説明

ワイヤーハーネスの止水部製造方法及びワイヤーハーネスの止水部

【課題】グロメットによる締付け領域に限定されず、ワイヤーハーネスの止水を図ることができるようにすること。
【解決手段】複数の電線12を束ね、束ねられた複数の電線12を、その長手方向に沿って間隔をあけた2箇所で、封止カバー材30により覆い、複数の電線12のうち封止カバー材30で覆われた2箇所の間部分P1にシール剤50を供給する。さらに、複数の電線12のうち封止カバー材で覆われた2箇所の間部分P1と封止カバー材30で覆われた2箇所の両外側部分P2との間に気圧差を生じさせて、束ねられた複数の電線12のうち封止カバー材30により覆われた部分にシール剤50を行渡らせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ワイヤーハーネスをグロメットに通して止水する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の止水技術として、特許文献1に開示のものがある。
【0003】
特許文献1には、グロメットの拡径筒部にワイヤーハーネスを通すと共に拡径筒部の大径側にシール材を注入した状態で、拡径筒部の小径側の気圧よりも大径側の気圧を高くして、前記シール材を拡径筒部内に充填する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−123573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の技術では、グロメットの拡径筒部内空間を利用してシール材を充填する構成であるため、シール材を充填可能な領域が、ワイヤーハーネスのうちグロメットによって締付けられる領域に限定されてしまう。
【0006】
そこで、本発明は、グロメットによる締付け領域に限定されず、ワイヤーハーネスの止水を図ることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、第1の態様に係るワイヤーハーネスの止水部製造方法は、(a)複数の電線を束ねる工程と、(b)束ねられた前記複数の電線を、その長手方向に沿って間隔をあけた2箇所で、封止カバー材により覆う工程と、(c)前記複数の電線のうち前記封止カバー材で覆われた2箇所の間部分にシール剤を供給する工程と、(d)前記複数の電線のうち前記封止カバー材で覆われた2箇所の間部分と前記封止カバー材で覆われた2箇所の両外側部分との間に気圧差を生じさせて、束ねられた前記複数の電線のうち前記封止カバー材により覆われた部分に前記シール剤を行渡らせる工程とを備える。
【0008】
第2の態様は、第1の態様に係るワイヤーハーネスの止水部製造方法であって、前記工程(d)において、前記複数の電線のうち前記封止カバー材で覆われた2箇所の間部分の気圧を高くする。
【0009】
第3の態様は、第1又は第2の態様に係るワイヤーハーネスの止水部製造方法であって、前記複数の電線のうち前記封止カバー材により覆われる2箇所のうちの少なくとも1つは、グロメットによって締付けられる箇所である。
【0010】
第4の態様は、第1〜第3のいずれか1つの態様に係るワイヤーハーネスの止水部製造方法であって、前記複数の電線のうち前記シール剤が供給された箇所の下方にシートを敷いた状態で、前記工程(c)及び前記工程(d)のうち少なくとも一方の工程を実施し、前記工程(d)実施後に、前記シートを前記複数の電線に巻付ける。
【0011】
また、上記課題を解決するため、第5の態様に係るワイヤーハーネスの止水部は、束ねられた複数の電線と、束ねられた前記複数の電線を、その長手方向に沿って間隔をあけた2箇所で覆う封止カバー材と、前記複数の電線のうち前記封止カバー材で覆われた2箇所の間部分に供給され、前記複数の電線のうち前記封止カバー材で覆われた2箇所の間部分と前記封止カバー材で覆われた2箇所の両外側部分との間の気圧差により、束ねられた前記複数の電線のうち前記封止カバー材により覆われた部分に充填されたシール剤とを備える。
【発明の効果】
【0012】
第1の態様に係るワイヤーハーネスの止水部製造方法によると、前記複数の電線のうち前記封止カバー材で覆われた2箇所の間部分と前記封止カバー材で覆われた2箇所の両外側部分との間に気圧差を生じさせて、束ねられた前記複数の電線のうち前記封止カバー材により覆われた部分に前記シール剤を行渡らせるため、グロメットによる締付け領域に限定されず、ワイヤーハーネスの止水を図ることができる。
