説明

ワイヤハーネス

【課題】コネクタ付シールドケーブル及び接地用固定具を備えるワイヤハーネスにおいて、製造の手間及びコストを低減し、さらに、シールドケーブルの曲がりによる劣化を防ぐこと。
【解決手段】ワイヤハーネス1は、導電性の不織布の加熱成形により硬化した一体の導電性部材からなる接地用固定具10を備える。接地用固定具10には、コネクタ9を内側に挟み込むことによってコネクタ9に保持されたコネクタ把持部11と、接地用の筐体に固定される固定部12と、少なくともコネクタ9から離れた位置においてシールドケーブル8を内側に挟み込んで支持することによってコネクタ9から延び出たシールドケーブル8を湾曲した状態で保持するケーブル把持部13とが形成されている。ケーブル把持部13は、シールドケーブル8のシールド部材83が露出した部分を挟み込むことにより、シールド部材83と電気的に接続された導通部を兼ねる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタ付シールドケーブルを接地用の筐体に固定するための接地用固定具を備えたワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に代表される車両には、コネクタ付シールドケーブルが搭載されることが多い。コネクタ付シールドケーブルは、導線及びその周囲に形成されたシールド部材を含むシールドケーブルと、そのシールドケーブルの端部に設けられたコネクタとを備える。
【0003】
例えば、コネクタ付シールドケーブルは、放送信号又は無線通信の信号などの無線信号を受信するアンテナと、テレビジョン受信装置又は無線通信装置などの電装機器とを繋ぐ信号伝送経路の一部として敷設される。この場合、コネクタは、アンテナに繋がるシールドケーブルと電装機器に繋がるシールドケーブルとを連結する中継用のコネクタとして機能する。
【0004】
また、特許文献1及び特許文献2に示されるように、シールドケーブルのシールド部材は、金属製の固定具を介して、車両のボディの一部を形成する金属パネルなどの導電性の筐体に対して電気的に接続される。さらに、コネクタ付シールドケーブルのコネクタが中継用のコネクタである場合、そのコネクタは、固定具により、車両のボディの一部などの筐体に固定される。この場合、金属製の固定具は、シールド部材と導電性の筐体との間に介在し、両者を電気的に接続してシールド部材を接地する役割と、コネクタを固定する役割とを果たす。以下、このような固定具を接地用固定具と称する。コネクタ付シールドケーブルは、予めコネクタに取り付けられた接地用固定具を含むワイヤハーネスとして提供される場合が多い。
【0005】
コネクタ付シールドケーブルのコネクタが、接地用固定具によって固定されることにより、コネクタが、車両の振動などによって周囲の物に衝突し、コネクタ及び周囲の物が破損することが防がれる。さらに、接地用固定具を介してシールド部材が接地されることにより、導線への電磁ノイズの混入が防がれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−156363号公報
【特許文献2】特開2004−40867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、金属製の固定具は、金属の母材からその一部を切断機で切り出す工程、切り出された金属部材を金型及び穿孔装置などで成形する工程など、多くの重厚な装置及び工程を経て製造される。そのため、従来の金属製の接地用固定具は、製造設備のコストが高く、さらに、設計変更などに応じて形状を変更するために必要な手間及びコストも大きい。
【0008】
また、従来の金属製の接地用固定具が予めコネクタに取り付けられている場合、コネクタ付シールドケーブルが取り扱われる際に、シールドケーブルが、接地用固定具の重みによって屈曲し、劣化しやすい。
【0009】
また、コネクタ付シールドケーブルのシールドケーブルが、接地用固定具により固定されたコネクタから延び出た方向からそれとは反対の方向へ曲げられた状態で敷設される場合がある。その場合、コネクタから延び出たシールドケーブルは、その一部が粘着テープなどの結束具によってコネクタ又は接地用固定具と結束されることにより、途中で湾曲した状態で保持される。
