説明

一方向走行式ワイヤソー

【課題】ウェーハ面内での厚さバラつきを抑えることが可能な一方向走行式ワイヤソーを提供する。
【解決手段】上流側のグルーブローラに形成された各ワイヤ溝のピッチの方を、下流側のグルーブローラの各ワイヤ溝のうち、ワイヤの走行方向に隣接したワイヤ溝のピッチより大きくした。そのため、切断溝の上流側で、スラリーがワイヤに多量に付着して引き込まれることにより取り代の大きい研削を行っても、切断溝の上流側のウェーハ厚さを、その出側のウェーハ厚さと同程度にすることができる。これにより、ウェーハ面内での厚さバラつきを抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一方向走行式ワイヤソー、詳しくはワイヤを一方向へのみ走行させることで、例えば多結晶シリコンインゴットから多数枚の太陽電池用多結晶シリコンウェーハをスライスする一方向走行式ワイヤソーに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、多数枚の太陽電池用の多結晶シリコンウェーハ(以下、ウェーハ)を多結晶シリコンインゴット(以下、インゴット)から切り出すスライス工程では、一般にワイヤソーが使用されている。具体的には、遊離砥粒と分散液とを混合したスラリーを切削加工液として用い、これを走行中のワイヤ列上に供給し、ワイヤ列に付着したスラリーを利用してインゴットからウェーハをスライスする。
【0003】
ワイヤ列の走行方式の1種として、図4に示すように、ワイヤソー100内に配置された上流側のグルーブローラ102と、下流側のグルーブローラ103との間に、ワイヤ104aを架け渡して得たワイヤ列104を、一方向へのみ走行させる一方向走行方式が知られている(例えば特許文献1)。両グルーブローラ102,103の外周面には、ライニング材を介してローラの長さ方向へ一定ピッチPで、多数本のワイヤ溝105が形成されている。このような一方向走行方式のワイヤソー100によるインゴット101のスライスでは、ワイヤ列104の一方向への走行中、インゴット101の押し付け位置Xより上流側のワイヤ列104上に遊離砥粒を含むスラリーSを供給し、これを上流側からインゴット101の切断溝(スライス溝)101aに送り込ながら、インゴット100からウェーハWをスライスする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−229801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような一方向走行方式のワイヤソー100を用いたインゴット切断によれば、各切断溝101aの上流側では、スラリーSがワイヤ104aに多量に付着して切断溝101aの中に引き込まれることにより溝幅が大きい研削となってウェーハWの厚さが薄くなり、かつ各切断溝101aの下流側では、ワイヤ104aに付着するスラリーSが徐々に減ることで幅が狭い研削となってウェーハWが厚くなっていた。その結果、ウェーハ面内での厚さバラつき(傾き)が大きくなっていた。
ここでの「厚さバラつき」の程度は、スラリーSの遊離砥粒の大きさ、インゴット101の送り速度、ワイヤ104aの走行速度などのスライス条件により異なるものの、一般的には10〜20μmである。
【0006】
そこで、発明者は、鋭意研究の結果、このように各切断溝の上流側と下流側とでウェーハの厚さが異なるのは、各グルーブローラに形成された多数本のワイヤ溝が、その長さ方向へ一定ピッチPで配置されていることが原因であることを発見した。これを踏まえ、切断溝の上流側では溝幅が大きい研削となることを考慮し、下流側のグルーブローラの溝ピッチより、上流側のグルーブローラの溝ピッチの方を大きくすれば、一方向走行式によるインゴット切断であっても、ウェーハ面内での厚さバラつきが抑えられることを知見し、この発明を完成させた。
【0007】