【0013】
第2の態様によると、前記工程(d)において、前記複数の電線のうち前記封止カバー材で覆われた2箇所の間部分の気圧を高くするため、より大きな気圧差を生じさせることができる。これにより、シール剤をより確実に複数の電線間に行渡らせることができ、また、作業時間の短縮も可能となる。
【0014】
第3の態様によると、グロメットによる締付け箇所にシール剤を行渡らせることができるため、より確実な止水が可能となる。
【0015】
第4の態様によると、外部へのシール剤の垂れ等を抑制することができる。
【0016】
第5の態様に係るワイヤーハーネスの止水部によると、前記複数の電線のうち前記封止カバー材で覆われた2箇所の間部分と前記封止カバー材で覆われた2箇所の両外側部分との間に気圧差により、束ねられた前記複数の電線のうち前記封止カバー材により覆われた部分に前記シール剤が充填されているため、グロメットによる締付け領域に限定されず、ワイヤーハーネスの止水を図ることができる止水部を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ワイヤーハーネスの止水部製造方法の一工程を示す説明図である。
【図2】ワイヤーハーネスの止水部製造方法の一工程を示す説明図である。
【図3】ワイヤーハーネスの止水部製造方法の一工程を示す説明図である。
【図4】ワイヤーハーネスの止水部製造方法の一工程を示す説明図である。
【図5】ワイヤーハーネスの止水部製造方法の一工程を示す説明図である。
【図6】ワイヤーハーネスの止水部製造方法の一工程を示す説明図である。
【図7】シール剤が電線間に充填される状態を示す説明図である。
【図8】グロメットによる締付け箇所と封止カバー材の配設箇所との好ましい位置関係を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施形態に係るワイヤーハーネスの止水部製造方法及びワイヤーハーネスの止水部について説明する。図1〜図6はワイヤーハーネスの止水部製造方法に係る各工程を示す説明図である。
【0019】
ここで、ワイヤーハーネス10及び当該ワイヤーハーネス10に装着されるグロメット20について説明しておく。
【0020】
ワイヤーハーネス10は、複数の電線12を束ねることにより構成されている。図1〜図6では、複数の電線12が1つに束ねられた箇所にグロメット20が装着される例を示している。ワイヤーハーネス10の他の部分では、複数の電線が適宜分岐されていてもよい。
【0021】
グロメット20は、エラストマー(ゴム等)の弾性を有する材料によって形成された部材であり、車体装着部22と、電線挿通部24とを備えている(図6参照)。
【0022】
車体装着部22は、一端側から他端側に向けて順次縮径する断面円形状に形成されている。車体装着部22の拡径側端部の外周には、その周方向に沿って係止溝23が形成されている。そして、本グロメット20の取付対象となる取付パネル40に形成された取付孔42の周縁部が係止溝23に嵌め込まれることによって、本グロメット20が取付パネル40に取付けられる。なお、グロメット20の取付対象となる取付パネル40としては、浸水領域(例えば、エンジンルーム)と非浸水領域(例えば、車室内)とを区分するパネルが想定されている。
【0023】
電線挿通部24は、車体装着部22の縮径側端部に連続する円筒状に形成されている。電線挿通部24の内周部は、ワイヤーハーネス10の外周に密着可能な程度の径、より具体的には、ワイヤーハーネス10の断面の外形に最小径で接する最小包含円の径よりも小さい径に形成されている。そして、ワイヤーハーネス10が電線挿通部24内に挿通された状態で、電線挿通部24の弾性力によって電線挿通部24の内周部がワイヤーハーネス10の外周部に密着状に押付けられ、当該ワイヤーハーネス10が締付けられるようになっている。
【0024】
なお、電線挿通部24から車体装着部22側に向けて固定片28が延設されている。この固定片28は、本グロメット20をワイヤーハーネス10に装着する際に、粘着テープを巻付け固定するための部分として供される。この固定片28は省略されていてもよい。
