説明

ワーク芯出し方法及びその芯出し装置

【課題】主軸に設けたマグネットチャックにワークを迅速に,高精度に芯出しすることができるワークの芯出し方法及び芯出し装置を提供する。
【解決手段】このワーク芯出し装置は,回転駆動される主軸に取り付けたマグネットチャックに吸着されたワーク9に,2個所の作用部13を当接させてワーク9の芯出しをする。作用部13が一つの支点Oの回りで回動自在な支持板11に支持され,支持板11の支点Oがマグネットチャックの回転中心OGへ向かって移動する時に,作用部13がワーク9に当接して位置偏倚したワーク9に対応して揺動しながらワーク9の位置ずれを矯正し,ワーク9の中心OWをマグネットチャックの回転中心OGに合わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,主軸にマグネットチャックを備えた旋盤等の工作機械において,主軸に設けたチャックへのワークの取付け時に,チャック上にワークを芯出しするワーク芯出し方法及びその芯出し装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,加工装置として,リング状被加工物を芯出し作業を行う必要がなく,高精度で前面加工できるものが知られている。該加工装置は,高硬度に熱処理されたワークを旋削加工するものであり,ベッド上に固定された主軸台に回転自在に支持された主軸,主軸の一端に取り付けられて主軸と共に同軸的に回転するマグネットチャック,及び主軸と回転中心軸が一致した副主軸の一端に取り付けられて副主軸と共に同軸的に回転する3爪チャックを有する。3爪チャックは,それにより拘束されたワークを,ワーク及びマグネットチャックの各回転中心軸に一致させた状態でマグネットチャックへ受け渡すものであり,それによって芯出し作業を完了させるものである(例えば,特許文献1参照)。
【0003】
また,円形ワークを機上にて高精度に短時間に自動芯出しを行い,ワークの性質により芯出し精度のレベルも計測器の設定により任意に設定できる重量ワークなどの機上での自動芯出し方法が知られている。該自動芯出し方法は,マグネットチャックに保持されたワークの外周に対し,3時,6時〜8時の2個所にそれぞれ進退動する駆動部,及び芯振れ確認用の計測器を設け,ワークの芯出しを行うものであり,芯出しモードによりマグネットチャックが弱に入り,ワークの回転と同時に駆動部が中心に向かって作動し,同時に計測器が芯出し測定基準面に移動し,芯出しレンジの数値内に修まると,芯出し完了信号を送り,駆動部を所定の位置に戻すものであり,研削モードに切り替わると,マグネットチャックが自動的に強に切り替わって研削工程に入る(例えば,特許文献2参照)。
【0004】
また,円盤の中心を回転テーブルの回転中心に合わせる芯出しを行う円盤の芯出し方法及び装置が知られている。該円盤の芯出し装置は,直線案内機構に支持される回転テーブルに円盤を載置し,回転テーブルを直線移動させて,円盤の外周面を当て駒に当接させることで円盤の中心を回転テーブルの回転中心に合わせるものである。上記円盤の芯出し装置は,当て駒を円盤の直径以下の間隔で2箇所に設け,円盤の外周面が一方の当て駒に先に当接し,次に他方の当て駒に当接することによって円盤の横ずれが矯正され,正確な芯出しが行われるものである(例えば,特許文献3参照)。
【0005】
また,ターンテーブルを回転させることなく,芯出しが行われる円盤のセンタリング装置が知られている。該円盤のセンタリング装置は,円盤を載置するターンテーブル,ターンテーブルの一側及び他側にそれぞれ中間点を支点として回動自在に支持し,両端にパッドをそれぞれ設けたアームを設け,アームの支点をターンテーブルの中心方向に移動し,アームの両端に設けたパッドがターンテーブルの外周に倣うようにしたものである(例えば,特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2002−337012号公報
【特許文献2】特開平10−43985号公報
【特許文献3】特開2002−260293号公報
【特許文献4】特開2003−157589号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,上記特許文献1に開示された加工装置では,副主軸が取り付けられた副主軸台が必要になり,大掛りな装置になっている。また,ワークを3つ爪でチャックするため,図9に示すように,ワークにより高精度な中心を得ることが難しく芯出しにバラツキが生じるという問題があった。
