は1〜9質量部が好ましい。オキサゾリン基含有共重合体が1質量部より少ないと、皮膜の強靱さの向上が不充分となることがある。より好ましい下限は2質量部、さらに好ましい下限は3質量部である。一方、オキサゾリン基含有共重合体が9質量部を超えると、樹脂の架橋が充分となり、さらなる脆さの改善や耐食性の向上が認められないだけではなく、樹脂に残存するカルボキシル基が少なくなるため、塗装性(上塗り塗膜との密着性)が低下するおそれがあるため好ましくない。より好ましい上限は6質量部、さらに好ましい上限は5質量部である。
【0040】
上記したように、樹脂成分には、オレフィン−酸共重合体、カルボン酸重合体およびオキサゾリン基含有共重合体が含まれる。これらの樹脂成分の量は、後述するコロイダルシリカとの合計を100質量部としたときに、樹脂成分が70〜90質量部、コロイダルシリカが10〜30質量部であることが好ましい。皮膜の硬さを向上させるには、無機物でナノオーダーサイズの硬い防錆顔料であるコロイダルシリカを多用することが効果的であるが、コロイダルシリカ量を多くし過ぎると、皮膜中の樹脂成分の量が少なくなって、造膜性が低下し、皮膜に脆さが発現する。その結果、皮膜剥離が起こりやすくなるだけでなく、耐食性や塗装性も低下するため好ましくない。一方で、コロイダルシリカ量が少なすぎると、皮膜の硬さが不足し、防錆効果も小さいため耐食性が低下する。樹脂成分とコロイダルシリカの量が上記範囲であれば、皮膜の硬さと脆さのバランスに優れ、耐食性や塗装性も良好な樹脂皮膜が得られる。
【0041】
樹脂成分とコロイダルシリカとの合計100質量部中、樹脂成分は75質量部以上が好ましい。樹脂成分の上限は85質量部がより好ましく、80質量部がさらに好ましい。
【0042】
[コロイダルシリカ]
コロイダルシリカを皮膜中に存在させると、腐食環境下において皮膜欠陥部で溶解・溶出し、pHの緩衝作用や不動態皮膜形成作用によって金属板の溶解/溶出を抑制するため、耐食性が向上する。ただし、コロイダルシリカの表面積(粒子径)によって、皮膜中への分散状態が変化し、皮膜の硬さや脆さ等の機械的物性に大きな影響を及ぼす。緻密な皮膜を形成させ、皮膜の強靱さを向上させるには、粒子径の小さいコロイダルシリカを、皮膜中に均一に分散させることが望ましく、この点で、コロイダルシリカは、表面積平均粒子径で4〜20nmであることが好ましい。20nmより大きくなると、表面積自体が小さくなり、分散性が低下する傾向にある。このため、緻密な皮膜ができず、皮膜の強靱さが不足したり、耐食性向上効果が低下するおそれがある。一方、4nm未満では、表面処理組成物の保存安定性が悪化して、ゲル化するおそれがある。コロイダルシリカの表面積平均粒子径は、4〜6nmがより好ましい。シリカの表面積平均粒子径は、平均粒子径が1〜10nm程度の場合にはシアーズ法により、10〜100nm程度の場合にはBET法により、測定することができる。
【0043】
コロイダルシリカは市販されており、例えば、表面積平均粒子径4〜6nmのものであれは、日産化学工業社製の「スノーテックス(登録商標)XS」を、表面積平均粒子径10〜20nmであれば、同じく日産化学工業社製の「スノーテックス(登録商標)40」、「スノーテックス(登録商標)N」、「スノーテックス(登録商標)SS」、「スノーテックス(登録商標)O」等や、ADEKA社製の「アデライト(登録商標)AT−30」、「アデライト(登録商標)AT−30A」等を使用することができる。樹脂皮膜の形成に使用する表面処理組成物が水系である場合、コロイダルシリカを良好に分散させるために、表面処理組成物のpHに合わせて、コロイダルシリカの種類を選択することが好ましい。
【0044】
[グリシジル基含有シランカップリング剤]
本発明の表面処理組成物には、さらにグリシジル基含有シランカップリング剤が含まれていてもよい。シランカップリング剤を用いると、金属と樹脂皮膜との密着性が向上し、それに伴い耐食性も向上する。また、樹脂成分とコロイダルシリカとの結合力を向上させる効果があり、皮膜の強靱さが向上する。特に、グリシジル基含有シランカップリング剤は反応性が高く、耐食性や耐アルカリ性の向上効果が大きい。
