説明

ワイヤ切断ツール

【課題】ボンディングワイヤのような金属極細線の先端の直線性を維持したまま、先端形状を線径以下の細い切断幅のままにして切断できるワイヤ切断ツールを提供する。
【解決手段】直線状の金属極細線Wを同一平面内で一対のクランパ6、7により挟持する2つの開閉式クランパ2、3と、少なくとも片方のクランパ6、7に設置され、金属極細線Wの線径よりも低い高さの切断刃4と、2つの開閉式クランパ2、3を金属極細線Wの軸線方向にそって移動させる移動手段5と、を具備し、2つの開閉式クランパ2、3により金属極細線Wを直線状として挟持すると共に、金属極細線Wに切断刃4により切り込みを形成し、移動手段5によりクランパ間距離Dを拡大し、金属極細線Wを伸張して加工硬化させ、切断刃4による切り込み部分のくびれを破断起点として金属極細線Wを切断し、金属極細線Wの先端に加工硬化した直線部分を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤとしての金属極細線の切断に特徴を有するワイヤ切断ツールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属極細線をニッパ状の切断機で切断すると、切断部分が扇状となって、金属極細線の先端が線径よりも大きくなったり、また金属極細線を伸長により破断すると、破断時の破断応力の反動にもとづく座屈応力によって、金属極細線の先端部の直線性が損なわれたりする。
【0003】
例えば、半導体組立工程のボンディングワイヤのセッティング工程では、直径が15μmから30μmといったボンディングワイヤとしての金属極細線をキャピラリチューブという内径が20μmから38μmといった管状ボンディングツールに貫通させるために、金属極細線の先端近傍をピンセットなどで挟持し、先端部を指で挟持して引き千切ったり、鋏で切断したりして、金属極細線の先端に直線部分を形成している。
【0004】
このようなセッティング操作の過程で、金属極細線の切断部分の先端が扇状になったり、わずかでも直線性が損なわれると、金属極細線はキャピラリチューブ内で引っかかり、貫通させることができなくなる。そのためボンディングワイヤのセッティング作業は、熟練を要す作業となっている。
【0005】
このように、ボンディングワイヤのような金属極細線の切断が難しい理由は、ニッパ状の切断機では刃間に数十μmの隙間があると、塑性変形によって変形はするが、破断には至らず、鋏のような切断機でも刃間に隙間があれば、折れて変形するのみで、破断には至らず、指等で挟持して引き千切る場合には、先端が挟持によって変形したり、破断時の反動で先端が湾曲したりしやすいためであり、ボンディングワイヤの15μmから30μmといった線径の細さと、塑性変形しやすい組成や機械的特性とに起因する。
【0006】
金属極細線の先端形状に直線性を付与するためには、金属極細線をわずかに軸方向へ伸長して加工硬化を起こす必要があるが、わずかに加工硬化を引き起こしただけでは、脆性破断させるほどの硬化は起きないため、ニッパや鋏のような切断機を用いても直線性を維持したまま、かつ先端形状を扇状にせずに、線径以下の細い切断幅のまま切断することは容易ではない。
【0007】
一方、特許文献1には、管材の切断時に、管材に軸線方向の弾性域の引っ張り荷重をあたえながら、管材を切断刃により切断することが開示されている。その技術は、金属極細線よりも太く、しかも中空の管材であるため、切断対象物の大きさや形状の相違から、金属極細線の切断に利用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平09−168920