この発明は、ウェーハ面内での厚さバラつきを抑えることができる一方向走行式ワイヤソーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、多数本のワイヤ溝が長さ方向へ離間して形成された少なくとも2本のグルーブローラと、前記多数本のワイヤ溝を介して、前記グルーブローラ間にワイヤを架け渡すことでワイヤ列を現出し、該ワイヤ列を維持しながら前記グルーブローラ間で一方向へのみ走行するワイヤとを備え、前記ワイヤ列の一方向への走行中、該ワイヤ列にインゴットを相対的に押し付けながら、該インゴットが押し付けられる前記ワイヤ列の押し付け位置より上流側の部分に、遊離砥粒を含むスラリーを供給して前記インゴットを切断する一方向走行式ワイヤソーにおいて、前記押し付け位置を基準として、それより上流側の前記グルーブローラと、それより下流側の前記グルーブローラとにそれぞれ形成された各ワイヤ溝のうち、前記ワイヤの走行方向に隣接する各ワイヤ溝の関係を、前記上流側のグルーブローラに形成された各ワイヤ溝のピッチの方が、前記下流側のグルーブローラに形成された各ワイヤ溝のピッチに比べて大きくなるようにした一方向走行式ワイヤソーである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、ワイヤ列の一方向への走行中、ワイヤ列のインゴットの押し付け位置より上流側の部分に遊離砥粒を含むスラリーを供給しながら、インゴットとワイヤ列とを押し付け位置で相対的に押し付ける。これにより、インゴットの各ワイヤ溝において、スラリーに含まれた遊離砥粒が走行中のワイヤによりワイヤ溝の奥部に押し付けられ、この遊離砥粒の研削作用によってインゴット切断が進行して行く。
【0010】
このとき、切断溝の上流側(切断溝のうち、走行中のワイヤが導入される側)における多量のスラリーを使用した溝幅が大きい研削を考慮し、ワイヤが直接掛けられる上流側のグルーブローラと下流側のグルーブローラとのワイヤ溝間において、上流側のグルーブローラに形成されたワイヤ溝のピッチの方が、下流側(切断溝のうち、走行中のワイヤが導出される側)のグルーブローラに形成されたワイヤ溝のピッチより大きくなるように構成している。そのため、切断溝の上流側で多量のスラリーによる研削が行われても、上流側のウェーハ厚さを、切断溝の下流側でのウェーハの厚さと同程度にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明に係る実施例1の一方向走行式ワイヤソーによるインゴットの切断状態を示す斜視図である。
【図2】この発明に係る実施例1の一方向走行式ワイヤソーによるインゴットの切断状態を示す要部拡大平面図である。
【図3】この発明に係る実施例2の一方向走行式ワイヤソーによるインゴットの切断状態を示す要部拡大平面図である。
【図4】従来手段に係る一方向走行式ワイヤソーによるインゴットの切断状態を示す要部拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明の一方向走行式ワイヤソーは、多数本のワイヤ溝が長さ方向へ離間して形成された少なくとも2本のグルーブローラと、前記多数本のワイヤ溝を介して、前記グルーブローラ間にワイヤを架け渡すことでワイヤ列を現出し、該ワイヤ列を維持しながら前記グルーブローラ間で一方向へのみ走行するワイヤとを備え、前記ワイヤ列の一方向への走行中、該ワイヤ列にインゴットを相対的に押し付けながら、該インゴットが押し付けられる前記ワイヤ列の押し付け位置より上流側の部分に、遊離砥粒を含むスラリーを供給して前記インゴットを切断する一方向走行式ワイヤソーにおいて、前記押し付け位置を基準として、それより上流側の前記グルーブローラと、それより下流側の前記グルーブローラとにそれぞれ形成された各ワイヤ溝のうち、前記ワイヤの走行方向に隣接する各ワイヤ溝の関係を、前記上流側のグルーブローラに形成された各ワイヤ溝のピッチの方が、前記下流側のグルーブローラに形成された各ワイヤ溝のピッチに比べて大きくなるようにしたものである。