【0010】
しかしながら、コネクタは小さく、さらに、金属製の接地用固定具も、軽量化のためにコネクタの外縁に沿うように極力小さく形成される。そのため、コネクタ又はコネクタの外縁に沿う接地用固定具と結束されたシールドケーブルは、比較的大きな曲率で、即ち、比較的小さな曲げ半径で湾曲した状態で保持される。その結果、シールドケーブルの湾曲部において、そのシールドケーブルの特性の劣化を防ぐために必要な最小曲げ半径が確保されない状況が生じ得る。
【0011】
以上に示したように、コネクタ付シールドケーブル及び金属製の接地用固定具を備える従来のワイヤハーネスは、製造の手間及びコストが大きく、シールドケーブルの屈曲又は大きな曲率での湾曲によるシールドケーブルの劣化が生じやすいという問題点を有している。
【0012】
本発明は、コネクタ付シールドケーブル及び接地用固定具を備えるワイヤハーネスにおいて、製造の手間及びコストを低減し、さらに、シールドケーブルの曲がりによる劣化を防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1発明に係るワイヤハーネスは、以下に示される各構成要素を備える。
(1)第1の構成要素は、導線及びその周囲に形成されたシールド部材を含むシールドケーブルである。
(2)第2の構成要素は、シールドケーブルの端部に設けられたコネクタである。
(3)第3の構成要素は、導電性の不織布の加熱成形により硬化した一体の導電性部材からなる接地用固定具である。さらに、この接地用固定具は、コネクタを内側に挟み込むことによってコネクタに保持されたコネクタ把持部、シールドケーブルのシールド部材と電気的に接続された導通部及び接地用の筐体に固定される固定部が形成された部材である。
【0014】
また、第2発明に係るワイヤハーネスは、第1発明に係るワイヤハーネスの一例である。第2発明に係るワイヤハーネスにおいて、接地用固定具は、少なくともコネクタから離れた位置においてシールドケーブルを内側に挟み込んで支持することによってコネクタから延び出たシールドケーブルを湾曲した状態で保持するケーブル把持部をさらに備える。
【0015】
また、第3発明に係るワイヤハーネスは、第2発明に係るワイヤハーネスの一例である。第3発明に係るワイヤハーネスにおいて、ケーブル把持部は、シールドケーブルにおけるコネクタとの接続部から湾曲部までを含む範囲全体を内側に挟み込んで保持する部分である。
【0016】
また、第4発明に係るワイヤハーネスは、第2発明又は第3発明に係るワイヤハーネスの一例である。第4発明に係るワイヤハーネスにおいて、ケーブル把持部は、シールドケーブルにおけるシールド部材がその外側の絶縁被覆から露出した部分を含む範囲を内側に挟み込み、導通部を兼ねる部分である。
【0017】
また、第5発明に係るワイヤハーネスは、第1発明から第3発明のうちのいずれかに係るワイヤハーネスの一例である。第5発明に係るワイヤハーネスにおいて、コネクタは、その内側でシールドケーブルのシールド部材と接触するとともに、その一部が外装の外側に形成された導電性の中継部材を備える。さらに、第5発明に係るワイヤハーネスにおいて、コネクタ把持部は、中継部材におけるコネクタの外装の外側に形成された部分と接触しつつコネクタを内側に挟み込み、導通部を兼ねる部分である。
【発明の効果】
【0018】
柔らかな素材である不織布の加熱成形は、不織布を裁断し、その不織布に対して比較的単純な金型及びヒータを用いてホットプレス成形を施す、という簡易な工程により製造される。さらに、導電性の不織布の加熱成形により硬化した部材は、軽量であり、かつ、緩衝性に優れている。
【0019】
従って、第1発明に係るワイヤハーネスは、接地用固定具を含め、簡易な製造設備により製造でき、さらに、設計変更などに応じて形状を変更するために必要な手間及びコストも小さい。また、第1発明に係るワイヤハーネスが取り扱われる際に、シールドケーブルが、接地用固定具の重みによって屈曲して劣化すること、及び、周辺の物が接地用固定具との衝突によって破損することが防止される。
