説明

一体形調節器を有する電気モータの駆動インバータ

本発明は、駆動インバータに関し、この駆動インバータは、電気モータ(6)の相に結合されるべき端子盤(4)に電流を供給する交流電流発生器(3)と、電力ライン(20)と、電気モータに電力供給する相のうちの幾つかに設けられた交流電流センサ(41,42)と、電力ラインに設けられた電流センサ(21)と、電流源からの限界電流の少なくとも1つの値及び所要のトルク指針を含む情報を受け取る入力(52)と、トルク指針に基づいて電気モータの相電流を駆動する一方で、電流源からの限界電流に基づいて電力ラインの電流を許容値に維持するコントローラと、を有する。したがって、電流源を損傷させる恐れなく、最大電流を常時、電流源に課すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気モータの駆動に関する。特に、本発明は、特に車両トラクション用の電気モータの駆動に関する。
【背景技術】
【0002】
かかるモータは、ステータに設けられていて、ステータ磁束を発生させることができる導電線の巻線を含む磁気回路を有することが知られている。同期モータの場合、モータは、ロータに設けられた永久磁石及びロータ磁束を発生させる磁気回路を有する。同期モータの場合、このモータは、かご形ロータを有する。リラクタンス(磁気抵抗)モータの場合、このモータは、リラクタンスロータを有する。多くの電気自動車用用途では、同期モータが用いられている。かかるモータは、ステータに対するロータの位置を与える「リゾルバ」を備えている。かかるモータは、常時、これを駆動するインバータと関連している。
【0003】
当業者であれば知っているように、実際には、電気モータは、可逆性機械であり、換言すると、電気モータは、オルタネータ(交流発電機)としても作動する。これは、電気機械の場合については当たり前のことでもあるからである。以下の説明がモータに関する場合、これは説明の便宜上のことであり、本発明との関連において以下の説明は一般的に電気機械に及び、電気機械はモータとしてもオルタネータとしても作動することは言うまでもない。
【0004】
極めて多くの用途において、特に自動車では、電気エネルギー源は、例えばバッテリ又は燃料電池のような直流源である。この場合、モータを駆動するインバータは、DC信号をモータの作動設定値に合った振幅及び周波数のAC信号に変換するインバータを含む。モータと関連した3相インバータの役割は、DC電源から出力された所望の機械的トルクをモータシャフトのところに生じさせることにある。
【0005】
技術の現状の一例として、米国特許出願公開第2003/0088343号明細書を挙げることができ、この米国特許出願公開明細書は、内燃エンジン及び車両のモータ駆動装置のための補助手段となる電気モータを搭載したハイブリット自動車のための電気トラックションチェーンを記載している。電気モータそれ自体は、バッテリによって電力供給される。モータの駆動に関し、この特許文献は、バッテリの制限電力に従ってトルクの限度に基づく原理を記載している。この原理は、最大放出電力に関する。また、放出電力を制御するために用いられるバッテリ電流センサ及び温度の関数として電力のあらかじめ定められたマップに従ってバッテリ制限電力を求めるバッテリ温度センサの使用が記載されているが、この構成は、極めて動的な調節機能を実現することができない。
【0006】
純粋に電気的トラクションの車両の分野において、米国特許第5,600,125号明細書を引用することができ、この米国特許明細書は、バッテリ式電気車両用のコントローラを記載している。この米国特許明細書に記載された発明は、バッテリ電圧に従って電気モータのトルクの調節を可能にする。しかしながら、この原理は、例えばLi‐Ion(リチウムイオン)電池のような或る特定の形式のバッテリの場合に電流の極めて良好な制御を可能にするわけではないが、かかるバッテリの使用が増大傾向にある。Li‐Ionバッテリの電圧は、事実、多くの要因(温度、充電状態、経年変化)で決まり、このように放出電流を正確に調節することは、非常に難題である。さらに、この特許文献の説明において、バッテリの制限電圧は、充電状態、温度等の動向に従ってアップデートされない既定の一定値であり、それ故、かなり大まかな調節方式である。
【0007】
大電力レベルを必要とする用途のうちの大抵の用途において、3相機械が用いられている。作動原理は、次の通りであり、即ち、巻線中の電流により生じるモータのステータ磁界とロータ磁界との相互作用により、機械的トルクが生じる。インバータは、モータの3相に電力供給するために、電源のDC電圧から、3つの電力用トランジスタ枝路により、ロータ磁界に対して適切な振幅、適切な周波数及び適切な相の3相電流系を生じさせる。電流の振幅を制御するため、インバータは、モータの各相の電流に関する情報を提供する電流センサを有する。電流の周波数及び相を制御するため、インバータは、ステータに対するロータの位置を測定するレゾルバから信号を受け取る。
