説明

ワイパー

【課題】柔軟で、拭き取り対象面及び汚れ物体に対して密着性が高く、汚れ除去性の高いワイパーを提供する。
【解決手段】本発明のワイパーは、異なる2種類以上の繊維形成性樹脂成分を含む複合繊維を構成成分として含む繊維構造物であって、前記複合繊維を構成する繊維形成性樹脂成分のうち少なくとも一成分は、ロジン、ロジンエステル、テルペンベース化合物、ピペリレンベース化合物、及び炭化水素ベース化合物から選ばれる少なくとも一種類であり、軟化点が70℃以上150℃以下の範囲内にある粘着付与剤を6質量%以上30質量%以下の範囲内で含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚れ落としなどに有用なワイパーに関する。
【背景技術】
【0002】
ワイパー材料は、様々な分野で使用されている。例えば、食器の汚れ落とし、レンジ,グリルなどの台所周り、トイレ、風呂、壁、洗面所、床、窓などのインテリア部材又はエクステリア部材の汚れ落とし、工業的にも自動車のボディやガラスやオイルの汚れ落としなどに使用されている。
【0003】
従来例として、ワイパーの粘着性を利用して埃などの汚れの拭き取りに用いられるワイパーが提案されている。例えば、基布にポリブテン又はポリイソブチレンのエマルジョンなどを含浸したワイパーが提案されている(特許文献1)。別の提案として、基布に軟化点が10〜60℃のロジン系樹脂又はピネン系樹脂を含浸したワイパーが提案されている(特許文献2)。
【特許文献1】特許第2622081号公報
【特許文献2】特許第3759270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来から提案のあったワイパーには、以下の問題があった。特許文献1のワイパーは、ポリブテン又はポリイソブチレン樹脂が低重合の粘稠樹脂であるため、特に夏期や暖かい地方では軟化してしまい、ベトベトになり、使用しにくいという問題があった。また、特許文献2のワイパーは、ロジン系樹脂又はピネン系樹脂が粘着性であるが軟化点が低いため、全体がガチガチの剛直体シートとなり拭き落とし性には問題があり、さらに上記と同様に軟化してベトベトになり使用しにくいという問題があった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、柔軟で汚れ物体に対して密着性が高く、汚れ除去性の高いワイパーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のワイパーは、異なる2種類以上の繊維形成性樹脂成分を含む複合繊維を構成成分として含む繊維構造物であって、前記複合繊維を構成する繊維形成性樹脂成分のうち少なくとも一成分(以下、ワイパー成分という)は、ロジン、ロジンエステル、テルペンベース化合物、ピペリレンベース化合物、及び炭化水素ベース化合物から選ばれる少なくとも一種類であり、軟化点が70℃以上150℃以下の範囲内にある粘着付与剤を6質量%以上30質量%以下の範囲内で含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のワイパーは、特定の粘着付与剤を含む複合繊維を構成成分とするので、ワックスや油等との親和性が良く、柔軟であり、対物用としては、金属、樹脂(プラスチック、発泡体等)、ガラス、タイル、木材、石材等の対象面及び汚れ物体に対して密着性が高く、吸着性能も優れているので、汚れ除去性が高い。また、対人用としては、体内から分泌される皮脂や、メイクなどに対しても吸着性が高く拭き取り性が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のワイパーを構成する複合繊維は、異なる2種類以上の繊維形成性樹脂成分を含むものである。前記複合繊維を構成する繊維形成性樹脂成分のうち少なくとも一成分(以下、ワイパー成分という)は、ワイパーとして用いたときに、油等との親和性が良く、柔軟で、金属、樹脂(プラスチック、発泡体等)、ガラス、タイル、木材、石材等の対象面及び汚れ物体に対して密着性が高く、吸着性能も優れているので、汚れ除去性の向上に寄与している。
【0009】