【0020】
また、第2発明によれば、シールドケーブルは、接地用固定具のケーブル把持部により、コネクタから離れた位置で支持されつつ湾曲した状態で保持される。従って、第2発明によれば、シールドケーブルは、それがコネクタ又はコネクタの外縁に沿う小さな接地用固定具と結束される場合に比べ、比較的小さな曲率で、即ち、比較的大きな曲げ半径で湾曲した状態で保持される。その結果、シールドケーブルの湾曲部において、そのシールドケーブルの特性の劣化防止に必要な最小曲げ半径が確保され、シールドケーブルの曲がりによる劣化が防がれる。
【0021】
また、第3発明によれば、シールドケーブルにおけるコネクタとの接続部から湾曲部までを含む範囲全体が、接地用固定具のケーブル把持部によって挟み込まれる。その結果、シールドケーブルの湾曲部全体が固定され、シールドケーブルは、外力を受けた場合でも、比較的小さな曲率で湾曲した状態が保持され、特性の劣化防止がより確実となる。
【0022】
また、第4発明によれば、ケーブル把持部が導通部を兼ねるため、導通部が別個に設けられる場合に比べ、接地用固定具を小型化できる。さらに、導通部を兼ねるケーブル把持部は、シールドケーブルにおけるシールド部材に対して直接接触する。従って、第4発明によれば、シールド部材と接地用固定具との間の導電性が、他の導電性部材が介在する場合よりも高まり、電磁ノイズの防止性能が高まる。
【0023】
また、第5発明によれば、コネクタ把持部が導通部を兼ねるため、導通部が別個に設けられる場合に比べ、接地用固定具を小型化できる。さらに、コネクタの中継部材が、シールド部材と接地用固定具とを電気的に接続するため、シールドケーブルの絶縁被覆の一部を除去する手間が省かれる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態に係るワイヤハーネス1の主要部の斜視図である。
【図2】ワイヤハーネス1の製造工程におけるホットプレス成形工程が行われる直前のホットプレス成形装置20の正断面である。
【図3】ワイヤハーネス1の製造工程におけるホットプレス成形工程が行われているときのホットプレス成形装置20の正断面である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るワイヤハーネス1Aの主要部の斜視図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係るワイヤハーネス1Bの主要部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。以下に示される本発明の実施形態に係るワイヤハーネス1,1A,1Bは、自動車などの車両に搭載され、コネクタ9、シールドケーブル8及び接地用固定具(10又は10A)を備える。
【0026】
<第1実施形態>
まず、図1を参照しつつ、本発明の第1実施形態に係るワイヤハーネス1の構成について説明する。なお、図1から図5において、破線は隠れ線であり、二点鎖線はボルト7を示す仮想線である。
【0027】
<シールドケーブル>
接地用固定具10による固定の対象となるコネクタ付シールドケーブルにおいて、シールドケーブル8は、長尺な内部導体である芯線81と、芯線81の周囲を覆う絶縁体である誘電体82と、誘電体82の周囲に形成された外部導体であるシールド部材83と、シールド部材83の周囲を覆う絶縁体である絶縁被覆84とを有する同軸ケーブルである。
【0028】
シールドケーブル8の芯線は、例えば、銅などを主成分とする金属の線材である。また、シールド部材83は、編み構造を有する金属の線材からなる編組線又は金属箔などである。シールド部材83も、銅などを主成分とする金属からなる。また、シールドケーブル8の誘電体82及び絶縁被覆84は、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、フッ素樹脂又はポリエステルなどの合成樹脂からなる絶縁体である。
【0029】