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、ボンディングワイヤのような金属極細線の先端の直線性を維持したまま、先端形状を線径以下の細い切断幅のままにして切断できるワイヤ切断ツールの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題の下に、本発明は、直線状の金属極細線を同一平面内で一対のクランパにより所定の長さで挟持する2つの開閉式クランパと、2つの開閉式クランパ間内側に配置され、2つの開閉式クランパのうち金属極細線の先端側の開閉式クランパの少なくとも片方のクランパに設けられ、金属極細線の線径よりも低い高さの切断刃と、2つの開閉式クランパを金属極細線の軸線方向にそって移動させ、2つの開閉式クランパのクランパ間距離を変更する移動手段とを具備し、2つの開閉式クランパにより金属極細線を直線状として挟持すると共に、金属極細線に切断刃により切り込みを形成し、移動手段によりクランパ間距離を拡大することにより、金属極細線を軸線方向に伸張して加工硬化させ、さらに伸張させることによって、切断刃による切り込み部分のくびれを破断起点として金属極細線を切断し、金属極細線の先端に加工硬化した直線部分を形成している(請求項1)。
【0011】
本発明は、少なくとも片方のクランパに対して切断刃の高さを調整自在に設けている(請求項2)。
【0012】
また、本発明は、移動手段を、各開閉式クランパ取り付け用の2つのクランパ台に共通な直線ガイドと、少なくとも1つのクランパ台を直線ガイドにそって移動させる駆動手段とで構成し、ワイヤ切断ツールをデスクトップ式として構成している(請求項3)。
【0013】
さらに、本発明は、移動手段を、開閉操作可能な一対の手動操作レバーと、これらの手動操作レバーに連動し、2つの開閉式クランパを金属極細線の軸線方向にそって接離させる平行リンクと、この平行リンクによって応動して回動し、一対のクランパを開閉するカムとで構成し、ワイヤ切断ツールをハンディ式として構成している(請求項4)。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るワイヤ切断ツールによれば、まず金属極細線を直線状に所定長さで挟持できる2つの開閉式クランパによって、金属極細線先端の直線状に加工硬化させる長さを特定して切断することが可能となる。一対のクランパの閉塞面は同一平面内にあり、かつ同一直線を挟持できる位置関係にあるため、破断後の金属極細線は一対のクランパの前後で屈折せず、一対のクランパのうち金属極細線の先端側のクランパの少なくとも片方に金属極細線の線径よりも低い高さの切断刃が2つの開閉式クランパ間内側に設置されているために、クランプ後に金属極細線が伸長されはじめても、すぐには切断されず、破断までに伸長によって金属極細線の先端を加工硬化させることが可能となる。2つの開閉式クランパのクランパ間距離は金属極細線を直線状に保持したまま伸長可能に取り付けられているために、2つの開閉式クランパ間の金属極細線も屈折することが無く、金属極細線を直線状にクランプした後に金属極細線を伸張して加工硬化させ、さらに伸張させることで、切断刃による損傷部分をきっかけにネッキング変形(くびれ変形)させ、金属極細線を切断することで、金属極細線の先端に加工硬化した先細り形状の直線部分を容易に形成できる(請求項1)。
【0015】
このように、金属極細線の先端に加工硬化した一定長さの直線部が形成され、くびれ変形部分の破断によって先細り形状を形成しながら簡単に切断できるため、ボンディングワイヤのセッティング作業のように金属極細線を微小な孔径を有するキャピラリチューブへ貫通させる作業に要する時間が短縮化され、直線部形成作業の失敗がなくなる。そのために作業のやり直しによる金などの高価なボンディングワイヤの無駄が回避できる(請求項1)。
【0016】
切断刃の高さが調整自在に設けられており、適切な高さに調整できるため、刃が高すぎる場合の不都合(金属極細線が加工硬化不足・伸長不足のまま破断し、先端の直線性が得られない。)や、刃が低すぎる場合の不都合(金属極細線が容易に破断せず、伸長過剰で先端の長さが不定となり、破断の反動で座屈する。)がなくなり、適切な状態での金属極細線の切断が可能となる(請求項2)。
【0017】
また移動手段が各開閉式クランパ取り付け用の2つのクランパ台に共通な直線ガイドと、少なくとも1つのクランパ台を直線ガイドにそって移動させる駆動手段とで構成され、ワイヤ切断ツールがデスクトップ式として構成されていると、金属極細線の種類に応じて2つの開閉式クランパのクランパ間距離が自由に設定できるため、汎用のワイヤ切断ツールとして広く利用でき、金属極細線の先端部分に、必要な長さの加工硬化した直線部分が簡単に形成できる(請求項3)。
【0018】
