説明

ワーク研削装置、ワーク研削方法、エンジンバルブ研削装置、及びエンジンバルブ研削方法

【課題】同一の設備で、短時間のうちに粗研削から仕上げ研削までを行って高精度な仕上げ面を得ることができるワーク研削装置、ワーク研削方法、エンジンバルブ研削装置、及びエンジンバルブ研削方法を提供する。
【解決手段】ワーク2を把持して研削砥石19によりワーク2の被加工面4Cを研削するワーク研削装置3において、前記研削砥石19が、一の砥石体の研削面25に粗研削を行う粗研削領域25C1と仕上げ研削を行う仕上げ研削領域25C2とを区別して備え、粗研削領域25C1を被加工面4Cに当接させて、トラバース加工により被加工面4Cの粗研削を実施し、仕上げ研削領域25C2を粗研削実施後の被加工面4Cに当接させて、プランジ加工により被加工面4Cの仕上げ研削を実施する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一の設備で粗研削から仕上げ研削までを行う研削技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等のエンジンに用いられるエンジンバルブの製造ラインとして、複数の加工設備を工程順に並べ、エンジンバルブを工程順に流動させることにより、各種の加工を行う製造ラインが用いられている。このエンジンバルブ製造ラインにおける研削加工には、エンジンバルブの一端部に対するコッター溝の研削、他端部に対する傘部の粗研削およびフェース面の仕上げ研削が含まれており、これらの研削加工にはコレットチャックを備えた研削装置を用いるのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
上記研削装置によれば、エンジンバルブの両端部を同時に加工できるので、コッター溝研削と傘部の粗研削とを一工程に集約して設備費用を低減できる。しかし、コレットチャックを備えた研削装置には芯出し精度がやや甘いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−47148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、出願人は、芯出し精度の改善のため、いわゆる中空チャックを備えた研削装置を提案した。しかし、中空チャックを備えた研削装置では、エンジンバルブの一端部が覆われてしまうため、コッター溝の研削と傘部の粗研削とを同一工程に集約できず、コレットチャックを使用した場合と比較して、エンジンバルブ製造ラインの工程数が増加するという問題がある。
この問題点は、傘部の粗研削とフェース面の仕上げ研削とを、同一工程に集約することにより解決できる。しかし、フェース面は傘部の一部であり、同時に加工することができないので、生産効率と加工精度との両立が難しいという問題がある。
なお、このような同一設備で粗研削から仕上げ研削までを行う際の生産効率と加工精度との両立に係る問題は、エンジンバルブ研削装置だけではなく、クランクシャフトやクランクピンなどのワーク研削装置に共通するものである。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、同一の設備で、短時間のうちに粗研削から仕上げ研削までを行って高精度な仕上げ面を得ることができるワーク研削装置、ワーク研削方法、エンジンバルブ研削装置、及びエンジンバルブ研削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、ワークを把持して研削砥石によりワークの被加工面を研削するワーク研削装置において、前記研削砥石が、一の砥石体の研削面に粗研削を行う粗研削領域と仕上げ研削を行う仕上げ研削領域とを区別して備え、粗研削領域を被加工面に当接させて、トラバース加工により被加工面の粗研削を実施し、仕上げ研削領域を粗研削実施後の被加工面に当接させて、プランジ加工により被加工面の仕上げ研削を実施することを特徴とする。
【0007】
