説明

三元系正極活物質からの化学二酸化マンガンの製造方法、その製造方法によって製造された化学二酸化マンガン、及び化学二酸化マンガンを含む二次電池

【課題】携帯電話や電気自動車に用いられているリチウムイオン電池の正極活物質である三元系正極活物質(Li(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O)からのMnの選択的な分離のために、硫酸還元浸出溶液から酸化剤を用いてMnのみを選択的に沈殿させることにより、化学二酸化マンガンを製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、(a)硫酸及び還元剤の混合液で三元系正極活物質粉末を浸出させる第1段浸出のステップと、(b)前記第1段浸出溶液を連続浸出させる第2段浸出のステップと、(c)前記第2段浸出溶液にNaを添加し、Mnを選択的に沈殿させて化学二酸化マンガンを製造するステップと、を含む三元系正極活物質からの化学二酸化マンガンの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三元系正極活物質からの化学二酸化マンガンの製造方法、その製造方法によって製造された化学二酸化マンガン、及び化学二酸化マンガンを含む二次電池に関し、より詳しくは、廃棄されたリチウムイオン電池の三元系正極活物質からMnを選択的に沈殿させることにより、化学二酸化マンガン(Chemical Manganese Dioxide、CMD)を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化マンガンは、高容量と低毒性を有する特徴があり、特に良好な電気化学的能力を有している物質であり、一次電池と二次電池の正極活物質として注目されている物質である。合成二酸化マンガンは、多様な製造分野において応用されている。商業的な観点から、二酸化マンガンの最も重要なことは、電気化学的な活性を有するという特徴であり、このような特性により、乾電池の正極材として多く用いられている。また、他の商業的な形態は、電子産業における、フェライトとサーミスタ用の超高純度の二酸化マンガンである。二酸化マンガンは、また、特に揮発性有機物の除去やオゾンの分解のような空気汚染物質の分解に用いられる酸化触媒としての使用量が増加し続けている。
【0003】
合成二酸化マンガンは、マンガン塩やマンガンを含んでいる溶液または自然状態の原鉱石から化学的な工程(Chemical Manganese Dioxide、CMD)や電気化学的方法(electrolytic Manganese Dioxide、EMD)によって製造が可能である。化学的二酸化マンガンは、MnCOを熱処理して製造が可能であり、また、硫酸溶液からNaClOを用いた酸化沈殿法によって製造が可能である。
【0004】
最近になって、リチウムイオン電池の需要がだんだん増えてきており、その応用範囲は、携帯用電子機器のエネルギー源として用いられた範囲から、ハイブリッド車(HEV)または電気自動車(EV)の動力源としての需要が増加している。それだけでなく、今後、ロボット産業、エネルギー貯蔵産業、及び航空宇宙産業にまで応用範囲が拡大するものと期待される。したがって、リチウムイオン電池の主要構成成分であるコバルト、リチウム、ニッケル、マンガン等の使用量も、大きく増加するものと予想され、使用後廃棄されるリチウムイオン電池の量も幾何級数的に増えるものと予想される。このような廃リチウムイオン電池から、希少金属であるコバルト、ニッケル、マンガン、リチウム等を分離/回収し、金属及び金属化合物としてリサイクルすることは、大部分を輸入に依存している電池の核心素材を韓国内で安定的に供給することができるという点で、その重要性が極めて高い。
【0005】
以前の研究において、リチウムイオン電池からのコバルトの回収のための溶媒抽出工程を提案しているが、最近、高価なCoを代替したCo−Mn−Ni系の新たなリチウムイオン電池の正極活物質が開発及び商用化するにつれて、正極活物質内のMnの含量が増加する趨勢にある。したがって、有価金属の分離回収のためには、Mnの分離が先行されなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、携帯電話や電気自動車に用いられているリチウムイオン電池の正極活物質である三元系正極活物質(Li(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O)からのMnの選択的な分離のために、硫酸還元浸出溶液から酸化剤を用いてMnのみを選択的に沈殿させることにより、化学二酸化マンガンを製造する方法を提供することにある。