【0045】
グリシジル基含有シランカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシメチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0046】
表面処理組成物中のシランカップリング剤量は、樹脂成分とコロイダルシリカとの合計100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましい。0.1質量部より少ないと、金属板と樹脂皮膜との密着性や、樹脂成分とコロイダルシリカとの結合力が不足して、皮膜の強靱さや耐食性が不充分となるおそれがある。ただし、10質量部を超えても、金属板と樹脂皮膜との密着性向上効果が飽和する上に、樹脂中の官能基が減少するため塗装性が低下するおそれがある。また、シランカップリング剤同士が加水分解縮合反応を起こして、表面処理組成物の安定性が低下し、ゲル化やコロイダルシリカの沈殿を引き起こすおそれがある。より好ましいシランカップリング剤量は3〜9質量部であり、さらに好ましくは5〜7質量部である。
【0047】
[メタバナジン酸塩]
本発明の表面処理組成物には、さらにメタバナジン酸塩が含まれるていてもよい。メタバナジン酸塩もコロイダルシリカと同様に溶出することによって金属板の溶解・溶出を抑制し、耐食性を高める効果を有する。また、表面処理組成物中で、メタバナジン酸塩はシランカップリング剤の加水分解縮合反応を抑制する効果も発揮する。この結果、金属板と樹脂皮膜との密着性や、樹脂成分とコロイダルシリカとの結合力が向上し、緻密な皮膜となって強靱さが向上する。これらの効果を有効に発揮させるためには、樹脂成分とコロイダルシリカとの合計100質量部に対し、メタバナジン酸塩を0.5〜6質量部用いるとよい。0.5質量部より少ないと、上記効果が充分発現しないが、6質量部を超えて添加しても、上記効果が飽和する上に、表面処理組成物の安定性も悪化する。メタバナジン酸塩量は、1〜5質量部がより好ましく、3〜4質量部がさらに好ましい。なお、このメタバナジン酸塩の好適量は、V元素換算量である。
【0048】
メタバナジン酸塩としては、メタバナジン酸アンモニウム(NH4VO3)、メタバナジン酸ナトリウム(NaVO3)、メタバナジン酸カリウム(KVO3)等を挙げることができ、これらの1種または2種以上を使用できる。これらのメタバナジン酸塩は市販されており、容易に入手することができる。
【0049】
[カルボジイミド基含有化合物]
本発明の表面処理組成物は、さらにカルボジイミド基含有化合物を含んでいても良い。カルボジイミド基は、オレフィン−酸共重合体およびカルボン酸重合体中のカルボキシル基と反応する。よってカルボジイミド基含有化合物を使用することにより、樹脂皮膜中のカルボキシル基量を減少させて、耐アルカリ性を向上させることができる。本発明において、1種または2種以上のカルボジイミド基含有化合物を使用できる。
【0050】
カルボジイミド基含有化合物は、イソシアネート類、例えばヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)またはトリレンジイソシアネート(TDI)等をカルボジイミド化触媒の存在下で加熱することにより製造することができ、また変性により水性(水溶性、水乳化性または水分散性)にすることができる。表面処理組成物が水系である場合、水性のカルボジイミド基含有化合物が好ましい。また1分子中に複数のカルボジイミド基を含有する化合物が好ましい。1分子中に複数のカルボジイミド基を有すると、樹脂成分中のカルボキシル基との架橋反応により、耐食性等をさらに向上させることができる。
【0051】
