説明

ワイヤ放電加工用ワイヤガイドの製作方法及び、製作されたワイヤガイド

【課題】
多結晶ダイヤモンド焼結体(PCD)製のワイヤ放電加工用のワイヤガイドを、工程少なく、精度高く、かつ、摺動案内するワイヤ電極に傷を付けないように仕上げて提供すること。
【解決手段】
ダイヤモンド基焼結体をCNC制御のワイヤ放電加工により所定の寸法、形状のワイヤガイド体に加工成形し、ワイヤ電極を接触させて案内する放電加工成形された摺動面を、大きい断面積で大きいエネルギの電子ビームをパルス状に短時間照射して表面改質をする手法により、突起状等に突出したダイヤモンド粒子の突出部を昇華して滑らかな摺動面に仕上げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ放電加工用ワイヤガイドの製作方法、および本発明方法によって製作されたワイヤガイドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
斯種のワイヤガイドとしては、ワイヤ電極との摺動部に於いてワイヤ電極に傷を付けにくく、ワイヤ電極の走行によって傷を付けられない程度の硬度を持ち、さらに電蝕問題がないよう電気絶縁性乃至所定以上の高抵抗性を有するものであることが必要で、これ等の要件を満たすものとしてサファイヤと所謂単結晶ダイヤモンドがあるが、後者は周知のように飛び抜けて高価であるため、前者の使用が多いのが実情である。
【0003】
ところで上記ワイヤ電極との摺動部をサファイヤで構成したものでは、硬度的に不十分なためワイヤ電極の走行により磨耗してすじ(溝)ができ、その部分をワイヤ電極が通るとワイヤ電極が削られてしまい、ワイヤ電極の金属成分が付着して積み重なってしまうビルトアップ現象が起こり、使用できなくなるという問題があった。
【0004】
このため上記サファイヤおよび高価な単結晶ダイヤモンドに替えてダイヤモンドの微細粒子を、結合材としてのマトリックス相を形成する合金材と混合し、所要の寸法、形状に圧縮成形して焼結した多結晶ダイヤモンド焼結体(PCD:Polycrystalline Diamond)、所謂焼結ダイヤモンドを使用する試みがあるが、実用化については寡聞にして聞かない。その不使用の理由としては、焼結ダイヤモンドが加工困難の割には、ワイヤガイドとしての使用利点が少ないことによるものと思われるが、特にワイヤ電極と接触状態で摺接案内する部分に露出している多数のダイヤモンド粒子の研磨仕上げが困難で、ワイヤ電極を傷付け、切断事故の頻発が避けられないからではないかと思惟される。
【0005】
また、上記のワイヤガイドの摺動部に用いる焼結ダイヤモンドとしては、工作機械のダイヤモンド工具として知られているように、微細粒のダイヤモンドと結合材としてのマトリックス相を形成する合金材との混合物を焼結したものであるから、焼結後にダイヤモンドの占める割合が多すぎると、ワイヤガイドとして成形するための加工が非常に困難になってしまうと言う問題があった。また、逆に、ダイヤモンドの占める割合が少な過ぎると、結合材の割合が多くなることにより導電性を有し、ワイヤガイドから漏電してしまうだけでなく、硬度的に不充分となるために前述のビルトアップ現象が起っていた。さらに、従来の焼結ダイヤモンドは、焼結が困難となるばかりでなく、ワイヤガイドとしての精度が悪く、また前述したように研磨仕上げが十分に出来ないためワイヤ電極に直接傷を付けやすいという問題があった。
【0006】
また、上述の焼結ダイヤモンドは、ダイヤモンド粒子を結合するためにマトリックス相を形成する合金材を含有している所からその含有量に応じた導電性乃至は通電性を有しており、このため脱イオン水等を加工媒体として使用するワイヤ放電加工機に用いると、焼結ダイヤモンドから成るワイヤガイド自体、或いはさらに前記ワイヤガイドの保持機構等の部位に於ける電蝕問題等があり、使用が回避されていたと思惟される。
【0007】
上記のような焼結ダイヤモンドをワイヤガイドに使用する際の問題点を解決するための技術として、