本発明では、一の砥石体の研削面に粗研削領域と仕上げ研削領域とを区別して備え、ワークの被加工面に対し粗研削を行うときには、粗研削領域を用いてトラバース加工し、粗研削実施後の被加工面に対し仕上げ研削を行うときには、粗研削領域と区別して設けられた仕上げ研削領域を使用してプランジ加工するので、粗研削時には、砥石の摩耗を抑制しながらも砥石周速度を高速化して研削能率を向上できるうえ、仕上げ研削時には、粗研削時の砥石摩耗による仕上げ面精度低下を防止できる。したがって、同一の設備で、短時間のうちに粗研削から仕上げ研削までを行って高精度な仕上げ面を得ることができる。
【0008】
前記粗研削領域が前記ワークの被加工面より幅広に設けられていても良い。
粗研削のときにはワークの被加工面より幅広の粗研削領域の全領域を使用してトラバース加工できるので、粗研削領域の摩耗を抑えることができる。
前記研削砥石が電着砥石であっても良い。
複雑な形状のワークに対応した複雑形状の研削面を容易に形成できるうえ、研削面が摩耗したときには再び電着して再利用できるので、コストを抑制できる。
前記粗研削領域と前記仕上げ研削領域に粒径が異なる砥粒が電着されていても良い。
粗研削時の研削能率をより一層向上させるとともに、仕上げ研削時に仕上げ面精度をより一層向上できる。
【0009】
また、本発明は、ワークの被加工面に対し研削砥石により粗研削および仕上げ研削を連続して行う被加工面連続研削過程を備えたワーク研削方法において、前記被加工面連続研削過程では、一の砥石体の研削面に粗研削を行う粗研削領域と仕上げ研削を行う仕上げ研削領域とを区別して備えた研削砥石を用いて、粗研削領域を被加工面に当接させて、トラバース加工により被加工面の粗研削を実施し、仕上げ研削領域を粗研削実施後の被加工面に当接させて、プランジ加工により被加工面の仕上げ研削を実施することを特徴とする。
【0010】
本発明では、一の砥石体の研削面に粗研削領域と仕上げ研削領域とを区別して備えた研削砥石を用いて、粗研削領域をワークの被加工面に当接させて、トラバース加工により被加工面の粗研削を実施した後、連続して、粗研削領域と区別して設けられた仕上げ研削領域を粗研削実施後の被加工面に当接させて、プランジ加工により被加工面の仕上げ研削を実施する。これにより、粗研削時には、砥石の摩耗を抑制しながらも砥石周速度を高速化して研削能率を向上できるうえ、仕上げ研削時には、粗研削時の砥石摩耗による仕上げ面精度低下を防止できる。したがって、同一の設備で、短時間のうちに同一の被加工面に対して粗研削から仕上げ研削までを連続して実施して高精度な仕上げ面を得ることができる。
【0011】
また、本発明は、エンジンバルブのステム部を把持して研削砥石によりエンジンバルブの傘部を研削するエンジンバルブ研削装置において、前記研削砥石が、一の砥石体の研削面に粗研削を行う粗研削領域と仕上げ研削を行う仕上げ研削領域とを区別して備え、粗研削領域を傘部に当接させて、トラバース加工により傘部の粗研削を実施し、仕上げ研削領域を粗研削実施後の傘部のフェース面に当接させて、プランジ加工により傘部のフェース面の仕上げ研削を実施することを特徴とする。
【0012】
本発明では、一の砥石体の研削面に粗研削領域と仕上げ研削領域とを区別して備え、傘部に対し粗研削を行うときには、粗研削領域を用いてトラバース加工し、粗研削実施後の傘部のフェース面に対し仕上げ研削を行うときには、粗研削領域と区別して設けられた仕上げ研削領域を使用してプランジ加工するので、粗研削時には、砥石の摩耗を抑制しながらも砥石周速度を高速化して研削能率を向上できるうえ、仕上げ研削時には、粗研削時の砥石摩耗による仕上げ面精度低下を防止できる。したがって、同一の設備で、エンジンバルブの傘部に対し短時間のうちに粗研削から仕上げ研削までを行って、高精度な仕上がりのフェース面を得ることができる。
【0013】
また、本発明は、エンジンバルブの傘部に対し研削砥石により粗研削および仕上げ研削を連続して行う傘部連続研削過程を備えたエンジンバルブ研削方法において、前記傘部連続研削過程では、一の砥石体の研削面に粗研削を行う粗研削領域と仕上げ研削を行う仕上げ研削領域とを区別して備えた研削砥石を用いて、粗研削領域を傘部に当接させて、トラバース加工により傘部の粗研削を実施し、仕上げ研削領域を粗研削実施後の傘部のフェース面に当接させて、プランジ加工により傘部のフェース面の仕上げ研削を実施することを特徴とする。