【0007】
また,上記特許文献2に開示された自動芯出し方法は,所定位置固定した2個所の駆動部をそれぞれに別々に駆動し,同時に計測器で計測しながら芯出しするものになっている。従って,上記自動芯出し方法は,装置そのものが大掛りなものになり,ワークのサイズにも柔軟に対応することが難しくなるという問題がある。
【0008】
また,上記特許文献3に開示された円盤の芯出し装置は,2個所の当て駒の位置を正確に設定する必要があり,また,円盤の大きさのバラツキに対して柔軟に対応できないという問題があった。
【0009】
また,上記特許文献4に開示された円盤のセンタリング装置は,円盤を4つのパッドで抱き込むようにするものであり,4点の作用点により位置精度が安定せず,誤差が生じやすいものになっており,装置そのものも大掛りなものになっている。
【0010】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,主軸にチャックを有する旋盤等の工作機械において,被加工物,被削物,測定物等の円形部を持つワークをマグネットや真空によって吸着するチャックにセットするときに,チャックに吸着されたワークをチャックの回転中心に一致させる芯出しを,簡単な構成の芯出し工具を取り付けるだけの簡単な装備で達成できるものであり,ワークの芯出しを迅速にしかも高精度に達成でき,ワークの加工,測定等の広範囲の分野に適用でき,それらを高効率に達成できるワーク芯出し方法及びその芯出し装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は,回転駆動される主軸に取り付けられたチャックに吸着されたワークに設けた円形部に,芯出し工具の支持部材に設けた互いに隔置した一対の作用部を当接させて,前記ワークを前記チャック上に芯出しするワーク芯出し方法において,
前記芯出し工具の前記支持部材は前記支持部材に設けた一つの支点の回りに回動自在に移動体に支持され,前記支持部材の前記支点が前記チャックの回転中心へ向かって移動することにより,前記作用部は前記チャック上で偏倚した前記ワークに一方向から当接して揺動しながら前記ワークの位置ずれを矯正し,前記ワークの中心を前記チャックの回転中心に合わせることを特徴とするワーク芯出し方法に関する。
【0012】
また,このワーク芯出し方法は,前記チャックが工作機械に装備されたマグネットチャックであってリング状の前記ワークを吸着しており,前記支持部材を構成する支持板から突出した前記作用部が前記ワークの外周面又は内周面に当接して前記ワークを前記チャック上に芯出しするものである。
【0013】
また,この発明は,回転駆動される主軸に取り付けられたチャックに吸着されたワークの円形部に,芯出し工具の支持板に設けた互いに隔置した一対の作用部を当接させて,前記ワークを前記チャック上に芯出しするワーク芯出し装置において,
前記芯出し工具の前記支持部材が前記支持部材に設けた一つの支点の回りに回動自在に移動体に支持され,前記支持部材の前記支点が前記チャックの回転中心へ向かって移動することにより,前記作用部が前記チャック上で偏倚した前記ワークに一方向から当接して揺動しながら前記ワークの位置ずれを矯正し,前記ワークの中心を前記チャックの回転中心に合わせることを特徴とするワーク芯出し装置に関する。
【0014】
また,前記チャックは,工作機械に装備されたマグネットチャックであり,リング状の前記ワークを吸着して,前記支持部材を構成する支持板から突出した前記作用部は,前記ワークの外周面又は内周面に当接して前記ワークを前記チャック上に芯出しする。
【0015】
また,前記芯出し工具は,前記支持部材を構成する支持板,前記支持板に突出してそれぞれ設けられた一対の前記作用部,前記支持板を回転自在に取り付けて前記支点を構成する支持軸を備え且つ前記移動体に固定される軸部,及び前記軸部に固定されて前記支持板の凹部に対向して形成された当接面に当接可能なストッパを有している。
【0016】
また,前記芯出し工具の前記軸部が固定される前記移動体は,前記工作機械に設けられたタレットに装着されたホルダである。
【発明の効果】
【0017】