また、本実施形態においては、シールドケーブル8の一部は、絶縁被覆84が部分的に除去されることにより、シールド部材83がその外側の絶縁被覆84から露出している。以下、絶縁被覆84から露出したシールド部材83の一部のことをシールド露出部830と称する。
【0030】
<コネクタ>
コネクタ9は、シールドケーブル8の端部に設けられ、他のワイヤハーネスのコネクタと連結される部材である。コネクタ9は、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、フッ素樹脂又はポリエステルなどの合成樹脂からなる絶縁体である。ワイヤハーネス1のコネクタ9が、相手側のコネクタと接続されることにより、シールドケーブル8の芯線81及びシールド部材83が、相手側ケーブルの信号線及びシールド部材と電気的に接続される。
【0031】
<接地用固定具>
接地用固定具10は、図2及び図3に示される導電性の不織布100が加熱成形されることによって硬化した一体の導電性の部材である。図1に示されるように、接地用固定具10には、コネクタ把持部11、固定部12及びケーブル把持部13が形成されている。
【0032】
ここで、接地用固定具10の材料について説明する。接地用固定具10の元となる不織布100は、例えば、絡み合う基本繊維と、バインダと称される接着樹脂と、導電性の導体繊維とを含む不織布が採用される。
【0033】
接着樹脂は、基本繊維の融点よりも低い融点(例えば、約110[℃]から約150[℃]の融点)を有する樹脂である。このような不織布100は、基本繊維及び導体繊維の融点よりも低く、かつ、接着樹脂の融点よりも高い温度に加熱されることにより、接着樹脂が溶融して基本繊維及び導体繊維の隙間に溶け込む。その後、不織布100の温度が、接着樹脂の融点よりも低い温度まで下がると、接着樹脂は、周囲に存在する基本繊維を結合した状態で硬化する。これにより、不織布100の形状は、加熱前の状態よりも硬くなり、加熱時に型枠によって成形された形状で維持される。
【0034】
ホットプレス成形は、加工対象である不織布100を金型の間に挟み込んで加圧しつつ、その不織布100を加熱することにより、不織布100を金型の内面形状に成形することである。
【0035】
接着樹脂は、例えば、粒状の樹脂又は繊維状の樹脂などである。また、接着樹脂は、芯繊維の周囲を覆うように形成されることも考えられる。このように、芯繊維が接着樹脂で被覆された構造を有する繊維は、バインダ繊維などと称される。芯繊維の材料は、例えば、基本繊維と同じ材料が採用される。
【0036】
また、基本繊維は、接着樹脂の融点において繊維状態が維持されればよく、樹脂繊維の他、各種の繊維が採用され得る。また、接着樹脂は、例えば、基本繊維の融点よりも低い融点を有する熱可塑性樹脂繊維が採用される。不織布100を構成する基本繊維と接着樹脂との組合せとしては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)を主成分とする樹脂繊維が基本繊維として採用され、PET及びPEI(ポリエチレンイソフタレート)の共重合樹脂が接着樹脂として採用されることが考えられる。そのような不織布100において、基本繊維の融点は概ね250[℃]であり、接着樹脂の融点は約110[℃]から約150[℃]の間の温度である。そのような不織布100は、ホットプレス成形において、型枠内で約110[℃]から約250[℃]までの範囲内の温度に加熱された後に冷却されると、接着樹脂が溶融して周囲の基本繊維を結合するため、型枠の内面に沿う形状に成形され、型枠に接触した面が硬化する。
【0037】
また、導体繊維は、炭素繊維または銅メッキ繊維などの繊維状の導体である。導電性の不織布100は、導体繊維を含むことによって導電性を有し、その不織布100がホットプレス成形によって硬化した部材も導電性を有する。
【0038】
不織布100がホットプレス成形によって硬化した部材は、その部材自体ある程度の可撓性を有しているが、ホットプレス成形が施される前の不織布に比べ、一定の形状を保持する硬さが強化される。
【0039】