【0025】
そして、上記グロメット20にワイヤーハーネス10が挿通された状態で、ワイヤーハーネス10が取付パネル40に形成された取付孔42に通されると共に、グロメット20が当該取付孔42に取付けられる。この状態では、取付孔42の大部分がグロメット20自体によって塞がれることで、止水が図られている。また、取付孔42の周縁部が係止溝23に嵌め込まれることによって、グロメット20と取付孔42との止水が図られている。また、グロメット20の電線挿通部24がワイヤーハーネス10に密着する構成及びワイヤーハーネス10に充填状に配設されたシール剤50によってグロメット20内で止水が図られている。
【0026】
かかるワイヤーハーネス10の止水部製造方法について説明する。
【0027】
まず、図1に示すように、複数の電線12を束ねる。電線12は、作業者の手によって束ねた状態に維持されても、別途治具等を用いて束ねた状態に維持されてもよい。
【0028】
次に、図2に示すように、複数の電線12を束ねたワイヤーハーネス10を、その長手方向に沿って間隔をあけた2箇所で、封止カバー材30によって覆う。ここでは、ワイヤーハーネス10に対して所定長に亘って粘着テープを螺旋状に巻付けることにより、封止カバー材30を形成している。この場合の粘着テープとしては、樹脂等の気体を通しにくい基材に粘着層を形成したものを用いることが好ましい。その他、幅広の樹脂フィルムをワイヤーハーネス10に巻付け、粘着剤、接着剤、或は、その外周に巻回された粘着テープによって当該巻付状態を維持することによって、封止カバー材30を形成する構成であってもよい。要するに、封止カバー材30としては、複数の電線12の周囲を気密状態で覆うことができる構成であればよい。
【0029】
後述する工程において、主として本封止カバー材30が設けられた領域において、シール剤50が各電線12間に行渡ることになる。そのように各電線12間に行渡ったシール剤50によって、所望の止水効果が得られるように、ワイヤーハーネス10のうち封止カバー材30が設けられる長さ寸法は、供給されるシール剤50の量等に応じて適宜設定されるとよい。すなわち、後述する工程において、主として封止カバー材30が設けられた領域において、シール剤50が電線12間に行渡る。このため、より多くのシール剤50を供給する場合には、封止カバー材30を設ける長さ寸法をより大きくすることが好ましい。逆に、供給されるシール剤の量が少なければ、封止カバー材30を設ける長さ寸法は小さくてもよい。
【0030】
また、2箇所に設けられた封止カバー材30間の間隔寸法も、供給されるシール剤50の量等に応じて適宜設定するとよい。すなわち、後述する工程において、封止カバー材30間に設けられたシール剤50が電線12間に行渡ることとなる。このため、なるべく多くのシール剤50を電線12間により確実に行渡らせるためには、封止カバー材30間の間隔寸法をなるべく大きくして、ワイヤーハーネス10により多くのシール剤50が付着した状態にしておくことが好ましい。逆に、シール剤50の供給量が少ない場合には、封止カバー材30間の間隔寸法は小さくてもよい。
【0031】
なお、ワイヤーハーネス10のうち上記封止カバー材30が設けられた領域以外の部分に、粘着テープ等が巻付けられていてもよい。
【0032】
次に、図3に示すように、ワイヤーハーネス10のうち封止カバー材30で覆われた2箇所の間部分にシール剤50を供給する。シール剤50としては、シリコーン等、後述する気圧差によって複数の電線12間に充填状に行渡ることが可能な流動性及びワイヤーハーネス10の外周或は複数の電線12間から容易に垂れ落ちない程度の粘度を有する各種材料を用いることができる。
【0033】
シール剤50は、ワイヤーハーネス10のうち封止カバー材30で覆われた2箇所の間部分の長手方向全体及び周方向全体を覆うように、ワイヤーハーネス10に付着していることが好ましい。これにより、後述する気圧差を設ける際の気体漏れを抑制できるからである。
【0034】
シール剤50の供給量は、止水対象領域、より具体的には、封止カバー材30の長さ寸法、電線12の本数等に応じて実験的、経験的に設定するとよい。通常、封止カバー材30の長さ寸法が大きければ、また、電線12の本数が多ければ、シール剤50の供給量を多くすることが好ましい。また、封止カバー材30の長さ寸法が小さければ、また、電線12の本数が少なければ、シール剤50の供給量を少なくすることが好ましい。