このワーク芯出し方法及びその装置は,上記のように構成されているので,広範囲の機械装置に適用できるものであり,旋盤のタレット等の移動体にシンプルな構造の芯出し工具を取り付けるだけで,被加工物,被削物,測定物等の円形部を持つワークを吸着するマグネットチャック,真空チャック等のチャックの回転中心に,上記ワークの中心を合わせる芯出しを迅速に,高精度に容易に達成できるものであり,ワークをチャックに迅速に芯出しすることによって,例えば,ワークの内周面,外周面及び端面を高効率に加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下,図面を参照して,この発明によるワーク芯出し方法及びその芯出し装置の実施例を説明する。この芯出し装置の実施例は,図1〜図3に示すように,チャックがマグネットチャック仕様の工作機械1である旋盤に適用されている。マグネットチャック5は,円形盤状でなり,多数のマグネット即ち永久磁石21が半径方向に延びて周方向に多数配設され,永久磁石21の平坦面が吸着面22に形成されており,回転駆動される主軸6に取り付けられ,主軸6と共に回転駆動される。マグネットチャック5は,永電磁式で磁力を制御できるものになっている。この芯出し装置における芯出し工具10は,実施例では,複数の工具を放射状に取り付け,旋回割出しを行う刃物台であるタレット4がX軸スライド3に取り付けられている。また,タレット4は,傾斜ベース31に対する移動機構により切り込み方向でなるX軸方向,及びZ軸方向(図1の左右方向)に移動自在に構成されている。即ち,傾斜ベース31には,クロススライドであるZ軸スライド2がZ軸方向に移動自在に取り付けられ,Z軸スライド2には,タレット4を取り付けたX軸スライド3がX軸方向に移動自在に取り付けられている。
【0019】
芯出し工具10を用いてのワーク9の芯出し作業は,マグネットチャック5の磁力を弱に,言い換えれば,実施例では,ワーク9の端面23をマグネットチャック5に仮吸着して行う。マグネットチャック5へのワーク9の芯出し完了後に,ワーク9をバイトで切削加工をする場合には,マグネットチャック5の磁力を強にして行うものである。リング状ワーク9は,この実施例では,軸受の内輪,外輪,側板等である。バイトによるワーク9の切削加工は,マグネットチャック5に吸着されたワーク9の一方の端面23を除く,外周面24,内周面25,及び他方の端面23が切削加工されるものになっている。この実施例では,ワーク9の外周面24が円形部に形成されているので,外周面24に芯出し工具10の作用部13を当接させて芯出し作業を行い,ワーク9の内周面25を加工している。
【0020】
特に,図4〜図7を参照して,芯出し工具10の実施例について説明する。芯出し工具10は,実施例では,取り扱いやすいように,工具形式に形成されているが,この構造にこだわるものでない。例えば,芯出し工具10を構成する支持部材は,種々の形状に構成することができるが,この実施例では,支持板11で構成されている。芯出し工具10は,支持部材を構成する支持板11,支持板11に突出してそれぞれ設けられた一対の作用部13,支持板11を回転自在に取り付けて支点Oを構成する支持軸26を備え且つ移動体であるホルダ20に固定される軸部であるシャンク12,及びシャンク12に固定されて支持板11の凹部17に対向して形成された当接面18に当接可能なストッパ14を有している。ホルダ20は,X軸スライド3に取り付けられたタレット4の複数の刃物台の工具取付け部の1つに装着されている。タレット4は,旋盤に設けられ,複数の刃物を取り付ける刃物台を備えているものである。シャンク12は,タレット4に装着されたホルダ20の取付け穴に嵌挿されて取り付けられており,割出された位置では,シャンク12の軸心である支点Oがマグネットチャック5の回転中心OGへ向かう位置(X方向に)に装着されている。また,芯出し工具10は,実施例では,ワーク9に当接して作用点となる作用部13が支点Oよりワーク9の反対側の位置に取り付けられているが,逆向きに取り付けられてもよいものである。マグネットチャック5の吸着面22には,リング状ワーク9の端面23の一方側が吸着して取り付けられる。また,マグネットチャック5は,電磁式,永磁式,及び永電磁式があるが,実施例では,永電磁式のものが使用されている。永電磁式チャックは,永久磁石の力でワーク9を保持するものであり,発熱が少なく,吸着力が大きい特徴を持っている。
【0021】