【0013】
この発明によれば、ワイヤ列の一方向への走行中、ワイヤ列にインゴットを相対的に押し付けてこれをスライスする。このとき、切断溝の上流側での多量のスラリーを使用した溝幅が大きい研削を考慮し、ワイヤの走行方向に隣接する各ワイヤ溝の関係を、上流側のグルーブローラに形成されたワイヤ溝のピッチ(溝ピッチ)の方が、下流側のグルーブローラに形成されたワイヤ溝のピッチに比べて大きくなるようにしている。そのため、切断溝の上流側で多量のスラリーによる研削が行われても、上流側のウェーハ厚さを、切断溝の下流側でのウェーハの厚さと同程度まで小さくすることができる。
【0014】
ワイヤソーは、例えば、ワイヤ列の上部にインゴットの下面が当接するものでも、ワイヤ列の下部にインゴットの上面が押し当てられるものでもよい。また、ワイヤソーは、インゴットをワイヤ方向へ動かし、これをワイヤ列に押し付けるものでも、ワイヤ列を動かしてインゴットに押し付けるものでもよい。グルーブローラの使用本数は、例えば2本、3本または4本である。
【0015】
多数本のワイヤ溝は、グルーブローラの外周面に形成された円筒形状のライニング材の外周面に形成される。1本のグルーブローラに形成される全てのワイヤ溝の間隔(ピッチ)は、一定(均等)でも、任意に異なってもよい。
ライニング材の素材としては、例えばウレタン(ポリウレタン)、ナイロンなどの合成樹脂を採用することができる。
スラリーとしては、鉱物油やグリコール、純水などの分散媒(液体)に遊離砥粒を含ませたものを採用することができる。スラリーは、スラリーノズルを介してワイヤ列上に供給される。
【0016】
遊離砥粒としては、例えば炭化珪素質砥粒(GC砥粒)、シリカ砥粒、アルミナ砥粒またはダイヤモンド砥粒などを採用することができる。ワイヤソーに使用される遊離砥粒の平均粒径は10〜20μmが一般的である。
ワイヤの素材としては、例えばピアノ線などの鋼線、タングステン線、モリブデン線などを採用することができる。ワイヤの直径は100〜200μmが一般的である。
インゴットとしては、例えばシリコン単結晶、シリコン多結晶、化合物半導体単結晶、化合物半導体多結晶などを採用することができる。このうち、多結晶インゴットからスライスされた多結晶ウェーハの用途としては、例えば太陽電池用基板などが挙げられる。
【0017】
「押し付け位置を基準として、それより上流側のグルーブローラ」とは、インゴットの押し付け位置の両側に配置された2本のグルーブローラのうちで、一方向へ走行中のワイヤ列をインゴットへ送り込む側(スラリーが供給される側)に配置されたグルーブローラをいう。
「押し付け位置を基準として、それより下流側のグルーブローラ」とは、インゴットの押し付け位置の両側に配置された2本のグルーブローラのうち、一方向へ走行中のワイヤ列がインゴットから送り出される側(スラリーが供給される側とは反対側)に配置されたグルーブローラをいう。
【0018】
上流側に配置されたグルーブローラの各ワイヤ溝のピッチは、下流側に配置されたグルーブローラの各ワイヤ溝のピッチより例えば10〜40μm大きくなっている。10μm未満では、ウェーハの厚さのバラつきを十分に抑えることができない。また、40μmを超えれば上流側のウェーハの厚さが、下流側のウェーハの厚さより厚くなる。
具体的には、厚さ200μmのウェーハを得ようとした場合、上流側のグルーブローラのワイヤ溝のピッチは375〜390μm、下流側のグルーブローラのワイヤ溝のピッチは、それより25μm程度小さい350〜365μmとなる。ちなみに従来のワイヤ溝のピッチは上流側、下流側ともに370μm程度である。
【0019】
また、ここでいう「上流側のグルーブローラに形成された各ワイヤ溝のピッチの方が、前記下流側のグルーブローラに形成された各ワイヤ溝のピッチに比べて大きくなる」とは、ワイヤがグルーブローラ間で一方向へ走行することにより現出したワイヤ走行方向での隣接関係にある各ワイヤ溝において、上流側のグルーブローラの各ワイヤ溝のピッチを、下流側のグルーブローラの各ワイヤ溝のピッチに比べて大きくすることをいう。