前記ワイパー成分に用いられる粘着付与剤は、ロジン、ロジンエステル、テルペンベース化合物、ピペリレンベース化合物、エステルガム及び炭化水素ベース化合物から選ばれる少なくとも一種類であり、軟化点が70℃以上150℃以下である。好ましい軟化点は100℃以上150℃以下、より好ましくは110℃以上140℃以下である。さらに好ましい軟化点は115℃以上130℃以下である。軟化点が70℃未満であると、繊維製造時に融着繊維が発生しやすくなるか、樹脂の溶融粘度が低くなりすぎるため、紡糸性が悪くなる。また、ワイパーとして使用したときに、樹脂が軟化しやすく、べとべとしすぎてワイパーの拭き取り作業性が低下する。一方、軟化点が150℃を超えると、ベース樹脂との融点差が大きくなりすぎるため、好ましくない。また、ワイパーとして使用したときに、粘着性が低下して所望の拭き取り性が得られないことがある。
【0010】
前記粘着付与剤の添加量の範囲は、6質量%以上30質量%以下、好ましくは10質量%以上25質量%以下であり、最も好ましくは15質量%以上20質量%以下である。6質量%未満であると汚れ物体に対する密着性を付与することが困難である。また30質量%を超えると融着繊維が発生し易くなる。また、ワイパーとして使用したときに、繊維表面がべとべとしすぎてワイパーの拭き取り作業性が低下する。
【0011】
前記粘着付与剤の具体例としては、例えば、ロジンの場合は、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンが挙げられる。炭化水素ベース化合物の場合は、脂肪族炭化水素化合物が挙げられる。テルペンベース化合物の場合は、テルペン化合物、テルペンフェノール化合物、水添テルペン化合物が挙げられる。
【0012】
この中で、好ましい成分(B)はテルペンフェノールである。テルペンフェノールは、下記(化1)に示す一般式で表され、α−ピネン(Pinene),β−ピネン,ジペンテン(Dipentene)のテルペンモノマーとフェノールを反応させて得られる。
【0013】
【化1】

【0014】
(但し、m,nは重合度を示す。ヤスハラケミカル社製商品名「YSポリスターT」シリーズとして販売されている。)
前記ワイパー成分において前記粘着付与剤と混合される繊維形成性樹脂(以下、ベース樹脂という)としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0015】
前記ベース樹脂は、酢酸ビニル、マレイン酸、アクリル酸から選ばれる少なくとも一種類とエチレンとのコポリマーであって、融点が80℃以上110℃以下の範囲のエチレン共重合体樹脂(以下、ベース樹脂(A)という)であることが好ましい。上記ベース樹脂(A)は、ゴム弾性的な性質を有しており、ワイパーとして用いたときに粘着付与剤の粘着性と相俟って、拭き取り対象面に対して適度な密着性(グリップ性)を与えることができ、ひいては対象面上の汚れをグリップしながら効果的に捕捉することができる。また、上記ベース樹脂(A)は、前記粘着付与剤との相溶性が高いため、繊維生産性がよく、グリップ性を混合量で調整しやすい。ベース樹脂(A)としては、例えば、酢酸ビニルとエチレンとのコポリマー(EVA)、アクリル酸とエチレンとのコポリマー(EMAA)、マレイン酸とエチレンとのコポリマー(EMMA)、アクリル酸メチルとエチレンとのコポリマー(EMA)、アクリル酸エチルとエチレンとのコポリマー(EEA)を用いることができる。また、マレイン酸は無水物であっても良く、また、酢酸ビニル、マレイン酸、及びアクリル酸はエステル結合されていても良く、例えば、アクリル酸と無水マレイン酸をエステル結合したものとエチレンとのコポリマー(EAAMA)が挙げられる。
【0016】
前記べース樹脂(A)の融点は、80℃以上110℃以下であることが好ましい。より好ましくは90℃以上100℃以下である。融点が80℃未満であると、融着繊維が発生しやすくなる。110℃を超えると極性基が少なすぎるために、汚れ物体に対する十分な密着性を付与することが困難である。
【0017】
前記ベース樹脂(A)におけるエチレン含量は、85質量%以上98質量%以下であることが好ましい。エチレン含量が上記範囲から外れると、前記融点の範囲を満足しないことがある。
【0018】
