説明

一回冷間圧延法による方向性珪素鋼の製造方法

1)精錬と連続鋳造で成分が質量百分比でC 0.035〜0.065%、Si 2.9〜4.0%、Mn 0.08〜0.18%、S 0.005〜0.012%、Als 0.015〜0.035%、N 0.0050〜0.0130%、Sn 0.001〜0.15%、P 0.010〜0.030%、Cu 0.05〜0.60%、Cr ≦ 0.2%、残部:Fe及び不可避な不純物である鋳造ビレットを得る製錬工程と、2)熱間圧延工程と、3)焼ならし焼鈍工程と、4)圧下率が75〜92%の一回冷間圧延工程と、5)脱炭焼鈍工程と、6)高温焼鈍工程と、7)熱平坦化焼鈍工程と、を含む一回冷間圧延法により方向性珪素鋼を製造する方法。この方法は熱間圧延板の焼ならし焼鈍プロセスを制御することにより、スラブが脱炭焼鈍と高温焼鈍の低温段階で窒素を吸収することを活用して、有益な介在物を形成させ、安定な二次再結晶組織を得るのに有利である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性珪素鋼の製造方法に関し、特に、一回冷間圧延法により方向性珪素鋼を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
伝統的な方向性珪素鋼の製造方法は以下の通りである。
転炉(または電気炉)で製鋼し、二次精錬及び合金化を行い、基本的な化学成分がSi(2.5〜4.5%)、C(0.01〜0.10%)、Mn(0.03〜0.1%)、S(0.012〜0.050%)、Als(0.01〜0.05%)、N(0.003〜0.012%)で、成分系にさらにCu、Mo、Sb、Cr、B、Bi等の元素のうちの1種または複数種が含まれることもあり、残部が鉄及び不可避な不純物元素であるスラブを連続鋳造する。
【0003】
後の熱間圧延工程で珪素鋼マトリックスに微細で散在の第2相粒子、即ち抑制剤を析出させるように、スラブを専用の高温加熱炉内に1400℃程度の温度に加熱し、かつ30分間以上の保温をし、有益な介在物を充分に固溶させる。熱間圧延板を焼ならした後(または焼ならしせずに)、酸洗を行って表面における酸化鉄皮膜を除去する。一回または中間焼鈍が介在する二回以上の冷間圧延で製品の厚さにして、脱炭焼鈍及びMgOを主成分とする焼鈍分離剤の塗布を行うことによって、鋼板における[C]を製品の磁性に影響を与えない程度(通常は30ppm以下)にする。高温焼鈍工程において、鋼板では二次再結晶、Mg2SiO4のベース層の形成及び浄化(鋼におけるS、Nなどの磁性に有害な元素の除去)などの物理・化学的変化が起こり、方向性が高くて鉄損が低い方向性珪素鋼が得られる。最後に、絶縁コーティングの塗布と伸張焼鈍を経って、商業用形態の方向性珪素鋼製品が得られる。
【0004】
伝統的な方向性珪素鋼の著しいて特徴は以下の通りである。
(1)抑制剤は製鋼の最初から形成し、後の各工程でその作用を発揮するため、制御と調整が必要になる。
(2)スラブが高温で加熱され、加熱温度が伝統的な加熱炉の限界である1400℃に達し、圧延ラインにおける温度降下の制御も従来の熱間圧延技術の限界である。
(3)製造プロセスの肝心なところは各段階の鋼板の組織と集合組織及び抑制剤の挙動である。
(4)高温で加熱するため、加熱炉は頻繁な修理が必要で、利用率が低いとともに、焼損が激しくてエネルギー消費が高く、熱間圧延ロールの縁亀裂が大きいことより、冷間圧延工程による製造が難しくなり、歩留まりが低くなり、コストが高くなる。
【0005】
高温での方向性珪素鋼の製造技術は、半世紀余りの発展を経ってすでに非常に成熟になり、電力・電子産業の発展に貢献し、最高品質の方向性珪素鋼製品を製造したが、煩雑な製造プロセス、高い技術力、企業の間の厳しい技術封鎖及び製品の専用性と総需要量が少ないなどの原因で、この技術を掌握する鋼鉄メーカが少ない。一方、高温で加熱するという特徴のため、例えば専用の高温加熱炉が必要になり、生産性が劣り、コストが高いなどの一連の問題が生じる。