具体的には、例えばグルーブローラが2本の場合において、最初にワイヤが掛けられるワイヤ供給側の最端のワイヤ溝を1番目、最後にワイヤが掛けられるワイヤ回収側の最端のワイヤ溝をn番目として、全てのワイヤ溝に番号(1,2,…n)を付け、これらのワイヤ溝に順次ワイヤを掛けたとき、例えば、第1のグルーブローラの1番目のワイヤ溝と、次にワイヤが直接掛けられる第2のグルーブローラの1番目のワイヤ溝との関係において、第1のグルーブローラの1番目のワイヤ溝のピッチを、第2のグルーブローラの1番目のワイヤ溝のピッチに比べて大きくすることをいう。
【0020】
また、この発明では、前記各グルーブローラに形成された全ての隣接するワイヤ溝の関係が、前記ワイヤが先に掛けられるワイヤ供給側の前記ワイヤ溝のピッチをa、前記ワイヤが後で掛けられるワイヤ回収側の前記ワイヤ溝のピッチをb、前記インゴットを切断する際に各組の前記隣接するワイヤ溝間で摩耗するワイヤの径減少分をΔdとするとき、b=a−Δdの関係が成立するように、前記各グルーブローラに前記多数本のワイヤ溝を形成した方が望ましい。
このようにすれば、スライス中、グルーブローラのワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々にワイヤが摩耗して細くなっても、その分、ワイヤ列のワイヤ間のピッチが狭くなる。その結果、ウェーハ面内での厚さバラつきのみでなく、1本のインゴットから切り出された各ウェーハ間での厚さバラつきも抑えることができる。
【0021】
「各グルーブローラに形成された全ての隣接するワイヤ溝(のピッチ)の関係」とは、例えば、各グルーブローラにおいて、ワイヤ供給側の最端に配置された1番目のワイヤ溝のピッチと2番目のワイヤ溝のピッチとの関係、または、この2番目のワイヤ溝のピッチと3番目のワイヤ溝のピッチとの関係などをいう。
ここでいう「ワイヤ供給側のワイヤ溝のピッチ」とは、例えば、各グルーブローラでの前記1番目のワイヤ溝のピッチと2番目のワイヤ溝のピッチとの関係において、1番目のワイヤ溝のピッチをいう。
【0022】
また、ここでいう「ワイヤ回収側のワイヤ溝のピッチ」とは、例えば、各グルーブローラでの前記1番目のワイヤ溝のピッチと2番目のワイヤ溝のピッチとの関係において、2番目のワイヤ溝のピッチをいう。
さらに、ここでいう「インゴットを切断する際に各組の隣接するワイヤ溝間で摩耗するワイヤの径減少分Δd」は、まずインゴットを切断した際に摩耗するワイヤ全体の径減少分Dを計測し、得られた値を、「ワイヤ列の押し付け位置と正対する方向から視たとき、インゴット切断に使用されたワイヤ列の部分を見かけ上構成するワイヤの本数」、または、「1回のスライスで得られたウェーハの枚数Nに1を加えた値(N+1)」で除算すれば、簡単に求められる。
【実施例】
【0023】
以下、この発明の実施例を具体的に説明する。ここでは、一方向走行式ワイヤソーを用いて行われる多結晶シリコン系太陽電池用の多結晶シリコンインゴットのスライスを例とする。
まず、この発明の実施例1の一方向走行式ワイヤソーについて説明する。
【0024】
図1において、10はこの発明に係る実施例1の一方向走行式ワイヤソー(以下、ワイヤソー)である。このワイヤソー10は、それぞれの外周面に長さ方向へ所定ピッチで多数本のワイヤ溝11が形成され、かつ互いの軸線が平行な上流側のグルーブローラ12Aおよび下流側のグルーブローラ12Bと、多数本のワイヤ溝11を介して、2本のグルーブローラ間に架け渡されることでワイヤ列13を現出し、ワイヤ列13を維持しながらグルーブローラ間で一方向へ走行するワイヤ13aと、ワイヤ列13のうち、太陽電池用の多結晶シリコンインゴット(以下、多結晶インゴット)Iの押し付け位置Xより上流側の部分に遊離砥粒を含むスラリーSを供給する1本のスラリーノズル14と、ワイヤ13aを上流側のグルーブローラ12Aへ繰り出す繰出し装置15と、下流側のグルーブローラ12Bから導出されたワイヤ13aを巻き取る巻取り装置16とを備えている。