さらに移動手段が開閉操作可能な一対の手動操作レバーと、これらの手動操作レバーに連動し、2つの開閉式クランパを金属極細線の軸線方向にそって接離させる平行リンクと、この平行リンクによって応動する本体と、この本体に固定された操作片によって回動し、一対のクランパを開閉するカムとで構成されており、ワイヤ切断ツールがハンディ式として構成されていると、携帯可能な手動工具として必要な場所で簡易に利用できる。しかも平行リンクの動作によってクランパ間距離を伸縮できるため、2つの開閉式クランパの平行状態が維持されたまま、金属極細線の伸長ができ、カムの働きで、金属極細線の破断後はクランパが金属極細線を開放したまま2つの開閉式クランパ間距離が縮まるので、クランプ後のワイヤの折れ曲がりを回避するといった作用が、手動操作レバーの開閉操作のみで達成され、極めて取扱が簡易である(請求項4)。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のデスクトップ式のワイヤ切断ツールの正面方向から見た斜面図である。
【図2】本発明のデスクトップ式のワイヤ切断ツールの背面方向から見た斜面図である。
【図3】本発明のデスクトップ式のワイヤ切断ツールの要部の拡大正面図である。
【図4】本発明のハンディ式のワイヤ切断ツールにおいて金属極細線の挟持前の平面図である。
【図5】本発明のハンディ式のワイヤ切断ツールにおいて金属極細線の挟持後の伸長途上の状態の平面図である。
【図6】本発明のハンディ式のワイヤ切断ツールにおいて金属極細線の最大伸長・破断直後の平面図である。
【図7】本発明のハンディ式のワイヤ切断ツールにおいて金属極細線の切断後の復帰途上の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1および図2は、本発明のデスクトップ式のワイヤ切断ツール1を示している。これらの図において、ワイヤ切断ツール1は、2つの開閉式クランパ2、3、図3に明示する切断刃4および移動手段5を具備している。2つの開閉式クランパ2、3は、例えば上下の位置で2つのクランパ台13、14に取り付けられており、それらのクランパ間距離Dは移動手段5によって変化するように構成されている。
【0021】
上下の開閉式クランパ2、3は、それぞれ直線状の金属極細線Wを同一平面内で一対のクランパ6、7により所定の位置で挟持するために、必要に応じてスペーサ17、18を介してそれぞれ上下のクランパ台13、14に同じ向きとして取り付けられている。2つのクランパ台13、14は、例えばあり・あり溝による共通の直線ガイド8によりベース10の支柱9に対して上下方向に相対的に移動自在に取り付けられている。
【0022】
開閉式クランパ2、3のうち、例えば下方の開閉式クランパ3は、クランパ台14に取り付けられた駆動手段としての駆動モータ11の出力軸と支柱9の側面との間に取り付けたラック・ピニオン12により上下方向に相対的に移動可能になっている。なお、ラック・ピニオン12のうち、ピニオンは、図面上現れていないが、駆動モータ11の出力軸に取り付けられ、ラックにかみ合っている。
【0023】
前記の直線ガイド8、駆動モータ11、ラック・ピニオン12およびクランパ台13、14は、2つの開閉式クランパ2、3に対するクランパ間距離Dを変更するための移動手段5を構成している。この移動手段5は、開閉式クランパ3を開閉式クランパ2に対して金属極細線Wの軸線方向にそって移動させ、2つの開閉式クランパ2、3の間のクランパ間距離Dを変更するために設けられている。
【0024】
そして、各開閉式クランパ2、3は、開閉自在の一対のクランパ6、7により構成されており、各クランパ6、7は、必要に応じ、対向面が滑りにくい材料からなるクランパパッド6a、7aを有している。開閉式クランパ2、3の一対のクランパ6、7が閉じたときに、クランパパッド6a、7aの向き合う挟持面は、閉塞面となり、同一平面内にあって金属極細線Wを直線状として所定の長さで挟持できるようになっている。なお、一対のクランパ6、7の開閉は、図示しない内蔵の電磁コイル、モータ、圧縮空気などの駆動力を利用して行われる。
【0025】