【0006】
これらの問題を解決するために、長期間の生産実践と研究で、成功した方法がいくつか探索・開発された。以下で簡単に説明する。
(1)電磁誘導加熱による方法
新日鉄と川崎はいずれも電磁誘導加熱技術を持っており、本質的には、この方法も高温でのスラブ加熱方法であるが、従来の方法との違いは、スラブを高温で加熱する段階で、電磁誘導加熱炉にN2とH2の2種の保護ガスを導入し、雰囲気を精確に制御し、スラブの高温による酸化を低減すること、及び加熱の速度が速いので高温の炉内に滞在する時間を低減することである。この方法は、縁亀裂の問題をよく解決し、縁亀裂を15mm以下に減少することができ、方向性珪素鋼の生産性を改善したが、縁亀裂を完全に除去することができない。
(2)中温での方向性珪素鋼の製造方法
ロシアのVIZなどのメーカは、スラブの加熱温度が1250〜1300℃で、化学成分におけるCuの含有量が高く、AlNとCuを抑制剤とする中温での方向性珪素鋼の製造技術を採用する。高温での方法と同じく、この方法に係る抑制剤も先天的な抑制剤である。この方法は、高温での加熱による縁亀裂の問題を完全に回避できるが、通常の方向性珪素鋼しか製造できず、高電磁誘導の方向性珪素鋼が製造できないのが欠点である。
(3)日本の低温でのスラブ加熱方法
スラブは1250℃以下で加熱され、熱間圧延板は縁亀裂がなく、生産性は優れている。抑制剤は、脱炭焼鈍後の窒化で得られる後天的な獲得性抑制剤であり、通常の方向性珪素鋼も製造できるし、高電磁誘導の方向性珪素鋼も製造できる。
(4)CSPによる方向性珪素鋼の製造方法
この方法も方向性珪素鋼の熱間圧延による縁亀裂という問題を解決し、生産性を向上させ、製造コストを低減させた。抑制剤も窒化で得られる後天的な獲得性抑制剤である。
【0007】
言うまでもなく、低温でのスラブ加熱技術は高温でのスラブ加熱技術の固有の欠陥を徹底的に解決し、生産性を向上させ、コストを低減させ、技術の発展方向を代表する。
【0008】
日本の低温方向性珪素鋼技術、例えば日本特許の[平3−211232]に開示された方法では、その化学成分1は[C] 0.025%〜0.075%、Si 2.5%〜4.5%、S≦0.015%、Als 0.010〜0.050%、N≦0.0010〜0.0120%、Mn 0.05〜0.45%、Sn 0.01〜0.10%、残部がFe及び不可避な不純物である。スラブを1200℃以下で加熱してから熱間圧延し、一回または中間焼鈍が介在する二回以上の冷間圧延で最終の製品の厚さに圧延して、冷間圧延圧下率を80%以上にし、次に脱炭焼鈍と高温焼鈍を行い、脱炭焼鈍と高温焼鈍の二次再結晶の開始段階で窒化する。
【0009】
化学成分2は[C] 0.025%〜0.075%、Si 2.5%〜4.5%、S≦0.015%、Als 0.010〜0.050%、N≦0.0010〜0.0120%、B:0.0005〜0.0080%、Mn 0.05〜0.45%、Sn 0.01〜0.10%、残部がFe及び不可避な不純物である。スラブを1200℃以下で加熱してから熱間圧延し、一回または中間焼鈍が介在する二回以上の冷間圧延で最終の製品の厚さに圧延して、冷間圧延圧下率を80%以上にし、次に脱炭焼鈍と高温焼鈍を行い、脱炭焼鈍と高温焼鈍の二次再結晶の開始段階で窒化する。
【0010】
脱炭焼鈍後、鋼板の酸素含有量は12mil換算で、[O]ppm=55t±50(t:板厚、単位:mil)である。この方法によれば、高電磁誘導の方向性珪素鋼が製造できる。
【0011】