また,芯出し工具10は,ワーク9に当接して作用する作用点PAになる2つの作用部13が支持板11の片面から突出して取り付けられている。作用部13は,一種のカムフォロアに構成された円筒体でなり,外周面が支持軸30の周りに軸受16を介して回転可能に構成されている。作用部13が支持板11に回転可能に取り付けられているので,ワーク9との接触移動にも柔軟に対応できる。実施例では,軸受16を構成するニードルローラの転動体が組み込まれたスタッド付きトラックローラ軸受(カムフォロア)になっている。従って,支持板11にカムフォロアを取り付けただけの構造に構成されている。支持板11には,2つのカムフォロアである作用部13が所定間隔Sで隔置して取り付けられており,支持板11は,支持板11に設けた一つの支点Oの回りに回転可能に構成されている。また,支持板11は,支点Oを軸心にする軸部であるシャンク12が他の片面から突出して形成されている。シャンク12は,タレット4のホルダ20に嵌挿されて取り付けられる。シャンク12には,ホルダ20の所定位置に取り付けられるように平面部19が設けられている。シャンク12の平面部19に,ホルダ20からのボルトを突き当てることによって,ホルダ20に対してシャンク12の位置が決まることになる。シャンク12は,その端面に支持軸26を一体に設けられている。支持板11は,支持軸26に軸受15を介して回転自在に取り付けられている。軸受15は,外輪27,内輪28,及び両輪27,28間に配設されたローラ29から成り,コンパクトな構成でなるクロスローラ軸受が使用されている。
【0022】
また,支持板11は,シャンク12に対して全周で回転自在である必要はなく,所定の角度の範囲で揺動運動できればよいために,ストッパ14により回転を制限されている。ストッパ14は,アーム32の一方の端部がシャンク12に固着され,アーム32の他方の端部が支持板11の凹部17において対向する当接面18に突き当たるように組み込まれ,支持板11の揺動範囲を規制するストッパ機能を果たしている。従って,2つ作用部13は,支持板11の一つの支点Oを中心にして揺動可能に構成されている。2つの作用部13は,支点Oがマグネットチャック5の回転中心OGへ向かう作用線を挟んだそれぞれの側にあって,ワーク9と当接可能な所定距離Sの位置にあればよく,揺動可能に構成されていることによって,特に,位置精度を要するものになっていない。実施例では,支持板11の支点Oと作用部13の中心O1,O2とを結んだ形状が,おおよその2等辺三角形に形成されている。支持板11の形状は,2つの作用部13が支持でき,支点Oの回りに揺動自在であればよく,適宜な形状に形成されることは勿論である。また,芯出し工具10の大きさ等の条件は,吸着力によるワーク9の位置変更の矯正力,ワーク9の大きさ等の条件に応じて適正に決定されればよいものである。また,芯出し工具10は,ワーク9の大きさが変化してもかなりの範囲のものまで対応できるものになっている。
【0023】
次に,図7を参照して,マグネットチャック5上でのワーク9の芯出し作業を説明する。実施例では,マグネットチャック5がワーク9を吸着して回転しながら,ワーク9の芯出し作業を行うものになっている。このワーク芯出し方法は,ワーク9を吸着しているマグネットチャック5が回転する場合,及びマグネットチャック5が回転しない場合にも適用できることは勿論である。作用部13は,ワーク9の外周の円形面に当接して作用する構造に構成されている。実施例では,多数の所定ワーク9を連続して加工するものに適用して好ましいものである。マグネットチャック5上でのワーク9の芯出しの作業の終了時点は,揺動可能な作用部13が揺動しなくなれば,芯出し完了になっている。作用部13及び/又は支持板11の揺動は,例えば,タレット4に設けた測定器(図示せず)で検知することによって検出でき,ワーク9の芯出し作業を自動化することができる。
【0024】
マグネットチャック5上でのワーク9の芯出し作業は,この実施例では次の条件設定をする。
第1に,図7の(c)で示すように,芯出しの初期段取りとして,最初のワーク9で,ワーク9の大きさから,支点Oがどこまで移動すれば,ワーク9の中心OWがマグネットチャック5の回転中心OGに一致するかの集束点OS,即ち,芯出し完了位置を求めておく。
第2に,ワーク9の大きさにはバラツキがあるので,芯出し量の日標値を設定し,集束点OSの手前で,測定器によりチェックし,目標値よりも大きい度合いにより,集束点OSに支持板11を近づけるように移動することで芯出しが完了する。実施例では,例えば,芯出し量の日標値は0.02mmの範囲内に設定されている。
第3に,実施例では,測定器がタレット4の工具取付け部に取り付けられている。 そこで,作用部13が集束点OSの手前で一度,ワーク9から離れ,代わりに測定器の先端がワーク9に当接(又は近接)してワーク9の芯振れ状況を確認し,目標値より大きい時は,更に,作用部13がワーク9に当接して補正(矯正)し芯出しする。