【0035】
次に、図4に示すように、ワイヤーハーネス10のうち封止カバー材30で覆われた2箇所の間部分P1と封止カバー材30で覆われた2箇所の両外側部分P2との間に気圧差を生じさせる。これにより、ワイヤーハーネス10のうち封止カバー材30により覆われた部分にシール剤50を行渡らせる。
【0036】
ここでは、次の加圧装置60を用いて本工程を実施している。すなわち、加圧装置60は、加圧容器62と加圧部66とを有している。
【0037】
加圧容器62は、ワイヤーハーネス10のうち封止カバー材30で覆われた2箇所の間部分P1を封入可能に構成されている。より具体的には、加圧容器62は、略筺状に形成されており、その両端部に封止カバー材30を挿通可能な孔62hが一対形成されている。孔62hの周縁部にはゴム等で形成された弾性シール部材が設けられており、孔62hの周縁部と封止カバー材30の外周部とが気密状に接触していることが好ましい。また、加圧容器62のうち一対の孔62hを結ぶ方向の寸法は、封止カバー材30で覆われた2箇所の間部分P1の長さ寸法よりも大きく、かつ、2箇所の封止カバー材30の両外方部分間の間隔寸法よりも小さい。これにより、ワイヤーハーネス10のうち一対の封止カバー材30で覆われた部分を上記一対の孔62h内に挿通した状態で、上記封止カバー材30で覆われた2箇所の間部分P1を加圧容器62内に封止状に収容できるようになっている。
【0038】
加圧部66は、圧縮機或は高圧タンク等の高圧気体供給源により構成されており、その周辺の大気圧よりも高い圧力の気体(例えば、空気)を供給可能に構成されている。この加圧部66は、上記加圧容器62と気体供給管68を通じて接続されている。
【0039】
そして、加圧部66より供給される高圧気体が上記加圧容器62内に供給され、これにより、加圧容器62内の圧力が高まり、加圧容器62内と加圧容器62外との間で圧力差が生じる。つまり、ワイヤーハーネス10のうち封止カバー材30で覆われた2箇所の間部分P1の気圧が周辺気圧よりも高くなる。これにより、ワイヤーハーネス10のうち封止カバー材30で覆われた2箇所の間部分P1と封止カバー材30で覆われた2箇所の両外側部分P2との間に気圧差が生じる。この気圧差によって、図7に示すように、ワイヤーハーネス10のうち封止カバー材30で覆われた2箇所の間部分P1に付着していたシール剤50が、押されるようにして、封止カバー材30で覆われた箇所において複数の電線12間に行渡る(浸透する)。これにより、封止カバー材30で覆われた箇所において複数の電線12間にシール剤50が充填されるようになる。
【0040】
どの程度の圧力差を生じさせるかについては、シール剤50の粘度、封止カバー材30の長さ寸法等に応じて、シール剤50が封止カバー材30内で電線12間になるべく一定の態様で充填されるように、実験的、経験的に設定するとよい。
【0041】
なお、ワイヤーハーネス10のうち封止カバー材30で覆われた2箇所の間部分P1では、シール剤50は残存していてもよいし、残存していなくともよい。止水効果をより高めるためには、間部分P1において、シール剤50が残存していることが好ましい。
【0042】
この後、図5に示すように、ワイヤーハーネス10のうち封止カバー材30で覆われた2箇所の間部分P1と2箇所の封止カバー材30の内側部分との外周囲にシート54を巻付ける。シート54としては、ゴム発泡シート、ウレタン発泡シート等の発泡シートを用いるとよい。これにより、グロメット20の電線挿通部24及びワイヤーハーネス10に対するシートの密着性をよくすることができ、グロメット20とワイヤーハーネス10との間の隙間をなるべく小さくすることができるからである。また、この場合の発泡シートは、多数の気泡が相互に独立しているシートであることが好ましい。シート54における水の浸透を抑制するためである。
【0043】
シート54は、その外周囲に巻付けられた粘着テープによって上記巻付状態が維持される構成であってもよいし、或は、シート54自体に付与された粘着性によって巻付状態が維持される構成であってもよい。
【0044】