特開平5−112827に掲示された方法では、その化学成分は[C] 0.025%〜0.075%、Si 2.9%〜4.5%、S≦0.012%、Als 0.010〜0.060%、N≦0.010%、Mn 0.08〜0.45%、P 0.015〜0.045%、残部がFe及び不可避な不純物である。スラブを1200℃以下で加熱してから熱間圧延する。一回または中間焼鈍が介在する二回以上の冷間圧延で最終の製品の厚さに圧延し、脱炭焼鈍後、鋼板を前進中で連続窒化し、分離剤を塗布してから高温焼鈍して、磁性もベース層品質も優れた方向性珪素鋼を製造する。連続窒化法では、保護雰囲気がH2とN2との混合ガスで、NH3含有量が1000ppm以上、酸素ポテンシャルがpH2O/pH2≦0.04、窒化温度が500〜900℃である。
【0012】
高温焼鈍の時、600〜850℃の温度範囲内で弱酸化雰囲気を保持する。
ACCIAI SPECIALI TERNI社の低温での方向性珪素鋼の製造技術、即ち中国特許CN1228817Aに掲示された方法では、その化学成分はSi 2.5〜5%、C 0.002〜0.075%、Mn 0.05〜0.4%、S(或いはS+0.503Se)<0.015%、酸可溶性Al 0.010〜0.045%、N 0.003〜0.013%、Sn≦0.2%、残部がFe及び不可避な不純物である。上記成分の鋼を薄スラブにキャストし、1150〜1300℃の温度で加熱し、熱間圧延してから、焼ならし焼鈍及び圧下率が80%超の最終冷間圧延を行い、最終高温焼鈍の時、鋼の窒素吸収量が50ppm未満になるように焼鈍雰囲気を制御する。この方法は主に薄いスラブの連続鋳造による方向性珪素鋼の製造に適する。窒化プロセスは採用されていない。
【0013】
中国特許CN1231703Aに掲示された方法では、化学成分系は低炭素で銅含有成分系に属し、製造方法も前記特許とほぼ同じであるが、その違いは、脱炭焼鈍後、鋼板を窒化し、窒化温度を900〜1050℃にし、窒化量を50ppm未満にすることである。この方法は薄いスラブによる方向性珪素鋼の製造に適する。
【0014】
中国特許CN1242057Aに掲示された方法では、その化学成分はSi 2.5〜4.5%;C 150〜750ppm、好ましくは250〜500ppm;Mn 300〜4000ppm、好ましくは500〜2000ppm;S<120ppm、好ましくは50〜70ppm;酸可溶性Al 100〜400ppm、好ましくは200〜350ppm;N 30〜130ppm、好ましくは60〜100ppm;Ti<50ppm、好ましくは30ppm未満;残部がFe及び不可避な不純物である。スラブ加熱温度は1200〜1320℃で、窒化温度は850〜1050℃である。それ以外は上記の二つのプロセスとほぼ同じである。
【0015】
中国特許CN1244220Aに掲示された方法は、窒化と脱炭を同時に行うことを特徴とする。
他の特許は、要点が熱間圧延板に散在析出相があって高温窒化が簡単になることにある。窒化温度は900〜1000℃である。以上のように、ACCIAI SPECIALI TERNI社の低温技術は高温窒化及び/或いは薄いスラブの連続鋳造法による方向性珪素鋼の製造に限られて、その要点は熱間圧延板に散在析出相があって高温窒化法の適用が簡単になり、窒化は脱炭と同時に又は脱炭してから行うことにある。
【0016】
韓国POSCO社の低温方向性珪素鋼の化学成分は、C 0.02〜0.045%、Si 2.9〜3.30%、Mn 0.05〜0.3%、酸可溶性Al 0.005〜0.019%、N 0.003〜0.008%、S<0.006%、Cu 0.30〜0.70%、Ni 0.30〜0.70%、Cr 0.30〜0.70%、残部がFe及び不可避な不純物である。また、鋼のB含有量は0.001〜0.012%である。脱炭と窒化は同時に行い、ウェット雰囲気中で窒化する。この方法は、BNを主抑制剤とすることに基づくものである。
【0017】