市販されているポリカルボジイミド化合物として、例えばN,N−ジシクロへキシルカルボジイミド、N,N−ジイソプロピルカルボジイミド等や、日清紡社製のポリカルボジイミド(1分子中に複数のカルボジイミド基を有する重合体)である「カルボライト(登録商標)」シリーズを挙げることができる。「カルボライト(登録商標)」のグレードとしては、水溶性の「SV−02」、「V−02」、「V−02−L2」、「V−04」やエマルジョンタイプの「E−01」、「E−02」等が好適である。
【0052】
カルボジイミド基含有化合物量は、架橋相手であるオレフィン−酸共重合体とカルボン酸重合体の量に応じて設定する。すなわち、オレフィン−酸共重合体とカルボン酸重合体の合計を100質量部とした場合、前記100質量部に対し、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは8質量部以上である。一方、カルボジイミド基含有化合物量が過剰になると、オレフィン−酸共重合体およびカルボン酸重合体の組合せの効果が低下する。また水系の表面処理組成物中で水性カルボジイミド基含有化合物を過剰に使用すると、耐水性および耐食性に悪影響を及ぼし得る。このような観点から、カルボジイミド基含有化合物量は、前記100質量部に対し、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは16質量部以下である。
【0053】
本発明の表面処理組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、ワックス、架橋剤、希釈剤、皮張り防止剤、界面活性剤、乳化剤、分散剤、レベリング剤、消泡剤、浸透剤、造膜助剤、染料、顔料、増粘剤、潤滑剤等を含有することもできる。
【0054】
本発明の表面処理組成物は、金属板の表面に塗布することができる溶剤系組成物または水系組成物のいずれでも良いが、環境上の問題から、水系組成物であることが好ましい。表面処理組成物は、有機溶剤(溶剤系組成物の場合)または水、好ましくは脱イオン水(水系組成物の場合)、オレフィン−酸共重合体、カルボン酸重合体、コロイダルシリカ、シランカップリング剤、メタバナジン酸塩、オキサゾリン基含有共重合体、必要に応じてカルボジイミド基含有化合物またはその他の成分を所定量配合して撹拌することによって調製することができる。
【0055】
表面処理組成物を調製する際には、オレフィン−酸共重合体とカルボン酸重合体の乳化物(エマルション)に、シランカップリング剤の一部とカルボジイミド基含有化合物を添加し、これらの混合物を調製しておき、これに、コロイダルシリカ、残りのグリシジル基含有シランカップリング剤、メタバナジン酸塩、オキサゾリン基含有共重合体を、この順で添加するのが好ましい。オレフィン−酸共重合体およびカルボン酸重合体に、オキサゾリン基含有共重合体を直接添加混合すると、ゲル化することがあり、またシランカップリング剤よりも先にメタバナジン酸塩を添加すると、シランカップリング剤の反応が抑制されることがある。また、シランカップリング剤は、上記のように二度以上に分けて添加することが好ましい。先に添加するシランカップリング剤は、エマルション粒子の微細化や、その結果としての樹脂皮膜の緻密さ向上に寄与し、後に添加するシランカップリング剤は金属板との密着性確保と、皮膜特性の向上に寄与するからである。
【0056】
上記成分の撹拌の際には加熱しても良い。特にオレフィン−酸共重合体をカルボン酸重合体の存在下で乳化する際には、加熱することが好ましい。ただし、オキサゾリン基含有共重合体を配合した後は加熱しない方がよい。オキサゾリン基含有共重合体と、オレフィン−酸共重合体およびカルボン酸重合体との反応により、表面処理組成物がゲル化するのを回避するためである。
【0057】
水系の表面処理組成物を製造する場合、樹脂成分の主成分であるオレフィン−酸共重合体を乳化させることが好ましい。オレフィン−酸共重合体は、乳化剤を使用したり、共重合体中のカルボキシル基を中和することにより、乳化させることができる。乳化剤を使用すると、オレフィン−酸共重合体の水性エマルションの平均粒子径を小さくすることができ、造膜性、およびそれにより樹脂皮膜の緻密さ等を向上させることができる。