「少なくともワイヤ電極との摺動部を、平均結晶粒径が15μm以下のダイヤモンドを70重量%以上、90重量%未満と、Coを5重量%以上、20重量%以下と、上記Coの含有量より少なく、且つ2重量%以上、10重量%以下のWとからなり、体積固有抵抗値が10Ω・cm以上の多結晶ダイヤモンド焼結体により形成した」
と言う発明が開示されている(特許文献1)。
【0008】
【特許文献1】特開平6−55357号公報
【特許文献2】特開2003−291036号公報
【特許文献3】特開2003−111778号公報
【非特許文献1】宇野義幸、外4名「大面積パルス電子ビームによる金型の仕上げと表面改質」電気加工技術、社団法人電気加工学会、平成15年6月、第27巻、第86号、p.12−17
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記特許文献1のものは、その焼結ダイヤモンドはどちらかと言えば多結晶ダイヤモンド粒子の占める割合が多いものであるにもかかわらず、発明の課題である焼結ダイヤモンドの加工性につき、発明の構成との関係等に何等言及することなく、「加工が容易」、「やや困難」、「非常に困難」等に分別しているが、加工方法、手段等の開示がない状態で、直ちには納得が行かないものである。
【0010】
即ち、例えば、上記特許文献1のものの発明の対象となっている焼結ダイヤモンド中でダイヤモンドの含有量が最も少ない場合で重量百分比で70%ダイヤモンド―20%Co―10%Wであるから、この焼結ダイヤモンド体は、体積百分比では約88.7%ダイヤモンド―10%Co―2.3%Wと言うことであって、ダイヤモンドが体積的に殆んど90%近くを占めている訳であるから、ワイヤガイドとしての摺動部やロート状又はテーパ状導入部等の加工、形成が容易なはずがないのである。
【0011】
そして、同様な点は他にもあるが、例えば、焼結ダイヤモンドの電気絶縁性に関する測定評価を視ると、体積固有抵抗値が10Ω・cm以上と言うことであるが、例えば表1中の発明に該当する資料11又は12の場合、焼結ダイヤモンド同志のCoとW(20w%Co+10w%W組成)合金による繋がりは、断面の約12.3%の面積の領域に及んでいるのであって、多結晶ダイヤモンドの平均結晶粒径が15μmのものと言えども、上記体積固有抵抗値は信じ難いものである。即ち、吾人の知る限りでは、所謂標準的な多結晶ダイヤモンド焼結体(PCD)の電気抵抗は、約2〜3×10ohm・cmと言われている一方で、例えば、ダイヤモンド粒子の含有量と電気抵抗との関係につき、
製品 A B C D
平均粒径μm 4 5 25 4&25(複合)
含有率vol% 90 92 94 95
電気抵抗Ω・cm 1.5 2.0 4.0 4.5
と言うデータ等がカタログ等により開示されているのである。
そして、上記の資料11、12等は吾人によれば、殆んど例外なく通常の放電加工機による加工が可能なのである。
【0012】
前記多結晶ダイヤモンド焼結体の従来例によるワイヤガイドのワイヤ電極摺接部の穴と該穴の前後のロート状の導入及び導出部の製作加工について説明するに、先ずダイヤモンド又はサファイヤをコーン形状にした針に、ダイヤモンド粉を付けて超音波加工を行なう。この超音波加工は、針の形状を修正しながら、ダイヤモンド粉を粗粒子から段階を追って順次に仕上げ粒子に変えながらの工程を長時間を掛けて実行する。
【0013】
大方の形状、寸法に仕上げたところで、タングステン線等を用いて摺接部の穴に挿通し、ダイヤモンド粉を介在させ、挿通タングステン線を往復させる所謂ワイヤラッピング加工で仕上げて行く。このワイヤラッピング加工も、ダイヤモンド粉を粗粒子から段階的により小粒子へ、そして、仕上げ粒子へと変えながらの工程を可成りの長時間を掛けて行なう。
【0014】
そして、寸法、形状の測定とワイヤラッピング加工とを目的寸法に仕上がるまで繰り返して仕上げるものであるが、前述したように、ワイヤガイドへの製作加工の難易度と焼結ダイヤモンドの焼結、成形、仕上げ製作の難易度の問題、ワイヤガイドとしての精度の問題、及びワイヤ電極に傷を付け易い問題等の従来よりの問題点等は依然解消されていないものであった。そして、特にワイヤ電極と接触して摺動する摺動面部分に露出し、突出する多数のダイヤモンド粒子の多くを滑らかに研磨仕上げることは困難で、ワイヤガイドに使用可能なものは、中々得られなかった。