【0008】
一般的なコントローラは、所望のモータトルクを得るために生じさせるべき相電流の正確な知識を提供するモータのモデル化を備えている。インバータは、モータのモデル化に基づいて、モータ相電流の設定値を算定してその調整器(レギュレータ)を用いてこれら設定値を生じさせる。したがって、インバータは、トルクをサーボ制御するわけでなく、モータの電流をサーボ制御する。モータ電流が所与の場合、種々の作動条件(モータの温度、インバータの温度、ケーブルの長さ)並びにインバータ及びモータに関する製造上の多様化に応じて、モータのロス、インバータのロス及びケーブルのロスは、様々な場合がある。その結果、電力及びかくして源に吸収される電流は、ケースごとに異なる場合がある。
【0009】
その結果、基準として選択されたインバータ‐モータシステムのロスをモデル化することが必要であり、モデル化は、所与の温度で実施される。温度は、通常、モータのロスを過剰評価するようかなり高く選択されており、これらモータのロスは、全てのロスのうちで、最も温度依存性のあるロスである。このように、トルク設定値が所与の場合、電流源から得られるべき電流は、電流が源により許容可能な電流よりも大きくならないようにするために過剰評価される。
【0010】
モデル化に基づく調節の別の例は、欧州特許第1410942号明細書に見受けられる。この特許文献も又、バッテリ式電気車両用のコントローラを記載している。特に、この特許文献は、モータ駆動装置を介して電流源の消費量のリミッティングを記載しており、このリミッティングは、モータのモデル化、即ち、種々のパラメータによるモータのマップの作成に基づいている。
【0011】
この方式は、最適ではない。というのは、あらゆる使用事例において全ての要素を十分に表すモデル化を実施することが困難だからである。事実、モデル化は、実験台で作られ、車両で作られておらず、或いは、モデル化におけるコンポーネントのエージングを考慮に入れることは言うまでもなく、モデル化が車両で実施された場合であっても、その使用の全ての事例に及ぶわけではない。
【0012】
したがって、この方式(モデル化)の結果として、源の全電力は、現実のロスが推定されたロス(例えば低温)よりも低い場合には用いられず、しかもエージング及びかくしてインバータ又はモータの効率の低下を考慮に入れることはなされない。かくして、最大性能レベルは、あらゆる条件において保証されるわけではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0088343号明細書
【特許文献2】米国特許第5,600,125号明細書
【特許文献3】欧州特許第1410942号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、ロスをモデル化する必要性をなしで済まし、モータの良好な駆動を可能にする手段を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、交流電流電気モータを駆動するインバータであって、電気モータは、少なくとも2つの相を備えたステータ及びロータを有し、インバータは、
・直流電流電気エネルギー源及びDC電圧と関連したDCバスに接続可能な2つの端子と、
・電気モータの相に接続されるようになった端子ブロックに電流を送る交流電流発生器と、
・接続端子と交流電流発生器との間の電源ラインと、
・電源ライン上の電流の測定値が循環する電源電流測定ラインと、
・フェースの各々中を循環している交流電流を知るために電気モータの或る特定の電源相上の交流電流の測定値が循環する少なくとも1つのモータ電流測定ラインと、
・電源ライン上を循環している電流の少なくとも1つの「源の限界電流(source limit current)」及びトルク需要設定値(Ccons)を含む情報を受け取る入力と、
・電源ライン上の電流測定値、電気モータの相電流の測定値、電気エネルギー源の限界電流(IdcMax,IdcMin)、トルク需要設定値(C CAN)を受け取るコントローラとを有し、コントローラは、電源ラインを経て流れている電流をエネルギー供給源の限度と適合した値に維持することによりトルク需要設定値に従って電気モータの相電流を駆動するために用いられることを特徴とする電気モータを駆動するインバータを提案する。
【0016】