前記ベース樹脂(A)がEVAである場合、酢酸ビニル含量は2質量%以上15質量%以下であることが好ましい。より好ましくは3質量%以上13質量%以下、とくに好ましくは5質量%以上10質量%以下である。酢酸ビニル含量が2質量%未満であると、極性基が少なすぎるため、汚れ物体に対する密着性を付与することが困難となる。一方、15質量%を超えると、樹脂の軟化点、及び融点が小さくなりすぎ、融着繊維が発生しやすくなる。前記EVAは、前記テルペンフェノールとの相溶性が高く、グリップ性が高いので、拭き取り性が高く好ましい。
【0019】
また、前記ベース樹脂は、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)であることが好ましい。EVOHは、油に対する親和性が高く、粘着付与剤の油親和性と相俟って、油汚れに対する拭き取り性が高い。エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂とは、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂を鹸化することによって得られる樹脂であり、その鹸化度は95%以上が好ましい。より好ましい鹸化度は、98%以上である。また、好ましいエチレン含有率は、20モル%以上である。好ましいエチレン含有率は、50モル%以下である。より好ましいエチレン含有率は、25モル%以上である。より好ましいエチレン含有率は、45モル%以下である。
【0020】
前記EVOHのメルトフローレート(MI、JIS−K7210に準じて規定される190℃、荷重21.18Nでの吐出量)は、5〜40g/10分であることが好ましい。より好ましくは、5〜20g/10分であり、さらに好ましくは5〜15g/10分である。EVOHと粘着付与剤を混合すると、EVOHがハイフローとなる傾向にある。そのため上記範囲のMIとすることにより、繊維の製造工程性が高くなる。
【0021】
前記ベース樹脂は、ワイパー成分に対して70質量%以上94質量%以下の割合で存在させることが好ましい。混合量が70質量%未満であると、粘着付与剤の含有量が多くなり融着繊維が発生しやすくなる傾向にあり、94質量%を超えると、汚れ物体に対する十分な密着性を付与することが困難である。なお、汚れ物体との密着性を阻害しない範囲で、前記ベース樹脂及び粘着付与剤以外に、第三成分を添加してもよい。
【0022】
本発明に用いられる複合繊維は、ワイパー成分以外に繊維形成性樹脂成分を含む複合繊維である。繊維形成性樹脂成分を含むことによって、熱加工する場合の熱収縮率が低く、寸法安定性に優れ、ステープル繊維の場合、優れたカード通過性を付与することができる。
【0023】
本発明に用いられる複合繊維におけるワイパー成分以外の繊維形成性樹脂成分としては、熱可塑性を示し、溶融紡糸ができるものであれば特に限定しない。具体的には、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂などが挙げられる。これらの成分には、例えば、ポリプロピレンにポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートにコハク酸等第二成分が共重合、若しくはグラフト重合されたものであっても構わない。中でも、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートが、生産性、コスト、及びステープル繊維の場合はカード通過性に優れる点で特に好ましく用いられる。
【0024】
前記複合繊維は、ワイパー成分が露出しているかまたは部分的に区分されている複合繊維であることが好ましい。そして、ワイパー成分は、繊維表面の30%以上を占めることが好ましい。より好ましいワイパー成分の繊維表面に対して占める割合は70%以上である。最も好ましいワイパー成分の繊維表面に対して占める割合は100%(ワイパー成分を鞘成分とし、繊維形成性樹脂成分を芯成分とする鞘芯型)である。ワイパー成分の繊維表面に対して占める割合が30%未満であると、汚れ物体との密着性が悪くなる傾向にあり、熱接着性繊維として使用する場合には、接着性が悪くなる傾向にある。その複合形状は、同心円芯鞘型、偏心芯鞘型、並列型、分割型、海島型等を指す。また、その断面形状は、円形、中空、異型、楕円形、星形、偏平形等いずれであってもよいが、繊維製造の容易さから円形であることが好ましい。分割型複合繊維の場合は、あらかじめ高圧水流等を噴射して部分的に分割しておくのが好ましい。このようにすると、分割されたワイパー成分が各々の極細の単繊維となって繊維構造物中に存在することとなるので、細かい埃等を効率よく拭き取ることができる。分割型複合繊維の場合は、その断面形状は楔形であると拭き取り性がよいので好ましい。その分割数は、4〜30分割であることが好ましい。分割型複合繊維の場合は、後述する水流交絡法により割繊しておくと、より細かい塵などを捕捉することができる。