【0015】
そこで本発明は、焼結ダイヤモンドからのワイヤガイドの成形製作に、加工が比較的に容易で、高度に自動化が出来、他方仕上り精度が良く、ワイヤ電極の摺動保持がワイヤ電極に傷を付けないように仕上がる焼結ダイヤモンドからのワイヤガイドの製作方法及び該方法によって製作されたワイヤガイドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前述の本発明の目的は、(1)平均粒径がφ3μm以下のダイヤモンド粒子を体積比で80%以上と残部が結合材としてのマトリックス相の合金材とから成るダイヤモンド基焼結材のワイヤ放電加工用ワイヤガイド製作方法において、
前記ダイヤモンド基焼結材料のワイヤ電極を摺動案内する表面領域の形状成形加工と、これに続く寸法及び表面仕上げ加工とを、前記ダイヤモンド基焼結材料を被加工体とするコンピュータ数値制御のワイヤ放電加工により自動で順次に行なって仕上げた後、
前記ダイヤモンド基焼結材料のワイヤ放電加工仕上げ面に対し大面積で大きいエネルギの電子ビームをパルス状に短時間照射する表面改質法により処理して露出ダイヤモンド粒子の表面の突起、突出部を昇華除去して円滑表面を形成させるワイヤ放電加工用ワイヤガイドの製作方法とすることにより達成される。
【0017】
また、前述の本発明の目的は、(2)前記ワイヤ放電加工用のワイヤガイドが、2個のダイヤモンド基焼結材料を一体に面結合した割りガイドであって、前記ワイヤ放電加工の工程を一体に結合した状態で行なうのに対し、前記電子ビームパルスの照射工程は開いた状態として両者のワイヤ電極との摺動面に対して照射する前記(1)に記載のワイヤ放電加工用ワイヤガイドの製作方法とすることにより達成される。
【0018】
また、前述の本発明の目的は、(3)前記電子ビームのパルスが、電子ビーム発生部を収納する円筒状の電子銃部と、電子ビームの被照射体を設置するターゲットテーブルを収納する照射処理部とを気密に結合させた真空ハウジングであって、所望の希ガスが所定の低気圧状態に充填保持され、
前記電子銃部の一方の照射処理部側に設けられる環状アノードと、該環状アノードの軸線上の電子銃部の他側端部に設けられる大面積の電界放射カソードと、該カソードと前記アノード設置領域を含む電子銃部内に、前記アノードの軸線の周りを該軸線方向の磁力線で取り囲む磁場を形成し得るように電子銃の外周に同軸状に巻回して設けたソレノイドと、
前記電子銃部内に前記磁場を所定時間形成するように前記ソレノイドを所定の電流値で励磁する第1のパルス電源と、
前記低気圧ガス空間中に設けられた前記ターゲットテーブルと環状アノードとの間に、前記第1のパルス電源によるソレノイドの励磁が所定の磁場形成状態になるのを待つか検出して印加され、前記低圧充填希ガスの電離によりアノードプラズマを生成させるために接続される第2のパルス電源と、
前記第2のパルス電源による電圧印加開始後の前記アノードプラズマが生成した所定遅延時間後に前記ターゲットに対してカソードに立ち上がり時間が短い負の高電圧を電子ビームパルスの照射時間となる所定の時間幅の間印加する第3のパルス電源とを設けて得られる大きいエネルギのパルス状に短時間照射される電子ビームとする前記(1)または(2)に記載のワイヤ放電加工用ワイヤガイドの製作方法とすることにより達成される。
【0019】
また、前述の本発明の目的は、(4)平均粒径がφ3μm以下のダイヤモンド粒子を体積比で80%以上と残部が結合材としてのマトリックス相の合金材とから成るダイヤモンド基焼結材料のワイヤ放電加工用ワイヤガイドであって、
該ワイヤガイドは、前記ダイヤモンド基焼結材料のワイヤ電極を摺動案内する表面領域形状成形加工と、これに続く寸法及び表面仕上げ加工とが、前記ダイヤモンド基焼結材料を被加工体とするコンピュータ数値制御のワイヤ放電加工により自動で順次に加工されたワイヤ放電加工面を表面に有し、
さらに、前記ワイヤガイドは、ワイヤ電極を摺動案内する放電加工仕上げ面が、大面積で大きいエネルギの電子ビームをパルス状に短時間照射した改質面と為されているワイヤ放電加工用のワイヤガイドとすることにより達成されるものである。