【0058】
ただし、オレフィン−酸共重合体中のカルボキシル基を中和して乳化する方が好ましい。カルボキシル基を中和して乳化することにより、乳化剤の使用量を低減でき、または乳化剤を使用せずに済み、樹脂皮膜の耐水性および耐食性への乳化剤による悪影響を減らす、または無くすことができるからである。オレフィン−酸共重合体中のカルボキシル基を中和する場合、カルボキシル基に対して、好ましくは0.5〜0.95当量程度、より好ましくは0.6〜0.8当量程度の塩基を用いることが好ましい。中和度が少なすぎると、乳化性があまり向上せず、一方、中和度が大きすぎると、オキサゾリン基含有共重合体等と反応するカルボキシル基量が減少して、耐食性等に悪影響が出る場合があり、またオレフィン−酸共重合体を含む組成物の粘度が、高くなりすぎることがある。
【0059】
中和のための塩基として、例えばアルカリ金属およびアルカリ土類金属の水酸化物(例えばNaOH、KOH、Ca(OH)2等、好ましくはNaOH)よりなる群から構成される強塩基、アンモニア水、第1級、第2級、第3級アミン(好ましくはトリエチルアミン)を挙げることができる。NaOH等の強塩基を用いると、乳化性は向上するが、多すぎると樹脂皮膜の耐食性が低下するおそれがある。一方、沸点の低いアミン(好ましくは大気圧下での沸点が100℃以下のアミン;例えばトリエチルアミン)は、樹脂皮膜の耐食性をあまり低下させない。この理由として、表面処理組成物を塗布した後、加熱乾燥して樹脂皮膜を形成する際に、低沸点アミンが揮発すること等が考えられる。しかし、アミンは乳化性の向上効果が小さいので、前記強塩基とアミンとを組合せて中和することが好ましい。最適な組み合わせは、NaOHとトリエチルアミンとの組合せである。強塩基とアミンとを組み合わせて用いる場合、オレフィン−酸共重合体のカルボキシル基量に対して、強塩基は0.01〜0.3当量程度使用し、アミンは0.4〜0.8当量程度使用するのが好ましい。
【0060】
水系の表面処理組成物を用いる場合、界面張力を低下させ、金属板への濡れ性を向上させるために、少量の有機溶剤を配合しても良い。このための有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール類、ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等を挙げることができる。
【0061】
表面処理組成物の固形分には、特に限定は無く、金属板への表面処理組成物の塗布方法にあわせて調整すれば良い。表面処理組成物の固形分は、一般に5〜20質量%程度であり、例えばスプレーリンガー法(表面処理組成物を金属板の表面にスプレーした後、ロールで絞る塗布方法)により塗布する場合、10〜18質量%程度が好適である。
【0062】
本発明で用いる金属板には、特に限定は無く、例えば非めっき冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)、溶融合金化亜鉛めっき鋼板(GA)、電気亜鉛めっき鋼板(EG)、アルミ板およびチタン板等を挙げることができる。これらの中でも、クロメート処理が行われていない溶融亜鉛めっき鋼板(GI)や溶融合金化亜鉛めっき鋼板(GA)に本発明を適用するのが好ましい。
【0063】
本発明において、金属板上に樹脂皮膜を形成する方法および条件には特に限定は無く、既知の塗布方法で、表面処理組成物を金属板表面の片面または両面に塗布し、加熱乾燥することにより樹脂塗装金属板を製造することができる。表面処理組成物の塗布方法として、例えばカーテンフローコーター法、ロールコーター法、スプレー法、スプレーリンガー法等を挙げることができ、これらの中でも、コスト等の観点からスプレーリンガー法が好ましい。
【0064】