さらに、中国特許85100664号及び88101506.7号に掲示された方法は、いずれも抑制剤を加熱工程で固溶させ、圧延工程で析出を制御するという伝統的なプロセスに基づくものであり、実際の加熱温度は1300℃近くになり、本発明に係る方法とは根本的に異なっている。宝鋼が出願した特許ZL200410099080.7に掲示された方法では、脱炭する前に窒化を行う。
【0018】
国内外の窒化プロセスによる低温スラブ加熱で方向性珪素鋼を製造する技術に関する特許や文献などにサーチ・分析したところ、以下の知見に至った。
【0019】
日本の技術は、脱炭焼鈍から二次再結晶までの過程で鋼板を窒化することに集中し、窒化温度が低く、抑制剤が高温焼鈍の前期に形成する。ヨーロッパの技術では、脱炭焼鈍してから、或いは脱炭焼鈍と同時に窒化を行い、窒化温度が高い。POSCOの技術は低炭・低Al成分系に適し、窒化は脱炭と同時に行われる。
【0020】
日本の窒化プロセスで方向性珪素鋼を製造する場合は、鋼板内に抑制剤がなく、一次再結晶の結晶粒の成長を抑制することができず、主には温度と時間によって一次再結晶の結晶粒サイズを制御するため、脱炭焼鈍及び窒化プロセスの制御に対する要求が高く、プロセスウィンドウが狭い。一方、窒化は脱炭焼鈍の後で行われ、すでに鋼板表面にSiO2を主成分とする酸化層が形成されているため、窒化の均一性と窒化挙動は表面酸化層の影響を受けやすい。ACCIAI SPECIALI TERNI社の技術は、高温窒化を特徴とし、このプロセスを実現するために、熱間圧延板に散在の第2相粒子を析出させる必要があり、スラブの加熱温度が例えば1250℃程度の高温になるので、熱間圧延板における有益な介在物を制御することが必要になる。なお、窒化は脱炭してから、或いは脱炭焼鈍と同時にを行われる。POSCOも脱炭と窒化を同時に行うプロセスを採用し、窒化に対する鋼板の表面酸化層の影響は回避できない。また、鋼は、Al含有量が低くてBNを主抑制剤とし、Bの不安定性が抑制能の不安定を招き、磁性の安定性が大きな影響を受けてしまう。
【0021】
多種の低温でのスラブ加熱技術による方向性珪素鋼の化学成分系の比較を表1に示す。
【0022】
【表1】

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
発明の内容
前述のように、高温でのスラブ加熱方法による方向性珪素鋼の製造は、エネルギー消費が高く、加熱炉の利用効率が低く、熱間圧延板の縁亀裂が大きく、生産性が劣り、コストが低いというような固有の欠点を有するが、低温でのスラブ加熱技術による方向性珪素鋼の製造はこれらの問題をよく解決できるため、その開発が切望されている。従来の特許文献に掲示された低温でのスラブ加熱技術による方向性珪素鋼の製造は、殆ど窒化プロセスに基づくものである。
【0024】
本発明は、熱間圧延板の焼ならし・冷却プロセスを制御することにより、スラブが脱炭焼鈍と高温焼鈍の低温保持段階で窒素を吸収することを活用して、(Al、Si)Nの有益な介在物を十分に形成させ、その一次再結晶の結晶粒に対する抑制作用によって、鋼板の一次再結晶組織を有効に制御することができ、安定で完全な二次再結晶製品組織を得るのに有利である、一回冷間圧延法により方向性珪素鋼を製造する方法を提供することを目的とする。そして、本発明は、他の特許に使用されるアンモニアガスによる窒化のベース層に対する悪影響を克服し、良好なガラス膜のベース層を得るのに有利である。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記目的を達成するために、本発明の主旨は以下の通りである。
1)製錬
転炉や電気炉で製鋼し、溶鋼を二次精錬・連続鋳造して、成分が質量百分比でC 0.035〜0.065%、Si 2.9〜4.0%、Mn 0.08〜0.18%、S 0.005〜0.012%、Als 0.015〜0.035%、N 0.0050〜0.0130%、Sn 0.001〜0.15%、P 0.010〜0.030%、Cu 0.05〜0.60%、Cr ≦ 0.2%、残部:Fe及び不可避な不純物である鋳造ビレットを得る工程と、