【0014】
本発明では、傘部の粗研削およびフェース面の仕上げ研削を同一の設備で短時間のうちに行うことができるので、傘部の粗研削およびフェース面の仕上げ研削を一つの工程に集約することができる。これにより、コッター溝の研削、傘部の粗研削、フェース面の仕上げ研削の3種類の加工を、中空チャックを使用して芯出し精度を高めたコッター溝研削工程と、中空チャックを使用しつつ傘部の粗研削とフェース面の仕上げ研削とを集約した傘部研削工程との2工程で行うことができる。
したがって、コッター溝研削、傘部の粗研削、フェース面の仕上げ研削の3種類の加工を、コレットチャックを使用してコッター溝の研削と傘部の粗研削とを同時に行う複合工程と、コレットチャックを使用したフェース面の仕上げ研削工程との2工程で行うエンジンバルブ製造ラインと比較して、工程増加を防止しながら、加工精度を向上することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、一の砥石体の研削面に粗研削領域と仕上げ研削領域とを区別して備え、ワークの被加工面に対し粗研削を行うときには、粗研削領域を用いてトラバース加工し、粗研削実施後の被加工面に対し仕上げ研削を行うときには、粗研削領域と区別して設けられた仕上げ研削領域を使用してプランジ加工するので、粗研削時には、砥石の摩耗を抑制しながらも砥石周速度を高速化して研削能率を向上できるうえ、仕上げ研削時には、粗研削時の砥石摩耗による仕上げ面精度低下を防止できる。したがって、同一の設備で、短時間のうちに粗研削から仕上げ研削までを行って高精度な仕上げ面を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係るエンジンバルブ研削装置の外観構成を示す図である。
【図2】エンジンバルブ研削装置の要部拡大図である。
【図3】(A)はエンジンバルブの傘部の拡大図、(B)は傘部の要部拡大図である。
【図4】研削砥石の要部拡大図である。
【図5】エンジンバルブ研削装置の動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明では、本発明に係るワーク研削装置の一態様として、自動車用エンジンのエンジンバルブの製造ラインに適用されるエンジンバルブ研削装置、とくにエンジンバルブの傘部を研削する研削装置を説明する。
【0018】
例えば、自動車用エンジンのエンジンバルブの製造ラインでは、複数の加工設備を工程順に並べ、コッター溝を研削するコッター溝研削工程や、傘部を研削する傘部研削工程などを含んで、ワークを工程順に流動させることにより、ステム部及びエンジンバルブの傘部などに対する研削加工や熱処理などの各種の加工が行われている。
【0019】
以下、図1、図2を参照し、傘部研削工程に設けられたエンジンバルブ研削装置3について説明する。エンジンバルブ研削装置3は、エンジンバルブ2(図2参照)を研削加工する加工ユニット5と、エンジンバルブ2を搬送する搬送ユニット(不図示)と、エンジンバルブ研削装置3全体を制御する制御ユニット7とを備えている。
加工ユニット5は、基台9と、砥石部11と、ワーク位置調整部13と、ワーク把持/回転部15と、を備えている。
基台9は、砥石部11、ワーク位置調整部13、およびワーク把持/回転部15を支持するものであり、傘部研削工程の床面に固定されている。
【0020】
砥石部11は、砥石スピンドル17と、研削砥石19と、を備えている。
砥石スピンドル17は、基台9上に固定されたケース体21と、このケース体21に回転自在に軸支され図1中でZ方向に延びる主軸(不図示)を備えている。この主軸(不図示)は、砥石駆動源(不図示)の駆動により回転軸線23周りに回転する。