図3のように、2つの開閉式クランパ2、3のうち、金属極細線Wの先端側(下側)の開閉式クランパ3は、少なくとも片方のクランパ7の部分で、切断刃4を有している。切断刃4は、2つの開閉式クランパ2、3の間の内側に設置されており、2つの開閉式クランパ2、3によって挟持されている金属極細線Wの方向に向けて、高さ調整用のワッシャ15を介在させながら固定ねじ16により取り付けられている。
【0026】
なお、切断刃4は、刃の高さ調整が不要な場合はインサート成形などによってクランパ7と一体のものとして構成することもでき、また双方のクランパ7に向き合う状態として一対を設置することもできる。このように、切断刃4は、少なくとも片方のクランパ7に、金属極細線Wに対して刃先の高さを調整自在として設けられることが望ましい。
【0027】
金属極細線Wの切断に際して、金属極細線Wは、開状態の一対のクランパ6のクランパパッド6aの間、および開状態の一対のクランパ7のクランパパッド7aの間に、開閉式クランパ2、3の移動方向に平行な直線状として置かれる。このとき、上下の開閉式クランパ2、3の間のクランパ間距離Dは、予め適切な値に設定されている。このあと、開閉式クランパ2、3は、それぞれ一対のクランパ6、7を閉じ、クランパパッド6a、7aの閉塞面(挟持面)で金属極細線Wを同一平面内で同一直線上で挟持する。この挟持状態のときに、切断刃4は、挟持状態の金属極細線Wの表面に切り込みを形成する。
【0028】
この後、駆動手段としての駆動モータ11は、下方の開閉式クランパ3を上方の開閉式クランパ2から離れる方向に移動させる。開閉式クランパ3は、金属極細線Wを直線状に保持したまま直線ガイド8にそって下方に移動し、クランパ間距離Dを拡大して、金属極細線Wを直線方向に伸張し、開閉式クランパ2、3の間で金属極細線Wを加工硬化させ、さらに金属極細線Wを伸張させることによって、切断刃4の切り込みによる損傷部分をきっかけに引張応力でくびれ変形(ネッキング変形)させ、くびれを破断起点として金属極細線Wを破断によって切断する。
【0029】
このようにして、金属極細線Wは、先端に加工硬化した直線部分を形成した状態で、くびれ変形の位置で切断される。このため、切断後に、破断時の反動で金属極細線Wの先端が湾曲せず、金属極細線Wの先端が扇状になることもなく、加工硬化の部分で所定長さの直線性が維持される。
【0030】
切断の過程で、切断刃4の高さ設定は、最良の切断状態を得るために極めて重要である。切断刃4が高すぎる場合、金属極細線Wは加工硬化・伸長不足のまま破断し、先端部分で直線性は得られない。逆に切断刃4が低すぎる場合、金属極細線Wは容易に破断せず、伸長過剰で先端部分の長さが不定となり、破断の反動で座屈しやすくなる。
【0031】
したがって、切断刃4の高さは、少なくとも、ミクロン単位で調整できるようにする。そのための調整手段としては、例えば、厚みの異なる複数の高さ調整用のワッシャ15を用意するか、あるいは図示しないが、微調整用押しねじを追加し、微調整用押しねじをクランパ7にねじ込み、微調整用押しねじの先端を高さ調整用のワッシャ15または切断刃4の背に押し当てる構成を採用し得る。
【0032】
前記のように、切断刃4は、2つの開閉式クランパ2、3のうち金属極細線Wの先端側の開閉式クランパ3の一対のクランパ7において、少なくとも片側のものに金属極細線Wの線径よりも低い高さとして設置されている。この理由は、切断刃4の高さを金属極細線Wの線径以上にすると、一対のクランパ7により金属極細線Wを挟持した瞬間、あるいは挟持後にクランパ間距離Dを伸長する初期の段階で、金属極細線Wが破断し、破断部の直径を小径化させるネッキングが生じなかったり、金属極細線Wの伸長によって加工硬化による直線部分の形成が行われなかったりするためである。
【0033】
また、切断刃4は、2つの開閉式クランパ2、3間の内側に設置される。この理由は、金属極細線Wを開閉式クランパ2、3で挟持した時に、開閉式クランパ2と開閉式クランパ3との間、つまり金属極細線Wの加工硬化による直線部分で、切断のきっかけとなる損傷(切り込み)を挟持動作と同時に与えるためである。
【0034】