特に興味を惹く具体化例では、本発明が車両トラクションモータの駆動に利用される場合、「源の限界電流」は、電気モータがトラクションモードで作動しているとき、電気エネルギー源から引き出される電流に対応した(正符号の)最大電流設定値(IdcMax)及び電気モータが再生制動モードで作動しているとき、電気エネルギー源に戻される電流に対応した(負符号の)最小電流設定値(IdcMin)を含む。
【0017】
本明細書のこれ以後の説明は、添付の図面により本発明の全ての観点の良好な理解を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のインバータを示す図である。
【図2】本発明のインバータの特定の取り扱いを表すブロック図である。
【図3】本発明のインバータの追加の装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、インバータ1、3相電気モータ6、DC電気エネルギー源を形成するバッテリ8及びインバータ1により使用される情報が循環するCAN(登録商標)バス7を示している。3相電気モータは、少なくとも相U,V,Wを有するステータ及びロータを有している。
【0020】
インバータ1は、直流電流と関連した直流電流バス(DCバス)及びDC電圧電気エネルギー源に接続可能な2つの端子2,10を有している。インバータは、電気モータ6の相U,V,Wに接続されるようになった端子ブロック4に電流を送る交流電流発生器3を有している。インバータ1は、端子2と電流発生器3との間に電源ライン20を有している。インバータ1は、コントローラ5及びコントローラ5からの駆動指令を受け取り、そして電流発生器3の電力用トランジスタの駆動を取り扱う駆動段9を有している。
【0021】
本発明の好ましい具体化例では、優れた性能レベルで駆動を行なうことができるようにするために、電気モータ6のロータは、同期モータであり、これはレゾルバ60と関連しており、レゾルバ60は、ロータとステータの相対位置を与える。この場合、インバータ1は、レゾルバにより送り出された信号を受け取る入力51を有している。しかしながら、この構成は、本発明を限定するものではなく、当業者であれば知っているように、ステータに対するロータの位置を評価するために相電流及び電圧測定値に基づいて使用できるアルゴリズムが存在する。
【0022】
本明細書の導入部の説明で理解されるように、本発明の本質的な特徴のうちの1つは、トルク需要設定値に従って電気モータの相電流を駆動することができ、電源ラインを経て流れる電流を源の限度に適合した値に保つコントローラが設けられていることにある。この目的のため、本明細書において説明する非限定的な具体化例では、インバータは、別の電源電圧測定ライン220を有し、電源ライン20上の電圧の測定値がこの電源電圧測定ライン220上を循環し、コントローラ5は、電源ライン20上の電圧の測定値をも受け取る。事実、コントローラ中に電源電圧をそのパラメータとして用いる調節法則を具体化することが有利である。コントローラ5は又、レゾルバ60からの信号を受け取る。この情報に基づいて、コントローラ5は、電気モータの相電流を駆動するために電気モータのための駆動トルク(Cpil)を求め、電力ライン20上の電流が源の限界電流から隔たったままである限り、駆動トルク(Cpil)がトルク需要設定値(Ccons)と同一であるようにし、電力ライン20上の電流が源の限界電流に達すると、電力ライン20上の源の制限電流を超えないようにトルク需要設定値(Ccons)に対して駆動トルク(Cpil)を減少させるようにする。
【0023】
極めて有利には、多くのセンサが本発明のインバータ内に直接組み込まれる。しかしながら、理解されるべきこととして、本発明にとって必要不可欠なことは、センサの組み込み自体ではなく、センサが送り出す信号がインバータにより実施される調節のためのパラメータとして直接使用されると言うことにある。したがって、インバータは、電源ライン上に電流センサ21を有し、この電流センサ21は、その測定値を電源電流測定ライン210上に送る。インバータは、電源ラインの電圧センサ22を更に有し、この電圧センサ22は、この測定値を電源電圧測定ライン220上に送る。インバータは、同期電気モータ6に電力供給する或る特定の相、即ち、相U,Wに取り付けられた交流電流センサ、より具体的に言えば、2つの交流電流センサ41,42を更に有し、相V上の電流は、相U電流と相W電流の和である。これら交流電流は、同期電気モータ6に電力供給する。交流電流センサ41,42は、少なくとも1つのモータ電流測定ラインのうちの2つ(410,420)上にこれらの測定値を送る。
【0024】