【0007】
また、本発明の他の目的は、前記製造方法によって製造された化学二酸化マンガンを提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、前記製造方法によって製造された化学二酸化マンガンを含む二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、(a)硫酸及び還元剤の混合液で三元系正極活物質粉末を浸出させる第1段浸出のステップと、(b)前記第1段浸出溶液を連続浸出させる第2段浸出のステップと、(c)前記第2段浸出溶液にNaを添加し、Mnを選択的に沈殿させて化学二酸化マンガンを製造するステップと、を含む三元系正極活物質からの化学二酸化マンガンの製造方法を提供する。
【0010】
また、前記ステップ(c)後、(d)前記ステップ(c)において製造された化学二酸化マンガンを酸洗浄するステップをさらに含むことを特徴とする。
【0011】
また、前記ステップ(d)において、硫酸を用いて酸洗浄することを特徴とする。
【0012】
また、前記ステップ(c)において、1当量以上のNaを添加することを特徴とする。
【0013】
また、前記ステップ(c)の反応温度は、90℃以上であることを特徴とする。
【0014】
また、前記ステップ(c)の反応時間は、300〜400分であることを特徴とする。
【0015】
また、前記還元剤は、過酸化水素、HS、SO、FeSO、石炭、及び黄鉄鉱からなる群より選ばれることを特徴とする。
【0016】
また、前記ステップ(a)の三元系正極活物質粉末は、廃電池の三元系正極活物質(Li(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O)スクラップから物理的な分離工程によってAlを分離除去したものであることを特徴とする。
【0017】
また、前記物理的な分離工程は、(イ)廃電池の三元系正極活物質(Li(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O)スクラップを切断するステップと、(ロ)前記切断後、熱処理するステップと、(ハ)前記熱処理後、粉砕するステップと、(ニ)前記粉砕後、40メッシュ以下のサイズの粒子を分離して収去するステップと、を含むことを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、前記製造方法によって製造された化学二酸化マンガンを提供する。
【0019】
また、本発明は、前記化学二酸化マンガンを含む三元系正極活物質から製造された二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、携帯電話や電気自動車に用いられているリチウムイオン電池の正極活物質である三元系正極活物質(Li(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O)からのMnの選択的な分離のために、硫酸還元浸出溶液から酸化剤であるNaを用いてMnのみを選択的に沈殿させることにより、化学二酸化マンガンを製造する方法、その製造方法によって製造された化学二酸化マンガンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】三元系正極活物質スクラップの物理的処理工程及び廃水低減型連続浸出工程の概略図である。
【図2】三元系正極活物質浸出溶液からのMnの選択的な酸化沈殿のための反応装置を示した図である。
【図3】三元系正極活物質スクラップ試料の2M硫酸溶液による第1段浸出挙動を示したグラフである。
【図4】三元系正極活物質スクラップ試料の第2段浸出挙動を示したグラフである。
【図5】Mn-S-HOシステムのpH-Ehダイアグラムを示したグラフである。
【図6】CoのEh-pHダイアグラムを示したグラフである。
【図7】LiのEh-pHダイアグラムを示したグラフである。
【図8】NiのEh-pHダイアグラムを示したグラフである。
【図9】反応時間によるMnの沈殿挙動と、Co、Ni、Liの共沈挙動を示したグラフである。
【図10】反応温度に対する時間別のMnの沈殿挙動を示したグラフである。
【図11】時間別のpH及びEhの変化挙動を示したグラフである。
【図12】酸化剤の当量比によるMnの沈殿挙動を示したグラフである。
【図13】本発明の製造方法により製造されたMn沈殿物のXRD分析結果を示したグラフである。