2)熱間圧延
鋳造ビレットを加熱炉内で1090〜1200℃に加熱し、1180℃未満の温度で圧延を開始し、860℃以上の温度で圧延を終了し、厚さ1.5〜3.5mmの熱間圧延板に圧延し、巻取り温度を500〜650℃とする工程と、
3)焼ならし
焼鈍温度:1050〜1180℃(1〜20秒)+(850〜950℃×30〜200秒)で焼ならし焼鈍を行い、且つ冷却温度:10℃/s〜60℃/sで冷却する工程と、
4)冷間圧延
一回冷間圧延法により冷間圧延圧下率75〜92%で製品の板厚に圧延する工程と、
5)脱炭
脱炭温度の制御範囲が780〜880℃、保護雰囲気の露点が40〜80℃、脱炭時間:80〜350秒、保護雰囲気:H2とN2の混合ガス、H2含有量:15〜85%、脱炭板表面全酸素[O]:171/t≦ [O] ≦ 313/t (tは鋼板の実際の厚さ、mm),窒素吸収量:2〜10ppmの条件で、製品の厚さに圧延した鋼板に脱炭焼鈍を行い、MgOを主成分とする高温焼鈍分離剤を塗布する工程と、
6)高温焼鈍
1000度以下に制御される焼鈍保護雰囲気:H2とN2の混合ガス或いは純N2、保護雰囲気の露点が0〜50℃、一段階目の保温時間:6〜30hr、5トン以上の鋼コイルに対する最適な低温保持時間:8〜15hの条件で高温焼鈍し、窒素吸収量を10〜40ppmとする工程と、
7)熱平坦化焼鈍
通常の熱平坦化プロセスにしたがって行う工程と、
を含む、一回冷間圧延法により方向性珪素鋼を製造する方法である。
【0026】
方向性珪素鋼には、上記の基本成分の他、さらに質量百分比で0.01〜0.10%のMo及び/或いは0.2%以下のSbを添加しても良い。
【0027】
また、図1に示すように、焼ならし板の厚さ方向には、板厚1/4〜1/3と板厚2/3〜3/4の2箇所におけるゴス集合組織(110)[001]と立方体集合組織(001)[110]の比率が0.2 ≦ I(110)[001]/ I(001)[110] ≦ 8、好ましくは0.5 ≦ I(110)[001]/ I(001)[110] ≦ 2に制御され、ただし、I(110)[001]とI(001)[110]はそれぞれゴス集合組織と立方体集合組織の強度である。
【0028】
ゴス集合組織を有する結晶粒が占める割合は高すぎると、優先成長に不利となり、二次再結晶後の結晶粒の配向度を降下させ、磁性に影響を与えてしまい、立方体集合組織を有する結晶粒が占める割合は高すぎると、高温焼鈍済みの鋼板に大量の同類の微細結晶が生じ、磁性に影響を与えてしまう。また、冷却速度を制御することで、抑制剤サイズの最適化が実現できる。
【0029】
さらに、焼ならし板の板厚1/4〜1/3と板厚2/3〜3/4の2箇所において、ゴス集合組織を有する結晶粒数の合計結晶粒数における割合は5%以上である。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る方法の顕著な利点は
(1)高温での方向性珪素鋼の製造方法の固有の矛盾を完全に解決し、エネルギー消費が低く、製造コストが低い。また、専用の高温スラブ加熱炉が不要になるため、生産の融通性が大きく向上し、熱間圧延機の生産能力の制限にならず、潜在利益が大きい。
(2)化学成分の面で、SとCuの含有量制御範囲が確定され、抑制剤が散在かつ微細で安定に析出することが保障される。
(3)焼ならしプロセスの調整によって、集合組織と一部の抑制剤の析出が最適化される。
(4)アンモニアガスまたは他の窒化媒体で鋼板に特殊な窒化処理をする必要がないので、コストが低減し、環境が保護される。
(5)アンモニアガス窒化を採用しないので、ベース層に対する窒化の影響が回避され、優れたガラス膜ベース層を形成させるのに有利である。
【0031】