【0025】
前記繊維形成性樹脂成分の融点は、ワイパー成分よりも高い融点を有することが好ましい。繊維形成性樹脂成分の好ましい融点は、ワイパー成分の融点より10℃以上高いことが好ましい。より好ましい融点は、20℃以上である。最も好ましい融点は、30℃以上である。繊維形成性樹脂成分とワイパー成分の融点差が大きくなるほど、熱加工する場合の熱収縮率が低く、寸法安定性に優れる。
【0026】
また、繊維形成性樹脂成分とワイパー成分の質量比は、80:20〜20:80であることが好ましい。より好ましくは70:30〜30:70である。繊維形成性樹脂成分の含有量が20質量%未満であると、熱収縮性が大きくなるか、ステープル繊維の場合にはカード通過性が悪くなる傾向がある。一方、繊維形成性樹脂成分の含有量が80質量%を超えると汚れ物体との密着性が悪くなることがある。
【0027】
前記複合繊維の繊維長は、何れでも良いが、ステープル繊維の場合は、20mm以上100mm以下であることが好ましい。ステープル繊維のより好ましい繊維長は35mm以上80mm以下である。ステープル繊維の繊維長が20mm未満であると、カードでの繊維同士の絡みが弱くなりすぎ、均一な繊維構造物が得られない傾向がある。一方。ステープル繊維の繊維長が100mmを超えると、カードでの繊維同士の絡みが大きくなりすぎ固着繊維(いわゆるネップ)が発生し、均一なカードウェブが得られない場合がある。また、湿式抄紙不織布や、エアレイド不織布を得る場合は、1mm以上30mm以下であることが好ましい。より好ましくは2mm以上20mm以下である。繊維長が1mm未満である場合、繊維同士の絡みが弱くなりすぎ、均一な不織布が得られない場合がある。一方、繊維長が30mmを超えると繊維同士の絡みが大きくなりすぎ、均一な不織布が得られない場合がある。
【0028】
前記複合繊維の繊度は、特にこだわらないが、0.5〜10dtexであることが好ましい。より好ましくは、1dtex以上6.6dtex以下である。繊度が0.5dtex未満であると、繊維が細すぎ、カード通過性が悪く生産性が低下したり、均一な繊維構造物が得られないことがある。一方、10dtexを超えると、繊維が太すぎて、汚れ物体との密着性が悪く、拭き取り性が低下することがある。なお、分割型や海島型の複合繊維である場合、極細繊維を発現させたときの各成分の繊度は0.05〜1dtexであると、より細かい埃等を捕捉することができる。
【0029】
次に、前記複合繊維の製造方法について説明する。前記複合繊維は、所定の繊維形成性樹脂と、ベース樹脂と、粘着付与剤を準備し、常套の溶融紡糸機を用いて複合紡糸されて、紡糸フィラメントを得る。次いで、必要に応じて、紡糸フィラメントには延伸処理が施される。延伸温度は、好ましくは30℃以上70℃以下である。より好ましくは40℃以上60℃以下である。延伸温度が30℃未満であると、延伸比が低くなりすぎるか、熱収縮が大きい傾向がある。一方、延伸温度が70℃より高いと繊維間が融着しやすい傾向にある。これは、粘着付与剤のガラス転移点若しくはベース樹脂の軟化点が関係していると考えられる。繊維形成性樹脂成分がポリエステルの場合、ガラス転移点温度より高い温度で延伸処理することが好ましい。ガラス転移点温度よりも低い温度であると、熱収縮が大きくなりすぎる傾向がある。従って、例えば、繊維形成性樹脂成分がポリエチレンテレフタレートを使用した場合、ガラス転移点温度が約65℃であるため、60℃の延伸温度を採用した場合は、ガラス転移点以上で緊張熱処理することが好ましい。緊張熱処理の好ましい範囲は、繊維形成性樹脂成分のガラス転移点以上、ワイパー成分の融点未満である。より好ましい範囲は、繊維形成性樹脂成分のガラス転移点温度+5℃以上、ワイパー成分の融点−5℃以下である。最も好ましい範囲は、繊維形成性樹脂成分のガラス転移点温度+10℃以上、ワイパー成分の融点−10℃以下である。