研削砥石19は、側面19Aに研削面25を備えた略円盤状に形成され、主軸(不図示)に同軸に固定されている。すなわち、研削砥石19は、砥石駆動源(不図示)の駆動により回転軸線23周りに回転する。なお、本実施形態では、研削砥石19として、エンジンバルブ2の傘部4に対応した複雑形状の研削面25を容易に形成でき、研削面25が摩耗しても再利用できるように、電着砥石が用いられている。
【0021】
ワーク位置調整部13は、クロススライド27と、X方向アクチュエータ29と、Z方向アクチュエータ31とを備え、ワーク把持/回転部15を移動させてエンジンバルブ2の位置を調整するものである。クロススライド27は、基台9上に設けられ、図1中、X方向すなわちX1方向またはX2方向、および、Z方向すなわちZ1方向またはZ2方向に移動可能に構成されている。X方向アクチュエータ29はクロススライド27をX方向に移動させるものであり、Z方向アクチュエータ31はクロススライド27をZ方向に移動させるものである。
【0022】
ワーク把持/回転部15は、チャックスピンドル33と、チャック35とを備え、エンジンバルブ2のステム部6を把持して回転させるものである。チャックスピンドル33は、クロススライド27上に固定されたケース体37と、このケース体37に回転自在に軸支され図1中でZ方向に延びる主軸39を備えている。この主軸39は、チャック駆動源(不図示)の駆動により回転軸線41周りに回転する。チャック35は、主軸39に同軸に固定され、チャック駆動源(不図示)の駆動により主軸39と一体に回転軸線41周りに回転する。チャック35は図2に示すような中空チャックであり、芯出し精度が高められている。
【0023】
なお、本実施形態では、コッター溝研削工程に設けられたエンジンバルブ研削装置(不図示)は、チャック35と同様のチャック(不図示)を備えている。チャック(不図示)は中空チャックであり、エンジンバルブ2の一端を覆ってエンジンバルブ2を把持する。中空チャックを用いた場合、エンジンバルブ2の両端部の同時加工、例えばコッター溝の研削と傘部4の粗研削とを同時に行うことができなくなる一方で、コレットチャックを用いた場合と比較して芯出し精度を高めることができる。
【0024】
エンジンバルブ研削装置3は、研削砥石19を回転軸線23周りに回転させるとともに、エンジンバルブ2のステム部6をチャック35で把持して回転軸線41周りに回転させ、ワーク位置調整部13を動作させてエンジンバルブ2の位置を調整し、エンジンバルブ2の傘部4を、研削砥石19の側面19Aに設けられた研削面25に当接させることでエンジンバルブ2の傘部4を研削する。
【0025】
ところで、エンジンバルブ2の傘部4は、図3(A)、(B)に示すように、R部4A、外周部4B、およびフェース面4Cを有しており、エンジンバルブ2を製造する際には、R部4A、外周部4B、およびフェース面4Cの粗研削と、フェース面4Cの仕上げ研削とが行われる。
ここで、本実施形態では、エンジンバルブ研削装置3は、上述したエンジンバルブ2の傘部4に対する研削加工、すなわちR部4A、外周部4B、およびフェース面4Cの粗研削と、フェース面4Cの仕上げ研削とを一つの研削砥石19で行うことができるようになっている。
【0026】
より詳細には、研削砥石19の側面19Aには、図2に示すように、断面凹形状に形成された研削面25が設けられている。この研削面25は、一側面であるR部研削面25Aと、底面である外周部研削面25Bと、他側面であるフェース面研削面25Cとから構成される。R部研削面25Aは、R部4Aの設計形状に沿うように形成され、R部4Aの研削に用いられる。外周部研削面25Bは、外周部4Bの設計形状に沿うように形成され、外周部研削に用いられる。フェース面研削面25Cは、フェース面4Cの設計形状に沿うように形成され、フェース面4Cの研削に用いられる。
【0027】
しかし、一つの研削砥石19の同一のフェース面研削面25Cで粗研削と仕上げ研削との両方を行うようにすると、粗研削によるフェース面研削面25Cの摩耗により、仕上げ研削時の仕上げ面精度が悪化しやすいという問題がある。
そこで、本実施形態では、仕上げ面精度確保のため、粗研削と仕上げ研削との両方に使用されるフェース面研削面25Cに、粗研削に使用する領域と仕上げ研削に用いる領域とが区別して設けられている。