【発明の効果】
【0020】
前述の本発明(1)によれば、体積百分比でダイヤモンド粒子が80%以上と言うダイヤモンドの含有量の高いダイヤモンド基焼結材料から成るワイヤガイドが、高度に自動化が出来た状態で、成形製作加工が比較的容易で仕上り精度も高いものが得られ、ワイヤ電極は摺動案内されることで傷が付くことがなく、精度高く長寿命のものが確実に得られるようになる。
【0021】
前述の本発明(2)によれば、ダイヤモンド基焼結材料から成るワイヤガイドの加工製作がさらに一段とやさしくなり、またワイヤ電極の摺動案内面の改質処理が容易化され、ワイヤ電極の傷つき問題が解消される。
【0022】
前述の本発明(3)によれば、PCDの表面改質に有効な手法の適用により、ワイヤ電極の摺動案内表面の改質処理が、確実かつ充分に行なわれるようになるものである。
【0023】
前述の本発明(4)によれば、ダイヤモンド製ダイスガイドや割りガイドに代えて使用可能なダイヤモンド基焼結材料から成る摺動案内特性の優れたワイヤガイドを、成形、製作容易に得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
平均粒径がφ0.5μmの超微粉といわれるダイヤモンド粒子を体積比で85%含有し、体積固有抵抗が5.0×10−3Ω・cmの多結晶ダイヤモンド焼結体φ3mm×t1.6mmを用意し、ワイヤガイド保持体のステンレスに取り付ける。
バイスにより保持させて、ダイヤ粉を供給介在させる超音波振動加工により焼結体10の両側からピアス(穿孔)加工10Aをする(〔図1〕(A))。
【0025】
穴が明いたら、ワイヤ放電加工機にて用意した細線ワイヤ20、例えば、φ0.05mmタングステン線を挿通し(〔図1〕(B))、作成したプログラムによりCNC(コンピュータ制御の数値制御)のワイヤ放電加工の段階に移行する。ワイヤ放電加工の段階は先ず、焼結体の上下両側に板厚方向の中心部を中央部として、ロート状のワイヤ電極導入部と排出部を加工形成する大テーパ部10Bの切り取り加工(〔図1〕(C))をワイヤ電極を所定の角度まで加工しながら傾けて行き、次いで傾けた状態での加工(テーパ加工)を行う。
【0026】
次いで、板厚方向中央部近くのワイヤ電極摺動案内部10D及びその上下前後の領域10Cを拡大させる中角度テーパのワイヤ放電加工をする(〔図1〕(D)).。
そして、最後にワイヤ電極を鉛直方向に垂直にして、前記板厚方向中央部10Dのワイヤ電極と接触して案内する摺動部を直線10Dに拡大形成する加工を行なう(〔図1〕(E))。
【0027】
以上のワイヤ放電加工による3段階の加工は、最初の大テーパ部の切り取り加工時の上方側の中子の除去管理やワイヤ電極の補給等に人手を要する外は、CNCにより殆んど自動で行なえるもので、慎重な加工条件の選択、設定による加工プログラムの作成が必要なもので、設定加工条件の1例を〔図2〕に示しておく。勿論、設定加工条件や使用ワイヤ電極の選択等によりワイヤ放電加工に要する時間の短縮は十分可能なものと信ずるが、上記した設定条件で加工液として脱イオン水を使用したときの全加工所要時間は約36時間であった。
【0028】
以上のワイヤ放電加工で焼結ダイヤモンド製の形状成形加工は終了した訳で、次に前述ワイヤ電極と接触して摺動案内する中央直線部及び該直線部からテーパ部へ掛けての円弧状表面部を研磨により滑らかとなるように仕上げる必要があるが、之に適用可能な研磨手段としては、前述従来例で説明した微小ダイヤモンド粒子を遊離砥粒とするワイヤラッピング法しかなく、しかし、これでは、摺動面に多数がマトリックス相から露出し、さらには突出等している多数のダイヤモンド粒子の頭を滑らかになるように確実に磨くことは出来ず、ワイヤガイドとしての使用には依然供せられないものである。
【0029】