表面処理組成物を塗布した後の加熱乾燥は、金属板到達温度が120〜180℃となるように行う。高めの乾燥温度によって樹脂の架橋反応を促進し、硬くて脆くない樹脂皮膜を得るためである。加熱温度を高くしたことによる樹脂構造の化学変化はFT−IRでは確認できなかったが、120℃未満での加熱では、皮膜の造膜性や架橋度合いが不充分であって皮膜の強靱さが不足し、耐皮膜剥離性が充分発現しない。ただし、180℃を超える温度で加熱すると、皮膜が硬くなりすぎて脆くなり、皮膜表面にクラックが発生したり、耐皮膜剥離性が低下し、耐食性も劣化するため好ましくない。
【0065】
樹脂塗装金属板における樹脂皮膜の付着量は、乾燥質量で、好ましくは0.1〜1g/m2、より好ましくは0.3〜0.6g/m2である。付着量が少なすぎると、硬さ自体は原板に近づいていくが、金属板表面を覆うことが困難となり、ロール成形による耐皮膜剥離性が劣化するおそれがある。一方、付着量が多くなれば、樹脂成分の反発力の影響で皮膜硬さが小さくなり、ロール成形時に剥離する皮膜量が増加するおそれがあって好ましくない。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することももちろん可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0067】
なお、実施例で用いた特性評価方法は、以下の通りである。
【0068】
[スォードロッカー硬度]
JIS K 5400−1959に準拠した前記方法により測定した。
【0069】
[ナノスクラッチ試験における圧子の進入深さ(μm)]
前記した方法により測定した。
【0070】
[表面摺動試験]
ロール成形性の間接的な評価方法として、表面摺動試験を行った。40mm×300mmに裁断した樹脂塗装金属板を、図5に示したように、垂直に引張試験機にセットし、先端半径R=1mmの凸部を有するSUS製突起付きダイスを当接(線接触)させ、金属板背面には平板ダイスを当接させた。突起付きダイスに1960Nの負荷を水平方向にかけつつ、金属板を上に向かって引き抜いた。引き抜きの度に金属板をセットし直して、合計5回引き抜いた。突起と当接した長さ(摺動部分)は150mmとし、上下端部は突起に当接させなかった。摺動の際の速度は300mm/minとした。突起と当接していない部分(非摺動部分)と摺動部分をそれぞれφ50mmに打ち抜き、蛍光X線分析を行い、皮膜中のSi量を定量した。摺動部分のSi量を非摺動部分のSi量で除することで、皮膜残存率(%)を算出した。
◎:皮膜残存率80%超〜100%
○:皮膜残存率60%超〜80%
△:皮膜残存率40%超〜60%
×:皮膜残存率40%以下
【0071】
[平板耐食性]
JIS Z2371に基づいて塩水噴霧試験を実施して、白錆発生率(100×白錆が発生した面積/供試材の全面積)が5%になるまでの時間を測定した。この平板耐食性が、120時間以上であれば実用上問題ない。
【0072】
[JASOサイクル試験での耐食性]
JIS H8502に基づき、JASOサイクル試験を行った。1サイクルは、塩水噴霧(温度35℃×2時間)→乾燥(温度35℃×湿度30%以下×4時間)→湿潤(温度50℃×湿度95%以上×2時間)である(それぞれ移行時間を含む。)。15サイクル実施した後に、白錆発生率を下記基準で評価した。
◎:白錆発生率5%未満
○:白錆発生率5%以上〜10%未満
△:白錆発生率10%以上〜20%未満
×:白錆発生率20%以上
【0073】
[塗装性]
樹脂塗装金属板に、アクリル系塗料(上塗り)を乾燥後の塗膜厚が20μmになるようにバーコート塗装し、160℃で20分間焼き付けて、後塗装を行った。続いて、この供試材を沸騰水に1時間浸漬した後、取り出して1時間放置した後に、カッターナイフで1mm升目の碁盤目を100升刻み、これにテープ剥離試験を実施して、塗膜の残存升目数によって塗膜密着性を下記基準で評価した。
◎:塗膜残存率100%
○:塗膜残存率100%未満〜90%以上
△:塗膜残存率90%未満〜80%以上
×:塗膜残存率80%未満
【0074】
実験例1