【0025】
以下、これらの構成体を具体的に説明する。
まず、多結晶インゴットIを説明する。これは、中間化合物であるトリクロロシラン(SiHCl)を水素により還元することで、多結晶シリコンを得るシーメンス法(Siemens Method)を利用して製造されたものである。
まず、水冷したベルジャー型の反応器の中にシリコンの種棒を設置し、種棒に所定の電圧を印加して種棒を1100℃に加熱し、反応器内にトリクロロシラン(SiHCl)、還元剤の水素およびドーパントとしてのボロンガスを下方から導入する。これにより、シリコン塩化物を還元し、生成したシリコンが選択的に種棒の表面に付着することで、棒状の多結晶シリコンが気相成長させる。次に、棒状多結晶シリコンが所定サイズの塊に破砕されて、太陽電池用の多結晶インゴットIを鋳造する溶融原料となる。
【0026】
得られた多結晶シリコンの塊はルツボに投入され、電磁溶解連続鋳造方法により断面矩形状の多結晶インゴットIが製造される。この方法では、外周に誘導コイルが配置された導電性の無底ルツボを使用する。無底ルツボに挿入された原料シリコンは、誘導コイルの電磁誘導により、ルツボ内壁に非接触状態で所定温度に加熱されて溶解する。その後、無底ルツボに原料シリコンを供給しながら、引き抜き装置により無底ルツボ内の融液を下方へ徐々に引き下げ、無底ルツボの直下に配置された徐冷装置により凝固させる。これにより、多結晶インゴットIが連続的に製造される。連続鋳造された多結晶インゴットIは所定長さごとに切断される。得られた多結晶インゴットIは、カーボンベッドを介して、ワイヤ列13の押し付け位置Xの上方に配置された昇降台に固定されている。
【0027】
次に、図1および図2を参照して、ワイヤソー10を具体的に説明する。
このワイヤソー10は、電磁溶解連続鋳造方法により鋳造された多結晶インゴットIを多数枚の太陽電池用多結晶シリコンウェーハである多結晶ウェーハWにスライスする装置である。
ワイヤソー10に内蔵された2本のグルーブローラ12A,12Bの外周面は、その略全長にわってウレタンゴムからなる所定厚さのライニング材17により被覆されている。両ライニング材17の外周面には、両グルーブローラ12A,12Bの長さ方向に向かって一定ピッチ(全てのワイヤ溝11は均一間隔)で多数本のワイヤ溝11がそれぞれ形成されている。
【0028】
このうち、上流側のグルーブローラ12Aのワイヤ溝11のピッチP1は385μm、下流側のグルーブローラ12Bのワイヤ溝11のピッチP2は355μmとなっている。これは、切断溝Iaの上流側において、多量のスラリーにより溝幅が広がり、その部分の多結晶ウェーハWの厚さが薄くなる研削を考慮したためで、上流側のグルーブローラ12Aのワイヤ溝11のピッチP1は、下流側のグルーブローラ12Bのワイヤ溝11のピッチP2に比べて30μmだけ大きくなっている。
【0029】
両グルーブローラ12A,12B間には、多数本のワイヤ溝11を介して1本のワイヤ13aが順次架け渡されている。
ここで、両グルーブローラ12A,12Bの各ワイヤ溝11に番号を付け、このワイヤ13aの架け渡し状態を詳しく説明する。すなわち、最初にワイヤ13aが掛けられるワイヤ供給側の最端のワイヤ溝11を1番目、最後にワイヤ13aが掛けられるワイヤ回収側の最端のワイヤ溝11をn番目として、両グルーブローラ12A,12Bの全てのワイヤ溝11に番号(1,2,…)を付ける。ワイヤ13aは、まずグルーブローラ12Aの1番目のワイヤ溝11に掛けられ、その後、グルーブローラ12Bの1番目、グルーブローラ12Aの2番目、グルーブローラ12Bの2番目の各ワイヤ溝11へと順に架け渡される。そして、最終的にはグルーブローラ12Aのn番目のワイヤ溝11から外部へ導出されて回収される。