所で、先に特許文献3及び非特許文献1として挙げておいたように、近時、従来の真空電子銃による高密度の細く絞った時間的に連続な電子ビームではなく、電離ガスのプラズマ中を導体として通過する断面積が大で大きいエネルギの電子ビームをパルス状に極めて短時間照射するようにする電子ビームの照射方法及び装置が開発され、物質に照射したときに深溶け込みなどの表面から深く加工作用をすることがなく、広い面積に一様な作用を与えるので表面の改質に利用されるようになりつつあると聞いたので、前述のワイヤ放電加工により加工成形して仕上げられた焼結ダイヤモンドから成るワイヤ電極の案内摺動面の仕上げ処理に適用した所、破格の好結果が得られたことから、本発明を完成させるに到ったものである。
【0030】
なお、ここで言う改質とは、各種金属部品、金型、工具、電気接続部品、金属医療機器、金属装飾品などの各種機械加工面や放電加工面などを対象として、物質の表面に付着する異物の除去、浄化、表面粗さの改善、微視的凹凸を平坦化して鏡面となすこと、及び急激な加熱と冷却による金属のアモルファス化、及び/又は耐食化などであるが、既に之に止まらずセラミックス製の物品の表面改質、アモルファス化等結晶改変などにも適用が広がっているものである。
【0031】
図3は、前述したような電子ビーム照射改質装置の従来例の原理的な構成を示す正断面図で、1はハウジング、6は環状アノード電極、8は前述カソード、Sは電子銃内加速空間、5は励磁ソレノイド、14はターゲットとして被照射体12を設置するテーブルである。一点破線部1―1以下の函体部分1Bには図示しないテーブル移動機構などが設けられる大きな広がりを持つ空間部であるのに対し、上部は筒状の電子銃部1Aである。電子銃1Aを含むハウジング1内の電離ガスの調整システムとしてスクロールポンプ2、ターボ分子ポンプ3が、流動調整弁2A、3Aを介して連結され、さらに図示しない圧力センサと共に作動する。室内は一旦真空状態とした後ボンベ15からバルブ4を介して希ガス、例えばArを充填し所定低気体圧状態(0.02〜0.1Pa)に保たれる。
【0032】
改質装置には最初に作動して電子銃部1A内にソレノイド5により磁場を作る励磁電源16、次に作動して環状陽極6付近にアノードプラズマ7を生成させると共に回路接続の関係からカソード8表面にカソードプラズマ9を生成させるコンデンサ充放電回路を含むパルス電源17、そしてアノードプラズマ7を通路とする電子ビーム11を放射して改質作用を実行する高電圧のビーム加速電源であって、コンデンサ充放電回路で構成されるパルス電源18が備えられえている。それぞれの電源は独立しており、絶縁物6A、8Aによりハウジング1から絶縁されており、各パルス電源16、17、18からの電圧印加タイミングチャートが本発明における設定作動条件とともに図4として示してある。
【0033】
ターゲット14上に設置された被照射12としての焼結ダイヤモンドのワイヤ放電加工による摺動案内面の位置から、カソード8前面縁迄の距離を181mm(電子銃部1A開口縁迄の距離は30mm)、ハウジング1内のアルゴンガスのガス圧を0.05Paとし、図4に記載の各電源16、17、18作動条件で電子ビームのパルス11(カロリイメータによれば、照射電子ビーム11のエネルギ密度は大凡6〜7J/cmと推定される)を5〜10秒間隔で両側から各5回照射したところ(〔図1〕(F))、摺動面に露出し、さらには突出したダイヤモンド粒子の微小凸部は、昇華して吹き飛んだらしく、滑らかな微小円墳状となり、ワイヤ電極が摺動しても傷や溝が付くことがなく、ワイヤガイドの摺動案内面として好適な高耐磨面に変換形成されていた。
【0034】
従って、かくすることによってワイヤ放電加工用のワイヤガイドとして使用可能な焼結ダイヤモンド製のワイヤガイドを得ることができ、それも自動化度が高くかつ加工精度も高いワイヤ放電加工で、工程少なく、かつ精度高く形状成形加工を行い、ワイヤ電極と接触して案内するワイヤ放電加工をした摺動案内面に対する仕上げとして、大きい断面積で大きいエネルギの電子ビームをパルス状に極めて短時間照射する表面改質処理を複数ショット繰り返して与えることで仕上げとするものであるから、量産が出来、精度の高い焼結ダイヤモンドのワイヤガイドの製作コストを押さえて得ることができると言う利点がある。
【0035】