【0030】
ステープル繊維を得る場合は、延伸処理、及び捲縮付与処理後に乾燥処理が施される。乾燥温度は、40℃以上、ワイパー成分を構成する樹脂成分の最も融点の低い成分の融点(以下、単にワイパー成分の融点という)未満であることが好ましい。乾燥温度のより好ましい範囲は、50℃以上ワイパー成分の融点−5℃以下である。乾燥温度の最も好ましい範囲は、60℃以上ワイパー成分の融点−10℃である。乾燥温度が40℃未満であると、乾燥不良となり得られた繊維の水分率が高くなりすぎるため、カード工程でトラブルを引き起こし易くなる。一方、乾燥温度がワイパー成分の融点を超えると、融着を引き起こしやすくなる。
【0031】
本発明のワイパーを構成する繊維構造物は、前記複合繊維を少なくとも10質量%以上含むことにより、汚れ物体との密着性が高いものとすることができる。好ましい複合繊維の含有量は、30質量%以上である。より好ましい複合繊維の含有量は、50質量%以上である。前記複合繊維の含有量が10質量%未満であると、汚れ物体との密着性が悪くなる場合がある。
【0032】
前記繊維構造物の形態としては、スパンボンド不織布,メルトブローン不織布,短繊維を使用したカード法によるニードルパンチ不織布、水流交絡不織布、あるいはエアレイド等の乾式不織布,及び湿式抄紙不織布等の不織布、織物、編物、及び繊維成形体等何れであっても構わない。本発明のワイパーとしての効果を最も発揮できるのは、乾式不織布、湿式抄紙不織布、紡績糸からなる織物、及び編物等の繊維構造物である。前記繊維構造物であれば、油汚れなどの親和性が良く、汚れの吸着性、及び汚れ物体との密着性を高くすることができる。また、不織布の場合は、前記複合繊維100質量%使いでもよいし、他の繊維と併用しても良い。他の繊維と併用する場合は、混綿でもよいし、積層しても良い。積層する場合は、前記複合繊維を含む繊維層(ウェブ)を片面又は両面に配置し、他の片面又は内層に他の繊維の繊維層(ウェブ)を配置し、全体を一体化するのが好ましい。
【0033】
以下、本発明のワイパーの具体的な構成について説明する。まず、前記繊維構造物として、前記複合繊維を含む繊維層と、他の繊維で構成される繊維層で積層される積層不織布に形成する場合を説明する。
【0034】
前記複合繊維を含む繊維層(以下、複合繊維層という)としては、目付が5〜100g/m2の範囲内にあることが好ましい。目付が5g/m2未満では、不織布の地合いが悪くなる傾向にある。目付が100g/m2を超えると、3層構造とした場合、繊維同士の交絡や接着が不十分となり、層間で剥離することがある。
【0035】
前記複合繊維層は、他の繊維、例えば、分割型、海島型など極細繊維を発現することが可能な複合繊維を混綿してもよいし、ポリエステル繊維などの単一成分からなる繊維を混綿してもよい。他の繊維の繊度は、細い方が拭き取り性が向上し、好ましい。例えば、繊度が0.5〜8.8dtex、好ましくは0.9〜4.4dtexの範囲内にある繊維を用いるとよい。
【0036】
前記複合繊維層における複合繊維の含有量は、20質量%以上含まれていることが好ましい。より好ましくは、40質量%である。複合繊維の含有量が20質量%未満であると、汚れ物体との密着性が悪くなる場合がある。
【0037】
次に、他の繊維で構成される繊維層(以下、他の繊維層という)は、例えば、ウェットワイパーとして用いる場合は、湿潤性を保持する層として機能させることができる。また、ワイパーの補強層として機能させてもよい。
【0038】
他の繊維層は、目付が5〜150g/m2の範囲が好ましい。目付が5g/m2未満では、水を付与してウェット状態で使用する場合は吸水性が不十分となりやすい。また、150g/m2を超えると、3層構造の場合、繊維同士の絡みや接着が不十分で層間が剥離することがある。
【0039】
他の繊維層に用いられる繊維材料としては、ドライワイパーで使用する場合は特に限定はない。ウェットワイパーとして用いる場合は、吸水性を有する繊維、具体的にはコットン、レーヨン、溶剤紡糸セルロースなどのセルロース系繊維を多く含んでいる方が好ましい。ウェットワイパーとして使用する場合は、セルロース系繊維の含有量が25〜100質量%であることが好ましい。
【0040】