【図14】本発明の製造方法により製造されたMn沈殿物のTG-DTA分析結果のグラフである。
【図15】本発明の製造方法により製造されたMn沈殿物の熱処理条件によるXRD分析結果のグラフである。
【図16】本発明の製造方法により製造された二酸化マンガンの平均粒度分析を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、(a)硫酸及び還元剤の混合液で三元系正極活物質粉末を浸出させる第1段浸出のステップと、(b)前記第1段浸出溶液を連続浸出させる第2段浸出のステップと、(c)前記第2段浸出溶液にNaを添加し、Mnを選択的に沈殿させて化学二酸化マンガンを製造するステップと、を含む三元系正極活物質からの化学二酸化マンガンの製造方法を提供する。
【0023】
以下、添付した図面に基づき、本発明について詳述する。
【0024】
本発明において、前記還元剤は、過酸化水素、HS、SO、FeSO、石炭、及び黄鉄鉱からなる群より選ばれることを特徴としてもよい。酸性雰囲気において化学的に安定したマンガン酸化物の酸浸出時、還元剤の添加が、マンガン酸化物の浸出率の向上に多くの影響を及ぼすので、本発明では、マンガン酸化物の浸出率を最適化することができる還元剤の濃度、使用量、反応温度及び反応時間を適用し、マンガンの回収率を向上させることができる。
【0025】
前記(b)の第2段浸出のステップでは、前記ステップ(a)で収得した1段浸出溶液に還元剤を添加して連続的に浸出する。ここで、使用される還元剤は、上記に挙げた還元剤が用いられてもよく、特に、過酸化水素を用いることが好ましい。
【0026】
本発明において、前記ステップ(c)の酸化剤は、Naであり、NaによるMn(II)の沈殿反応式は、以下の通りである。
【0027】
MnSO+Na+2HO=NaSO+MnO+2HSO
2CoSO+Na+6HO=NaSO+2Co(OH)+3HSO
2NiSO+Na+6HO=NaSO+2Ni(OH)+3HSO
【0028】
上記式からみられるように、Mnの沈殿過程において、Co、Niの一部が一緒に沈殿されるものと判断され、CoとNiの共沈を最小化するために、Mnの酸化沈殿ステップにおいて、反応温度、反応時間、及び酸化剤の当量等の条件を特定の範囲内に調整することが好ましい。
【0029】
本発明において、前記ステップ(d)において、酸洗浄の際に用いられる洗浄水は、硫酸であることを特徴としてもよく、前記洗浄水を用いて酸洗浄することにより、CMDに残余するCo、Ni、Liを洗浄除去してCMDを製造することができ、この際、酸洗浄後の洗浄水は、前記第1段浸出の浸出液としてリサイクルすることができる。
【0030】
図1は、三元系正極活物質スクラップの物理的分離工程及び廃水低減型連続浸出工程を示した概略図である。前記物理的な分離工程は、以下のような工程からなってもよい。
(イ)廃電池の三元系正極活物質(Li(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O)スクラップを切断するステップ、
(ロ)前記切断後、熱処理するステップ、
(ハ)前記熱処理後、粉砕するステップ、及び
(ニ)前記粉砕後、40メッシュ以下のサイズの粒子を分離して収去するステップ
【0031】
上記のような物理的分離を通じて濃縮された三元系正極活物質の場合、第1段浸出及び第2段浸出を経る間、不純物の濃度が自動に制御され、このように得られた溶液は、有価金属の回収のための分離精製工程に直ちに投入することができる。
【0032】
三元系正極活物質スクラップからの物理的処理を通じたAl除去工程及び廃水低減型2段連続浸出を通じて、残余Alを除去した溶液内のLi、Co、Mn、Ni等を対象として、酸化剤であるNaを用いてMnを選択的に沈殿除去した。図2は、三元系正極活物質浸出溶液からMnの選択的な酸化沈殿のための反応装置を示した図である。
【0033】
以下、本発明を下記の実施例に基づきさらに詳述する。下記の実施例は、本発明を説明するための例示であり、本発明の範囲は、以下添付された特許請求の範囲によるものであり、例示する実施例により限定されるものではない。
【0034】
[実施例]
[実施例1:2M硫酸溶液による連続浸出工程]
三元系正極活物質から物理的処理を通じて濃縮された正極活物質から、2M HSO、H 5vol%、60℃、50g/500ml、200rpm、2hrの条件下で、浸出実験を進行した。
【0035】
