説明

一酸化炭素転換触媒用組成物からなる一酸化炭素転換用触媒、それを用いた一酸化炭素除去方法

【課題】触媒活性及び耐久性に優れ、燃料電池に適用しても活性の低下が少なく、長期間使用できる水性ガスシフト反応用触媒として用いられる一酸化炭素転換用触媒、さらには、該一酸化炭素転換用触媒を用いた一酸化炭素除去方法を提供する。
【解決手段】(A)酸化銅成分、(B)酸化亜鉛成分および(C)酸化アルミニウム成分を含み、(A)〜(C)の合計質量1gに対し、(D)成分として0.01〜0.5mmolの周期表1族、2族、8族、10族、及び13族元素の少なくとも一種を含む一酸化炭素転換用触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素を改質して得られるガスから一酸化炭素を除去する触媒に関する。さらに詳しくは、銅、亜鉛およびアルミニウムを含み、特定の格子面間隔d(Å)にブロードなピークを示すX線回折パターンを有する触媒前駆体物質に特定の元素を極微量添加して得られ、水生ガスシフト反応用触媒として好適な一酸化炭素転換用触媒、さらには、該一酸化炭素転換用触媒を用いた一酸化炭素除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題から新エネルギー技術が脚光を浴びており、この新エネルギー技術の一つとして燃料電池が注目されている。この燃料電池は、水素と酸素を電気化学的に反応させることにより、化学エネルギーを電気エネルギーに変換するもので、エネルギーの利用効率が高く、民生用、産業用あるいは自動車用などとして、実用化研究が広範に且つ積極的に行われている。
【0003】
燃料電池には、使用する電解質の種類に応じて、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型、固体高分子型などのタイプが知られている。これら燃料電池用の水素を製造する水素源としては、メタンを主体とする液化天然ガス、この天然ガスを主成分とする都市ガス、天然ガスを原料とする合成液体燃料や石油系の液化石油ガス、ナフサ、灯油などの石油系炭化水素類が研究の対象なとなっている。これらのガス状または液状炭化水素類から水素を製造する場合には、一般に、脱硫処理後、炭化水素を改質触媒の存在下に部分酸化改質,自己熱改質又は水蒸気改質などの改質処理が行われる。
【0004】
上記の改質処理によって主に水素と一酸化炭素が得られるが、このうち一酸化炭素は水と水性ガスシフト反応によって水素と二酸化炭素に変換できる。水性ガスシフト反応は、水性ガスの水素と一酸化炭素の比率を合成反応の目的に応じて変えることにも利用されているが、水素製造のためにも適用できる。水性ガスシフト反応に使用される銅‐亜鉛‐アルミニウム触媒は貴金属系触媒に比べて、比較的低温で作動できるので、一酸化炭素濃度を1%以下の低濃度まで下げることができるが、熱および水蒸気の存在下で銅のシンタリングが起り、失活する問題がある。そのため、一定条件で運転を行う工業装置では長期間使用できるが、燃料電池のように頻繁に起動停止を行い、触媒が酸化・還元の雰囲気を繰り返される場合には、銅のシンタリングが起りやすく、触媒が失活しやすい。白金などの貴金属をチタニアやセリアに担持した触媒の耐久性は高いが、低温での活性は銅‐亜鉛‐アルミニウム触媒に及ばない。
【0005】
そこで銅‐亜鉛‐アルミニウム触媒の活性および触媒の耐久性(特に起動・停止を繰り返して使用する状態で、触媒が実用上満足できる活性を維持できる時間。以下、単に耐久性と呼ぶ場合もある)を改良するため、種々検討されており、下記のような報告がある。
特許文献1には、ハイドロタルサイト形態のアルミニウム及びハイドロタルサイトとは異なるアルミニウムを含む触媒前駆体から製造した触媒活性が高いとしている。この触媒に酸化カリウムや酸化セシウムなど酸化物形態のIA族元素を添加してもよく、典型的な量は約50ppm〜1000ppmと記載されている。特許文献2では、ハイドロタルサイト担体に銅と貴金属を複合化した酸化物活性種を担持させると活性が高いシフト触媒が得られるとしている。また、特許文献3では、オーリカルサイト型の銅及び亜鉛からなる複合塩基炭酸塩から得た触媒はメタノール合成反応に高活性であるとしている。