コネクタ把持部11は、コネクタ9を内側に挟み込むことによってコネクタ9に保持された部分である。また、固定部12は、接地用の筐体に固定される部分である。接地用の筐体は、例えば、車両のボディの一部を形成する金属パネルなどの導電性の筐体である。固定部12には、接地用の筐体への固定に用いられるボルト7が通される貫通孔である取付孔121が形成されている。固定部12は、接地用の筐体に固定されることにより、接地用の筐体と直接接触し、さらに、導電性のボルト7を介して接地用の筐体と繋がることにより、接地用の筐体と電気的に接続される。
【0040】
ケーブル把持部13は、コネクタ把持部11から張り出して形成され、コネクタ9から離れた位置においてシールドケーブル8のシールド露出部830を内側に挟み込んで支持する部分である。これにより、ケーブル把持部13は、コネクタ9から延び出たシールドケーブル8を湾曲した状態で保持する。本実施形態においては、ケーブル把持部13は、シールドケーブル8を、コネクタ9から延び出た方向からその反対方向へターンして湾曲する状態で保持する。
【0041】
また、本実施形態におけるケーブル把持部13は、シールドケーブル8のシールド露出部830の一部又は全部を含む範囲を内側に挟み込んでいるため、シールド部材83と直接接触することによりシールド部材83と電気的に接続されている。即ち、本実施形態におけるケーブル把持部13は、シールド部材83と電気的に接続された導通部を兼ねる部分である。以上に示したように、接地用固定具10は、シールド部材83と接地用の筐体との間に介在することによってその両者を電気的に接続する。
【0042】
<ワイヤハーネス1の製造方法>
以下、図2及び図3を参照しつつ、ワイヤハーネス1の装置に用いられるホットプレス成形装置20及びそれを用いたワイヤハーネス1の製造方法について説明する。図2及び図3は、ワイヤハーネス1の製造工程におけるホットプレス成形工程が行われる直前及びホットプレス成形工程が行われているときのホットプレス成形装置20の正断面である。
【0043】
ホットプレス成形装置20は、導電性の不織布100のホットプレス成形に用いられる。ホットプレス成形は、加工対象である不織布100を金型の間に挟み込んで加圧しつつ、その不織布100を加熱することにより、不織布100を金型の内面形状に成形することである。
【0044】
図2に示されるように、ホットプレス成形装置20は、下型ユニット21と、上型ユニット22とを備える。
【0045】
下型ユニット21は、下型枠部211,212,213,214とそれを加熱するヒータ30とを備える。下型枠部211,212,213,214は、熱伝導性に優れた金属などの材料からなる部材であり、接地用固定具10の一方の片側半分の外形に相当する形状で形成されている。
【0046】
下型枠部211,212,213,214は、コネクタ把持部11の一方の面を成形する第一下成形部211と、固定部12の一方の面を成形する第二下成形部212と、固定部12の取付孔121を成形する第三下成形部213と、ケーブル把持部13の一方の面を成形する第四下成形部214とを含む。第三下成形部213は、不織布100を貫通して取付孔121を形成する突起部である。
【0047】
一方、上型ユニット22は、上型枠部221,222,223,224とそれを加熱するヒータ30とを備える。上型枠部221,222,223,224は、熱伝導性に優れた金属などの材料からなる部材であり、接地用固定具10の他方の片側半分の外形に相当する形状で形成されている。
【0048】
上型枠部221,222,223,224は、コネクタ把持部11の他方の面を成形する第一上成形部221と、固定部12の他方の面を成形する第二上成形部222と、第三下成形部213が嵌る穴を形成する第三上成形部223と、ケーブル把持部13の他方の面を成形する第四上成形部224とを含む。
【0049】
図2は、ホットプレス成形が施される前の導電性の不織布100、コネクタ9及びシールドケーブル8が、下型枠部211,212,213,214の上に載置された状態を示す。図2に示される例では、コネクタ9及びシールドケーブル8の両側から重ねられる第一不織布101及び第二不織布102が用いられる。
【0050】