インバータ1は、電源ライン20上に電流センサ21を有すると共に電圧センサ22を有する。インバータ1は、CAN(登録商標)バス7上で循環する情報を受け取る入力52を更に有する。この情報は、モータがトラクションモードで作動しているときに電気エネルギー源から引き出される電流に相当する源の限界電流設定値IdcMax(正符号の設定値)及び電気モータが再生制動モードで作動しているときに電気エネルギー源に戻される電流に相当する源の最小電流設定値IdcMin(負符号の設定値)を含む。後者は、源が許容できる最も強力な充電電流である。
【0025】
強調されるべきこととして、電流設定値は、これら自体、車両の状態に応じて永続的に計算される。源に戻される電流を源だけで吸収できる場合、これは、限度値が源の充電状態及びその技術で決まる充電電流である。例えば、鉛電池は、低い充電電流しか許容せず、これに対し、列状に配置されたスーパーキャパシタは、放出電流に等しい高い充電電流を許容する。リチウムポリマ電池又はリチウムイオン電池は、放出電流よりも低いかなり高い充電電流を許容する。以上要約すると、「源の限界電流」値の決定は、用いられる電気アキュムレータ技術、アキュムレータの充電状態及び車両の状態で決まり、他の全てのことは、本発明の範囲外である。かかる値は、本発明が抜け目なく利用することができる入力データとなる。
【0026】
インバータ1は、電源ライン2上の電圧センサ22からの信号、電源ライン2上の電流センサ21からの信号、リゾルバ60からの信号、センサ41,42による同期電気モータの各相の電流に関する信号、バッテリ8の限界電流IdcMax及び限界電流IdcMin、必要に応じてCAN(登録商標)バス70を循環するトルク需要設定値C CANを受け取るコントローラ5を有している。
【0027】
図2は、コントローラ5がトルク設定値Cpilに作用するバス電流調整器(レギュレータ)を有する状態を示しており、この調整器は、最大電流設定値IdcMaxを受け取る処理枝路B1、最小電流設定値IdcMinを受け取る処理枝路B2及び電流の符号に応じて一方のラインと他方のラインを切り替える試験モジュールTを有する。
【0028】
電源ライン20上を流れる電流は、電流センサ21(図1参照)により測定され、この電流センサは、電流の測定値Idcを試験モジュールTに送り、試験モジュールTは、電流の符号に応じて、もしこの値が正である場合、即ち、モータ6がトラクションモードで作動している場合、測定値Idcを枝路B1上に送り、この値が負である場合、即ち、モータが再生制動モードで作動している場合、測定値Idcを枝路B2上に送る。
【0029】
また、モータ6の3相のうちの2つの電流の測定値は、モータ6の相Uに設けられているセンサ41及びモータ6の相Wに設けられているセンサ42によって取られる。これら電流値は、コントローラに送られ、コントローラは、相V上の電流を計算する。
【0030】
さらに、コントローラは、以下に説明するように、トルク需要設定値C CANをモータ6のための駆動トルク設定値Cpilに変換し、次に、この駆動トルクCpilを従来の仕方で且つ当業者には周知の仕方でモータ相電流値に変換する。
【0031】
図2に戻ってこれを参照すると共に先ず最初に枝路B1を考慮すると、この枝路は、インバータが源からの電流を消費するモータ作動モードに対応している。トルク設定値CconsがCAN(登録商標)バス上で循環しているトルク需要点C CANと同一であると仮定する。駆動トルク設定値Cconsは、前方方向に動いている場合には正(Ccons>0)であり、車両の運転手が逆方向を選択した場合には負(Ccons<0)である。ところで、レゾルバ60は、車両の速度をその符号でコントローラ5に伝え、したがって、車両の運動方向をコントローラに伝える情報をコントローラ5に送ることに注目されたい。この場合、一方において所望のトルクC CANの符号と他方において車両速度の符号を比較することにより、コントローラ5は、モータがトラクションモードで作動しているか制動モードで作動しているかを判定することができる。
【0032】
加算器91が一方において、源の限度電流設定値IdcMaxを受け取ると共に他方において電流測定値Idcを受け取り、そして源限界電流値に対する電流差を出力する。かかる差は、「比例積分」調整器92及び振幅制限器93によって処理され、振幅制限器93は、比例積分調整器92に由来する結果を、かかる値から「設定トルクCconsの絶対値を差し引いた」値に制限する。場合によっては振幅制限器93によって制限されるこの結果は、次に、「トルク符号」モジュール94を通り、この「トルク符号」モジュール94は、車両の運転手の望む初期トルク設定値が車両変位運動を順又は前方方向に(正符号)増大させる傾向のあるトルクであるかこれを逆方向に(逆方向運動、負符号)に増大させる傾向のあるトルクであるかどうかに応じて結果の符号を維持し又はこれを変更して結果Ctを得る。結果Ctは、加算器95に入力され、加算器95は、トルク設定値Cconsをも受け取り、そして駆動トルク設定値Cpilを出力して電気モータ6のトルクを駆動する。