攪拌機、温度計、温度コントローラーを備えた内容量1.0Lの乳化設備を有するオートクレイブに、エチレン−アクリル酸共重合体(ダウケミカル社製「プリマコール(登録商標)5990I」、アクリル酸由来の構成単位:20質量%、質量平均分子量(Mw):20,000、メルトインデックス:1300、酸価:150)200.0g、ポリマレイン酸水溶液(日本油脂社製「ノンポール(登録商標)PMA−50W」、Mw:約1100(ポリスチレン換算)、50質量%品)8.0g、トリエチルアミン35.5g(エチレン−アクリル酸共重合体のカルボキシル基に対して0.63当量)、48%NaOH水溶液6.9g(エチレン−アクリル酸共重合体のカルボキシル基に対して0.15当量)、トール油脂肪酸(ハリマ化成社製「ハートールFA3」)3.5g、イオン交換水792.6gを加えて密封し、150℃および5気圧で3時間高速攪拌してから、30℃まで冷却した。次いでグリシジル基含有シランカップリング剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ(旧社名:GE東芝シリコーン)社製「TSL8350」、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)10.4g、カルボジイミド基含有化合物(日清紡社製「カルボジライト(登録商標)SV−02」、ポリカルボジイミド、Mw:2,700、固形分40質量%)31.2g、イオン交換水72.8gを添加し、10分間攪拌して、エマルションNo.1を調製した(固形分20.3質量%、JIS K6833に準じて測定)。
【0075】
エマルションNo.1とコロイダルシリカ(日産化学工業社製「スノーテックス(登録商標)XS」、表面積平均粒子径(カタログ値):4〜6nm)の量を表1に示したように種々変えて、両者をよく混合した後、両者の合計100質量部に対し、グリシジル基含有シランカップリング剤(信越シリコーン社製「KBM403」、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)7質量部、次いで、メタバナジン酸ナトリウム(新興化学工業社製「メタバナジン酸ソーダ」)3質量部添加し、さらに、オキサゾリン基含有共重合体(日本触媒社製「エポクロス(登録商標)K−2030E」、固形分40質量%)を加え、表面処理組成物No.1を調製した。なお、表1中の樹脂成分の量は、エマルションNo.1中の樹脂(固形分)と、オキサゾリン基含有共重合体との合計量に相当する。オキサゾリン基含有共重合体は、エチレン−アクリル酸共重合体とポリマレイン酸の合計量100質量部に対し、5質量部となるように添加した。
【0076】
金属板として、アルカリ脱脂した溶融亜鉛めっき鋼板(Zn付着量45g/m2)を使用し、鋼板の表面に表面処理組成物No.1をバーコート(バーNo.3)にて塗布し、板温150℃で約12秒加熱乾燥して、樹脂皮膜付着量が0.5g/m2の樹脂塗装金属板を製造した。
【0077】
【表1】

【0078】
実験例2
エマルションNo.1中のエチレン−アクリル酸共重合体とポリマレイン酸の合計100質量部(固形分)に対するオキサゾリン基含有共重合体の量を表2に示したように変更した。樹脂成分とコロイダルシリカとの比率は80質量部:20質量部の一定とした。それ以外は実験例1同様にして樹脂塗装金属板を製造した。評価結果を表2に示した。
【0079】
【表2】

【0080】
実験例3
樹脂成分とコロイダルシリカとの比率を80質量部:20質量部の一定とし、コロイダルシリカの表面積平均粒子径(nm)を表3に示したように変更した以外は実験例1と同様にして樹脂塗装金属板を製造した。本発明例12のコロイダルシリカは、日産化学工業社製「スノーテックス(登録商標)20」であり、比較例8のコロイダルシリカは同社製「スノーテックス(登録商標)XL」であり、比較例9のコロイダルシリカは、同社製「スノーテックス(登録商標)ZL」である。
【0081】
【表3】

【0082】
実験例4
樹脂成分とコロイダルシリカとの比率を80質量部:20質量部の一定とし、両者の合計100質量部(固形分)に対する後添加のグリシジル基含有シランカップリング剤(信越シリコーン社製「KBM403」)の量を表4に示したように変更した以外は実験例1と同様にして樹脂塗装金属板を製造した。評価結果を表4に示した。