伝統的な方向性珪素鋼の製造プロセスは、熱間圧延或いは熱間圧延板の焼鈍の過程で微細で均一なMnS、AlNなどの抑制剤を形成させるために、鋳造ビレットにおける粗大なMnS、AlN析出物を固溶させるように鋳造ビレットを1350〜1400℃に加熱しておく必要があるため、1種のスラブ高温加熱技術である。高温加熱技術による酸化、縁亀裂などの厳しい問題を克服するために、窒化により獲得性抑制剤を形成させるなどの方向性珪素鋼スラブ低温加熱技術が開発され、主には、例えば特許平1−230721号公報、平1−283324号公報などのように、高温焼鈍分離剤に窒化化学成分を添加した後、高温焼鈍の段階で鋼帯を窒化し、(Al,Si)N等の抑制剤を形成させる技術と、高温焼鈍の昇温段階の窒化雰囲気によって窒化する技術と、の2種類がある。これらは、いずれも窒化不均一などの理由で磁性の安定した製品を得られなかった。これに基づき、中間焼鈍と脱炭焼鈍の後或いは脱炭焼鈍と同時に、雰囲気に活性の強いアンモニアを導入する技術が現れた。本発明は、窒化媒体としてアンモニアガスを使用していない。高温焼鈍の昇温段階の前に、鋼板の窒素含有量の増加は主に脱炭焼鈍と高温焼鈍の低温保持段階の保護雰囲気における窒素の分解によるものであり、上記特許のいずれとも異なっている。
【0032】
また、本発明は伝統的な連続鋳造工程を採用するため、特許US6273964B1とUS6296719B1に掲示された薄いスラブの連続鋳造・連続圧延の方向性珪素鋼製造プロセスと大きく異なっている。
【0033】
ACCIAI SPECIALI TERNI社の技術は、高温窒化の特許に属し、窒化手段も脱炭後または脱炭と同時に窒化を行う方法を採用し、本発明に係る方法と異なっている。中国特許85100664号と88101506.7号に掲示された方法は、いずれも抑制剤を加熱工程で固溶させ、圧延工程で析出を制御するという伝統的なプロセスに基づくものであり、実際の加熱温度は1300℃近くになり、本発明に係る方法とは根本的に異なっている。
【0034】
本発明によれば、熱間圧延板の焼ならしプロセスを調整することにより、焼ならし済みの鋼板の集合組織と有益な介在物量に対する最適化が実現され、脱炭焼鈍工程で保護雰囲気における窒素/水素比、温度、時間及び露点を制御することにより、脱炭と鋼板表面の酸素含有量に対する精確な制御が実現され、優れたベース層を得る事が確保されるとともに、保護雰囲気における窒素/水素比を制御することにより、鋼板に窒素を吸収させ、高温焼鈍工程の低温保持段階の保護雰囲気における窒素/水素比を制御することにより、適量の抑制剤を得て、二次再結晶の完全性を確保する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る焼ならし板の板厚1/4〜1/3と板厚2/3〜3/4の2箇所の概念図である。
【図2】本発明に係る優れたベース層を獲得可能な脱炭プロセスの制御範囲の図である。
【図3】本発明に係る窒素吸収量を10ppm以上とする制御の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の最良な実施形態
【実施例】
【0037】
実施例1
500kg真空炉で製鋼し、化学成分及び熱間圧延条件を表2及び表3に示す。焼ならし条件は1130℃×5s+930℃×70s+50℃/sでの冷却であって、帯鋼を0.30mmに冷間圧延し、脱炭とMgO分離剤の塗布をしてから高温焼鈍と平坦化焼鈍を行い、絶縁層を塗布し、磁気性能を計測した。交差実験の結果を表4に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

【0041】
実施例2
表2のA成分と表3のC熱間圧延条件との鋼を用いて焼ならし条件実験を行って、1120℃×6s + 910℃×X s+ Y ℃/sの焼ならしプロセス条件の集合組織に対する影響を表5に示し、焼プロセス条件と磁性の関係を表6に示す。