【0033】
かくして、トラクションモード(正の設定値トルク(推定のために最大トルクに近いと仮定される)、枝路B1)にある場合であって電流IdcMaxが100Aである場合、しかも電流測定値が限度を超えて105Aである場合、加算器91は、負の値−5Aを出力し、その振幅は、オーバーシュートに比例し、これは、比例積分調整器92によって、オーバーシュートに比例した値を持つと共に「−(マイナス)」符号を持つ差トルクに変換される。次に、差トルクの符号は、「トルク符号」モジュール94によって逆にされる。というのは、モータがトラクションモードにあるからである。加算器95の後、差トルクCtを設定トルクCconsから差し引き、それにより源によって許容できる電流を超えたオーバーシュートを考慮に入れるために減少させたモータ駆動トルクCpilを与える。比例積分調整器92の出力がゼロ値である全ての場合において、振幅制限器93の出力は、ゼロ値であり、「トルク符号」モジュール94の出力は、ゼロ値であり、駆動トルクCpilは、トルク設定値Cconsと同一のままである。電流Idcが正であり、他方、トルク設定値が負である場合(車両が逆方向にあり且つモータ作動モードにある)、調整器は、源での消費量を減少させるために設定値を増大させる(即ち、設定値をゼロに向かわせるようにする)。
【0034】
枝路B2は、インバータが電流を源に注入する再生制動モードの作動に対応している。トルク設定値Cconsは、逆の作動では正(Ccons>0)であり、順方向作動では負(Ccons<0)である。作動原理は、同一である。順方向作動では、トルク設定値Cconsは、ゼロ未満であり、比例積分調整器92Bの出力は、今度は、正であり、「トルク符号」モジュール94Bは、トルク設定値が負である場合、今度は符号を逆にする。
【0035】
図示の全ての場合において、上述の仕組みは、トルク設定値(原のトルク設定値)に対して駆動トルクと呼ばれる結果としてのトルク設定値を(絶対値として)減少させる傾向がある。
【0036】
モータ電流が所与の場合に源で消費される電力は、多くのパラメータに従って様々である。ロスに対する各パラメータ(ケーブルの温度、長さ及び種類、エージングの影響をモデル化することが可能な場合であっても、この作業は、少なくとも各モータ及び各電子システムについて繰り返されなければならない。さらに、これら全てのモデル化は、中央処理装置内に導入されなければならず、中央処理装置は、インバータについて要求するトルク設定値がロスを生じさせないようなトルク設定値及びかくして電力、そして最終的には源にとって許容できない源での消費電流をリアルタイムで計算しなければならない。これは、インバータ‐モータシステムが電流消費装置である場合に当てはまるが、このシステムが発電機である場合にも当てはまる。この第2の場合、源に注入される電流が許容可能であるかどうかをチェックすることも又必要不可欠である。上述の方式とは異なり、本発明では、較正に逆戻りする必要なく、被動電気モータ及びインバータそれ自体のロスレベルとは無関係に、これらロスの変化を生じさせる恐れのあるコンポーネントのドリフトに対して自動適応する仕方で、源から許容可能な最大電流を常時引き出すことができ又は直流電流源を損傷させないで源が許容する最大充電電流を源に注入することが任意の時点で可能になる。その結果、インバータ‐モータシステム、即ち、例えば車両に搭載された電気トラクションシステムの全電力は、電力が等しいと仮定した場合にシステムの重量にとって不利となる過度の安全係数を採用する必要なく、或いは、安全係数が等しいと仮定すれば損傷の恐れを減少させながら最適化される。
【0037】
今や、バス電流の測定値を追加したということにより、インバータ内でのこの電流の制御を実施することができる。実際には、内部調整器が、最大源電流(源で消費される)又は最小限電流(源に注入される)を観察するためにモータの駆動状態をリアルタイムで加減する。
【0038】
システムの管理は、大幅に単純化される。モータ、インバータ、ケーブル要素の特性を知る必要はもはやない。車両(図示せず)の中央処理装置は、CAN(登録商標)バス7を介して2つのバス電流設定値、即ち、最大バス電流(IdcMax>0)及び最小バス電流(IdcMin<0)をインバータに送る。インバータ1は、バス電流がIdcMin値とIdcMax値との間のままである状態で車両の中央処理装置から来たトルク設定値を観察する。バス電流調整器がこれら限度を超えないよう働いているとき、トルク設定値は、もはや観察されない。有利には、車両の全体的管理に関し、インバータ1は、実際に生じたトルクの値を車両の中央処理装置に永続的に送る(CAN(登録商標)バス7を介して)。