さらに、特許文献4では、既存の銅−亜鉛系触媒の1〜5重量%のセシウムまたはストロンチウムを含有させた触媒は活性、耐久性に優れている。また、特許文献5には亜鉛・アルミニウム複合酸化物を含む担体に、銅と助触媒元素としてアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を担持した触媒は耐久性が高いとする。助触媒元素は1重量%以上2重量%以下がよいと開示されている。
しかしながら、頻繁に起動、停止を繰り返す燃料電池で使用する水素製造用水生ガスシフト反応用触媒としては、いずれも未だ十分でない。
【0006】
【特許文献1】特表2005−520689号公報
【特許文献2】特開2003−80072号公報
【特許文献3】特開平9−187654号公報
【特許文献4】特開平11−244700号公報
【特許文献5】特開2004−321924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたもので、触媒活性及び耐久性に優れ、燃料電池に適用しても活性の低下が少なく、長期間使用できる水性ガスシフト反応用触媒として用いられる一酸化炭素転換触媒用組成物からなる一酸化炭素転換用触媒、さらには、該一酸化炭素転換用触媒を用いた一酸化炭素除去方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、銅、亜鉛及びアルミニウムを含み、新規なX線回折パターンを示す触媒前駆体物質にさらに、特定の元素を極微量添加した一酸化炭素転換触媒用組成物を焼成して得られる触媒が、活性及び耐久性が高く、燃料電池に適用しても活性の低下が少なく、長期間使用できる水性ガスシフト反応用触媒となることを見出し、かかる知見に基づいて、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
[1] (A)酸化銅成分、(B)酸化亜鉛成分および(C)酸化アルミニウム成分を 含み、(A)〜(C)の合計質量1gに対し、(D)成分として0.01〜0.5mm olの周期表1族、2族、8族、10族、及び13族元素の少なくとも一種を含む一酸 化炭素転換用触媒、
[2] (A)酸化銅成分が10〜90質量%、(B)酸化亜鉛成分が5〜50質量%、および(C)酸化アルミニウム成分が5〜50質量%であり((A)〜(C)の総和は100質量%)、比表面積が100〜300m2/g、酸化銅結晶子径が200Å以下である上記[1]の一酸化炭素転換用触媒、
[3] (D)成分がK,Cs,Na,Mg,Ba,Fe,Pt,及びGaのいずれかである上記[1]又は[2]の一酸化炭素転換用触媒、
[4] (D)成分含有量が0.02〜0.1mmol/gである上記[1]〜[3]いずれかの一酸化炭素転換用触媒、
[5] 銅、亜鉛及びアルミニウムを含み、格子面間隔d(Å)5.0±0.5Å、3.7±0.3Å、2.6±0.2Å、2.3±0.2Å及び1.7±0.1Åにブロードなピークを示すX線回折パターンを有することを特徴とする触媒前駆体に、周期表1族、2族、8族、10族、及び13族元素のいずれかを含む単体又は化合物を、前記触媒前駆体に含ませた物を焼成して得られる、上記[1]〜[3]いずれかの一酸化炭素転換用触媒、
[6] 前記前駆体が、銅塩、亜鉛塩及びアルミニウム塩を含有する溶液とアルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物を含有する溶液とを混合し、該混合液のpHを8.5〜11.0の条件下で沈殿させて得られたものである、上記[5]の一酸化炭素転換用触媒、
[7] 前記アルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物が水酸化ナトリウムである上記[6]の一酸化炭素転換用触媒、
[8] 前記焼成する温度が200〜600℃である、上記[5]〜[7]いずれかの一酸化炭素転換用触媒、