図3は、三元系正極活物質スクラップ試料の2M硫酸溶液による第1段浸出挙動を示したグラフである。図3に示すように、2M硫酸浸出の場合、第1段浸出において60分以内で、全ての元素の場合、浸出率は、それぞれ95.7% Co、95.7% Ni、91.4% Mn、98.2% Li、97.1% Alであった。この際、不純物であるAlの場合、溶液内に約59mg/Lが存在することが確認された。
【0036】
第1段浸出溶液を用いて第2段浸出実験を進行した。実験条件は、第1段浸出溶液、5vol% H、60℃、50g/500ml、200rpm、4hrの条件で進行した。
【0037】
図4は、三元系正極活物質スクラップ試料の第2段浸出挙動(第1段浸出溶液、5vol% H、60℃、50g/500ml、200rpm、4hr)を示したグラフである。
【0038】
図4に示すように、経時による有価金属の浸出率が、比較的一定に維持されることが確認され、特に、10分以上の浸出時間で、全ての元素の場合、浸出挙動が平衡に到達することが確認された。第1段浸出において浸出された有価金属の量を除いた第2段浸出においてのみの有価金属の浸出率は、Co、Ni、Mnの場合、約25〜30%のみ浸出することが確認され、Liの場合も、38%程度と低い浸出率を示すのを観察することができた。この際、浸出溶液のpHの場合、浸出時間10分以降に5〜5.4程度を維持することが確認された。不純物であるAlの場合は、浸出時間60分以降に濃度が8mg/Lにまで減少することが確認された。表1は、2M硫酸浸出において、第1段浸出ろ液及び第2段浸出ろ液の有価金属の濃度(mg/L)を示している。
【0039】
【表1】

【0040】
表1からみられるように、不純物であるAlの場合、86%程度が除去されたことが確認された。第2段浸出後、浸出ろ液内の有価金属の濃度は、Coの場合、22g/L, Mn 21.6g/L, Ni 24.2g/L、及びLi 9.5g/Lであり、Alは、8mg/Lであった。
【0041】
図5は、Mn−S−HOシステムのpH−Eh ダイアグラムを示したグラフである。このグラフにおいて、pH5〜6の範囲で、Ehを1V以上の範囲に維持させると、Mn(II)をMn(IV)で酸化沈殿させることが可能である。図6乃至図8は、それぞれCoとNi、LiのEh−pH ダイアグラムを示したグラフである。これらからpH2以下、Eh1.5V以上の条件で、Mnの選択的な沈殿が可能であるものと判断された。
【0042】
[実施例2:Naを酸化剤として用いたMnの沈殿]
1.反応時間によるMnの沈殿挙動、及びCo、Ni、Liの共沈挙動
攪拌速度500rpm、90℃の温度条件において、浸出溶液内のMn(II)の濃度に対する酸化剤1当量を用いてMnの沈殿挙動を確認した。
【0043】
図9は、反応時間によるMnの沈殿挙動と、Co、Ni、Liの共沈挙動(500rpm、Na1当量、90℃、300分)を示したグラフである。図9に示すように、反応時間が増加するにつれてMnの沈殿率が増加することが認められ、同時にCo、Ni、Liの沈殿率も20%まで増加したことが確認された。
【0044】
2.反応温度及び酸化剤当量比の変化によるMnの沈殿挙動、及びCo、Ni、Liの共沈挙動
反応温度を70℃、80℃、90℃、95℃に変化させ、Mnの沈殿挙動及びCo、Ni、Liの共沈挙動を観察した。
【0045】
図10は、反応温度に対する時間別のMnの沈殿挙動(三元系正極活物質の第2段浸出液500ml、500rpm、Na当量数1,300分)を示したグラフである。図10に示すように、反応温度が増加するにつれてMnの沈殿率が急に増加することが観察され、反応温度90℃と95℃の場合、Mnの沈殿反応速度が少し差はあるが、全てMnが99.5%以上沈殿することが確認された。
【0046】
図11は、時間別のpH及びEhの変化挙動(三元系正極活物質の第2段浸出液500ml、90℃、500rpm、Na当量数1,300分)を示したグラフである。反応時間によるEhとpHの変化をみると、Ehの場合、反応初期に急に上昇して1.4V以上を維持することが確認され、pHの場合は、酸化剤が投入されることにより、上述した反応式からみられるように、沈殿反応が進行するにつれて硫酸が生成し、pHが0.5まで減少することが確認された。
【0047】
各反応温度別の生成した沈殿物の有価金属の含量(%)を分析した結果を、表2に示している。
【0048】
【表2】

【0049】