【0042】
【表5】

【0043】
【表6】

【0044】
実施例3
表2のA成分と表3のC熱間圧延条件との鋼を用いて焼ならし条件実験を行って、焼ならしプロセス条件は1120℃×5s+910℃×70 + 20℃/sであり、磁性とベース層に対する脱炭時間、温度、露点の影響を表7及び表8に示す。
【0045】
【表7】

【0046】
【表8】

【0047】
図2に示すように、優れたベース層品質を獲得可能な脱炭温度と脱炭酸化能(露点、水素ガス比率)が明らかになった。
【0048】
実施例4
表2のA成分と表3のC熱間圧延条件との鋼を用いて焼ならし条件実験を行って、焼ならしプロセス条件は1120℃×5s+910℃×70 + 20℃/sで、脱炭は850℃×200sで、露点は+60℃であり、磁性に対する高温焼鈍の昇温段階の1000℃以下の保護雰囲気における窒素比率、露点、時間の影響を表9に示す。
【0049】
【表9】

【0050】
図3は窒素吸収量に対する保護雰囲気における窒素比率と低温保持時間の影響を示すもので、窒素吸収量≧1ppmという有利な高温焼鈍条件が図示され、優れた磁性が得られる。
【0051】
実施例5
500kg真空炉で製鋼し、化学成分を表10に示す。表3のCに示す熱間圧延条件にしたがって熱間圧延を行い、その後1150℃×5s+930℃×70s+35℃/sという冷却プロセスで熱間圧延板の焼ならしを行い、帯鋼を0.30mmに冷間圧延し、850℃×200sで脱炭し、MgO分離剤を塗布してから高温焼鈍と平坦化焼鈍を行い、絶縁層を塗布し、磁気性能を計測し、結果も表10に示す。
【0052】
【表10】

【0053】
以前から、方向性珪素鋼の製造方法はいずれも、スラブ高温加熱の手段を採用し、スラブ加熱温度を1400℃の高温とし、有益な介在物を充分固溶させ、且つ加熱後で高温圧延を行い、有利な介在物分布とサイズを得て、高温焼鈍の時、一次再結晶の結晶粒を抑制し、優れた二次再結晶組織を得るものである。この製造方法の欠点は、
(1)専用の高温加熱炉が必要になることと、
(2)高温で加熱するため、スラブ表面の溶融スラグが大量に生じることより、加熱炉は頻繁な修理が必要で、メンテナンス費用が嵩み、炉の作業効率が低下することと、
(3)スラブの厚さは通常200〜250mmであって、均一に加熱するために、長時間の加熱が必要になり、エネルギー消費が高いことと、
(4)スラブ内の柱状結晶が発達し、結晶粒界が酸化されることより、縁亀裂が大きく、後工程の生産性が劣り、歩留まりが低くなり、製造コストが高くなることと、
にある。
【0054】
本発明に係る方法は上記の問題を有効に解決し、且つ日本、韓国及びACCIAI SPECIALI TERNI社などの方法に比べて、本発明に係る方法は、焼ならしにより抑制剤のサイズと集合組織を最適化し、かつ脱炭焼鈍と高温焼鈍の段階で鋼板に窒素を吸収させて付加の(Al、Si)Nの有益な介在物を形成させることにより、鋼板の一次再結晶組織を有効に制御することができ、安定で完全な二次再結晶製品組織を得るのに有利である。そして、この方法は特殊な窒化処理を使用することなく、窒化装置が不要で、優れたベース層の形成に極めて有利である。
【0055】
低温でのスラブ加熱技術による方向性珪素鋼の製造は方向性珪素鋼の発展の先端技術を代表して、本発明の方法は、実施装置がいずれも方向性珪素鋼の通常の製造設備であり、技術の実現が簡単なので、良好な普及と応用の将来性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)製錬