【0039】
電気トラクション方式の自動車の適当な作動を保証する上で特に有利な本発明の具体化例では、トルク需要設定値C CANの処理結果をコントローラ5に追加して再処理された駆動トルク設定値Cconsを得、この処理は、図3に示されている。図3では、コントローラは、入力として、CAN(登録商標)通信ネットワーク7(図1参照)を介して来たトルク設定値C CANを受け取り、トルクの増大が許容されることを支持するINC状態を受け取り、トルクの減少が許容されることを支持するDEC状態を受け取り、そして図2に示された処理において実際に用いられる設定値トルクCconsを出力する「トルクランプ」ブロック96を有する。
【0040】
車両の通常の作動の際、即ち、Idc電流が限度のうちの1つに達しなかった場合、比例積分調整器92と振幅制限器93の組立体及び比例積分調整器92Bと振幅制限器93Bの組立体の出力は、ゼロ値であり、これらゼロ値は、C CAN>Cconsの場合にはINC状態を作動させ、或いは、C CAN<Cconsの場合、DEC状態を作動させる。この場合、トルク需要設定値C CANが駆動トルク設定値Cconsよりも大きい限り(C CAN>Ccons)、Cconsは、選択されたランプに従ってΔC/ΔTだけ増分され、同様に、トルク需要点C CANが駆動トルク設定値Cconsよりも小さい限り(C CAN<Ccons)、Cconsは、選択されたランプに従ってΔC/ΔTだけ減分され、このようにすることにより、トルク需要設定値C CANの変化が急な場合であっても車両の非常に革新的な作動を得ることができ、とりわけ、トルク需要設定値C CANは、連続したレベルで送られる。というのは、これは、例えば20ミリ秒ごとにリフレッシュされるからである。
【0041】
車両の制約された作動の際、即ち、Idc電流が限度のうちの1つに達した場合、比例積分調整器92と振幅制限器93の組立体又は比例積分調整器92Bと振幅制限器93Bの組立体の出力のうちの一方がゼロとは異なる値であり、かかる値は、インバータがエネルギー消費装置であるか発電機であるかどうか及び車両が前方に動いているか逆方向に動いているかどうかに応じて、INC状態かDEC状態かのいずれかを非作動状態にする。以上要約すると、次の4つの場合がある。
i)前方移動及びエネルギー消費装置、INCが禁止される場合。
ii)前方移動及びエネルギー発生装置、DECが禁止される場合。
iii)逆方向移動及びエネルギー消費装置、DECが禁止される場合。
iv)逆方向移動及びエネルギー発生装置、INCが禁止される場合。
換言すると、駆動トルク設定値Cconsは、トルク需要設定値C CANの増大がどのようなものであれ、引き続き増大するのが禁止され、それにより、Idc電流消費量を増大させがちにしないようにし、したがって、比例積分調整器92と振幅制限器93の組立体へのそれ以上の「負荷」を増大させがちにしないようにし、それにより、いずれの場合においても、比例積分調整器92と振幅制限器93の組立体が作動するよう命じられた場合に達するトルク設定値Cconsよりも大きなトルク設定値Cconsの達成を可能にすることができないようになる。他方、駆動トルク設定値Cconsは、減少するようになる。
【0042】
結論を述べると、本発明は又、インバータ‐モニタシステムの正確な作動に対するチェックを行なうことができると言うことが言える。実際、消費(又は発生)電力コンシステンシーのチェックは、電源ライン20上におけるインバータの入力とモータ6の相U,V,W上におけるインバータ1の出力との間で実施されるのが良い。さらに、電流センサ21により、インバータ1の効率をリアルタイムで計算することができる。さらに、本発明により、コンシステンシーチェックを実施することができる。例えば、モータ6のレゾルバ60が偶発的にオフセットされた場合、モータの電流モードサーボ制御は、通常作動するが、ステータ磁界は、ロータに対して正確には整相されないことになる。実際に生じたトルクは、設定値トルクよりも低いであろう。本出願人の強調すべきこととして、このコンシステンシーチェックは、トルクを測定しない場合であっても可能である。モータ6の出力のところの機械的動力は、機械的トルクに回転速度を乗算して得られた積である。インバータの入力のところで消費される電力は、ロスが追加された機械的動力に一致すべきである。電源ライン20の電圧及び電流の測定により、この電力は、既知であり、それにより、機械的動力を推定する(妥当なロス値を差し引くことにより)ことができ、それによりモータの出力シャフトに加わる機械的トルクを推定することができる。この場合、この機械的トルクをトルク設定値と比較することが可能である。実験しきい値を超える差を用いると、警報を作動させることができ、トラブルシューティングの補助手段として、レゾルバ60、相電流センサ又はDCバスを含む故障、DCバス電圧測定値等を含む考えられる原因を提案することが可能である。