なお、クランパ間距離Dを可変する方法としては、図示しないが、送りねじユニットや、巻き掛け伝導ユニットを利用することもできる。送りねじユニットでは、支柱9に平行して設置した回転方向を自由に設定できるボールねじ軸と、ボールねじ軸に螺合したボールねじナットをクランパ台14に設置し、ボールねじ軸を駆動モータ11で回転することによって、開閉式クランパ2、3の一方を他方に対して移動させる。また巻き掛け伝導ユニットでは、支柱9に平行して輪状に閉じたワイヤやベルトを2個の滑車に巻き掛け、一方の滑車軸には駆動モータ11の出力軸を連結し、滑車間でワイヤやベルトをクランパ台14に係合し、駆動モータ11の回転によって移動するワイヤやベルトによってクランパ台14を上下の方向に移動させる。
【0035】
なお、クランパ間距離Dの変更は、2つの開閉式クランパ2、3の一方だけでなく、双方を移動させて行うこともできる。金属極細線Wの切断後は、クランプ6を開き、先端が直線状となったワイヤを取り出し、また、クランプ7を開き、切断屑を除去した後、駆動モータ11を駆動してクランパ間距離Dを初期値に復帰させる。
【0036】
つぎに、図4ないし図7は、本発明のハンディ式のワイヤ切断ツール1を示している。これらの図において、ワイヤ切断ツール1は、手動操作可能な一対の手動操作レバー21、22の手動操作力を利用して、2つの開閉式クランパ2、3のクランパ間距離Dを変化させ、かつ2つの開閉式クランパ2、3の開閉動作および切断刃4による切り込み動作を行う例であり、上記の他に、平行リンク23、24、本体20およびカム25、26などにより構成されている。
【0037】
2つの開閉式クランパ2、3は、金属極細線Wを同一平面で直線状として保持するためにそれぞれ平行なクランパ台13、14の例えば上面に取り付けられており、一対のクランパ6、7のうち一方の例えば図面上、右側のものは、各クランパ台13、14に固定されて固定側のものとなり、他方の左側のものは、それぞれのクランパ台13、14の平行な2本の滑り案内27、28に対して平行移動自在に取り付けられ、可動側のものとなり、コイルばね29、30によって常にコイルばね29、30の縮む方向(後退方向)に付勢されている。このようにして、一対のクランパ6、7は、可動側のものを固定側のものに対して接近方向に前進し、対向面を閉じ、それらの間で金属極細線Wを同一平面で直線状として挟持できるようになっている。
【0038】
この例において、2つの開閉式クランパ2、3のうち、図面上で上側の開閉式クランパ2は、一対のクランパ6の少なくとも一方、例えば固定側のクランパ6の近くで、開閉式クランパ3寄りの位置で、金属極細線Wの線径よりも低い高さの切断刃4を挟持状態の金属極細線Wの方向に向けて、高さ調整用のワッシャ15を介在させながら固定ねじ16により高さ調整自在に取り付けられている。この例においても、切断刃4は、高さ調整を必要としない場合は、クランパ6と一体ものとして構成することもでき、また双方のクランパ6の位置に向き合う状態として配置することもできる。
【0039】
平行な2つのクランパ台13、14およびこれらの間の本体20は、一対の手動操作レバー21、22、リンク31、32および支点軸19のほかの5本の連結ピン33、34、35、36、37によって2つの平行リンク23、24を構成している。
【0040】
すなわち一方の平行リンク23は、クランパ台13、手動操作レバー21、本体20、リンク31、支点軸19および連結ピン33、34、36によって構成されており、また他方の平行リンク24は、クランパ台14、手動操作レバー22、本体20およびリンク32、支点軸19および連結ピン35、37、34によって構成されている。このため、本体20、その中に設けられた支点軸19および連結ピン34は、2つの平行リンク23、24に共通となっている。
【0041】
一対の手動操作レバー21、22は、支点軸19によって開閉自在に連結されており、これらの間の圧縮ばね40によって常に操作側で押し拡げらる方向に付勢されている。このため、操作力が作用していないとき、平行リンク23、24は、圧縮ばね40の弾力によって偏平な方向に変形し、クランパ台13、14や、一対のクランパ6、7を常に接近させている。
【0042】
なお、平行リンク23、24は、クランパ台13、14の上面だけでなく、下面にも同様の構成として配置することもできる。平行リンク23、24が各クランパ台13、14の上面および下面に配置されていると、一対の手動操作レバー21、22の操作力が上面および下面の平行リンク23、24に対して均等に作用するから、それらの動きは、より軽快になる。
【0043】