なお、本シート54は必須ではない。しかしながら、ワイヤーハーネス10をグロメット20に挿通する作業時等に、シール剤50が他の箇所に付着すること等を抑制するためには、本シート54が巻付けられていることが好ましい。
【0045】
そして、図6に示すように、ワイヤーハーネス10のうちシート54が巻付けられた部分をグロメット20の電線挿通部24内に通す。この後、電線挿通部24、固定片28及びワイヤーハーネス10の外周囲に、粘着テープを巻付けて、グロメット20をワイヤーハーネス10の所定位置に固定する。これにより、ワイヤーハーネス10に対するグロメット20の装着が完了する。
【0046】
このように構成されたワイヤーハーネス10の止水部では、2箇所の封止カバー材30内において、シール剤50が各電線12間に充填状に配設されている。このため、ワイヤーハーネス10の止水部が取付パネル40の取付孔42に取付けられた状態では、グロメット20内部において、2箇所の封止カバー材30内のシール剤50によってワイヤーハーネス10を伝った水の浸入が抑制されることとなる。
【0047】
以上のように構成されたワイヤーハーネス10の止水部及びその製造方法によると、ワイヤーハーネス10のうち封止カバー材30で覆われた2箇所の間部分P1と封止カバー材30で覆われた2箇所の両外側部分P2との間に気圧差を生じさせて、ワイヤーハーネス10のうち封止カバー材30により覆われた部分P1にシール剤50を行渡らせるため、グロメット20による締付け領域に限定されず、ワイヤーハーネス10の止水を図ることができる。
【0048】
しかも、2箇所の封止カバー材30の間部分P1にシール剤50を付着させた後、上記気圧差を生じさせることで、2箇所の封止カバー材30内にシール剤50を充填させることができ、止水するのに十分な長さでシール剤50を行渡らせることができる。しかも、封止カバー材30内でシール剤50を行渡らせるため、シール剤50の垂れを抑制することもできる。
【0049】
また、従来では、複数の電線を並列状に整列させた状態で、シール剤を供給することも行われていた。この場合、その整列方向両側の電線は整列方向中央の電線に比べて、長くなってしまう。すると、シール剤を塗布した後に、電線を円形状に束ねると、一部の電線が他の電線よりも長くなってしまう。これによる余長を吸収しつつ、ワイヤーハーネスにシートを巻付けると、電線にうねりが生じたり、また、電線12間に隙間が生じてしまうことがあり、品質低下を招く恐れがあった。これに対して、複数の電線12が円形状に束ねられたワイヤーハーネス10に対してシール剤50を供給することにより、上記のような余長は発生し難く、従って、電線12のうねり、隙間等が抑制される。このため、比較的品質に優れた止水部を得ることができる。
【0050】
また、間部分P1にシール剤50を供給し、部分P1,P2間に管理された一定の圧力差を生じさせてシール剤50の充填作業を行うことができ、全体的な止水能力を安定化させることができる。その結果、シール剤を電線に供給した後ワイヤーハーネスを手で揉む等してシール剤を各電線間に行渡らせる作業等をしなくとも、安定した止水能力を得ることができる。もっとも、シート54を巻付けた後にワイヤーハーネス10を手で揉む等してシール剤50を各電線12間に行渡らせる作業等を行ってもよい。
【0051】
また、間部分P1と両外側部分P2との間に気圧差を生じさせる際の加圧部の圧力を所定の基準圧力以上に設定(或は、後述するように、両外側部分P2を減圧する場合には減圧部の圧力を所定の基準圧力下に設定)することで、一定の止水性能(ある圧力差に対する止水性能があること)が担保される。このため、シール剤50の充填作業と同時に、止水性能検査がなされることになり、別途止水性能検査を行わなくともよいというメリットがある。
【0052】
また、2箇所の封止カバー材30の間部分P1を加圧しているため、部分P1、P1間の圧力差を大気圧よりも大きく設定することができ、シール剤50の充填性の向上及びシール剤50を充填する際の作業時間の短縮化を図ることも可能となる。
【0053】