[9] 銅塩、亜鉛塩及びアルミニウム塩を含有する溶液とアルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物を含有する溶液とを混合し、該混合液のpHを8.5〜11.0の条件下で沈殿させて得られた触媒前駆体に、周期表1族、2族、8族、10族、及び13族元素のいずれかを含む単体又は化合物を含ませた後、それらを200〜600℃で焼成して得られる、上記[1]〜[8]いずれかの一酸化炭素転換用触媒の製造方法、
[10] 上記[1]〜[8]いずれかの触媒と、COを含む水素含有ガスを100〜400℃で接触させる工程を含む、水素含有ガスからのCO除去方法、及び
[11]炭化水素の改質により生成させる水素含有ガスを、上記[10]の水素含有ガスからのCO除去方法でCOを除去する工程を含む、燃料電池システム、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、銅、亜鉛及びアルミニウムを含み、水酸化ナトリウムを沈殿剤として特定のpHで沈殿させた新規なX線回折パターンを示す触媒前駆体物質にさらに、周期表1族、2族、8族、10族及び13族元素の少なくとも一種の特定の元素を極微量添加した一酸化炭素転換触媒用組成物を焼成して得られる触媒が、活性及び耐久性が高く、燃料電池に適用しても活性の低下が少なく、長期間使用できる水性ガスシフト反応用触媒である一酸化炭素転換用触媒を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の一酸化炭素転換用触媒の触媒組成としては、各元素を酸化物で表した場合に(A)酸化銅成分が10〜90質量%、好ましは30〜80質量%、(B)酸化亜鉛成分は5〜50質量%、好ましくは10〜40質量%、(C)酸化アルミニウム成分は5〜50質量%、好ましくは15〜40質量%、(D)成分として、前記(A)〜(C)の合計質量1gに対し0.01〜0.5mmol、好ましくは0.02〜0.1mmolの周期表1族、2族、8族、10族及び13族元素の少なくとも一種を含むものである。
従来最適と考えられていた触媒に比べて、酸化亜鉛成分が少なく、酸化アルミニウム成分が多いのが特徴の一つである。
前記触媒組成として、酸化銅成分が10〜90質量%を外れると、活性種の銅が少なくて触媒活性が低下したり、相対的に亜鉛、アルミニウムが少なくなるため、触媒の耐久性が低下する恐れがある。
前記触媒組成として、酸化亜鉛成分が5〜50質量%を外れると、亜鉛が少なくなることで触媒の耐久性が低下したり、相対的に銅が少なくて触媒活性が低下する恐れがある。
前記触媒組成として、酸化アルミニウムが5〜50質量%を外れると、触媒強度が低下したり、触媒の耐久性が低下する恐れがある。又、相対的に銅が少なくて触媒活性が低下する恐れがある。
前記触媒組成として、前記(D)成分を上記範囲のように極微量添加することによって本発明の優れた効果を奏することができる。(D)成分として添加する元素については、周期表1族、2族、8族、10族及び13族の元素であれば特に制限はないが、周期表1族の元素としてはK、Cs、Na、2族の元素としてはMg、Ba、8族の元素としてはFe、10族の元素としてはPt、13族の元素としてはGaが好ましい。特に好ましい元素としては K,Cs である。
より好ましくは、触媒組成として酸化亜鉛成分に、ジンサイト(zincite)を含まないものである。ジンサイト(zincite)を含まないことで、より本発明の一酸化炭素転換用触媒の耐久性、活性とも向上し、一酸化炭素転換用(シフト)触媒として燃料電池用改質器に搭載すると、起動停止を繰り返して使用しても活性の低下が少なく長期間使用できるメリットがある。
【0011】
本発明による銅‐亜鉛‐アルミニウム系の一酸化炭素転換用触媒の物性は、比表面積が120〜300m2/g、好ましくは120〜200m2/g、一酸化炭素吸着量が20〜80μmol/g、好ましくは30〜70μmol/g、酸化銅結晶子径が200Å以下、好ましくは150Å以下である。
酸化亜鉛成分は少なくとも亜鉛アルミニウムスピネル(ZnAl24)として存在することが好ましい。亜鉛アルミニウムスピネルの微細な結晶のものほど銅のシンタリング抑制に効果的であり、結晶子径は100Å以下が好ましく、特に50Å以下が好ましい。