【0028】
具体的には、図4に示すように、研削砥石19のフェース面研削面25Cは、粗研削だけに使用される粗研削領域25C1と、仕上げ研削だけに使用される仕上げ研削領域25C2とを備えている。
また、粗研削領域25C1と、仕上げ研削領域25C2とには、それぞれ粒径の異なる砥粒が電着されている。本実施形態では、粗研削領域25C1に粒径の大きなCBN砥粒を電着することで粗研削時の研削能率向上を図り、仕上げ研削領域25C2に粒径の小さなCBN砥粒を電着し、更に砥粒先端高さを揃える処理をすることで仕上げ面精度の向上を図っている。
【0029】
また、本実施形態では、砥石周速度を高速化して研削能率を向上できるように、R部4A、外周部4B、およびフェース面4Cに対してトラバース加工可能になっている。また、仕上げ面精度を向上できるように、フェース面4Cに対してプランジ加工可能になっている。
本明細書では、トラバース加工とは、ワークおよび砥石をともに回転させた状態で、ワークの被加工面を砥石の研削面と当接させ、ワークの被加工面と砥石の研削面との接線方向にワークをスライド移動させてワーク送りを行いながら、当該接線と交差しワークの被加工面と垂直な方向にワークを移動させて切り込みを行う研削加工であると定義する。
【0030】
例えば、図4に鎖線示するように、フェース面4Cの粗加工においては、エンジンバルブ2および研削砥石19をともに回転させた状態で、フェース面4Cを研削砥石19のフェース面研削面25Cと当接させ、ワーク位置調整部13のX2方向およびZ1方向への複合動作によりエンジンバルブ2を移動させる。
これにより、フェース面4Cとフェース面研削面25Cとの接線45の方向(図4中矢印47で示す方向)にエンジンバルブ2をスライド移動させてワーク送りを行いながら、当該接線45と交差しフェース面4Cと垂直な方向(図4中矢印49で示す方向)にエンジンバルブ2を移動させて切り込みを行うトラバース加工が可能となっている。
【0031】
一方、本明細書では、プランジ加工とは、ワークおよび砥石をともに回転させた状態で、ワークの被加工面を砥石の研削面と当接させ、ワークの被加工面と砥石の研削面との接線方向にはワークをほとんど移動させることなく、当該接線と交差しワークの被加工面と垂直な方向にワークを移動させて切り込みを行う研削加工であると定義する。
例えば、図4に示すように、フェース面4Cの仕上げ加工においては、エンジンバルブ2および研削砥石19をともに回転させた状態で、フェース面4Cを研削砥石19の研削面25と当接させ、ワーク位置調整部13のZ1方向への動作によりエンジンバルブ2を移動させる。
これにより、フェース面4Cと研削面25との接線45の方向(図4中矢印47で示す方向)にはエンジンバルブ2をほとんどスライド移動させることなく、当該接線45と交差しフェース面4Cと垂直な方向(図4中矢印49で示す方向)に切り込みを行うプランジ加工が可能となっている。
【0032】
また、本実施形態では、粗研削による粗研削領域25C1の摩耗を抑制するように、粗研削領域25C1の幅L1は、フェース面4Cの最大幅よりも幅広に、例えば8mm幅に設定され、粗研削のときには、この幅広の粗研削領域25C1全域を使用してトラバース加工可能になっている。
本明細書では、フェース面4Cの最大幅とは、エンジンバルブ製造ラインで製造する複数種類のエンジンバルブ2のフェース面4Cの幅のうち、最大の幅と定義する。
一方、仕上げ研削領域25C2の幅L2は、フェース面4Cの最大幅と同等に、例えば4mm幅に設定されている。これにより、エンジンバルブ製造ラインで製造する複数種類のエンジンバルブ2のフェース面4Cを、仕上げ研削領域25C2だけを使用してプランジ加工可能になっている。
【0033】
以上の構成の下、傘部研削工程に設けられたエンジンバルブ研削装置3は、エンジンバルブの傘部4のR部4A、外周部4B、およびフェース面4Cに対する粗研削と、傘部4のフェース面4Cの仕上げ研削とを連続して行う。
【0034】
以下に、エンジンバルブ研削装置3の動作を説明する。