転炉や電気炉で製鋼し、溶鋼を二次精錬・連続鋳造して、成分が質量百分比でC 0.035〜0.065%、Si 2.9〜4.0%、Mn 0.08〜0.18%、S 0.005〜0.012%、Als 0.015〜0.035%、N 0.0050〜0.0130%、Sn 0.001〜0.15%、P 0.010〜0.030%、Cu 0.05〜0.60%、Cr ≦ 0.2%、残部:Fe及び不可避な不純物である鋳造ビレットを得る工程と、
2)熱間圧延
鋳造ビレットを加熱炉内で1090〜1200℃に加熱し、1180℃未満の温度で圧延を開始し、860℃以上の温度で圧延を終了し、厚さ1.5〜3.5mmの熱間圧延板に圧延し、巻取り温度を500〜650℃とする工程と、
3)焼ならし
焼鈍温度:1050〜1180℃(1〜20秒)+(850〜950℃×30〜200秒)で焼ならし焼鈍を行い、且つ冷却温度:10℃/s〜60℃/sで冷却する工程と、
4)冷間圧延
一回冷間圧延法により冷間圧延圧下率75〜92%で製品の板厚に圧延する工程と、
5)脱炭
脱炭温度の制御範囲が780〜880℃、保護雰囲気の露点が40〜80℃、脱炭時間:80〜350秒、保護雰囲気:H2とN2の混合ガス、H2含有量:15〜85%、脱炭板表面全酸素[O]:171/t≦ [O] ≦ 313/t (tは鋼板の実際の厚さ、mm),窒素吸収量:2〜10ppmの条件で、製品の厚さに圧延した鋼板に脱炭焼鈍を行い、高温焼鈍分離剤を塗布する工程と、
6)高温焼鈍
1000度以下の焼鈍保護雰囲気:H2とN2の混合ガス或いは純N2、保護雰囲気の露点が0〜50℃、一段階目の保温時間:6〜30hrの条件で高温焼鈍し、窒素吸収量を10〜40ppmとする工程と、
7)熱平坦化焼鈍
通常の熱平坦化プロセスにしたがって行う工程と、
を含む、一回冷間圧延法により方向性珪素鋼を製造する方法。
【請求項2】
方向性珪素鋼には、上記の基本成分の他、さらに質量百分比で0.01〜0.10%のMo及び/或いは0.2%以下のSbを添加する、ことを特徴とする請求項1に記載の一回冷間圧延法により方向性珪素鋼を製造する方法。
【請求項3】
焼ならし板の板厚1/4〜1/3と板厚2/3〜3/4の2箇所におけるゴス集合組織(110)[001]と立方体集合組織(001)[110]の比率が0.2 ≦ I(110)[001]/ I(001)[110] ≦ 8に制御される(ただし、I(110)[001]とI(001)[110]はそれぞれゴス集合組織と立方体集合組織の強度である)、ことを特徴とする請求項1に記載の一回冷間圧延法により方向性珪素鋼を製造する方法。
【請求項4】
ゴス集合組織(110)[001]と立方体集合組織(001)[110]の比率が、好ましくは0.5 ≦ I(110)[001]/ I(001)[110]≦ 2に制御される、ことを特徴とする請求項1に記載の一回冷間圧延法により方向性珪素鋼を製造する方法。
【請求項5】
焼ならし板の板厚1/4〜1/3と板厚2/3〜3/4の2箇所において、ゴス集合組織を有する結晶粒数の合計結晶粒数における割合は5%以上である、ことを特徴とする請求項1に記載の一回冷間圧延法により方向性珪素鋼を製造する方法。
【請求項6】
5トン以上の鋼コイルに対して、一段階目の保温時間は8〜15hである、ことを特徴とする請求項1に記載の一回冷間圧延法により方向性珪素鋼を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−518947(P2011−518947A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−502219(P2011−502219)
【出願日】平成21年12月31日(2009.12.31)
【国際出願番号】PCT/CN2009/076317
【国際公開番号】WO2010/075797
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(302022474)宝山鋼鉄股▲分▼有限公司 (17)
【Fターム(参考)】