ジンサイト(zincite)や亜鉛アルミニウムスピネルの存在は粉末X線回折測定による回折パターンから確認できる。
ジンサイト(zincite)のX線回折パターンは
d=2.475、d=2.814、d=2.602、d=1.625, d=1.477、d=1.378
に回折線を示す。
亜鉛アルミニウムスピネル(ZnAl24)のX線回折パターンは
d=2.442、d=2.863、d=1.432、d=1.559, d=1.653、d=1.281
に回折線を示す。
亜鉛アルミニウムスピネルが銅原子の近傍にあると、熱および水蒸気の存在下や触媒が酸化、還元の雰囲気が繰り返される状態にある酸化銅または還元された銅がシンタリングして活性が失われることを抑制する効果があり、熱および水蒸気の存在下や酸化、還元の雰囲気が繰り返される条件下においても安定に存在し、銅のシンタリングが抑制され、安定した触媒活性を示す。他方、酸化亜鉛成分がジンサイト(zincite)であると上記、酸化還元の繰り返しでジンサイト(zincite)粒子自体がシンタリングし、銅のシンタリングを促進することがわかった。
比表面積が120〜300m2/gを外れると、触媒活性が低下したり、銅のシンタリング抑制効果が低下する。
一酸化炭素吸着量は反応に有効な銅の活性点の量に関係するが、20〜80μmol/gの範囲が活性、耐久性の観点から好ましい。あまり高すぎても耐久性が低下する。
酸化銅結晶子径が200Åを超えると、反応に有効な銅の活性点数が減少することから、活性が低下する。
亜鉛アルミニウムスピネルの結晶子径が100Åを超えると、銅のシンタリング抑制効果が低下し耐久性の点から好ましくない。
【0012】
本発明による銅‐亜鉛‐アルミニウム系の一酸化炭素転換用触媒は、銅/亜鉛の原子比が1.0以上、および亜鉛のアルミニウムに対する原子比(Zn/Al)が0.1〜1.5であることが好ましい。特に好ましくは、銅/亜鉛の原子比が2〜10, および亜鉛のアルミニウムに対する原子比(Zn/Al)が0.2〜1.0である。
銅/亜鉛の原子比が1.0未満であると、活性が十分でない。
亜鉛のアルミニウムに対する原子比(Zn/Al)が0.1〜1.5を外れると、焼成した後に亜鉛アルミニウムスピネルが生成しないか、十分な量生成しないことによる触媒の耐久性(特に起動・停止を繰り返して使用する状態で、触媒が実用上満足できる活性を維持できる時間)の低下や、亜鉛原子が多すぎてジンサイト(zincite)等を生成し、その結果、触媒の耐久性が思ったほど向上しない恐れがある。
【0013】
本発明の一酸化炭素転換用触媒は、後述する触媒前駆体物質に前記(D)成分を含む単体又は化合物を触媒前駆体物質1gに対し0.01〜1.0mmol、好ましくは0.02〜0.8mmol、特に好ましくは0.03〜0.7mmol添加したものを焼成して製造することが好ましい。焼成して得られる触媒中の前記(D)成分に由来する成分は、焼成前の(D)成分を含む単体又は化合物より幾らか少なくなることが通常であるためである。
触媒前駆体物質は、銅、亜鉛及びアルミニウムを含み、格子面間隔d(Å)5.0±0.5Å、3.7±0.3Å、2.6±0.2Å、2.3±0.2Å及び1.7±0.1ÅにブロードなX線回折ピークを示すspertiniite鉱物(Cu(OH)2)のX線回折パターンに類似したX線回折パターンを示す銅、亜鉛及びアルミニウムを含む物質である。
さらに、前記触媒前駆体物質は銅、亜鉛及びアルミニウムを含み、上記のX線回折パターンに加えて、さらに、格子面間隔d(Å)8.4±0.6Å及び4.2±0.3ÅにブロードなX線回折ピークを示す物質であってもよく、8.4±0.6Å、4.2±0.3Åは、hydroscarbroite鉱物(Al14(CO33(OH)36・n(H2O))のX線回折パターンに類似したX線回折パターンを示す物質である。
また、触媒前駆体物質は、上記2種類のX線回折パターンに加えてTenorite(CuO)のX線回折パターン(格子面間隔2.3±0.2Å及び2.57±0.2Å)を示す物質が含まれる場合があるが、少量であれば触媒性能への問題はない。
【0014】
ここで、X線回折パターンの測定条件は次の通りである。
Cu−Kα線:波長λ=1.5406Å、出力:40kV、40mA