他の繊維層に用いられる繊維材料の繊度は、0.5〜6.6dtexの範囲が好ましい。より好ましくは、1.5〜4.4dtexである。
【0041】
前記複合繊維層と他の繊維層を積層し、一体化する方法としては、水流交絡法、二ードルパンチ法、カレンダーロール法、サーマルボンド法やこれらを組み合わせたいずれの方法であってもよい。特に、水流交絡法であれば、熱接着させずに不織布化できるので、拭き取り性が向上し好ましい。
【0042】
次に、本発明のワイパーにおいて、前記複合繊維と他の繊維とを混合した繊維構造物をウェットワイパーとして用いるか、吸水性のあるワイパーとして用いる場合、前記複合繊維が20〜80質量%、セルロース系繊維が80〜20質量%含有することが好ましい。上記範囲内であると、複合繊維の機能を損なうことなく所望の吸水性を得ることができる。
【0043】
本発明において、前記繊維構造物を加工するに際に熱処理されることがあるが、拭き取り性を考慮すると、熱処理する温度は低い方が好ましく、具体的にはワイパー成分の融点よりも30℃高い温度以下、より好ましくは15℃高い温度、最も好ましくはワイパー成分の融点未満、つまり複合繊維が実質的に溶融しない温度で処理することが好ましい。前記繊維構造物の熱処理温度を低くすることにより、繊維に自由度があり、かつ対象面との密着性が良くなるため、拭き取り性が高くなる傾向にある。特に、繊維構造物において、繊維同士が接着することなく、三次元的に交絡している不織布は、繊維の自由度を保ちつつ良好に交絡しているので、毛羽立ちが少なく、拭き取り性が高く、好ましい。ただし、こびりついた汚れなど掻き取り性を必要とする用途においては、これ以上の温度で加工し、前記複合繊維を接着させてもよい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を用いて具体的に説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されない。
(1)複合繊維の製造
本発明に用いられる複合繊維として、以下の樹脂を使用し、作製した。
[複合繊維1]
芯成分(繊維形成性樹脂成分):ポリエチレンテレフタレート(PET)(東レ製「T200E」融点256℃、IV値0.65)
鞘成分(ワイパー成分):
ベース樹脂A:EVA(東ソー製「ウルトラセン539」、酢酸ビニル含量6質量%、融点95℃、MI(at.190℃)28g/10分、D=0.924g/cm3
粘着付与剤:テルペンフェノール(ヤスハラケミカル製「YSポリスターT115」、軟化点115℃、平均分子量600、ガラス転移点57℃)
なお、上記MI、融点、ガラス転移点、軟化点については、以下のとおり測定した。
a.メルトフローレート(MI)
JIS−K7210に準じて、190℃、荷重21.18Nで測定される繊維製造前の樹脂のメルトインデックスを測定した。
b.融点
JIS−K−7122に準じて、DSC法により測定される繊維製造前の樹脂の融点を測定した。
c.ガラス転移点
繊維製造前の樹脂について、示差走査熱量計(DSC)を用いて、−20℃から200℃まで昇温速度10℃/minで昇温した時のガラス転移点温度をガラス転移点した。
d.軟化点
繊維製造前の樹脂について、JIS−K−6863に準じて、測定した。
【0045】
芯成分(繊維形成性樹脂)としてPETを準備し、鞘成分(ワイパー成分)としてベース樹脂A(EVA)80質量%と、粘着付与剤(テルペンフェノール)20質量%との混合物を準備した。芯鞘型ノズルを用いて、芯鞘複合比(質量比)が50:50、紡糸温度が芯280℃、鞘260℃、ノズルヘッド270℃、引取速度が330m/minで複合紡糸をして、未延伸繊度が7.8dtexの紡糸フィラメントを得た。
【0046】
次いで、紡糸フィラメントを延伸温度60℃、延伸倍率2.8倍で延伸処理をし、延伸後、捲縮付与装置により捲縮付与後、80℃に加熱した乾燥機にて15分間乾燥熱処理し、カットして、繊度3.3dtex、繊維長45mmの複合繊維を得た。
[複合繊維2]
(i)芯樹脂:ポリプロピレン(PP)(日本ポリプロ製「SA03B」融点160℃、MFR30)
(ii)鞘樹脂
ベース樹脂B:エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)(エチレン含有量38モル%、融点170℃、MI8g/10分)