このとき、ワイヤの走行方向に隣接関係にあるワイヤ溝としては、例えば、グルーブローラ12Aの1番目のワイヤ溝11と、グルーブローラ12Bの1番目のワイヤ溝11とが挙げられる。その他、グルーブローラ12Aの2番目のワイヤ溝11と、グルーブローラ12Bの2番目のワイヤ溝11となる。
【0030】
スラリーノズル14は、長さ方向をワイヤ列13の幅方向に向け、先端面の開口が蓋により塞がれたストレート管である。スラリーノズル14の下部には、その全長にわたり所定ピッチで多数のスラリー流出口が形成されている。スラリーSとしては、グリコール中に平均粒径10μmの遊離砥粒(GC砥粒)を所定割合で分散させたものが採用されている。
ワイヤ13aは、直径150μm程度の高張力鋼鉄線である。ワイヤ13aは、繰出し装置15のボビンから導出され、両グルーブローラ間に架け渡された後、巻取り装置16のボビンに巻き取られる。その際、2本のグルーブローラ間には、見かけ上、無端ベルト形状のワイヤ列13が現出される。多結晶インゴットIの押し付け位置Xは、ワイヤ列13の表側部(上側部)の中間部分となる。
【0031】
次に、図1および図2を参照して、実施例1のワイヤソーを用いた多結晶インゴットのインゴット切断方法を説明する。
図1に示すように、スライス時には、スラリーSを所定の流量でスラリーノズル14よりワイヤ列13の所定位置に供給しながら、一方のボビン用駆動モータにより繰出し装置15のボビンを回転させる。これにより、ワイヤ13aを両グルーブローラ12A,12Bに供給する。具体的には、繰出し装置15から導出されたワイヤ13aは、供給側のガイドローラを介して、上流側のグルーブローラ12Aに形成されたワイヤ供給側の最端のワイヤ溝11に掛けられる。
【0032】
次に、ワイヤ13aは、両グルーブローラ12A,12Bの各ワイヤ溝11に順次架け渡されて、両グルーブローラ間にワイヤ列13が現出される。このとき、図2に示すように、ワイヤ13aが上述の順番で掛けられて行く上流側のグルーブローラ12Aの1,2、…番目の各ワイヤ溝11のピッチP1と、下流側のグルーブローラ12Bの1,2、…番目の各ワイヤ溝11のピッチP2との関係は、上流側のグルーブローラ12Aのワイヤ溝11のピッチP1の方が、下流側のグルーブローラ12Bのワイヤ溝11のピッチP2に比べて30μmだけ大きくなっている。一例を挙げれば、上流側のグルーブローラ12Aの1番目のワイヤ溝11のピッチP1の方が、これとワイヤ13aの走行方向に隣接した下流側のグルーブローラ12Bの1番目のワイヤ溝11のピッチP2に比べて、前記寸法だけ大きくなっている。
その結果、ワイヤ列13は、上流側のグルーブローラ12Aに掛けられた部分の方が、下流側のグルーブローラ12Bに掛けられた部分より幅が広くなった、平面視して略台形状のものとなる。
【0033】
そして、最終的にワイヤ13aは、上流側のグルーブローラ12Aに形成されたワイヤ回収側の最端のワイヤ溝11から導出される(図1および図2)。導出されたワイヤ13aは、導出側のガイドローラを介して巻取り装置16のボビンに巻き取られる。両ボビンの各回転軸は、一対のボビン用駆動モータの対応する出力軸にそれぞれ連結されている。両ボビン用駆動モータが同期して駆動することで、繰出し装置15のボヒンはその軸線を中心にして時計回り回転する一方、巻取り装置16のボヒンはその軸線を中心にして時計回り回転し、ワイヤ13a(ワイヤ列13)が時計回りである一方向へのみ走行(以下、一方向走行)する。
【0034】
次に、ワイヤ列13の一方向走行中、上方から多結晶インゴットIを、ワイヤ列13の押し付け位置Xに押し付ける。これにより、多結晶インゴットIが矩形状の多数枚の多結晶ウェーハWにスライスされる。すなわち、ワイヤ列13の一方向走行時に、スラリーS中の遊離砥粒がワイヤ列13のワイヤ13aにより多結晶インゴットIの各切断溝Iaの底部に擦り付けられ、その底部が遊離砥粒の研削作用により徐々に削り取られる。