表2からみられるように、反応温度が増加するにつれてMnの沈殿率も急に増加することが確認され、90℃以上の条件で99.7%以上沈殿されることが確認された。また、分離対象であるCo、Ni、Liの場合は、殆ど沈殿されなかったことが確認され、沈殿が選択的に行われることが認められた。但し、Coの場合、反応温度が増加するにつれて沈殿率が0.5%から2.4%まで増加することが認められ、沈殿反応後、共沈されるCoの場合、追加の処理が必要であることがわかった。
【0050】
3.酸化剤当量によるMnの沈殿挙動、及びCo、Ni、Liの共沈挙動
90℃の温度条件下で、酸化剤の当量比を1、1.1、1.2と増加させ、Mnの沈殿挙動及びCo、Ni、Liの共沈挙動を観察した。
【0051】
図12は、酸化剤の当量比によるMnの沈殿挙動を示したグラフである。図12に示すように、酸化剤の当量比が増加するにつれてMnの沈殿率も増加しており、1当量以上の条件では、反応時間300分以上で大部分のMnが沈殿されることが確認された。表3に酸化剤当量比の変化による有価金属の沈殿率(%)を示している。
【0052】
【表3】

【0053】
表2と表3における沈殿物の分析結果に基づき、Mnが沈殿される間、共沈されるCo、Li、Niの含量が微々たることが確認された。しかし、Mnが酸化沈殿される間、溶液内のこれらの有価金属の濃度は、20%程度低くなることが確認された。これは、生成した二酸化マンガンの表面電位が負の値を有し、溶液内のカチオンが二酸化マンガンの表面に吸着されるからである。したがって、製造された二酸化マンガンを回収するために、固液分離後、得られた二酸化マンガンを対象として水洗を通じて、吸着されたNi、Co、Liイオンを洗浄分離し、この過程によって回収可能なNi、Co、Liの含量を調査した。
【0054】
表4は、500mlの初期溶液に対する最終溶液、沈殿物に対するマスバランスの計算値から得られた沈殿率(%)を示している。
【0055】
【表4】

【0056】
表4からみられるように、各沈殿率の基準による有価金属の沈殿率の計算値を検討すると、溶液基準沈殿率は、Mnを除いて約23〜29%を示している。
【0057】
また、沈殿物基準沈殿率の場合は、Mnを除いてNiとLiの場合、殆ど沈殿が発生せず、Coの場合、約2.7%の沈殿率を示すことが確認された。
【0058】
沈殿過程において、一部の有価金属が沈殿物の表面に吸着されるので、これらを回収する洗浄過程が必要であり、洗浄後、有価金属を含有している洗浄溶液は、必ず浸出溶液等としてリサイクルして有価金属を回収することが重要であるものと判断された。
【0059】
[実施例3:生成した沈殿物内の不純物の除去]
生成した沈殿物内に含まれているCo、Ni、Liを除去するために、4M HSO、10g/100ml、80℃、500rpm、2時間の洗浄実験を実施した。表5に酸洗浄による沈殿物内の不純物の除去率(%)を示している。
【0060】
【表5】

【0061】
表5からみられるように、Coの除去率は24.8%であり、Niは45.6%であった。Liの場合は、酸洗浄前後の含量変化が殆どないことから、製造された沈殿物の表面に吸着される量が殆どないものと判断された。以上の結果から酸洗浄を通じて、98%以上の純度を有する沈殿物の回収が可能であることが確認された。
【0062】
[実験結果]
不純物が洗浄された沈殿物を対象としてXRDを用いて化学結晶型を分析してみた。図13は、製造されたMn沈殿物のXRD分析結果のグラフである。図13に示すように、沈殿物の化学結晶型は、γ-MnOであることが確認された。
【0063】
この沈殿物を対象として熱重量分析を行い、熱処理による重量減少挙動を検討した。
【0064】
図14は、製造されたMn沈殿物のTG-DTA分析結果のグラフである。図14に示すように、502.08℃、590.02℃、756.84℃において重量減少が生じることが確認された。したがって、重量減少による相変化を観察するために、250℃、500℃、620℃、780℃の条件で沈殿物を熱処理し、それぞれXRD分析を行った。
【0065】
図15は、製造されたMn沈殿物の熱処理条件によるXRD分析結果のグラフである。図15に示すように、500℃の熱処理試料までは、γ-MnOの結晶型を有することが確認されたが、それ以上の温度条件では、Mnの結晶型を有することが確認された。表6に熱処理試料の化学成分分析結果(%)を示している。
【0066】
【表6】

【0067】
表6からみられるように、原試料のMn含量は65.1%として、MnOの組成を有することが確認され、熱処理温度が増加するにつれてMnの含量が77.8%と増加することが確認された。この際、主な不純物はCoであり、不純物の含量を1〜1.1%程度含有していることが確認された。
【0068】