粘着付与剤:テルペンフェノール(ヤスハラケミカル製「YSポリスターT115」)、軟化点115℃、平均分子量600、ガラス転移点57℃)
芯鞘型複合ノズルを用い、芯樹脂をPPとし、鞘樹脂をベース樹脂B(EVOH)85質量%、接着促進剤15質量%の混合物として、芯鞘複合比(質量比)50:50としてそれぞれ溶融して230℃で、引取速度200m/分の条件で複合紡糸した。得られた未延伸フィラメントの繊度は17.3dtexであった。次いで、未延伸フィラメントを延伸温度70℃、倍率3倍で延伸処理をして、繊維処理剤を付与し、機械捲縮を付与して、80℃に加熱した乾燥機にて15分間乾燥熱処理し、カットして、繊度6.7dtex、繊維長51mmの複合繊維を得た。
(2)不織布の作製
[実施例1]
前記複合繊維1を50質量%と、繊度が1.7dtex、繊維長40mmのレーヨン繊維(CDレーヨン、ダイワボウレーヨン社製)を50質量%混綿し、パラレルカードを用いて目付60g/m2のカードウェブを作製した。このカードウェブに水圧2.5MPaの水流を1回噴射し、裏返して水圧3.0MPaの水流を1回噴射して水流交絡処理を施した。この不織布を70℃で乾燥させた後、110℃の熱風循環式乾燥機に通して熱処理を施して、本発明のワイパーを得た。得られた目付は63g/m2であった。得られたワイパーは、繊維同士が三次元的に交絡するとともに、前記複合繊維1が溶融して繊維同士が接着していた。
[実施例2]
前記複合繊維1を100質量%でカードウェブを作製し、このカードウェブに水圧3.5MPaの水流を1回噴射し、裏返して水圧4.0MPaの水流を1回噴射して水流交絡処理を施した以外は、実施例1と同様の方法で本発明のワイパーを得た。得られた目付は65g/m2であった。得られたワイパーは、繊維同士が三次元的に交絡するとともに、前記複合繊維1が溶融して繊維同士が接着していた。
[実施例3]
110℃の熱処理をしなかった以外は、実施例2と同様の方法で本発明のワイパーを得た。得られた目付は65g/m2であった。得られたワイパーは、繊維同士が三次元的に交絡していたが、前記複合繊維1は溶融させなかったので、接着していなかった。
[実施例4]
前記複合繊維2を50質量%と、繊度が1.7dtex、繊維長40mmのレーヨン繊維(CDレーヨン、ダイワボウレーヨン社製)を50質量%混綿し、パラレルカードを用いて目付60g/m2のカードウェブを作製した。このカードウェブに水圧2.5MPaの水流を1回噴射し、裏返して水圧3.0MPaの水流を1回噴射して水流交絡処理を施した。この不織布を70℃で乾燥させた後、110℃の熱風循環式乾燥機に通して熱処理を施して、本発明のワイパーを得た。得られた目付は63g/m2であった。得られたワイパーは、繊維同士が三次元的に交絡していた。
[比較例1]
芯成分がポリエチレンテレフタレート(PET)であり、鞘成分が高密度ポリエチレン(PE)である、繊度が3.3dtex、繊維長が45mmの芯鞘型複合繊維(NBF(SH)、ダイワボウポリテック社製)を50質量%と、繊度が1.7dtex、繊維長40mmのレーヨン繊維(CDレーヨン、ダイワボウレーヨン社製)を50質量%混綿し、パラレルカードを用いて目付60g/m2のカードウェブを作製した。このカードウェブに水圧2.5MPaの水流を1回噴射し、裏返して水圧3.0MPaの水流を1回噴射して水流交絡処理を施した。この不織布を110℃で乾燥させた後、140℃の熱風循環式乾燥機に通して熱処理を施して、不織布を作製した。得られた目付は66g/m2であった。
[比較例2]
比較例1で用いたPET/PEの芯鞘型複合繊維100質量%のカードウェブを作製した。このカードウェブに水圧3.5MPaの水流を1回噴射し、裏返して水圧4.0MPaの水流を1回噴射して水流交絡処理を施し、110℃で乾燥させた後、140℃で熱処理を施して不織布を得た。得られた目付は66g/m2であった。
[比較例3]
140℃で熱処理をしなかったこと以外は、比較例3と同様の方法で不織布を作製した。得られた目付は66g/m2であった。
(4)ワイピング性能
実施例1〜3及び比較例1〜3の不織布の拭き取り性を以下の方法で測定した。
(4−1)得られた不織布を、縦(MD方向)70mm、横(CD方向)110mmにカットする。