【0035】
このとき、前述したように、切断溝Iaの上流側での多量のスラリーによって溝幅が大きくなる研削を考慮し、上流側のグルーブローラ12Aのワイヤ溝11のピッチP1が、下流側のグルーブローラ12Bのワイヤ溝11のピッチP2より大きくなっている(図2)。そのため、切断溝Iaの上流側で多量のスラリーによる研削が行われても、上流側のウェーハ厚さを、切断溝Iaの下流側でのウェーハ厚さと同程度まで大きくすることができる。これにより、ウェーハ面内での厚さバラつきを抑えて、ウェーハ面内での厚さ均一性を高めることができる。
【0036】
次に、図3を参照して、この発明に係る実施例2の一方向走行式ワイヤソーおよびこれを用いたインゴット切断方法について説明する。
図3に示すように、実施例2のワイヤソー(一方向走行式ワイヤソー)10Aの特徴は、両グルーブローラ12A,12Bに形成された全ての隣接するワイヤ溝11のピッチの関係が、ワイヤ供給側のワイヤ溝11のピッチをa、ワイヤ回収側のワイヤ溝11のピッチをb、インゴットIを切断する際に各組の隣接するワイヤ溝間で摩耗するワイヤ13aの径減少分をΔdとするとき、b=a−Δdの関係が成立するように、両グルーブローラ12A,12Bに多数本のワイヤ溝11が形成された点である。すなわち、両グルーブローラ12A,12Bにおいて、ワイヤ供給側からワイヤ回収側に向けてワイヤ溝11のピッチ(溝ピッチ)は徐々に小さくなっている。
【0037】
このように構成することで、スライス中、両グルーブローラ12A,12Bのワイヤ供給側からワイヤ回収側に向かって徐々にワイヤ13aが摩耗して細くなっても、それに応じてワイヤ列13のワイヤ間のピッチが狭くなる。その結果、ウェーハ面内での厚さバラつきのみでなく、1本の多結晶インゴットIから切り出された多数枚の多結晶ウェーハWのウェーハ間での厚さバラつきも抑えることができる。
【0038】
以下、これを詳細に説明する。
インゴット切断中、ワイヤ13aは、一方向走行しながらスラリーS中の遊離砥粒を切断溝Iaの奥部に押し付けることで徐々に摩耗する。そのため、両グルーブローラ12A,12Bのワイヤ供給側でのワイヤ径Dinに比べて、両グルーブローラ12A,12Bのワイヤ回収側でのワイヤ径Doutは、ΔD(=Din−Dout)だけ径減少することになる。このようなワイヤ13aの径減少は、多結晶ウェーハWのウェーハ間の厚さ均一性を低下させる。
【0039】
このような課題は、両グルーブローラ12A,12Bに形成された全ての隣接するワイヤ溝間でも発生する。すなわち、全ての隣接するワイヤ溝11のうち、ワイヤ供給側でのワイヤ径dinに比べて、ワイヤ回収側でのワイヤ径doutは、Δd(=din−dout)だけ径減少する。Δdとは、インゴットIを切断する際に各組の隣接するワイヤ溝間で摩耗するワイヤ13aの径減少分である。Δdは、1回のスライスで得られる多結晶ウェーハWの枚数Nに1を加えた値(N+1)によりΔDを除算すれば、簡単に求められる。
【0040】
以下、ワイヤ径の減少が、多結晶ウェーハWのウェーハ間の厚さ均一性を低下させることを、具体的に説明する。ここで、両グルーブローラ12A,12Bの全ての隣接するワイヤ溝11の関係において、ワイヤ供給側のワイヤ溝11のピッチをa、ワイヤ回収側のワイヤ溝11のピッチをbとする。
多結晶インゴットIは、ワイヤ溝11にガイドされながら走行中のワイヤ列13によってスライスされる。そのとき、例えば多結晶インゴットIのワイヤ供給側からスライスされる1枚目のウェーハWの最大厚みtは、遊離砥粒によるカーフロスを無視すればa−dinと計算される。また、多結晶インゴットIのワイヤ供給側からスライスされる2枚目のウェーハWの最大厚みtは、b−doutと計算される。
【0041】