まず、エンジンバルブ製造ラインの上流側から、エンジンバルブ2が流動してきたとき、搬送ユニット(不図示)により、エンジンバルブ2をチャック35まで搬送し、チャック35でエンジンバルブ2のステム部6を把持する。このとき、図5Aで鎖線示するように、エンジンバルブ2の傘部4は研削砥石19から離間している。
次に、砥石駆動源(不図示)で研削砥石19を高速回転させ、チャック駆動源(不図示)を駆動してエンジンバルブ2を回転させる。
【0035】
次に、ワーク位置調整部13により、エンジンバルブ2をX1方向に移動させ、図5Aで破線示するように、エンジンバルブ2のR部4Aを研削砥石19のR部研削面25Aに当接させる。このとき、R部4AとR部研削面25Aとは、接線51上で当接する。
ついで、ワーク位置調整部13によりエンジンバルブ2をX1方向およびZ1方向の複合方向に移動させてR部4Aの粗研削を行う。具体的には、エンジンバルブ2を、接線51と交差しR部4Aと垂直な方向(図5A中矢印55で示す方向)に移動させて切り込みを行いながら、接線51の方向(図5A中矢印57で示す方向)に移動させてワーク送りを行い、図5Aで実線示する位置まで到達させ、R部4Aを所定の取り代だけ研削する。
【0036】
続いて、ワーク位置調整部13により、エンジンバルブ2を図5Bで破線示する位置に移動させ、エンジンバルブ2の外周部4Bを研削砥石19の外周部研削面25Bに当接させる。このとき、外周部4Bと外周部研削面25Bとは、接線52上で当接する。
ついで、ワーク位置調整部13によりエンジンバルブ2をX1方向およびZ1方向の複合方向に移動させて外周部4Bの粗研削を行う。すなわち、エンジンバルブ2を、接線52と交差し外周部4Bと垂直な方向(図5B中矢印59で示す方向)に移動させて切り込みを行いながら、接線方向(図5B中矢印61で示す方向)に移動させてワーク送りを行い、図5Bで実線示する位置まで到達させ、外周部4Bを所定の取り代だけ研削する。この加工も、上述したトラバース加工であり、切り込み量が大きく研削砥石19の周速度が高速の場合にも外周部研削面25Bの摩耗が抑制される。
【0037】
続いて、ワーク位置調整部13により、エンジンバルブ2を図5Cで破線示する位置に移動させ、エンジンバルブ2のフェース面4Cを研削砥石19のフェース面研削面25Cの粗研削領域25C1に当接させる。このとき、フェース面4Cと粗研削領域25C1とは、接線53上で当接する。
ついでワーク位置調整部13により、エンジンバルブ2をX2方向およびZ1方向の複合方向に移動させてフェース面4Cの粗研削を行う。すなわち、エンジンバルブ2を、接線53と交差しフェース面4Cと垂直な方向(図5C中矢印63で示す方向)に移動させて切り込みを行いながら、接線方向(図5C中矢印65で示す方向)に移動させてワーク送りを行い、図5Cで実線示する位置まで到達させ、フェース面4Cを所定の取り代だけ研削する。この加工も、上述したトラバース加工であり、切り込み量が大きく研削砥石19の周速度が高速の場合にも粗研削領域25C1の摩耗が抑制される。
【0038】
次に、エンジンバルブ2の回転数を低下させた後、ワーク位置調整部13により、エンジンバルブ2を図5Dで実線示する位置に移動させ、粗研削実施後のフェース面4Cをフェース面研削面25Cの仕上げ研削領域25C2に当接させる。このとき、フェース面4Cと仕上げ研削領域25C2とは、接線53上で当接する。
ついでワーク位置調整部13により、エンジンバルブ2をZ1方向に移動させてフェース面4Cの仕上げ研削を行う。すなわち、エンジンバルブ2を、Z1方向に移動させることにより、図5D中矢印63で示す接線方向にはほとんどスライド移動させることなく、接線53と交差しフェース面4Cと垂直な方向(図5D中矢印65で示す方向)に移動させて切り込みを行い、フェース面4Cを所定の取り代だけ研削する。
この加工は、上述したプランジ加工であり、エンジンバルブ2の周速度を低速とし且つ切り込み量を少なくすることで仕上げ面精度が向上する。
【0039】