光学系:反射法;2θ・θ連続スキャン、DS、SSスリット:1°
RSスリット:0.3mm、ステップ間隔:0.02°、スキャン速度:1°/分
【0015】
上記触媒前駆体物質の製造方法は、銅塩、亜鉛塩及びアルミニウム塩を含有する溶液と水酸化ナトリウム(沈殿剤)を含有する溶液を混合して、形成させた沈殿物を洗浄及び乾燥することによって得ることができる。銅塩、亜鉛塩及びアルミニウム塩を含有する溶液と水酸化ナトリウム溶液を混合して銅、亜鉛及びアルミニウムを共沈させる場合には、いずれか一方の溶液を攪拌しながら、もう一方の溶液を混合してもよい。このとき、混合液のpHが8〜11.5になるように調整を行うことが好ましい。
沈殿剤としてはアルカリ金属またはアルカリ土類金属水酸化物を用いる。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウムが好ましく、水酸化ナトリウムがもっとも好ましい。炭酸ナトリウムなどアルカリまたはアルカリ土類金属炭酸塩を用いると本発明の触媒前駆体物質は得られない。
【0016】
銅塩及び亜鉛塩の塩種としては、硝酸塩、塩化物、硫酸塩、塩酸塩、有機酸塩例えば酢酸塩、クエン酸塩などを用いることができるが、これらの中で硝酸塩が好ましい。アルミニウム塩は硝酸塩、塩化物、塩酸塩、硫酸塩、水酸化物、アルミン酸ナトリウム及びプソイドベーマイトなどを用いることができるが、これらの中で硝酸塩及びアルミン酸ナトリウムが好ましい。
銅塩、亜鉛塩及びアルミニウム塩を含有する溶液とアルカリ金属またはアルカリ土類金属水酸化物例えば、水酸化ナトリウムを含有する溶液の混合は、攪拌しながら、約0〜約90℃の温度に維持して行う。沈殿形成後、直ぐに洗浄、ろ過を行ってもよいし、熟成させた後、洗浄、ろ過を行ってもよい。
得られた沈殿物の乾燥条件としては特に制限はないが、室温〜200℃程度の温度で乾燥が終了するまで行えばよい。
本発明の一酸化炭素転換用触媒は、(D)成分を含む硝酸塩、水酸化物、酢酸塩、クエン酸塩の水溶液を用いて、含侵、蒸発乾固などの方法で上記の触媒前駆体物質に含有させた一酸化炭素転換触媒用組成物を、乾燥し、200〜600℃程度の温度で焼成することで得ることができる。焼成して得られる触媒は元の触媒前駆体のX線回折パターンを示さず、酸化銅のX線回折パターンを示す。
少量の酸化亜鉛のX線回折パターンを伴う場合もある。このようにして得られた触媒は、そのままで、又は適当な方法により造粒又は打錠成形して用いる。触媒の粒子径や形状は、反応方式、反応器の形状によって任意に選択することができ、本発明の触媒は、固定床、流動床等のいずれの反応方式においても用いることができる。
【0017】
本発明の一酸化炭素転換用触媒は、特に水性ガスシフト反応用触媒として有用である。
本発明の一酸化炭素転換用触媒を用い、水性ガスシフト反応を利用した一酸化炭素の除去方法は、原料ガス中の一酸化炭素や水素の濃度及び触媒成分の含有量などにより異なり得るが、通常、反応温度は150〜400℃程度、反応圧力は常圧〜10MPa(絶対圧)程度、水蒸気と原料ガス中の一酸化炭素のモル比は、1〜100程度、原料ガス(水蒸気を除く)の空間速度(GHSV値)は100〜100,000hr-1程度の範囲が適当である。
また、本発明の一酸化炭素転換用触媒を用いた、一酸化炭素の除去方法は、炭化水素の改質により生成される水素含有ガスを用いる燃料電池システムに採用することができる。
【実施例】
【0018】
次に、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、触媒の比表面積、銅表面積、一酸化炭素吸着量、CuO結晶子径の測定は下記の方法により行った。
触媒の物性測定
(a) 比表面積測定
比表面積測定はユアサアイオニクス社製比表面積測定装置を用い、試料約100mgを試料管に充填し、前処理として200℃で20分間窒素気流中で加熱脱水した。次に液体窒素温度で窒素(30%)/ヘリウム(70%)混合ガスを流通させ窒素を吸着させた後、脱離させTCD検出器で測定した窒素の吸着量から比表面積を求めた。
(b) 触媒の銅表面積