第一不織布101は、下型枠部211,212,213,214の上にその全体に亘って配置される。さらに、コネクタ9及びシールドケーブル8が、第一不織布101の上における第一下成形部211及び第四下成形部214各々の上方の位置に配置される。さらに、第二不織布102は、コネクタ9及びシールドケーブル8を挟んで、第一不織布101の上方に重ねられる。
【0051】
その後、図3に示されるように、上型枠部221,222,223,224が、下型枠部211,212,213,214に嵌め入れられ、ヒータ30により下型枠部211,212,213,214及び上型枠部221,222,223,224が加熱される。
【0052】
ヒータ30は、接地用固定具10の元となる不織布100を、基本繊維及び導体繊維の融点よりも低く、かつ、接着樹脂の融点よりも高い温度に加熱する加熱装置である。ヒータ30で加熱された2枚の不織布101,102は、下型枠部211,212,213,214及び上型枠部221,222,223,224の形状に成形されて硬化するとともに、コネクタ9及びシールドケーブル8の各々に対向する部分以外の部分において、相互に接着される。その結果、ホットプレス成形を経た2枚の不織布101,102は、一体の成形部材である接地用固定具10となる。
【0053】
図2及び図3に示される例では、ヒータ30は、下型枠部211,212,213,214及び上型枠部221,222,223,224の各々に埋設されている。しかしながら、ヒータ30は、下型枠部211,212,213,214及び上型枠部221,222,223,224の各々の外面に熱伝達可能な態様で取り付けられることも考えられる。
【0054】
なお、下型枠部211,212,213,214が、成形された金属板で形成され、ヒータ30により加熱される台座部に対して取り外し可能に装着されることも考えられる。これにより、不織布100及びシールドケーブル8を下型ユニット21と上型ユニット22との間にセットする作業と、及びホットプレス成形の後に不織布100が成型された部材である接地用固定具10は取り出す作業とが容易になる。
【0055】
以上に示したように、ワイヤハーネス1は、ホットプレス成形装置20によるホットプレス成形の工程を経て製造される。
【0056】
<効果>
柔らかな素材である不織布100の加熱成形は、不織布100を裁断し、その不織布100に対して比較的単純な金型及びヒータ30を用いてホットプレス成形を施す、という簡易な工程により製造される。さらに、導電性の不織布100の加熱成形により硬化した部材は、軽量であり、かつ、緩衝性に優れている。
【0057】
従って、ワイヤハーネス1は、接地用固定具10を含め、簡易な製造設備により製造でき、さらに、設計変更などに応じて形状を変更するために必要な手間及びコストも小さい。また、ワイヤハーネス1が取り扱われる際に、シールドケーブル8が、接地用固定具10の重みによって屈曲して劣化すること、及び、周辺の物が接地用固定具10との衝突によって破損することが防止される。
【0058】
また、ワイヤハーネス1において、シールドケーブル8は、接地用固定具10のケーブル把持部13により、コネクタ9から離れた位置で支持されつつ湾曲した状態で保持される。従って、シールドケーブル8は、それがコネクタ9又はコネクタ9の外縁に沿う小さな従来の接地用固定具と結束される場合に比べ、比較的小さな曲率で、即ち、比較的大きな曲げ半径で湾曲した状態で保持される。その結果、シールドケーブル8の湾曲部において、そのシールドケーブル8の特性の劣化防止に必要な最小曲げ半径が確保され、シールドケーブル8の曲がりによる劣化が防がれる。
【0059】
また、ケーブル把持部13が導通部を兼ねるため、導通部が別個に設けられる場合に比べ、接地用固定具10を小型化できる。さらに、導通部を兼ねるケーブル把持部13は、シールドケーブル8におけるシールド部材83に対して直接接触する。従って、シールド部材83と接地用固定具10との間の導電性が、他の導電性部材が介在する場合よりも高まり、電磁ノイズの防止性能が高まる。
【0060】
<第2実施形態>