次に、ワーク位置調整部13により、エンジンバルブ2を研削砥石19から離間させ、図5Dで鎖線示する位置に移動させる。次いで、チャック駆動源(不図示)の駆動を停止してエンジンバルブ2の回転を停止する。そして、ワーク搬送装置(不図示)でエンジンバルブ2を把持するとともにチャック35による把持を解除し、チャック35からエンジンバルブ2を取り外してエンジンバルブ製造ラインの下流側への払い出しを行う。
【0040】
以上説明したように、本実施形態では、エンジンバルブ研削装置3の一つの研削砥石19が、研削面25に、粗研削を行う粗研削領域25C1と仕上げ研削を行う仕上げ研削領域25C2とを区別して備えている。そして、フェース面4Cを粗研削領域25C1に当接させて、エンジンバルブ2をX,Z方向に複合送りしながらトラバース加工によりフェース面4Cの粗研削を実施し、仕上げ研削領域25C2を粗研削実施後のフェース面4Cに当接させて、Z方向送りしながらプランジ加工によりフェース面4Cの仕上げ研削を実施する。これにより、フェース面4Cの粗研削を行うときには、研削砥石19の摩耗を抑制しながらも研削砥石19の周速度を高速化して研削能率を向上できるうえ、仕上げ研削を行うときは粗研削によるダメージを受けない仕上げ研削領域25C2を使用して精度良く加工することができる。したがって、一つの研削砥石19を備えたエンジンバルブ研削装置3で、短時間で粗研削から仕上げ研削までを行って高精度な仕上げ面を得ることができる。
【0041】
また、本実施形態では、粗研削領域25C1がエンジンバルブ2のフェース面4Cより幅広に設けられており、粗研削のときは幅広の粗研削領域25C1の全域を使用してトラバース加工により粗研削を行うので、粗研削領域25C1の摩耗を抑えることができる。
また、本実施形態では、研削砥石19が電着砥石であるため、エンジンバルブ2の傘部4に対応した複雑形状の研削面25を容易に形成できるうえ、研削面25が摩耗したときには再び電着して再利用できるので、コストを抑制できる。
また、本実施形態では、粗研削領域25C1に粒径の大きな砥粒が電着され、仕上げ研削領域25C2に粒径が小さな砥粒が電着されているので、粗研削時の研削能率をより向上させるとともに、仕上げ研削時に仕上げ面精度をより一層向上できる。
【0042】
また、本実施形態では、傘部4の粗研削およびフェース面4Cの仕上げ研削を同一のエンジンバルブ研削装置3で短時間のうちに行うことができるので、傘部4の粗研削およびフェース面4Cの仕上げ研削を一つの傘部研削工程に集約することができる。これにより、コッター溝の研削、傘部4の粗研削、フェース面4Cの仕上げ研削の3種類の加工を、中空チャックを使用して芯出し精度を高めたコッター溝研削工程と、中空チャックであるチャック35を使用しつつ傘部4の粗研削とフェース面4Cの仕上げ研削とを集約した傘部研削工程との2工程で行うことができる。
したがって、コッター溝研削、傘部4の粗研削、フェース面4Cの仕上げ研削の3種類の加工を、コレットチャックを使用してコッター溝の研削と傘部4の粗研削とを同時に行う複合工程と、コレットチャックを使用したフェース面4Cの仕上げ研削工程との2工程で行うエンジンバルブ製造ラインと比較して、工程増加を防止して設備投資を削減しながら、加工精度を向上することができる。
【0043】
なお、上述した実施の形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の範囲内で任意に変形が可能である。例えば、上述した実施の形態では、研削砥石19として電着砥石を用いたが、研削砥石19の種類はこれに限定されない。また、上述した実施の形態では、粗研削領域25C1に粒径の大きな砥粒が電着され、仕上げ研削領域25C2に粒径が小さな砥粒が電着された構成を例示したが、粗研削領域25C1に粒径の小さな砥粒が電着され、仕上げ研削領域25C2に粒径の大きな砥粒を電着しても良いし、粗研削領域25C1および仕上げ研削領域25C2に同じ粒径の砥粒を電着しても良い。
【0044】