本体20は、一対のクランパ6、7の側の端部でY字状となり、先端でカム25、26の連動片41、42に係り合う操作片43、44を形成している。各カム25、26は、一種の偏心カムであり、それぞれカム軸38、39により各クランパ台13、14に回転角90度前後の範囲で回転自在に取り付けられ、外周面で可動側のクランパ6、7に当接している。
【0044】
手動操作レバー21、22の握り操作によって、2つのクランパ台13、14が互いに離れる方向に平行移動するとき、操作片43、44の方向にカム25、26が進出し、カム25、26の連動片41、42が操作片43、44に係り合うため、図面上で、上のカム25は反時計方向に回り、下のカム26は時計方向に回る。このとき、それぞれのカム25、26は、可動側のクランパ6、7を固定側のクランパ6、7の方向に移動させ、一対のクランパ6、7の間で金属極細線Wを同一平面上で直線状として挟持する。
【0045】
ここで、本体20上に軸支された開閉操作可能な一対の手動操作レバー21、22と、リンク31、32、さらにこれらレバーおよびリンクに軸支された2つのクランパ台13、14は、ハンディ式のワイヤ切断ツール1の移動手段5を構成している。
【0046】
金属極細線Wの切断に際して、操作者は、図4のように、開閉式クランパ2、3の開状態の一対のクランパ6、開状態の一対のクランパ7の間に、金属極細線Wを直線状として置いてから、手動操作レバー21、22を握り、圧縮ばね40の弾力に抗して閉じる。このとき、2つのクランパ台13、14および一対のクランパ6、7は、リンク31、32に押されて、互いに離れる方向に移動する。なお、一対のクランパ6と一対のクランパ7との間のクランプ間距離Dは、金属極細線Wの加工硬化の長さに応じて予め適切な値に設定されている。
【0047】
リンク31、32の回動によって、本体20は、図5のように、2つのクランパ台13、14に対して相対的に前進して先端の操作片43、44でカム25、26の連動片41、42に係り合い、上のカム41を反時計方向に、下のカム42を時計方向に回動させ、一対のクランパ6、7のうち可動側のクランパ6、7をコイルばね29、30に抗して固定側のクランパ6、7の方向に移動させ、一対のクランパ6、7の間で金属極細線Wを同一平面上で直線状として保持させ、保持部分以外の金属極細線Wを自重で垂らした状態とする。このとき、切断刃4は、挟持状態の金属極細線Wの表面に切り込みを形成する。この例においても、前記の例と同様に、切断刃4の高さは、高さ調節用のワッシャ15の選択で、事前にミクロン単位で調整しておく。
【0048】
この間にも、2つのクランパ台13、14および一対のクランパ6、7は、互いに離れる方向に移動して、金属極細線Wを伸張させ、金属極細線Wを直線状の加工硬化状態とし、さらに伸張させることで切断刃4の切り込みによる損傷部分をきっかけに引張応力でくびれ変形(ネッキング変形)させ、切り込み部分のくびれを破断起点として金属極細線Wを破断により切断する。
【0049】
操作者が手動操作レバー21、22を完全に閉じきると、図6のように、各操作片43、44がカム25、26の連動片41、42から外れるため、可動側のクランパ6、7は、コイルばね29、30に引かれて後退し、対向の固定側のクランパ6、7から離れる。このとき、一対のクランパ6、7は、金属極細線Wを解放する。可動側のクランパ6、7の後退に連動して、カム25、26もコイルばね29、30の復帰力によって回動し、もとの位置に戻る。このようにして、金属極細線Wは、直線状の加工硬化部分の先端で切断面を形成した状態で、一対のクランパ6、7から解放される。
【0050】
図7のように、操作者が手動操作レバー21、22を解放すると、一対の手動操作レバー21、22は圧縮ばね40の弾力によって離れる方向に移動し、これとともに一対のクランパ6、7は互いに近づく方向に復帰する。この復帰の途中に、カム25、26は、図5に示す手動操作レバー21、22を閉じる過程で本体20の各操作片43、44がカム25、26の連動片41、42に係り合う面と逆の面で係り合う。このために、カム25、26はそれぞれ時計方向、反時計方向に回動して図4に示す初期状態に戻るので、クランパ6、7が閉じることはなく、一度開放した金属極細線Wを再度把持し座屈させることはない。