(4−2)プラスチック板(質量A)に縦200mm、横70mmの枠を設け、水平に置き、枠内に機械オイル(商品名「ダフニーメカニックオイル32」)の場合は0.7g、食用油(商品名「コープブレンドサラダ油」)の場合は0.5gをハケで均一に塗り、オイルを塗布した後のプラスチック板の質量を測定する(質量B)。
(4−3)スポンジ(山崎産業社製、商品名「ガラスふきワイパー」に付属のポリエチレン製スポンジバッドをサイズ縦70mm、横50mmにカットしたもの、質量4.4g)にカットした不織布を取り付け、枠内に置く。
(4−4)スポンジの上に500gの荷重を掛けながら、不織布の縦方向と直角な方向に枠内を滑らせる。
(4−5)測定後のプラスチック板の質量を測定し(質量C)、下記の式から払拭率を算出する。
【0047】
払拭率(%)=[1−(C−A)/(B−A)]×100
実施例1〜3及び比較例1〜3の不織布の拭き取り性の評価結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1から明らかなとおり、本発明の実施例1は比較例1に比較して払拭率が高く、油に対する拭き取り性が高いことがわかった。実施例2は実施例1、3に比べて払拭率が低くなったが比較例2に比較して払拭率が高く、油に対する拭き取り性が高いことがわかった。さらに、実施例2のワイパーは複合繊維が接着しており風合いの硬い不織布であったため、レンジ周りのこびりついた油汚れを拭き取ったところ、きれいに拭き取ることができた。実施例3は比較例3に比較して、払拭率が高く、油に対する拭き取り性が高いことがわかった。
【0050】
実施例4のワイパーを用いて、汚れた自動車のアルミホイールを拭き取ったところ、きれいに拭き取ることができた。
【0051】
本発明のワイパーは、それぞれ汚れ物体に対して密着性が高く、汚れ除去性が高いことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のワイパーは、食器の汚れ落とし、シンク、レンジ,グリルなどの台所周り、トイレ、風呂、壁、洗面所、床、窓などのインテリア部材又はエクステリア部材の汚れ落とし、工業的にも自動車のボディやガラスやオイルの汚れ落としなどの対物用ワイパーに使用することができ、体内から分泌される皮脂や、メイク落としなどの対人用にも使用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる2種類以上の繊維形成性樹脂成分を含む複合繊維を構成成分として含む繊維構造物であって、
前記複合繊維を構成する繊維形成性樹脂成分のうち少なくとも一成分(以下、ワイパー成分という)は、ロジン、ロジンエステル、テルペンベース化合物、ピペリレンベース化合物、及び炭化水素ベース化合物から選ばれる少なくとも一種類であり、軟化点が70℃以上150℃以下の範囲内にある粘着付与剤を6質量%以上30質量%以下の範囲内で含む、ワイパー。
【請求項2】
前記ワイパー成分は、酢酸ビニル、マレイン酸、及びアクリル酸から選ばれる少なくとも一種類とエチレンとのコポリマーであって、融点が80℃以上110℃以下の範囲内にあるエチレン共重合体樹脂を70質量%以上94質量%以下の範囲内で含む、請求項1に記載のワイパー。
【請求項3】
前記ワイパー成分は、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を70質量%以上94質量%以下の範囲内で含む、請求項1に記載のワイパー。
【請求項4】
前記粘着付与剤は、テルペンフェノールである、請求項1または2に記載のワイパー。
【請求項5】
前記複合繊維は、繊維構造物の少なくとも10質量%含む、請求項1〜4のいずれかに記載のワイパー。
【請求項6】
前記繊維構造物は、繊維同士が接着することなく、三次元的に交絡している不織布である、請求項1〜5のいずれかに記載のワイパー。

【公開番号】特開2007−312931(P2007−312931A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−144506(P2006−144506)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(000002923)大和紡績株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】