触媒の銅表面積の測定は、ブルカーAXS社製示差熱天秤装置を用い、水素ガスで120分間還元処理をおこなった。その後、90℃、60分間Heでパージを行った後、90℃で亜酸化窒(1%)/ヘリウム(99%)ガスを流通させ、次の反応式に示すように表面の銅を酸化させた。
2O+2Cu→N2+Cu2
CuからCu2Oへの重量変化を測定して表面の銅の原子数を算出し、また、1m2中に存在する銅原子の数が1.46×1019であることから銅面積を計算した。
(c) CO吸着量測定
CO吸着量測定は、パルス吸着量測定装置R6015(大倉理研製)を用い、パルス法にて測定した。試料約200mgを秤量し、前処理として100%-水素下で200℃,60分還元処理をおこなった。その後、200℃、60分Heでパージを行った。測定は50℃でCOガスをパルスで導入した。COの吸着が見られなくなるまでCOパルスを繰返し、CO吸着量を測定した。
(d) XRD測定
XRD測定はリガク社製 X線回折装置を用いておこなった。試料をガラス製試料セルに充填し、X線源 Cu−Kα(1.5406Å, グラファイトモノクロメーターにより単色化)、2θ-θ反射法により測定した。CuO、ZnAl24の結晶子径をシェラー式から算出した。(ZnAl24の結晶子径については、実施例1、6、8及び比較例1について測定した。)
(e) 組成分析
触媒のCu、Zn、Al量はプラズマ発光(ICP)法で定量した。Cu、Zn、Alの定量測定値からCuO、ZnO、Al23量を算出し、合計を100質量%になるよう換算した。
【0019】
触媒の活性評価方法
0.5〜1mmに整粒した各触媒0.5ccにSiC 4mLを加えたものを内径12mmの反応管に充填した。反応管内で触媒をH2/N2=20/80の気流中で、230℃で2時間還元処理を行った後、GHSV:60,000h-1の条件でH2/CO/CO2/H2O=49.9/9.9/10.2/30.0(vol%)のガスを導入し、200℃で一酸化炭素変成反応を実施した。得られたガスをサンプリングしてガスクロマトグラフィーにてその濃度を測定した。この結果をもとに、CO転化率を下記の式により求めた。結果を表1に示す。
CO転化率(%) = ((A−B)/A)×100
上式において、A=反応器入口側のCO量=(変成前のCO濃度(vol%))×(変成前のガス量(mL/分))およびB=反応器出口側のCO量=(変成後のCO濃度(vol%))×(変成後のガス量(mL/分))である。
【0020】
製造例1 触媒前躯体物質の製造
硝酸銅三水和物1415g、硝酸亜鉛六水和物560g、硝酸アルミニウム九水和物1650gを水15lに溶解し、A液とした。水酸化ナトリウム2モル/リットル溶液を調合した。A液と水酸化ナトリウム溶液を50℃の2lの水の入った容器に同時に滴下した。滴下中、沈殿物を攪拌しながら50℃に維持し、pHが9.5〜10.0となるように水酸化ナトリウム溶液の滴下速度を調製した。この沈殿物を3時間熟成した後、濾過し、充分、水洗を行った。取り出した沈殿物を120℃で乾燥した後、X線回折測定を行った。格子面間隔 d(Å)5.07Å、3.70Å、2.61Å、2.27Å及び1.71Åにブロードなピークを示した。X線回析図を図1に示す。
【0021】
実施例1〜15及び比較例1〜3
前記製造例1で得られた触媒前躯体物質の一部(20g)に表1に示す化合物の水溶液を含浸した。120℃で乾燥した後、350℃で3時間焼成し、触媒とした。各触媒を圧縮成型及び粉砕し、0.5mm〜1mmに整粒した。
この触媒の組成は酸化銅54.7質量%,酸化亜鉛19.4質量%、酸化アルミニウム25.9質量%であった。
次に、前記触媒の活性評価方法に基づいて各触媒のCO転化率(%)を測定した。その評価結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】製造例1で得られた触媒前駆体のX線回折図である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によれば、銅、亜鉛及びアルミニウムを含み、新規なX線回折パターンを示す触媒前駆体物質にさらに、周期表1族、2族、8族、10族及び13族元素の少なくとも一種の特定の元素を極微量添加し焼成して得られる触媒が、活性及び耐久性が高く、燃料電池に適用しても活性の低下が少なく、長期間使用できる水性ガスシフト反応用触媒である一酸化炭素転換用触媒を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酸化銅成分、(B)酸化亜鉛成分および(C)酸化アルミニウム成分を含み 、(A)〜(C)の合計質量1gに対し、(D)成分として0.01〜0.5mmolの 周期表1族、2族、8族、10族、及び13族元素の少なくとも一種を含む一酸化炭素転換用触媒。