図8はグロメット20による締付け箇所と封止カバー材30の配設箇所との好ましい位置関係を示す概略図である。なお、本図では、固定片28は省略されている。また、電線挿通部24の先端部周辺に粘着テープ70が巻付けられている。この図に示すように、ワイヤーハーネス10のうち封止カバー材30により覆われる2箇所(より好ましくは、封止カバー材30のうちシール剤50が充填される箇所)のうちの少なくとも1つは、グロメット20によって締付けられる箇所であることが好ましい。ワイヤーハーネス10のうち封止カバー材30により覆われる箇所をグロメット20によって締付けると、その締付け力によってシール剤50がより確実に電線12間に行渡り、より確実な止水が図られるからである。
【0054】
なお、上記実施形態において、シール剤50を供給する工程(図3参照)及び圧力差を設ける工程(図4参照)の少なくとも1つの工程を実施する際に、2箇所の封止カバー材30の間部分P1の下方にシート54を敷いた状態にしておき、圧力差を設けた工程後に当該シート54を間部分P1に巻付けるとよい。これにより、供給されたシール剤50を当該シート54で受止めることができ、シート54の他の部分への垂れを有効に抑制できる。
【0055】
また、上記実施形態では、2箇所の封止カバー材30の間部分P1を加圧しているが、2箇所の封止カバー材30の外側部分P2を減圧するようにしてもよい。
【0056】
以上のようにこのワイヤーハーネス10の止水部及びその製造方法は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。
【符号の説明】
【0057】
10 ワイヤーハーネス
12 電線
20 グロメット
24 電線挿通部
30 封止カバー材
50 シール剤
54 シート
60 加圧装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)複数の電線を束ねる工程と、
(b)束ねられた前記複数の電線を、その長手方向に沿って間隔をあけた2箇所で、封止カバー材により覆う工程と、
(c)前記複数の電線のうち前記封止カバー材で覆われた2箇所の間部分にシール剤を供給する工程と、
(d)前記複数の電線のうち前記封止カバー材で覆われた2箇所の間部分と前記封止カバー材で覆われた2箇所の両外側部分との間に気圧差を生じさせて、束ねられた前記複数の電線のうち前記封止カバー材により覆われた部分に前記シール剤を行渡らせる工程と、
を備えるワイヤーハーネスの止水部製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のワイヤーハーネスの止水部製造方法であって、
前記工程(d)において、前記複数の電線のうち前記封止カバー材で覆われた2箇所の間部分の気圧を高くする、ワイヤーハーネスの止水部製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のワイヤーハーネスの止水部製造方法であって、
前記複数の電線のうち前記封止カバー材により覆われる2箇所のうちの少なくとも1つは、グロメットによって締付けられる箇所である、ワイヤーハーネスの止水部製造方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のワイヤーハーネスの止水部製造方法であって、
前記複数の電線のうち前記シール剤が供給された箇所の下方にシートを敷いた状態で、前記工程(c)及び前記工程(d)のうち少なくとも一方の工程を実施し、前記工程(d)実施後に、前記シートを前記複数の電線に巻付ける、ワイヤーハーネスの止水部製造方法。
【請求項5】
束ねられた複数の電線と、
束ねられた前記複数の電線を、その長手方向に沿って間隔をあけた2箇所で覆う封止カバー材と、
前記複数の電線のうち前記封止カバー材で覆われた2箇所の間部分に供給され、前記複数の電線のうち前記封止カバー材で覆われた2箇所の間部分と前記封止カバー材で覆われた2箇所の両外側部分との間の気圧差により、束ねられた前記複数の電線のうち前記封止カバー材により覆われた部分に充填されたシール剤と、
を備えるワイヤーハーネスの止水部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−33272(P2012−33272A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169029(P2010−169029)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】