このワーク芯出し方法(装置)では,これらの一連の動作は,自動的に実施できるものになっている。
【0025】
図7の(a)に示すように,ワーク中心OWが移動中心線O−OGより上側(図示上)に位置している場合の状況にあって,2つの作用部13の作用点PAは,ワーク9を抱き込むようにワーク9の外周面24に当接可能になっている。ワーク9が更に回転中心OGに対して偏心状に回されると,支点Oの回転中心OGの方向への移動も伴って,ワーク9は回転中心方向へ位置変位して矯正されることになる。
更に,図7の(b)に示すように,ワーク9の中心OWが移動中心線O−OGより下側(図示上)に位置している場合の状況にあって,2つの作用部13の作用点PAは,ワーク9を抱き込むように,ワーク9の外周面24に当接可能になっている。ワーク9が更に回転中心OGに対して偏心状に回されると,支点Oの回転中心OGの方向への移動も伴って,ワーク9は回転中心方向へ位置変位して矯正されることになる。
最終的に,図7の(c)に示すように,支点Oが集束点OS位置までに移動してワーク9の中心OWが回転中心OGに合致した場合の状況にあって,2つの作用部13の作用点PAは,ワーク9の外周面24に当接し,作用部13従って支持板11が揺動を静止した状態になっている。この状態により,マグネットチャック5上でのワーク9の芯出し処理が完了することになる。ワーク9の芯出し完了後,マグネットチャック5の磁力を強に切り替え,ワーク9に対するバイトによる旋削加工等を行うことになる。
【0026】
このワーク芯出し方法(装置)は,上記の芯出し作業を行うことによって,多数の所定のワーク9をマグネットチャック5上に芯出しすることができ,ワーク9の切削加工まで自動に実施できるものになっている。従って,この発明によるワーク芯出し装置について,作用部13が揺動可能になっているので,作用部13は,マグネットチャック5上で偏心したワーク9が偏心状に回転してきてもワーク9を抱き込むように変化して当接可能になり,滑らかな求心性が発揮できるものになっている。例えば,従来のような作用部が揺動しない芯出し工具では,作用部がワークの種々の姿勢に対応しきれずに,マグネットチャックへのワークの吸着が外れてしまう結果になり,芯出し工具のスムースな対応が不可能なものになり,ワークのスムーズな芯出しができないものである。
【0027】
図8には,芯出しされたワーク9に対する切削加工の結果として加工による真円度33,加工による同軸度34,及び理論上の同軸度35が図示されている。
ここでは,ワーク9として,薄肉状のリング部材(内径:φ110mm,外径:φ126mm,幅:6mm)を用い,リング部材の内径を加工した測定結果を示している。
この測定結果は,芯出し装置の作用部13が薄内状のリング部材の外径の外周面24に当接して芯出ししたものであり,芯出し後に,リング部材の内径の内周面25を切削加工したものであり,結果は,マグネットチャック5の場合(測定倍率2000倍)は,同軸度34が0.0042mmであり,真円度33が0.0037mmになっている。
図9に示す測定結果は,従来の三つ爪チャックでワークをチャック後に内径内周を加工したものであり,ワークを加工後に,ワークをチャックから外して測定したものである。 従来の方法によるワークの芯出しは,測定結果(測定倍率500倍)から明らかなとおり,同軸度34が0.008mmであるにもかかわらず,内径の真円度33が0.066mmになり,チャック(爪)の影響が残り,3つの凹部状態になってしまっている。
上記のとおりであり,この発明によるワーク芯出し方法(装置)は,従来例と比較すれば明らかなとおりであり,ワーク9の芯出しも簡単に行うことができ,更に,ワーク9を高精度に加工することが可能なものになっている。
【産業上の利用可能性】
【0028】
この発明は,工作機械,検査機,測定器,組立器,半導体製造装置,各種ロボット等の各種装置のワークの芯出し方法及び芯出し装置として使用して好ましいものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明によるワーク芯出し装置を工作機械である旋盤に装着した実施例を示す概略図である。
【図2】図1のワーク芯出し装置を構成する芯出し工具をタレットに取り付けた状態を示す概略斜視図である。
【図3】図1のワーク芯出し装置によって芯出しされるワークをマグネットチャックに吸着した状態を示す概略斜視図である。