次に、図4を参照しつつ、本発明の第2実施形態に係るワイヤハーネス1Aについて説明する。このワイヤハーネス1Aは、図1に示されたワイヤハーネス1の接地用固定具10と比較して一部の構造のみが異なる接地用固定具10Aを備えている。図4において、図1に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。以下、ワイヤハーネス1Aにおけるワイヤハーネス1と異なる点についてのみ説明する。
【0061】
ワイヤハーネス1Aの接地用固定具10Aは、接地用固定具10と同様に、導電性の不織布100に対するホットプレス成形によって得られた部材であり、コネクタ把持部11、固定部12及びケーブル把持部13Aを有する。
【0062】
図4に示されるように、接地用固定具10Aのケーブル把持部13Aは、シールドケーブル8におけるコネクタ9との接続部から湾曲部までを含む範囲全体を内側に挟み込んで保持する部分である。
【0063】
また、ケーブル把持部13Aは、コネクタ9から離れた位置においてシールドケーブル8のシールド露出部830を内側に挟み込んで支持する部分を含む。即ち、本実施形態におけるケーブル把持部13Aも、ケーブル把持部13と同様に、シールド部材83と電気的に接続された導通部を兼ねる部分である。なお、ワイヤハーネス1Aも、ワイヤハーネス1の製造工程と同様の工程を経て製造される。
【0064】
<効果>
ワイヤハーネス1Aが採用された場合、ワイヤハーネス1が採用された場合と同様の効果が得られる。さらに、ワイヤハーネス1Aにおいては、シールドケーブル8におけるコネクタ9との接続部から湾曲部までを含む範囲全体が、接地用固定具10Aのケーブル把持部13Aによって挟み込まれる。その結果、シールドケーブル8の湾曲部全体が固定され、シールドケーブル8は、外力を受けた場合でも、比較的小さな曲率で湾曲した状態が保持され、特性の劣化防止がより確実となる。
【0065】
<第3実施形態>
次に、図5を参照しつつ、本発明の第3実施形態に係るワイヤハーネス1Bについて説明する。このワイヤハーネス1Bは、図1に示されたワイヤハーネス1のコネクタ9と比較して一部の構造のみが異なるコネクタ9Bを備えている。図5において、図1に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。以下、ワイヤハーネス1Bにおけるワイヤハーネス1と異なる点についてのみ説明する。
【0066】
ワイヤハーネス1Bのコネクタ9Bは、その内側でシールドケーブル8のシールド部材83と接触するとともに、その一部が外装の外側に形成された導電性の部材である導通プレート91を備えている。なお、導通プレート91は、中継部材の一例である。
【0067】
そして、ワイヤハーネス1Bにおいて、接地用固定具10のコネクタ把持部11は、コネクタ9Bにおける導通プレート91を含む領域を挟み込んで形成されている。従って、コネクタ把持部11は、導通プレート91におけるコネクタ9Bの外装の外側に形成された部分と接触しつつコネクタ9Bを内側に挟み込む構造を有している。
【0068】
即ち、本実施形態においては、コネクタ把持部11が、シールド部材83と電気的に接続された導通部を兼ねる部分である。従って、ワイヤハーネス1Bにおいては、シールド露出部830がシールドケーブル8に形成されておらず、ケーブル把持部13は、導通部としては機能しない。なお、ワイヤハーネス1Bも、ワイヤハーネス1の製造工程と同様の工程を経て製造される。
【0069】
<効果>
ワイヤハーネス1Bが採用された場合、ワイヤハーネス1が採用された場合と同様の効果が得られる。さらに、ワイヤハーネス1Bにおいては、コネクタ把持部11が導通部を兼ねるため、導通部が別個に設けられる場合に比べ、接地用固定具10を小型化できる。さらに、コネクタ9Bの導通プレート91が、シールド部材83と接地用固定具10とを電気的に接続するため、シールドケーブル8の絶縁被覆84の一部を除去する手間が省かれる。
【0070】
<その他>
ワイヤハーネス1Aにおいて、ワイヤハーネス1Bのコネクタ9Bが、コネクタ9の代わりに採用されることも考えられる。この場合、シールドケーブル8において、シールド露出部830は設けられなくてもよい。
【0071】