焼結ダイヤモンドとして、ダイヤモンド粒子(PCD)として平均粒径をφ1μm前後程度の平均粒径がφ3mm以下で、体積固有抵抗が0.5×10−6Ω・cm〜10−2Ω・cm程度のものとした以外の点では、前述特許文献1の表1にNo.12及びNo.15を付して記載の組成の焼結ダイヤモンドを用いて、前記本発明製作方法により、ワイヤ放電加工による形状、寸法の成形加工と、ワイヤガイドの摺動案内面に対する大きいエネルギの電子ビームをパルス状に極短時間照射する表面改質の手法での仕上げをすることにより、ワイヤガイドとしてワイヤ電極に傷を付けず、単結晶ダイヤモンドのワイヤガイドに近い長寿命のワイヤガイドを得ることができた。
【0036】
以上は、焼結ダイヤモンド(PCD)製のワイヤガイドとして、ダイス状のワイヤガイドを製作した場合を例にとって説明したものであるが、前述本発明のワイヤガイドの製作方法は、その他のワイヤガイド、例えば、ワイヤ電極案内V溝形成ピースと平板との組み合わせから成る所謂V―平ワイヤガイドやダイス状ガイドを2つの部材の接合により形成する所謂ダイス割りガイドの製作にも同様に適用できるものである。
【0037】
特に前述後者の割りガイドの場合、ピアス加工を2つのピース部材の会合接合面を開いた状態でのワイヤ放電加工による喰い込み溝付け加工によって形成することにより加工の効率化を計ることができ、またワイヤ電極と接触する摺動案内面に対する電子ビーム照射の仕上げ加工は、2つのピースを一体に結合した状態での、ワイヤ放電加工による大角度テーパ加工、中角度テーパ加工、そして摺動部ストレート加工の後に、結合面を開いた状態として、断面積の大きい、大きいエネルギの電子ビームのパルスを前記摺動面に垂直に向い合わせて電子ビームを衝突させるように照射して改質するので、改質作用が十分で確実に行なわれるので、より確実に目的とする性能の焼結ダイヤモンド(PCD)製のワイヤガイドを製作することが出来ると言う利点がある。
【0038】
このように、焼結ダイヤモンド(PCD)をワイヤ放電加工のワイヤガイド用素材とする以上、ダイヤモンド粉末を遊離砥粒として相互に擦りながら研削する加工を、数多くの段取り替えを行いながら長時間にわたって行なう必要が必須であって、精度も悪いものであり、しかもワイヤ電極に傷を付けずに滑らかな摺動接触するガイド面を得ることは出来ず、単結晶ダイヤモンドのガイドに替えるワイヤガイドと為し得なかったのであるが、前述本発明によれば、必要に応じて1工程以上の仕上げワイヤ放電加工をするものとして、最小限度1工程のワイヤ放電加工により外形等の形状成形加工を行い、次いでワイヤガイドとしての最終仕上げを、ワイヤ放電加工されたワイヤ電極の摺動案内面に断面積が大きくて大きいエネルギの電子ビームをパルス状に極短時間照射という特殊な電子ビームを用いる加工をすることにより、突起状等に突出したダイヤモンド粒子の突出部を昇華して滑らか摺動面に改質仕上げると言うものであるから、量産し易くて形成、寸法、精度も従来例より高く仕上げられ、製作コストを押さえて寿命の長いワイヤガイドが得られるものである。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、多結晶ダイヤモンド焼結体を、ワイヤ放電加工のワイヤガイドとしての実用化の道を拓くものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のワイヤガイドの製作方法を模型的に示して説明するための説明図。
【図2】ワイヤ放電加工の工程に於ける設定加工条件例の表図。
【図3】本発明の摺動面に対する表面改質仕上げ工程で使用する電子ビーム表面改質装置の一実施例の正断面図。
【図4】図3の装置の複数ある電源の設定作動条件と電圧印加のタイミングチャートを示す図。
【符号の説明】
【0041】
1 ハウジング
1A 電子銃部
1B 加工処理函体部
2 スクロールポンプ
3 ターボ分子ポンプ
4 流量調整弁
5 ソレノイド
6 アノードプラズマ生成環状電極
7 アノードプラズマ
8 カソード
9 カソードプラズマ
10 多結晶ダイヤモンド基焼結体(PCD)
10A ピアス
10B 大テーパ部
10C 中角度テーパ部
10D直線部
11 電子ビームパルス