【図4】図1のワーク芯出し装置を構成する芯出し工具を示す正面図である。
【図5】図4の芯出し工具の平面図である。
【図6】図4の芯出し工具を示す側面図である。
【図7】図1のワーク芯出し装置によるワークの芯出し方法を説明する説明図であり,(a)はワークが一方側に偏倚した状態を示し,(b)はワークが他方に偏倚した状態を示し,(c)はワークの偏倚が無くなった状態を示す説明図である。
【図8】図1のワーク芯出し装置によって芯出しされたワークを加工したときの真円度と同軸度との測定結果を示す線図である。
【図9】従来の装置によって芯出しされたワークを加工したときの真円度と同軸度との測定結果を示す線図である。
【符号の説明】
【0030】
1 工作機械(旋盤)
4 タレット
5 マグネットチャック(チャック)
6 主軸
9 ワーク
10 芯出し工具
11 支持部材(支持板)
12 シャンク
13 作用部
14 ストッパ
17 凹部
18 当接面
20 ホルダ(移動体)
23 端面
24 外周面(ワークの円形部)
25 内周面
26 支持軸
O 支点
OG 回転中心(主軸)
OW ワーク中心
PA 作用点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動される主軸に取り付けられたチャックに吸着されたワークに設けた円形部に,芯出し工具の支持部材に設けた互いに隔置した一対の作用部を当接させて,前記ワークを前記チャック上に芯出しするワーク芯出し方法において,
前記芯出し工具の前記支持部材は前記支持部材に設けた一つの支点の回りに回動自在に移動体に支持され,前記支持部材の前記支点が前記チャックの回転中心へ向かって移動することにより,前記作用部は前記チャック上で偏倚した前記ワークに一方向から当接して揺動しながら前記ワークの位置ずれを矯正し,前記ワークの中心を前記チャックの回転中心に合わせることを特徴とするワーク芯出し方法。
【請求項2】
前記チャックは工作機械に装備されたマグネットチャックであってリング状の前記ワークを吸着しており,前記支持部材を構成する支持板から突出した前記作用部は前記ワークの外周面又は内周面に当接して前記ワークを前記チャック上に芯出しすることを特徴とする請求項1に記載のワーク芯出し方法。
【請求項3】
回転駆動される主軸に取り付けられたチャックに吸着されたワークの円形部に,芯出し工具の支持部材に設けた互いに隔置した一対の作用部を当接させて,前記ワークを前記チャック上に芯出しするワーク芯出し装置において,
前記芯出し工具の前記支持部材は前記支持部材に設けた一つの支点の回りに回動自在に移動体に支持され,前記支持部材の前記支点が前記チャックの回転中心へ向かって移動することにより,前記作用部は,前記チャック上で偏倚した前記ワークに一方向から当接して揺動しながら前記ワークの位置ずれを矯正し,前記ワークの中心を前記チャックの回転中心に合わせることを特徴とするワーク芯出し装置。
【請求項4】
前記チャックは,工作機械に装備されたマグネットチャックであってリング状の前記ワークを吸着して,前記支持部材を構成する支持板から突出した前記作用部は,前記ワークの外周面又は内周面に当接して前記ワークを前記チャック上に芯出しすることを特徴とする請求項3に記載のワーク芯出し装置。
【請求項5】
前記芯出し工具は,前記支持部材を構成する支持板,前記支持板に突出してそれぞれ設けられた一対の前記作用部,前記支持板を回転自在に取り付けて前記支点を構成する支持軸を備え且つ前記移動体に固定される軸部,及び前記軸部に固定されて前記支持板の凹部に対向して形成された当接面に当接可能なストッパを有していることを特徴とする請求項3又は4に記載のワーク芯出し装置。
【請求項6】
前記芯出し工具の前記軸部が固定される前記移動体は,前記工作機械に設けられたタレットに装着されたホルダであることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載のワーク芯出し装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−245241(P2007−245241A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−67563(P2006−67563)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】