【0083】
【表4】

【0084】
実験例5
樹脂成分とコロイダルシリカとの比率を80質量部:20質量部の一定とし、両者の合計100質量部(固形分)に対するメタバナジン酸塩の種類と量を表5に示したように変更した以外は実験例1と同様にして樹脂塗装金属板を製造した。評価結果を表5に示した。
【0085】
【表5】

【0086】
実験例6
樹脂成分とコロイダルシリカとの比率を80質量部:20質量部の一定とし、表面処理組成物を塗布した後の乾燥温度(金属板到達温度)を表6に示したように変更した以外は実験例1と同様にして樹脂塗装金属板を製造した。評価結果を表6に示した。
【0087】
【表6】

【0088】
実験例7
樹脂成分とコロイダルシリカとの比率を80質量部:20質量部の一定とし、樹脂皮膜の付着量を表7に示したように変更した以外は実験例1と同様にして樹脂塗装金属板を製造した。
【0089】
【表7】

【0090】
表1〜7から明らかなように、本発明例は、硬さと脆さのバランスに優れた強靱な樹脂皮膜が得られており、耐食性も良好であり、塗装性にも優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の樹脂塗装金属板は、ロール成形時の耐皮膜剥離性が向上した樹脂皮膜を備えており、耐食性や塗装性にも優れているので、自動車、家電製品、建材等に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面処理組成物から得られた樹脂皮膜を備える樹脂塗装金属板であって、この樹脂皮膜のスォードロッカー硬度が35以上であり、かつ、ナノスクラッチ試験における圧子の進入深さが0.3μm未満であることを特徴とするロール成形時の耐皮膜剥離性に優れた樹脂塗装金属板。
【請求項2】
上記表面処理組成物が、オレフィン−α,β−不飽和カルボン酸共重合体、α,β−不飽和カルボン酸重合体およびオキサゾリン基含有共重合体からなる樹脂成分と、コロイダルシリカとを含み、樹脂成分とコロイダルシリカとの合計100質量部のうち、樹脂成分が70〜90質量部、コロイダルシリカが10〜30質量部である請求項1に記載の樹脂塗装金属板。
【請求項3】
上記樹脂成分は、オレフィン−α,β−不飽和カルボン酸共重合体およびα,β−不飽和カルボン酸重合体の合計100質量部に対し、オキサゾリン基含有共重合体を1〜9質量部含むものである請求項2に記載の樹脂塗装金属板。
【請求項4】
上記コロイダルシリカの表面積平均粒子径が、4〜20nmである請求項2または3に記載の樹脂塗装金属板。
【請求項5】
上記樹脂成分とコロイダルシリカとの合計100質量部に対し、さらにグリシジル基含有シランカップリング剤を0.1〜10質量部含有する請求項2〜4のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
【請求項6】
上記樹脂成分とコロイダルシリカとの合計100質量部に対し、さらにメタバナジン酸塩を0.5〜6質量部含有する請求項2〜5のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。
【請求項7】
上記樹脂皮膜は、上記表面処理組成物を金属板に塗布した後、120〜180℃の板温で加熱されて形成されたものである請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂塗装金属板。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−255549(P2009−255549A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58610(P2009−58610)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】