ウェーハWの厚みtと、ウェーハWの厚みtとを比較すれば、両ウェーハW, Wの間にΔt=t−t=(b−dout)−(a−din)=Δd−(a−b)の厚み差がある。ここで、各グルーブローラ12A、12Bに一定ピッチ(a=b)でワイヤ溝11が形成されていれば、厚み差はΔt=Δdとなって、ウェーハWに比べてワイヤ13aの径減少分ΔdだけウェーハWが厚くなる。
そこで、ワイヤ13aの径減少分Δdを原因とした厚み差Δtが解消されるように、各グルーブローラ12A、12Bのうち、ワイヤ供給側のワイヤ溝11のピッチaと、ワイヤ回収側のワイヤ溝11のピッチbとの間に、a−b=Δdの関係を成立させている。これにより、ワイヤ供給側からワイヤ回収側に向けて溝ピッチが徐々に小さくなる。そのため、ワイヤ13aの径減少分が、溝ピッチの減少によって相殺される。
【0042】
その結果、例えば多結晶インゴットIのワイヤ供給側から数えて1枚目のウェーハWの厚みtと、2枚目のウェーハWの厚みtとを、実質的に同じ厚みか、または少なくとも厚み差Δtを小さくすることができる。このことは、各グルーブローラ12A、12Bに形成された全ての隣接するワイヤ溝11のピッチにおいても同じである。これにより、ウェーハ厚さ均一性が高められたウェーハ(W,W…)を、1本の多結晶インゴットIからスライスすることができる。
その他の構成、作用および効果は、実施例1と同じであるので、説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0043】
この発明は、遊離砥粒を含むスラリーを用いた一方向式ワイヤソーによるインゴットのスライス方法において、本発明を採用しない方法に比べて、ウェーハ面内とウェーハ間の厚さバラつきを、抑えることが可能となる。厚さバラつきをより小さくすることは、ウェーハ厚さの寸法精度を向上させることをはじめとして、厚さに依存する機械強度や電気特性、光学特性などの品質を安定化させることを可能とし、ウェーハが用いられる機器の製造をより容易に、安価に実現させるものとして有用である。
【符号の説明】
【0044】
10,10A 一方向走行式ワイヤソー、
11 ワイヤ溝、
11a ワイヤ供給側に形成されたワイヤ溝、
11b ワイヤ回収側に形成されたワイヤ溝、
12A 上流側に配置されたグルーブローラ、
12B 下流側に配置されたグルーブローラ、
13 ワイヤ列、
13a ワイヤ、
14 スラリーノズル、
I 多結晶インゴット(インゴット)、
S スラリー、
X 押し付け位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数本のワイヤ溝が長さ方向へ離間して形成された少なくとも2本のグルーブローラと、
前記多数本のワイヤ溝を介して、前記グルーブローラ間にワイヤを架け渡すことでワイヤ列を現出し、該ワイヤ列を維持しながら前記グルーブローラ間で一方向へのみ走行するワイヤとを備え、
前記ワイヤ列の一方向への走行中、該ワイヤ列にインゴットを相対的に押し付けながら、該インゴットが押し付けられる前記ワイヤ列の押し付け位置より上流側の部分に、遊離砥粒を含むスラリーを供給して前記インゴットを切断する一方向走行式ワイヤソーにおいて、
前記押し付け位置を基準として、それより上流側の前記グルーブローラと、それより下流側の前記グルーブローラとにそれぞれ形成された各ワイヤ溝のうち、前記ワイヤの走行方向に隣接する各ワイヤ溝の関係を、
前記上流側のグルーブローラに形成された各ワイヤ溝のピッチの方が、前記下流側のグルーブローラに形成された各ワイヤ溝のピッチに比べて大きくなるようにした一方向走行式ワイヤソー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−143847(P2012−143847A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5322(P2011−5322)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】