20 ワイヤ電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径がφ3μm以下のダイヤモンド粒子を体積比で80%以上と残部が結合材としてのマトリックス相の合金材とから成るダイヤモンド基焼結材のワイヤ放電加工用ワイヤガイド製作方法において、
前記ダイヤモンド基焼結材料のワイヤ電極を摺動案内する表面領域の形状成形加工と、これに続く寸法及び表面仕上げ加工とを、前記ダイヤモンド基焼結材料を被加工体とするコンピュータ数値制御のワイヤ放電加工により自動で順次に行なって仕上げた後、
前記ダイヤモンド基焼結材料のワイヤ放電加工仕上げ面に対し大面積で大きいエネルギの電子ビームをパルス状に短時間照射する表面改質法により処理して露出ダイヤモンド粒子の表面の突起、突出部を昇華除去して円滑表面を形成させることを特徴とするワイヤ放電加工用ワイヤガイドの製作方法。
【請求項2】
前記ワイヤ放電加工用のワイヤガイドが、2個のダイヤモンド基焼結材料を一体に面結合した割りガイドであって、前記ワイヤ放電加工の工程を一体に結合した状態で行なうのに対し、前記電子ビームパルスの照射工程は開いた状態として両者のワイヤ電極との摺動面に対して照射することを特徴とする前記請求項1に記載のワイヤ放電加工用ワイヤガイドの製作方法。
【請求項3】
前記電子ビームのパルスが、電子ビーム発生部を収納する円筒状の電子銃部と、電子ビームの被照射体を設置するターゲットテーブルを収納する照射処理部とを気密に結合させた真空ハウジングであって、所望の希ガスが所定の低気圧状態に充填保持され、
前記電子銃部の一方の照射処理部側に設けられる環状アノードと、該環状アノードの軸線上の電子銃部の他側端部に設けられる大面積の電界放射カソードと、該カソードと前記アノード設置領域を含む電子銃部内に、前記アノードの軸線の周りを該軸線方向の磁力線で取り囲む磁場を形成し得るように電子銃の外周に同軸状に巻回して設けたソレノイドと、
前記電子銃部内に前記磁場を所定時間形成するように前記ソレノイドを所定の電流値で励磁する第1のパルス電源と、
前記低気圧ガス空間中に設けられた前記ターゲットテーブルと環状アノードとの間に、前記第1のパルス電源によるソレノイドの励磁が所定の磁場形成状態になるのを待つか検出して印加され、前記低圧充填希ガスの電離によりアノードプラズマを生成させるために接続される第2のパルス電源と、
前記第2のパルス電源による電圧印加開始後の前記アノードプラズマが生成した所定遅延時間後に前記ターゲットに対してカソードに立ち上がり時間が短い負の高電圧を電子ビームパルスの照射時間となる所定の時間幅の間印加する第3のパルス電源とを設けて得られる大きいエネルギのパルス状に短時間照射される電子ビームとすることを特徴とする前記請求項1、または2に記載のワイヤ放電加工用ワイヤガイドの製作方法。
【請求項4】
平均粒径がφ3μm以下のダイヤモンド粒子を体積比で80%以上と残部が結合材としてのマトリックス相の合金材とから成るダイヤモンド基焼結材料のワイヤ放電加工用ワイヤガイドであって、
該ワイヤガイドは、前記ダイヤモンド基焼結材料のワイヤ電極を摺動案内する表面領域形状成形加工と、これに続く寸法及び表面仕上げ加工とが、前記ダイヤモンド基焼結材料を被加工体とするコンピュータ数値制御放電加工により自動で順次に加工された放電加工面を表面に有し、
さらに、前記ワイヤガイドは、ワイヤ電極を摺動案内する放電加工仕上げ面が、大面積で大きいエネルギの電子ビームをパルス状に短時間照射による改質面と為されていることを特徴とするワイヤ放電加工用のワイヤガイド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−152530(P2007−152530A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−354598(P2005−354598)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(000132725)株式会社ソディック (197)
【Fターム(参考)】