また、上述した実施形態では、粗研削領域25C1および仕上げ研削領域25C2に同じ材質の砥粒すなわちCBN砥粒を電着した構成を例示したが、砥粒の材質はこれに限定されず、例えばアルミナ系砥粒や炭化ケイ素系砥粒やダイヤモンド砥粒などを用いても良いし、粗研削領域25C1および仕上げ研削領域25C2に材質の異なる砥粒を電着しても良い。この構成によれば、エンジンバルブ2の材質が異なる場合であっても、粗研削時には研削能率よく研削し、仕上げ研削時には精度よく研削することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 エンジンバルブ製造ライン
2 エンジンバルブ(ワーク)
3 エンジンバルブ研削装置(ワーク研削装置)
4 傘部(被加工面)
4C フェース面
6 ステム部
L1 幅
L2 幅
19 研削砥石
25 研削面
25C フェース面研削面
25C1 粗研削領域
25C2 仕上げ研削領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを把持して研削砥石によりワークの被加工面を研削するワーク研削装置において、
前記研削砥石が、一の砥石体の研削面に粗研削を行う粗研削領域と仕上げ研削を行う仕上げ研削領域とを区別して備え、
粗研削領域を被加工面に当接させて、トラバース加工により被加工面の粗研削を実施し、仕上げ研削領域を粗研削実施後の被加工面に当接させて、プランジ加工により被加工面の仕上げ研削を実施することを特徴とするワーク研削装置。
【請求項2】
前記粗研削領域が前記ワークの被加工面より幅広に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のワーク研削装置。
【請求項3】
前記研削砥石が電着砥石であることを特徴とする請求項1又は2に記載のワーク研削装置。
【請求項4】
前記粗研削領域と前記仕上げ研削領域に粒径が異なる砥粒が電着されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のワーク研削装置。
【請求項5】
ワークの被加工面に対し研削砥石により粗研削および仕上げ研削を連続して行う被加工面連続研削過程を備えたワーク研削方法において、
前記被加工面連続研削過程では、一の砥石体の研削面に粗研削を行う粗研削領域と仕上げ研削を行う仕上げ研削領域とを区別して備えた研削砥石を用いて、粗研削領域を被加工面に当接させて、トラバース加工により被加工面の粗研削を実施し、仕上げ研削領域を粗研削実施後の被加工面に当接させて、プランジ加工により被加工面の仕上げ研削を実施することを特徴とするワーク研削方法。
【請求項6】
エンジンバルブのステム部を把持して研削砥石によりエンジンバルブの傘部を研削するエンジンバルブ研削装置において、
前記研削砥石が、一の砥石体の研削面に粗研削を行う粗研削領域と仕上げ研削を行う仕上げ研削領域とを区別して備え、
粗研削領域を傘部に当接させて、トラバース加工により傘部の粗研削を実施し、仕上げ研削領域を粗研削実施後の傘部のフェース面に当接させて、プランジ加工により傘部のフェース面の仕上げ研削を実施することを特徴とするエンジンバルブ研削装置。
【請求項7】
エンジンバルブの傘部に対し研削砥石により粗研削および仕上げ研削を連続して行う傘部連続研削過程を備えたエンジンバルブ研削方法において、
前記傘部連続研削過程では、一の砥石体の研削面に粗研削を行う粗研削領域と仕上げ研削を行う仕上げ研削領域とを区別して備えた研削砥石を用いて、粗研削領域を傘部に当接させて、トラバース加工により傘部の粗研削を実施し、仕上げ研削領域を粗研削実施後の傘部のフェース面に当接させて、プランジ加工により傘部のフェース面の仕上げ研削を実施することを特徴とするエンジンバルブ研削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−101329(P2012−101329A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252963(P2010−252963)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】