【0043】
以上要約すると、本発明により、消費電力に影響を及ぼす量に作用する調整器により電気エネルギー源に対してインバータにより引き出される(又は放出される)電流を制御することができるということが強調されるべきである。本発明では、インバータ入力のところで引き出される(又は注入される)電力を減少させ、その結果、消費電流を減少させるためにモータトルクに働きかける。モータの形式がどのようなものであれ、インバータは、内部トルク設定値をサーボ制御することができるモータ駆動ループを有する。インバータの外部から来るトルク設定値(場合によっては車両スーパーバイザを介する車両の運転手の行為)に基づき、そして、電気エネルギー源に対して引き出され(トラクションモードにおいて)又は注入される(再生制動モードにおいて)、観察されるべき消費量の電流を測定することにより、本発明によって電気エネルギー源により許容可能な最大電流を観察するために実際のモータトルク設定値を適合させることができる。本発明をレゾルバ付きの同期モータに関して説明したが、本発明は、非同期モータの駆動にも利用でき、本発明は、ステータに対するロータの位置を得るために相対位置センサ(レゾルバ)を用いる必要なく同期モータの駆動にも利用でき、本発明は、電源電圧の測定の有無にかかわらず、上述した本発明の必須の要素を用いた状態で利用できる。最後に、インバータ電源電流測定及び源で消費される(又は注入される)電力を表す量に作用する調整器により、インバータは、電源ライン上の電流の優れると共に非常に細かく且つ極めて応答性の高い制御を可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電流電気モータを駆動するインバータであって、前記電気モータは、少なくとも2つの相を備えたステータ及びロータを有し、前記インバータは、
・直流電流電気エネルギー源及びDC電圧と関連したDCバスに接続可能な2つの端子(2,10)と、
・前記電気モータ(6)の前記相に接続されるようになった端子ブロック(4)に電流を送る交流電流発生器(3)と、
・前記接続端子と前記交流電流発生器との間の電源ライン(20)と、
・前記電源ライン(20)上の電流の測定値が循環する電源電流測定ライン(210)と、
・各前記相中を循環している交流電流を知るために前記電気モータの或る特定の電源相上の交流電流の測定値が循環する少なくとも1つのモータ電流測定ライン(410,420)と、
・前記電源ライン上を循環している電流の少なくとも1つの「源の限界電流(source limit current)」及びトルク需要設定値(Ccons)を含む情報を受け取る入力(52)と、
・前記電源ライン上の前記電流測定値、前記電気モータの前記相電流の測定値、前記電気エネルギー源の前記限界電流(IdcMax,IdcMin)、トルク需要設定値(C CAN)を受け取るコントローラ(5)と、を有し、前記コントローラは、前記電源ライン(20)を経て流れている電流を前記エネルギー供給源の限度と適合した値に維持することにより前記トルク需要設定値に従って前記電気モータの前記相電流を駆動するために用いられる、電気モータを駆動するインバータ。
【請求項2】
同期モータ用の請求項1記載の電気モータを駆動するインバータであって、前記ロータは、前記ロータと前記ステータの相対位置を与えるレゾルバ(60)と関連しており、前記インバータは更に、
・前記電源ライン(20)上の電圧の測定値が循環する電源電圧測定ライン(220)と、
・前記レゾルバ(60)により送り出される信号を受け取る入力(51)を有し、前記電気モータの相電流を駆動するため、前記コントローラ(5)は、
・前記電源ライン(20)上の電圧の測定値及び前記レゾルバ(60)からの前記信号を更に受け取り、
・前記電気モータの前記相電流を駆動するために前記電気モータのための駆動トルク(Cpil)を定め、前記駆動トルク(Cpil)は、前記電源ライン(20)上の電流が前記源の前記限界電流から隔たったままである限り、前記トルク需要設定値(Ccons)と同一であるようになっており、前記電源ライン(20)上の電流が前記源の前記限界電流に達すると、前記駆動トルク(Cpil)を前記トルク需要設定値(Ccons)に対して減少させて前記電源ライン(20)上の前記源の前記限界電流を超えないようにする、請求項1記載の電気モータを駆動するインバータ。