また、シールドケーブル8を湾曲した状態で保持する必要がない場合、ワイヤハーネス1Bが、接地用固定具10のケーブル把持部13を除いた残りの構成のみを備えることも考えられる。また、接地用固定具10,10Aにおいて、ケーブル把持部13は、シールドケーブル8を、コネクタ9から延び出た方向からその反対方向へターンして湾曲する状態で保持するとは限らない。
【0072】
例えば、ケーブル把持部13が、シールドケーブル8を、コネクタ9から延び出た方向から、その方向に対して180°未満の角度をなす方向へ湾曲する状態で保持することも考えられる。
【0073】
また、接地用固定具10,10Aにおいて、コネクタ把持部11が、コネクタ9,9B全体を挟み込む、即ち、コネクタ9,9B全体を内包することも考えられる。
【0074】
また、接地用固定具10,10Aの製造工程において、2枚の導電性の不織布101,102が用いられる代わりに、1枚の導電性の不織布100が用いられることも考えられる。この場合、1枚の導電性の不織布100は、二重に折り畳まれることにより、コネクタ9,9B及びシールドケーブル8をその両側から挟むように配置される。
【0075】
また、接地用固定具10,10Aの取付孔121は、ホットプレス成形の工程において形成される代わりに、ホットプレス成形の後に、孔開け装置により形成されることも考えられる。
【符号の説明】
【0076】
1,1A,1B ワイヤハーネス
7 ボルト
8 シールドケーブル
9,9B コネクタ
10、10A 接地用固定具
11 コネクタ把持部
12 固定部
13,13A ケーブル把持部
20 ホットプレス成形装置
21 下型ユニット
22 上型ユニット
30 ヒータ
81 芯線
82 誘電体
83 シールド部材
84 絶縁被覆
91 導通プレート
100,101,102 導電性の不織布
121 取付孔
211,212,213,214 下型枠部
221,222,223,224 上型枠部
830 シールド露出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線及びその周囲に形成されたシールド部材を含むシールドケーブルと、
前記シールドケーブルの端部に設けられたコネクタと、
導電性の不織布の加熱成形により硬化した一体の導電性部材からなり、前記コネクタを内側に挟み込むことによって前記コネクタに保持されたコネクタ把持部、前記シールドケーブルの前記シールド部材と電気的に接続された導通部及び接地用の筐体に固定される固定部が形成された接地用固定具と、を備えることを特徴とするワイヤハーネス。
【請求項2】
前記接地用固定具は、少なくとも前記コネクタから離れた位置において前記シールドケーブルを内側に挟み込んで支持することによって前記コネクタから延び出た前記シールドケーブルを湾曲した状態で保持するケーブル把持部をさらに備える、請求項1に記載のワイヤハーネス。
【請求項3】
前記ケーブル把持部は、前記シールドケーブルにおける前記コネクタとの接続部から湾曲部までを含む範囲全体を内側に挟み込んで保持する部分である、請求項2に記載のワイヤハーネス。
【請求項4】
前記ケーブル把持部は、前記シールドケーブルにおける前記シールド部材がその外側の絶縁被覆から露出した部分を含む範囲を内側に挟み込み、前記導通部を兼ねる部分である、請求項2又は請求項3に記載のワイヤハーネス。
【請求項5】
前記コネクタは、その内側で前記シールドケーブルの前記シールド部材と接触するとともに、その一部が外装の外側に形成された導電性の中継部材を備え、
前記コネクタ把持部は、前記中継部材における前記コネクタの前記外装の外側に形成された部分と接触しつつ前記コネクタを内側に挟み込み、前記導通部を兼ねる部分である、請求項1から請求項3のいずれかに記載のワイヤハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−174444(P2012−174444A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34332(P2011−34332)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】