【0051】
このように、ハンディ式のワイヤ切断ツール1において、手動操作レバー21、22の操作力は、開閉式クランパ2、3の接離方向の移動、一対のクランパ6、7の開閉、切断刃4の切り込み、金属極細線Wの伸張・加工硬化、破断による切断、開放の作用力となり、これらの動作を順次に行っていく。
【0052】
各例のワイヤ切断ツール1によると、金属極細線Wの先端に加工硬化した一定長さの直線部を形成し、くびれ変形部分の破断によって線径より小さな切断部分で簡単に切断できるため、ボンディングワイヤのセッティング作業のように金属極細線Wを微小な孔径を有するキャピラリチューブへ貫通させる作業に要する時間が短縮化され、直線部形成作業の失敗がなくなるために、作業のやり直しによる金などの高価なボンディングワイヤの無駄が回避できる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、ボンディングワイヤ用の金属極細線Wを対象として開発されたが、その他の用途の金属極細線Wにも利用できる。
【符号の説明】
【0054】
1 ワイヤ切断ツール
2 開閉式クランパ
3 開閉式クランパ
4 切断刃
5 移動手段
6 一対のクランパ 6aクランパパッド
7 一対のクランパ 7aクランパパッド
8 直線ガイド
9 支柱
10 ベース
11 駆動モータ
12 ラック・ピニオン
13 クランパ台
14 クランパ台
15 高さ調節用のワッシャ
16 固定ねじ
17 スペーサ
18 スペーサ
19 支点軸
20 本体
21 手動操作レバー
22 手動操作レバー
23 平行リンク
24 平行リンク
25 カム
26 カム
27 滑り案内
28 滑り案内
29 コイルばね
30 コイルばね
31 リンク
32 リンク
33 連結ピン
34 連結ピン
35 連結ピン
36 連結ピン
37 連結ピン
38 カム軸
39 カム軸
40 圧縮ばね
41 連動片
42 連動片
43 操作片
44 操作片
W 金属極細線
D クランパ間距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線状の金属極細線を同一平面内で一対のクランパにより所定の長さで挟持する2つの開閉式クランパと、2つの開閉式クランパ間内側に配置され、2つの開閉式クランパのうち金属極細線の先端側の開閉式クランパの少なくとも片方のクランパに設けられ、金属極細線の線径よりも低い高さの切断刃と、2つの開閉式クランパを金属極細線の軸線方向にそって移動させ、2つの開閉式クランパのクランパ間距離を変更する移動手段とを具備し、2つの開閉式クランパにより金属極細線を直線状として挟持すると共に、金属極細線に切断刃により切り込みを形成し、移動手段によりクランパ間距離を拡大することにより、金属極細線を軸線方向に伸張して加工硬化させ、さらに伸張させることによって、切断刃による切り込み部分のくびれを破断起点として金属極細線を切断し、金属極細線の先端に加工硬化した直線部分を形成する、ことを特徴とするワイヤ切断ツール。
【請求項2】
少なくとも片方のクランパに対して切断刃の高さを調整自在に設ける、ことをことを特徴とする請求項1記載のワイヤ切断ツール。
【請求項3】
移動手段を、各開閉式クランパ取り付け用の2つのクランパ台に共通な直線ガイドと、少なくとも1つのクランパ台を直線ガイドにそって移動させる駆動手段とで構成する、ことを特徴とする請求項1または請求項2記載のデスクトップ式のワイヤ切断ツール。
【請求項4】
移動手段を、開閉操作可能な一対の手動操作レバーと、これらの手動操作レバーに連動し、2つの開閉式クランパを金属極細線の軸線方向にそって接離させる平行リンクと、この平行リンクによって応動して回動し、一対のクランパを開閉するカムとで構成する、ことを特徴とする請求項1または請求項2記載のハンディ式のワイヤ切断ツール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−131233(P2011−131233A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292561(P2009−292561)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】