図16は、製造された二酸化マンガンの平均粒度分析を示したグラフである。図16に示すように、粒径分析器の分析を通じて、10.7μmの平均粒径を有する二酸化マンガンが製造されることが確認された。
【0069】
以上の結果から、次のような三元系正極活物質のリサイクル工程を提案することができるものと判断される。リチウムイオン電池に用いられる正極活物質内のMnの含量が増加し続けている状況で、湿式製錬法を用いてこれらを分離回収するとき、先ず、Mnを酸化沈殿法を用いてCMDとして選択的に製造した後、回収されるろ液内のCo、Ni、Liは、溶媒抽出を用いてCoを回収し、ラフィネートに残っているNiとLiは、もう一回の溶媒抽出を通じてNiを回収する工程、及び2回目の溶媒抽出後に発生するLi溶液は、炭酸ナトリウムを用いた炭酸塩沈殿を通じて炭酸リチウムとして回収することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)硫酸及び還元剤の混合液で三元系正極活物質粉末を浸出させる第1段浸出のステップと、
(b)前記第1段浸出溶液を連続浸出させる第2段浸出のステップと、
(c)前記第2段浸出溶液にNaを添加し、Mnを選択的に沈殿させて化学二酸化マンガンを製造するステップと、
を含むことを特徴とする三元系正極活物質からの化学二酸化マンガンの製造方法。
【請求項2】
(d)前記ステップ(c)において製造された化学二酸化マンガンを酸洗浄するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の三元系正極活物質からの化学二酸化マンガンの製造方法。
【請求項3】
前記ステップ(d)において、硫酸を用いて酸洗浄することを特徴とする請求項2に記載の三元系正極活物質からの化学二酸化マンガンの製造方法。
【請求項4】
前記ステップ(c)において、1当量以上のNaを添加することを特徴とする請求項1に記載の三元系正極活物質からの化学二酸化マンガンの製造方法。
【請求項5】
前記ステップ(c)の反応温度は、90℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の三元系正極活物質からの化学二酸化マンガンの製造方法。
【請求項6】
前記ステップ(c)の反応時間は、300〜400分であることを特徴とする請求項4に記載の三元系正極活物質からの化学二酸化マンガンの製造方法。
【請求項7】
前記還元剤は、過酸化水素、HS、SO、FeSO、石炭、及び黄鉄鉱からなる群より選ばれることを特徴とする請求項1に記載の三元系正極活物質からの化学二酸化マンガンの製造方法。
【請求項8】
前記ステップ(a)の三元系正極活物質粉末は、廃電池の三元系正極活物質(Li(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O)スクラップから物理的な分離工程によってAlを分離除去したものであることを特徴とする請求項1に記載の三元系正極活物質からの化学二酸化マンガンの製造方法。
【請求項9】
前記物理的な分離工程は、
(イ)廃電池の三元系正極活物質(Li(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O)スクラップを切断するステップと、
(ロ)前記切断後、熱処理するステップと、
(ハ)前記熱処理後、粉砕するステップと、
(ニ)前記粉砕後、40メッシュ以下のサイズの粒子を分離して収去するステップと、 を含むことを特徴とする請求項8に記載の三元系正極活物質からの化学二酸化マンガンの製造方法。
【請求項10】
前記請求項1乃至9のいずれか一項による製造方法によって製造された化学二酸化マンガン。
【請求項11】
前記請求項10による化学二酸化マンガンを含む三元系正極活物質から製造された二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−204343(P2012−204343A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−64061(P2012−64061)
【出願日】平成24年3月21日(2012.3.21)
【出願人】(505421227)韓国地質資源研究院 (5)
【氏名又は名称原語表記】KOREA INSTITUTE OF GEOSCIENCE AND MINERAL RESOURCES(KIGAM)
【住所又は居所原語表記】30,Gajeong−dong,Yuseong−gu,Daejeon 305−350,Republic of Korea
【Fターム(参考)】