【請求項3】
・前記電源ラインに設けられた電流センサ(21)、前記電流センサ(21)は、その測定値を前記電源電流測定ライン(210)上に送り、
・前記電源ラインの電圧センサ(22)、前記電圧センサ(22)は、その測定値を前記電源電圧測定ライン(220)上に送り、
・前記電気モータに電力供給する或る特定の相に設けられた2つの交流電流センサ(41,42)、前記交流電流センサ(41,42)は、これらの測定値を前記少なくとも1つのモータ電流測定ラインのうちの2つ(410,420)上に送る、前記電流センサ(21)、前記電圧センサ(22)及び前記交流電流センサ(41,42)が統合されている、請求項1又は2記載の電気モータを駆動するインバータ。
【請求項4】
前記コントローラ(5)からの駆動指令を受け取り、そして電流発生器(3)の電力用トランジスタを駆動する駆動段(9)を有する、請求項1〜3のうちいずれか一に記載の電気モータを駆動するインバータ。
【請求項5】
前記「源の限界電流」は、前記電気モータがトラクションモードで作動しているとき、前記電気エネルギー源から引き出される電流に対応した正符号の最大電流設定値(IdcMax)及び前記電気モータが再生制動モードで作動しているとき、前記電気エネルギー源に戻される電流に対応した負符号の最小電流設定値(IdcMin)を含む、請求項1〜4のうちいずれか一に記載の電気モータを駆動するインバータ。
【請求項6】
前記コントローラは、前記最大電流設定値を受け取る処理ライン及び前記最小電流設定値を受け取る処理ライン並びに前記電流の符号に応じて一方のラインと他方のラインを切り替えるモジュールを有する、請求項5記載の電気モータを駆動するインバータ。
【請求項7】
前記コントローラは、入力として前記駆動設定値(C CAN)を受け取り、再処理した駆動トルク設定値(Ccons)を送り出す「トルクランプ」ブロック(96)を有する、請求項1〜6のうちいずれか一に記載の電気モータを駆動するインバータ。
【請求項8】
電気自動車のトラクションのために用いられる電気モータ用の請求項1〜7のうちいずれか一に記載の電気モータを駆動するインバータ。
【請求項9】
電気エネルギー源としてのバッテリに用いられる請求項1〜7のうちいずれか一に記載の電気モータを駆動するインバータ。
【請求項10】
モータ駆動ループを有する請求項1〜9のうちいずれか一に記載の電気モータを駆動するインバータであって、前記ループは、
・インバータの外部から来たトルク設定値を受け取る手段と、
・前記エネルギー供給源上に引き出され又は注入された電流を測定する手段と、
・前記トルク設定値及び前記電流に基づいて、実際の電気トルク設定値を適合させる手段とを含む、請求項1〜9のうちいずれか一に記載の電気モータを駆動するインバータ。
【請求項11】
請求項1〜10のうちいずれか一に記載のインバータにより駆動される電気モータのトルクコンシステンシーをチェックする方法であって、前記方法は、次のステップ、即ち、
・前記インバータの電源ライン上の電流及び電圧を測定するステップ、
・前記電流及び電圧の測定値から、前記インバータの入力のところで消費される電力を算定するステップ、
・妥当なロス値を差し引くことにより、消費された電気電力から機械的動力を算定するステップ、
・算定した前記機械的動力及びモータシャフトを回転速度から、前記電気モータの出力シャフト上の機械的トルクを算定するステップ、
・前記機械的トルクを前記トルク設定値と比較するステップ、及び
・差が所定のしきい値を超えた場合に警告を作動させるステップを有する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−512647(P2013−512647A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540354(P2012−540354)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/067185
【国際公開番号】WO2011/064095
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(512068547)コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン (169)
【出願人】(508032479)ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム (499)
【Fターム(参考)】