【請求項2】
(A)酸化銅成分が10〜90質量%、(B)酸化亜鉛成分が5〜50質量%、および(C)酸化アルミニウム成分が5〜50質量%であり((A)〜(C)の総和は100質量%)、比表面積が100〜300m2/g、酸化銅結晶子径が200Å以下である請求項1に記載の一酸化炭素転換用触媒。
【請求項3】
(D)成分がK,Cs,Na,Mg,Ba,Fe,Pt,及びGaのいずれかである請求項1又は2に記載の一酸化炭素転換用触媒。
【請求項4】
(D)成分含有量が0.02〜0.1mmol/gである請求項1〜3のいずれかに記載の一酸化炭素転換用触媒。
【請求項5】
銅、亜鉛及びアルミニウムを含み、格子面間隔d(Å)5.0±0.5Å、3.7±0.3Å、2.6±0.2Å、2.3±0.2Å及び1.7±0.1Åにブロードなピークを示すX線回折パターンを有することを特徴とする触媒前駆体に、周期表1族、2族、8族、10族、及び13族元素のいずれかを含む単体又は化合物を含ませた物を焼成して得られたものである、請求項1〜4のいずれかに記載の一酸化炭素転換用触媒。
【請求項6】
前記前駆体が、銅塩、亜鉛塩及びアルミニウム塩を含有する溶液とアルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物を含有する溶液とを混合し、該混合液のpHを8.5〜11.0の条件下で沈殿させて得られたものである、請求項5に記載の一酸化炭素転換用触媒。
【請求項7】
前記アルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物が水酸化ナトリウムである請求項6に記載の一酸化炭素転換用触媒。
【請求項8】
前記焼成する温度が200〜600℃である、請求項5〜7のいずれかに記載の一酸化炭素転換用触媒。
【請求項9】
銅塩、亜鉛塩及びアルミニウム塩を含有する溶液とアルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物を含有する溶液とを混合し、該混合液のpHを8.5〜11.0の条件下で沈殿させて得られた触媒前駆体に、周期表1族、2族、8族、10族、及び13族元素のいずれかを含む単体又は化合物を、前記触媒前駆体に含ませた後、それらを200〜600℃で焼成して得られる、請求項1〜8のいずれかに記載の一酸化炭素転換用触媒の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の触媒と、COを含む水素含有ガスを100〜400℃で接触させる工程を含む、水素含有ガスからのCO除去方法。
【請求項11】
炭化水素の改質により生成させる水素含有ガスを、請求項10に記載の水素含有ガスからのCO除去方法でCOを除去する工程を含む、燃料電池システム。

【図1】
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【公開番号】特開2009−241036(P2009−241036A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94080(P2008−94080)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係わる特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発事業/要素技術開発/定置用燃料電池改質系触媒の基盤要素技術開発(改質、CO変成ならびにCO除去触媒の開発)委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】